仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ   作:teru@T

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第二頁[緑の来訪者は呼び寄せた危機を謳う]

 薄い雲が三日月を覆う、静かな夜。

 星あかりが照らす海岸沿いの堤防を1人の男がふらついた足取りで歩いていた。

 

「畜生、あんなのイカサマだろどう考えても……おかげでタクシー代までなくなっちまって……今回こそはって思ったのによ」

 

 ぶつくさ文句を垂らしながら手に持った瓶を呷る。

 趣味のカジノに大金をつぎ込み、縁起が良さそうと隣街まで足を伸ばしたが結果は惨敗。身ぐるみこそ剥がされなかったが帰りの移動費も使い込み長い道のりを徒歩で帰ることになったのだ。

 

「あん……? ちぇ、もうカラかよ! 畜生、バカにしやがって!」

 

 残っていた酒を飲み干してしまった男は悪態をつきながら空き瓶を海に向かって投げ捨てる。

 

「イテッ」

 

 海までは距離があったため、届かずに海岸の岩肌にぶつかりって割れるだろうと考えていたが、響いたのは声とガスッとなにかに当たる音だった。

 

「あぁん? こんな時間にこんな場所でなぁ~にしてんだぁ?」

 

 男は当てたことの罪悪感ではなく、純粋な興味から海岸を覗き込む。

 しかし、覗き込むと人っ子一人おらず、代わりに先程投げ捨てた空き瓶と打ち捨てられたゴムボートが1つ、ポツリとあるだけだった。

 流れ着いたのしてキレイで暗くて見にくいがボートの横にはなにか文字が書いてあった。

 

「あぁん? なんだぁ?」

 

 不思議に思い、ふらつく足取りで近づいていく。

 近づいてもあるのはボートのみ。遠くて見えなかったボートには『DAYBREAK』と書かれていた。

 そして、男が近づくと岩陰の後ろでガチャリと岩を踏みしめる音が響く。

 

「デイブレイク……? なぁんか見覚えあるきがすんだけどなんだったかなぁ? そんで、やっぱ誰かいんのか?」

 

 男が岩陰を覗き込む。

 

「チュパァアー!」

「うわああ! な、なんだこいつ!?」

 

 岩陰から飛び出したのは大きな赤い目を光らせた異形。痩せこけた骨と皮だけの身体で力強く男を押さえつけむき出しになった牙で男に食らいつき、何かを吸い上げる。

 それは色。食らいつく異形───チュパカブラ・ギガは伝承にある血ではなく、男の色を吸い上げ、糧としていた。

 色を吸われた男は首から順にその色を失い、透明になっていく。

 

「あ、がっ……やめ……」

 

 苦しそうに男が呻くが夜の海岸では助けも来ない。

 やがて、その呻き声と共に色を失い透明になった全身は砕け、消滅した。

 

「ウマカッタ、モットクイタイ」

「チュパカブラの兄貴、それくらいにしてくださいよ! ほら、急いで朝までにはミシアとかいうところ行ってねぇと!」

 

 街の明かりの方へと向かおうとするチュパカブラの足元で、小柄な毛玉の様な影が跳ね回り、喚く。

 煩わしそうに手で払い除けようとするが、肩に取り付き、「ほらほら! 行きますよ!」と更に喚くとチュパカブラは諦めて踵を返し、人里から離れ始めた。

 

「明後日になれば好きなだけ食べられるはずですから! 頑張りやしょう!」

「ムゥ……ガンバル」

 

 重い足取りを迫った褒美を思い、少し軽快にしながら2匹は夜の闇に消えていく。

 後に残されたのは食べ残し(男の衣服)と救命ボート、1つだけだった。

 

*********

 

『次のニュースはデイブレイク号についての続報です。デイブレイク号はフォートローダデールから出発し、ローマに寄港予定でしたが船内トラブルにより寄港はせずに現在は地中海を航海し、目的地であるアテネに向かっています。ですが、船内トラブルは落ち着いているため、燃料補給の為に一度、港へ寄港することが決定いたしました。寄港予定は明日の早朝、受け入れ態勢の関係でミシアへの寄港を予定しております』

 

 カーテンの隙間から差し込んだ陽の光と室内に響いてきたラジオのニュースにより応孥は微睡みから引き上げられた。

 

「……おはようございます、紅芭さん。朝から何か用ですか……?」

 

 ふわぁっと欠伸をこぼしながらも起き上がり、出入り口に目を向けると扉を開け放った紅芭が腕を組んで立っていた。

 

「おはよう、応孥。別に用はないわ、朝だから起こしに来たの」

「……朝食食べながらなら話聞きますよ」

 

 用は無いと言うがダイニングにあるラジオをわざわざこちらの部屋にも聞こえるように大音量にしている時は愚痴りたいから早く起きろ、と言う彼女なりのサインだ。

 それを裏付けるかのように彼女の表情は険しい。そもそも普段は彼女が起こしに来ることはない。

 

「ん。コーヒー淹れて待ってる」

「はい……顔洗ったら行きますね」

 

 ここは2人が営む古本屋の2階。故郷を遠く離れた2人はここで共同生活を送っている。

 プライベートスペースである各々の部屋が一部屋ずつと共同スペースである、ダイニングキッチン、洗面所とバストイレ、そしてLOTとしての通信作業スペースに一部屋の3DKである。

 顔を洗い、髪や髭などを整えた応孥はダイニングへと向かうとコーヒーの香りと香ばしいパンの香りが鼻腔をくすぐる。

 

「はい、コーヒー」

「ありがとう。それで何があったんですか?」

 

 コーヒーを受け取り、それぞれ席に着く。先程まで部屋まで届いていたラジオも正常な音量に戻っており、今は牧歌的な音楽が流れていた。

 そして、席に用意されていたのは甘いブリオッシュ。イタリアでは甘い物とコーヒーが朝食の定番である、と聞いたため2人もそれに倣い、定番の朝食を摂るようにしていた。

 

「この間のアルミラージ・ギガのこと覚えてる?」

「えぇ……そういえば角を送ってモンストリキッドにしてもらうの頼みましたよね……まだ、来てませんが」

「それ、他の支部に持ってかれたの」

 

 察しの悪い応孥をジトリ、とコーヒーを啜りながら睨む。

 紅芭によれば面倒を見てもらっているカタンツァーロ支部にモンストリキッドに封入して貰うために角を送ったところ、かなり状態が良かったことも災いし、たまたま視察に来ていたイタリア支部の人間に巻き上げられたとメールが入っていたのだと言う。

 

「あぁ……。なるほど、それは……ちょっとへこみますね」

「そうでしょ。こっちはそもそも支給自体が少ないのに……」

 

 本来、LOTの支部は図書館に造られる事が常だ。しかし、ここ、ミシアでは諸々の事情によりこの古本屋そのものを支部としてこの2人のみが派遣されている。

 規模が小さく、戯我の出現数自体も少ないので当然ではあるが他の地域の方が優遇されやすい。

 その証拠に2人が派遣されて2年経つが元々持ち込んだ武装以外ではオーシャンモンストリキッドの1つだけだ。

 

「まぁ、無いなりにできるようにはしますし、戦力も不足を感じたことはないですけども」

「それは当たり前だけれど、それでも納得のいかないこともあるの」

 

 ぷいっとそっぽ向きながらブリオッシュを口に運ぶ紅芭。普段はクールビューティーを形にしたような彼女だが、プライベートな(気心知れた相手の前)場では感情をあらわにすることはよくあることだ。

 

「……応孥、さっき、あいつから追加のメール来てたから確認しておいて。どうせ、追加の謝罪メールだから」

「はいはい……ちゃんと機嫌直してくださいね。お店でそんな感じだとみんなに心配されますから」

 

 応孥が机の端に避けられていたノートパソコンに手を伸ばしながら告げると「分かってるわよ……」と不服そうにコーヒーを啜る。

 パソコン画面を確認してみれば確かに新着メールが1件届いてたので目を通す。

 差出人は件のカタンツァーロ支部の支部長のアルことアルジェントからだった。

 

『クレハへ

まずはアルミラージの件は本当に申し訳なかった。

言い訳になってしまうが私が出張に行っている間に勝手をされてしまってね。

お詫びと言っては何だが今日の夕方にでも新しいモンストリキッドをそちらに寄越すから受け取って欲しい。

前々から手配していたものがようやく届いてね、日を改めてそちらにも行くからまずはこれで機嫌を直してくれ。

オードにもよろしく伝えてくれ

 

追伸

 

デイブレイク号の寄港の影響で人の出入りが増えるだろうから数日間は戯我が普段以上に活性化するかもしれない。

十分に用心をしておいてくれ』

 

「アルも紅芭さんのことちゃんと分かってるみたいだね……ほら、紅芭さん。メール読んでみてよ」

 

 応孥が画面を紅芭の方に向けると紅芭はそれを相変わらず不機嫌そうに横目で覗き込み、内容を読み込む。

 最初こそ疑いながら読んでいたものの、読み進むにつれて表情から険しさが消えていった。

 

「そう……なら、いいの。ありがとう、応孥」

「お礼は僕じゃなくてアルに言ってあげて。ほら、返信は任せましたよ」

「当然、返事しないと今度はあっちが拗ねそうだし」

 

 すっかりいつもの調子を取り戻した紅芭はキーボードを打ちながら笑みを浮かべる。

 その様子に応孥も安堵し、残っていたコーヒーを飲み干して立ち上がった。

 

「じゃあ、僕は出かけてきますね」

「こんな朝早くから? 何かあるの?」

「ほら、さっきもニュースで言ってましたけど観光船が臨時で入港するじゃないですか」

 

 ニュースでは先程決まった様に言っていたが実際は2日程前に港の方に通知が来ており、そこから住人にも話が広がっていた。

 補給の為とはいえ、普段は資材船や漁船しかない港に観光船が来るのは初めてのことだ。

 

「それで、漁師の人たちが今日と明日は船が出せないから整備を手伝って欲しいって言われたので、それに」

「なるほどね。昼食はどうするの? 昼までに終わるのなら用意しておくけれど」

「あぁ、いえ。多分午前中で終わるとは思いますけど、その後に遺跡の設備を点検しに行きたいので……パン屋で何か買っていきますよ」

 

 申し訳なさそうにそう告げる応孥に「了解、気にしないで」と紅芭は笑顔で返した。

 

「すみません、お店はお願いします」

「えぇ、夕飯は作っておくから熱入れすぎて遅くならない様にね」

「えぇ、わかってますよ。じゃあ、行ってきます」

 

 やり取りを交わし終え、応孥は出掛けるために階下へと降りていく。

 それを見送り、お礼のメールも送り終えた紅芭は食卓の片付けを始めた。戯我の出現など緊急の用件も無いため、店を開けるまでの時間で先に家事を済ませる。

 二人にとっていつもの朝がようやく動きだしたのだった。

 

 

*********

 

 

「つ、疲れた……」

 

 応孥が森を抜け、遺跡の入り口である洞窟にたどり着いた時、時刻はすでに16時を回っていた。

 

「善意なのは分かるけど……この時間になるから昼食を断ったんだけどな……」

 

 整備こそ予定通り午前中で終わらせた応孥であったがその後、船の船長たちにお礼も兼ねてと昼食に誘われた。

 最初から断り、パン屋で軽く済まそうと考えていたのだが、そのパン屋の店主も昼食という名の酒盛りに参加しているのでは断るに断れず、なんとか酒だけは勘弁してもらっていた。

 当然のごとく、雑談をしながら酒の入った席ではそうそう帰してはもらえず、結局お開きまで付き合わされ、こんな時間になってしまったのだ。

 

「まぁ、こっちは昨日も確認したし、そんなに時間がかかることもないか……」

 

 「早く終わらせよ……」と、入り口のロープを跨ぎ、洞窟内に入る。

 

「まずは入り口の警報は……はぁ、今日は厄日かな……」

 

 警報を確認しようと下を向けば口では悪態を付くがその表情は険しくなる。

 視線の先には岩壁に偽装して設置した、戯我のインクを感知し、応孥と紅芭の各々のN-フォン、そして仕事で使っているパソコンに通知が来るように警報装置がある。

 しかし、その装置は今、配線をむき出しにされその配線もめちゃくちゃに引き裂かれていた。

 

「通知が来なかったってことは、引っ掛る前に気づかれたのか……こういう時、結界じゃないのは面倒だね、やっぱり」

 

 本来、こうのような遺産に関わる場所や戯我が頻出する場所にはLOTの封魔司書たちが結界を施すのが普通だ。しかし、この場所……ミシアでは施さない。いや、施せない(・・・・)

 結界は『龍穴』という霊的な力の漲る場所より噴き上がる霊力を利用し、設置される。

 だが、ミシアは龍穴から非常に遠く、流れ込む霊力が非常に少ない。そのため、仮に結界を設置しても下級戯我にもまともに機能しないのだ。

 

「文句を言ってても仕方ない……こういう時のために僕がいるわけだし」

 

 ホルスターから引き抜いたレリックライザーを構え、空いたホルスターにSトリガーをセット。いつでも戦える様に用意をしてから注意しながら奥へと進む。

 ミシアには結界が貼れない、しかしここにある遺産を調査しないとしても(・・・・・・・・・)放置するわけにもいかない。

 だからこそ、篠原応孥(仮面ライダー)はここにいる。遺産を狙う戯我からこの場所を護るために。

 

 

*********

 

 

 前方をライトで照らし、警戒しながら進む応孥の周囲の空間が開ける。

 岩壁に設置したケーブルが剥き出しになったスイッチを入れるとドーム状の空間が明るく照らされる。

 

 その空間で最も目立つのは最も奥にそびえる、天井まで届く巨大な扉。

 一面に古代文字が彫り込まれた異様な雰囲気を放つ両開きの門。

 これこそが、この地に眠る”遺産の眠る遺跡”。

 LOTはこの遺跡を《オルフェウスの大門》と名付けた。

 それは門の横に彫られていた……後世の人間が彫り込んだとされる古代ギリシャ文字にて書かれた碑文に由来する。

 

『この扉の先、オルフェウスが向かいし場所と同義也

     エウリュディケを望むべからず。

ペルセポネーはおらず、ハーデスは望みを叶えず、竪琴の音は響かない。

    エウリュディケは手に入れること叶わず。

されど、汝、エウリュディケを求む、オルフェウスなれば───』

 

 削り取られ、途中までしか記されていないこの碑文から扉の先には別の何かがあると考え、数年前までは本格的な調査が行われていた、その時、識別するに辺り、そのような名前を名付けたのだ。

 

 応孥は扉が開かれていないことにまず安堵した。侵入者が解法を知っており、すでに扉を開け放たれた後でないと確認できたからだ。

 次いで、周囲を見回す。

 広がる空間の中は調査のために設置された照明器具に照らされ、大岩や石柱が乱雑に立ち並ぶ。

 その一角に調査用の電子機器が設置されているが、現在は使用されていないはずのそれは遠目でも煌々と画面が光っていることを確認できる。

 直前まで何者かが使用をしていたのだろう。

 

「つまりは……この中にまだいる……出てきなよ」

 

 あえて声を出し、侵入者を挑発する。

 隠れられる場所はそう多くない。せいぜいが大岩や石柱の裏だ。

 その声に反応したのか、機器近くの岩の裏でジャリッと音が響く。

 

「そこか!」

 

 音に反応し応孥も動く。レッドディッシュブラウンとペルシアンレッドのリキッドのスイッチを起動し、レリックライザーにセット、銃身を前後にスライドさせた。

 

《マグマ!》

《サラメーヤ!》

Loading Color(ローディングカラー)!》

 

 音のした方へと狙いを定め、引き金を引く。

 

「神器解放。滾れ、マグマサラメーヤ」

Calling(コーリング)!》

 

 銃口から赤褐色の2匹の四つ目の犬(サラメーヤ)が飛び出し、狙いを定めた岩へと殺到する。

 しかし、それこそが戯我たちの狙いであった。

 

「チュパアアア!」

 

 正面の囮に攻撃を行ったことで背後の岩陰からチュパカブラ・ギガが応孥へと襲いかかる。

 

「やっぱり、後ろが本命だよね……分かってたよ」

『バォオオオーン!』

 

 前方へと射出されたサラメーヤのうちの1頭が地を蹴って反転、背後から迫るチュパカブラ・ギガへと飛び掛かった。

 

「チュパアアア!? ナ、ナンダ!!」

 

 飛び掛かろうと空中にいた時にマグマの熱を纏う爪と牙に切り裂かれたチュパカブラ・ギガは地面へと落下し、熱と痛みにのたうち回る。

 そして正面へと向かったサラメーヤも岩の後ろに回り込み、その背後に潜んでいた戯我へと攻撃を仕掛けた。

 

『グォオオオーン!』

「ひぃ! や、やべぇ!」

 

 サラメーヤの咆哮とその姿に怖気づいたのか隠れていた戯我が岩陰から飛び出し、脱兎の如く出口へと走る。

 それは緑色の毛皮に包まれた獣とも鬼とも呼べるような小さな戯我、グレムリン・ギガであった。

 

「やっぱり、グレムリンか……悪いけど逃さないよ」

 

 そういって今度はマグマリのスイッチのみを起動し、同時にウルトラマリンブルーのモンストリキッドをSトリガーへと読み込ませ、2丁の銃を構え、引き金を引く。

 

《マグマ!》

Calling(コーリング)!》

《オーシャン!》

Filling(フィリング)!》

「神器解放!」

 

 それぞれの銃口から放たれるマグマの弾丸とそれに追従する水の弾丸。

 マグマの弾丸がグレムリンに直撃し、ともに壁へと激突するとそこに水の弾丸が命中し、マグマを固めて拘束した。

 

「な!? う、動けない!?」

「まず厄介な方は確保……っと!?」

「チュパアッ!」

 

 ブンっ、と起き上がり、応孥へと振るわれたチュパカブラの爪を寸でのところでかわし、距離を取る。

 

「まずはおまえからだね……ここであんまり暴れたくないけれど仕方ない」

 

 2本のリキッドを取り外し、腰のバックルへとレリックドライバーをセット、同時にウルトラマリンブルーとレッドディッシュブラウンのモンストリキッドを起動し、スロットに装填した。

 

《オーシャン!》

《サラメーヤ!》

Loading Color(ローディング・カラー)! HYBRID(ハイブリッド)!》

「変身」

 

 トリガーを引くと同時に上下に形成された二色の五芒星が応孥の身体を包み込みその肉体を変化させた。

 

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)! 交わる双つの色彩! ハイブリッドカラー!》

 

 四つアイレンズを輝かせ、肩に海を思わせる波のような装甲を身身につけた仮面の戦士が現れ周囲に水飛沫が舞い飛ぶ。

 亜種形態(ハイブリッドカラー)、オーシャンサラメーヤに身を纏ったヴァジュラがチュパカブラと対峙する。

 

「レイソウツカイ! クウ! チュパァ!」

「やってみなよ!」

 

 振るわれるチュパカブラの爪を腕にはめたAウェポンGモードで受け止め、拳で反抗する。

 最初こそ拮抗していた打ち合いであってが武装に阻まれて傷一つつけれていない爪に対し、一撃ごとにダメージを与え、終いにはインクを撒き散らさせる拳の方が優勢となる。

 

「グゥ!?」

「攻められてはいるけど吹っ飛ばせないから……ッ!?」

「チュパァ!」

 

 大きく踏み込み、チュパカブラとの距離を一息に詰めるとチュパカブラの頭部を地面に打ち付けるように拳を放つ。

 しかし、チュパカブラも地面に叩きつけられるも勢いをつけ起き上がり、その勢いのまま、鋭く太い足の爪で切り裂いてくる。

 危険を感じたヴァジュラは咄嗟に上体を逸してかわすと後ろにあった岩に大きな傷跡を残す。

 

「これはさすがに危ない、か。なら……!」

「チュパァ! チュパア!」

 

 有効だと感じ、連続で足の爪による切り裂きをかわしながらレリックドライバーから濃い青色(オーシャン)のリキッドを抜き、代わりに淡い赤色(マグマ)のリキッドのスイッチを押し込んで起動する。

 

《マグマ!》

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

 

 大ぶりの爪を伴う蹴撃の合間を縫い、片足でバランスを崩したところを蹴り込み距離を取るとトリガーを引き込む。

 

「カラーシフト」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)! 噴き上がる紅熱の番人! マグマサラメーヤ!》

『バォオオオーン! グォオオオーン!』

 

 身に纏う装甲の色と形状が変化する。水を思わせるボディと青い色はマグマを思わせる赤い装甲へと変化した。

 

「ヂュパァ!!!」

「悪いけどもう食らう気はないよ……!」

《マグマ!》

Calling(コーリング)!》

 

 変化に恐れず有効打である蹴撃を繰り出す、しかし、ヴァジュラもそれに合わせてマグマリキッドのスイッチを押し込み、トリガーを引く。

 爪が直撃するより早く、肩の火口からマグマが溢れ出し、ヴァジュラの装甲を包み込みその状態で爪を受け止める。

 マグマを貫いた爪は当然、ヴァジュラにダメージは与えることはなく、受け止められ、逆にマグマの熱で焼かれダメージを受ける。

 

「ヂュパアアアア! アヅイ、アヅイィ!! チュパァッ!?」

「さぁ、トドメ、行くよ……!」

 

 熱で苦しむチュパカブラに拳を打ち込み、吹き飛ばす。

 そして、ドライバーから取り出したマグマとホルダーから取り出したオーシャンのそれぞれのリキッドをAウェポンへとリードする。

 

《マグマ! オーシャン! Charging Color(チャージング・カラー)!》

 

 クラッシャーと装甲が展開し獣じみた排熱音が周囲に響く。同時に、右に赤いマグマ、左に青く輝く流れる水をそれぞれの拳に纏い、右の拳を掲げてチュパカブラに狙いを定める。

 それと同時にレリックドライバーに装填された赤褐色(サラメーヤ)のスイッチを押し込み、トリガーを引いた。

 

《サラメーヤ!》

「神器解放!」

Calling(コーリング)!》

 

 ドライバーから音声が響くと同時にチュパカブラに向けて走り出す。

 すると、ヴァジュラの姿がブレて二重に重なったように見え、それがチュパカブラを中心にぐるりと回り込むように回るとチュパカブラの背後に2人目のヴァジュラが出現する。

 

「ヂュパ!? フ、フエタダト!?」

 

 これこそ、グラデーションカラーの時のみ使用可能なサラメーヤの能力。

 自身の分身を生み出し、攻撃を行うのだ。そして当然、必殺技を放つ時に使用すればその威力は重なり合う。

 

Last Calling(ラスト・コーリング)! バイカラー・クロマティック・インパクト!》

「ハアアアア!」

 

 正面からは紅き熱を纏う拳が、背後からは青き激流を纏う拳がそれぞれ迫り、キョロキョロとどちらをかわすべきか迷ったままそのどちらもが直撃する。

 全くの同じタイミングで前後から打ち込まれた強力な打撃でチュパカブラを天を向き、流し込まれた2種のエネルギーが体内を駆け巡る。

 

「チュパアアアアアアアアア!!!」

 

 どちらにも吹き飛ぶことができなかったその身体は駆け巡ったエネルギーにより直立不動のまま遺跡を傷つけることなく、インクとなって爆発四散し、周囲へと飛び散った。

 

「さてと、残るは……」

 

 2人に増えていたヴァジュラが展開した装甲が元に戻りながら、姿が再びブレて1人に戻るとグレムリンの方へと向き直る。

 頭を残して溶岩に囚われたグレムリンはなんとか脱出しようともがくが硬く固まった溶岩は爪も牙も意味をなさなかった。

 そして「クソッ!」と、悪態をついたところにAウェポンDモードの3本のクローが突きつけられる。

 

「ひぃッ!?」

「知ってることを話してくれるならこの場では調伏しないけど、どうする?」

「本当ですか! へへへ、なら、全部話しますよぉ! 旦那ぁ!」

 

 譲歩案を提示するとグレムリンはすぐに媚を売るような猫なで声とパァッと表情が明るくなる。

 その様子に拍子抜けしたのか、「そんな、簡単にいいの?」と思わず聞き返してしまう。

 

「そりゃあもちろん! わざわざ俺をチュパカブラの旦那と一緒に陸地に送った奴らのことでさぁ。話したところで後悔はねぇっすよ!」

「あっ、そう……って、陸地?」

「へい! 俺とチュパカブラの旦那は海から来たんすよ!」

 

 どちらの戯我も陸で活動する存在であり、海で活動するなど聞いたことがなかった応孥は首を傾げる。

 それならば、グレムリンの特性を考えれば何か乗り物に潜んでいた……そして口ぶりからすると彼の仲間はまだそこにいると推測できる。

 

「……まさか」

 

 そこで1つの推論に思い当たり、仮面の奥で冷や汗をながす。

 

「……詳しく話してくれ」

 

 応孥は固唾を呑んで話の続きを促す。

 自身の思い当たった推論がただただ外れてほしいと思いながら。

 

───しかし、その望みは叶わなかった。

 

 

*********

 

 

 古書店『Fiori di ciliegio』では紅芭がカウンターにて暇潰しに本を読みながら応孥の帰りを待っていた。

 すでに夕食であるラザニアの仕込みを済ませ後はオーブンで焼くだけにし、店も開けているとはいえこの時刻では客足も遠い。

 

「遅いわね……何かあったのかしら」

 

 時計を確認すればすでに18時を過ぎていた。閉め切っているため、わからないがおそらく外は夕日(オレンジ色)に染まっているだろう。

 予定通りならばすでに帰ってきていてもおかしくない応孥に不安を覚えたのと入り口が開き、ベルの音が鳴ったのはほぼ同時であった。

 

「噂をすれば……おかえりなさい。応孥」

「……ただいま、紅芭さん」

 

 扉の先に居たのは応孥であったがその表情は険しい。

 その顔で紅芭も異常があったことを察し、「閉めたら上で話しましょう」と促すが応孥はそれに首を横に振る。

 

「すみません。その時間も無いんです。すぐにデイブレイク号の予想航路を調べてください」

「デイブレイク号の……一体どうして……?」

「……こいつの仲間がデイブレイク号を占拠してるんです」

 

 そう言って右手で引っ張ってきたロープの先を紅芭へと見せる。

 そこに居たのは一見すると黒い身体と緑の頭の雪だるま。

 その正体は溶岩ごと運ばれてきたグレムリン・ギガであった。

 

「へへ、はじめまして姉さん」

「戯我……それに仲間? ……分かった、調べるから全部説明して」

 

 応孥の様子から緊急事態であると理解した紅芭はノートパソコンを起動し、キーボードを叩く。

 その様子を見ながら応孥はグレムリンに「もう一度さっきの説明を」と促した。

 

「へい! 俺らはアメリカで群れで暮らしたんすけどね。ある日、その船をジャックしてくれって頼まれたんすよ!」

 

 グレムリンの語るところによると。

 デイブレイク号のハイジャック、そしてこのミシアにある遺跡を調べろと依頼を受けた。

 チュパカブラともう一体の戯我も同じ様に頼まれたため一緒に船に乗り込んだ。

 ミシアは調べて分からなければそれでも良いが到着前から調査すること。

 それが終わればこの船は好きにしていい。乗っていた人間たちも食い尽くすなり弄ぶなり自由にしろと。

 ペラペラと何一つ隠すことなく、とんでもないことを告げるグレムリンにはじめこそ、作業に集中していた紅芭だがその内容に驚愕し、思わず手が止まり聞き入っていた。

 

「そんで、世間だと明日の朝になってますけど今日の深夜にでも船はここの港に着くんすよ!」

「そんな……あなたの仲間は何匹くらいなの?」

「数えたこと無いから分かんないっすけど……100匹か200匹くらいじゃないっすか? あ、後、でっかい旦那も乗ってるっす!」

 

 紅芭の顔が更に険しくなる。

 グレムリンは素早く、ずる賢い。その上、機械を弄り狂わせてくる厄介な戯我だ。反面、その戦闘力は下級戯我の中でも更に低い。油断をしなければ負けることはほぼ無いだろう。

 しかし、それは数が数匹から多くても数十匹の場合だ。

 推定で100匹を超え、更に場所は船の中。グレムリンにとって隠れる場所も多く、弄ることができる機械も豊富にある。

 

「後その、でっかいのっていのはどんなやつ?」

「でっかい旦那はでっかい旦那っすよ! 詳しくはわかんないっす!」

「……応孥。貴方、予想航路を調べてどうするつもりなの?」

「決まってますよ、紅芭さん。乗り込んで、グレムリンたちを調伏します」

 

 間髪入れずに答えた応孥の答えは紅芭にとって予想していた通りの答えであり、彼女の考える最悪の答えだった。

 

「許可できないわ。危険すぎる……カタンツァーロ支部に救援を出してそれを待つべきだわ」

「それだと間に合わないですよね」

「……それ、は……」

 

 内容が内容だけに救援を出せばすぐにでも動いてはくれるだろう。

 だが、動く人数が増えればそれだけ動きは鈍くなる。その上、ここまでの移動時間もかかる。

 どれだけ急いだとしても港に着くまでに準備が整うかどうか、というところだろう。

 もしも、港に到着すればグレムリンは街へと散らばり、全てを討伐することは更に困難となるのは必至だ。

 そうなれば、被害は更に拡大する。

 

「だけれど、応孥。乗り込むって言ってもどうやって? 相手は海の上よ?」

「船を調達して行きますよ」

「宛がないでしょう? それにもしも船の都合が付いたとして、船で近づいてバレないと本気で思ってるの? 近づいても迎撃されるに決まってるわ」

「それでも何もしないで待つよりはマシです」

 

 お互いの意見は平行線だ。

 時間があるのならばお互いの意見をすり合わせ、折衷案を出せただろうが、あいにくとその時間は存在しない。

 

「……応孥。船に行くのならマグマは船内では使えないわよ。二次被害が増えるから」

「分かってます」

「それに狭い船内ではドリルも振るえないわ」

「……分かってます」

 

 そう、ただグレムリンが有利なだけではない。今、応孥の持ち得る戦力(リキッドや武器)は狭い船の中では十全に活かすことができない。

その上、正体不明の戯我が1体。

 もし仮に乗り込めても苦戦を強いられることになるだろう。

 

アレ(・・)もありますから……なんとかします」

 

 応孥の瞳は真剣だ。

 ──例え、自らを犠牲にしてでも必ず事態を収める、そういった覚悟を秘めていた。

 

「……結局はそういうことするんだね、応孥」

「……あの時とは違いますよ。今回はちゃんと意味があります」

「意味があるからって命を捨てていい理由にはならないでしよ……!」

 

 思わず、声を荒げ、応孥を紅芭。

 それに対しても応孥は表情を変えない。

 

「すみません……でも、僕がやらなくちゃ……助けられるんですから」

「……それは桜子(さくらこ)のために?」

「それ、は……」

 

 桜子、という名前を出された応孥は途端に言葉に詰まる。

 じっと問い詰めるように見つめる紅芭から応孥は目を逸らす。

 

「……船に行っても彼女は助けられないわよ?」

「分かってます……彼女は……関係ありません……」

 

 視線を戻さないまま、絞り出すようにして出した答えは本心ではないと誰もが分かる。

 その答えに紅芭は悲しそうに目を細め、「分かった」と背を向ける。

 

「今の貴方にそんな危険なことはさせられないわ……せめて、もっと確実に船にたどり着ける手を考えないと……」

「……でも」

 

 子供のように言い返そうとする応孥に「……お願いだから」と懇願するような紅芭の言葉に何も言い返すことができなくなってしまう。

 事情がわからず、オロオロと2人を交互に見るグレムリンだがその雰囲気を察して何も口に出せず、店内が異様な静けさに包まれる。

その静寂を破ったのは来客を告げる、入り口のベルだった。

 

「やぁ、取り込み中失礼するよ」

 

 入ってきたのは長い銀髪と緑色瞳を持った、青色のジャケットとズボンに身を包み、茶色のネクタイを身に着けた男性。

 その声に背を向けていた紅芭も振り返り、応孥とともに驚きの表情を浮かべる。

2人はその男のことを知っていた。

 

「アル……」

「どうして、ここに……?」

「メール送っただろう? 夕方頃に来るって。私自身が来ればついでに詫びもできて更にはクレハの食事にもありつける。一石三鳥だと気づいたんだが……大変なことが起きてるみたいだね」

 

 彼の名はアルジェント・コルシーニ。

 紅芭の従兄妹(いとこ)にしてLOTカタンツァーロ支部の支部長である。

 

「話は外から聞かせて貰った。2人の案を叶えるベストな方法があるけど……乗る気はあるかい?」

 

 温和な、それでいて子供を宥めるような、優しい笑みを浮かべたアルジェントは呆けたように見つめ返す応孥と紅芭に自らの案を語りだすのだった。

 

 

 




付録ノ一[封魔霊装 金剛杵]

 篠原応孥が使用する封魔霊装。
 インドラの雷電に由来する武装であり、インドラがヴリトラを倒すために用いた武器であると伝えられている。

 基本となる姿はマグマサラメーヤ。
 重厚な防御力と高い近接格闘能力を活かして敵の攻撃を受け止め、痛烈なカウンターを与えることを得意としている。
 ベースとする能力がシンプルな分、使用するリキッドによってその特性は大きく変化する。
 クロマティックストライクは大跳躍の後、属性のエネルギーを纏とい、高速回転して対象に蹴り込む回転蹴り。
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