仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ 作:teru@T
「それじゃあ、オードは借りてくよ。いいね? クレハ」
一通り説明を終えたアルジェントは扉を開き、店の前に止めたオープンカーへと乗り込み、紅芭へと笑顔を向ける。
しかし、問われた紅芭本人の表情は暗い。
「……確かに、それなら乗り込めそうだけれど……」
「納得してないのは分かってるけど、悪いけど連れて行くよ。時間もないしね。乗って、オード」
紅芭がなにか言おうとしたがそれをアルジェントは柔和な笑みのままピシャリと遮断し、応孥に車へと乗るように促す。
応孥もそれに答えるように紅芭を残して車へと向かう。
「応孥……」
「……行ってきます。紅芭さん」
「……絶対、帰ってきてね」
「はい……絶対に助けてきます」
すれ違ったままの短い言葉を交わし、応孥は車へと乗り込む。
その二人の様子にやれやれといった様子のアルジェントだが応孥が乗り込むと即座にエンジンを噴かし、車を発車させる。
町の外へと向かい走る車を紅芭はただ、見送ることしかできない。
「行かせて……しまった……」
去り行く応孥にあの日、見送った鮮やかな桜色が重なる。
───それ以降、姿を見ることが叶わなかった桜色の彼女の姿が。
「お願い桜子……応孥を……どうか応孥を……」
空に浮かぶ一番星を今は会えない彼女になぞらえ、祈るように言葉を紡ぐ。
「───応孥を連れて行かないで」
*********
町を発って数十分。
「うん。後5分くらいでポイントに着くよ。航路は……そうか、クレハからメールが来てるんだね。じゃあ、その先はよろしく。っと、ごめん。他から電話だ。切るよ……もしもし、そっちの準備は───」
警察に見つかれば止められかねない速度で走る車の中、手持ち無沙汰に自らの装備を点検する応孥はアルジェントの手腕に目を見張った。
「───後、グレムリン・ギガを捕獲してるから、それを移送する準備も頼んだ。じゃあ、よろしく」
ハンズフリーでの通話を終え、視線こそ逸らさずに前を向いているが一息をつくとそこで自身を見ている応孥の視線に気づいた。
「どうかしたのかい?」
「いや、こうやってる仕事してる姿を見るのって考えてみれば初めてだと思って」
「はは、会う時は基本的にオフの時だしね」
応孥は元々、日本にいた頃から従兄妹の元に遊びに来ていたアルジェントと会うことが多かったため、仕事をしている彼を見る機会が少なかった。
普段から明るく、社交的な印象の彼だったが電話越しに指示を飛ばす姿の端々にリーダーとしての威厳のような物を感じさせる。
「それはそれとして、あんまりクレハをイジメないでやってくれよ?」
「イジメてなんかは……確かに、意見はぶつかりましたけど」
「分かっていて意見をぶつけたんだろう? まぁ、今回は彼女にも悪いところがあるから一概に責めるつもりはないよ」
「でも」と一度言葉を区切り、続ける。
「自分の危険を度外視して動こうとするのは控えて欲しいかな。必要な時があるのは分かってるけど」
「……そう、だね。今回は僕も冷静じゃなかったよ」
「いや、良いんだよ。考え方は人それぞれだと思う……だけどさ、もっと
「……そうだね。多分、その通りだと思う」
「自覚はあるんだね……なら」
サッと胸ポケットから何かを取り出し、応孥へと差し出す。
それはホリゾンブルーとビリジアンの2本のモンストリキッド、ホリゾンブルーのリキッドには潮を噴き上げるクジラの姿が描かれている。
「後は取り返しがつかなくなる前にちゃんと目指すところを合わせなよ。いくらでも相談には乗るよ。はい、約束してたモンストリキッド」
「ありがとう……2本も良いの?」
「本当は1本はうちで使う予定だったんだけど、アルミラージのことは悪いことしちゃったからね」
肩を竦め、困ったような顔を見せるアルジェントに「そういうことなら」と2本のモンストリキッドを受け取り、ホルダーへとしまった。
「さてと、そろそろ合流ポイントだ。後のことはカナリーくんに任せてあるから」
「了解。何から何までありがとう」
「いいよ、お礼のディナーは楽しみにしてるから」
「ハハハ、それくらいならいくらでも」
軽口を叩きながら車を停車させたのはミシア郊外のひらけた草原。
海岸沿いの切り立った丘の上でのため、昼間であれば見晴らしも良く、爽やかなドライブを楽しめると密かな観光スポットにもなっている。
だが、夜の帳が落ち切った今では人の気配はなく、草原は静寂に包まれていた。
「それで、ここまでは来たけどこの先はどうやって?」
「まぁ、待って。もうすぐ……来たよ!」
応孥の疑問を周囲の静寂と共に切り裂いたのは上空から響くヘリコプターのローター音。
それについで強い風とともに1台のヘリコプターが低空まで降りてきた。
「アルジェント支部長、お待たせしました。お乗りください」
ヘリコプターの扉を開け、姿を見せたのはLOTの黒い軍服を身に着けた女性。
応孥たちより少し若い、女性的な魅力に溢れるプロポーションと女性にして高い身長の上にヒールを履き、ブロンドのポニーテールを風で揺らしながら女性は縄梯子を下へと降ろす。
「ありがとう! カナリーくん! さぁ、オード、登って」
「なるほど、ヘリコプター……思いつかなかった」
女性の名はカナリー・ゴールドポンド。カタンツァーロ支部の支部長秘書――事実上のナンバー2だ。
アルジェントに促され、応孥が縄梯子に手をかけると上にいるカナリーが睨みつけ、何事か小声でぶつぶつ言っているようだったがローター音にかき消されて聞こえない……もっとも、応孥には内容の予測はついているのだが。
「お世話になります。カナリーさん」
「あなたのために用意したわけではないですよ。オード・シノハラ。アルジェント支部長のためです」
「相変わらずですね……」
「さぁ、アルジェント支部長! 支部長も登ってきてください! 座席の用意も完璧です!」
応孥に対しては突き放すようにアルジェントに対してはパァッと顔を明るく声もワントーン上げて明るく語りかけるカナリー。
応孥が嫌われているわけではない。アルジェント以外に対する彼女はこれがデフォルトであるだけなのだ。
「いや、ごめん! 僕はミシアに戻るよ! 地元の警察にも事情説明しなくちゃいけないし!」
「えっ……」
「それじゃ! オードのこと任せたよ!」
「あっ、えっと、支部長!?」
遠距離で大声でのやり取りを手短に終わらせ、手を振って挨拶をすると見送りも程々に車へと乗り込み、予想を外しアルジェント別れることに驚いているカナリーを気にする様子もなく、来た道を引き返していった。
「……し、支部長との夜の海のフライトは……」
「えーと……とりあえず、揃ったので……出発してください……」
先程までの険しい表情ともアルジェントに向けた笑顔とも違い、涙を流して絶望した様に硬まっているカナリーを機内に引き込み、扉を閉めるとヘリコプターは高度を上げ、夜の海へと向かい出した。
*********
夜の闇の中、戯我たちに気づかれないために最小限の照明のみを灯し、限界ギリギリの高度を飛ぶヘリの中の空気は重かった。
「はぁ……なんで支部長は一緒に来てくれなかったのかしら……」
その原因であるカナリーはどこ吹く風といった様子で憂いを帯びた表情でため息をつき、窓の外を眺めている。
「どうして一緒に乗っているのがオード・シノハラなのかしら……」
「まぁ、僕を送って貰うためにアルに」
「アルジェント支部長よ。あなたがあの人をそんな親しげに呼ばないで頂戴」
「……アルジェント支部長に命じられたからじゃないかな」
「えぇ、その通りよ。だから船探しを手伝ってあげてるんでしょう?」
アルジェントと別れたショックから立ち直り、いつも通りに戻って悪態をつくカナリー。
「クレハから送られてきた予測だともうそろそろ見えてもおかしくないのだけれど」
「あっちも明かりを最小限にしているはず……」
「……あれかしら?」
カナリーが示した先を見れば暗い海の上にぼんやりとオレンジ色に光る大きな何かが浮かんでいる。
高度は変えずに近づき、確認をしてみればそれは大きな旅客船であり、距離があるため、人がいるかは分からないが船上部のデッキが煌々と明るく照明が照らされているのが確認できた。
「あのサイズの客船がこの近くに寄りつくことは殆どないから……間違いない」
「ならば、後はあなたの仕事です。ここまでお膳立てしたんですから、後はまかせるわ。あの船の真上に移動して」
パイロットに指示を飛ばしながらカナリーは自らの
色はスチールグレー、表面には爪で襲いかかろうとする鳥が描かれていた。
「言うまでもないと思いますがこれは差し上げるのではなくて貸すだけです。必ず返しに来くてください」
「……僕、そんなに帰らなさそうに見えるんですかね?」
「さぁ、どうでしょうね。少なくとも帰ってこないと不都合があるのなら釘を差すのは当然でしょう? あなたが帰らないと困るんですよ」
モンストリキッドを差し出したまま真剣な眼差しでカナリーは応孥を見つめ、言葉を続ける。
「あなたが帰らないと……アルジェント支部長がクレハのことをもっと気にかけて私との時間が更に減ってしまうと思いますから」
「……あ、はい」
「私は真剣なんですよ。どっちがいなくなってもアルジェント支部長は残った方を気にかけるなんて分かってますから……そういう優しいところとかも良いんですけど、やっぱりそれは私に向けて欲しいというか……」
自らの言葉に酔い、陶酔へと落ちていくカナリーを見て気が抜けたのか、応孥は肩を竦めてもうこちらを見ていないカナリーの手からリキッドを受け取る。
「ありがとうございます……じゃあ、もしもの時はお願いします」
「頼まれなくても了承はしてますよ。それが私の仕事ですから」
「ですよね」と微笑を浮かべ、受け取ったモンストリキッドともう1本───オーシャンリキッドを起動し、レリックドライバーに装填する。
《オーシャン!》
《ルフ!》
《
パイロットの客船の上空に到着した合図と共に扉を開く。
機内に暴風が吹き荒れるがそれを意に介することなく、応孥は迷いなく空へと飛び込んでいく。
「変身……!」
下から吹き上げる突風を物ともせず、トリガーを引き込み五芒星を展開、落下しながら五芒星をくぐり抜け、夜の闇の中へと消えていった。
《
《ルフ!
*********
地中海を陸地へ向かって走る観光船、デイブレイク号。
そのデッキでは今まさに”宴”が繰り広げられていた。
夜行性の戯我たちには不要な照明を人間たちに見せびらかすために煌々と輝かせ、本来ならば海風に水面が揺れているはずのプールはどの様に変質させたのか、多くの
それを取り囲むようにプールサイドには多数のグレムリン・ギガたちがギャハハハ!と下品な笑い声を響かせながら騒ぎ、上を見ている。
「や、やめっ! うわああああ!!」
その視線の先、廃材を乱雑に繋ぎ合わせた高さ10mほどの特製の飛び込み台、風に揺られギイギイと音を立てるそれから突き飛ばされるように1人の男が落下する。
ただでさえ、落下を受け止めるには深さの足りないプール。その上、プールの水は氷柱の山へと変貌している。
数秒後、グシャリと上空から鋭利な氷柱に突き刺さり、飛沫を撒き散らして氷山を赤く染めると周囲からは歓声に似たグレムリンたちの喚き声が響き渡る。
一通り騒ぎが落ち着いたところですでに絶命した男に何匹かのグレムリンが近づき、口を開ける。
すると、男の死体から光の糸のようなものがグレムリンの口へと伸びて、解けるように消滅してしまった。
その様にゲラゲラと一頻り笑ったあとで飛び込み台の上へと合図を出した。
「よぉし、次はお前の番だぜぇ!」
合図を受けた飛び込み台上のグレムリンが次なる犠牲者であるドレスの女性を前へと押し出す。
つんのめりながらもなんとか踏みとどまるが後1歩で空へと飛び立つ瀬戸際であり、後ずさる。
「い、いや……」
「オイオイ! 何怖がってんだよぉ、さっさと飛べよぉ!」
「そうだぜぇ! それともおめぇも旦那に背中を押してもらうかぁ?」
グレムリンたちの言葉に呼応するようにギシギシと柱を軋ませながら大柄で全身を白い毛皮で覆われたゴリラのような怪物───イエティ・ギガが姿を見せる。
「また出番か? 女だと……軽すぎて船の外まで飛ばしちまうかもしれないな!」
「ギャハハ! それはそれで面白いと思うぜ、旦那ぁ!」
眼の前で繰り広げられる化け物たちによる己の末路に関する相談、下を見れば今か今かと
どの選択がなされたとしても彼女の末路が死であることは揺るがないだろう……それを理解した女性はとある行動に移る。
「よぉし、それじゃあ……あぁん?」
「なんだぁ? やんのかぁ? お前1人なんて旦那がいなくても俺たちだけで十分なんだぜぇ?」
グレムリンとの相談を終えたイエティが拳を構えて前を見ると涙や埃で顔をぐしゃぐしゃにした女性が怯えながらもイエティたちの方を見て立っていた。
「どうせ……どうせ私は殺されちゃうんでしょ! そ、それなら……お前たちなんかに……殺されてたまるもんか!」
啖呵を切り、背を向けたまま空中へと身を投げだした。
その身体は重力に従い加速しながら下へ落ち、ただでさえ遠い星空が遠のいていく。
「ギャハハハ! 自分から落ちやがったぜぇ!」
「馬鹿な女だなぁ!」
「全くだ。身体が鈍ってるから久々に全力で殴ってやろうと思ったのにな」
消え入るように聴覚に届いた罵倒も今となっては何の意味もない。
氷柱に突き刺さるまで後数秒。
不可避の終わりを待つ女性はその瞳を閉じ、その時を待った。
《マグマ! サラメーヤ!
《バイカラー・クロマティック・ブレイク!》
初めに耳へと届いたのは上空から響く何らかの電子音声。
それに続くようにバゴンッ!と金属の砕ける音と怪物たちの叫び声が聞こえた。
そして、何か、金属のように硬いものが腰に巻き付き、ゴウッ!と突風と共に落下速度が加速、何事かと目を開くよりも早く、ガラスのような物を粉砕する音、肉を轢き潰すような音、木材を砕く音、少し遠くから崩れる音と、視界を閉じたことでよく聞こえたのか連続していくつもの音がその身に受ける重圧と共に聴覚を通過していった。
「何……が起きたの……?」
本来なら氷柱に貫かれていてもおかしくないがその衝撃は訪れないどころか落下が止まっている。
混乱する女性がゆっくりと目を開く、数秒ぶりに視界に映る世界は大きく変化していた。
犠牲者を刺し貫いていた氷柱の山は天上からカーブを描いて円柱状にくり抜かれるように砕けており、その延長線上はグレムリンたちが消滅し、甲板が焦げていた。
そして、その延長線上にいる彼女自身は抱えられていた。
「……遅くなって、すみません」
スチールグレーの鳥を模した嘴のように尖ったマスクと身体の各所にウルトラマリンブルーの波のような装甲をまとい、背中には半透明な巨大な翼を持つ声からして男性であろう人物が女性に声をかけ、彼女を降ろす。
「少し待っていてください……まずは甲板にいる奴らから殲滅しますから少し待っててください」
「あの……あなたは……?」
仮面の男が背を向け、右腕に装着されたドリルを構え、ザワつくグレムリンたち。
飛び込み台が破壊され、廃材とともに落下してきたイエティたちも甲板に叩きつけられる中、仮面の男は振り返り、質問に答える。
「仮面ライダーヴァジュラ。この船は僕が守ります」
******
アルジェントが立てた作戦は非常にシンプルだった。
持参したモンストリキッドで戦力を補い、視野が広い空から船を探してそのまま急襲する、そこまでだ。
船内の様子や敵の正確な数も分からないため、乗り込んだ後は応孥自身が判断して被害を少なく抑える他ない。
「霊装使い……!? なんで空から落ちてくんだよ!?」
「それよりどこからバレたんだよ! 電波は飛ばないように細工したんだよなぁ!?」
「ど、どうするんだよ!? 逃げるか!?」
「デカい旦那はどうしたんだよ!? こういう時のためにいるんだろ、あのデカブツはよぉ!」
「さっき上にいた奴らと一緒に海に落ちてったよ! さっさと上がってきやがれよ、あいつ!」
「(氷の山があったから咄嗟に使ったけどマグマは船に被害が出ないようにしか使うわけにはいかない。ルフは飛べるのは便利だけど……敵も混乱してる、それなら)」
今の状況やザワつくグレムリンたちの様子を確認してから駆け出しながらサラメーヤリキッドを取り出し、切り替える。
《サラメーヤ!》
《
「カラーシフト!」
《
「ハアアア!!」
展開していた翼が消え、鳥を模した頭部を初めに獣を模したものへと装甲が変化していく中、左腕のドリルをグレムリンの群れへと突き出し、数体を回転に巻き込んで撃破、そのまま横薙ぎに薙ぎ払うことで更に被害を拡大させていく。
「や、やべぇ!?」
「まだまだいくよ!」
たじろぐグレムリンたちを尻目にヴァジュラはドライバーを操作する。
《オーシャン!
「神器解放!」
右肩になびいた波を模した装甲に青い光をまとうとそのまま腕を大きく横に振る。その腕に合わせて大量の水が現れ、グレムリンを押し流す。
「う、うわあああ!」
「落ちる、落ちるぅ!」
「落ち着けぇ! とにかく、船内にいる奴らにもこのこと伝えろぉ!奴は1人なんだぞ! 囲めばなんとでもなるはずだぁ!」
多くのグレムリンは水に濡れるだけですんだがデッキ外縁部にいたグレムリンたちは流され、そのまま海へと落下していく。
しかし、依然としてグレムリンの数は多く、更には落ち着きを取り戻したのか何体かは船内へ、そして残った個体は距離を取ってヴァジュラを取り囲む。
「そうだ! さっき、一緒に落ちた女! あいつを人質にしちまおうグエッ!」
「やっぱりすぐ気づくよね……!」
提案を出すグレムリンを中心にドリルで周囲を薙ぎ払い、バックステップで女性の前に立つ。
露骨な行動に有効だと気づいたグレムリンたちは先程怯えていたのから一転、ニヤニヤと笑みを浮かべこちらに爪を向ける。
「ケケケェ! 囲め、囲めぇ! 人質取れば行けるぞぉ!」
「そう簡単にさせるわけないだろ! カラーシフト!」
新たにビリジアンのモンストリキッドを取り出し、起動して手早く入れ替え、トリガーを引き込む。
《エレクトリック!
《
再び、五芒星に包まれたヴァジュラの姿が変化する。
波を模した青い装甲がジグザグで刺々しい、雷のような青みを帯びた緑色へと変わり、そのまま再び同じスイッチを押し込みトリガーを引く。
「また色が変わったが関係ねぇ! いけぇ!」
「かかれぇかかれぇ!」
「お披露目だ……! 神器解放!」
《エレクトリック!
右肩に蓄積した緑雷を伸ばした右腕を突き出し、空中へと放電する。
そのまま飛びかかろうとしていたグレムリンに雷撃を浴びせ、更には先程の攻撃で広がった水を伝って多くのグレムリンへと伝播していく。
そして雷撃が収まる頃にはバタリ、バタリと次々に倒れて消滅し、デッキにはヴァジュラと助けられた女性だけが残った。
「大体片付いた……いや、残りは船内に逃げられたのか」
「あ、あの……助けていただいてありがとうございます」
「いえ、当然のことをしてるだけなので。それよりも他に捕まってる人がどこにいるか分かりますか?」
「あ、はい。えっと乗客はレストランに……全員いるかはわかりません。それと船員さんたちはレストランでは見てませんけど……落とされた、人の中にはいました……」
先程の光景を思い出し、恐怖に女性は自らの身を抱く。
「そうなると……多分、船員は操舵室にいると思います。上から来る時に光がついてましたから。一度、一緒に来てもらってもいいですか? どちらにしても操舵室は取り戻さないといけないので」
「わ、わかりました……でも、中を通っていくんですか……?」
「いえ、外からいきます。多分そちらの方が危険も少ないですから。こちらへ」
女性を片手で抱き上げ、空いている手で
「カラーシフっ!? 誰だ!?」
トリガーを弾こうとしたその時、背後から鋭い視線を感じ咄嗟に振り返る。
しかし、 振り向いた先には船内へと続く出入り口と甲板、そしてその奥に広がる暗い大海原が広がるのみであり誰もいなかった。
「あ、あの。どうかしましたか?」
「……いえ、驚かせてすみません。行きましょう、しっかり掴まっていてください」
改めてフィジカルカラーをルフへと変更し、女性を抱えあげる。
先程の視線は気のせいだったのか? その疑問が拭えぬまま横目に先程の場所をチラリと確認してからヴァジュラは前へと向き直り、操舵室を目指して空へと舞い上がった。
*********
───時間は少し戻り、ヴァジュラがグレムリンたちと戦っているその時。
艦橋の影に隠れて戦いを覗く人物がいた。
「チッ!
苛ついた様子で栗色の髪の男は憎々しげに雷に似た装甲へと切り替え、グレムリンたちを殲滅するヴァジュラを睨みつける。
「……まぁいい、わざわざ乗り込んできたということは港もすでにLOTの奴らが後処理で張っていて船の乗客は全員調べられるだろう……ならば、ここに長居する理由もないか」
一転して落ち着いた様子で現状を分析し、撤退を決めた男はおもむろに海へ向けて手すりに手をかけ、海に乗り出そうとしたところで一度振り向いた。
「ふむ……確か、さっき良いものが海に落ちてたな……よし」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべてヴァジュラを見つめる。
「丁度いい。この先も邪魔をされるのならば今のうちにやつの力量を測っておくか。それにそのまま死んでくれたのなら楽にもなる」
そのまま男は手すりを乗り越え、船を飛び降りると
そして男は道を歩くかのように海の上をどこかへと歩き去っていった。
付録ノ弐[ルフ]
日本ではロックもしくはロック鳥として知られており、千夜一夜物語や東方見聞録にて記述がある伝説の鳥。
3頭のゾウを巣に持ちさり、雛の餌とするほど大きくそして力が強いとされている。
地域によっては不死鳥と同義とされることやイラン神話に記述のあるシムルグとは近縁であるとされるなど幅広く伝承が残っている。