仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ   作:teru@T

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 夜の闇に飲み込まれた暗い海。
 ヴァジュラの攻撃の巻き添えを受けて海へと落下したイエティと数匹のグレムリンたち。
 彼らは陸地を目指し、離れていくデイブレイク号にもう一度戻るためにとバシャバシャと水飛沫を上げながら泳ぐ。
 しかし、船の速度に追いつくことができず、その距離は離れていくばかりだ。

「くそぉ、追いつかねぇ」
「お前ら、泳ぎが得意なやつはいないのか!」
「無理言わないでくださいよぉ、イエティの旦那ぁ! 俺らもあんたも丘暮らしだろぉ!?」
「どっちにしろ泳がないと陸にも戻れねぇんですし泳ぐしかないっすよぉ!」

 文句を言うイエティをグレムリンたちが諌める。
 しかし、怒りが収まるわけもなく「くそぉ!」と怒声を上げて水面を叩きつける。

「お困りのようだね。戯我の諸君」

 立ち上った水飛沫の向こう側、誰もいなかったはずの所から声がかかる。
 飛沫が消えたそこには金色の瞳を持つニヤついた笑顔の栗色の髪の男が海の上にまるで地上と変わらぬ様子で立っていた。

「なんだてめぇ……?」
「人間がなんで海歩いてんだよぉ!」
「私が人間に見えるとはな。これだから雑魚は……まぁいい。困っている貴様らをこの私が手助けしてやろうと言っているのだ」
「手助けだと? 人間の分際で……」

 突如現れた謎の男に混乱と怒りから敵意を剥き出しにするイエティとグレムリンたち。そんな状況を理解できていない戯我たちに対して男は呆れた様子で手を翳す。

「な、何だこれは!?」
「お、俺たちに何しやがったぁ!?」
「身体が溶ける……!」

 戯我たちの肉体が溶けるように解け、インクへと変わっていく。
 経験の無い事象に慌てふためく中、イエティは原因と見られる男を睨み付ける。

「テメェ、なにをしやがった!」
「言っただろう? 手助けさ。あの封魔司書に一泡吹かせたいんだろう?」
「それはそうだ! だけどそれとこれに何の関係がっ!?」

 怒りに任せた叫びの途中でイエティはドロリと溶けてインクの塊となる。
 その様を見ていたグレムリンたちも恐慌に陥り、我先にと離れようとするが程なくしてイエティと同じ末路、インクの塊となった。

「思ったよりも量がないな……まぁ、いい。遊び相手には十分だろう」

 男が手を振るうと戯我たちが溶けたインクは空中で1つに集まり、手の動きに合わせて暗い夜空をキャンパスにして絵を描くように形を変えていく。
 
「さて、どんな奴に描き換えるか……あいつにするか」

 手の動き合わせて、色が混じり合い暗い黒となったインクが形を変えていく。
 馬の身体にギョロリと大きな一ツ目、長く大きく三日月の様に裂けた口、そしてその背から筋骨隆々な人に似た上半身が生えている。だが、その腕は異常に長く、ダラリと垂れ下がって海面に届いていた。
 一見するとケンタウロスの様にも見えるが前脚の付近にはヒラヒラと肉厚なヒレが生えており、それを海面でユラユラ揺らしていた。

「最後に神血(イコル)で色を整えてやれば……おっと、後は証も刻んでおかねばな」

 自らの血を描かれた戯我に混ぜ込むと黒かった肉体は白と黒のマダラにそして、くすんだ白へと変わり、その手のひらに道化師の靴を模った紋様が刻まれる。

「ククク、さぁ、ゆけ! 仮面ライダーに神威を見せてくるが良い!」

 神たる男の号令に従い、イエティとグレムリンたちから描き換えられた戯我は赤い一ツ目を輝かせながら船へと向かった。


第四頁[紺青より来たる乱入者]

 場所は移り、デイブレイク号船内。

 明かりの落ちた暗い船内では断続的な戦闘音が響き続けていた。

 

《オーシャン! Charging Color(チャージング・カラー)!》

「ハアアア!」

Last Calling(ラスト・コーリング)!》

 

 狭い船内の廊下で鋼色(ルフ)から赤褐色(サラメーヤ)へと換装したヴァジュラが青の光をまとった拳を正面へと突き出す。

 

《モノカラー・クロマティックインパクト!》

「吹き飛べ……!」

 

 手甲から放たれた水流が渦を巻き、廊下にいた数匹のグレムリンを巻き込み消滅させた。

 甲板で救った女性を連れて操舵室も取り返したヴァジュラは船員たちに女性を預け、グレムリンの掃討と人間の救助のために船内を奔走する。

 数匹をまとめて倒したが、行く手を阻む様にグレムリンたちが湧き出てくる。

 

「分かってはいたけど、数が多い……なぁ!」

 

 悪態を付き、迫るグレムリンの1体を拳で叩き伏せながらバックステップで距離を取る。

 

「後ろ取ったぜェ!」

 

 しかし、背後からも挟み撃ちの形で更に数体のグレムリンが迫っていた。

 

「くっ……それなら!」

 

 ヴァジュラがそれを視認すると咄嗟にレリックドライバーへ装填されたビリジアン(エレクトリック)のモンストリキッドを起動、即座にトリガーを引く。

 

《エレクトリック! Calling(コーリング)!》

「神器解放!」

 

 緑雷を発生させ、まとわせた拳を地面に叩きつける。緑雷は地面を伝い、放射状に拡がって前後から迫るグレムリンを纏めて打ち据えた。

 

「ハァ……ハァ……これで何体目だ? 分かってたけど休む暇もない……!」

 

 船に乗り込んでから数時間、ひたすらにグレムリンを倒し続けたが乗客が囚われているらしいレストランへはまだ到着しない。

 天井や床、更には空きの部屋など船内の至る所から現れるグレムリンたちに翻弄され、思うように進めないでいた。

 

「せめてグレムリンがどこから来るか分かれば……そうか」

 

 殲滅し、立ち止まることができたからこそ乗り込む直前に渡されたもう一つのモンストリキッド、ホリゾンブルーのそれの存在を思い出し、ホルダーから取り出し、起動する。

 

《ホエール!》

「カラーシフト!」

 

 赤褐色(サラメーヤ)からクジラの意匠が施されたリキッドに切り替え、トリガーを引く。

 

Loading Color(ローディング・カラー)! HYBRID(ハイブリッド)!》

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)! 交わる双つの色彩! ハイブリッドカラー!》

 

 ホリゾンブルーの五芒星を潜ると二対四眼のアイレンズが消え、頭部は丸みを帯び、後頭部には突き出るような三日月型のフィン───クジラの尾が飛び出る。

 身体の生体装甲も獣を思わせる姿から流線型のクジラを思わせる装甲へと上塗りされ、関節などには穴のような装飾がなされている。

 刺々しい雷撃を模した装甲と合わさりルフを使用していた時以上に普段の姿(マグマサラメーヤ)から乖離したヴァジュラの新たな姿、応孥は軽く自身の姿を見回した後、行動へと移った。

 走り出すと同時に頭部から超音波を発する。人間の可聴域を超えた音、しかし今のヴァジュラならばその反響を聞くことができた。

 

「なるほど……これは、便利だ……ね!」

 

 ガントレットを打ち合わせAウェポンをドリルへと変形、空いた右手でSトリガーを引き抜く。

 曲がり角に差し掛かるとドリルを突き出し、Sトリガーを背後に向けて連射する。

 

「な、なんでぇ!?」

「気づかれてんだぁ!?」

 

 鋭利に尖らせた鉄パイプや包丁などで武装し、角を曲がってくるのを待ち構えていたグレムリンたちはドリルに巻き込み、薙ぎ払われ、背後から奇襲を狙い飛びかかってきた一匹にはエネルギー弾に撃ち落とされる。

 

「動きが分かってれば先手を打つ、当然だろう?」

 

 クジラやイルカなどが持つエコーロケーション、ホエールリキッドによりそれに似た力を得たヴァジュラは音波の反響で周囲のグレムリンの居所や彼らが仕掛けた罠を把握していた。

 

「思っていたより探知範囲が広いな……最初から使っておくべきだった」

 

 グレムリンたちを撃破し、移動をしながら能力を確かめる。

 距離が離れればそれだけ正確さは薄れるがそれでも船内のほぼ全てを網羅しており、これにより人だかりができている場所が操舵室を除き1箇所、女性の証言通りならばレストランに人が集められていることになる。

 また、同じ室内にグレムリンと思しき小さな影も複数おり、船内のグレムリンもレストランを目指すように移動をしていた。

 

「数が減ってきたから集まって人質……ついでに何人か喰って力を付けるつもりか!」

 

 小さな影が入り口付近に人と思われる影は壁際付近に集められていることからすぐに捕食はせず、逃げられないようにして自分たちも数が集まってから動くのだろう。

 どちらにしても道中の妨害をくぐり抜け、悠長に正面から突入した所でグレムリンたちの思うツボだ。

 

「それなら……こっちだ!」

 

 方針を改めたヴァジュラはレストランへと向かうために下るべき階段を通り超え、グレムリンたちの裏をかくための新たな目的地へと急ぎ向かった。

 

 

*********

 

 

 デイブレイク号船内のレストラン、本来ならば船内の調度品とマッチした高級感漂う会食の場であるが戯我たちに占拠されたここは人間を閉じ込める檻として利用されていた。

 均等に並べられていた机と椅子は破壊され散乱、今はグレムリンたちの手によって侵入者の進行を遅らせるためのバリケードとなり、明かりが落ちて目立たないが壁や床には人間を脅すために付けた傷や血によって汚れている。

 人間たちを入り口から遠い壁際に追いやり、船内に残ったグレムリンたちはレストランへと集まっていた、その数は50匹ほど。当初は100を超える群れであったがその数は半分以下となっていた。

 恐怖により抵抗を奪われた船の乗客たちも継続的に響く戦闘音や船の揺れ、そして慌てた様子のグレムリンたちの様子から異常を認識している。これ以上数が減って人間に反抗される前に威圧の意味も込めて集ったのだ。

 

「これで全部か?」

「知らねぇよ! 会った奴には全員声かけたんだからな!」

「来てねぇならソイツがわりぃんだよ! とにかく封魔司書は1人だけだ! それならコイツら人質にしてぶっ殺すぞ!」

 

 ザワザワと話し合い、というよりも責任を押し付け合う罵り合いに近い口調で会議を進めるが、自分たちの快適な居場所を奪った封魔司書を殺してこの船を取り戻す、という結論は全員が一致していた。

 

「よぉし、なら何人か喰っちまうかぁ」

「そうだそうだ! 威張ってた役立たずのイエティも好き勝手してやがった大飯食らいのチュパカブラもいねぇんだからな俺たちも喰おうぜ!」

 

 話し合いを終え、方針を決めた彼らが光る眼を怯え涙を流す人間(えさ)へと向け、白く鋭い牙を見せて笑う。

 戯我の捕食に牙や爪の有無は関係がない、しかし、それを知らない一般人にとってその行為は恐怖を煽り、彼らに愉悦を与えるのだ。

 

 強敵を前にしたグレムリンたちには焦りこそあるが、こちらの方が数も状況も有利であると認識しており、頭数が集まれば慢心も生まれる。

 だからこそ、彼らは想定していなかった、あるいは室外の罠の作動音や戦闘音が響かないことに疑問を浮かべれば警戒を緩めなかったかもしれない。

 人間へと向かおうとしたその時、上方からギャリギャリ、何かを削る音が轟き、同時に中央の天井が崩れたのだ。

 

「な、なんだ!?」

「お、おい……あれは……!?」

 

 瓦礫とともに人間とグレムリンたち、その間に遮るように落ちてきたのは左手にドリルを構えた、二色の赤色が混ざり合う四ツ眼の戦士───マグマサラメーヤとなったヴァジュラだった。

 

「さぁ、君たちはここで僕が塗り尽くそうか……!」

 

 

*********

 

 

 レストラン突入の直前、ヴァジュラはレストランのひとつ上の階にある客室にいた。

 

「よし、ここだ。この真下なら人も巻き込まない」

 

 ホエールの能力によって得た空間把握により、下のレストランの様子も大まかに理解していた。

 すなわち、人間が壁際にグレムリンが扉側にそれぞれ集まっていること、レストランの中央付近は誰も居ないことを。

 

「この先のやり方も考えてある……後はどれだけ素早く調伏するかだね」

 

 応孥はふぅ、と仮面の下で目を閉じ、一息をつく。

 偶然も重なったが自らが来てからは大きな被害を出さずに済んでいる、しかし、失敗をすれば乗客を人質にされるかもしれない、殺されるかもしれない、そうでなくとも相手に読まれてるかもしれない───自身を惑わす雑多な思考を圧し殺し、覚悟を決める。

 それと同時にグレムリンたちの動きが変わった、集会するように集まっていた彼らが人間の方へと向き直ったのだ。

 

「あっちも動き出した……さぁ、勝負だ!」

 

 ホルダーから取り出したマグマとサラメーヤのモンストリキッドを起動し、レリックドライバーへと装填する。

 同時に取り出されたエレクトリックとホエールを起動し、そのままAウェポンにリードする。

 

《マグマ!》

《サラメーヤ!》

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

《エレクトリック! ホエール! Charging Color(チャージング・カラー)!》

「カラーシフト!!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)! 噴き上がる紅熱の番人! マグマサラメーヤ!》

『バォオオオーン! グォオオオーン!』

 

 装甲が装着されきるのを待たず、展開、まるではじめからそのような姿に変化するように変身音と排熱音が共鳴するごとく響く。

 

Last Calling(ラスト・コーリング)! バイカラー・クロマティック・ブレイク!》

 

「いけぇ!」

 

 装甲が定着すると同時に左腕に携えた緑と青のエネルギーを巻き込み回転するドリルで床を穿つ。

 大きな音をたて、一室全てをくり抜くのではないかという規模で穿ち、ヴァジュラも重力に従って下階のレストランへと落下する。

 目の前には突然の出来事に驚愕し、動きを止めたグレムリンたち、ちらりと背後を見れば怯えてはいるがこちらも驚く乗客たちが見えた。

 

「さぁ、君たちはここで僕が塗り尽くそうか……!」

 

 まずは人質に取られるよりも先にグレムリンたちと乗客に割り込むことは成功した。

 挑発するように言葉を放ち、レッドディッシュブラウンのリキッドを起動して次の一手へと移る。

 

《サラメーヤ!》

「神器解放!」

Calling(コーリング)!》

 

 トリガーを引くとヴァジュラの姿がブレ、二人に分身する。

 分身はすぐにレストラン入り口の方へと跳び、手近なグレムリンへと攻撃を開始する。

 

「や、やべぇ! もう来やがったのか!?」

「生憎と僕のほうが一枚上手だったみたいだね!」

 

 本体も正面からドリルを振り回し、二方面から角へと追いやるようにグレムリンたちを追いやっていく。

 数は多いが奇襲により意思の疎通ままならないグレムリンたちは動けずにドリルの餌食になるもの、誘導されるように逃げるもの、反撃し弾かれるもの、そしてヴァジュラの脇をすり抜けようとするものバラバラに動く。

 

「へへへ、今のうちに人間どもを……!」

「させるか!」

「何!? ぎゃあ!?」

 

 ヴァジュラを抜けようとするグレムリンをサラメーヤの能力である4つ目による視界で捉え、Sトリガーで牽制、一匹たりとも逃がすことはなく追い詰めた。

 

「ぎぃ……と、とにかくバラけて逃げろぉ! アイツの武器なら広がって逃げりャ全員は捕まらねぇ!」

「残念だけどそれは叶わないよ! さぁ、トドメだ!」

 

 左腕に構えたドリルの回転を止め、展開したクローを収納する。

 そしてGモードの時、右腕を差し込む穴へとSトリガーを差し込むと同時に左腕を引き抜いた。

 

Docking(ドッキング)! GD(ガトリングドライブ)モード!》

 

 通常クローが展開するのとは逆側から三本の筒───銃身が展開する。

 近接戦闘に特化したAウェポンであったAウェポンG/D、それを補うために開発したが威力が低いSトリガー、その2つだけでは対処できない今回のような数多くの敵との戦闘を想定し、改造した第三形態、GDモードである。

 

「げぇっ!?」

「これで……終わりだ!」

 

 左手を添え、銃口をグレムリンたちへと向けてトリガーを引く。

 本体が高速で回転を始め、エネルギー弾を3つの銃口から乱射する。

 回避するスキすら与えないまま、追い詰められたグレムリンたちへと殺到し、レストランの壁や床ごと粉砕しながら炸裂した。

 突然の轟音に乗客たちも目と耳を閉じ、顔を伏せる……そして数秒後、轟音が鳴り止むと目を開け、前へと向き直った。

 

「……もう、大丈夫です。あいつらは倒しましたから」

 

 煙が晴れたそこには苦しめられた化け物(戯我)は居らず、ガトリングを持った仮面の戦士(ヴァジュラ)だけが立っていた。

 シンッ─とした沈黙の後、歓声と嗚咽の混ざった声が沸く。自分たちが助かったことに歓喜するもの、恐怖からの解放に涙を流すもの、そして親しいものの死を悲しむもの、抑圧から開放された反応は三者三様であった。

 

「操舵室もすでに取り返してます。後1,2時間で陸に着きますからそれまではここにいてください。まだ化け物が仕掛けた罠もありますし、生き残りがいるかもしれませんから……幸い、彼らが入り口にはバリケードを作っているので侵入はしづらいと思います」

 

 嫌な記憶しかないこの場での待機には異を唱えるものもいたが、囚われている間のストレスや十分な食事を与えられていなかった憔悴、そして何よりも命の恩人であるヴァジュラの言葉を無下にはできないとなんとか殆どの乗客が待機することへの理解してくれた。

 

「ありがとうございます……僕はこのことを操舵室に知らせに───」

 

 その時、ズンッと大きな音と共に船が上下に激しく揺れた。

 安堵もつかの間、突然の出来事に乗客たちは悲鳴をあげ、パニックになるが「落ち着いてください! とにかくここで待っていて!」とヴァジュラの必死の訴えもあり、二次被害こそ無かったものの先ほどとは別のざわつきに満ちていた。

 

「僕は何があったのかを確かめてきます! 絶対にここを動かないで!」

 

 落ちてきた穴へと跳躍し、当初はグレムリン対策に塞ぐ予定であったがその時間も惜しいと部屋の外へ駆け出す。

 同時にホエールリキッドを起動し、装填した。

 

《ホエール!》

Loading Color(ローディング・カラー)! HYBRID(ハイブリッド)!》

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)! 交わる双つの色彩! ハイブリッドカラー!》

「どこで何があった……これは!?」

 

 フィジカルカラーをホエールに戻し、再びエコーロケーションで周囲を探知する。

 そして発見した異常は甲板、そこにいたのは大きな四足の獣に似た”影”。

 ヴァジュラは発見すると同時に甲板へ向けて走り出す。

 

「どこかに隠れていた……? いや、この大きさは見逃すはずない……それなら海から……?」

 

 この船に乗り込んだとき海へと落としたイエティ・ギガが戻ってきたことも考えた、しかし、イエティは泳ぎが得意であるとは考えづらく、その上、概算でしか無いがこの影はイエティよりも大きい。

 情報になかった新手、それも大きさからすると上級戯我の可能性も捨てきれない、存在の登場に応孥自身も困惑を隠せない。

 

「くそっ、どうする? ……いや、考えるだけ無駄か。こうして走ってるのが”答え”だ」

 

 考えは纏まらない、しかし、身体は甲板へと向けて歩みを止めることはなかった。

 あるいは彼の思考より優先される何かによって無意識に動いていた。

 大きな影以外にグレムリンと思しき小さな影もまだいくつか船内に残っていた、だが、幸いなことに操舵室からもレストランからも遠くにおり、動かないことからこちらに怖気づいて隠れているであろうことが窺える。

 

「グレムリンはとりあえず無視していい。それなら、優先はこっち……まだ見つかってないみたいだけど放置すれば操舵室が危ない……なら、危険でも”こうするしかない”」

 

 思考を無理矢理納得させ、無意識に、自身の信念、あるいは”約束”に従わせる。

 間もなく、甲板へと出る扉を発見し、勢いよく蹴破った。

 

「こいつは……!」

 

 甲板には2,3mはあろうかという巨大な人馬(ケンタウロス)によく似た戯我。しかし、胴体にある赤い一ツ目と大きな口が、胴の横から生えるヒレが異様に長い腕が、そしてくすんだ白い筋肉がむき出しの肌にドクン、ドクンと浮かび上がる血管が伝承に伝わるケンタウロスとは大きく違うことを物語っていた。

 

「なんだこの戯我は……ケンタウロス、いや……水棲ならケルピー……とも違う……!」

「────ッ!? KYooooooooooッ!!」

「考えてる暇はくれないかっ!」

 

 異形な姿に驚くヴァジュラをギョロリと人の頭部の目と巨大な一ツ目が捉えると大きく見開き、巨大な口から叫びを上げてヴァジュラへと殺到する。

 それに対し、ガトリングの掃射で勢いを殺そうとするも肉の鎧に阻まれているのか物ともせず、長大な腕を振り上げる。

 馬体による突撃(チャージ)と膂力に任せた一振りを横っ飛びに紙一重でかわせば、先程までヴァジュラがいた甲板は大きな音をたてて陥没した。もしも、直撃すればただでは済まないだろう。

 

「くっ! これならどうだ!」

 

 腕力、そして突進力は凄まじいが決して”動き”が速いわけではなく、次の攻撃のために避けたヴァジュラの方へと緩慢な動きで向き直る。

 そのスキを見逃すことはせず、GDモードのAウェポンからSトリガーを素早くDモードへと変形、ドリルでもって分厚い肉体を抉ろうと試みる。

 しかし、その駆動音が響くことはなかった。

 

「なっ!?」

 

 突き出されたドリルを戯我が握り、締め上げる。

 握る際に多少は手のひらを傷つけ、血肉が色として飛び散るが自慢の腕力でもってドリルの回転を完全に止めてしまったのだ。

 

「馬鹿力だ……なッ! 悪いけどこのまま力勝負をするつもりはないよ!」

「KUoooo!?」

 

 握られていたのが先端部であったため、ドリルを分割し片手のみのガントレットへと変え、赤い一ツ目を殴りつける。

 武器が2つに割れることが想定外だったのか反応できなかった戯我は痛みに怯み、たたらを踏む。

 痛みから手放したガントレットの片割れを素早く回収するとヴァジュラは船縁の方へと跳び、肩で息をしながら再び距離をとる。

 

「(確かに強い……けど、戦えないほどじゃない。となるとおそらくは中級戯我……それでも油断はできない強さ、一体あいつはなんだ……クソ、処理する情報が多すぎて集中できない……! 何か、思い当たるところはあるんだけど……!)」

 

 焦って攻めることはせず、戯我の正体を考察する。伝承に残る存在である戯我は時にその弱点も周知されているため、何と戦っているかを明かすことは重要なことだ。

 もし、戦闘中でなく、熟考できる時間がアレばすぐにでも正体に思い行ったかもしれない。

 だが、状況に加えて伏兵や周囲への被害を警戒し使い続けているエコーロケーションも相まって思考を1つに絞ることを許されなかった。

 更に戯我もいつまでも待っていてはくれない。

 痛みから立ち直ると怒りを込めた咆哮を上げ、再びこちらへと突進を仕掛けてきた。

 

「くっ、ならマグマで……」

《マグマ!》

「GERooooooooooooooo!!」

「ぐぅっ!?」

 

 再びの力任せの攻撃であろうと思い、マグマリキッドを起動する。

 だが、戯我は大きな口から紫色の煙をヴァジュラへ向けて吐き出す。

 予想外の行動に今度は避けられず、ヴァジュラが煙に包まれれば装甲がジュウジュウと音をたてる。

 

「これは毒か……くっ!」

 

 毒のブレスはダメージこそ受けるが即座に装甲が溶け落ちるほどではなくい、だがヴァジュラの視界を封じ、動きを止めるには充分だった。

 

「っ、やばっ……」

「KYOKYOoooooooooo!」 

「がぁっ!?」

 

 エコーロケーションにより、接近は察知できていた。だが、ヴァジュラが動き出すよりも先に掬い上げるように斜め下から打ち据える戯我の剛腕がヴァジュラを吹き飛ばした。

 そのまま、宙を舞い、船外に弾かれて海へと落下する。

 

「(ぐ、まずい……船に戻らないと……!)」

 

 受け身も取れずに叩きつけられた海面を抜け、海中へと落とされるヴァジュラ、気こそ失わなかったがエコーロケーションが切れたことで船上の様子を確認もできなくなる。

 立て直すことさえできればホエールのリキッドのエコーロケーションと海中行動への適性により、空間認識と視界の確保は可能であるが悠長にしていれば波に飲まれて海の深さと暗さ、そして海藻などの漂流物に惑わされ船へ戻れなくなってしまう。

 それだけでなく、あの戯我がグレムリンたちの仲間ならば邪魔者を排除した今、乗客たちを襲う可能性もある。

 ダメージを押して体勢を整え、海面へ向かおうとしたその時。

 

「KUUUooooooo!!」

「追ってきただって!? まずい……!」

 

 海面を泡立たせ戯我が海中へと飛び込んでくる。

 慣れない海中で動きもまだぎこちないヴァジュラと違い、四脚の足とヒレを揺らめかせ、戯我はヴァジュラへ向けて拳を振り上げて水中を駆ける。

 

「GYOoooooo!!」

「がはぁっ!?」

 

 受け流そうと対処に動くヴァジュラだったが受けたダメージによって戯我の接近に間に合わず、戯我の拳がミシリ、と音をたててヴァジュラへと突き刺さる。

 海面へと手を伸ばすヴァジュラ。しかし、その手はそれを掴むことなく、暗い夜の海へとその姿は消えてゆく。

 やがて、海底へ向かうことをなぞるようにその意識も暗く深いところへと落ちていくのだった。




付録ノ三[ホエール]
モビー・ディックなどの世界中に残るクジラの怪物の力を宿すモンストリキッド。
日本を含め、巨大で恐ろしいものとして描かれる一方で神聖視される場合もあるなど世界中で伝承が残っている。
なお、ギリシャ神話のケートスをモデルとしているくじら座であるが元々の意味はクジラよりも海の怪物の方が近い。


お久しぶりです。
第四頁のご読了ありがとうございます!
長らくおまたせして申し訳ありませんでした。

ご意見、ご感想など頂けますと作者は狂喜乱舞して踊り狂います。なんなら、読んで頂いてるだけで泣いて喜んでます。
展開に詰まったり、他事に現を抜かして更新が滞っていましたが今後はもっと頻度を上げて更新できるよう努力していきますので応援していただけると感激です。

また、5話は数日中に更新を行いますので更新された際にはお読みいただけると嬉しいです。
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