仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ   作:teru@T

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「───ど。おき───うど───」

 ぼんやりとした意識の中、応孥の耳に馴染み深い声がおぼろげに聞こえてくる。

「(なんだ……? 誰か呼んで……)」
「お─ろー──。おーい、おうどー! そろそろ起きろー! ていっ!」

 バシン、と覚醒しかけていた意識がかけられた声とともに背中にヒットした平手打ちによって急速に目覚める。
 痛みとともに目を覚ませば、本を広げて机に突っ伏していた彼の視界に桜色(薄ピンク)の髪の女性がニンマリといたずらな笑みを浮かべてこちらを眺めている様子が映り込む。



第五頁[蒼きクジラは夜に啼く]

 

 

 

「おはよ、応孥。図書館で仮眠なんて贅沢だねぇ」

「た、たしかに寝てた僕も悪いけどそれにしても叩かなくてもいいじゃん……桜子(さくらこ)

「優しく声かけてあげたのに起きなかった応孥が悪いの!」

 

 痛みから背中を擦る応孥にからかうようにわざとらしく口を尖らせ怒ってみせた女性、桜子・コルシーニ。

 紅芭の妹であり、彼女とよく似た切れ長の瞳と高めの身長、そして決して子供っぽくなく、どちらかといえば整ったプロポーションに見合った、ビジネススーツを着こなしているのだが、雰囲気や仕草から無邪気な子供っぽさを感じさせる女性。

 彼女が応孥の読んでいたであろう、突っ伏した彼に潰されていた本を手に取る。

 

「なるほどープリニウス博物誌を読んで戯我のお勉強してたけど難しいから寝ちゃったのかな?」

「そういうわけじゃ……ほら、ここ最近、徹夜続きで忙しくて寝れてないから……」

「それならここじゃなくてちゃんと仮眠室に行かなきゃだめでしょー! もう!」

「いやぁ、読み始める前は寝無さ過ぎて今なら一睡もしなくてもいいんじゃ?って思ったん……イタッ!?」

 

 全てを言い切る前に「余計に寝なきゃ駄目じゃんそれ!」と再び背中を叩かれ、再び机に突っ伏す。

 

「そりゃあね。封魔霊装を手にれたばかりなわけだから張り切るのはわかるわよ? それでもそんな状態じゃ私一人だって守れないんだよ? 分かってる?」

「貫徹テンションは怖いね……本当に愚かなことをしたと思ってます……」

「分かればよろしい。いい加減、開発部の方から離れたら? 戯我の調伏と並行してるんでしょ?」

「前ほど顔は出してないよ。今は新武装開発中だからそれができたら霊装使いに専念するつもり……というか、そうしろって紅芭さんが」

「あぁー。姉さんも応孥が働きすぎって言ってたのはこういうことか……」

 

 納得と言った様子の桜子。ふっと応孥が彼女の手元を見れば応孥が読んでいた本とは別にもう一冊の本が置かれていた。

 こちらも図書館(LOT)の蔵書物である、いくつかの民話を集めた民話集であった。

 

「桜子も何か調べ物を?」

「あ、これ? 応孥が全然起きなくて暇だったからね読んでたの。目的は貴方と一緒、特徴を知ってれば戯我の弱点がわかるかもしれないでしょ? それを知ってれば応孥が戦うとき助言とかもしやすいじゃない? だから代わりに勉強しておいてあげたの!」

「あぁ、なるほど……ありがとう」

 

 いたずらに微笑む彼女だが、自らのためのことであると明かされた応孥は素直な様で笑みを浮かべて礼を述べる。

 からかったつもりであった桜子にとってそのような純粋な返しをされれば彼女自身が恥ずかしくなり、頬を染め、話題を逸らすべく件の本を慌てて手にした。

 

「そ、そそそれでね!? 読んでたら面白い妖精がいたのよ! そう、そう! 妖精なのに全然可愛くないの!」

「そりゃあ、一言で妖精って言っても色々いるからね……どんななの?」

「えぇっと……あ、いたいた。ほらこれ、海の妖精なのにケンタウロスみたいでムキムキなの! それにね、毒を出したり、後……毒を出したりするし!」

「なんで2回も毒を出すの……でも聞いてる限りだと実際に遭遇すると強そうだね……」

 

 ペラペラとページを捲り、目的のページを見つけるとそれを開いて応孥に身を寄せる。

 物語とともに記載された僅かな挿絵には抽象的ながらも桜子の示す見た目的な特徴を捉えた妖精の姿が描かれている。

 

「確かに手強そうだけどちゃんと弱点もあるのよ! えっと、それで名前は───」

 

 

 

 ────桜子の言葉が、横顔がコマ送りのように薄れていく。

 ───周囲の景色が陽炎のように朧気に崩れてゆく。

 ──眩ゆく優しい光が周囲にみちあふれてゆく。

 ─光の中を急速に天へと引き上げられる。

 そして、応孥は微睡みより帰還する。

 

 

******

 

 

「(───ッ!? 夢……いや、下手すると走馬灯か……)」

 

 ビクリッと身体を震わせ、応孥が目覚めたそこは海中。戯我の一撃で意識を刈り取られていたのだ。

 幸運なことに変身解除こそされていなかった、もしも解除されていれば目覚めることなく海の藻屑かあるいはヴァジュラを鷲掴み、海中へと駆ける目の前の戯我の餌食となっていただろう。

 戯我はヴァジュラの目覚めに気づいているのかギョロリと一ツ目を向け、腕に込める力を強める。握り潰すためではなく、逃さないために。

 

「(最初から狙いは僕だったわけか……殺気は本物だったことを考えるとどこかへ連れ去るためじゃくて海底で苦しめて殺すことが目的ってところか)」

 

 封魔霊装のおかげで極地での活動は可能だがそれも限界がある、このまま無策で連れ去られれば霊装の限界、もしくは変身の限界が来て応孥に迫る死は避けようがない。

 だが、応孥に焦りはなく今の自身の置かれた状況を冷静に分析する。

 まず、Aウェポンはどちらも腕についたまま、だが右腕は胴体ごと握り締められ、かろうじてドライバーのトリガーを弾くことはできるだろうか、という程度しか動かない。だが、左腕は自由に動く、もっとも、下手な攻撃をしようとしたところで戯我に邪魔をされるか先制されるのが関の山だろう。

 

「(あぁ、でも……桜子のおかげで突破口は見えている。戯我の正体(・・・・・)がわかっているし、何より、運も良いみたいだ)」

 

 グッと身を捩り、海面へ向けて手を伸ばす。(あたか)も苦し紛れに手を伸ばすように目の前に揺らめく、逆転の切り札(・・・・・・・)を掴み取る。

 そして、身を捩り動かしたとき、封じられた右腕も手探りでドライバーのトリガーへと指をかけ、弾いた。

 リキッドの起動、もしくは必殺技の発動モーションと合わせることではじめて意味を持つ行為であり、単体では意味のない行いだ。

 しかし、応孥の意志に応えるかのごとく、ドライバーは起動する。

 

Calling(コーリング)!》

「!?!?」

 

 気を失っていたため、どれほど前の出来事かは定かではない、だが、応孥は忘れていなかった。

 船上にてブレスによって妨害をされたがマグマリキッドを起動状態にしていたことを。

 ドライバーの操作を封じたと思っていた戯我は驚愕し、ヴァジュラへとトドメをさすため、腕に力を込める。

 だが、それより早くヴァジュラの肉体が赤褐色に輝くマグマに包まれ、周囲の海水は途端に沸騰、握り締めた腕はマグマ、周囲の水は熱湯となり戯我を焼く。

 

「!? KUUUUUUUUUUU!?」

「(マグマを握りしめるついでだ。これでも嗅いで(・・・)おきなよ!)」

 

 熱に苦しみながら離そうとしない戯我の眼前に左腕を差し出す。

 そこに握られていたのは海面を漂い、海中に潜る戯我に偶然引っ掛かっていたなんの変哲もない海藻(・・)

 マグマの熱にさらされ、海中だというのにカラカラに乾き、焼かれただけのそれを差し出す行為は一見、無意味に見える。

 だが、その効果はすぐにでも現れた。

 

「!?!? GIYAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 熱に焼かれても離さなかったその手を大きく振りまわし、ヴァジュラを投げ飛ばす。

 そして周囲の水を払うかのように苦しみながら手を大きく動かし、少しでも匂いを遠ざけようと血相を変えて距離をとる。

 解放されたヴァジュラはその様子を確認すると即座に体勢を立て直し、今度こそ海面へ向けて浮上を開始する。

 

「(やっぱり……あいつの正体は”ナックラヴィー”だったか)」

 

 ナックラヴィー、スコットランド民話に記された不作の病や干ばつをもたらすとされている水妖(フーア)の一種である。

 そして明確な弱点を持っており、それは真水をかけられること、そして焼けた海藻の匂いが苦手であること。

 何気のない時間だったため、朧気であった記憶が死を直面したことで想起された今はできない想い人と過ごした一時に答えがあったのだ。

 

「(でもまだ終わりじゃない……嫌いな匂いを嗅がされたんだ。苦しみはするけど当然……)」

 

 ナックラヴィーは焼けた海藻の匂いは苦手である、だが、それを嗅がされると怒り狂うとされている。

 それを証明するかのごとく、ヴァジュラの背後から猛スピードで水中を駆けるナックラヴィー・ギガが怒りを露わに巨大な牙をむき出しにして迫っていた。

 

「(追ってくるか! なら、マグマよりもこっちの方が水の中なら戦いやすいかな……!)」

 

 ドライバーからマグマリキッドを抜き取り、代わりに取り出したのはオーシャンリキッド。

 海面に出る前より早く、追いつかれると判断してホエール同様、水に関わりの深いリキッドを選択した。

 天が応孥に味方したのか、彼の幸運は続く。

 

《オーシャン!》

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

「(これは……わざと言わなかったなアル……! でも、今はありがたい!)」

 

 リキッドを起動し、装填時に相性が良いことを知らせるグラデーションの音声が流れる。

 アルジェントのことをよく知る応孥は彼がこのことを把握していないとは考えず、恐らくは直前に紅芭と仲違いしたままここに来たことに対する彼なりの当て付けだろう。

 もっとも、”言わなくても応孥なら気づく”という信頼のもとに成り立った仕返しではあるのだろう。

 

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 水中で停止し、迫るナックラヴィーへと向き直るヴァジュラの姿が五芒星から溢れるインクによって変化する。

 彩るは濃淡別れる2色の青(ウルトラマリンブルーとホリゾンブルー)

 

揺蕩(たゆた)う大海原の支配者! オーシャンホエール!》

《ホエエエエエエエン!》

 

 鯨を模した頭部、肩から伸びる本物の波のように波打った装甲、脚部にそえたヒレを模したブレード状の装飾、そして関節や足下に丸く備わった噴出孔。

 水中服にも大袖を備えた甲冑のようにも見えるマグマサラメーヤを超える重装甲の戦士へと姿を変えた。

 

「!? GYUOOOOO!」

「さぁ、真正面からやろうか!」

 

 姿が変わったヴァジュラに驚くナックラヴィーであったが怒りがそれを上回ったのか気にも留めずに突撃を敢行する。

 それに相対するヴァジュラも水中で構えを取る。

 通常、水中でぶつかりあえば勢いの乗ったナックラヴィーがヴァジュラのことを押し込む結果となる。

 だが、両者の激突はそうとはならず、激突したその場で拮抗する事となった。

 

「!?」

「悪いね、パワータイプなんだ……よ!」

 

 振り下ろされた剛腕を腕をクロスして受け止める、ナックラヴィーは力を込めてそのまま海底へと向けて沈めようとするが身体どころか腕が下がることすらない。

 リキッドを変えたことで強化された膂力によって抵抗しているが、それだけでは水中で姿勢制御をできている理由付けにはならない。

 その答えは体の各部に備えた噴出孔、そこから鯨の潮吹きのように水を噴出し、推進力へと変えているのだ。

 

「反撃もさせてもらうよ……!」

 

 拮抗してい押し合いを肘からの噴射で無理矢理中断、流れるようにガントレットを打ち合わせ、ドリルへと変形させると空いた右手でリキッドを起動、トリガーを弾く。

 

《ホエール!》

「神器解放!」

Calling(コーリング)!》

 

 リキッドの力を解放すれば右足に鮮やかな青のエネルギーが収束し巨大な鯨の尾びれの形をとる。

 

「GUUUUUUUU!」

「これで、海面まで飛んでけ……!」

 

 再びこちらへ拳を振り下ろすナックラヴィーを噴射を利用した軌道とドリルでさばき、サマーソルトキックの要領で大型のヒレとなった足を振る。

 先程の一合で力が拮抗していたナックラヴィーは腕を前に出し、ヒレを受け止めようと構える。

 だが、ホエールの能力で強化され、質量を得たヒレ、そこに脚部の噴射による速度と威力が追加された一撃はナックラヴィーのガードなど意に介さずその身体を打ち上げた。

 

「GIIGUUUU!?」

「まだまだ……!」

 

 吹き飛ばされたナックラヴィーを追い、ヴァジュラはヒレと噴射によって高速で移動する。

 痛みに悶絶していたナックラヴィーだがその接近を察知すると迫るヴァジュラに向けて毒のブレスを浴びせかけたが。

 

《オーシャン!》

「そう何度もくらわないよ! 神器解放!」

Calling(コーリング)!」

 

 素早くリキッドを切り替え、肩の大袖から水を発生させる。

 水中ではそれが新たな水流を生み出し、正面から迫るブレスを巻き込み、ナックラヴィーを更に上へと押し流す。

 当然、水流とともに押し戻された毒はナックラヴィーを包み込み、己の毒で己自身を傷つける結果となった。

 

「GIYAAAAAAAAAAAAAA!!!」

「おまけ!」

「GAGYA!?」

 

 毒に身体を溶かされ、悶えるナックラヴィーにダメ押しのように噴射で後押しされたドリルを叩き込む。

 身体をエグり、更に押し上げ、勢い良く海面から空中へと投げ飛ばした。

 

「(? ……あれは)」

 

 その際、普段はならば見えないナックラヴィーのヒレの裏側に何か紋様が刻まれていることを発見する。

 それは道化師の靴を象ったとある神の眷属であることを示す証。

 

「(あれは確か……いや、考察は後回し)」

Docking(ドッキング)! GD(ガトリングドライブ)モード!》

 

 思考はしながらもAウェポンにSトリガーを接続しガトリングへと変形、起動したルフリキッドをAウェポンにリードする。

 

《ルフ! Charging Color(チャージング・カラー)!》

 

 音声とともに武器のエネルギーラインがスチールグレーに発光し、クラッシャーと装甲が展開、排熱によって周囲の海水を沸騰させ、泡立たせる。

 

Last Calling(ラスト・コーリング)! モノカラー・クロマティックサイクロン!》

 

 必殺技が起動するとガトリングが高速で回転、3門の砲身の先がスチールグレーの輝きをチャージを始める。

 ヴァジュラが引き金を引けば、蓄えられたエネルギーが鳥の形にとなり、海面のナックラヴィーに向けて乱射される。

 

「GURUUUUUUU!?」

 

 手で払いのけようにもその手を避け、連続で被弾するエネルギー弾にナックラヴィーは悲鳴を上げ、宙に放られた身にダメージを蓄積しながら更に高く押し上げる。

 

「これで……トドメだ!」

 

 噴射を利用し、数刻ぶりに海面へと脱出したヴァジュラは合計で4本、マグマ、エレクトリック、オーシャン、ホエールのリキッドを構える。

 そのうち、マグマ、エレクトリック、オーシャンはAウェポンにリード、そして残るホエールはSトリガー側のリーダーへとリードする。

 

《マグマ! エレクトリック! オーシャン! Charging Color(チャージング・カラー)!》

《ホエール! Supplement Color(サプリメント・カラー)!》

 

 水の噴射で空中に自身を固定し、空高くへと押し上げたナックラヴィーに狙いを定めるヴァジュラ。その装甲とクラッシャーが展開、唸りを上げてダクトが排熱を行う。

 

Accent Support(アクセント・サポート)! Last Calling(ラスト・コーリング)! トライカラー・クロマティックテンペスト!》

 

 唸りを上げて回転するガトリングの砲身、その先端が赤、青、緑の三色に発光し、螺旋を描き、その周囲を淡い青の光が包み込む。

 

「奥の手だ……! 吹き飛べ……!」

 

 幾重にも螺旋が折り重なり、巨大な光となった時、ヴァジュラが引き金を引く。

 巨大な光は一筋の光条となり、暗い夜空を切り裂いて天へと飛ばされたナックラヴィーを飲み込んだ。

 

「GIGUGAAAAAA!!!」

 

 熱量を持った光に飲まれたナックラヴィーは断末魔の叫びを上げ、その肉体は痕跡も残さずに蒸発、消滅させた。

 

 

******

 

 

「……勝てた」

 

 静寂を取り戻した暗い海、響く音は陸へと向け距離を離していくデイブレイク号の音のみ。

 水の噴射をやめて先程まで沈んでいた海に身を浮かべ脱力するヴァジュラ。

 ヘリからの急降下から今までほとんど休みなく戦い続け、最後のナックラヴィー戦は慣れない水中の上に辛勝であった。

 ダメージと疲労が蓄積し、力もほぼ全て出し切っている。

 

「……いや、気を抜くのはまだ早い……船に戻らないと」

 

 それでも、まだ守らなければならないと、自らを奮起させて陸へと向けて進む船へと向かう。

 それに並行して偶発的に切れてからここまでオフにしていたエコーロケーションを再度起動し、船内の様子を探る。

 反響によればグレムリンが再度集結してる様子も乗客が移動している様子も無い、そしてグラデーションカラーにより探知範囲が広がったことでそれ以外のあるモノを探知する。

 

「これは……船? 陸の方から数台……」

 

 探知したその直後、デイブレイク号の正面から幾筋かの証明の光がこちらにも届く。

 敵であった場合を考えてホエールとオーシャン、両方の能力を駆使して船を追い越し、接近する船へと近づく。

 しかして、その考えは杞憂に終わる。

 

「ヴァジュラ! 無事かい!?」

「アル……そうか、間に合ったんだね」

 

 煌々とこちらの存在をアピールするように証明を輝かせた甲板にいたのはここまでのお膳立てをしてくれたアルジェントと封魔司書たちだった。

 それを確認するとホッと一息つき、アルジェントのいる船へと上がる。

 

「船はどうなったんだい!?」

「まだ残党は残ってるけどほぼ殲滅したよ。乗客は操舵室とレストランの2箇所に大勢いる。他の場所は分からないけど……基本はそこにしか生存者はいないと思う」

「了解だ……後は任せてくれ」

 

 柔和な笑みを浮かべ、応孥を労うとアルジェントはすぐに部下たちに指示を飛ばしに動き出す。

 彼が動き始めたことで自身の役割は終わったと長く続けていた変身を解除、緊張の糸が切れたからか疲労と痛みがその身を襲い、肩で息をしながらその場に膝をついた。

 だが、タイミング悪く、ほぼ同タイミングで応孥の帰還の報せを聞いた紅芭が甲板に出てきていた。

 

「応孥!」

「……紅芭、さん」

 

 応孥に駆け寄り、覆いかぶさるように抱きつく。

 霊装に包まれていたとは言え長時間、海中にいて冷え切っていた応孥は抵抗することなく、震える紅芭を受け入れる。

 

「……これだけボロボロな応孥見るのは久しぶり」

「……無茶をし過ぎました。すみません」

「本当よ。でも、ちゃんと約束守ってくれた……おかえりなさい……もう帰ってこないんじゃないかって思って怖かった」

「あなたを残して何処にも行きませんよ……ただいまです」

 

 紅芭の熱が応孥に伝わり、温める。

 周囲は船への乗り入れに向けて慌ただしく、人の声が飛び交うが2人の耳には届かず、お互いの息遣いのみが響き合う静かな時間が流れていた。

 

「……甲板のど真ん中でイチャつかないで貰えますか?」

 

 その時間を切り裂いたのは呆れた様に2人を見下ろすカナリーだった。

 

「そういうことは医務室のベッドででもしてください、クレハ。邪魔です」

「あ、えっと別に深い意味は……」

「それとオード・シノハラ。合流したのならまず私にルフリキッドを返すべきでしょう。違いますか?」

「あ、いえ……どうぞ」

「よろしい」

 

 淡々と浴びせかけられる言葉に2人が呆気に取られる中、催促するように手を伸ばす。

 応孥がホルダーからリキッドを取り出せば、奪い取る様に受け取り、自身のホルダーへと収納する。

 

「それでは、私は支部長の所に行くので2人はしっかり休むように。支部長ー! 突入の準備、整いました! 支部長は私がお運びしますからご安心ください!」

 

 カナリーはくるりと2人に背を向け、楽しげに声でアルジェントに向けて駆け出していった。

 その彼女の様子を呆然と見送った応孥と紅芭はお互いに顔を見合わせた後、微笑み合う。

 

「立てそう? 応孥」

「なんとか……休んどけと言われたので少し休みましょうか……なにか食べるものあるかな。よく考えたら夕飯食べてなかったので」

「用意してあるから、応急処置終わったら一緒に食べましょ?」

「紅芭さんも食べてなかったんですか……ありがとうございます」

 

 応孥をどこにも行かせない、という想いから無意識に掴む手に力を込める紅芭。

 痛みを感じ、恐らく赤く変色しているだろうが自身の落ち度であると飲み込み受け止める応孥。

 それらの気を紛らわすために2人は会話を途切れさせることなく、戦いの場から離れていった。

 

 

******

 

 

 デイブレイク号に封魔司書、そして事情を知るレスキュー隊が突入するところまで確認した男はヴァジュラの戦いからずっと使っていた遠見の魔術を解除する。

 

「人間ごときが私の生み出した戯我を倒すとは……全く、生意気だ!」

 

 バシャリと自身が立つ海面を不機嫌に踏みつける。

 

「ふん、まぁいい。アイツの戦法は大方見られた。それで収穫としてやるか」

 

 元より、そちらが主目的であったのだがそれでも神としてのプライドか、自身の生み出した戯我が敗北したことに納得はしなかった。

 そんな不機嫌なロキの背後に1台のクルーザーと三ツ首の竜の戯我が現れる。

 

「迎えにきましたわ。お父様」

『待たせたわね、パパ』

 

 甲板に出てきたビジネススーツを纏う眼鏡の女性、そして竜の戯我からも女性の声でロキへと語りかける。

 

「なぁに、今丁度終わったところだ。それよりもその姿で長くいるんじゃない、LOTの奴らに見つかると面倒だ」

『りょーかい』

 

 竜の戯我が船へ近づくとその姿は変異し、赤を貴重にしたゴスロリ衣装を身に纏った少女が船へと降り立った。

 ロキも降ろされた縄梯子を登り船へ上がる。

 

「お疲れ様です。お父様」

「結局無駄足だったがな……サンゴは?」

「寝てるよーアイツはまだちっちゃいからパパから連絡来たときには寝ちゃってんだよ。私がいれば起こさなくてもいいだろ?」

「そうか、悪かったな。それでペムベ、あの戯我たちを先導したのが誰かはわかったか?」

「いえ……ですが、組織的な動きでも無いかと」

「そうか……」

 

 ペムベ、と呼ばれたスーツの女性の言葉に男は顎に手を当て、考え込む。

 

「てっきり、”ロゴスシーカー”辺りの主導かと思ったが……そうじゃないのなら都合が良い」

「えー? 別にいいじゃん。邪魔するなら私がぶっ飛ばすよ!」

「下部組織の雑魚程度ならロサード、お前でも蹴散らせる。だが、幹部連中が出張ってくると少し分が悪い。そこは弁えておけ」

「はぁい……」

 

 不服そうに返事をした後、ロサードと呼ばれる少女は口を大きく開き欠伸をする。

 

「はしたないですよ、ロサード」

「私だってサンゴと一緒で育ち盛りなんですー! 良い子は寝る時間でしょう?」

「ハッ! 我が娘が良い子とはよく言えたものだ! まぁいい。船を出せ、アジトに戻るぞ」

 

 男がクルーザーの扉を開き、船内へと入るとペムベとロサードもそれに続き、ペムベが操舵席につく。

 

「ねぇ、パパー。いい加減、私も仮面ライダーと遊びたいなぁ」

「ロサード……あなたね……」

「いや、何処の誰かは分からんが競合相手がいるのならアピールしておくのも一興だろう」

「ほんと!?」

「あぁ、だがもう少し待て。憂いは払っておきたいからな」

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべる男にぱぁっと顔を明るくしてロサードは抱きつく。

 

「せっかくのお披露目だからな……この私、ロキとその娘たちの宣戦布告だ、盛大に盛り上げようじゃないか!」

 

 ロキ───北欧神話に伝わるトリックスター、道化師の神。

 この地に所縁(ゆかり)無き神が、そして姿なき計略者がミシアと応孥(ヴァジュラ)に試練をもたらす時はまもなく───




付録ノ四[S(サプリメント)トリガー]

応孥本人がヴァジュラのAウェポンと組み合わせるために開発したサポートアイテム。
一発ごとの威力は決して高くないが下級戯我ならば種類によっては一撃で撃破が可能。
モンストリキッドをリードすることで僅かながらそのリキッドの特性を引き継ぎ、弾丸の特性を変化させることができる。
また、AウェポンGDに接続することで強力なGDモードへと換装ができる。
GDモードで必殺技使用時、Sトリガー側にモンストリキッドをリードすることにより本来は散らばる銃撃を一点に集中したレーザーとして放つこともできる。



第五頁ご読了ありがとうございます!
第二頁から続いた一連の話は一旦区切りとなります。二~五頁を最初前後編で予定してた作者がいるらしいです、倍に伸びてますね。反省です。

この先も執筆を頑張っていきますのでご意見、ご感想など頂けますと励みになります!
今後もよろしくお願いします!
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