仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ 作:teru@T
「ここがミシアかぁ。田舎って感じの場所~」
「……」
昼休憩も終わりに差し掛かり、ミシアの各商店も営業再開のために忙しなく動き回っていた。
それを黒を基調に赤のラインの入ったゴスロリ衣装に身を包み、ウェーブのかかった銀色のミディアムロングの高校生くらいの少女───ロサードと彼女とお揃いのデザインで青のラインの入った衣装、年の頃は小学生くらいで黒のショートヘアの少女が物珍しそうに眺めていた。
「夜まで暇だから散歩に来てみたけど……うーん。サンゴ、見たいとこある?」
「……本、読みたい」
「本ね、OK……でも、ここ図書館無いのよねぇ……」
ロサードが周囲を見てみても飲食関連の店が並び、それらしき店は見当たらない。
チラリと、サンゴと呼んだ少女を見ると日本人形の様に読みにくい表情をしているがどこか残念そうであった。
「は~……探しに行こっか」
「……ありがとう」
「いよいよ、どうせ本番は夜だしね~。あぁー……でもどうしよ。イタリア語、喋るのは教えられたけど読めないんだよね、あたし……」
「あっ……私も……」
逸れないよう手を繋ぎ、商店の間を抜ける少女たち。
ふっ、と見上げた看板に書かれた異国の文字に頭を抱えるが時間を潰すことが目的であるため、問題を棚に上げてそのまま街の中を巡り歩くのだった。
応孥たちが拠点とする古書店『Fiori di ciliegio』、居住スペース兼作業スペースである2階の作業部屋では家主である応孥、紅芭ではなくカタンツァーロ支部の支部長秘書、カナリー・ゴールドポンドが占拠していた。
昼食を手短に済ませ、持ち込んだノートPCを介して支部長、アルジェント・コルシーニと通話中であった。
『とりあえず、提示報告はこれくらいかな……そっちの様子はどうかな? カナリーくん』
「相変わらずですね。忙しくもなくかと言って戯我が全く出ないわけでもなく、オード・シノハラ曰く、事件前後で出現の変化もないようです」
『そうかい……。てっきり、すぐにでも次のアクションがあるかと思ったから、君も定期的にそっちにいて貰ったんだけど……無駄足踏ませて悪かったね』
「とんでもありません! えぇ、支部長の命令であれば地球の裏側であろうと宇宙の果てであろうとも向かって貴方のもとに戻りますから!」
『はっはっは、そんな遠くに君を送ることはないから心配しないでいいよ』
冗談めかしく告げるアルジェントであったが「自身の近くにいてほしい」と曲解したカナリーはぱぁっと顔を明るくする。
「当然です、支部長! えぇ、今すぐにでも帰りますから少し待っていてくださいね!!」
『えっ、いやそれは待ってほしいかなぁ』
「そんなこと仰っしゃらず! というよりもう2日もこちらにいるのでそろそろアルジェント支部長成分が切れそうで……」
『……アル、そういうことは仕事中に言わないの』
「……いたんですか。クレハ」
ヒートアップしていたカナリーであったが画面の向こうに紅芭が映り込むとスンと途端、冷めた声に戻る。
2人は従兄妹同士であるため、恋敵というわけではない。それでもやはり、自分以外の女がアルジェントの近くにいるのは面白くないのだ。
『ごめんなさい。2人の時間を邪魔しちゃって……今晩には戻るから、もう少しお願い』
「分かっていますからご安心を……話は戻しますけどロキ神の介入があった割にはその後は何もないのはそれはそれで不気味ですね」
『そうなんだよね……オードの見間違いの線のあるけど、どちらにしろあの事件は不可解な点も多い』
二ヶ月前のグレムリン達によるデイブレイク号の占拠は応孥とカタンツァーロ支部の手によって収束した。
その際、襲撃してきた戯我の一体であるナックラヴィーに刻まれていた道化師の靴を象った刻印、それは北欧の神、ロキを示すものであった。
そのため、警戒する意味も兼ねてカタンツァーロ支部の人員の一部をミシアに配備し普段は応孥1人で当たっている『オルフェウスの門』の警戒を24時間体制、交代で行っていたのだが、杞憂に終わっていた。
『ロキ神がミシアを狙ってグレムリンたちを利用したと思っていたのだけど』
「それにしては計画が杜撰かと、鹵獲したグレムリンによると事前に遺跡へ行けと言われていたのでしょう? どうしてわざわざ自分からバレるような真似をするんですか?」
『あぁ……そもそもナックラヴィーは元々仲間じゃなかったみたいだし、もしかするとグレムリンを扇動したのは別なのかも』
「……日本で現れたというロゴスシーカー絡みの可能性ですか?」
この二ヶ月、ミシアでは変化は無かったがLOT全体で見るとそうではない。
デイブレイク号事件と同時期に日本にて存在が発覚した『
世界各所で出回る出所不明の遺物の流出、更には『
『裏が見えないことには推測の域はでないけどね……事後処理で手一杯、怪しい組織も動いてる、その上、噂だけど本部の方できな臭い動きもあるんだよね……』
「きな臭い動きですか……?」
『……封魔霊装不要論。全体がそうってわけじゃなくごく一部みたいだけどね』
「なんですか、それ。封魔霊装なしに戯我をどうやって調伏するんですか?」
『ドイツの方で動いてるみたいなんだけど……どうやら、戯我にも有効な無人兵器を開発してるみたいだ』
『無人兵器……』
アルジェントの言葉に2人は息を飲む。
「……ですが、私達自身を否定されてる気がしていい気分はしないですね。その話」
『まぁ、戦ってる身からするとそういう意見が出るよね、やっぱり。……クレハはどう思う?』
『そうね……確かに私達がやってたことを否定されてる気もする……けど、やっぱり無視もできない話だと思う』
突然、話を振られ困惑、カメラ越しに考え込む紅芭だったが、少しずつ己の意見を言語化していく。
『霊装使いの負担が減るのは確かだし……それに
「……あなたがそれを言うの? 意味分かってる?」
『あー。うん、ごめん! この話はここまで! 話を振った私が悪かったよ! うん!」
話を冷え込んできたのを察したか、あるいは”カメラ越しになにか見えた”のかチラリとカナリーの奥を見たアルジェントは強引に話を打ち切る。
『とにかく、だ! 今日の夜迎えに行くからそれまではそっちをよろしくね!』
「えぇ、お任せください、アルジェント支部長! 完ぺきにこなしておきましょう!」
『カナリー。後、応孥にも伝えておいて。”お土産”に期待していてねって』
「……えぇ、不本意ながら承りますよ」
感情を乱高下させ、答えるカナリーにツッコミを入れる様子もなく、通話を終了させるアルジェント。
それを確認するとカナリーはくるり、後ろを振り向く。
そこには部屋の扉を開け、両手に湯気の立つカップを持ち、膝を抱えて項垂れる応孥の姿があった。
「私の分も用意するのは殊勝な心がけですね」
「……通話終わりましたか?」
「終わったからこうしてるんです……冷める前に頂いても?」
スッと声もなく差し出されたカップを受け取り、一口啜る。エスプレッソが主流のイタリアだがカナリーがアメリカ出身であるためか砂糖の入っていない、ドリップコーヒーであった。
「……そんなことで一々落ち込んでてよく彼女と一緒に暮らせますね」
「普段はそういうこと無いんです……ただまぁ、本音は僕に戦ってほしくないのは分かってたつもりなんですけどね……実際、言われると少し」
もしかしたら無意識で出た言葉なのかもしれないが、紅芭の言った遺跡の警備とはまさに応孥の普段の業務そのものであった。
二ヶ月前に意見の相違があって以来、表面上は仲違いしていない応孥と紅芭だったが、改めて浮き彫りになった考えの違いにお互い、戸惑いがあるのかもしれない。
「まぁ、もしもの話です。それに私には関係ありませんしね……このことでアルジェント支部長に気を使わせてる方が私としてはムカつきます」
「それを言われても……まぁ、アルには世話になりっぱなしなのは事実だけど」
「で・す・か・ら! アルジェント支部長とお呼びなさい! 全く、私より知り合うのが早かったから自分のほうが支部長のことをよく知ってますアピールですか? それは」
「いやいや、そんなことする意味ないですって……はぁ」
励ましているのか憤っているのか分からないカナリーの様子にため息を付く応孥。
そのようなことを話していると階下から入店を知らせる鈴の音と「ごめんくださーい!」という少女の声が聞こえてきた。
「ほら、お客ですよ。接客はあなたの仕事なんですから。笑顔で行ってきて!」
「分かってますよ……あ、そうだ。夕方、門に行くとき僕も一緒に行ってもいいですか? 少し試したいことがあるので」
「えぇ、構いませんよ」
約束をかわすとカップを持ったまま階下へと向かう応孥を見送り、カナリーは再びパソコンへと向き直る。
「全く……相変わらず歪な2人……いつまで続けるつもりなんでしょうね」
******
「お待たせしまし……あぁ、マローネちゃん。いらっしゃい」
「遅いわよ、オード! お客さんを待たせるのは駄目!」
階下に降り、店内を覗き込めば栗色の髪の少女がカウンター越しにプリプリ怒っていた。
少女の名はマローネ。
デイブレイク号事件の少し前、戯我に襲われているところを応孥が助けた少女だ。
その後、応孥と紅芭に懐いたのか母と伯母さんの買い物の度に顔を見せるようになっていた。
「ごめんごめん、それでそちらは……お友だち?」
マローネの後ろには見覚えのない二人の少女が物珍しそうに店内を眺めていた。
ワンポイントのライン以外よく似たゴスロリ衣装を身に付けた銀髪の少女と黒髪の少女。
「さっきそこで会ったの! 本屋さんを探してたみたいだから連れてきてあげたのよ!」
「あー、うん。ちょーと思ってた本屋と違うけどね? あはは……」
「あぁ……普通の、というか新刊とか帰る本屋は結構外れろの方にあるけど……案内したほうが良いかな?」
少女の言わんとしてることを察した応孥が案内を申し出るが黒髪の少女が首を横に振る。
「ここがいい」
「んー。本屋来たいって言ったのは妹なんでこの子がいいってことなら大丈夫です! お嬢ちゃんも案内ありがとね」
「困ってる人がいたら助けてあげるのは当然よ!」
「うん、偉い偉い。そういうことならゆっくり見ていって、探したい本とかあれば僕も探すから」
「ありがとう! ねぇ、よければ一緒に本探しましょう?」
マローネが年の頃が似ている黒髪の少女へと話しかける。
表情が希薄な少女だがマローネの顔と銀髪の少女の顔を交互に見比べ、迷っているのが目に見えて分かった。
「ほら、サンゴ。行っといで」
「……分かった。いこ」
「うん! あなた、サンゴっていうのね! 私はマローネ! よろしくね!」
満面の笑みを浮かべたマローネに釣られてかサンゴは薄く笑みを浮かべる。
何度か来てある程度店内を把握してるマローネが先導して自分たちが読めそうな本のあるコーナーへとサンゴの手を引いて移動していく。
それを嬉しそうに眺めて銀髪の少女はカウンターへと腰をかける。
「君は見てこなくていいの?」
「ん、あー……イタリア語、喋れるけどまだ読めなくって」
「あぁ、なるほど……なら、ちょっと気になったんだけど聞いていいかな?」
「なんですか?」
「いや、サンゴちゃんっと……君は姉妹なのかい?」
「あ、私はロサードって言います。うーん……まぁ、色々あって血は繋がってないけどサンゴと上にもう1人姉さんがいるんです」
あまり詳細に話したくないのかロサードはボカしながら応孥の質問に答える。
その回答で何か事情があると察した応孥は「なるほどね」と話題を打ち切った。
「……あ、ロサードさんがイタリア語読めないけど、サンゴちゃんは?」
「……あ」
2人が声を出すのとマローネが「ちょっと来てー!」と呼びかけるのはほぼ同時だった。
「オードー! サンゴの読める本どこにあるのー!」
「エスパーじゃないからすぐにここ、とはいえないなぁ……サンゴちゃん、英語は読める?」
「……難しくなければ」
「そっか……なにか読みたい本とかあるかな?」
基本的にはイタリアで発行された本を主に取り扱っている、しかし、中には英語圏の本も混ざっている。
選択肢こそ多くないがジャンルを絞れれば望みの本が見つかるかもしれない。
「……えっと、神話の本で……ギリシャの」
「ギリシャ神話の本か……確か……」
指定がしっかりしていたこと、そして仕事で取り扱う分野であったため目的の本はすぐに見つかった。
「はい、これなら英語でそんなに難しいことは書いてないと思うよ」
「あ……あり、がとう」
「ふーん……それって面白いの?」
「マローネちゃんも読む? 確か似たようなイタリア語のが……あぁ、あったあった」
サンゴに英語版をマローネにはイタリア語版をそれぞれに手渡す。
挿絵などは殆どないが子供向けにわかりやすく書かれている数編の神話が書かれた本だ。
「何から何までありがとうございます。あ、いくらですか? 2冊分」
「2冊?」
「うん、マローネちゃんの分。案内してもらったお礼に出してあげる」
「あぁ、なるほど……それなら───」
ロサードが会計を済ませている間もマローネが一方的に話しかけ、それに口数少なくサンゴが答えるというやり取りを繰り返している。
出会ってからそれほど経っていないがお互い打ち解けたようだ。
「ねぇ、サンゴ! また会えるかしら? せっかくなら本の感想お互いに聞くのもいいと思うの!」
「あー。ごめんね、マローネちゃん。パパの仕事の関係があるから絶対会えるって言えないの」
「……ごめんね、マローネ」
「そう……うん、気にしないで! ならもしまた会ったら感想教えてね! 私も教えるから!」
「……うん」
サンゴの返事にマローネが満足気に笑みを浮かべる。
微笑ましい情景に応孥も笑みを浮かべているとロサードの携帯から音がなる。どうやらメッセージが入ったようだ。
「あ、やば……サンゴ、ペムベが呼んでる。夜でいいって言ってたのに勝手だなほんと……ありがとうございました!」
「……バイバイ」
「バイバイ! またね!」
恐らくは先程言っていたもう1人の姉に呼び出されたのかロサードはサンゴの手を引いて足早に店を出ていった。
「ふふ、お友達が増えたわ!」
「それは良かったね、マローネちゃん……ところで、外にお母さん来てるけど」
「……あ! お友達と話してるからその間だけって言われてたんだった! 私も行くわね、バイバイ、オード!」
「はいはい、転ばないように気をつけてねー」
パタパタと駆け出ていくマローネを眺めていると窓越しに彼女の母親が会釈をしてマローネとともに去っていくのが見えた。
嵐のような時間が過ぎ、店内に静寂が戻る。
「うーん……不思議な二人組みだったなぁ」
サンゴとロサードの姉妹のことを思い出し首をかしげながら手持ち無沙汰に店内の清掃を始めるのだった。
******
その日の日が暮れてから、少し早めに店を閉めた応孥とカナリーはオルフェウスの門へと来ていた。
昼間は戯我の出現も少ないため霊装を持たないカナリーの部下たちに任せているが夜は応孥が、数日おきにカナリーが担当している。
本来は応孥の番なのだがその応孥本人に呼ばれ、カナリーも同行していた。
「では、こちらは任せて休んでください。支部長も少ししたら来ますから私達がこちらにいるという報告はお願いします」
カナリーが手短に引き継ぎを済ませると、4人の封魔司書たちは雑談をしながら街へと向かっていった。
「それでやりたいことというのは?」
「えぇ、前に戦っていて思ったんですけど……これを使えば門のことが少しは分かるかなって思って」
パソコンにデータを打ち込んでいた応孥が取り出したのはパラボラアンテナに似た機械、幾本もの配線が中継の機械を通して操作していたパソコンへと繋がっていた。
「これは?」
「聴音機です。思いつきで作ったので作りは雑ですが……ホエールのエコーロケーション、あれを全員で共有するために音を拾って立体図を作れるようにしてみたんです」
「……あぁ、なるほど。言われてみればなんで今までやってなかったんでしょうね」
「それでちゃんと音を拾ってるかと僕が感知したものと同じかの確認をお願いしたいんです」
カナリーが了承し、パソコン前に座ったのを確認すると応孥はホエールとオーシャンのリキッドを取り出す。
少しでも出力を上げるために選択したのは相性の良いグラデーションカラーだ。
《オーシャン!》
《ホエール!》
《
「それじゃあ、行きます。変身」
《
《揺蕩う大海原の支配者! オーシャンホエール!》
《ホエエエエエエエン!》
異なる2色の青き装甲をまとったヴァジュラは頭部からエコーロケーション用の音波を発する。
音は反響し、目には見えない場所にまで届くとヴァジュラの元へ戻り、脳内にマップを作り出す。
「……! これは……! カナリーさん、どうですか!?」
「……確認を。本当にこれを感知したんですか?」
「間違いありません……。どうして”これ”が今まで分かってなかったんだ……」
映し出された立体図を確認した2人は息を呑み、大いに困惑していた。
自分たちが護っていた扉、その先が画面上に表示されていたからだ。
「……ともかく、一度アルジェント支部長とクレハを待ちましょう。こんな簡単に停滞していた調査が進展するとは思ってなかったので」
「そう……ですね。念のために何度かデータだけ取りませんか? 間違っててもいけませんし」
「確かに、それくらいならば……少し、失礼」
会話を遮るように洞窟内に響いたのカナリーの着信音、相手は先ほど別れたばかりの封魔司書の1人からだった。
「もしもし、カナリーです。何か伝え忘れですか?」
『支部長秘書! 大変です!? 戯我が現れました! 現在交戦中ですが我々だけでは……うわああああ!?』
「ッ! こんな時に……オード・シノハラ!」
「分かってます! 向かいましょう!」
電話口から響いた戦闘音と悲鳴、それを聞きつけた2人は自分たちが見たものを思考の奥に追いやり、出口へ向けて駆け出した。
******
洞窟から急いで飛び出した2人は周囲を見渡す。
別れてからそう時間が経過していなかったこともあり、洞窟から街へ向かう方向から激しく木を砕く音が響いていた。
「あちらですね!」
「はい……ッ、危ない!」
一歩先に駆け出したカナリーだったがエコーロケーションで周囲を探知していたヴァジュラが危険を察知し、咄嗟に抱えて飛び退く。
直後、彼女が踏み出そうとしていた場所に大型の犬が歯をむき出しにして着地する。そのままその場にいれば喉元をかみ砕かれていただろう。
ヌラリと光沢の光る暗い群青色の毛並みの大型の犬の怪け物が焦点の定まらない瞳でヴァジュラとカナリーを睨み、唸る。
それは一匹ではなく、全く同じ化け物が更に5匹、合わせて6匹が2人を取り囲み、唸り声をあげる。
「感謝します……が、新手ですか」
「えぇ、あっちはまだ戦闘中です」
「なるほど……状況を」
「犬型は見えてる6、味方は4、それとそっちに中型が1。他は探知範囲にはいません」
エコーロケーションにより得た情報をカナリーへと伝える。
眼の前の戯我たちがすぐに襲ってこないところを見るにこちらの足止めをし、4人を襲っている戯我となにかを企んでいるのだろうと当たりを付ける。
「……こちらは任せます。包囲をこじ開けて5秒稼いでください!」
「了解、です! そちらも気をつけて!」
カナリーが正面へ向けて駆け出すと同時に応孥はオーシャンのリキッドを起動し、トリガーを弾いた。
《オーシャン!》
「神器解放! ハァッ!」
《
肩の大袖から産まれた水流が正面で構える犬の戯我を押し流し、道を作る。
だが、他の5匹も動き出し、包囲を抜けようとするカナリーへと殺到するがそこへDモードにしたAウェポンを構えたヴァジュラが割り込む。
振るわれたドリルに2匹が爪で弾き、残り3匹は回避、ヴァジュラの横を抜けようとするが再び肩から発生させた水流がその行く手を阻む。
そうしたやり取りを経ているスキにカナリーは広場を駆け抜け森の中へと消えていった。
「グルルル……!」
「悪いね、君たちには僕の相手をしてもらうよ……!」
「グルアア!!」
ヴァジュラを倒さねばカナリーを追えないと悟ったかあるいは先にいる中型ならば意に介さないのか犬の戯我たちはヴァジュラを憎しみを込めて睨みつけ、飛びかかった。
******
「ありゃりゃ、1人逃げちゃったけどいいの? ペムベ」
ミシアの森から少し離れた小高い丘の上、ヴァジュラのエコーロケーションの範囲外である場所には2人の人間と1体の戯我が戦闘の様子を観察していた。
2人の人間のうちの1人、ロサードが戯我に向かってそう話しかける。
「予定とは違いますが問題ないでしょう。先に放った戯我の方へと行きましたから」
「あぁ~それは運が無いね! 逃げた先にも戯我がいるなんてさ!」
ペムベと呼ばれた人間の女性に似た上半身と蛇の下半身、そして下半身から生えた6頭の犬の頭が生えた異形───スキュラ・ギガはいつもの癖で今はかけていないメガネを押し上げる仕草で答える。
カナリーの不運を笑うロサードだったがずっと本へと目を落としていたサンゴが「どうかな?」と声をかける。
「あの仮面ライダー、感知が得意だから、戯我がいること分かってると思う」
「……言われてみれば、確かに」
「なるほど……それなら足止めして合流を待つのではなく、仕掛けましょう」
ペムベの言葉にニヤリと笑うロサードと本を閉じ、汚れないようにカバンへとしまうサンゴ。
そして2人は足に巻いたベルトからそれぞれ朱色と乳白色のモンストリキッドを取り出した。
「パパは顔見せって言ってたけど倒しちゃってもいいんだよね? アハハ! 楽しみ!」
「……無茶はダメだよ」
「もっちろん!」
《ズメイ!》
《ランダ!》
2人がリキッドを起動し、自身の腕に突きつけると2人の姿大きく変化する。
ロサードは巨大な体躯とウロコに覆われた皮膚を持つ三ツ首の竜───ズメイ・ギガに、サンゴは獰猛な面を付け、全身を白い毛に覆われた魔女───ランダ・ギガへと変貌を遂げる。
2人がズメイに飛び乗ると翼を大きく動かし、空へと舞い上がる。
「アハハハ! 待っててね、仮面ライダー! 今、殺してあげるからね!」
******
背後では犬の叫びとドリルの駆動音が響き、ヴァジュラがあの6匹と戦闘中であること知らせる中、カナリーは木々のざわめきを頼りに仲間の元へとひた走る。
そして、藪を掻き分けて抜けると強引に木々がなぎ倒されて少し開けた場所で目的の存在と邂逅した。
談笑しながら街へ向かっていた4人は健在だが1人は見るからに重傷で気を失い、残り3人も切り傷や皮膚が泡立つような火傷など少なからず怪我を負っているのが見て取れる。
その4人に対峙する戯我はライオンに酷似しており、鋭利な爪を光らせ、雄々しいタテガミを携えたネコ科特有の射殺さんとする目で睨みつける。
ただし、それは上半身に限った話だ。
「アイツは……ミルメコレオ……!」
「グルル……なんだ、逃げてきたのか? なら、残念だったな。コイツらと一緒に喰ってやるよ、女!」
ライオンの上半身にともすれば子供がちぐはぐにおもちゃを繋げたかのように巨大なアリの下半身と四足の節足が生える戯我───ミルメコレオ・ギガはカナリーの姿に新たな餌が来たとニヤリと口角を上げる。
「無事……ではなさそうですね。遅くなって申し訳ありません。急いで街へ、ヴァジュラは増援と応戦してますからそちらも気をつけて」
「支部長秘書……! 了解です……! そちらもお気をつけて!」
「餌が勝手に逃げようとしてるんじゃねぇ!」
気を失った1人を抱えて3人が離脱を図る。しかし、ミルメコレオが見逃すはずもなくその爪でトドメを刺そうと四足の節足を忙しなく動かし、4人へと迫った。
その前を一発の銃弾が着弾し、行く手を阻んだ。
「なに!?」
「悪いけれどあなたには私の相手をしていただきますよ」
一房に纏めたブロンド髪をかき上げ、カナリーがミルメコレオへと向けるのはレリックライザー。
そして腰のホルダーから
《デザート!》
《ルフ!》
ライザーをバックルに装着、レリックドライバーへと変じ、2本のモンストリキッドを装填する。
《
「変身!」
《
カナリーがグリップを引き込み、トリガーを弾くと彼女の頭上にブライトイエローの指輪の紋章、足元にスチールグレーの指輪の紋章が現れ、そこから吹き出るインクがカナリーを包み込む。
包み込まれたカナリーの身体を上描き、装甲を作り出して変質させた。
《砂塵舞う山吹の旋風! デザートルフ!》
インクが消え、姿を見せたのはスチールグレーのアンダースーツにブライトイエローのブレストアーマーと背中にはスチールグレーの鳥の翼を携えた軽装の姿。
装甲の至る所にスチールグレーとブライトイエロー、2種類の翼が象られた部分装甲と動きやすそうなクロースアーマーに似た脚部、その足には鳥の鉤爪のような鋭利な爪が付属している。
「仮面ライダーシミター。短い間ですが良いお付き合いを」
優雅に一礼すると同時に腰の後ろから分割された棒を引き抜く。
鎖で繋がれたそれは腕の動きに合わせ繋がり合い、一本の長い棒となると先端から半月状の刃が出現し、巨大な鎌へと変化する。
《
「手短に終わらせましょう!」
「ほざけ! 喰ってやる!」
ミルメコレオの爪と鎌の刃がぶつかりあい、火花を散らす。
何度か打ち合いを行うが威力はどちらも互角、有効打にならないと察したミルメコレオは口から液体を吐き出す。
「溶けちまえ!」
「きたないですね……!」
攻撃が弾かれるのに合わせて翼を羽ばたかせ、バックステップの距離を稼いで液体を回避する。
避けたことで吐き出された液体が地面に着弾し、地面が音を立てて溶け出した。
「溶解液……蟻酸か!」
「オラオラ、どんどんいくぞ!」
「ちぃっ!」
力強く大空を飛んでいたヴァジュラと異なり、シミターは翼の姿勢制御を利用し自在に跳躍、ミルメコレオの蟻酸を回避しつつもその場から動かさないように立ち回る。
大きく回避し、背後に回り込んでサイスを叩きつけるもアリの強固な骨格で致命打にはなり得なかった。
「グハハハ! その程度かぁ!? ずいぶん弱いなぁ!」
「はっ! 人を見る目がないですね! もっともあなた程度に見極められるほど安い女じゃないですから!」
「うるせぇ! 溶けちまえ!」
「ワンパターンですね」
着地を狙って放たれる蟻酸にシミターは肩を竦め、ブライトイエローのモンストリキッド起動し、引き金を弾く。
《デザート!》
「
《
リキッドの力を解放し、大きく翼をはためかせるとシミターの正面に砂塵が舞い飛び、蟻酸を取り込み消滅させる。
そして大鎌を上段に構え、砂塵を突き抜けてミルメコレオとの距離を一気に縮める。
「なに!?」
「たぁっ!」
「ぐわああ!?」
突然、距離を詰められたミルメコレオは対応しきれずに振り下ろされた一撃を諸に受け、切り裂かれた傷から激しくインクが吹き出す。
だが、追撃は許さず、爪と蟻酸で牽制し、節足を動かして距離を取る。
「このクソアマ! 手足1本ずつもいでドロドロに溶かしてやらぁ!」
「ハッ! 品がないですね!」
大鎌に驚異を感じたのか距離を取ったまま蟻酸を乱射、シミターを近づかせないように立ち回る。
それに対してシミターは砂塵で蟻酸を防ぎ、細かい跳躍と飛翔で翻弄、しかし、大きく踏み込めば硬い外骨格で受け止められ弾かれるので再び攻めきれない状態となっていた。
「それならば……!」
Aウェポンの節となっている棒を捻り、大鎌を分解、バトンのようにクルクル回すとそれに合わせ残りの節が円形に接続する。
持ち手のある円形になるとその周囲から透明な刃がせり出し、
「形を変えたところでどうした!」
「こうします……よ!」
勢いをつけ、回転を加えながらチャクラムを投げつける。
だが、大振りに投げつけられた回転する刃をミルメコレオは難なく回避、チャクラムはヒュンヒュン空を切りながら森の奥へと消えていった。
「グルハハハハ! 武器を手放したなぁ!」
「……」
脅威であった武器を失ったシミターに意気揚々と接近しその爪を振り下ろすミルメコレオ。
跳躍し、脚部の爪で振り下ろされた爪を弾き、徒手空拳で相対する。
鉤爪による蹴りを主体に攻撃し、重心をズラし腕を使い流すことでミルメコレオの攻撃を受け流すがAウェポンを持っていたときよりも余裕がなくなる。
それに勢い付き、ミルメコレオは激しくシミターを攻め、追い立てる。
「グルル、このままぶっ殺してやる!」
「はぁ……無策で武器を手放したと本気で思ってたんですか?」
「負け惜しみを!」
爪の振り下ろしを捌く流れでルフのリキッドを起動、トリガーを弾き次の攻撃を受け止める。
《ルフ!》
「
《
大きく翼を広げ、羽ばたかせるとスチールグレーに輝く羽根が針のように正面へ飛ぶ。
当然、シミターの目の前で大立ち回りを繰り広げるミルメコレオは回避も外骨格で受け止めることも間に合わず、柔らかい獣に肉で羽根吹雪を受け止めることとなる。
「ぐるがああああ!?」
「そしてこれで……詰みです」
ミルメコレオの背後の森からヒュンヒュン空を切り、飛来するのは先ほど投げたチャクラム。
回転により折り返して戻ってきたそれは勢いが落ちるどころか加えられた回転を維持、加速して背後からミルメコレオの節足へ向けて飛ぶ。
先ほどまでは外骨格に弾かれていた刃だが、勢いがマシ、速度が乗ったこの一撃はミルメコレオ外骨格を貫き、2対4足の節足を根こそぎ切断せしめた。
「ぎぐああああ!?」
「うるさいです」
「あぎゃ!?」
節足を奪われ、地面に落下。痛みと驚きで叫びを上げるミルメコレオの頭部を跳躍したシミターが右足で踏みつけ、鉤爪をくいこませて押さえつける。
「さて……私は優しいのであなたと違って手は奪わないでおいてあげましょう」
「に、逃してくれるのか……?」
「そんなわけないでしょう? 手を奪わないまま……調伏してあげます」
《
シミターがグリップを握り、変身時と同じ様に引く。
危険を感じ、ミルメコレオが抜け出そうと暴れるが節足を失い、頭を押さえつけられた今蟻酸も自慢の爪も届くことはない。
無駄なあがきを許さないシミターはそのままトリガーを弾く。
《
「塵となって刻みなさい……!」
シミターの全身の装甲が展開、嘴型のクラッシャーも開口し、排熱ダクトから熱とともに劈く鳥の嘶きのような排熱音を響かせ、エネルギーが押さえつけた右足へと収束する。
《デザートルフ・クロマティックストライク!》
「や、やめ……」
「ハァっ!!」
限界までエネルギーが収束した右足を気合とともに踏み抜く。
回避も許されず、直撃を受けたミルメコレオはビクリっと一度身体を震わせ静止。
サラサラと砂のように肉体が解け、残ったのは大きな鳥による鉤爪の跡のように抉れた地面だけだった。
「調伏完了……オード・シノハラの方もそろそろ終わった頃でしょうか?」
シミターはヴァジュラが戦っているはずの遺跡の方を向く。
数が多かったとは言え、あの犬型の戯我はミルメコレオよりも弱い。
ヴァジュラならば手こずることはない、そう考えていた。
しかし、直後に遺跡の方から竜の咆哮が響いた。
「そう簡単には終わりませんか……戻ってアルジェント支部長と甘い時間を過ごすのは延期ですね……恨みますよ、オード・シノハラ!」
理不尽な怒りを応孥に向けながら背中の大翼を羽ばたかせ、ヴァジュラの手助けのために空高くへと飛び上がった。
付録ノ五[封魔霊装 シミター]
カナリー・ゴールドポンドが使用する封魔霊装。
正式名称は「封魔霊装 シャムシール・エ・ゾモロドネガル」。
ソロモン王が所持していたとされる武装である。
この剣によって与えたダメージは特殊な薬液を使用しなければ回復しないと伝えられている。
基本となる姿はデザートルフ。
翼を利用した高速機動を得意とし、脚部の鉤爪と軽装によるスピードで相手を責め立てる。
クロマティックストライクは敵に鉤爪ごと足を押し付け、そこから収束したエネルギーを流し込むことで相手を粉々に粉砕する。後には余剰エネルギーによって地面に付いた鉤爪の跡のみが残る。
第六頁、ご読了ありがとうございます!
新展開&2号ライダー登場回となります。このまま最後まで駆け抜けたいですね。
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