仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ   作:teru@T

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第七頁[退紅の三重奏]

 シミターがミルメコレオと戦闘を繰り広げている頃。

 ヴァジュラは襲ってきた犬の戯我との戦闘を続けていた。

 1匹ごとは下級戯我相当の強さしかないが6匹の統率され、息のあった動きに翻弄されていた。

 だが、オーシャンホエールの持つ探知能力で動きを把握し、水の噴射による高機動と水流で逃げ道を封じることで1匹ごとに確実に撃破、その数が3匹にまで減ったところで趨勢は決まる。

 

「これで……!」

《ドッキング! DGモード!》

「キャインッ!?」

 

 水流で誘導し、一塊になったところをDGモードで掃射、残る3匹をまとめて撃破した。

 エコーロケーションの探知によりカナリーが戦闘中であることを確認しているため、手助けのために森の中へと駆け出そうとする。

 その時、探知に高速で移動する巨大な影が写り込んだ。

 

「新手か……!」

「だいせーかい! 覚悟しなよ、仮面ライダー!」

「ッ!!」

 

 ヴァジュラが探知した影と同方向の上空から声が降ってくる。

 見上げればそこには口から煌々と輝く火球をヴァジュラへと向けて発射する三ツ首を持つ巨大な竜の戯我。

 突然の攻撃を咄嗟の判断で前へ跳び、脚部と肘から水流の噴射を使い、飛距離を稼いで回避する。

 だが、攻撃はまだ始まったばかりであった。

 

「グルァ!!」

「ッ! さっきの犬たち……!?」

「……だけじゃないよ」

「なっ!? ぐっ!?」

 

 竜の戯我の背から先ほど倒したはずの6匹の犬が飛び降り、火球を回避したヴァジュラに襲いかかる。

 ガトリングを振り回し、空から飛来する牙と爪をなんとか払い除けるもその背中に斬撃を受ける。

 振り返ればそこには仮面を付けた女性の戯我が長く鋭く伸びた爪を振るい、追撃を試みていた。

 

「この……!」

「させませんよ」

「もう一体……!?」

「アハハ! おまけぇ!」

「ぐわぁあ!?」

 

 囲まれた周囲を水流で押し流そうとドライバーへと手を伸ばす。

 しかし、それよりも早く伸びてきた蛇の尾に腕を絡め取り、それを封じると空から降りてきた竜の尾がヴァジュラを打ち据え、吹き飛ばす。

 木に打ち付けられ、打ち付けられた木をへし折りながら地面へと落下する。

 なんとか意識を保ったヴァジュラはフラフラと立ち上がり、正面を向き、敵の姿を視認する。

 目の前には三ツ首竜の戯我、仮面の戯我、6匹の犬に加えて、蛇の尾に女性の上半身、そして下半身には先ほどから襲ってきていた犬によく似た6匹の犬の頭が生えた異形の戯我がヴァジュラを取り囲むように立ちはだかっていた。

 

「あの犬はスキュラの一部だったわけか……それにズメイと……そっちはインドネシアのランダ、だったかな……!」

「よくわかったねぇ! この前ナックラヴィーにボコボコにされて勉強でもし直したのかなー?」

(キオン)だけでなくランダまで見抜かれたのは想定外でしたけどね」

「別に……いずれバレてたから関係ない」

 

 こちらを警戒し爪を向けるランダ、嘲笑するズメイ、そして2体よりも少し下がり、6匹のスキュラの犬(スキュラ・キオン)で周囲を取り囲むスキュラ。

 総勢9体。

 対複数ならば2ヶ月前のグレムリンと比べると数は少ない。しかし、あの時は奇襲で連携を許さなかったが今回はそうではない。その上、敵のうち3体は中級戯我、脅威度はあの時の比ではないだろう。

 

「ナックラヴィーのことを知ってる……ってことはロキの仲間か!?」

「ちゃんとお父様の仕込みに気づいていましたか……」

「ま、それくらいはね! パパもそのために分かりやすくしてたわけだし!」

「お父様にパパ……?」

「……私たちは父様───ロキ様の娘……これから死んじゃうあなたにはこれくらいの説明で十分」

「そーいうこと!」

「ロキの娘だと……!?」

 

 ズメイ・ギガの咆哮を皮切り、犬たちとランダが駆け出し、ズメイは首のうち2本をヴァジュラへと向け、伸ばす。

 戯我たちの言葉が飲み込みきれないヴァジュラであったがズメイの上げた咆哮で我へと返り、AウェポンをDモードへと切り変え、応戦する。

 ジェット噴射とドリルの回転を駆使し、犬の爪と牙を弾きながらズメイの噛みつきをは直前で回避する。

 だが、犬よりも素早いランダが回避先に先回りをして着地のスキを突かれ切り裂かれる。そして、そこから体勢を崩せば犬たちが飛びかかられる。

 

「ぐぅ……なめる、なぁ!」

「させない……」

「ッ!」

 

 犬の爪と牙に切り裂かれながらもドリルで剥がし、そのまま2匹の犬を巻き込み粉砕する。

 リキッドの力を使うためにベルトへと手を伸ばすがランダの左手から放たれた黒い波動によって手を弾かれてリキッドの起動を邪魔される。

 更には倒した2匹の犬はスキュラの下半身にある犬の頭部、その2箇所の目に光が灯るとそこからズルリと新たな犬が2匹現れる。

 

「こっちのことは研究済みってことか……!」

「そーいうこと!」

「それに加えてこの数の差……間もなくミルメコレオも戻ってくるでしょう。あなたの負けです」

「……」

 

 ズメイの火球を躱せば犬が迫り、犬を弾いてもその影からランダの攻撃が飛んでくる。

 スキを見つけてズメイやランダにドリルを叩きつけようとするも間に犬が割り込み、自身を犠牲に攻撃を防がれる。

 そして、やられた犬たちは再びスキュラから産み落とされ、その数を減らすことはない。

 エコーロケーションを継続して使用しているため、致命傷となる攻撃は躱せてはいる。だが、対処はしきれているとは言えばず、細かな傷がヴァジュラに積み重なっていく。

 

「こうなったら……奥の手だ!」

「姿は変えさせない……!」

「このまま仕留めます!」

 

 

 防戦一方のヴァジュラが腰のホルダーへと手を伸ばせば、遠距離からランダの黒い波動が、そしてその後の詰めとスキュラの命を受けた6匹の犬たちがヴァジュラへと駆ける。

 だが、そうなると分かっていたヴァジュラはドリルを用いて黒い波動を弾く。

 そこに犬たちが殺到するが襲われるよりも早く、水流の噴射を使い跳躍、犬たちに襲われない空中へと飛び出した。

 

「悪いね、リキッドを切り替えるだけが戦いじゃないんだよ……!」

「このまま距離取って仕切り直しでもするつもりだったのかしら? 残念でした!」

「ッ! ズメイ……!」

 

 水中ほど自由に移動できないとは言え噴射を利用し、戯我たちから距離を取る。

 森の中に身を隠せれば今のピンチを脱することができるだろう。

 だが、その眼前に回り込んで来たズメイが翼を広げ、空中で立ちはだかる。

 

「アハハ! 空なら逃げられると思った? 私を見落とすなんて相当目が悪いのね」

「空に逃げたら君が追ってくる……それくらい分かってたよ」

「負け惜しみ? なら死になよ!」

 

 正面のズメイが3つのアギト全てに火球を溜め込む。

 下にはランダと犬たちが構え、ズメイが落とす、もしくは攻撃を避けて降りてきた時のために構えている。

 そして、少し離れてスキュラがこちらの動向を観察、次の一手を潰すために構えている。

 一見すると状況は変わらずヴァジュラのピンチとなっている。だが、武器を構え、ズメイと対峙するヴァジュラにスキュラは何処か違和感、何か思惑がある様に感じていた。

 少し距離をおいていたからこそ、そしてヴァジュラに違和感を感じていたからこそ、スキュラはヴァジュラの行動の意味をいち早く理解することとなった。

 

「ッ!? ズメイ! 前じゃない! 後ろです!!」

 

 スキュラが叫ぶ。

 その叫びでランダも何が起きたのか理解する、しかし、それよりも早く戦況が動く。

 

《ブリザード! Charging Color(チャージング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング)!》

《モノカラー・クロマティックサーキュラー!》

「上出来ですよ、ヴァジュラ……!」

「ッッ!! 新手……!?」

 

 ズメイが振り返るとそこには月をバックに、月明かりに照らされたシミターがプルジャンブルーに輝く光輪(チャクラム)投げつけたところであった。

 放たれた光輪は冷気をまとい、ズメイを切り裂かんと勢いよく空を走る。

 

「こんな程度!!」

「3つの首を全く活かせてないね! 水流(これ)にはこういう使い方もあるんだよ!」

「ぶわぷっ!?」

 

 グルリと三ツ首全てを後ろに向け、ヴァジュラへと放つ予定だった火球をチャクラムへと向ける。

 そこに視線の外れたヴァジュラが離脱のための水流をズメイの首1つに向けて放った。

 猛烈な水流を受けたズメイは咄嗟に残りの首を水流から逃がすが直撃した首は水に飲まれ、溜め込んでいた火球を打ち消し、加熱された水は水蒸気となり膨れ上がって熱がズメイを焼く。

 ヴァジュラが攻撃と同時に離脱したそこに冷気をまとうチャクラムが迫る。

 

「グアッ!? こん……のぉ! ッ!」

 

 堅牢なウロコが水蒸気の熱を阻む、しかし、炎を吐き出す口腔は別にしても瞳はそういうわけにはいかず1本の首がのたうち回る中、残り2本の首はチャクラムへと向けてそれぞれ火球を放つ。

 まとった冷気によって火球は威力こそ弱められるもののチャクラムに直撃、その勢いを削ぐことには成功するが完全に止めることはできないまま、ズメイへと炸裂───

 

「こぉんのぉ!」

 

 だが、ズメイは身体を捻り、チャクラムを紙一重で躱すと長い尻尾を振り回し、そのままチャクラムを横から叩きつける。

 側面には刃こそ付いていながまとわり付く冷気は容赦なくズメイの尾の一部を凍結させる。

 だが、勢いを削られた所へもたらされた打撃に勢いその軌道はずらされ、吹き飛ばす。

 

「ッ! ごめん! スキュラ、避けて!」

「弾くのなら味方の位置くらいは気にしなさい……! 行け……!」

 

 軌道が逸れたチャクラムはそのまま軌道を変えて地上を目指す。そして不運なことにスキュラへ向けて飛ぶ。

 勢いは落ちているが冷気は健在であり直撃すればただでは済まない。

 そこでスキュラは更に勢いを殺すため遠く離れたところにいる犬たちを呼び寄せ、チャクラムへと突撃させる。

 飛びかかった犬は冷気に凍てつき、チャクラムの刃に切り裂かれ、消滅する。

 だが、消えた直後に下半身の犬頭部に光が灯るとそこから新たな犬が産み出され、何度も繰り返すことで勢いを殺しきり、チャクラムはゴトリと地へと突き刺さる。

 

「ほんとごめん! 大丈夫?」

「問題ありませんが気をつけてください。全く……」

「ズメイも無事……? もう1人いたんだね……仮面ライダー」

「だいじょーぶ……首1つはちょっとダメージ大きいけどね」

 

 3体戯我はスキュラの元に集まるとお互いの無事を確かめ合い、2人の仮面ライダーへと視線を向ける。

 先ほどの奇襲からの警戒のためか対角で警戒をしていた犬を呼び戻し、更に失った犬も再度産み出して手数を整え直す。

 ヴァジュラもシミターの乱入により立て直し、シミターが横に降り立つ戯我たちと対峙する。

 

「今のはまさか……」

「苦戦されてるようなので加勢に来ましたよ。こちらは無事倒しました」

「っと、すみません。助かりました、シミター……状況説明はいりますか?」

「見れば分かります。武器なしは流石に苦労しそうなのでまずはそれを取り返します」

「了解」

 

 合流こそしたがシミターのAウェポンは先ほどの攻防で戯我たちの近くに落ちたまま、戦力は削がれたままだ。

 短いやり取りだけで意思疎通を完了し、お互いの目的をすり合わせた2人は戯我たちの動きに備え、構えを取る。

 

「さっきは油断したけど、今度はぶっ潰してやる!」

「スキュラ、キオン2匹にそれ守らせて……相手の力は削っておいて損はない」

「えぇ……ライダーがもう1人いるなら増援(ミルメコレオ)も見込めなさそうですね……行けっ」

 

 ズメイが飛び出したのを皮切りにランダと4匹の犬たちも後に続く。

 飛び出さなかった2匹の犬は地面に落ちたチャクラム(Aウェポン)を取り返させないように取り囲む。

 戯我が動きだしたのに合わせてヴァジュラとシミターも駆け出し、シミターはリキッドを起動しようとベルトに手を伸ばす。

 当然、ランダが妨害しようと黒い波動が飛すがヴァジュラが回転するドリルを攻撃の間に差し込むことでその波動を弾き、シミターを守った。

 

「来るのが分かってればいくらでも防ぎようはある……!」

「ズメイ……追撃、急いで」

「分かってる!」

「いえ、遅いですよ。神器解放(レリクス・ドライブ)!」

《ルフ!》

Calling(コーリング)

 

 ズメイが火球を蓄えて攻撃に移るよりも早く、飛び上がったシミターが大きくを翼を羽ばたかせ、羽根吹雪を飛ばす。

 大量の鋭利な羽根が戯我たちを襲い、スキュラの犬たちを容赦なく切り裂いた。

 だが、ランダは羽根を爪で切り裂き撃ち落とし、ズメイは硬い皮膚により多少刺さったところで意に介する様子もなく飛び上がったシミター目掛けて火球を放つ。

 火球に飲まれ、羽根吹雪は焼かれ消えるがシミターも旋回することで火球を回避する。

 

「こんな程度、効くわけないでしょ!」

「えぇ、分かっていますよ。それでも目を惹くでしょう?」

《ホエール!》

「ッ、しまっ……」

「神器解放!」

Calling(コーリング)!》

 

 シミターの派手な攻撃に気を取られていたスキにヴァジュラがリキッドを起動。

 武器を持っていない右腕に巨大なクジラの頭部を模したエネルギーが集まり、ズメイの巨体に叩きつけ、よろめかせる。

 

「こんの……!」

「もう一発!」

「きゃあっ!」

 

 ジェットで飛び上がると脚部に集めたエネルギーで形成した巨大なヒレでシミターのAウェポンを守る犬やランダごとズメイを横薙ぎに薙ぎ払う。

 ランダはバックステップで回避されたものの、ズメイはいくらタフと言えども先の一撃で体勢が崩れていたところへの追撃でその巨体は地へと倒れ。地面を揺らす。

 

「これで……!」

「渡さない……!」

「我々が安々と渡すとでも!?」

「えぇい、鬱陶しい……!」

 

 守りが手薄になった武器を取り返そうとシミターが下降する。

 しかし、攻撃を避けたランダの黒い波動と遠距離から犬の操作に徹していたスキュラの蛇の尾の攻撃に近づくことはできない。

 更に、スキュラは撃破された5匹の犬を再び産み出し、運良く羽根吹雪を回避して離れていた1匹も呼び寄せ、6匹揃ってシミターとヴァジュラへとけしかける。

 迫る犬の猛攻にそれぞれ対処しながら戯我たちと武器から僅かに距離を取り、ライダーたちは一箇所に集まる。

 

「厄介な……!」

「やっぱりか……シミター。方針変更しましょう」

「手短に」

「スキュラから倒します」

 

 ヴァジュラの提案にシミターは仮面越しにヴァジュラのことを睨む。

 だが、先ほどの攻防で疑念が確信に変わったヴァジュラは自らの意見に向けて武器を構え直す。

 

「武器1つ取り戻せてないことを分かっていてその提案をするなら案はあるんですね?」

「えぇ……スキュラを倒せば犬も消えます。孤立させれば倒せます」

「なるほど……エレクトリックにシフトを。後は流れで合わせなさい」

「話が早くて助かります! なるべく犬は倒さないようにしてください、それが大事です」

「心得ました」

《エレクトリック!》

 

 シミターが飛び上がると同時に羽根吹雪を放ち、ランダと犬の動きを封じる。その間にヴァジュラはエレクトリックとホエールのハイブリッドカラーへとカラーシフトを完了する。

 羽根吹雪を突破し、空高くにいるシミターには手が出せないためにランダと4匹の犬はヴァジュラへと殺到。

 残る2匹はライダーたちが取り戻そうとしていたことが明白になったことでAウェポンを渡さないために張り込みを続け、スキュラは少し離れた所から戦場に睨みを利かせ続ける。

 更に倒れていたズメイも立ち上がり、こちらは空のシミターへ向かって飛翔する。

 お互いが予想していた通りに戯我が動いたことをアイコンタクトでシミターと伝えあったヴァジュラはシフトしたそのままにランダたちの妨害が入るより早く、リキッドを起動した。

 

《エレクトリック!》

「2人になった途端次々と……!」

「数が多ければ楽になるのはそっちも理解してるだろう? 神器解放!」

Calling(コーリング)!》

 

 ドリルを回転させ振るうことでランダの爪の一振りを弾き、空いた左手から緑雷を犬たちに向けて放つ。

 狙いへの到達は遅くなるがその分範囲が広くなるように山なり放ったれた雷撃を犬たちは素早くその場を飛び退き、回避する。

 だが、同様の攻撃が何度か続けば犬たちはバラバラに離れ、更に距離も離され、ヴァジュラはランダとの一騎打ちの形を作り出す。

 

「死ね……!」

一対一(タイマン)ならお前の不意打ちも怖くないんだよ……!」

「ッ!!」

 

 素早い動きでヴァジュラを背後から刺し貫かんとする爪は振り向かずに引き抜いたSトリガーを発砲、軌道が逸れたところを重心を下げることで回避。そのまま連射し、不意打ちを仕掛けたはずのランダが逆にダメージを負う。

 手数が多いが故にエコーロケーション込でも対処が追い付いていなかった攻撃もランダのみならば止めることは難しくなかった。

 

「お返しだよ!」

「がっ!?」

「ランダ!! この……!」

 

 そのまま後ろ蹴りでランダを蹴り飛ばし、そこに緑雷の追撃を放つ。

 無防備な状態で電撃を受け、ダメージを重ねるが倒すに至らず、すぐに立ち直り、距離を取って立て直す。

 逆にスキュラはカバーのために犬の突撃に合わせて接近、蛇の尾を槍のようにヴァジュラへと突き刺さんと勢いよく突き出した。

 

「っ、やっぱり数が増えるのは厄介……だ!」

「その割には対処しないで貰いたいですね……!」

「さっきよりも数が少ないからね!」

 

 放電で犬たちを牽制しながら連続で突き出される尾は身体を捻り、時にはドリルで弾きながらスキュラとの距離を詰めていく。

 電撃のダメージから立ち直ったランダは頭を振ってスキュラの手助けのためにヴァジュラへと近づこうと動く。

 そこで戦場への違和感を覚えた。

 元々、スキュラは犬による支援をメインに自分とズメイが仮面ライダーと直接対峙。数の有利を生かして相手の得意を潰した上で戦う予定であり、先刻まではその通りとなっていた。

 しかし、気がつけば支援役であったはずのスキュラがヴァジュラと対峙、その強みである犬たちは雷撃で距離を離されているため、一対一で戦っている状態だ。

 

「(それに……さっきからキオンを倒してない……? 倒さないと再生成できないことに気づかれてる……!)」

 

 ヴァジュラは継続して犬に電撃を放ち続けている。だが、1匹たりとも撃破はしておらず、消耗させ、距離を保つように立ち回っていることにランダは気がついた。

 そこで、ふっと上を見ればズメイから逃げながら旋回、こちらへと向かってくるシミター(もう一人のライダー)の姿がランダの目に映りこんだ。

 

「……! スキュラ、離れて! 何か企んでる!」

「ッ! シミター!」

「えぇ! ギリギリ、間に合わせます! 合わせなさい!」

 

 叫びながらスキュラへと駆け出し、空から迫るシミターに黒い波動を放つランダ。

 だが、波動が届くよりも、ランダがスキュラの元に辿り着くよりも速く、2人のライダーがそれぞれのリキッドを起動した。

 

《デザート!》

《エレクトリック!》

神器解放(レリクス・ドライブ)!』

Calling(コーリング)!》

 

 空中からシミターが勢いよく翼を羽ばたかせるとスキュラとヴァジュラを包み込むように激しい砂嵐が発生させる。

 スキュラは逃げ道を封じられ、同時に外からの侵入を防ぐ壁を生み出した。

 更にヴァジュラの発する雷撃は砂嵐に纏わりつき、細かい砂の粒子が同士がぶつかり合うことでその雷撃を増幅、雷を帯びた砂が渦巻く嵐へとその姿を変える。

 ランダが爪を突き出し、侵入を試みるが触れようとするとバチンッ!と雷と砂に弾かれ、中へ入ることは敵わない。

 

「っ! これじゃスキュラが……!」

「あたしならそんくらいは!」

「させるわけがないでしょう?」

「くっ!?」

 

 強固なウロコを持つズメイが雷砂塵を突破しようとするがシミターがそれを許すはずもなく、今度はライダーが戯我たちを妨害する形となった。

 小回りを生かしてズメイの進路を妨害、いざ強引に突破しようとすれば脚部の鉤爪や翼による一撃でそれを防ぐ。

 地上では主の元へ向かおうと犬たちが爪を突き立て、ランダも黒い波動でう破ろうと試みるがどれも効果が見られない。

 

「侵入できない……なら!!」

「ちょっ、なにやってんの!?」

「こいつ……」

 

 破れないと分かったランダは即座に行動切り替える。

 手近にいたスキュラの犬、その1匹の首を爪で掻き切る。更にその近くにいたもう1匹へと黒い波動をぶつけ、振動と衝撃によって消滅させたのだ。

 戦力を減らす行為にズメイは驚き、逆にシミターは警戒を強める。

 

「(これだけの連携に咄嗟の行動の切り替え……ランダが顕著ですが3体とも今まで見てきた戯我の中でも賢すぎる。そうなると長くは持ちませんね、さっさと決めなさい。オード・シノハラ)」

 

 シミターは戯我たちへの疑念を抱きながら雷砂塵の中のヴァジュラ(応孥)を心のなかで急かしながらも自らの役割である戯我たちの足止めを遂行した。

 

 

******

 

 

 雷砂塵の内部。

 外部の戯我たちが破ろうとしているのと同じようにスキュラも中から脱出のために砂塵へと尾を叩きつける。しかし、雷撃をまとう砂塵に弾かれて外に出ることは叶わない。

 脱出に注力し、持てる力を全て使えばあるいは手があるかもしれないがそれをヴァジュラが許さず、Sトリガーの射撃と格闘を織り交ぜてスキュラを攻撃する。

 

「ッ!! これだけ接近してキオンの不意打ちが怖くないのですか!?」

「出せるものならだろ? どれだけ自分がピンチでも外に6匹出し切ってたら新たに産み出せないでしょう!?」

「ッ……」

 

 ヴァジュラの予測通り、スキュラの犬の分体生成は6体までしか出せない。そのすべてを出し切り、砂塵の外にいる今、彼女の戦力は激減している。

 しかし、ヴァジュラにとっても雷砂塵による分断は恩恵だけがあるわけではない。

 雷砂塵のもたらす騒音はエコーロケーションの音波をかき消しその機能を消失させている。

 外の様子が分からない今、もしも、シミターが突破されズメイとランダの連携があれば雷砂塵は破れ、今回のようなチャンスが再び訪れることはないだろう。

 そうなる前にトドメを刺すため、ヴァジュラは2つのリキッドをホルダーから取り出し、Aウェポンへとリードしようとする。

 その時、スキュラの下半身にある犬の頭部、そのうち2つの目に光が灯った。

 

「!! 油断しましたね!!」

「あぶなっ……!」

 

 スキュラの下半身から2頭の犬が生え、ヴァジュラに向け鋭い爪と牙を突き立てる。

 攻撃を受けるよりも早く、バックステップで距離を取ったため頬を掠めるだけに済んだ。しかし、現れた2犬がスキュラの前に立ちはだかり、ヴァジュラを威嚇する。

 

「ッ、読み違えた……? いや、外で殺したのか……!」

「このまま私に構っていても良いのですか? 外のお仲間がやられているかもしれませんよ?」

「どうかな? 犬だけ送ってきたってことがランダとズメイが来れない証明だと思うけどね!」

 

 再びスキュラへ向けて駆け出すヴァジュラ。

 スキュラは2匹の犬と蛇の尾によってヴァジュラを遠ざけるように攻め立てる。しかし、それに怯むことなく接近し攻撃を仕掛けてきた犬を2匹纏めてドリルの一撃で粉砕。

 即座に次の犬を生み出そうとするが、それよりも早くヴァジュラは2本のリキッドをAウェポンへとリードしていく。

 

《マグマ! オーシャン! Charging Color(チャージング・カラー)!》

「これで……! 塗り尽くす……!」

 

 赤と青、2色の輝きを宿したAウェポンで再生成され、再び迫る犬たちを払い除け、クラッシャーと装甲を展開、低く唸るような排熱音を響かせながらスキュラへと接近する。

 

「ッ! まだ……!」

「いいや……終わりだ!」

 

 唸りを上げて高速で回転するドリルを蛇の尾を巻き付け、その動きを妨害する。

 しかし、訪れたチャンスを逃すことなく、勢いのままにドリルをスキュラへ向けて叩きつける。

 

Last Calling(ラスト・コーリング)! バイカラー・クロマティックブレイク!》

「ハアアアッ!!」

 

 気合の叫びと共に赤と青の閃光が一際大きく輝き、巻き付いた尾を引き裂いてスキュラへと炸裂する。

 渦巻く光が身を削り、スキュラの身体は雷砂塵へ、更にはその砂塵すらも打ち破り、吹き飛んだ。

 

「アアアアアァァッ!?!?」

 

 必殺技の衝撃に加えて雷砂塵の追撃を受け、身体を抉り削られたスキュラは悲鳴を上げながら木に叩きつけられる。

 バリバリと肉体に電撃が散り、ビクリと痙攣の後にズルリと地面に倒れ、やがてその身体は色が溶けるように消えてゆく。

 同時に援護のために犬へと攻撃を加えようとしてたランダの目の前で彼女の分体である犬たちもその姿を消す。

 

「ッ、スキュラ……!」

「嘘でしょ……!? どきなさい!」

 

 スキュラの敗北を認識したランダは即座にその場を離脱、ズメイもシミターを振り切って倒れたスキュラの元へと向かう。

 戦況が変化したことでフリーとなったシミターは悠々と自身のAウェポンを回収、少なくないダメージを受けて肩で息をするヴァジュラの元へと降り立った。

 2人の見守る前で完全に消滅したスキュラ。

 しかし、戯我のいたその場所には髪が乱れ、血を流したメガネをかけたスーツの女性が力なく木にもたれ掛かっていた。

 ヴァジュラたちのことを憎々しげに睨みつける彼女の前には群青色の銃弾───モンストリキッドが転がっている。

 

「人……!? それにあれはモンストリキッド……一体どういうことだ?」

「状況だけ見れば、彼女がスキュラになっていた、ということでしょうね……報告例は多くありませんが前例はあります」

 

 ズメイとランダが女性のことを気にかけながら前に立ち、ライダーたちと相対する。

 女性もモンストリキッドを回収し、フラフラと立ち上がるが立っているだけでやっとの様子だった。

 

「彼女たちは自分たちのことをロキの娘と言ってました。つまり……」

「……そう、私たちはロキ様の娘……みんな、人間だよ」

「人間、ですか……ならば好都合。調伏した上で確保。そのモンストリキッドの出処やあなた達の神の目的など洗いざらい話してもらいますよ」

「ハッ! あんたらに話すわけ無いじゃん! スキュラの仇だ……ぶっ殺してやる!」

 

 シミターはSモードに武器を切り替え、ライダーたちも戯我たちも再度の激突のために構えを取る。

 一触触発、なにかのきっかけで再び激突する空気が周囲を支配する。

 それを打ち破ったのはコツン、と響いた靴の音だった。

 

「そこまでだ、お前たち。全く、今日は挨拶のみと言っただろう」

「っ!? どこから……!?」

 

 さも当然と言った様子で靴音を鳴らしながらピッチリとチェック柄のフォーマルスーツを着こなした、人間離れたした美貌の栗色の髪と透き通るような青い瞳の男が森の中から歩いてくる。

 砂塵が消えたことでヴァジュラのエコーロケーションは再び機能している。だが、その男の接近に気づけなかった───いや、目視した今も彼の探知に男の姿は映ってはいなかった。

 

父様(パパ)……」

「よく頑張ったな。ズメイ、ランダ。スキュラは無事か?」

「申し訳ありません……お父様」

「なに、構わないさ。仮面ライダーが2人いることが分かっただけ収穫だ……今は休め」

「お前が……ロキ神……」

 

 戦場の中を無防備にも歩いてやってきた()は仮面ライダーたちの方へと向き、ニヤリとその顔に邪悪な笑みを浮かべる。

 

「如何にも。どうだったかな、ライダー諸君。私の娘たちは強いだろう?」

「……わざわざ出てきてくれたのなら好都合。あなたに全てを話してもらいますよ」

「クク……まぁ、スキュラを倒した褒美だ。多少は話し相手になってやるさ……だが、その前に」

 

 パチンとロキが指を鳴らす。

 周囲にロキの力が伝播するのを肌で感じる。しかし、目に見えた変化は起こらない。

 ロキは自身の力が満ちたことに笑みを浮かべると後ろの戯我たちへと語りかける。

 

「私は彼らと少し話をしていく。先に戻っていなさい」

「でもパパ……!」

「ズメイ……スキュラを守りながらじゃ戦うの難しい」

「……ランダが言うなら仕方ないなぁ。わっかりましたー……」

「良い子だ。ズメイ」

 

 敵が策略に長けるロキであり、すでにその力を使っている。警戒して攻撃を仕掛けられないヴァジュラたちの前で話を終えた戯我たちはズメイへと乗り、空へと舞い上がる。

 

「逃しはしません。ヴァジュラ、戯我たちの追跡を。探知のあるあなたが適任です。ロキ神は私が……」

「いえ、ダメです……彼と同じです。戯我たちが探知から消えました」

 

 空を飛んで逃げれたとてヴァジュラの探知がある以上、追うこともできる。そう考えたシミターだったが、先ほどのロキの力により、ヴァジュラの探知にはロキと同じく戯我たちの姿も消失していた。

 

「お前の能力はあの船での戦いで散々見させてもらった。音による探知だろう? ならば音が返らぬように3人を私の魔術で覆わせてもらったよ。残念だったな」

「ッ!!」

「それにだ……神に対して1人で戦えると思っているのなら舐められたものだな」

 

 ロキが2人を睨みつける。

 何か力を使ったわけでもなく、雰囲気と話術だけで圧倒されている2人はロキに気圧され警戒したまま武器を構え直す。

 その間にも空へ飛び立ったズメイはその姿が徐々に遠のき、夜の闇へと消えていってしまう。

 

「さて……娘たちを逃したのなら長居するつもりはない。だが、聞きたいことがあるのだろう? 言ってみろ、いくつかは答えてやろう」

 

 ふっ、と先ほどまでの気圧される雰囲気が消え、ロキがフランクにヴァジュラたちへと語りかける。

 当の2人は緊張を解く様子はなく、武器を構えたまま互いに顔を見合わせ、目配せをしてからロキへと向き直った。

 

「答えていただけるのならば遠慮なく。あなたの娘と名乗った戯我たちは何者ですか? それとあのモンストリキッドはどこで入手を? 後、あなた達の目的は? デイブレイク号の事件にも関与している様ですがあれを起こしたのもあなたですか? それと───」

「待て待て待て! 答えてやるとはいったが普通は1つずつだろう!?」

「答えると言ったのはあなたですよ? さぁ、聞きたいことはまだまだありますが?」

「えぇい! そんなに全部答えるかぁ!」

 

 シミターの質問攻めに怒りを露わにするロキ。だが、取り乱したことに気づいたのか、コホンと1つ咳払いをしてから律儀にも質問への答えを口にしていく。

 

「まず、アイツらは名乗った通り私の娘だ……尤も血の繋がりはない。リキッドに適応した人間たちをそう呼んでいるだけさ」

「リキッドに適応した人間……」

「それとあのモンストリキッドだが……クク、あれは私が作ったのさ。私の神血(イコル)を用いてな……」

「解せませんね。それならばそれこそフェンリルやヨルムンガンド……あなたの子供を描き込めればいいでしょう?」

 

 ロキにはすでに幾人もの子供がいる。有名なところでは神を殺した伝承の残る怪物、フェンリルやヨルムンガンド、更に死者の国を統べる神であるヘル神などだ。

 だが、彼が産み出したという戯我たちが込められたモンストリキッドはどれも彼とは関係のない、別の神話に登場するものばかりであり、シミターはそこに疑問をもったのだ。

 

「それこそ簡単な話だ……私の目的、新たなる終末戦争(ラグナロク)! そこには新たな超獣戯我(ギガ・ロード)が必要だろう?」

「ッ! 新たな、ラグナロク……ですか?」

「新たな超獣戯我だと……?」

「そうだとも! 我々の力だけではない。この世界に散らばる数多の神話! それらの力を使った終末戦争を超えた終末戦争……その名も超終末戦争(ネオ・ラグナロク)! それこそ、我が目的! そのために80年、準備に費やしたのだからな……!」

超終末戦争(ネオ・ラグナロク)……!」

 

 天を仰ぎ、宣誓するロキ。

 もし、現代の世に終末戦争が、それも神話の時代を超える規模となればこの世界がどうなるか想像に難くないだろう。

 

「……すでに準備整っている。だが、そのためには力が魔力が足りない。だからこそこの遺跡……扉の奥にあると言われる遺産(ロストテクノロジー)! それをいただき、我が力とする……といったところがここを狙った目的、ということになるだろうな?」

「そんなことさせるわけがないだろう……!」

「ハッ! 今はまだお前たちに預けておいてやるさ! さて……このくらいでいいだろう」

「……は? っ、待ちなさい!」

 

 クルリとヴァジュラたちへ背を向け、ロキは森へ向かって歩みを進める。

 突然の行動に呆気にとられる2人だが一足早く、シミターが反応しサイスを振り上げて跳躍と飛翔を組み合わせて距離を詰めてロキを一薙に切り裂いた。

 だが、その一撃はぼやりと揺らめくロキの身体をすり抜け空を切る。

 

「ッ! まさか、幻影……!?」

「最初からこの場にいなかったのか!?」

「あぁ、そうそう。最後にだが」

 

 霞のように消えていくロキの身体を見て狼狽する2人。

 その様子にニタニタと笑みを浮かべ、ロキは言葉を続けた。

 

「あの船を襲ったのは私ではない……最後のナックラヴィーだけちょっかいは出したがね」

「なに……!?」

「そういうわけさ……お互い、敵は1人じゃないというわけだ。では、さらばだ、仮面ライダー諸君!」

 

 そう言い残し、ロキの姿ははじめからそこになかったように消え失せる。

 残されたのは2人の仮面ライダーと戦いの喧騒から身を隠してたかのように訪れた夜の闇と静寂のみだった。

 

 




付録ノ六[スキュラ]

ギリシャ神話に語られる戯我。
上半身は美しい女性、下半身には足の代わりに6頭の犬の身体と蛇とも魚のものとも言われる下半身を持つ。
名は「犬の子」を意味し、元々は人間の王女であったが魔女キルケーの毒薬によりその姿を化け物へと変貌させられた。
その後はシチリア島に近辺を縄張りとし、近くを通りかかる船を6本の長く伸びる首で襲い、乗組員を6人ずつ食い殺す怪物となった。

第七頁ご読了ありがとうございます!
前回の投稿から1月以上が経過してしまいました……お久しぶりです。
中々、社会生活を送りながらの執筆は難しいですね……それでもこの先も頑張っていきますのでご意見ご感想をいただけますと励みになります!
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