仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ   作:teru@T

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 微睡む意識の中、気がつくと見覚えのある暗闇の中にいた。
 祈りを捧げるべく作られた石造りの部屋、目の前にはギラつく赤い眼でこちらを睨む影、その手にはそれを打ち破る事ができる武器───レリックドライバー。
 まだ最適化されていない、遺産とドライバーを急増で繋げただけの未完成の物。
 不具合の可能性があっても(現代)なら迷う事なく着けただろうそれを震える手で握りしめ、立ち尽くす。
 これを付ける意味は知っている。自らの命を危険に晒し、戦いに身を置く事は恐怖こそあれ躊躇うほどでは無い。それでも荒い呼吸で見つめるそれを装着できないでいるのは───

「怖いんだよね。多くの人の命を背負う事が」

 背後から女の声が投げ掛けられる。
 当時は振り返っていたと思うが、振り返らずとも背後の様子はわかっている。
 傷を負い倒れた紅芭とそれを介抱する桜子。

「戦うことになったら守るものはどんどん増える……戦いを知らない人も戦えない人も守らなくちゃいけなくなるから」

 図星だ。
 彼女の言葉が心に突き刺さる。
 自身の思考を読まれた様に的確に言葉が紡がれる。

「だから……私が背負うよ」

 力強い声色の震える声が響く。

「あなたの役割を奪うわけじゃないわ。それ(ドライバー)は渡してくれないんでしょう? だから、あなたが背負えないものを私が背負う」

 彼女の紡ぐ言葉に震えが収まっていく。それは困惑か、あるいは安らぎか。

「代わりに私の命をあなたに預ける。何人もは無理でも1人くらいなら背負えるでしょう?」

 子供を諭す様な桜子の優しい言葉が応孥の揺らいだ心に決意を灯す。
 震えの止まった指が重みの増したトリガーを引いた。


第八頁[夜闇焦がす緑光]

 懐かしい夢から覚めた時、最初に感じたのは腹部にズシリと感じた重量だった。

 顔を上げるまでもなく、まぶたを開けばこちらを覗き込む紅芭と目があった。

 

「……おはよう。応孥」

「おはようございます、紅芭さん……」

 

 重力に従って垂れた紅芭の髪がカーテンのように周囲の光を隠す中、紅芭の手が応孥の顔を撫でる。

 応孥の目に映るのはふわりと微笑んだ彼女の笑顔と普段は髪で隠している額にある、あの日の(夢で見た)傷。

 満足したのか、傷と笑顔がゆっくりと離れると髪に阻まれていた朝の日差しが応孥の顔を照らす。

 

「カナリーが朝食を作ってくれてるの。もうすぐできると思うけど、目は覚めた?」

「……えぇ、バッチリです」

「なら良かった。先に行ってるわね」

 

 彼女がベッドサイドに立つと腹部に感じていた紅芭の重みも同時に消える。

 軽く手を振り、部屋を出た彼女も寝巻きのままであり、起きた後そのままこちらの部屋に来たことを伺えた。

 

「……朝から心臓に悪い」

 

 数秒放心していた心と早鐘を打つ心臓を落ち着かせると応孥も起き上がり、支度を始めた。

 

 

 

******

 

 

 

「やぁ、おはよう。よく眠れたかい?」

「おはよう、アル……ジェント支部長。そっちは眠れてなさそうだね」

 

 支度を終えた応孥が食卓に行くと紅芭と目の下にクマを備えたアルジェントがすでに座っていた。

 普段2人で使うため、少し手狭なテーブルの上には4人分のパンケーキとベーコン、目玉焼きの載ったプレート、それにサラダが配膳されていた。

 

「どうぞ、カプチーノです、支部長。2人はコーヒーで良かったですね?」

「ありがとう。相変わらず朝からすごいね。美味しそうだ」

 

 どこで買ったのか普段のスーツの上にピンク色でフリルのエプロンを身にまとったカナリーはアルジェントの言葉に頬を綻ばせながら、4つのカップをそれぞれに渡しアルジェントの横の席に着き、各々食事を始める。

 料理は特別手が込んでいるというわけではないが各々に合わせ焼き加減や塩気が調整されており、全員が舌鼓を打っていた。

 

「美味しい食事に集中したいと思うけどこちらも予定があってね。食べながら今回の件を一通り見直そうか」

「そうね。応孥、カナリー、まずは昨日のことを詳しく教えて」

「分かりました。まずは昨日も軽く話しましたけどロキの一団のことから」

 

 ミルメコレオによる襲撃、3体の戯我との交戦、そして人が変身していた戯我とロキ。応孥とカナリーがそれぞれ見聞きした物、自身が感じたことを応孥とカナリーがそれぞれ報告する。

 

「僕からはこんなものですね。カナリーさんは?」

「私からもこれ以上は何も」

「ありがとう。襲われた封魔司書たちも無事だと先程、連絡が来たよ」

「結果的にはこちらの被害が殆どなくて良かったわね」

 

 紅芭が安堵するがアルジェントの表情は明るくない。

 

「確かに被害は無いけど今後はどうなるか……遺産を狙うと宣言した以上、今後も何かしらのしてくると思う。最悪、街への被害もありうるだろうね」

「……そうね。楽観はできないのね」

「後、これはロキとは直接関係ないけど扉の奥についてなんだけど」

「あぁ、これだろう?」

 

 アルジェントがノートPCを取り出し、昨晩探知した画像を全員に見せる。

 反響により映し出されたのは扉の奥は扉の前と鏡写しの様に同じ広さの空間が広がっており、その中央に下へと伸びる巨大な空洞があった。

 数百メートル探知しているにも関わらず、その空洞は範囲外まで伸びており途中までしか描写されていない。

 

「内部図は同じ様なエコー調査で奥の空間と縦穴の存在はあの後調査資料を調べたら出て来たよ。データは少なかったけどね」

「そうなると問題はこれか」

 

 応孥が扉の目の前を指差す。

 そこには幅1mに満たない岩の様な塊があった。

 反響によって読み取っただけのため正確な形はわからない、しかし、わずかに穴が空いた様なその形に既視感を覚えたのだ。

 

「……正確にはわからない。ただ、過去の資料には同じ物は無かったね」

「そうなるとこれは……」

「……うずくまった人間。いえ、おそらくは遺体でしょうね」

「状況から見ても2年前に消失した研究員の1人、という事になるかな」

 

 画面に表示されたのは2年前に発生した、ミシアにある遺産"オルフェウスの大門"にて発生した研究員の集団消失についての調査報告書。

 

「私が配属される前の事件ですので資料を見ただけですが……確か、研究員10人が大門で消えた件、ですよね?」

「そう。イタリア支部から来てた常駐7人と各国の支部から派遣されていた3人の合計10人……その中にクレハの妹、サクラコ・コルシーニも含まれてる」

 

 アルジェントが表示した研究員の一覧、その中から拡大された桜色の長い髪と証明写真だというのに無邪気な笑顔にピースを浮かべた女性、桜子・コルシーニの画像。

 

「……数十分前に警備の封魔司書と研究員が会話してる。その後、遺跡の中から10人全てが忽然と姿を消したの。状況から見ても大門が開いてその中に全員入ったのがLOTの見解よ」

「同時になんの連絡も資料も残さずに消えているから何らかのトラブルで門の中に引きずり込まれた。そして、原因がわからないから再発防止のためにその後の調査も打ち切られた」

 

 何度も読み込んだ報告書の内容を2人は食事の片手間に淡々と告げていく。

 

「彼女が見つかったかもしれない割には2人共冷めてますね」

「まぁ、見つかったのが桜子とは思ってないですから。彼女は生きてる。そう考えるようにしてます」

「……そうね。えぇ、私も同じよ」

「なるほど……相変わらず、ということですね」

 

 感情を抑えた2人の回答にため息をつくカナリーだったがアルジェントになだめられるとすぐにその顔を笑顔へと戻す。

 

「とはいえ、開け方がわからない以上これは保留だ。イタリア支部に報告と調査の再開は申請するよ。私も進展はさせたい案件だしね」

 

 場の空気を溶かすように柔和な笑みと優しい口調で話を切り上げるアルジェント。

 桜子は彼にとっても従姉妹であるため内心では思うところもある。だが、支部長としての立場が私情を挟むことを許さない。

 

「後はロキとその娘、ですね? アルジェント支部長」

「そうだね。”超終末戦争(ネオ・ラグナロク)”か……あの神の場合は前科があるのがなぁ」

「前科ってどういうこと? アル……ジェント支部長」

「アルと資料を探してる時に見つけたのよ。2人ともこれを見て」

 

 紅芭がアルジェントからパソコンを借り、別の資料を提示する。

 そこに1人の男の写真が映し出されていた。

 軍服を身にまとった金髪の男。目深に被った帽子の奥には不敵な笑みが見て取れる。

 

「応孥、カナリーくん。この男に見覚えは?」

「いえ……知りませんね。支部長」

「なるほどね……これは80年前に降臨したロキの写真だよ」

「80年前……確か、ロキも80年準備に費やしたって言ってた。この時の記憶も持っているということは送還されずに現代までいるってこと?」

「それが違うの。記録によるとロキは送還されてるわ」

「なんだって!?」

 

 紅芭が読み上げた資料に拠ればロキは当時の戦争を利用し、終末戦争(ラグナロク)の再演を行おうとしていたのだ。

 

「当時、戦火に紛れてヨトゥン・ギガの軍団を利用して色を集め、超獣戯我でありロキの子供でもあるフェンリル・ギガとヨルムンガンド・ギガの復活、そして同じく子供である神、ヘルの降臨を目論んでいたの」

「ですが、今こうして世界が続いてるということは失敗したのでしょう?」

「そう。ヨーロッパの複数のLOTとロキの動きを察知した北欧の神々によってフェンリルとヨルムンガンドの復活は不完全のまま実行され、犠牲は出たけれどヨトゥンたち含めてすべて調伏。ヘルは呼びかけには応じず、降臨そのものがなされなかった。当然、ロキ本人もLOTと神々によって彼らの世界に送還された」

 

 当時の資料をスキャンした資料に勝利したことと被害の詳細、LOT側も複数人の封魔司書の犠牲といくつかのモンストリキッドを含めた装備の破損、喪失が出たことが書かれている。

 

「そうなると、やはり再降臨して……いえ、それならばラグは出るはずですし、なによりも他の神々が見過ごすとは思えませんね」

「そうなんだよ……どちらにしろ80年前と姿が違うようだしその辺りも要調査だね」

「ロキの娘の1人……あのスキュラの持ち主についても調査がいるわね」

「どちらにしろ、容姿を共有する必要があるね。それは帰ったらやろうか、カナリーくん」

「もちろんです! アルジェント支部長!」

 

 全員、食事をほとんど終えて議題もほぼ話終えたため、一息つく。

 情報共有こそできたがほとんどは謎のまま調査待ちの状態だ。

 

「後、そうだ。ロキが言ってたんだけどデイブレイク号の襲撃、あれにも黒幕がいるらしいんだよ」

「確かに、あの事件も色々謎があるからね……そちらも調査をしよう」

「出港元はアメリカだったわね。となるとそっちに確認かしら?」

「そうなりますね。昔の支部経由で確認してみます。アルジェント支部長」

「頼むよ。議題としてこんなところかな?」

 

 グッと残りのコーヒーを飲み干したアルジェントは立ち上がる。カナリーもそれに続く形で席を立ち、すでに用意していた荷物を持った。

 

「大丈夫、アル? 寝てないんでしょう? 少し休んでから行ったら?」

「ありがとう、クレハ。そうしたいところだけど支部の方に急ぎの案件が来たらしくてね」

「戦力も必要とのことなので私も共に。警備の人員は別で派遣するので」

 

 見送ろうと立ち上がる2人をアルジェントが制するとカナリーを連れ、階段を降り、玄関を開閉する音が響く。

 人の気配が半減した部屋の中、無言の時間がわずかに続いた後、はたと何かを思い出した紅芭が応孥を部屋に待たせ、自室へと戻る。

 戻ってくるとその手に持っていた黄緑色(アップルグリーン)のモンストリキッドを応孥に手渡した。

 

「このリキッドは?」

「遺跡で捕まえたグレムリンのリキッドよ。野放しにはできないから調伏をしない代わりに封入という形で本人に納得させたの。エレクトリックと相性が良いから組み合わせて使って」

「なるほど……ありがとうございます」

 

 受け取ったリキッドをホルダーにしまうと2人で食器の片付けを始めた。

 

 

 

******

 

 

 

「昨日の今日なら何もないと思ったら……都合良くはいかないものだね……」

 

 アルジェントたちが帰ったその日の夜。

 嘆息する応孥の耳に届いたのは鳥の羽ばたく音。

 森が開けた遺跡前の広場には月明かりに照らされて両手を広げた人の影が落ちていた。

 しかし、見上げればそこには鳥の翼で空を駆ける鋭利な角を生やした鹿の頭と脚を持つ怪物───ペリュトン・ギガがミシアの町へと向かって飛行していた。

 

「遺跡じゃなくて町を狙ってるってことはロキとは無関係の戯我かな……どちらにしろ、見過ごす訳にはいかないね」

 

 レリックライザーにオーシャンとホエールのリキッドをセットし、ペリュトン・ギガへと照準を合わせる。

 

Loading Color(ローディング・カラー)!》

「神器解放。撃ち落とせ、オーシャンホエール!」

Calling(コーリング)!》

 

 トリガーを引くと青い波をまとったクジラが銃口から現れ、空中を泳ぎペリュトン・ギガへと向かう。

 

『ホエエエエエエエン!!』

「!? この攻撃、封魔司書か!?」

 

 波をまとったクジラのタックルはペリュトン・ギガの意表を突き、その高度を落とした。

 しかし、すぐさま持ち直し、ギロリと攻撃の起点にいた応孥を睨みつけるとそちらへ向かって自ら降下を始める。

 対する応孥もライザーをバックルにセットし、赤2色のリキッドをセットして迎え撃つ。

 

《マグマ!》

《サラメーヤ!》

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

「変身!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)! 噴き上がる紅熱の番人! マグマサラメーヤ!》

 

 ヴァジュラに変身した応孥はガントレットをまとった拳をペリュトンの突撃をいなし、叩きつける。

 拳は胴体に直撃するがペリュトンの羽毛に覆われた肉体には傷ひとつついていない。

 翼や脚など部位を変えながら連続で殴りかかるが衝撃で身体がグラつくことはあっても有効打となるものはなかった。

 

「効かぬわ!」

「知ってはいたけど厄介だな……! それならこれだ!」

 

 反撃とばかりに打ちつけられる翼をガントレットでガードし距離を取る。

 人間の武器では傷つけることができないと記述にも残されたペリュトンにはたとえ封魔礼装といえど物理的な攻撃では効果が薄い。伝聞としてしか知らなかった応孥はそのことを確認すると次の手としてレリックドライバーのマグマリキッドを起動する。

 

《マグマ! Calling(コーリング)!》

「神器解放!」

「そんな見え透いた攻撃、食らうわけがないだろう!」

 

 肩の砲塔からマグマの砲弾を連射する。物理的な攻撃は効かなくともエレメントカラーの力ならばダメージを与えられるだろう。

 しかし、ペリュトンも遠距離からの属性攻撃を予測していたのかマグマ弾が着弾するより早く、高く飛び上がって砲弾を回避した。

 

「封魔司書がいるなどと”アイツ”言っていなかったが……まぁいい。貴様を食らってやる!」

「へぇ、情報元がいるのか。それなら見逃すことはできなくなったね」

「ほざけ!」

 

 ペリュトンは天空を駆け回り、角を振りかざしてヴァジュラへの突撃を繰り返す。

 カウンターを狙って攻撃をするも物理攻撃は効かないためパンチやキックなどの打撃は無視され、マグマによる攻撃だけを素早く回避されてダメージを与えることができない。

 有効打が無い考えたペリュトンは口角を上げ、更に苛烈に攻め立てる。

 

「口ほどにもない! そんな単調な攻撃が当たるわけ無いだろう!」

「そういうことならこれはどうかな!」

 

 接近してきたペリュトンにマグマ弾を放つ。何度もその攻撃を見ていたペリュトンは肩を向けられた時点で軸をずらし、マグマを回避し角による攻撃を準備する。

 そこにヴァジュラが拳を振るう。そのままでは効かない拳も大振りに、自らが放ったマグマ弾を潜ることでマグマをまとい、ペリュトンの胴体をマグマで焼き付ける。

 

「ぐああ!? 貴様……!」

「単調な攻撃を繰り返せばそちらも対応が単調になるだろう?」

「くぅっ! おのれぇ!」

 

 ヴァジュラにハメられ、熱のダメージに呻きながらもペリュトンは攻撃をやめて高く飛び上がる。

 飛行できるアドバンテージを活かしてヴァジュラの隙を伺う。

 だが、ヴァジュラはその隙を与えないようにホルダーから新たに2本のモンストリキッドを取り出した。

 

《エレクトリック!》

《グレムリン!》

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

「さぁ、初陣と行こうか! カラーシフト!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 上下からビリジアンとアップルグリーンの五芒星が現れ、ヴァジュラをインクが包み込む。

 アップルグリーンのアンダースーツを包むビリジアンの装甲は動きやすいように関節部や急所をのみを包むように稲妻の様なギザギザの模様が描かれている。

頭部装甲も稲妻のように尖り、鋭い目つきのアイレンズが鋭く敵をにらみつける。

 

《迸る雷光の技工士! エレクトリックグレムリン!》

 

 最後に肩の装甲に稲妻の形の突起が現れ、周囲に緑雷が迸る、2色の緑交わる新たな姿が現出する。

 変身が完了するとグッと膝を曲げ、力を溜めると大地を蹴って跳び上がる。

 身軽な見た目の通り、他の姿よりも高く跳ぶ。それでもペリュトンの高度には届かず、落下を始めた。その時、バチバチと雷電をまとった足で空中を蹴り、更に跳び上がる。

 

「!? 貴様、空が飛べるのか!?」

「ただ跳ねてるだけだよ。それでもこれだけ動ける身軽さは助かるけど、ねっ!」

《エレクトリック! Calling(コーリング)!》

 

 脚部にまとった電光で発生させた磁力を空気中の磁場と反発させ、再び空中を跳ぶとペリュトンの上を取る。

 それと同時にビリジアンのリキッドを起動し左手をかざすと拡散した緑雷がペリュトンを襲い、電撃でその動きを硬直させる。

 今度は上ではなく、下へ向けて空中を蹴る。繰り返し行った攻撃でペリュトンの武器が効かないという伝承は攻撃がすり抜けるわけではなく、効果が薄いだけで触れられることは確認済みのため、躊躇うことなくガントレットを投げ捨て、ペリュトンの翼を掴み引きずり下ろす。

 

「ぐおお! 離せぇ!」

「悪いね! ジャンプしてるだけだから飛ばれ続けると対処しきれないんだよ! 聞きたいこともあるから、引きずり降ろさせて貰うよ!」

 

 雷撃を絶やさずペリュトンに浴びせ続けながら宙を駆け、大地へと着地するとペリュトンを投げ捨てSトリガーを突き付ける。

 Sトリガーの威力は大したことないがここまで使わなかったことでそのことを知らず、更に雷撃で動きの鈍るペリュトンを脅すにはうってつけであった。

 ダメージを受けていたこともあって目論見通り、ペリュトンはヴァジュラを睨んだままその動きを止めた。

 

「誰かにここのことを聞いたって言ってたな。誰に聞いた?」

「ぐぅ……女だ。フードを被っていて顔は見えなかったがな」

 

 ペリュトンはヴァジュラの質問に渋々と言った様子で応える。最も、これには質問をさせて時間を稼ぎ、電撃によるダメージの回復を図る目的にもある。

 

「女……一緒に神がいたり、その女がロキの使いだ、とかは言っていたか?」

「言っておらんしそのような奴もいなかったわ! こちらにはLOTの連中が結界を貼っていない町があって人間が食い放題だと言っていたから近づいて来た所を食わずに見逃してやっただけだ! 貴様がいるのならば抜け駆けせずに仲間を引き連れてきたわ!」

「それはご愁傷さま……僕だけじゃなく遺産のことは何も言っていなかったのか?」

「そんなもの聞いとらん!」

「そう、か……」

 

 ペリュトンが適当な言い逃れをしている可能性も0ではない。しかし、言葉を信じるのであれば送り込んだ目的が不透明であると応孥は考えた。

 警戒こそ怠らなかったが、それでも思考に意識を割いてしまったためにペリュトンのダメージが回復し、翼が動くようになったことにヴァジュラは気づかない。

 

「(いや、ペリュトン・ギガは普段は群れで活動してる……グレムリンの時と同じで騒動を起こすことが目的か……?)」

「……油断したなぁ! 封魔司書ぉ!」

「っと! 考え込むのは後か!」

 

 動けるようになったペリュトンが角を振るう。ヴァジュラは咄嗟に回避するが反応が遅れ、Sトリガーをはたき落とされてしまう。

 それを見たペリュトンは追撃として蹴りを放ち、その勢いを利用して再び空へと逃走する。

 対するヴァジュラは跳んで追いかけるのではなく、アップルグリーンのリキッドを押し込み、起動した。

 

《グレムリン!》

Calling(コーリング)!》

 

 音声が響くと同時にヴァジュラの腕から細い緑雷が森の中へ向けて迸る。

 その直後、ガサガサと森の木々をかき分けて上空のペリュトンへとなにかが迫る。

 飛び出してきたそれは先程、ヴァジュラが投げ捨てた一対からなるガントレットモードのAウェポン。ペリュトンの行く手を妨害するように周囲を旋回、攻撃を始める。

 

「ぬぅ!? これは!?」

「グレムリンの能力さ。Aウェポンの遠隔操作、便利だろ?」

 

 飛び回るAウェポンは電撃をまとい、威力は高くなくとも弾いても縦横無尽に動き回りペリュトンをその場へ釘付けにする。

 それだけでは倒し切ることはできず、いずれ突破されるだろう。だからこそ、ヴァジュラはトドメのためグリップを引っ張り、トリガーを弾く。

 

Reloading Color(リローディング・カラー)!》

「本当はもっと色々聞き出したかったけど……仕方ない。ここで塗り尽くす!」

Last Calling(ラスト・コーリング)!》

 

 全身の装甲が展開し唸る排熱音と共に周囲に幾本もの雷撃が迸る。

激しくスパークする様に雷をまとったヴァジュラは上空を飛ぶペリュトンに狙いを定め、跳んだ。

 

《エレクトリック・グレムリン! クロマティックストライク!》

「はああああああ!!」

 

 ───稲妻が天へと落ちる。

 ジグザグの軌道を描いて空中を跳ね飛び、緑雷を最大限にまとわせた右足でペリュトンの肉体に打ち据える。

 いくら耐性のある肉体であっても雷撃をまとった必殺技には耐えきれず、その肉体は貫かれてインクとなり爆散した。

 跳躍を終え、重力に従って大地へと落下していく中、月明かり照らす夜の空を見渡すが他に敵の姿は見当たらない。

 

「抜け駆けしてきたってのは本当みたいだね……降りて少し休むか」

 

 安全を確認すると反転し、大地に向けて跳ね駆ける。

 直近の危機を退けたヴァジュラは警戒を怠ることなく1人、夜の森へと帰っていた。

 

 

 

******

 

 

 

「なんなんだよ! く、来るんじゃねぇ!」

 イタリア某所の倉庫街、人気のないその場所に男の絶叫と銃声が響き渡る。

 男の周囲には散乱した血痕と彼の仲間たちが来ていたスーツのみが散らばっている。

 仲間はすべて目の前から迫る手負いの化け物───スキュラ・ギガと彼女が使役する犬たちによって食い殺され、死体は色を失い砕け散った。

 護身用に持っていた銃は全く効果を示さす、混乱しながら乱射してついにその残弾が尽きる。

 

「っ、ど、どこのもんに雇われた! い、いや、そもそもなんなんだよおまえがぁっ!?」

「……うるさい、ゴミ」

 

 騒ぎ立てる男の喉元に犬が食らいつき、その生命を絶つ。そのまま、その男の色をすべて吸い取ると男は周囲に散らばる食べ残し(スーツ)の1つになった。

 周囲に静寂が戻ったことを確認すると犬たちがスキュラの下半身へと戻る。すると、犬たちの蓄えた色がスキュラへと還元され、ヴァジュラたちとの戦いで負った傷を修復、力を漲らせた。

 

「……食べ尽くしたか」

「足りないかな、ペムベ。そこそこ大きいマフィアに適当な情報を流して集めたつもりだったが」

「いえ、そういうわけでは……これだけ食べれば2人を回復させるだけの分ありますから」

「そうか……ロサードはまだしもサンゴは人を食らっていること知っている。隠すだけ無駄だと思うがな」

「……それでも、いいんです。あの2人にはまだ、無駄な殺しはさせたくないので。すみません、わがままを言って」

「いや、構わない。娘の想いくらいは汲んでこその父親だろうしな」

 

 戯我から人間の姿に戻ったペムベの隣に身を隠していたロキが現れる。

 数人であれば反撃されたとしても大きな騒ぎにはならない。だが、今回は数十人規模かつ激しい抵抗を受けたこともあり、周囲からざわめきと警察車両の音がこちらへと近づいてくる。

 

「ともかく、今は去るぞ。近場で戯我を暴れさせている、アイツがこちらの罪も被ってくれるだろうさ」

「了解です。お父様」

 

 2人が倉庫街を離れようと移動を始めるとその背後から「お待ち下さいな」と女性から声をかけられる。

 振り返ればフードの付いたロングコートを目深に被り、素顔も身体のラインも隠した人物、声から察するに女性が仰々しくお辞儀をして立っていた。

 その風貌から居合わせた一般人であるとは思えないペムベは警戒し、モンストリキッドを起動しようとするがそれをロキが制する。

 

「立ち止まっていただき、ありがとうございます。ロキ様」

「こちらのことは把握してるわけか……要件を聞こう」

「ありがとうございます。単刀直入に申し上げますと……私と手を組みませんか?」

 

 顔を上げた女性はフードの下に微笑を浮かべロキに手を差し出す。

 その言葉に憤慨するペムべであったが当のロキは興味深げで「ほう……」と唸り、顎を撫でる。

 

「あなた達がミシアの遺跡、その奥にある力を欲していることは知っております。そして(わたくし)も同じ、あの奥に用があります」

「それで? 大方、グレムリン共をけしかけたのもお前だろう? 自分の作戦が上手くいかないから便乗しようと?」

「えぇ、お察しの通りです。あなた達ならばあそこを護っている封魔司書の相手ができる、と考えました。もちろん、そちらへのメリットも用意があります」

 

 女の口調に迷いはなく、悪びれる様子もない。その様子にロキもニヤリと笑みを浮かべる。

 

「聞こうか。同類(・・)として力を貸してくれるのか?」

「おや、そこもお見通しですか……遺跡の扉、開き方が分からなくて困っているのではありませんか?」

 

 同類、ロキの発した言葉にペムベも彼女の正体を察する。

 ニヤつき、見つめ合っていた2人(二柱)であったが、フードの女の言葉にロキの笑顔が消える。

 

「……開けられるのか?」

「えぇ、お任せを。必要なものを手に入れるのにお力はお借りしますが」

「……お父様。いくらなんでも怪しすぎます。受けるべきでは……」

「……くく、面白い」

 

 女の言葉に真顔になっていたロキはペムベの忠言を聞き流し、邪悪に笑みを浮かべる。

 

「いいだろう。その話受けてやる」

「お父様!」

「案ずるな、出し抜く企てなどお互い様だ」

「いえいえ、企てなどそんな」

「はっ! 言っていろ。それよりも名前を聞こうか。こちらだけ知られているなんて不公平だろう?」

「あぁ、名前は……扉を開く方法と関連があるので教えられないのですが……えぇ、私のことは”フィンブル”とでもお呼びください。あなた方にとっては縁起が良い名前でしょう?」

 

 ───フィンブル、それは古きノルドの言葉で「大いなる」を意味する言葉。

 そして、ロキにはその言葉と関わりある、とある単語が思い浮かぶだろう。

 ロキが引き起こしたラグナロク、その前兆として3度に渡り冬が訪れると伝わる大いなる冬。

 ”フィンブルヴェト”が訪れた。




付録ノ七[ラグナロク]
北欧神話における世界の終末。
この戦を持って北欧の神々はこの世を去ったと伝えられ、生き残った神たちが新たな世界を築いたと伝えられている。
このラグナロクが起こる前、前兆として発生する風の冬、剣の冬、狼の冬と呼ばれる3度の冬のことをフィンブル・ヴェトあるいはフィンブル・ヴェトルという。
夏が訪れることなく、3度続く厳しい冬により人々の世は乱れ、多くの生き物は死に絶えたという。
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