璃月亡命紀行 作:蒼色の桜
皆璃月だし、璃月舞台の小説を見たい……あんまりない……?
書くか。
海を眺めながら故郷を想う。
他の国に出ることはままあれど、故郷を捨てる想いで外に出るのは長い記憶の中でも初めてのことだ。
そんな有様であれば、記憶にもある景色とは1つや2つ見ている景色が変わって見える。
まぁ、新鮮というより色褪せて見えるといった感じだ。
胸に空いた穴は時間が解決してくれるという投げやりな感じは、背負うものが無くなったが故だろう。
手癖のようにいつもはあった胸に付けた揺れるペンダントに向けられた手が空を切って、何も掴めない己の手から視線を切る。
船の甲板で潮風を浴びていると、背後からコツコツと甲板を鳴らして歩いてくる1人の女性の姿があった。
「よう、天支の兄さん。もうすぐ璃月だ」
「北斗か」
稲妻の着物とも違う璃月特有の服装に眼帯。今自分が乗っているこの船、死兆星号の船長だ。
島国である稲妻の荒れた天候の海を乗り越えられるだけの航海術を持つ女傑であり、粗相の一つでもすれば船から蹴落とされるだろう。
マジでこんな人と対等に接することが出来てた自分がいた事に首を傾げるくらいだ。心の在り方一つで過去の自分にすら驚きが隠しきれない。
「すまないな。モラもないのに船に乗せてもらって」
「いいってことさ。それに
「そうか……」
価値があるものではないことはわかるが、それが形あるもの出ないことが少々対価となっているかどうか、それで不安になるのは俺の弱さか。
「稲妻がこれから荒れる。それが先んじてわかるだけでも対応のしようがあるってものさ」
「まぁな」
これから稲妻は荒れる。
全ては雷電将軍の──いや、雷神さまの永遠の為に。
雷電将軍が命じる目狩り令に従って、国内中の神の目の所有者から神の目を剥奪し、それに抵抗する勢力との争いが起こる。
それによって、幕府側は外に逃げようとするものを囲うように鎖国を行われることになるに違いない。
そして、それは外からの干渉を防ぎ、抵抗する勢力の力を予め削ぐことになるという一点においてはまさに神の一手だ。
だが、それには相応のリスクがある。
「貿易という一面に置いてこの情報は千金にも値する……のはわかるんだが」
特に海を渡る北斗のような人物にとっては切りどころさえ間違わなければ、交渉材料としては最高だろう。
本来であれば、それを裏付けるような何かがいるが……まぁそれについては
「なんというかアレだな。あんた
「あぁ、自覚はあるよ」
「海みたいに深かった目が干上がっちまってる」
何よりも海の怖さを知る北斗からその言葉が出る辺り、過去の己の評価の高さが伺える。
ぽっかりと空いた心の穴は自分にも分かるくらい大きくて、でもそれが一体何だったのか俺にも分からなかった。
璃月港の喧騒の中を歩きながら、俺はこれからどうしようかと考える。北斗に言われたままに旅をするのもありか。モンドやスメール、フォンテーヌなんかを見て回るのもいいかもしれない。
あれから北斗とは礼だけ言ってその場で別れた。
「ありがとう北斗、送ってもらえて助かった」
「どういたしましてだ。あんたに何があったか……いや、言わなくていいさ。兎に角、あたしはあんたの旅に幸があることを願ってるよ」
そのざっくばらんとした態度と他人に対する些細な気遣いこそが、多くの船員に姉御と慕われる彼女の魅力なのかもしれない。
ただ、旅をするにも何をするにも今は路銀を稼ぐ為に最も簡単な案として、取り敢えず冒険者にでもなるかと璃月の冒険者協会の方へ足を進めているところだ。
己の腕には多少なりとも自信がある。
腰に差した刀を使って、例え神の目がなかろうと、身を立てる位のことは出来るだろう。
正直な話、生計を立てれそうな技能に戦闘と書類仕事を熟す能力くらいしか宛がない。
とはいえ、書類仕事をするような仕事をするにも宛がない為どうにもならない。となれば、やはり力を持って身を立てるしかないだろうな。
そうして、冒険者協会の場所が分からなくて市街地を突っ切って璃月港の西側をさ迷っていたときだった。
「あら、天支久しぶりね」
「……凝光か。久しいな」
その場を歩いていると、少しだけ懐かしい人間に出会った。
今の自分にはびっくりするほど似合わないであろう高級料亭、新月亭に招待されて俺は今ちょっと早めの晩飯を食べていた。
俺にモラはない、とそう言ったのだが。なんとここの会計は全て凝光が持ってくれるという、ならばと喜んでご同伴に預かっている訳だ。
「このような偶然があるものなのだな。下町に降りてきてるということは何か用があったのでは?」
璃月七星の一人、『天権』の凝光。
行政の多くを司る凝光はこの璃月港において、岩王帝君の次に力を持っており、暇はなく常に忙しいと言ってもいい。
決して、その辺を適当に歩いてて偶然出会っていい類の人間ではない。
普段はこの璃月港の頭上に浮かぶ群玉閣にて、多くの執務を行っている為、下に降りてくるということはそれなりに大きな仕事があった筈なのだが……。
「ふふっ、ただのお忍びの散歩よ」
「そうか?」
そう言うということは本当にただの休暇だったのかもしれない。だとすると、奢ってもらって悪いな、という気にもなるが。
「それに目的も大体果たしたもの」
「なるほど、迷惑になっていないならそれで良い」
にしても感慨深いものがある。昔、凝光にこの料亭の料理をご馳走したことがあったが、今とは全くもって立場が逆だ。
俺は新月亭しか知らなかったが、機会があればここと肩を並べる瑠璃亭にも足を運んでみたい。
まぁ、どちらも高級料亭なのだから、暫くの間は無理だろうが。
「ところでなのだけど」
「なんだ?」
これからが本題ということなのだろう。
雰囲気が変わったのを察して、俺は箸を置いた。
「天支、貴方が直接璃月に来るなんて珍しい。何か理由があるのではなくて?」
「……少し言えないことはあるが、それでも?」
「構わないわ。聞かせてちょうだい」
「ふむ、分かった。少し長くなるぞ」
簡単に言えば俺は神命に背いた。
雷電将軍が行なおうとした目狩り令を失効するように求めかけ、もし行うのであれば自分の神の目から取れと圧を掛けたというのがこの話の全貌だ。
それは賭けだった。
遥か昔、魔神戦争の時代から雷電将軍に従える一族の子孫たる自分であれば、目狩り令という不条理な施行を天秤に掛けたとき、己を取るだろうという慢心にも似た賭け。
まぁ、その賭けに負けたんだが?
何故こうも強気に出れたのかは今になっては分からない。その賭けの対価こそが、その想いなのだから。
──神の目というものは一般的には元素を操るために必要な外付けの魔力機構という認識だが、その在り方は個人の願いを形にし、天空に接続する為の器官と言った方が近い。
それを無理矢理奪い取るというのは非常に危険な行いだ。己の願望とは信念と被ることもある。そうなれば、家から大黒柱を引き抜くのと同義だ。
運が悪ければ、引き抜かれた個人の精神は崩壊することだってある。
俺の場合はその影響が少なかったみたいだが、少なくとも北斗には海が干上がったと表現されるくらいには影響があるらしい。
「という訳で、俺は稲妻を出て璃月にいる訳だ」
「通りで北斗から稲妻の内部事情が入ってくる筈ね」
「むっ、もう伝わってたのか?」
「えぇ、勿論。結構吹っかけられたわ」
「なるほど……」
手が早い。どうやら北斗は既にその情報を最大限に使ったらしい。
稲妻が荒れるという情報を1番活用できる人間に売るところに北斗の有能性が見て取れる。まぁ、あの凝光に吹っかけられるのは北斗くらいなものだろうけれど。
「つまり、貴方は今仕事がないということね?」
「そういうことになるな」
「これからどうするのかしら?」
「冒険者協会にでも行って路銀を稼ごうかと」
その後どうするかは今のところ未定だ。
そう言うと凝光は小さく考える素振りをとって、少ししてから口を開いた。
「提案だけど──天支、貴方うちで働かないかしら?」
「……こちらにも立場上秘する義務がある。稲妻の内部事情なら話さんぞ」
「別に構わないわ。それを抜きにしても、貴方の能力を遊ばせておくのは惜しいもの。ねえ──稲妻の
「よせ、凝光。……既に辞した身だ」
かつて稲妻において将軍に次ぐ最高権力者。
それがかつての己の立場であった。
にしても、そうか。璃月七星の下で働く。かつての友のコネのようで少し躊躇われるが、アリかナシか言えばアリだ。
何せ、戦闘よりも己の中で最も活かしやすい仕事が向こうから転がってきたのだから、受けない手はない。
「……まあ、この身が役に立つというのであれば、その話詳しく聞かせて欲しい」
「よかった、断られたらどうしようかと思ったわ」
んなこと、思ってないだろ。
この底知れなさというか、内に何を抱えているか分からないような感覚には覚えがある。
そう、あれは狐だ。
「因みに冒険者協会は港側よ」
「……むっ」
「方向音痴は治ってないみたいね」
「神の目引っこ抜かれて方向音痴が治るか、馬鹿者」
──そうして、俺の目の前にいるのは一人の少女だ。紫髪にネコの耳のようなお団子ツインテールが特徴的な勝気な印象を受ける少女。
「貴方が後任の秘書ね。私は刻晴、『玉衛』の刻晴よ」
芯の通った凛々しい声で、彼女は自分のことをそう名乗る。
──どうしてこうなった???
更新はゆっくりになるかなと。
書いてみて原神にほのぼのが多い理由がよく分かる。
miHoYo、お前の設定頭おかしいよ……(頭ぐちゃぐちゃ)