よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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28話 一方その頃の少女達

 

「折角のお休みなのに、随分と浮かない顔ですね。真澄さん」

 

「……その折角の休みを、今から潰されそうになってるからよ」

 

 護が呪術高専にて顔合わせをしているのと同時刻、高度育成高等学校では有栖と神室がカフェで向かい合って、お茶を飲んでいた。

 有栖の顔にはいつも通り人を揶揄うような笑みが浮かんでおり、対する神室は不機嫌そうに眉を顰めている。

 

「荷物持ちなら五条にでも頼めばいいじゃない」

 

「残念ながら、護君には今朝から何度も電話しているのですが一向に繋がらないのです。チャットの方も既読が付きませんし、そのことも含めて真澄さんが何かご存じないかと思ったのですが」

 

「あんたが知らないのに、私があいつの動向を知る訳ないでしょ」

 

「やはりそうですか。残念です」

 

 残念と言う有栖だが、表情に落胆の色は無い。

 その態度から最初から期待などしていなかったことがありありと分かり、神室としてはむしろ不服に感じてしまう。

 そんな神室の心情を見透かしたかのように、有栖は微笑みながら言葉を続けた。

 

「とはいえ、用事はこれだけではないのですが。本題は別にあります」

 

「……何よ?」

 

「少しご相談に乗っていただきたかったのです」

 

「相談って、あんたが? 私に?」

 

 基本的に有栖が神室に対して求めるのは、自分の代わりに動く手足としての役割であって、頭脳としての役割ではない。

 プライドが高く、事実優れた知能を持っている有栖が、自分に対して何を相談することがあるのかと、神室は訝し気な表情を浮かべた。

 

「ええ、正直、他に頼れる方が思いつかなかったものですから」

 

「……次の期末テストの話ってわけじゃないんでしょ?」

 

「勿論です。そのような些末事に時間を割くつもりはありませんから」

 

「些末事って、もう葛城は敵じゃないって訳?」

 

「敵ではないということでしたら、確かにその通りですね。先日はああ言いましたが、次のテストで今回のようなゲームを仕掛けるつもりはありませんから。

 むしろ次のテストでは葛城君に取り仕切ってもらうつもりです」

 

「は?」

 

 今回、散々葛城に対して挑発的な行動をしておきながら、次のテストでは大人しく指揮権を渡すという有栖に、神室は本気でその意図が分からなくなった。

 そんな神室に対し、優雅に紅茶を飲みながら有栖はフッと息を吐いた。

 

「このようなことを話したかった訳ではないのですが、折角ですから先にお話ししましょうか。

 まず、結論から申しあげると、こちらから手を出すまでもなく、遠からぬうちに葛城君は自滅します」

 

「……自滅って、次のテストで?」

 

「いいえ。それが具体的にいつになるか確定ではありませんが、早ければ夏休みに行われるという旅行ですね。そこで、彼の信用は大きく失墜するでしょう」

 

 今回の中間テストが開始される直前、1学年の生徒達には各担任から、夏休みに南の島での旅行が行われるとの告知がなされた。

 多くの生徒たちが期末試験を乗り切った一つのご褒美として開催されるイベントと認識する中で、一部の生徒達は違う認識を抱いていた。

 

「おそらく今回の旅行は、クラスポイントに大きな変動を与える特別な試験であると私は見ています。

 形式としては、こちらもあくまで予想ですが、サバイバル形式の合宿ではないかというのが、私の見解です」

 

「サバイバルって……」

 

 有栖のことであるから何かしらの根拠があって言っているのだろうが、それは流石に突拍子が無いだろうと、神室は疑わし気な視線を向けてしまう。

 

「あくまで予想ですよ。しかし仮に推測通りであった場合、その試験に私は参加することができないでしょう。

 遠隔地から指示を出すことが許されるのならその限りではありませんが、表立って指揮をするのは葛城君になるはずです」

 

「そこで葛城が失敗するってこと?」

 

「ええ、彼には既に毒蛇が絡みついているようなので」

 

 毒蛇というのが神室には何のことだかわからなかったが、不敵に笑う有栖の表情を見れば絶対に碌でもないことだろう事だけはわかった。

 

「もし次の期末試験で今回と同じような結果となった場合、彼の求心力は大きく落ちてしまいます。

 私も次の旅行では然程貢献できそうにありませんし、頼りない指導者に変わって新しく自分が指揮を取ろうとする方が出てくるかもしれません」

 

 つまるところ、有栖が危惧しているのは葛城の存在ではなく不確定要素の出現である。

 有栖は自分の身体的ハンデを正しく弱点と認識している。夏休みの旅行が彼女の読み通りであるならば、その弱みが浮き彫りになるだろう。

 それが原因で、有栖のリーダーとしての資質に疑問を抱く者が出てもおかしくはない。

 

「既に中間テストの一件で、こちらと葛城君どちらが上手であるのか、皆さんの印象に刷り込まれています。

 その上で、葛城君には一度リーダーとしてクラスの指揮を執っていただき、そして敗退してもらうつもりです」

 

 ようは、葛城に分かりやすい失態を演じてもらい、活躍できない自分に向けられるヘイトを軽減するというのが、有栖の狙いなのだろう。

 残る危惧は葛城がリーダーとして成功を収める可能性だが、この辺りはまた内通者を潜ませるなりと幾らでもやりようはある。

 

「つまり、相談っていうのは、その南の島の試験でのこと?」

 

 ここまで聞き、おそらくは今回の呼び出しもその件についてだろうと当たりをつけた神室だったが、しかし有栖はキョトンとした顔で首を横に振った。

 

「違いますよ?」

 

「……じゃあ何だって言うのよ」

 

 半ば確信を持って問いかけただけに、有栖の見当はずれな事を聞いたという反応を見て、神室はなんだか恥ずかしい気持ちになった。

 投げやり気味に聞き返しながら、誤魔化すように手元のココアの入ったカップを口元に運んだ。

 

「相談というのは、護君のことです」

 

「五条の?」

 

「次の試験ではそれほど動く必要はなさそうですから。

 こうして時間があるうちに、護君の対策を考えておこうかと」

 

「対策って、別にあいつは敵対してるわけじゃないでしょ?」

 

「ええ、そういう意味での対策ではないですよ。ただ……その……」

 

 神室の問いかけに対し、何故か有栖は珍しく歯切れが悪い様子で言葉に詰まっていた。

 普段の有栖らしからぬ困ったような態度。日頃彼女にこき使われている神室は、好奇心と不気味さが半分ずつ籠った視線を有栖へと向けた。

 

 有栖も、神室の瞳に籠った感情を察したのだろう。動揺を隠すようにコホンと咳払いすると、落ち着いた仕草で口を開いた。

 

「……どうすれば、護君と親交を深められるかと思いまして」 

 

「…………はぁ?」

 

 神室は、言われた言葉の意味を理解するのにしばしの時間を要した。

 親交を深める。平たく言うならば仲良くなりたい、である。

 

 そう語る有栖の頬には僅かに朱が差しており、躊躇いがちに放たれた言葉は、普段有栖のあざとい演技を見慣れた神室にして、嘘だとは思えない。

 有栖が護のことを特別視していることも神室は知っている。

 

 しかし、まるで思春期の小中学生がするようなピュアな相談事を、よりにもよって他者を手駒としか見ていないような腹黒女王の口から発せられたことに、神室は戦慄を禁じ得なかった。

 

「……今、何かとても失礼なことを考えませんでしたか?」

 

「別に、あんた達十分仲が良いのに、そんなことを言われたのがおかしかっただけ」

 

 普段の悪戯っぽい雰囲気ではなく、割と本気で険呑な様子で目を細める有栖に、危機感が刺激された神室は即座に誤魔化した。

 

「……真澄さんにはそう見えますか。しかし実のところ、護君にとって私は然程特別な存在ではないのですよ。

 友人と言ってはくれますが、彼の中で友人とは少し親しいだけの他人でしかないのでしょう」

 

 そう語る有栖の表情はどこか寂し気で、そのらしくない様子がかえって真剣味を持たせていた。

 今の弱った様子の有栖を見て、面白がったり、弱みを握ったとのたまうつもりは神室にはない。

 

 普段の有栖からの扱いに全くの不満が無いわけではないが、本当に不満しかないのであればとうの昔に投げ出している。

 基本的に彼女は面倒見が良いのだ。よって有栖の相談にも、茶化すでもなく真面目に考えることにした。

 

「前にカラオケで先輩と話していたこと、正直私は何を言ってるんだかよくわからなかったけど、結局あんたは五条とどうなりたいのよ?」

 

「そうですね、特に終着点を決めているわけではありませんが、当面の目標としては、もう少し心を開いて頂くというところでしょうか」

 

「心って……私にはあいつの態度のどこに不満があるのか分からないんだけど」

 

 神室の中の護に対する人物像は、コミュニケーション能力が高いわけではないが、コミュ障というほど問題も無く、比較的話しやすい部類の男子である。

 

「気づきませんでしたか? 護君、自分のことに関しては話そうとしないんですよ。

 普通、人は親しい相手に対し、自分のことを知ってもらいたいと思うものですが、護君にはそういう欲求が感じられません」

 

 その理屈に関しては、神室としても理解はできた。

 例えば、男子が意中の女子の気を惹く時の自慢話。友人同士で仲良くなるための共通の趣味を探るための会話。

 他愛もない身近で起こった世間話でも、自分のことを知ってもらいたいという欲求は少なからず混ざるものだ。

 

「護君には、もっと私のことを知ってもらいたいですし、私としても、護君のことをもっと知りたいのですよ。

 それがお友達というものでしょう?」

 

「……だからって、何で私に相談するのよ」

 

 人心掌握という点において、元から有栖は優れている。

 そんな相手が、一体自分に何を求めて相談など持ち掛けているのかと、神室はうんざりした気分で問い返した。

 

「正直、今の私には護君の行動理念が分かりません。

 恥ずかしながら、いざ親交を深めようと思っても、どのように距離を詰めればいいのか分からないのです」

 

 基本的に有栖の周囲にいる者達は、友人という名の手駒である。

 その人間関係を構築する手順としては、弱みを握るか、分かりやすい利益を示すか、単純な利害関係を起点とする場合が多い。

 対等な友人関係を構築するという点で、有栖の経験値は不足している。

 

(そう考えるとこいつ、話術が上手いだけでコミュニケーション能力は高くないわね)

 

「なので原点に立ち返り、一般的な男性が好ましいと思う方法が無いか、ご相談に乗っていただきたかったのです」

 

「それこそ他の女子か、橋本にでも聞きなさいよ」

 

「フフ、真澄さんはこの学校で私が一番信頼している女性ですから」

 

「白々しいわね」

 

 しかし言ってなんだが、神室自身も他の女子や橋本に相談する選択は無いなと思った。

 同性であるが故に、女子間の情報拡散力は良く知るところである。特にこのような恋愛相談染みた話題、下手をすれば翌日にはクラスの女子全員に広まっていてもおかしくはない。

 橋本に関しても似たようなものだ。あれは有益だと思えば簡単に情報を売りつける輩であるし、何なら面白がって護本人に話す可能性すらある。

 

 今回神室に相談するのだって、おそらく有栖の中ではかなり抵抗があったのだろう。

 人間関係に行き詰って相談するなど、ある種弱みを見せるようなものだ。

 

 神室は面倒くさいと思いながらも、必要とされているという点に関してはそう悪い気はしなかった。

 

(とはいっても、男子との距離の詰め方とか知らないわよ)

 

 元々神室自身、人付き合いが得意な方ではない。

 とりあえず適当に思いついたものを口に出してみた。

 

「……誕生日にプレゼントでもするとか?」

 

「残念ながら、護君の誕生日は4月27日。もう過ぎています」

 

「……あいつ、自分のことは話したがらないんじゃなかったの?」

 

「流石に誕生日などは、聞けば答えてくれますよ。

 けれど休日の過ごし方、家族に関してなど、その辺りの話になると、どことなく誤魔化すような気配を感じるんです」

 

「あっそ」

 

 神室は深く考えることを止め、再び思考を切り替えた。

 

(容姿を磨くとか、こいつには無縁でしょうし、一緒に買い物……もうやってるわね。

 昼も一緒に食べてるし、偶にお茶も……)

 

 誕生日も知っていて、学校ではいつも一緒に居て、偶に買い物やお茶もする。

 神室は考える程に、本当にこれ以上どういう関係を求めているのかと、本気で疑問を感じ始めた。

 

 一応この相談に至った経緯に関しては説明されたが、護の中にある壁だとか、神室自身は正直ピンとこない。

 むしろ高校生で、この距離間で、付き合っていないとか嘘だろうと、なんだかこの相談自体が茶番染みたものに思えてきた。

 

 考えている内に、段々と護との仲を取り持つ方法ではなく、どうしてこんなことを考えているのだろうかという方向に、思考がシフトしていく神室。

 そうしてしばらくすると、投げ遣りな気分で口を開いた。

 

「もう、お弁当でも作ってあげるとかしたら? 男は胃袋から掴めって言うし」

 

 深くは考えずに口に出した言葉。しかし言ってから、神室はハッと気づいた。

 有栖は先天性の心疾患持ち。杖が無くては碌に歩くこともできない身である。

 

 勿論身体的ハンデを抱えているから料理ができないなどと考えるのは偏見であるが、かかる手間や苦労を考えるならば、気軽に提案して良いことでもないだろう。

 神室は恐る恐る有栖へと窺うような視線を送った。

 

「お弁当、ですか……」

 

 しかし有栖は、神室の言葉を吟味するように呟くと、納得したように頷いた。

 

「では、そうしましょう」

 

「本気? 言っておいてなんだけど、適当な思い付きよ」

 

「他に有力な手立てもありませんし、試すだけでも無駄にはなりません。

 護君も、わざわざ作ってきたものを無碍にはしないでしょうし」

 

「それはそうでしょうけど……あんた料理できるの?」

 

「恥ずかしながら、一度も包丁を握ったことは有りませんね。調理道具もありませんし、これから材料も含めて買いに行きましょう。

 練習もしなくてはいけませんし、付き合っていただけますか? 真澄さん」

 

 神室は本気で、先程の自分の発言を後悔した。

 片手が杖で塞がっている有栖である。荷物持ちにされるのは必然のこと。

 まして、一度も料理をしたことが無いような危なっかしい少女を、一人で放置するわけにもいかない。

 

 この瞬間、神室の休日が完全に潰れることが確定した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 突然だが、一つ問題を出そう。

 

 今まで一度も包丁を握ったことが無く、しかし知識だけは人一倍あり、且つプライドが高く、且つ舌が肥えている人間がいたとする。

 さて、この人物は初めての料理でまともな物を作れるだろうか?

 

 その解答がこちらだ。

 

 

 …………

 

 

「危なっかしいわね。材料を切るときは猫の手にして。包丁を持つ手は人差し指を立てる」

 

「ああ、そうでした」

 

 

 …………

 

 

「ちょっと、それ分量多すぎ」

 

「え、しかしお弁当の場合、味を濃い目にするのでは?」

 

「そういうのは、適切な分量で作れるようになってからしなさいよ!」

 

 

 …………

 

 

「……卵焼きが綺麗に巻けませんね」

 

「初めてなら十分でしょ」

 

「いえ、このような物をお見せするわけにはいきません。やり直します」

 

 

 …………

 

 

 以上、一部会話シーンの抜粋である。

 

 

 

 カフェでの相談の後、有栖と神室の二人は調理用の道具と材料を買い出しに行き、その後有栖の寮室で実際に調理の練習を始める流れとなった。

 幸い、ある程度の調理器具は元々寮室に据え置きされていたが、問題だったのはガスコンロ。

 

 基本的に有栖は、杖もなく長時間立っていることができない。

 コンロの前でジッと火加減を見続けるのも辛いうえ、何より彼女に火を扱わせることに恐怖を感じた神室は、テーブルの上に置いて使えるような小型のIHコンロの購入を提案。しかし小型とは言っても片手で持ち続けるのは辛い重さ。

 

 結果、材料と調理器具含め、二人は二度ほど往復する羽目となった。

 

 そして、ようやく調理に取り掛かった末の結果が、先程の一部始終である。

 

 料理なんてレシピ通りにやれば作れるなんていうが、そう言えるのはある程度調理に慣れた人間か、手先が器用な人間だから言えること。

 大抵の初心者は、卵だって綺麗には割れないし、材料を切るときも不揃いになってしまう。調味料の少々、なんて加減も分からない。

 

 基本的に料理というのは回数をこなさなくては上達しないのだ。レシピ通りにやったとして、初めからうまくいくとは限らない。

 

 

 時刻は午後6時過ぎ。材料や器具の買い出しが終わったのは午後1時過ぎのこと。

 実に5時間の修練の結果、出来上がったのは、少々焦げた歪な卵焼き、形が不揃いのミートボール。皮が混じってる上微妙に塩辛いポテトサラダ。

 

「……もう、これでいいんじゃない?」

 

 疲れたようにテーブルに突っ伏しながら、神室は呻いた。

 しかし、そんな神室に対し有栖はやる気に満ちた様子でその言葉を否定する。

 

「いえ、この程度の完成度では恥ずかしくてお見せできません。明日も練習します」

 

 なまじプライドが高いせいで、自分がこの程度の料理しか作れないのが我慢できないのだろう。

 元々育ちが裕福なせいか、舌が肥えているのも泥沼化した一因である。

 

 有栖の一言で、絶望したように瞳が濁る神室。

 危なっかしい有栖の手つきを横から見ているのは、実際に自分で調理する以上の精神的疲労を招いていた。

 しかも当の本人はやけに高い完成度を求めており、ゴール地点が一向に見えないと来てる。

 

 どうにか打開する一手は無いかと必死に思考を巡らせる神室。

 

「いっそのこと、サンドイッチにでもしたら?」

 

 サンドイッチであればそこまで手間は掛からないため、失敗することもないだろう。

 しかし有栖は不満そうに首を振った。

 

「嫌です」

 

「嫌って……」

 

 有栖にしては珍しい、端的な拒否の言葉。

 神室には、なんだかそれが、不貞腐れた子供のように見えた。

 

「……じゃあいっそ私が作るから、それをあんたが作ったってことにして渡しなさいよ」

 

「真澄さん。それは少々、私を馬鹿にし過ぎです。他人の功績を奪うほど、私は浅ましい人間ではありませんよ」

 

(なんだって、こういう時だけ真面目なのよ……)

 

 普段、他者を蹴落とすために偽証も裏切りも良しとしているくせに、変なところで真面目である。

 

「ご安心ください。もう作り方の流れは分かりました。

 明日は一人でやってみますから、真澄さんのお手は煩わせません」

 

「…………」

 

 どうやら、ほぼ丸一日、荷物持ちや料理の練習で時間を取らせたことは、流石の有栖にしても気が引けることだったらしい。

 しかし神室は思う。

 

(いや、危なっかしいわよ)

 

 流れはわかったなどと言っているが、実際まだまだ有栖の手つきは危なっかしい。

 下手に放置して、翌日怪我をして登校されては目も当てられない。

  

「……仕方ないわね。どうせ明日は暇だし、手伝う」

 

 結局、神室は渋々とそう言った。

 

「おや、無理をされなくてもいいのですよ」

 

「あんた、危なっかしいのよ。言っとくけど、一人の時に包丁を持つんじゃないわよ」

 

「む……それは少々、私を子供扱いしすぎでは?」

 

 不満そうな有栖であるが、今日の彼女の様子を見ている限りあながちその言葉は否定できないだろう。

 どうすればお友達と仲良くなれるか、という相談から始まり、神室自身が提案したこととはいえ、弁当作りなどという安直な手段に手を出し、ムキになっている姿は、まさしく子供のようである。

 

 ともあれ、有栖としても神室の介助に大きく助けられているのは自覚するところ。

 その申し出を突っぱねるようなことはしなかった。

 

 

 そして翌日の日曜日も、引き続き有栖の部屋で料理の練習をする二人。

 

 元々有栖は要領が良い方ではある。

 結果としてその日の夕方には、それなりに見栄えの良いものが作れるようになっていた。

 

「もう、これだけできれば十分でしょ」

 

 昨日までの調理とは雲泥の出来。普通に食べて美味しいと言えるくらいの仕上がりにはなった。

 しかしそれでも有栖としては完全に満足しきれていないようで、どことなく渋い表情を浮かべている。

 

「そもそも、あいつの反応を見るってだけなら、そこまで完成度を求めても仕方ないじゃない」

 

「そう、ですね……」

 

 実際、護であれば多少拙い出来の料理であったとしても、自分の為に作ってくれたと言われれば嫌な顔をすることはないだろう。

 普段の人柄を見ていればそれくらいは予想できる。

 

「下ごしらえは、もう今の内にやっておくわよ。

 後は明日の朝、火を通して味付けするだけの状態にしておきなさい」

 

 あまり考えさせ過ぎては、また何かしら不満をぶつけられかねない。そう思った神室は矢継ぎ早に指示を出す。

 

 そもそも神室としても疑問なのだ。果たしてこの弁当を渡すという行為にいかほどの意味があるのかと。

 しかしこれだけ苦労したのだ。何かしら意味があると思わなくてはやっていられない。

 

 神室はまるで我がことであるかのように祈った。せめて、ちゃんと受け取るくらいのことはしてもらえるようにと。

 

 

 

 しかし翌日の月曜日。五条護は学校を休んだ。

 

 

 

 

 

 





 坂柳さんって多分、料理したことないだろうなと言うのは私の勝手なイメージです。

 彼女の場合、苦手なことは苦手と割り切って、躊躇いなく人に任せるタイプですし、まず自分で苦労してまで、料理をしたことはないだろうなと。

 もし、今後原作で彼女が料理をするような描写があれば、一応直すつもりではあります。

 そして神室さんの母性よ。いくら何でも面倒見良くし過ぎたかと不安なところ。
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