よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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29話 術式開示

 

「パンダ君って、食事できるんだ……」

 

 場所は呪術高専、校舎近くの訓練場にて、一同は芝生の上に腰掛け、護が持ち寄ったケーキを食べながら、雑談を交わしていた。

 

 モフモフと大きな手で、小さなタルトを食べるファンシーな光景を見ながら、パンダってお菓子を食べても大丈夫何だっけ? そもそも人形の体でどこに消えてるんだ? などと、割とどうでもいい疑問を抱く護。

 

「ああ、別に消化して栄養になってるわけじゃないけどな。

 呪霊だって人間喰ったりしても、排泄したりしないだ――ムゴッ」

 

 言葉の途中、パンダの柔らかい横っ腹に真希の拳がめり込んだ。

 

「食ってる最中に、食欲の失せること言うんじゃねぇ」

 

「注意する前に殴るなよ。動物虐待で訴えちゃうぞ」

 

「動物としての権利を主張すんなら、動物園にでもぶち込んでやろうか?」

 

 喧嘩というよりはじゃれ合いに近いやり取り。護は自販機で購入したお茶を飲みながら思った。

 

(なんか……楽だわ)

 

 高度育成高等学校に居た間は、監視カメラや無駄に察しの良い人間に囲まれていたからだろうか。やはり呪術という特大の秘密を抱えていることに、無意識ながら緊張感が働いていたらしい。

 こうして秘密を気にすることの無い、呪術師同士のやり取りを見ているだけで、なんとなくリラックスしている自分に気が付いた。

 

 と、そこで、パンダとのやり取りに一区切りがついたのか、真希が護の方を向きながら口を開く。

 

「――しかしまぁ、お前も随分と面倒臭そうなことやってんな。

 雑魚呪霊ばっかの学校の警備だって?」

 

 護の現在の事情に関しては、簡単にだが説明済みだ。

 この雑談が始まってから、まずは乙骨に関する境遇に始まり、そこから最近の近況、そして護がどうして他の学校に通っているのか、という話に移っていた。

 

「まぁね。一応卒業までの三年間契約。だから平日の昼間は、あまり仕事ができないんだよ。

 基本的に動けるのは夜間か、こうした土日くらいかな」

 

 元々、この警備の依頼は兄が高専上層部とは別口のパイプを求めて受領したものである。

 理由が理由だけに、当初はあまり明け透けに話すのもどうかと思ったのだが、肝心の兄が他人事のようにケーキに舌鼓を打っているのを見て、馬鹿らしくなった護は気にしないことにした。

 

「政府直轄の学校かなんか知らんけど、何様だよそいつら。

 自分達で依頼してきたくせして出入りも禁止とか、ふざけてんな」

 

 不機嫌そうに吐き捨てる真希。

 別段、彼女としては護に同情しているわけではないだろう。

 

 しかしながら、依頼をしてきた立場でありながら、一方的に制限をつけてくる学校側の対応は、傍から聞いていても理不尽な話だ。

 呪いを、ひいては自分達呪術師を嘗めている。そのように感じてしまっても仕方がない。

 

 護としてもその気持ちは理解できたので、しみじみとした様子で頷いた。

 

「本当にね。ただまぁ、理事長は割と話の分かる人だったよ。

 上の方に、呪術師の出入りに関して掛け合ってくれてるらしいし、それまでは我慢するさ」

 

 とは言うものの、護としてもあの学校に三年間通うのは勘弁してほしいというのが本心だ。

 今日、久しぶりに呪術師同士で交流して実感した。普段、自分がどれだけ一般人相手に気を張り詰めて接しているのかを。

 

 一応楓花のような存在もいるが、護の中で彼女の存在はグレーゾーン。未だどこまでこの世界に踏み込むかはっきりしない以上、会話の内容は選ばなくてはならない。

 

 そう考えていると、そこで兄が何か思い出したかのようにケーキを食べる手を止めた。

 

「理事長といえば、護聞いた?」

 

「聞いたって、何を?」

 

 主語も目的語も欠けた問いかけで分かるはずがないだろうと、疑問を疑問で返す。しかしその反応だけで一つの回答になったらしい。何やら納得した様子で声を上げた。

 

「あー、やっぱ聞いてないんだ。

 あのオジサン、自分の面倒事を生徒に相談するタイプでもないしねー」

 

「……面倒事?」

 

 理事長のことを馴れ馴れしくオジサン呼ばわりしていることも気になったが、それ以上に面倒事という、不穏なニュアンスを含む一言が気になった。

 

「そ、さっき護も言ってた、理事長が上に掛け合ってるって話。関係者から支持を集めてるのはいいんだけど、影響力が強まるのが面白くない連中もいるようでね。

 どうも一部で、きな臭い動きがあるらしい」

 

「きな臭い、ね……それ、結構物騒な話?」

 

 わざわざ自分に知っているかと確認する以上、単なる政治的な諍いの範疇に収まる話でもないだろうと、当たりをつけて問い返す。

 しかしそれに対し、兄は首を傾けながら返事を返した。

 

「さぁ?」

 

「いや、さぁって……わかんないのかい」

 

 自分で話を振っておきながら、その適当な調子に、無関係な他の面々も呆れ顔だ。

 

「そういう動きが事前に掴めたら苦労はないさ。とはいえ、実際脅迫状だとか、幾つか遠回しの妨害を受けてるらしいからね。

 最悪の場合も想定しといたほうがいいでしょ」

 

「……呪詛師が雇われる危険性もあると?」

 

「可能性はゼロじゃない。政治家なんて、金もコネもあるような連中だよ?

 呪詛師に限らず、何をやるか分かったもんじゃないさ」

 

 珍しく、兄からのまともな忠告。

 口調こそ軽いものであったが、その言葉の中には確かな実感が籠っており、護ばかりでなく周囲で聞いていた他の面々にも、僅かな緊張感が伝播する。

 

 そして兄は食べ終わったケーキの紙皿を軽く放り、宙で豆粒のようなサイズに潰すと、空気を切り替えるように明るい調子で口を開いた。

 

「ま、護には余計なお世話だったかな。あの人にもお守りは渡してんでしょ?」

 

「そりゃね」

 

 護とて、予めこのような事態は想定していた。だからこそ有事の際に駆け付けられるよう、理事長には護身用のお守りを渡しておいたのだ。

 とはいえ、お守りがあるから絶対安全という訳でもない。護が作る感知用呪具には分かりやすい欠点がある。

 

「けど、流石に呪力に頼らない手段を取られたら俺にはどうにもできないよ。

 その点は理事長自身に何とかしてもらわないと」

 

 護の呪具で感知できるのは、あくまで一定以上の呪力だけ。一般人が武器を持っていた場合、もしくは術師が呪力を抑えて近づいた場合は、流石に感知できない。

 

 校内に張った結界に関してはそれで別段問題は無かった。元々あの学校の警備は厳重だ。呪力を用いない方法で警備を潜るのは難しく、呪術を使えば護の結界に引っかかる。

 

「わかってるよ。あのオジサンだって、警戒してボディガードくらいはつけてるんだ。呪い以外の危険には、自分達である程度対処できるでしょ。

 護はあくまで、いざという時すぐ動けるように、警戒しておけばいいさ」

 

「……了解」

 

(一応、学校の警備面をもう少し見直しておくか)

 

 兄は簡単に言っているが、護としては憂鬱な話だ。

 現在の学校の警備は呪霊が発生しやすそうなポイントを絞っているため、巡回も大分楽になっていたが、そこに術師に対する警戒も含まれるとなると、警備面で見直しが必要になる。

 

 と、そこで兄弟の会話に区切りがついたのを見計らって、傍観していた真希が口を開いた。

 

「……てか、お前ってどういう術式持ってんだ?

 遠くの呪力を感知するだの瞬間移動だの、できること多すぎだろ」

 

 転移能力に関しては四人に詳しく説明してはいないが、兄との会話の流れと、教室で一度悪ふざけに乗って見せたことで把握されているらしい。

 もっとも、乙骨は理解できていなかったのか、キョトンとした顔を浮かべている。

 

「え、瞬間移動って?」

 

 疑問気な乙骨に対し、ぶっきらぼうな口調で真希が説明する。

 

「さっき教室でも(バカ)の後ろからいきなり出てきただろ。

 今の話でも、遠くに移動できる手段を持ってる臭かったし、外出禁止の学校に通いながら、今ここに居る時点で分かんだろ」

 

 それくらいわかれ、というような真希の態度に、乙骨は落ち込んだように肩を落とした。

 そんな乙骨をフォローするように、パンダが口を開く。

 

「そう言うな。憂太はまだ呪術に慣れてないんだ。そこまで考えが回んなくても仕方ないだろ」

 

「しゃけ」

 

 ポンと慰めるように乙骨の肩を叩くパンダ。言っている意味は分からないが、パンダに同調するような狗巻の言葉に慰められる乙骨。

 

「けどまぁ、俺としても護の術式は気になるな。

 術式の詮索はマナー違反だが、任務で組むことになるって言うなら、何ができるかくらい知っておいた方がいいだろ?」

 

 ごもっともなパンダの言葉を受け、護は兄へと視線を向ける。

 

 護自身は、この四人に対して自分の術式を明かすことに抵抗はない。

 普段、情報秘匿を優先し、自分に単独任務ばかり任せてくる兄が、わざわざこうして交流の場を設けている時点で、彼らにどれほど肩入れしているのかは理解できる。

 

 術式は呪術師にとって生命線だが、護の場合は切り札以外、術式の大枠を知られるくらいであれば問題はない。

 

 それでも一応の確認として護は兄へと問いかけた。

 

「兄さん、話してもいいんだよね?」

 

「オーケー、オーケー。術式のことなら問題ないよ。どうせここに居る全員、上層部とは折り合いが悪い訳アリばかりだからね。

 っていうか、ぶっちゃけこの子らに経験積ませるのに、護の『部屋』もアテにしてたから」

 

(軽いなぁ……)

 

 あまりに軽いノリに呆れながら、しかし内心護は驚いていた。

 護が創り出す『部屋』の存在は、奥の手中の奥の手。これまで誰にも明かしたことはない情報。

 それを明かすということは、それほどまでにこの四人に期待しているということ。

 

(いや、期待しているのは乙骨君にか……)

 

 勿論他の三名にも期待しているのだろうが、その中でも乙骨は特別な位置づけにあると護は感じていた。

 そうでなければ、わざわざ特級術師などという立場に置いたりはしないだろう。

 

「それじゃ、俺の術式について説明しようか。俺の術式は簡単に説明すると空間操作の術式だよ。

 結界で空間を切り取り、その空間内に干渉する、それが俺の術式」

 

「本当に簡単な説明だな。具体的にどういうことができるんだ?」

 

「実際に見せた方が早いかな」

 

 パンダの問いかけに対し、護はプラスチックフォークを左手で眼前に掲げ、右手で印を組んだ。

 フォークの先端部分に現れる、立方体の結界。

 

 何が起こるのかと皆が注視する中、次の瞬間、結界は勢いよく収縮し、フォークの先端部分のみを完全に消し去った。

 

「こんな風に、空間ごと圧縮したり――」

 

 言いながら護は印を組んだ指を遠くへと向けて、そこに人一人入れるサイズの結界を作り出す。

 そして次の瞬間、その結界内に現れる護の姿。

 

「こんな風に結界内に転移したりね」

 

 再び元居た場所に結界を張り、転移で戻った護は説明を続ける。

 

「3次元を2次元に落とし込む、とでも言えばいいのかな。

 3Dモデリングみたいに、結界内で区切った空間に加工を加えるのが俺の術式『盤象結界術(ばんしょうけっかいじゅつ)』」

 

「ちなみに命名は僕ね。どうよウチの弟、すごいっしょ。

 なんたって我が家のリーサルウェポンですから」

 

(俺が最終兵器(リーサルウェポン)ならあんたは何なんだ)

 

 我が事のように得意気に語る兄に呆れた視線を向ける護。

 しかしこの鬱陶しいテンションに対し、他の高専生は何の反応も見せなかった。

 乙骨は純粋に驚いている様子だったが、他の面々は聞いた情報を分析するように難しい表情を浮かべている。 

 

「……反則的だが、結界術が基点になってるってことは足し引きの法則上、何かしら制限もあるんだろ?」

 

(へぇ、パンダ君勘が良いな。夜蛾さんにかなり教え込まれてるのかな)

 

 結界術というのは原則として、ある部分で効果を増強した場合、他の側面で弱点を抱えることになる。

 分かりやすい例としては、外敵からの侵入を阻む盾としての役割を増強した場合、内側からの出入りは容易くなり、檻としての効果が薄れる、といった具合だ。

 

「まぁね。欠点としては第一に、あまりにも複雑な操作の場合かなりの集中力が必要になるってこと。

 物体を複雑な形に加工したり、光の屈折率を変えて中と外で違う景色を見せたりとか、そういった複雑な操作は実戦じゃ使う余裕がなくなる」

 

 この術式の一番の欠点を述べるならば使用難度の高さだ。五条家相伝術式『無下限術式』は、その使用難度の高さから『六眼』という特殊体質を持たなければ碌に使いこなせないと言われているが、護の術式もそれと似たようなことが言える。

 

 空間の操作といえば凄い能力に聞こえるが、実際にはできる範囲が広すぎるせいで、全ての操作を十全には扱えない。

 空間の圧縮や空間の転移。特定の操作に限って言えば訓練次第で少ないラグで発動できるようにはなるが、そうして術式を掘り下げる毎に、護は自らの未熟さを実感してしまう。

 

 呪術師には『領域展開』や『極ノ番』といった奥義とも呼ぶべき技が存在するが、護にとってこれらの技術は自らの術式の一機能に過ぎない。

 本当の意味で術式を使いこなせていると言えない以上、自分に才能が有るなどと、自惚れることは有りえないのだ。

 

「第二に、さっきパンダ君も言った足し引きの問題。俺の術式は結界を張った上で、そこに空間操作の効力を付与するっていう二段階構成。

 結界の構築だけで留めておくなら強度は落ちないけど、そこに術式効果も付与した場合、強度が極端に落ちる。

 あまり上位の相手だと、空間ごと押し潰す前に結界を破られる可能性もあるんだよ」

 

 空間そのものに作用するこの術式は、相手の力量に関わらず押し潰すこと自体は可能であるが、結界そのものはサイズが大きくなるのに比例し強度は落ち、術式発動にかかる時間も増加する。

 

 敵のサイズ、速度、攻撃力にもよるが、全身を結界で囲い無理矢理押し潰す、みたいな力技が確実に通じるのは2級の呪霊までだろう。

 準1級以上となると、どういう術式を持っているかも関わってくるので、微妙なラインとなる。

 

 逆に結界を拳大のサイズまで落とせば、ある程度の強度を維持した上で、発動にかかるラグも少なく済むが、それ程にサイズを落とすと、今度は命中させるのが難しくなる。

 

「そんでも、十分強い術式だろ。ウチの連中がお前を落ちこぼれとか噂してやがったが、猫被ってたな。

 実際何級だよお前」

 

 複雑そうな表情で護へと問いかける真希。

 禪院家と五条家、この二家は400年程前に行われた御前試合にて当時の当主が相討ちとなり、それ以来の犬猿の仲だ。

 しかし真希はその禪院家において、落ちこぼれとされ不遇の扱いを受けていた経験を持つ。

 そんな真希からすれば、実家の連中の見当違いに胸がすくと同時に、自分と同じく落ちこぼれと噂されていた護が実力を隠していたことに、複雑な心境なのだろう。

 

 そんな真希の質問に答えたのは護ではなく、兄の五条悟だった。

 

「フフン、そうだねぇ、等級認定は受けてないけど、しいてどれくらい強いかって言うと――」

 

 よくぞ聞いてくれました、とばかりの得意気な表情。

 

「――ぶっちゃけ、特級呪霊も蹴散らせるくらいには強いよ」

 

 その言葉を受け、乙骨以外の三人が驚きに目を見開いた。

 普段はふざけている自分達の教師であるが、この手のことに関して冗談は言わないと知っている。

 しかし護は、自身のことであるというのに、他人事のようにそれを聞いていた。

 

(そこまで話すのかぁ……)

 

 術式まで開示した以上、実力を隠しておいても仕方が無いというのは分かるが、今までさんざん秘匿していたことを今日一日であっさりとバラされるというのは、何とも複雑な心境だ。

 

「ちなみにこのことは秘密ね。誰にも言っちゃだめだよー」

 

 一応そう言って口止めしているが、あまりにも軽いノリに真剣味が感じられない。

 

「あぁ? なんだって隠してんだよ?」

 

 不機嫌そうな真希の声が響く。彼女は現在、実家の妨害で実力以上に低い等級に置かれている術師。早く高い等級に上がりたい身としては、逆に自ら低い評価を受け入れている護が、気に食わないのだろう

 

「やだな~、可愛い弟が権力欲に憑りつかれた薄汚い老害共に利用されるかもしれないんだよ?

 そうなったらさぁ、あいつら殺さなくちゃなんないじゃん」

 

 以前に、喫茶店で護も同様に言われた一言。

 軽い口調の中に僅かに滲んだ本気の殺意を見て、この場に居た全員の背に寒気が走る。同時に、乙骨の背後で、僅かに膨大な呪力が揺らぐのを護は感じた。

 

「おっと、いけないいけない」

 

 殺気に触発されたのか、乙骨に憑りついた特級禍呪怨霊祈本里香(おりもとりか)の防衛機能が働いたらしい。

 兄もまた、同じく呪力を感じ取ったようで、即座に殺気を収め、誤魔化すようにテヘペロっと舌を出した。

 

 その仕草を見て、白けた視線を送る三名。

 

「大の大人がそれはキツイ」

 

「だな」

 

「しゃけ」

 

 今一瞬、僅かながらに殺気と膨大な呪力に晒されたというのに、軽いノリで兄の仕草をディスる真希、パンダ、狗巻。

 何とも図太いことだと思いながら、しかし護もそこは同意した。

 

「ぶっちゃけ、俺もどうかと思うよ」

 

 すると、露骨に傷ついたように顔を押さえて、この中で唯一冷たい視線を送っていない乙骨へとすり寄った。

 

「弟と生徒達が酷い。憂太、代わりに僕の良いところを十個言って」

 

「ええっ!?」

 

 とばっちりで絡まれる乙骨。

 しかしそれを見るや高専生三名は即座に乙骨の耳元に寄り一斉に囁きだした。

 

「テンションがウザい」

 

「アイマスクがダサい」

 

「おかか」

 

 明らかに誉め言葉ではないことを言わせようとする三名。なお、どうでもいいが順番は真希、パンダ、狗巻である。

 

 三人からの滅多刺しに、これには流石に怒るかとも思いきや、露骨に傷ついたように目元を指で押さえながら、もう片方の手で乙骨の肩を掴んだ。

 

「憂太、君がそんなことを言う子だとは思わなかったよ」

 

「え、僕!?」

 

「憂太、流石にそれは言い過ぎだろ」

 

「え?」

 

 そしてその悪ノリに追随する真希。

 

「本当のことでも言っていいことと悪いことああるんだぞ。憂太」

 

「ええ!?」

 

 そして当然パンダも乗っかる。ちなみに一瞬、「パンダ、後で殴る」との呟きが兄から発せられた。

 

 乙骨は残る一人、狗巻へと縋るような視線を向けるが、それに対して狗巻は親指を立てながら口を開いた。

 

「しゃけ!」

 

 未だ狗巻検定4級の乙骨であるが、「しゃけ」がポジティブな意味で使われるのは何となく理解している。

 つまり今言った言葉は「ガンバ!」というところだろうか。

 

 四面楚歌、とは微妙にニュアンスが異なるが、助けを求める相手を失った乙骨は、自然と残る一人、護へと視線を向けた。

 

 護としてはあまり関わりたくなかったが、流石に乙骨が哀れだったので助け舟を出そうと、腰を上げる。

 しかしながら、この酒を飲んでもいないのに酔っ払いのようなウザ絡みをする面々に、どう声を掛けたものか。

 

 下手に自分を標的にされるのも面倒だと、そう思いながら、護は一つ思いついたことをダメ元で試してみた。

 フゥと呼吸を整え、息を思い切り吸い込み、そして吐き出す。

 

「祈本さーん、乙骨君が苛められてますよー」

 

 先程、兄が殺気を漏らした時の反応。呪力ではなく、殺気に反応した辺り、日常生活の間も、祈本里香の意識はある程度存在しているのでは、と護は考えた。

 

 乙骨を弄っていた生徒三名から、「おまっ、それは駄目だろ」と視線を向けられる護。

 

ゆうだを゛ぉーー

 

 それが果たして幸いだったのか、不幸だったのか、護の狙い通りに乙骨の背後で膨らむ呪力。

 乙骨に関する説明を聞いた限り、流石にこの程度のつまらないことで完全顕現まではいかないだろうと実行に移したが、不完全ながらそのあまりの呪力に、少々軽率であったかと後悔しそうになった。

 

苛めるなぁ

 

 

 

 そして3分後、あちこちに傷を作りながら地面に倒れる生徒三名の姿がそこにあった。

 なお、一人だけ無傷でピンピンしている教師一名は、先程の発言の仕返しとばかりに、倒れるパンダの上に座りながら、悠々自適にケーキの残りを食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





6/10 修正報告

 えー、本来このような報告は活動報告に乗せるべきだと思ったのですが、活動報告だと目に入らない方も多いと思いましたので、ここで簡単に載せさせて頂きます。

 高専三人組が五条先生に悪口を言うワンシーンについて、狗巻君の発言で少々問題があったことが分かったため、修正を加えました。

 詳しい内容に関しては後日活動報告にて載せるつもりです。
 本当ならもう少し捻った会話に修正したかったところですが、結局良い内容が思いつかず、とりあえず丸々カットすることに。

 味気なく感じるようでしたら、申し訳ありません。
 
 もし、何か面白い内容の会話が思い浮かんだら修正するつもりではありますが、ついつい先の話を考えることを優先してしまうので、いつになるか。



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