よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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4話 担任からの学校説明

 奇遇なことに、坂柳の席は護のすぐ左隣だった。

 

「奇遇ですね」

 

「そうだな」

 

 ほほ笑む坂柳に対し、護も愛想笑いを浮かべながら返事をするが、内心ではマジかよとショックを受けていた。

 

 まだ朝の早い時間帯だったため他のクラスメイトは少なかったが、次第にぽつぽつと人が増えてきて教室の中は賑わいを見せる。

 その中でも目立つのは隣の席の坂柳だ。見た目に関して儚げな雰囲気を持った美少女であるためか、やはり注目する者は多いらしい。他のクラスメイトから積極的に声を掛けられていた。

 

 そんな風にすぐ隣で人が集まるせいか、何人かの生徒は護の方にも流れてきて声を掛けてくる。

 

 護はそれらの生徒と差しさわりのない会話で対応しながら、冷静に周りを観察していた。

 

(名門校って割には、皆割と普通の生徒だな)

 

 優秀な人材を育成するという名目を掲げているだけに、てっきりお堅いエリート志向の人間が多いのかと思っていたが、話してみると皆普通の高校生だ。

 

 程なくして始業のチャイムが鳴ると、担任らしき一人の男性が入ってきた。

 スーツの上からでもわかる、ガッチリとした体格の厳格そうな男性だ。

 

「初めまして、新入生諸君。私がAクラスの担任を務める真嶋智也だ。担当教科は英語を担当している。

 この学校には学年ごとのクラス替えが存在しないため、基本的には3年間、私が君たちの担任を務めることになるだろう。

 1時間後には体育館で入学式が始まるが、その前にこの学校に関する説明をさせてもらう」

 

 そう言って、担任から資料がクラスの全員に回され、説明が始まる。

 まずは全員が入学前に知っていた基本的な知識に関する説明。

 3年間の外部との接触禁止。

 そしてこの学校独自で発足しているSシステムの存在だ。

 

「これから君達に学生証を配るが、この学生証は身分証であると同時に、学内施設を使用するためにも必要となるので、無くさないよう気を付けるように。

 学生証にはポイントが蓄積されており、このポイントが学内では金銭の代わりとなる。クレジットカードのようなものと考えればわかりやすいだろう。

 この学校の敷地内に存在するものならば何でもポイントで購入することができるので、覚えておくといい」

 

 何でも購入ができる、この言葉が僅かに強調されていたことを、護は聞き逃さなかった。

 

「ポイントには1ポイントにつき1円の価値があり、毎月1日に支給される決まりとなっている。

 そして新入生諸君には全員に、10万円分のポイントが既に支給されている。

 

 その言葉にクラス内に一瞬ざわめきが生まれる。

 

「10万円という額に驚いたかもしれないが、この学校は実力で生徒を測る。

 このポイントは、君達新入生にそれだけの価値と可能性があると評価された結果だ。自由に使うといい。

 ちなみにこのポイントは卒業後に全て回収され、現金化もできないので注意するように」

 

 10万という金額に不信さを感じていた生徒たちも、それが自分たちに対する評価と言われた瞬間に、表情が明るいものになる。

 全員が黙って説明を聞いていたが、教室に充満する空気は僅かに浮ついたものになっていた。

 しかし、そんな空気の中において、護は眉をしかめていた。

 

(あー……なるほど、そういう学校ね。となると、あの理事長が言ってた意味は……)

 

「ポイントの使い方は自由だ。貯めるのも貸し借りするのも、誰かに譲渡するのも好きにするといい。

 だがカツアゲのような行為は当然禁止だ。学内において、いじめ等の行為は厳しく取り締まられるからな。

 以上で説明を終わる。何か質問は?」

 

 真嶋先生の言葉に誰も手を挙げないのを確認してから、護は静かに手を挙げた。

 

「五条か、なんだ?」

 

 どうやら、担任教師はすでに生徒の顔と名前を憶えているらしい。名簿を一瞥することも無く、顔を確認しただけで名前がスッと出てきた。

 

「先ほど、先生はポイントがあれば何でも購入可能と仰ってましたが、それは物以外でもでしょうか?」

 

「……物以外というと、具体的には何のことを言っている?」

 

(正直、確認したいことは一つなんだが、それを直接聞くのも周りにおかしく思われるか)

 

「例えば権利。先生に特別に補講を頼みたいとか、休日に体育館やプールを使わせてほしいとか……1分遅刻したのを見逃してほしいとかですね」

 

 ほとんどの者にとっては意味の分からない質問だろう。補講なんて好んで受ける者はそういないし、校舎内の体育館など使わなくても、敷地内にはスポーツジムや遊泳施設が常備されているのだから、そちらを使えばいいだけの話だ。

 

 実際、護にとって前者二つの質問はどうでもいいことだった。もし突っ込んだことを聞いて。予想が外れていた場合、周りに変な奴と思われないためのカモフラージュ。

 

 重要なのは3つ目。たとえ1分でも遅刻を見逃すことがポイントで可能なのかどうか、ただそれを確認したかった。

 

(もしこれが可能なら、出席日数すら購入できる可能性がある。そうなれば大分動きやすくなるからな)

 

「可能だ」

 

 そして、その答えは護の予想通りのものだった。

 

「それでは、その権利の一覧や価格の乗ったリストがあればいただけませんか?」

 

「む……」

 

 おそらくは想定外の質問だったのだろう。真嶋は硬い表情のまま口を開こうとするも、言葉を選んでいるのかすぐには返答しなかった。

 

「……生憎とそのようなリストは存在しない。もしも必要なものがあるならば、その都度確認しなさい。

 なぜそんな物が欲しい?」

 

「深い意味はありません。ただ、何らかの病気や事故で授業に出れない時があった時など、不測の事態が起こった時にポイントで対処できるなら、そのような一覧が欲しいと思っただけです。

 私の欠席で、クラスの評価が下がっては申し訳ないので」

 

 実際には、呪霊関係で欠席することが出てくるだろうと予想しての発言だ。

 ただ、護としてはストレートに金(ポイント)で休みを買えるかと聞くのも、不真面目な生徒と思われかねないし、外聞が悪いと考えた。

 なので遠回しに価格表を求めたのだが、しかしその発言は真嶋にとって予想以上に、不都合なものだったらしい。

 

「クラスの評価だと?

 ……お前は入学前からこの学校について誰かから話を聞いていたのか?」

 

「は? いえ、入学前のパンフレット以上のことは存じませんが」

 

「……ならばなぜ、自分の欠席でクラスの評価が下がると思った?」

 

「いえ、先程の先生の話を聞いた限り、それが当たり前なのかと……」

 

「俺の?」

 

 一人称が私から俺に代わっている。おそらくは新入生の前ということで取り繕っていたのだろうが、それほどに動揺しているらしい。

 

 護にとって、この点に関しては他のクラスメイトも察していて当然だろうという認識しかなかった。

 しかし、他のクラスメイトからも、『何言ってんだこいつ』というような視線を向けられたことで、護は戸惑いながら言葉を続けた。

 

「はい、先程の先生の話からして、この10万ポイントは私達に対する評価の結果なのですよね?

 でしたら月々に配布されるポイントも、生徒の評価によって上下すると思っていたのですが、勘違いだったでしょうか?」

 

 普通に考えて卒業までの3年間、生徒全員に10万円が配布されるなど考えられない話だ。

 いや、ひょっとしたらこれだけ金をかけている学校なら絶対ないとも言い切れないが、小遣いとして渡すにはあまりにも多額の金額。学生寮の水道光熱費も無料であるのだから、ここから生活費を差し引いたとしても残る金額が大きすぎる。

 

 加えて、先ほどの真嶋の説明は、評価や価値という言葉を強調しているようであった。

 

 だから護としてはこのような考えになるのは当たり前……と思ったのだが、なぜか他のクラスメイトは呆気に取られており、ただ一人、隣で面白そうに笑みを浮かべる坂柳の視線もあって、何か間違えただろうかと不安を感じた。

 

「…………」

 

 真嶋からの返答はない。

 

(なんだ? 特殊な学校と聞いていたから警戒して考えすぎたか。もしかして馬鹿な奴だと呆れられてる?)

 

 

 その無言に対し一層不安を感じる護だが、実際のところ護の推察に間違いは無かった。

 

 ただ、当人の知る由もないことであるが、本来学校の規則によって、このシステムに関しては、入学してすぐのタイミングで生徒へ説明することは禁じられているのだ。

 故に、真嶋の立場としては、実際に間違っていない以上、否定はできない。しかしはっきりと肯定することも規則上できない。

 

 

「……仮に、その推察があっていたとして、どうしてクラス毎に評価されると思った?」

 

 結果、真嶋が選んだ選択は、明言せずに質問で返すことだった。

 

(あ、違う。これ間違ってるとかじゃなく、話しちゃダメなやつだ)

 

 だが、その返答の仕方で護の方も察した。

 おそらく学校の規則で今のタイミングでの説明は禁止されているのだろう。答えにくそうな真嶋の様子を見て、護は少しばかり申し訳ない気持ちが湧いてきた。

 

 この時点で、推察があっている確証はほぼ持てたため、話を打ち切りたいところではあるが、質問を返された以上答えなければ不自然になる。

 

「……学校という機関である以上、個人での評価以外に集団におけるチームワークも評価対象と考えました」

 

 というか、簡単に済むと思った質問だったのに、なんでこんな長々語ってるんだろうと、護は内心で諦観の念を抱いた。

 

「加えて、登校途中で他の新入生を目にしたところ、こう言ってはなんですが少々柄の悪い生徒も多く見受けられました。

 にも拘わらず、このクラスは比較的落ち着いた人物で纏まっているようなので、おそらくは成績によってクラス分けをして、順位付けしているのではないかと」

 

 実のところ、護がそう考えた理由はこれだけではない。

 学校に入ってから発見した呪霊の数。これを見て、護はこの学校内には間違いなく、生徒間での格差が生じるようなシステムがあるだろうと予想していた。

 その予想を踏まえて、このポイント制と合わせて考えた結果、思いついたのがクラス毎によるポイントの順位付けである。

 

 本人無自覚であるが、呪術師という視点で事前に特殊な学校と警戒していたが故に気づけたことだった。

 

「なるほど……大した考察力だ。

 しかし、すまない。入学式の準備もあるのでこれ以上は時間が取れない。式の後に改めて質問に来なさい」

 

 結果として、真嶋は質問の返答を先延ばしにすることにしたらしい。

 

「わかりました」

 

(面倒な質問して、すみません)

 

 護は心の中で手を合わせながら、了承の意を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 現状、地味に悩んでいる点としては、Aクラスって入学時点でSシステムの仕組みに気付いていたのかって、ことなんですよね。

 少なくとも坂柳に関しては確実に気付いていたとして、その情報が共有されていたのかどうか。

 共有されて、それでもなお減点が発生してしまったのか、それとも共有されず、素の実力であの減点に抑えたのか。

 個人的には情報を共有したうえで、それでもやはり完璧には抑えられなかったと考えるのですが、それを裏付ける描写も見当たらないんですよね。
 

 もしどちらか断定できるだけの根拠をお持ちの方がいましたら、教えていただけたら幸いです。


 ちなみに私が考えた根拠としては、第一に仕組みについて知らなかったにしては、Aクラスの残してるポイントが多すぎること。
 第二に、物語開始時点から坂柳登場までの間、特別試験など主に動いてたのは葛城にも関わらず、坂柳があれほどの求心力を得ているあたり、大きな実績を残していたはず。ただ、特別試験以外で大きな実績を残せるとしたらここぐらいしかないと思うんですよね。

 以上二つです。

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