よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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46話 無人島試験開始

 

 照りつける太陽、爽やかな潮風、見渡せば一面煌めく青い海。

 ここは太平洋上に浮かぶ船の上。護達は現在8月の夏休みに入り、豪華客船の旅行に来ていた。

 

「で、なんでわざわざこんな場所でチェス?」

 

「フフッ、潮風に吹かれながらチェスに興じるというのも、なかなか乙な物ではありませんか?」

 

 現在、護が居るのは海の景色を一望できる展望カフェ。護はそこで本を片手に読書しながら、有栖とチェス盤を挟んで向かい合っていた。

 

「まぁ、景色が良いのは認めるけどさ……」

 

 聞こえてくる波の音。運ばれてくる潮風は涼やかで、この夏の強い日差しの中においても決して不快さは無く、むしろ心地よい爽快感を与えてくれる。 

 

 そう、決して不快ではない。不快ではないのだが――こうして改めて周囲の景色を眺めていると、しみじみ思ってしまうことが有る。

 

「なぁ、前々から思ってたんだけどさ……」

 

「はい?」

 

「この学校って……割とアホじゃねぇかな?」

 

 瞬間、空気が凍ると言う程ではないが、妙な沈黙が場に流れる。

 静寂の中で、護の動かす駒の音だけがコトンと響き、有栖は盤面を見ながら神妙な表情を浮かべた。

 

「……護君、今更言うまでもない事ですが、この学校の理事長は私の父なんですよ?」

 

 思案気な表情を浮かべているのは単に盤面に集中しているためか、あるいは父の学校を悪く言われたようで気を害してしまったのか。

 

 それほど機嫌を損ねたようにも見えないのだが、一応弁明するように言葉を続ける。

 

「分かってるよ。別に俺も、あの人個人をディスるつもりはないって。

 国営直下のこの学校、理事長一人で全ての方針を決めてる訳じゃないだろうからな。ただそれにしたってさぁ……」

 

 言いながら、護はげんなりした表情でテーブルをコンコンと指で叩く。

 

()()は、流石に金の掛け方がおかしくないか?」

 

 護が指すコレとは、テーブルではなく船そのもの。

 

 今回の旅行にて使われている客船。全9階層で構成されたこの船は、船内には各種レストランの他、劇場にシアター、高級スパなど各種娯楽施設までもが完備されている。 

 そしてそれらの施設が、旅行中は無料で使用可能という至れり尽くせりな船の旅。

 

 用意するのに一体どれだけの資金を費やしたのか。少なく見積もっても数億、下手をすれば十億以上の金が掛かっていることだろう。

 

 いや、ひょっとしたらどこぞのスポンサーが気前良く提供してくれた可能性も捨てきれないが。

 というかそうであってほしい。流石にこの旅行に掛かる費用全て、国民の血税から捻出されているとしたら何とも笑えない。

 

 なんにせよ、学生の身分に与えるには破格過ぎる待遇だ。

 

「そうですね……単純にこの人数を収容できる船舶自体限られてくるのもあるでしょうが、あるいは分かりやすい飴を与える事が目的なのかもしれません」

 

「飴、ねぇ……」

 

「はい。将来社会的に確たる地位を築けば、このような旅行も当たり前になるかもしれない。

 成功者として得られる分かりやすい景色を見せることで、生徒達の向上心を高めるのが目的なのかもしれません」

 

「……そういうもんかね」

 

 一応それらしい理由を並べてはいるが、仮にそれが事実だとして、果たしてここまでの金を掛ける価値があるものか。

 護としては甚だ疑問だったが、どうせこれ以上疑問を口にしたところで真相が分かることも無いかと口を噤んだ。

 

「護君は……やはりこの学校は好きになれませんか?」

 

「ん、なんで?」

 

 ふと、有栖からそんな言葉が掛けられ、首を傾げる。

 確かにアホなどと言ってはしまったが、やはりと言われる程、普段から不満を抱えているように見えたのだろうかと。

 

「……競争を促すこの学校の在り方は、呪霊を増長させているようなものですから。

 護君の立場にしてみれば、面白くないのかと」

 

「あぁ、そのことか……」

 

 妙に言葉の端々から不安気な態度が伝わってくると思っていたら、どうやら有栖なりに呪霊の発生に関しては思う所が有ったらしい。

 彼女にとっては身内が責任者を務める学校だ。引け目を感じてしまってもおかしくない。

 

「まぁ、正直思う所が無い訳じゃ無いけど、それに関しては俺が言うべきじゃないと思ってる」

 

「言うべきではない……ですか?」

 

 有栖の問いに答える前に、護はテーブルの下で印を組むと自分達の声が漏れないよう、周囲に結界を張った。

 声の届く位置に人が居ないことは分かっているが、呪術の話題が混ざったので一応念のためだ。

 

「この辺りはもう分かってるだろうけど、呪霊って言うのは一般人が抱く負の念から漏出した呪力が、形となった存在だ」

 

 この点に関しては既に説明済みのこと。

 軽く頷き返してくる有栖を見て、正しく認識していることを確認しつつ言葉を続ける。

 

「けどな、負の念なんて大層な言い方してるが、結局それらは人が当たり前に抱く感情なんだよ。

 怒り、悲しみ、恐怖、嫉妬、そういった感情を抱くことに、呪術師や非術師なんて関係ない。

 なのに非術師にだけ、お前らの感情は害になるから自重しろ、なんて言うのは理不尽だろ?」

 

 護としても日々呪霊が増えていくこの学校の存在は、正直面倒だという気持ちはある。

 だがだからといって、この学校が無くなればいいなどと言う気は無い。

 色々とツッコミ所は目立つが、大人達は大人達なりに真面目に考えているんだろう。

 

 ならば、呪霊が発生してしまうこと――非術師である事を理由に学校の在り様そのものを否定してしまうのは、理不尽な事に思えた。

 

「……なるほど。しかしそれは、あくまで道理の問題ですよね。

 護君自身の感情は、どうなのですか?」

 

「感情……」

 

 そう聞かれた瞬間、一瞬あの日夏油に言われた言葉が頭をよぎった。

 

 

 ――君はこの学校を見てどう思った?

 

 

「……別に、さっきはああ言ったけど、俺もこの学校の事を完全に理解できてる訳じゃ無いからな。

 誰だって世の中に対して不満を零すことくらいあるだろ? 俺のそれだって、同じようなもんさ」

 

 有栖の問いに答えながら、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「この監視体制とか普通の学校より面倒臭いとは思うけど、呪術師やってりゃ忙しいのなんか元からだ。

 呪いが出たなら祓う。この学校に居ようと居まいと、俺の役割は変わらない」

 

 仮にこの学校が虐待染みた非人道的な教育方法を取っていたならば、どう思ったかは分からないが。

 現時点で護にとってこの学校は、少々変なカリキュラムを行ってる程度の認識でしかない。 

 

 護としては正直に自分の心情を話したつもりだが、しかし有栖の思案気な表情は晴れなかった。まだ何か言いたげな様子に問い返す。

 

「君は何を気にしてるのさ?」

 

「私は……ひょっとしたら護君は、術師でない人間が嫌いなのかもと思ったんです。

 あなたは、夏油という方の理想を否定しませんでしたから」

 

「それ……今までずっと気にしてたのか?」

 

 護は驚きと呆れの混ざった視線を有栖へと向けた。

 夏油の襲撃が有ったのは、もう1か月も前のこと。

 その間、学校では特に変わった様子は見られなかったが、内心でそんな不安を抱きながら過ごしていたのかと。

 

 しかし有栖は、それに対し首を横に振る。

 

「ほんの一抹の可能性としてです。これまで接してきて、護君からそのような感情は見えませんでしたから。

 仮にあの方に賛同するような人間と思っていれば、このような事を直接聞いたりはしません」

 

 そう言いながらも、有栖の瞳には僅かに不安の色が見えた。

 いつも人の心の底をズケズケと探る有栖にしてはらしくない。呪術の恐ろしさを知ったが故に踏み込むことを躊躇っているのか、あるいは護との友人関係に亀裂が入る可能性を危惧しているのか。

 

 護はテーブルの上にあるオレンジジュースを一口飲んで一息つく。それは自分が落ち着く為と言うより、落ち着いたモーションを見せることで有栖の不安をほぐす為。

 

「……俺があの人の理想を否定しなかったのは、俺にはその資格が無いと思ったからだ」

 

「資格?」

 

「世界を変えるのに必要な物、それは意志と力だ。俺にはその両方が無く、あの人には少なくとも意志が有った。

 世界の在り様に興味の無い俺が、どうしてそれを否定できるよ」

 

「…………」

 

「世界に正しい姿なんてありはしない。勝者が描く世界、それだけがただ一つの現実になる。

 あの人の理想と兄さんの理想。どちらが人類にとってより良いかなんて知らない。

 俺はただ――自分の命は兄さんの為に使うと決めている」

 

 コツンと、会話の最中も響いていた駒を動かす音が途切れ、いつの間にか護の瞳はいつぞやのチェスの時のように暗く沈んでいた。

 盤上では既に勝負は決した。勝敗は黒――護の勝利だ。

 

 これ以上打っても、形勢は変わらない。にも拘らず、盤面に視線を固定した有栖。

 

 そしてふと、彼女が口を開こうとしたところで、船内にアナウンスの声が響いた。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、ぜひデッキにお集まりください。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

 瞬間、スッと我に返ったように護の瞳に光が戻る。

 

「意義ある景色ね……どうやらそろそろみたいだな。俺達も見に行くか?」

 

 言いながら、チェス盤を片付けるべく手を伸ばす。

 有栖はその姿をジッと見ながら、静かに口を開いた。

 

「護君」

 

「ん?」

 

「正直言うと、私はAクラスで卒業することに然程意義を見出していなかったのです。

 仮に他のクラスで卒業しようと、どのような進路も選べる自信がありましたから」

 

「まぁ、君ならそうかもね」

 

 何の話だろうと思いながら、軽い調子で言葉を返す。

 実際、有栖の頭脳をもってすれば大抵の進路は望むままだろう。

 

「けれど今は、少しだけAクラスの特権が欲しいと思えてるんです」

 

「へぇ、そりゃどうして?」

 

「いえ、大したことではありません。ただ次の試験、私は少し真剣に取り組もうかと思います。それを知って頂きたかっただけです」

 

 わざわざ事前に決意表明をするなど、何とも有栖らしくない。

 一体どういう風の吹き回しかとは思ったが、しかし冗談の類にも見えなかったため、護は深く考えることを止めた。

 

「……まぁ俺としても、次の試験はそれなりに貢献しなきゃと思ってたし。真剣にやるって言うなら協力はするよ」

 

「では、よろしくお願いしますね」

 

 そう言って、有栖は微笑みを返した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 アナウンスの後、船は島の全体像を見せるようにグルリと一周してから桟橋へと止まった。

 生徒達は全員がジャージへと着替え、荷物検査を受けてから船を降りる。

 

 砂浜にて、クラス毎に並ぶ1年生160名。

 その生徒達の前に用意された白い壇上に立ち、Aクラス担任真嶋は(おごそ)かな態度で言葉を発した。

 

「ではこれより――――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 途端、各クラスにて起こる騒めき。

 それはAクラスも例外ではない。護と有栖は事前にある程度の予測を立ててはいたが、不確定な部分も多かったため触れ回ることは無かった。

 それでも何かあると察していた者は多かったのか、他クラスに比べれば大分マシだったが。

 

「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了となる。君たちはこれからの1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる。なお、この特別試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的、かつ現実的なものであることを最初に言っておく」

 

「無人島で生活って……船じゃなくて、この島で寝泊まりするってことですか?」

 

 他クラスから疑問の声が飛ぶ。

 

「そうだ。試験中の乗船は正当な理由無く認められていない。この島での生活は眠る場所から食事の用意まで、その全てを君達自身で考える必要がある。スタート時点で、クラス毎にテントを二つ。懐中電灯を二つ。マッチを一箱支給する。それから日焼け止めは制限なく、歯ブラシに関しては各自一つずつ配布することとする。特例として女子の場合に限り生理用品は無制限で許可している。各自担任の先生に願い出るように。以上だ」

 

 事ここに至り、ようやく生徒達も自体が飲み込めてきたらしい。

 だが当然、このような有無を言わさず一方的に情報を並べるだけの説明で納得できるものではない。

 

 ありえない。馬鹿げている。あちこちからそんな声が上がるが、真嶋はそんな生徒達にも毅然とした態度で対処し、次第に文句を言った生徒は、消沈したように黙りこくった。

 

 苦情が収まったところで、改めて説明が再開される。

 

「――この無人島における特別試験では大前提として、まず各クラスに試験専用のポイントを300支給することが決まっている。このポイントを上手く使うことで1週間の特別試験を旅行のように楽しむことが可能だ。そのためのマニュアルも用意している」

 

 すると真嶋は他の教師から数十ページ程の冊子を受け取ると、それを生徒達に見えるよう掲げた。

 

「このマニュアルには、ポイントで入手できるモノのリストが全て載っている。生活で必需品と言える飲料水や食料は言うに及ばず、バーベキューがしたければその機材や食材も用意しよう。海を満喫するための遊び道具も無数に取り揃えている」

 

「つまり――その300ポイントで欲しいものが何でも貰えるってことですか?」

 

 生徒達から飛ぶ質問に頷きが返される。

 加えて補足するように続く説明。300ポイントをやりくりすればこの無人島でも無理なく過ごせる事。

 この試験においてこなすべき難しい課題などは無く、2学期以降に悪影響を及ぼすことも無い事。

 

 それらの説明に生徒達の緊張が解けていくが、そんな中で護は面倒臭そうに目を細めた。

 

(なるほど、そういう試験か……)

 

 おそらく護だけでなく、有栖ら一部の生徒も察したことだろう。与えられるポイントの正しい意味。

 

 案の定、それはすぐに明らかになった。

 

「この特別試験終了時には、各クラスに残っているポイント、その全てをクラスポイントに加算した上で、夏休み明けに反映する」

 

 つまりはこの島でどれだけ効率的に生活できるか、それ自体がそのまま評価となって反映されるということ。

 学力や運動を競う試験でないからか、特にDクラスの生徒達からやる気に満ちた声が上がる。

 

(つっても、それだけじゃないだろ)

 

 ただ生活能力だけを競うならば、各クラスで大きな差は生まれない。

 まだ他にも幾つかルールはある筈だと、油断なく続く説明を待つ護だったが、しかしこの場ではこれ以上の説明は無いようだった。

 

「マニュアルは一冊ずつ各クラスに配布する。紛失などの際には再発行も可能だが、ポイントを消費するので大切に保管するように」

 

 言い終わると、各クラス担任から補足説明を受けるよう通達があり、その場は解散となった。

 

 各クラス、自らの担任に付き従って移動する生徒達。

 しかし護は真嶋の背を追うよりも先に、女子が並んでいた列の方へと向かった。 

 

「歩けそうか?」

 

 そう言って声を掛けた相手は、当然有栖。

 有栖の方も護が来ることを予見していたのか、皆が動きだす中で神室と共にその場に留まっていた。

 

「歩けない訳ではありませんが、皆さんのペースに付いていくのは厳しいですね。

 まだ杖無しで長時間の歩行は難しいですから」

 

 この1か月、反転術式による治療を施された有栖だが、未だ一人で完全に歩行できるレベルには達していなかった。

 短時間であれば杖無しでも歩ける程度には快復したがそれだけ。

 今回の試験においても、本来生徒は指定の荷物しか持ち込めないところ有栖だけは特別に杖の所有が認められていた。

 

「そうかい。んじゃほれ」

 

 リュックを正面に担ぎなおし、有栖へ背を向け屈みこむ。

 

「そこはお姫様抱っこでは?」

 

「我が儘言うな。背負う方が楽なんだよ。はよ、置いて行かれるぞ」

 

「仕方ありませんね」

 

 不満気にしながらも有栖は杖を神室に預けると、大人しく護の背に乗った。

 それを見ていた神室が呆れた表情でポツリと呟く。

 

「……あんた達、そういうこと平然とやってるから付き合ってるとか言われんのよ」

 

「仕方ないだろ。これが一番手っ取り早いんだから。周りの視線とか、もう気にするのも面倒臭い」

 

 この1か月で、護の方も例の噂に関しては慣れてしまった。

 最初の頃は色々と詮索されることも多く鬱陶しい思いもしたが、今では遠巻きに疑惑の籠った視線を向けられる程度に落ち着いた。

 

 まぁ最近はその中に、微笑ましいモノに向けるような生温い視線が混ざってきたのが気にはなるが。

 

 と、多くの者が遠巻きに眺める中で、一人の男子生徒が護達に近づいてきた。

 

「おいおい、五条大丈夫か? 幾ら姫さんが軽くても、二人分の荷物まで持ってたらキツイだろ。荷物持ってやろうか?」

 

 声を掛けてきたのは橋本。

 彼もまた、ちょいちょい有栖と護の関係を邪推しては揶揄ってくる男だが、今は純粋に有栖を抱えて平然としている護に驚いている様だった。

 

 それも当然か。有栖は自分のリュックを背負った状態で護に背負われている。

 この程度の重量、護にとってはどうってことないのだが、傍から見たら嵩張る荷物は随分と重量感を感じさせる様相だ。

 

 しかし護は軽い調子で言葉を返す。

 

「ああ、いいよいいよ。どうせ大した重さじゃないし」

 

「護君、そこは大した重さではなく、軽いからと言うべきです」

 

「そこって重要か?」

 

「大事な事です。特に女の子にとっては」

 

 ちなみに、護は現在呪力による強化を使っていない。少なくとも意識している範囲では。

 元々、代々戦闘を生業とする呪術師の家系は、純粋な身体能力においても一般人より高い素養を持っている。

 加えて、戦闘において体術に重きを置く護は普段から肉体鍛錬にも余念は無い。少女一人背負うくらいどうということは無い。

 

(別に気にすることもないだろうに。有栖の体重なんて、あって40キロちょいってとこだろうし、荷物を加えたって大した重さじゃ――)

 

 と、護がそんなことを考えていると、両の頬をいきなり有栖にグイッと引っ張られた。

 

ふぁにふんのふぁ(なにすんのさ)

 

「いえ、なにか良からぬ思考を感じたので」

 

 別に重いなんて思った訳でも無く、それこそ後ろで表情すら見えていないというのに、護の思考を読み取ったらしい。

 グニグニと頬を引っ張る有栖に、されるがままの護。

 

 それを見て、橋本が隣にいる神室に声を掛ける。

 

「……なぁ、この二人これで付き合ってねぇの?」

 

「少なくとも五条はそう言ってるけど」

 

「マジか……」

 

 

 そんなやり取りから程なくして、十分に他クラスと距離が取れたところで一行は立ち止まった。

 少し遅れて到着した護達だったが、有栖のクラス内での立場もあって、何人かの生徒は前の方の場所を空けてくれたのでそこで有栖を降ろす。

 

 そして全員が揃ったことを確認できたところで、真嶋は口を開く。

 

「これより全員に腕時計を配布する。これは試験終了まで外すことなく身につけておくように。許可なく腕時計を外した場合にはペナルティが課せられる。

 この時計は時刻の確認だけでなく、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPSも備えている。また万が一に備え学校側に非常事態を伝えるための手段も搭載されている。

 緊急時には迷わずこのボタンを押すように」

 

 瞬間、護は内心で激しく舌打ちした。

 ある程度は予想していたことだが、想定以上に厳重な管理。

 リアルタイムで監視されている以上、転移で移動するのは困難になった。

 

(……一応方法が無い訳でも無いが)

 

 なんにせよ、しばらくの間は呪術師としての仕事はお休みである。

 一応この旅行前に兄に伝えて日程調整は行ってきたが、やはり1週間も仕事から離れるというのは少し気が引けた。

 

「この時計は完全防水となっており、身に着けたまま海などに入っても問題無い。

 仮に万が一故障した場合は、ただちに管理者が駆けつけて交換することになっている」

 

 壊れた場合の対処も抜かりないときた。

 生徒達の安全を考えた当然の配慮なのだろうが、しかし護としては受け取った時計を内心苦々しく思ってしまう。

 

 とはいえ、いつまでも時計に気を取られても居られない。

 護は気持ちを切り替えて、ルール説明をする真嶋の声に耳を傾ける。

 

「それでは、まずこの試験における禁止事項から説明していく。マニュアルの最後のページにも載っているので、後程各自で目を通すといい」

 

 マニュアルに書かれているのは4つのペナルティ。

 

 ・著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された者はマイナス30ポイント。及びその者はリタイアとなる

 ・環境を汚染する行為を発見した場合。マイナス20ポイント

 ・毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合。一人に付きマイナス5ポイント

 ・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合。生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収

 

 当然と言えば当然のルール。

 しかしそれらを聞いて一つの疑問が湧きあがる。

 

「先生、いいでしょうか?」

 

「五条か、なんだ?」

 

「先程言っていた、腕時計を外した場合のペナルティがありませんが」

 

「む……」

 

 想定外の質問だったのか、訝し気な表情を浮かべる真嶋。

 その表情が「またこいつは変な事を……」とでも言っているように見えて、護は一瞬質問したことを後悔した。

 

 よくよく考えれば当然の話か。何が有るかも分からない無人島。そんな中で安全装置とも呼べる物をわざわざ自分から外す者など想定していないだろう。

 

「この時計はこの試験を受ける上で最低限身に着ける義務のある安全装置だ。ペナルティという言葉を用いはしたが、実際に外されることは想定していない。

 普段の学校生活で外部と連絡を禁止しているのと同じようなものだ。

 罰則として明文化してはいないが、意図的に外した場合それなりに重いペナルティが下ると思っておくように」

 

「分かりました」

 

 結局、具体的な回答は得られなかったが、要は絶対に外すなということだろう。

 

「他に質問がある者は?」

 

 真嶋の言葉に、続けて隣にいる有栖が手を挙げる。

 

「坂柳」

 

「はい、ポイントが0より下、マイナスになることは有るのでしょうか?」

 

「無い。仮にポイントを全て使用した状態でペナルティが発生したとして、0より下になる事。その負債が蓄積することも無いと保証しよう」

 

「なるほど。ありがとうございます」

 

 その後も、真嶋の説明は続く。

 この島では試験終了まで担任は拠点となるベースキャンプでクラスと行動を共にすること。

 点呼はそこで行い、ベースキャンプは正当な理由なく変更できないこと。

 各クラスには簡易トイレが支給されるので、必要になった際はそれを使うこと。

 

 途中トイレの説明で、主に女子達から小さな悲鳴が上がったりもしたが、説明自体は淀みなく続いていく。

 

 そして話は一番重要となるだろうポイント。追加ルールに関する話へと移った。

 

「ではこれより、追加ルールについて説明を行う」

 

 内心、来たかという思いで一同警戒を強める。

 

「この島の各所には、スポットとされる箇所が幾つか設けられている。それらには占有権と呼ばれるものが存在し、占有したクラスのみ使用する権利が与えられる。どう活用するかは占有したクラスの自由だ。

 但し占有権が効力を発揮するのは8時間のみ。過ぎた場合、占有権は取り消され、その都度各クラスに取得する権利が発生する」

 

 どう活用するかは自由、そのような言い方をする辺り、そのスポットとやらには生活する上で得になる何かが置かれているのだろう。

 しかし、本当に重要なのはここからだった。

 

「スポットは占有するごとに1ポイントのボーナスポイントを得ることが出来る。ただしこのポイントは暫定的なものであり、試験中の使用はできない。

 このポイントは試験終了時にのみ清算され、加算される仕組みになっている。

 学校側は()()()()()()()()()ため、このルールにおける不正の余地は無い。注意するように」

  

 監視をしているの一言に、顔を顰めたくなる護。

 具体的な監視体制まで確認したいところだが、また変に思われても困ると自重する。

 

「この特殊ルールに関してはマニュアルにも詳しく記載されている。これも各自確認しておくように」

 

 

 スポットに関する大まかなルールは以下。

 

 ・スポットを占有するには専用のキーカードが必要である

 ・1度の占有に付き1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用できる

 ・他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合50のペナルティを受ける

 ・キーカードを使用できるのはリーダーとなった人物に限定される

 ・正当な理由なくリーダーを変更することは出来ない

 ・最終日の点呼の際、他クラスのリーダーを当てる権利が発生する

 ・リーダーを当てる毎に50ポイントを得る

 ・リーダーを当てられた場合、マイナス50ポイント。ボーナスポイントも没収となる

 ・リーダー以外の人物を指名した場合、マイナス50ポイントのペナルティを受ける。

 

 

「例外なくリーダーは必ず一人決めてもらうが、参加するかどうかは自由だ。

 リーダーが決まったら私に報告するように。その際にリーダーの名前を刻印したキーカードを支給する。

 制限時間は今日の点呼まで。それまでに決まらない場合はこちらで選出することになる。以上だ」

 

 そう言って話を締めくくる真嶋。

 護は改めて、説明された内容を脳内で反芻し吟味する。

 

(幾つか気になる点はあるが、やっぱ一番気になるのは――)

 

 と、護の思考が終わらぬうちに、一人の男子が皆の前に進み出た。

 

「皆、これから決めるべきことは色々とあるが、まず俺から提案――と言うより、一つ言わせてほしいことが有る」

 

 そう言って声を張り上げたのは、もはや仕切り役としてはお馴染みの姿となっている葛城。

 一部、有栖の派閥に属する生徒達は面白くない顔をする者もいたが、まずは何を話すのかと、一様に耳を傾ける。

 

 誰も反論する者が居ないことが確認できたところで、葛城は有栖へと焦点を向け口を開いた。

 

「坂柳。お前はリタイアするべきだ」

 

 途端、有栖の派閥の生徒だけでなく、葛城の派閥に居た生徒までもが驚いたように目を見開く。

 当然だろう。生徒のリタイアは一人に付きマイナス30。最初からその不利を背負おうと言うのだから。

 

「何を勝手な――!」

 

「言いたいことが有るのは分かるが、まずは聞いて欲しい!」

 

 誰かが語気を荒げて反論をしようとしたところで、それを一層強い声音で封じる葛城。

 そのまま彼は言葉を続ける。

 

「お前の体が健常な状態になりつつあることは聞いている」

 

 学校関係者およびAクラスの生徒達にも既に有栖の体が快復に向かっていることは、既に通達されていた。

 

 旅行前の段階――正確には7月の第三週を過ぎたあたりで快復の兆候を見た家入は、少なくともこの治療方法に一定の成果有りと認めた。

 その声もあり理事長は学校側にも通達することを決定。一つのバックストーリーをでっちあげた。

 

 曰く――

 

 

 入学前の段階で坂柳有栖は一つの手術を行っており、リハビリ自体は入学時点から続けていた。

 治療が成功したといっても長期のリハビリが必要であり、当初は完治までの目途が立っていなかったため教員各位にも通達は控えていた。

 しかし入学後の懸命なリハビリもあって、最近になって成果が現われてきたこと。今回の旅行に当たり彼女の体調を危惧する声が多いことを鑑みて、通達する運びとなった。

 

 

 と、内容としてはこのようなもの。

 設定として色々と強引な部分はあるが、病院の診察記録もでっちあげ、実際に彼女がリハビリで歩いてる姿を見せれば、それ以上疑う者は居なかった。

 

 閑話休題、葛城の話に戻る。

 

「それ自体は喜ばしいことだと思う。だが先程五条に背負われていたこと、手元の杖から見ても通常の歩行は困難なのだろう?

 そのような状態で挑むのにこの試験は過酷過ぎる。不測の事態が起こる前にリタイアするべきだ。

 ここにいる誰も、それを責める者は居ないだろう」

 

「おいおい、そんなこと言って、ウチのボスを排除したいだけじゃないのか?」

 

「橋本、お前! 折角葛城さんが心配してやってるのに!」

 

 挑発的な笑みを浮かべる橋本に対し、戸塚が声を荒げて噛みつく。

 二人の声を皮切りに、両派閥の間で険悪な空気が立ち込め始めたところ、葛城が一喝するように戸塚に制止の声を掛ける。

 

「よせ弥彦!」

 

「けど葛城さん、こいつら……」

 

「この試験はクラスが一丸となって挑むべき試験だ。最初からこのような諍いを起こしている場合ではない」

 

 悔しそうにしながらも押し黙る戸塚。

 葛城は橋本を見やると、次に有栖へと向き直り言葉を続けた。

 

「どう受け取ってもらっても構わないが、今回の試験で坂柳に出来ることは無い筈だ。

 下手な無茶をして悪化する前に、早々にリタイアした方が賢明だ」

 

 真面目な葛城の事だ。おそらく橋本の言うような打算も確かに含まれてはいるのだろうが、大半は純粋に有栖を気遣っての事だろう。

 

 だが、今更こんな申し出を素直に受け入れるようなら、最初から有栖はこの旅行に参加してはいない。

 

「フフ、お気遣いありがとうございます、葛城君。けれどその結論を出す前に、一つ私からも提案があるのですがいいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

 これまでの経緯もあってか、問い返す声には警戒心が滲んでいる。

 そんな警戒もどこ吹く風で、有栖はまるで散歩にでも誘うような気軽さで、その提案を口にした。

 

「今回の試験におけるキーカードを持つリーダー。これを私に任せては頂けませんか?」

 

「なっ……」

 

 一瞬、驚愕に言葉を失う葛城。驚いたのは彼だけではない。彼の派閥の生徒達、ひいては有栖の派閥に属する者達ですらも、その提案の意図が読めずに目を瞠った。

 

 例外が居るとすればただ一人、有栖の隣に立つ男。

 護だけは正しく有栖の狙いを察していた。

 

(まぁ、有栖なら気付くか)

 

 護自身ルールを見た段階で感じたことだが、そもそもこの試験、意図的に作り出したような穴がチラホラと見られた。これはその内の一つ。

 有栖の性格と身体的事情を考えるなら、リーダーに関する条件を聞けばむしろ気付いて当然と言えた。

 

 思考を巡らし言葉に詰まった葛城より先に、戸塚が感情のままに語気を荒げる。

 

「馬鹿言うな、ルールを聞いてなかったのか!?

 スポットを占有するのはリーダーじゃなきゃできないんだぞ!」

 

「ええ、存じています」

 

「ッ……碌に歩けもしない癖に、どうやってスポットを回るつもりだ。

 葛城さんにリーダーを譲るのが嫌だからって、あまり勝手なことを言うなよ!」

 

「勝手ですか。私はあくまで提案をしただけなのですが。

 今回の試験において、このクラスに私以上の適任は居ないと思いますよ?」

 

「はぁ? 何言って――」

 

 なおも言い募ろうとする戸塚の肩を掴み、葛城が前へと進み出る。

 

「どういう意味だ? 言い方は悪いが、弥彦の言葉は間違っていない。

 スポットを占有するにはこの足場の悪い島を歩き回る必要がある。過酷な仕事だ。

 加えて他クラスにリーダーを当てられる危険もある以上、既に知名度のある俺やお前は避けるべき――ッ」

 

 と、言いながら何かに気付いたのかハッとした表情をする葛城。

 

「……まさか、最初からスポットの占有を諦めてキャンプに籠るつもりか?」

 

(あー、そっちの方向に行ったか)

 

 確かに、それも一つの手だろう。リーダーを当てられる危険を考えるならば、ベースキャンプだけ決めてリーダーをそこに匿えば情報が漏れる心配も無くなる。

 有栖が動けないという前提で考えるなら、葛城がそのように考えても仕方がない。

 

 しかし、残念ながらその考えは外れである。

 

「いいえ違います。むしろスポットは積極的に占有していくつもりです」

 

「何だと?」

 

「そうですね……効率良く説明する為にも、まず真嶋先生に一つ確認しておきたいのですが、いいでしょうか?」

 

 そこで距離を取って事態を見守っていた真嶋へと視線が集まる。

 

「なんだ? 言っておくが、試験の結果を左右しかねない質問には答えられない」

 

「フフ、それ程複雑な質問をする気はありません。

 これから申し上げるのは例え話。それがYESかNOか。正しいか否かを言って頂ければ結構です」

 

「……言ってみろ」

 

「はい、ではもしもの話ですが――リーダーとなった生徒がリタイアしてスポットの占有が出来なくなった場合。

 これは、リーダーを変えるための()()()()()になりますか?」

 

「ッ――!」

 

 瞬間、質問された真嶋を含め、生徒達も一様にハッとした表情を浮かべた。

 

「…………」

 

 渋い表情を浮かべて沈黙する真嶋。

 それもそうだろう。先ほど言ってた結果を左右しかねないという点で、この質問はグレーゾーン。

 他の生徒が純粋な疑問で聞いたのであれば、所詮は単なる事実確認。素直に答えても問題は無かったかもしれない。

 しかし今、有栖は明確な戦略を描いた上で、この問いを発している。

 どこまでの解答がヒントになるのかは、微妙な所だ。

 

「先ほども申しましたが、これはあくまで例え話です。このような状況が起こった場合、学校がどう対処するのか、それだけの確認にすぎません」

 

 そこまで言われて、ようやく真嶋は口を開いた。

 

「……YESだ。あくまでリーダーの続行が難しいと判断された場合に限るが」

 

「つまり、仮病によるリタイアでは認められないと?」

 

「どのラインを仮病と判断するかはその都度、リタイアした際の状態を見て判断される。仮に仮病と判断された場合、正当な理由とは判断されないだろう」

 

「では、単独での歩行が困難な私がリタイアしたとして、それは仮病と判断されますか?」

 

「……答えられない」

 

「なるほど。分かりました」

 

 勘違いしてはいけないのは、今のは有栖にとって質問が目的ではなかったということ。真嶋に問うまでも無く、彼女の中ではほとんど確信に近い推測は立てていたことだろう。

 今のは言ってしまえばプロモーションのようなもの。他の生徒達に認識を共有させるのが狙いに過ぎない。

 

 有栖は真嶋から葛城へと視線を戻し、微笑みながら口を開いた。

 

「――と、いうことです。ここまで言えば、皆さんもご理解いただけたでしょう?」

 

「……他クラスにお前がリーダーだと誤認させておいて、試験終了間際にすり替わるつもりか」

 

「はい。今回の試験において、他クラスへ攻撃を加える方法は大きく二つあります。

 一つは他クラスのリーダーを当てる方法。そしてもう一つが、誤ったリーダーを当てさせる方法。

 この方法であればスポットを占有する際も警戒の必要がなく、効率よく独占できます」

 

「理想論だ。スポットを独占するというが、実際にどうやって回るつもりだ?

 この島に幾つのスポットがあるかは分からんが、各所に散らばっているとすればほぼ一日中歩き続けることになるんだぞ」

 

「はい。私一人では歩き回ることは難しいでしょう。なのでそれは――護君にお願いしたいと思います」

 

 そう言って、有栖は護の腕を掴んだ。

 皆の視線が護に集まる。

 

「五条に頼む……一体どういう意味だ?」

 

「そのままの意味です。先程背負って頂いた時と同じ。今回護君には私の足になって頂く、ということです」

 

「なっ、不可能だ。見たところ人の手が入っているとはいえ、不安定な山道だぞ。人一人担いで歩き回れる筈がない!」

 

「葛城君はこう仰っていますが、護君はどう思いますか?」

 

 当たり前だが、ここまでの流れに関して有栖と細かい打ち合わせがあった訳ではない。そもそもそんな暇は無かった。

 このような作戦に組み込まれたのも、有栖の勝手な判断。

 

 しかしそれでも、答えは決まっていた。

 

「問題ない。山道には慣れてるし、有栖一人くらいなら問題なく抱えて移動できる」

 

 普段控えめな性格で通している護としては、クラスメイトの前であまり強い言葉を使いたくはないのだが、今回に関してははっきり「できる」と断言した。

 

 実際、自身でも似たような作戦は思い描いていた。効率面を考えるなら有栖の作戦はベストに近い。

 加えて、有栖とペアでスポットを回ることになれば、その分団体行動からも離れることが出来る。

 日課の鍛錬や外と連絡が有った場合に備える点でも都合がいい。おそらく有栖も、これを見越していたのだろう。

 

「……本気で言っているのか?」

 

 信じられないものを見るような葛城の瞳。

 護としては、そんな大げさなと思ってしまうが、他にも疑わし気な目を向けている生徒がいる辺り、どうやらこちらの方が非常識らしい。

 どうも呪術師をやっていると、この辺り一般の感覚とズレてしまう。

 

「これでも結構鍛えてるから。体力に関しては、この学校に居る誰にも負けない自信はあるよ」

 

 とはいえ、ここで言葉を引っ込めるつもりもないので、むしろ強気にアピールしていく。

 更に、葛城が反論を考えるよりも先に、有栖が追い打ちをかけるように言葉を続ける。

 

「葛城君は先程、私にリタイアを勧めましたね。最初からリタイアを前提としているのであれば、まずは試して頂いても結果は変わらないと思いますが?」

 

 そう、葛城は既に有栖がリタイアすることに関して、肯定的な意思を示してしまっている。

 こうなると、実際に出来なかったらどうするという反論は使えない。出来なければ、リタイアしてリーダーを選ぶ所からリスタートすればいいのだから。

 

「……もし仮病と判断された場合はどうする?

 真嶋先生は、今のお前に対して断言はしなかったぞ」

 

「真嶋先生は『続行が難しいと判断された場合』と仰いました。

 仮に護君の手を借りられない場合、私一人でこの山道を歩くことは出来ません。

 こうして杖の持ち込みが許されていることから考えても、正当な理由と認められると見ていいでしょう」

 

「クッ、だが……」

 

 歯噛みする葛城。効率の面では認めていても、純粋な安全面と有栖への警戒から、受け入れることに抵抗があるという所か。

 

 すると、ふとそこで一人の女子生徒から声が上がった。

 

「ねぇ、それって五条君と坂柳さんが二人っきりで行動するってことだよね? 

 無人島で男女が二人きりって、なんかその……大丈夫なのかなぁ~って……」

 

 葛城を援護しようと思った訳ではないだろうが、その声に戸塚が食いつく。

 

「ハッ、成程。葛城さん、こいつら単に二人でイチャつきたいだけですよ。

 五条なんかこの前まで中立気取ってた癖に今じゃすっかり坂柳派だし、信用しちゃ駄目です!」

 

「別に俺、派閥に入ったつもり無いんだけど……。てか、付き合ってねぇし」

 

 有栖に協力するとは言ったものの、坂柳派という括りで纏められるのは何か嫌に感じてしまう護。

 

「そんだけベッタリくっついてて信用できるか!」

 

 と、護の腕に掴まったままの有栖を指さす戸塚。

 それを見ていた一同も、ウンウンと首を縦に振る。

 

「…………」

 

 確かに、楓花といい有栖といい、最近はこの距離間にも慣れてしまったが、傍から見たらこれは友人と呼ぶには近すぎるかもしれない。

 護はなんだか周囲の認識が手遅れになりつつあることを感じつつ、頭を押さえて言葉を返した。

 

「あー……君らがどう思っているかはさておき、少なくとも今回の試験、俺はちゃんと成果を残すつもりだし、それは有栖も変わらない。

 仮にこの島のスポットが10~20くらいあるとして、この作戦をとるならその半数以上、占有することを約束する」

 

「……本当に、できるのか?」

 

 具体的な数字としてノルマを掲げたおかげか、少しは信じてみる気になったらしい。

 ジッと見つめてくる葛城に対し、真剣な顔で頷く。

 

「できる」

 

「……いいだろう。だが、同行者を一人増やしてもらう。お前達の関係を邪推する訳ではないが、森の中を男女二人だけというのは危険だ」

 

「それでしたら、真澄さんにお願いします。私としても同性で援助して頂ける方が居れば助かりますから」

 

「わかった。皆もそれでいいか!」

 

 クラスメイトを見渡しながら、声を張り上げる葛城。

 反論する者は居なかった。先程否定的な意見を述べていた戸塚も、「葛城さんがそう言うなら」と頷く。

 

「よし。では方針も決まったところで、次に拠点となる場所を捜したいと思う。

 ポイントをどうやりくりするかも考えなくてはいけないが、どのような設備を揃えるにしろ拠点が無くては話にならないからな」

 

 そこで護は手を挙げて発言する。

 

「スポット探しなら、このまま有栖を連れて俺も散策するよ。

 船から見た時それらしい場所も幾つか見つけてる。見つけたらそのまま占有していけばいいだろ?」

 

「ああ、だが少なくとも30分以内には戻ってくれ。各々見つけたスポットの中から拠点を決めよう」

 

「わかった。それじゃ、俺と有栖は真嶋先生にリーダーの申請してから行くよ」

 

 そして、葛城が探索隊している中、護と有栖はリーダーの申請を行うと、そのまま神室を連れて、森の中へと入っていった。

 

 ある程度歩き、クラスの連中から十分に離れた所で神室が口を開く。

 

「あんた、よくこんな作戦すぐに思いついたわね」

 

「フフ、別に難しい事ではありません。護君も気付いていたでしょう?」

 

「まぁ、職業柄な」

 

 この手のルールの羅列を見ると抜け穴を捜してしまうのは、呪術師としてある種の(さが)だろう。

 

「職業柄ですか?」

 

「呪術っていうのは、術師によって独自の法則が存在するからな。特に結界術なんかはそれが顕著だ。

 特定の条件を満たす者の行動を縛ったり、侵入を拒んだり。

 俺自身、結界術の使い手だから、この手のルールを見ると抜け穴を捜すのが癖になってんだよ」

 

「なるほど」

 

 納得した様子の有栖に対し、今一つ話に付いてこれてない神室。

 

「……よくわかんないんだけど。

 とりあえず、これでAクラスはリーダー当ての心配はしなくていいんでしょ?

 あとは、試験が終わるまでスポットを回ってればいいわけ?」

 

「そうですね……少々退屈な展開になってしまいましたが、おそらくこの優位が揺らぐことは無いでしょう」

 

 つまらなそうに呟く有栖。

 しかし護は、その言葉に素直に同意の言葉を返すことはしなかった。

 

「だといいけどな……」

 

「おや、何か気になる事でも?」

 

「いや、気になるって程の事でもないさ」

 

 有栖の提案した作戦ならば、十中八九リーダーは隠し通せるだろう。

 護が懸念しているのは、十の内残り一二の可能性。

 

 そう、この状況下でもリーダーを当てる方法は存在する。

 

 なまじ自分でその方法が思いついてしまうだけに、大丈夫と断言することが出来なかった。

 

(ま、こんな馬鹿な方法使う奴はいないか)

 

 とはいえ、所詮は限りなく低い可能性。

 護はひっそりと、そうであることを祈った。

 

 

 

 

 

 




 
 序盤、書いていたらキャラクターの心情余計に掘り下げる羽目になってしまった。

 そして、原作の描写をどこまで脚色するべきかと悩む、久しぶりのこの感覚よ。

 原作の台詞そのまま用いるのは楽なんですが、全ての台詞を書こうとすると無駄に長くなってしまうし、端折り過ぎると内容が薄っぺらく感じるしで。

 読み辛かったら申し訳ありません。


 ちなみに、龍園君との交渉に関しては次回予定です。


 あとちょっとした裏設定

 例の噂の件で、下がったと思われた有栖さんの評価ですが、実は現在のAクラス勢力比。人数だけなら6:4くらいで坂柳派やや優勢。
 ただし、その内1~2割程は護君と有栖ちゃんをてぇてぇしたいという、よくわからん人達が混ざってる。
 今回、護君が頬グニされてる時に感じた生温い視線もその方達。
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