よう実×呪術廻戦   作:青春 零

55 / 80
55話 見つめ直す時間

 

 呪術界御三家の一角、五条家。

 この家系には、代々受け継がれる相伝の術式とは別に『六眼』という特殊な眼を持った人間が稀に生まれる。

 以前にも少し触れたことだが『六眼』とは呪力の流れや術の構造など、常人には見えないあらゆる情報を捉えることが出来る特別な眼。

 

 この眼の利点は多々あるが、殊更に特筆すべき点としては呪力の使用効率が段違いである事。

 普通の術師では感知出来ない微細な呪力すら認識できるこの眼は、原子レベルにも迫る緻密な呪力操作を可能とし、呪力のロスをほぼゼロに抑えることが出来る為、事実上呪力切れとはほぼ無縁の存在となる。

 

 同じ時代に二人以上現れたことの無いこの眼を持つ者は、現代では五条悟ただ一人。

 彼を最強の呪術師たらしめている所以の一つに、この眼の存在があると言っても過言ではない。

 

 さて、何故わざわざこのような説明をしているかと言うと、それは護の術式に関係する。

 

 護の術式は結界内の空間操作を可能とする訳だが、その手順は大きく三つの工程に分けられる。

 

 第一に、結界を使った術式対象となる空間の隔離。

 第二に、隔離した空間内の構成情報の解析。

 第三に、解析した情報に基づく空間操作の実行。

 

 より厳密な話をするならば、結界を張る工程においても座標の指定や条件の付与など幾つもの操作が含まれるわけだが、それに関しては割愛しよう。

 

 これらの操作を例えるなら、画像を編集する作業に置き換えれば分かりやすいか。

 例えば、目の前に1枚の写真が有ったとする。これに加工を加えようとすれば、まずはスキャニングでパソコンに画像として取り込み、データの形式を整えた上で編集ソフトで加工するという流れになる。

 

 これを護の術式に置き換えるなら――

 

 結界による空間隔離 ―― 写真撮影による景色の切り取り

 隔離空間の情報解析 ―― スキャニングによる画像データの取り込み

 解析した情報の編集 ―― 取り込んだ画像の編集 

 

 ――となる。

 

 ここで重要なのが、二番目のデータを取り込む作業。

 データを取り込むと言っても、護自身は結界内の全ての情報――例えば原子に至るまで事細かな情報を完全に把握している訳ではない。

 ユーザーがボタン一つでコンピュータに処理を命じるように、このスキャニング処理も護自身は特に意識しておらず、術式が半ば自動的に脳の一部の領域を使って処理を行っている。

 

 もっとも、無意識下での処理とはいえ護の脳に実際に負荷がかかっていることに変わりはないが。

 結界に空間操作の効果を付与した場合、強度が著しく落ちることは以前にも述べたが、それは情報の解析にリソースの大部分が割かれてしまうのが一因である。

 

 しかし、だ――

 

 結界内の情報全てを把握している訳ではないと言ったが、それは()()()()という意味ではない。

 無意識下での処理とはいえ、取り込んだ情報は確かに護の中に蓄積されているもの。より細かい情報を把握しようと思えば、当然相応の負担もかかりはするが、引き出すこと自体は可能なのだ。

 

 さて、前置きが長くなったが本題に入ろう。

 

 要は何が言いたかったかと言うと、護はその気になれば結界内のあらゆる情報を解析することが出来るということ。つまるところそれは――

 

 ――結界内という、ごく限定的な範囲に限れば『六眼』にも匹敵する情報量を得られることを意味している。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 無人島生活二日目。各クラス大凡の方針も決まり、各々が動き出していた頃。

 場所はAクラスのキャンプ地から少し離れた森の中。

 木々に囲まれ見通しの悪いその場所で、護は一人――逆立ちをしていた。

 

 丁度自分の身をスッポリと囲める電話ボックス程の大きさの結界を張り、その中で人差し指と中指を立てた馴染み深い掌印を組んで、それを地面へと突き立てる。

 

 傍から見れば何とも古臭い鍛錬方法のようだが、この姿勢それ自体に深い意味は無い。

 これは単に、敢えて安定感を欠くことで集中し難い状況を作り、自らに負荷を掛ける為のもの。

 

 そうして雑技団さながらのアンバランスな体勢を取りながら、護は目を瞑りひたすらに呪力を練り上げていた。

 細胞の一つ一つに浸み渡らせるようにイメージしながら、呪力を全身へと廻しそれを循環させる。

 

 基本的な呪力操作の鍛錬。やっている事と言えばただそれだけの事だが、熟練の術師がこれを見ればその精度に目を疑った事だろう。

 内包する膨大な呪力に対して、漏れ出る呪力は極々僅か。一切の無駄無く洗練された呪力操作は、長い年月を経てようやく辿り着けるだろうという程の域。到底、十代の学生が成し得る事ではない。

 

 秘密は、護を囲う結界に有った。 

 この結界の役割は、一つは呪力を持たぬ人間から見えなくするための認識阻害。

 そしてもう一つが、結界内の状態を事細かに把握する、感覚器としての役割。

 

 護はこれにより、自らの呪力の流れを客観的に観測し呪力の効率化を図っていた。

 肉体強化や術式行使による呪力の流れ、その一つ一つを検証し、無駄を削ぎ落しながら体にその感覚を覚え込ませる。

 

 もっとも、これは言う程簡単な事ではない。

 護の結界は『六眼』と同等の情報量を得られるとは言ったが、情報を視覚的に捉える『六眼』と違って、護の結界が取得する情報は分かりやすく整理などされておらず、より原始的な情報がダイレクトに脳に叩き込まれる仕様となっている。

 

 必然、余計な情報まで拾い上げてしまうこの結界は、その膨大な情報の海から必要な情報を掬い上げるのに多大な集中力を要することになる。

 それこそ数分も続けていれば脳が焼き切れておかしくない緻密な作業。

 

 しかし護は、反転術式を併用することで焼き切れそうになる脳を修復し、この無茶を押し通していた。

 

 

 果たしてどれ程の時間そうしていたのか。

 護の表情には変化こそないが、額には幾つも玉のような汗が浮かんでおり、地面は滴り落ちた汗で、まるでそこだけ雨でも降ったかのような僅かな湿り気を帯びていた。

 

 ポタリと、護の鼻先から更に一滴の汗が落ちる。

 すると、まるでそれが終了の合図であったかのように護を囲っていた結界はフッと消え去り、そのまま護は力尽きたように背中から地面へドサリと倒れ込んだ。

 

「あぁー、しんどっ!」

 

 倒れ込むなり、呻くような声が口から漏れた。

 汗で濡れた服が土で一層汚れるのも気にすることなく、そのまま地面に背を付けたまま、握った拳を眉間へとあてる。

 

(ほんと……あの人、人間じゃねぇわ……)

 

 複雑な演算で焼き切れそうになる脳を修復しながらの術式行使。

 反転術式と通常の術式の並行運用は普段兄もやっていることだが、実際に自分の身で実践するとこれがどれほど無茶な所業なのかよくわかる。

 

 鍛錬の度に自覚させられる兄の遠さ。

 自分とて日々進歩している実感はあるが、そうして成長するごとに兄との距離が浮き彫りになるようで、成長の喜び以上に自分の未熟さを噛み締めさせられる。

 

 何ともやるせない気持ちを感じながら、ボーっと空を眺めていると、ふと顔を照らす太陽を遮るように影が落ち、視界に銀色の髪が煌めいた。

 

「お疲れさまです。護君」

 

 そう言って現れたのは坂柳有栖。

 彼女は護のすぐ横に膝をつきながら、覗き込むように顔を出した。

 

「……なんだ、もしかしてずっと見てたのか?」

 

 疲労が残っているせいか、起き上がるのも億劫な様子で言葉を返す護。

 集中しすぎていたせいで気配に気づかなかったが、こうもタイミングよく声を掛けてきたということは、予め終わるのを近くで待ち構えていたのだろう。

 

「ええ、少しだけ席を外すこともありましたが、基本的にはこちらで拝見していました。

 それより随分とお疲れのようですね。どうぞ、タオルです」

 

「ん、ああ……ありがと」

 

 ゆっくりとした動作で起き上がりながら、差し出されたタオルを受け取り顔を埋める。

 ふんわりと柔らかい布地。鼻孔をくすぐるほんのりと甘い香り。

 顔を包み込む心地よい感触に浸る事しばらく。ある程度頭に冴えが戻ってきたところで護は口を開いた。

 

「あー……悪い、タオル汚した。後でちゃんと洗って返す――ってか、この場合新しいの買った方がいいのか?」

 

 何も考えずに受け取ってしまったが、有栖が持ってきたタオルなのだから、当然それは彼女の私物に決まっている。

 女子として男の汗が付くのは嫌だろうというのもそうだが、そもそもこの島に持ち込んでいるタオルや着替えだって限りがあるのだ。

 川で洗濯をするのだって楽ではないのだから、そう気軽に使っていい筈がなかった。

 

「フフ、お気になさらず。一応予備のタオルも有りますから。

 昨夜と同じように、後で洗濯機でも貸して頂ければ十分です」

 

「……まぁ借りた手前、別にいいけどさ。

 けど、あれって結構手間なんだからな? あんまり身綺麗にし過ぎても周りに怪しまれるし、あんまりホイホイ利用するのは止めておけよ?」

 

 護自身、今のように鍛錬の度に汗だくになっていては他の生徒に奇妙に思われかねないし、自宅を活用することに関して今更どうこう言う気は無い。

 とはいえ、あまり身綺麗にし過ぎてもそれはそれで不自然というもの。有栖もこの程度の事は分かっているだろうが、一応忠告の言葉を述べた。

 

「ご安心下さい。私としてもその程度の事は弁えているつもりです。 

 できる限り他の方との接触は最低限に留めていますし、そうでなくてもこのような環境では、皆さん他人の身嗜みより自分の身嗜みが気になるものですから」

 

「そういうもんかね……」

 

 まぁ確かに、仮に多少違和感を持たれたとしても、そもそも転移能力で島を出入りできるなど常識的に思いつく発想ではないし、そうそうバレることも無いとは思うが。

 

「そういえば、今何時だ?」

 

 有栖に注意しておいてすぐになんだが、自分も汗だくのままでいる訳にはいかない。

 脳も体も、先程の鍛錬で大分エネルギーを消耗した。疲労困憊と言う程ではなく、勿論ちゃんと余力は残してあるが、それなりの怠さは感じている。

 

 次のスポット巡回までに、一度汗を流して少し休息を取っておきたい。そう思い腕時計に目を落とすと、時刻は14時50分を指していた。

 

「あー、2時間近くやってたのか……」

 

 護の記憶では、鍛錬を始めたのは大体13時頃。次の巡回は17時半の予定なので十分時間はあるが、我ながら随分と没頭したものだとしみじみ思った。

  

「ていうか、君もこんな時間までずっと見てたのかよ。

 暇だったなら神室さんと海にでも行きゃよかったのに。泳ぐのは無理でも、浅瀬で少し遊ぶくらいのことは出来るだろ?」

 

 この旅行が始まる際、学校側が持って来るように指定した持ち物の中には水着も含まれていたので、有栖も一応持って来てはいる筈だ。

 ただ逆立ちをしているだけの退屈な光景を眺めているよりは、浜辺で波の感触でも味わっていた方がよほど有意義というものだろう。

 

 すると有栖は、恥じらうかのように顔を少し俯かせ、上目遣い気味に見つめながら口を開いた。

 

「初めて着る水着は、最初に護君にお見せしたかったものですから」

 

「や、そういうのいいから」

 

 が、相も変わらずそんな可愛らしい素振りにも動じることなく、ぶった切る護。

 このようにあざとい素振りで揶揄ってくるのもいつものこと。この手のやり取りにも慣れたものだと、半ば反射的にあしらいの言葉を返した護だったが、しかしそれに対する有栖の反応はいつもと少し様子が違った。

 

「むぅ……」

 

「……どうしたよ?」

 

 その顔に浮かぶのは僅かな不満の色。

 ジッと見つめてくる有栖に対し、何か間違っただろうかと護は首を傾げながら言葉を返した。

 

「……どうしたではありません。護君は、以前のお約束をお忘れですか?」

 

 どこか非難気に問い返してくる有栖に、一瞬考え込む護。

 水着、約束というワードに、もしやと一つ思い当たることが有った。

 

「約束って……もしかして、プール授業の時に言った水着を見せるって話か?」

 

「はい」

 

「いや、覚えちゃいるけど……何も俺に最初に見せる必要はなくない?」

 

 勿論、そのような話をしたことは覚えている。覚えてはいるが、正直護としてはあの時の話は半ば有栖が揶揄い気味に口にしたことだと思っていた。

 このように不機嫌になる理由が分からず困惑を覚えていると、有栖は真っすぐに護を見つめながら言葉を紡ぎ出した。

 

「護君。以前にも言いましたが、私が体の治療を受けようと思ったのはあの一言があったからなんです」

 

「あれは……」

 

 それは以前、高専で有栖の治療について話した時にも聞いた言葉。

 しかし護にしてみれば、元は単なる慰めのように口にした台詞である。本心からそんな色気づいた理由で口にした訳でないことは有栖とて分かっている筈だ。

 

「ええ、分かっています。あれが単に私を元気づける為にかけられた言葉だったことは。

 ですが護君。あなたにとっては大した言葉ではなかったかもしれませんが、私にとってはそうではありません。

 それを軽く扱われるのは、少々面白くありません」

 

「軽く扱ったつもりは無いけど……少し大袈裟すぎないか?」

 

「大袈裟なんてことは有りません。少なくとも私にとって、アレは人生を変えるきっかけになったと言っても過言ではありませんから」

 

「いや、人生って……」

 

 たかだか水着の話から、何ともスケールの大きくなった話に返す言葉を見失う。

 そんな護に構うことなく、有栖は話を続けた。

 

「少し自分語りにお付き合い下さい。

 おそらくお察しの事とは思いますが、実のところ私は自分の身体について然程不幸とは思っていなかったんです。

 多少の不便は有りますが、それ故に免除されている事や、大抵の方からは丁寧な扱いを受けられましたから」

 

 だろうなと、内心で頷きを返した。

 護もそれを理解していたからこそ、以前本当に治す気が有るのかと問いかけたのだから。

  

「しかし今にして思えば、私は諦めていたのでしょう。

 人が当たり前にできることが私にはできない。運動に限った話ではありません。映画や遊園地といった娯楽施設ですら、時には制限が掛かる事も有ります。

 それこそ恋をして、子供を産んで、家庭を作る。そんな人が当たり前に思い描く人生も、私にとっては縁遠いものだったんです」

 

 少し意外だった。

 有栖は基本的に、戦略として相手から同情を誘うことは有っても、他人から憐れみを向けられるのは好まないタイプと思っていたから。

 この話が先程の話にどう繋がるかは分からないが、こうして明け透けに心情を吐露したことに関して、護は少々驚きを覚えた。

 

「これまでは、そんな自分の人生にも納得したつもりでしたが、この疾患が治るかもしれないと聞いた時、あの時の言葉が思い浮かびました。

 水着をお見せする。そんな些細なお約束ではありましたが、それがきっかけで私は他の在り得たかもしれない景色に目を向けるようになったんです」

 

「……それは分かったけど、結局俺に最初に水着を見せる必要は無くないか?

 それだけ楽しみだったなら、それこそ俺に構わず海に行けばよかっただろ」

 

 良い話をしているところに水を差すようだとは思ったが、それでも疑問に思ったので問いかける。

 

「……何度も言うようですが、私にとってあの約束は特別なものだったんです。

 だからこそ記念すべき初めての時も特別なものにしたいと思いますし、その場に護君がいないのでは意味が無いのです」

 

「…………」

 

 正直、初めての記念だとか、その手の情緒に疎い護としては今一実感が湧かないが、有栖にとっては大事な事なのだろうことは分かった。

 そういうことであれば、護としてもできるだけ応えてあげたいとは思うが、しかしここで問題が一つ。

 

(水着、持って来てねぇんだよなぁ……)

 

 正直、護としては体の傷痕もあって人前で泳ぐ気などまるで無かった。

 一応持ち物に指定こそあったが必須とまでは思わなかったし、仮に今回の試験で泳ぎが必須項目だったとしても、水着を忘れたと言い張れば逃れられると思い、敢えて持ってこなかったのだ。

 

(……取りに行くかぁ) 

 

 少々手間だが、有栖の期待を無下にするのも気が引ける。

 どうせ自室には戻るつもりだったのだし、この際水着も引っ張り出してくるかと、そう思ったところでその思考を読んだように有栖が口を開いた。

 

「ご安心下さい。何も強要しているわけではありません。

 ただ私としては、遊ぶのなら護君とご一緒が良いとその気持ちをお伝えしたかっただけです。

 どちらにせよ、この試験中に海に行くつもりは有りませんでしたから」

 

「……いいのか? 折角の機会なのに。この学校に居たら、海に来れる機会なんてそうそうないぞ?」

 

「仕方ありません。浜辺には他のクラスの方も居るでしょうし、リタイアを視野に入れている以上、あまり人目のある所で元気に遊ぶ姿を見せる訳にもいきませんから。

 残念ですが、今回は見送らせて頂きます」

 

 確かに。真嶋の説明では、リーダーのリタイアにはそれなりに正当な理由が必要とのことだった。

 有栖の身体的不安を盾にする以上、あまり元気な姿を見せてしまうと、いざリタイアをする時にケチが付く可能性もあるだろう。

 

「それに、龍園君の事も有ります。おそらく彼が動くとしたら、私達がリタイアするタイミングに合わせるとは思いますが、それ以前に動かないという保証も有りませんから」

 

「確かにな……」

 

 龍園の狙いに関しては、護も有栖も大凡は察している。

 想像通りであれば、龍園が動き出すのは最終日前日。有栖がリタイアをしたタイミングでのことになるだろうと予想しているが、それも絶対ではない。

 普通ならまずやらないとは思うが、例えば失格覚悟でキーカードごと荷物を丸ごと盗み出すなんて可能性だってある以上、荷物を放置して水着で遊ぶ訳にもいかないだろう。

 

「なので護君。試験が終わったら、ご一緒にプールにでも行きませんか?」

 

「試験が終わったらか……」

 

 そう言われ、思い出すのは昨日の兄との会話。

 この時期呪術師は忙しい。加えて乙骨の特訓も有るとなると、果たして暇な時間がどれだけあるか。

 

「勿論呪術師のお仕事や、昨日お話ししていた乙骨君との特訓がある事は分かっています。

 ですが毎日それでは息も詰まるでしょう。息抜きも兼ねて、少しばかりお時間を割いて頂くことは叶いませんか?」

 

 有栖も仕事優先の護の思考は分かっているのか、問いかけるその声音はどこか遠慮がちだ。

 表情にも、断られるのではないかと薄らと不安の色が見て取れて、護は思わず安心させるように軽い調子で言葉を返した。

 

「そんな長々と理屈こねなくてもいいよ。どうせ用事の無い日は暇を持て余してるからな。

 予定がどうなるかは分かんないけど、遊びに付き合うくらい別に断りゃしないって」

 

 まぁ。忙しいと言っても、連日一昼夜仕事が入る訳でもないし、週に1日か2日くらいなら休む暇もあるだろう。

 普段なら多少は面倒臭いと思うのかもしれないが、流石にあんな話を聞かされた後ではそんな気も起きない。

 

「フフ、それは良かった。では楽しみにしておきます。護君も、どうぞ私の水着姿を楽しみにして下さいね」

 

 そう言って、綻んだ笑みを浮かべる有栖。

 普段は腹黒く人をいいように動かしている癖に、こうして時折素直な感情を表す時は見た目相応の子どものようで、こういう所が扱いに困る。

 内心でしょうがないなと呆れながら、しかし護は自分が軽く笑みを浮かべていることに気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 




 読者の皆様に一つご報告が。
 ひょっとしたらなんですが、次回ある程度試験の終盤まで書き上げてから、数話まとめて投稿する形になるかもしれません。
 個人的に複数話書き上げるとなると投稿までに余計に時間掛かるし、できるだけ1話書き上げたらその都度上げるようにしたいと思ってはいるんですが。

 ただ、現在あまりにもキャラをどう動かしていいか分からず、結果発表の部分や一部キャラの暗躍シーンなど、思いつくところから書いていたらなんだか文章が虫食い状態になってしまって。
 話の整合性を取るために、少しずつあちこち文章を埋めているというのが今の状態だったりします。

 今回も、できれば試験の方を少し進行させたかったんですが、結局その場繋ぎ的な話になってしまうしで。

 というか、主人公達の無人島の過ごし方をちょっと書くつもりが、何故に告白シーンみたいな展開を書いているんだ私は……
 前々から、護君には有栖さんの人生に光を灯した責任を取ってもらわんとなぁ、とか思っていたんですが会話の流れ的に良い機会だったからつい盛り込んでしまった。


 ちなみに、今回護君の術式について少し掘り下げておきたかったのでちょっとした鍛錬パートを挟んだのですが、説明の仕方が分かり難かったようでしたら申し訳ありません。
 
 できるだけ簡潔に纏めようと色々文章を削ったりもしたんですが、その結果少し説明不足になったかとも思ったので、一応補足としてQ&A形式で以下に纏めておきます。


Q.結局、護君は呪力のロスをゼロに出来るってこと?
A.出来ます。但しそのためには結界を使った情報解析が必要である為、実戦ではほぼ使えません。今回の鍛錬は、より効率の良い呪力操作を体に覚え込ませるためのものなので、五条先生レベルにはまだまだ程遠いです。


Q.情報の取得に関して、六眼程便利じゃないみたいな事言ってるけど、具体的に何が違うの?
A.例えば、二人がゲームをしていたとして、五条先生がそのゲームの最適な攻略法が画面に表示されるチートツールを持っているとするなら、護君は画面の横にソースコードを表示したモニターを用意して読み解きながら進めているようなもん。


Q.六眼みたいに原子レベルの呪力操作ができるなら、空間操作で原子そのものに干渉はできるの?
A.出来ます。但し、例えば炭素からダイヤモンド作るような、物質の構造に関わる作業の場合、砂粒を積み上げて城を建てるような、滅茶苦茶精密な呪力操作とイメージ力が必要。単に物体の形状を変えるだけなら、その物体の大まかな組成を把握すればいいので、難度は格段に落ちますが。
 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。