よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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6話 担任への質問

「それで、用事っていうのはなに?」

 

 廊下を歩きながら、護は有栖に話しかけた。

 入学式も終わり、今は放課後。担任の真嶋に会いに職員室に向かっている途中だ。

 

「いえ、護君には今朝助けられましたので、お礼にお茶でもご馳走したかったんです。

 スイーツの食べ歩きが趣味と言っていましたよね」

 

「確かに言ったけど……本音は?」

 

 間違いなく、それだけが目的ではないだろうという確信を持って、護は問い返した。

 

「嫌ですね。護君は私が何か企んでいると?」

 

「少なくとも、純粋な善意じゃないだろうとは思ってる」

 

 呪術師であれば、一物抱えながら近づく人間は嫌でも目にする。特に護は出自が御三家という名家。そういう人間との接触も一層多い。

 というか、身内にまさに胡散臭い人物筆頭がいる。

 

「それは少し心外ですね。私はただせっかく仲良くなれそうなお友達と知り合えたので、親睦を深めたいだけですよ」

 

(胡散臭いんだよなぁ)

 

 微笑みながら言うその様子を見て内心でそう思うが、それを直接言うのは憚られる。

 

(理事長からの頼みもあるけど、このまま付き纏われても厄介だし。いっそ嫌われてもいいから、少し突っ込んだことを言ってみるか?)

 

 どうするべきかと考えていると、ふと横から有栖の笑う声が聞こえてきた。

 

「フフ、いえ失礼。からかい過ぎましたね。

 もう護君は気付いているようなので、回りくどいことはやめて本音で話しましょうか」

 

「……唐突だな」

 

「護君の表情を見ていれば、私を不信に思っていることはわかりますから。

 とはいえ長くなりそうなので、詳しい話は後程にしましょう」

 

「……わかった。もう、職員室に着くしな」

 

(仕事が少し遅れることになるけど、仕方ない。すまない理事長。文句ならあなたの娘に言ってくれ)

 

 護は脳内で理事長に対し、片手を挙げて軽く謝罪した。

 

 実際のところ、現在確認できているのは4級にも満たない低級ばかり。

 今更1日や2日、取り掛かるのが遅れたところで大きな問題が発生する可能性は低い。

 

 そうこうしているうちに、二人は職員室の前に着いた。

 ノックをして、静かに扉を開ける。

 

「「失礼します」」

 

 同時に挨拶をして入室する二人。

 職員室の中を見渡すが、なぜか真嶋の姿は見当たらなかったので、近くにいた他の先生に声をかける。

 

「すみません。真嶋先生はいらっしゃいますか?」

 

「え、真嶋君? さっきまでいたと思うけど、トイレかな?」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 一応真嶋側も、こちらが来ることはわかっているはずである。

 すぐに戻って来るだろうと判断し、待たせてもらおうとするが、そこで有栖の方を少し見てから、先ほど声を掛けた先生に再び声を掛けた。

 

「……すみません。こちらで少し待たせていただきたいのですが、どこか彼女を座らせられませんか?」

 

 すると有栖が護に対し、僅かに戸惑いの混じった視線を向けた。

 おそらくは護が気遣う様子を見せたのが意外だったのだろう。先ほどのやり取りで、護が不信感を抱いているのは理解していることだろうし、それでもなお親切にされるとは思わなかったというところか。

 

「いいわよ~。私の席、真嶋君の席に近いからそこに座って待つといいわ」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 護に一拍遅れて、有栖も礼を言った。

 

「あなた達、Aクラスの生徒よね。私はBクラスの担任で星之宮知恵っていうの」

 

「ええ、Aクラスの五条護です」

 

「同じく、Aクラスの坂柳有栖です」

 

 有栖の自己紹介を聞いて、星之宮と名乗った先生は驚いた様子で有栖を見た。

 

「そう、あなたが坂柳さんなのね。教師の間で話題になってるのよ。入試ですごい優秀な成績を残したって」

 

「そうでしたか。そのようなことになってるとは、少し恥ずかしいですね」

 

 そう言っているが、ちっとも照れているようには見えない。

 むしろそう言われるのが当然というような、自信がにじみ出ていた。

 

「へぇ」

 

 しかし護はそんな有栖に対し、感心した視線を向けた。護自身、他の生徒と同様に入試を受けているため、そのレベルの高さは知っている。

 そんな試験で、教師に覚えられるほどの成績を残していることには素直に驚いた。

 

「君の方は、もしかして彼氏? さっきも自然な感じで気を遣ってたし、お似合いのカップルって感じね~」

 

 そう言いながら、面白いものを見るような視線を向ける星之宮だが、護はあっさりとその言葉を否定する。

 

「いえ、違います。私のことは、単なる付き添い程度に思ってください」

 

 気さくな性格の教師のようだが、一応目上の立場ということもあって、丁寧な口調で返す護。

 そんな護の返答を見て、有栖は何やらわざとらしく肩を落とした。

 

「つれないですね。そんなに即答されると、女性として少し自信を無くしてしまいそうです」

 

「も~、ダメよ五条君。女の子を傷つけちゃ」

 

(あ、ダメだこの二人、組み合わせると面倒くさいタイプだ)

 

 両者ともに他者を揶揄うことに楽しみを覚えるタイプであることは、この短い間に見て分かった。

 こうなると、ターゲットにされてしまうのはたった一人いる男子生徒の護である。

 

「はぁ、それは失礼しました」

 

 内心うんざりした気分になりながら、しかし表情に出せば余計面倒臭いことになると、護は無表情に素っ気ない返事を返した。

 

(真嶋先生、早く戻ってきてくれ)

 

 その祈りが通じたのが、そのタイミングで職員室の扉が開き、真嶋の姿が現れた。

 

「なんだ、もう戻ってきちゃったの? もっと二人と話したかったのに~」

 

「む、星之宮か。うちの生徒と何をしている?」

 

 真嶋の方も護たちの存在に気付いたらしい。すぐに近づいて声をかけてきた。

 

「真嶋君が戻るまでの話相手になってたのよ」

 

「そうか、待たせたようだな。すまない。少し確認したいことがあったのでな」

 

「確認したいこと?」

 

「気にするな。こちらの問題だ。

 さて、坂柳も一緒か。要件は先ほどのホームルームの件だな?」

 

「ええ、先ほどのホームルームの一件で、他の皆さんからも疑問点が出てきましたので、それらを纏める代役としてきました。用紙に纏めてきましたので、確認をお願いします」

 

 そう言って、有栖は鞄から1枚の紙を取り出すと、真嶋に手渡した。

 紙には各生徒から出てきた疑問点。ポイントは変動するのか。変動するならその評価基準は何か。クラスに順位が存在するなら、罰則などもあるのか。など、いくつもの疑問が書かれていた。

 

 そのやり取りが気になったのか、近くにいた星之宮は真嶋に渡った紙を横から覗き込むと、あからさまに目を見開いて驚いた声を上げた。

 

「ちょっ、真嶋君どういうこと!? あなた規則を破ったの!?」

 

 そのあまりの声に、職員室内にいた他の職員からも注目が集まる。

 

「落ち着け星之宮、その発言は生徒の前でするべきではない」

 

 そう言われて、はっと口を押えて護たちに視線を向ける星之宮。

 だが手遅れである。その反応、護と有栖は、先ほどのホームルームにおける推測が正しかったことを確信した。

 

「そして誓っていうが、俺は規則違反などしていない。嘘だと思うなら後で教室のカメラの映像を確認するといい」

 

「だったら、なんで……」

 

 やはり現状では教師間でも、学園のシステムについて箝口令のようなものが敷かれているのだろう。

 この場にいる二人の生徒を気にして、うまく言葉を紡げないでいる。

 

「詳しくは映像を確認すればわかる」

 

 それだけ言って、真嶋は護たちに向かい直った。

 

「さて、おそらくはすでにお前たちの中では推測が固まっているのだろうが、その上であえて言わせてもらおう。

 この用紙に書かれた質問については答えられない」

 

「全て、でしょうか」

 

 有栖が問い返す。

 

「全てだ。質問に対し、肯定も否定もしない。それがこちらの決定だ」

 

 あまりにも力強い断定の言葉。

 そこにはホームルームの際にあった、戸惑いの感情は欠片も感じられなかった。

 

(なるほど。こちらの決定というあたり、遅れてたのは上に対処法を確認してたのか)

 

「そうですか。分かりました。それではクラスの皆さんには、明日私の口からお伝えしておきます」

 

「そうしてくれ。五条もいいか?」

 

「いえ、すみません。私の方はホームルーム中に聞けなかったことについて、聞きに来たのですが」

 

「む、なんだ?」

 

 真嶋が身構える。ホームルームの質問で、一回やらかしている護に対して、警戒心があるようだ。

 

「いえ、結局出席日数などが、いくらで購入できるか聞けていなかったので。それともこれもお話しできないことでしょうか?」

 

「ああ、そういえばお前が気にしていたのはそんなことだったな。

 ふむ……いや、幾らかという点に関してだけなら問題はない。1科目につき5千ポイント。丸一日と纏まった単位で休む場合は、3万5千ポイントだ。これで公欠という扱いにできる。

 ただし、その時間内に評定を決めるテストなどが行われる場合、追試などはない。0点として扱われるので注意するように」

 

 1日に行われるのは6科目だが、1日の纏まった単位の方が価格が高いのはホームルームなども含まれているからだろう。

 

 1日3万5千ポイント。現在の10万ポイントでは2日と数時間休むのが限界ということになる。

 護はいざというときのため、無駄使いはできないなと、肝に銘じた。

 

「わかりました。あとすみません。最後にもう一つだけよろしいでしょうか?」

 

「まだあるのか?」

 

「申し訳ありません。聞きたいことはあと一つだけです。仮に退学処分となった場合、これを取り消すには何ポイントかかりますか?」

 

 入学前の理事長との会談。護は退学について、理事長が特に言及していたのが気になっていた。

 おそらくこの学校における退学処分は、普通の学校とは異なる特殊性があるのだろうが、万が一にもそれで仕事が遂行できなくなるのは困る。

 その対策として、護は最後にこの一点だけは確認しておきたかった。 

 

 しかし、なぜか真嶋はこの質問を聞いて、頭痛をこらえるように目頭を押さえた。

 その隣で星之宮も目を丸くしている。

 

「……お前は、本当に事前に情報を得ていたわけではないんだな?」

 

「は?」

 

「いや、いい。答えは、『答えられない』だ」

 

 その返答に対し、護の中で新たな疑問が生まれた。

 

(答えられない? 授業を休む場合は教えるのに?)

 

 購入できないと否定がなかった以上、買うこと自体は可能なはずである。

 しかし、幾らで買えるかは言えないとなると、考えられる可能性は一つ。

 

(通常のポイント以外に、必要なものが存在するってことか)

 

「……わかりました。お時間をいただき、ありがとうございました」

 

「構わない。生徒の疑問に答えるのも、教師の務めだ」

 

 護が丁寧に礼を言うと、椅子に座っていた有栖も、立ち上がり礼をする。

 

「「失礼します」」

 

 そう言って、二人は職員室を後にした。




 少々状況がこんがらがってきたと思うので少し整理させていただくと。

生徒側
 ①個人に支給されるポイントが変動する可能性に関してはほぼ確信している。
 ②クラス間で成績の競い合いが発生することもほぼ確信している。
 ③クラスポイントの存在については知らない。


教師側
 ➊成績や生活態度でポイントが上下することは、説明できない。
 ➋上記➊に関係するため、クラスポイントの存在も、説明できない。
 ➌クラスポイントが関わってくるため、退学取消方法についても、説明できない。


 現在こういう状況だったのが今回、護君が➌についても質問してしまったため、クラスポイントの存在発覚に王手がかかった状態。

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