8月7日、試験が終了し客船へと帰還した生徒達。
その船内、生徒達に与えられた一室にて、5人の生徒が集っていた。
「それで? 結果が出たけど、何か言うことは無い訳?」
まず口を開いたのは、その中の一人伊吹澪。彼女の傍には石崎とアルベルト、そして金田の三人の男子が立っており、皆の視線はベッドで横たわる一人の男子、龍園翔へと向けられていた。
「…………」
腕を頭の後ろで組みながら、ベッドの背にもたれかかる龍園。
その視線はぼんやり宙を眺めており、まるで心此処に在らずという様相だった。
「ッ……いい加減、なんか言いなさいよ! 龍園!」
一向に反応を示さぬ龍園に、声を荒げる伊吹。
すると傍に立っていた石崎が、宥めるように声を掛けた。
「お、落ち着けよ伊吹。あの結果に関しちゃ仕方ないだろ?
誰もあんな無茶苦茶な奴がいるとか予想できねぇって」
「あんた馬鹿? 私は別に、五条に負けたことを言ってんじゃない。
こいつが
伊吹の視線の矛先が石崎へと向く。
そう、それこそが伊吹が怒っている理由。
先の無人島試験、五条護との争いが終わった後、目を覚ました龍園は自らリタイアすることを申し出た。
「私らは、こいつに言われた通りBクラスとDクラスを監視してリーダーを絞り込んでた。
あてずっぽうでも、指名してればリーダーを当てれた可能性はゼロじゃなかった筈だ」
当初、龍園が掲げた目標は二つ。
一つは言うまでも無くAクラスのキーカード奪取ないし、それが無理でも暴力沙汰に持ち込んでの相討ち。
二つ目はそれらが失敗した時の保険として、他クラスを監視しリーダーを絞り込むこと。
結局本命であった一つ目の目的こそご破算にはなったが、Aクラスは龍園が行ったことを学校側に報告することも無かった。
こちらのことなど眼中に無かったのか。伊吹にしてみればそれも気に食わなかったが、何より折角ペナルティによる強制退場を免れたのに、碌なあがきも見せずリタイアした龍園が何より腹立たしかった。
「まさかと思うけど……あんた五条にボロ負けしたからって、クラスの事も全部諦めたとか言うつもり?」
挑発交じりに龍園を見降ろしながら問いかける伊吹。
すると龍園は、そこでようやく伊吹の方をチラリと見たかと思うと、ポツリと呟いた。
「……うるせぇ女だ」
「は? 何、喧嘩売ってんの?」
ようやく口を開いたと思いきや、聞こえてきたのは罵倒の言葉。
伊吹は肩を怒らせながら龍園に詰め寄ろうとした、が――
「……どっちにしろ、あのまま続けた所で結果は変わっちゃいねぇよ」
続いた龍園の言葉に、伊吹は掴みかかろうとした手を止め怪訝な表情を浮かべた。
「……どういう意味よ?」
すると龍園はムクリと体を起こし、面倒臭そうに言葉を続ける。
「あの化物の言ってたことを忘れたか? 他の連中はともかく、お前は近くに居たんだから聞こえてただろ。
――隠れてる二人も合わせて掛かってくるか――あいつは俺にそう言ったんだ」
その言葉を聞き、今になって思い出したのか伊吹が「そういえば……」と呟きを漏らす。
そんな彼女の淡白な反応とは裏腹に、顕著な反応を見せたのは金田だった。
「ま、待って下さい。二人? それってつまり……」
「ああ……俺は事前に、
奴が金田の存在に気付いていたとして、もう一人は誰だ?」
「それは……」
ここでようやく冷静になったのか、伊吹もその意味を理解できたらしい。
「あの悪天候の中、偶然散歩してたら通りかかった――なんて事ある訳ねぇだろ。
つまり居たんだよ、他のクラスにも。こっちの狙いを見破った上で、あの場に張り込んでた出歯亀野郎がな」
「なっ、ありえない!」
伊吹の驚きはもっともだ。今回龍園の取った作戦は、まともな思考で思いつくものではない。
Aクラスのリーダー交代策を見切った上で、突発的に組み上げた作戦。
そもそも近くで見ていた伊吹達ですら、龍園が何を考えていたのかその全容を理解できていないのに、碌な情報も得ていない他の生徒が読み切ったなど、信じられる話ではない。
「そいつがどこまで理解していたのかは知らねぇが、何にせよ見られてた時点でこっちはアウトだ。
もしリーダーを当てたとしても、それが出歯亀野郎のクラスだった場合、そいつは結果を覆す為に俺らの行動を学校側にチクってただろうよ」
そうなれば、暴力行為の露見によりCクラスは失格。そしてそれのみならず、関与していた者達全てのプライベートポイントまで全没収となっていただろう。
「一体誰が……」
顎に手を当て考え込む金田。
そんな彼とは対照的に、どこか関心が薄い様子で龍園は答えた。
「さぁな……だが、一番クサいとしたらDクラスか」
「Dクラス? Bじゃなくてですか?」
今度は石崎から問いが投げられる。
コロコロとかわるがわる質問されているせいか、答える龍園は段々と気怠さが増して見えた。
「……奴らのポイントを見てみろ。あの試験の期間はおよそ144時間。一つのスポットを占有し続けて得られるポイントは、どんだけ突き詰めても18ポイントが限界だ。
それなら奴らはどうして、初期の300ポイントに20ポイント以上も上乗せされてやがる」
それを言われ、今になってその不自然さに気付いたのか、一同ハッとした表情を浮かべる。
「つまり彼らは、我々のリーダーを当てた?
……いやしかし、監視者がDクラスの生徒だとして、それでどうやってリーダーの特定を?」
矢継ぎ早に溢れてくる疑問が口をついて出る金田。
彼が声に出したおかげで、他の者達にもこれがどれだけおかしなことか伝わった。
この試験でポイントを得る方法はスポットの占有か、リーダーの指名のみ。
しかしスポットをAクラスが独占していたため、前者はほぼ不可能であり、残る方法はリーダーの指名のみ。
AとBがポイントの減った形跡が無い以上、Cクラスのリーダーを当てたとしか考えられない。
問題はその方法。監視者がDクラスの生徒だったとして、それでどうやってリーダーの特定までやって見せたのか。
「言っただろ。あくまで一番怪しいのがDクラスってだけの話だ。
俺らを監視してた奴が居て、Dクラスに不自然な現象が起きた。関連性があると考える方が自然だ。
どう関係してるかまでは知らねぇよ」
龍園も具体的にDクラスが何をしたのかは分かっていないようで、少し考え込む素振りを見せたかと思うと、逆に金田へと質問を飛ばした。
「……一応聞くが、俺が気絶してる間、近づいてくる奴はいなかったんだな?」
「はい、それは間違いなく」
「ハッ、だとしたらお手上げだな。あるいはこっちが気付かなかっただけで、試験中ずっとそいつに見張られてたのか」
普通に考えたら在り得ない可能性だが。
誰か一人に的を絞って監視したとして、それがリーダーである保証など無いし、ほぼ一週間も気付かれずに尾行を続けるなど、どこの特殊部隊だという話である。あまりにも現実的ではない。
龍園本人も本気で言ってはいないのか、軽く手を挙げ茶化すような素振りを見せる。
(まぁ、あんな化物が居るならあながち否定も出来ねぇが……)
一瞬、脳裏に一人の男の姿が浮かび内心で舌打ちしてしまう。
しかしすぐさま浮かんだイメージを振り払うと、気を取り直して言葉を続けた。
「で、聞きたいことはこれで全部か? だったらさっさと出てけ。
こうもギャーギャー煩くちゃ、おちおち昼寝も出来やしねぇ」
「りゅ、龍園さん……」
話は終わりだと、再びベッドに横になる龍園。どうやらもう話す気は無いらしい。
疑問が解消されないままになった石崎達は戸惑いながら声を掛けるが、何の反応も無いと分かると程なくして諦めたように背を向けた。
石崎、金田、アルベルトと、順に部屋を去っていく。
だがそこで一人、伊吹だけは龍園に視線を向けたまま、他の三人が居なくなったところで声を掛けた。
「随分と、らしくないじゃない」
「あぁ?」
「負けてこんな大人しくしてるとか、あんたらしくないって言ったの。
いつもだったらにやけ面浮かべて、その監視してた奴を探すか、でなきゃ五条にやり返す算段でも考えてるとこでしょ」
「ハッ、入学して半年も経ってないのに、もう俺の理解者面か?
なんなら、一晩掛けてジックリ俺がどういう男か、教えてやってもいいんだぜ?」
「バッカじゃないの」
下卑た発言に対し罵倒の言葉を吐き捨てる伊吹。
それでも、一応ふざけていると理解できるので、すぐさま気を取り直して言葉を続ける。
「別に、あんたが五条に手を出さないって言うなら別にいいわよ。
正直私もやりたくないし。ムカつくけど五条、あいつ普通じゃない……」
躊躇なく自らを傷つける行動。ただその場に立っているだけで発せられる威圧感。
放心していた石崎、気絶していたアルベルト、そして離れた場所で監視していた金田は今一理解が及んでいないようだったが、近くで見ていた伊吹だけは龍園の感じたその一端を、僅かながらに理解していた。
「今回ばかりは、あんたがビビってたとしても別にダサいとか言う気は無いわよ。
けど、いつまでもそんな腑抜けた顔続けんなら話は別」
「何度も言わせんな。たった4か月かそこらの付き合いで何を理解した気になってやがる。
お前は、今の俺が何を考えてるのか分かるってのか?」
「あんたが何を考えてるとか知らない。けど、さっき説明してる時のあんたの顔、五条の奴にちょっと似てた。
まるでこっちの事なんてどうでもいいって感じの顔」
「あぁ……たしかにそいつはムカつくツラだな」
「なに納得してんのよ」
自覚があったのか、ククッと笑みを浮かべる龍園に、伊吹は呆れた視線を向ける。
「とにかく、あいつ一人に負けたからってクラスが負けた訳じゃ無いでしょ。
なのに一回負けた程度でそんなに凹むとか、らしくないって言ってんの」
「……目出度い奴だ」
「はぁ?」
「心配しないでも、Aクラスに上がる知恵ならこれからも貸してやる。
分かったら、さっさと消えろ」
「ッ、あっそ! じゃあ勝手にしろバーカ!」
偉そうな物言いがカチンときたのか、最後にそう吐き捨て去っていく伊吹。
「……ガキかあいつは」
ともあれ、これで静かになったと龍園は再びベッドに体重を預ける。
「…………」
ただ一人残った部屋、静寂な空気が流れる中、龍園はぼんやりと考える。
「Aクラスに上がる、か……」
(五条……奴が動かないなら可能性はあるが……)
別にAクラスに上がる事、それが不可能だと挫折した訳ではない。
今なら分かる。五条護が言っていたクラス争いに興味が無いという言葉。それがどこまで本心だったのか。
おそらくは今後も、あの男がクラス争いに本気になることは無いだろう。当人にしてみれば、Aクラスの座を掛けた争いなど児戯のようなもの。
そういう意味ではAクラスに対し、付け入る隙はあると言える。だが――
「それに一体、何の意味がある?」
龍園翔は理解していた。例えクラス争いで勝ったとしても、どれだけ喧嘩自慢を下したとしても、もう自分が勝利の愉悦を味わうことは無いだろうと。
何故なら知ってしまったから。正しく、本当の意味で立ち位置の違う存在というものを。
井の中の蛙どころの話ではない。自分達が棲んでいたのは、居心地の良いように環境が調節された金魚鉢の中だった。
そんなところでトップに立つことに、果たして何の意味が有るというのか。
――らしくないって言ってんの――
「らしいってなんだよ……クソっ」
◆◇◆
「俺はCクラスのリーダーを当てていない」
「は……?」
綾小路の放った一言に、堀北は呆けたような声を上げた。
龍園たちが話し合っていた頃と同刻、船のラウンジにて。他のDクラスの面々が試験の結果に喜び合う中、コッソリと抜け出した二人は人気の無い一角にて向かい合っていた。
「どういうこと? リーダーを当てていないというなら、どうして私達のポイントは最初に配布されたポイントを超えているのかしら。いくらスポット更新で得たポイントがあると言っても、計算が合わないわ」
「占有したのが一つだけならな」
「あなた……本当に何を言っているの?」
「そんな頭がおかしいと言いた気な反応は止めてくれ。流石に傷つく」
全く傷ついているとは思えない淡々とした口調に対し、堀北は視線を鋭くする。
「仕方ないでしょう。あなたが言っているのは、それ程おかしなことなのだから。
一つもなにも、他のスポットはほとんどAクラスが独占していた。
それが出来ないからこそ、Cクラスのリーダーを当てたとしか考えられないと言っているのに」
本気で分からないのか、困惑した表情を浮かべる堀北。
(当然か……そんな簡単に思いつくようなら、こんな方法は取れなかったからな)
「そうだな、順を追って話そう。この試験が始まった最初の段階では、俺もリーダーを当ててポイントを稼ぐつもりだった。
300ポイントをどうやりくりしていくかなんて大体どこも似たり寄ったりのものだし、個人で操作できるものでもないからな」
「けれど、追加ルールは非常に困難な内容だったわ。普通にやってもリーダーの特定なんて出来ない。
実際あなたはリーダーを当てていないのでしょう?」
「ああ。結果だけ言うなら俺はリーダー当てというプランを捨てた。問題はその過程だ」
別にポイントを得た方法だけ端的に話してもいいが、ただ答えを教えるだけでは堀北の成長に繋がらない。
少々回りくどい説明になってしまうが、彼女の認識の誤差を埋める為にも、綾小路は最初から話すことにした。
「試験開始後、俺はまずベースキャンプを決める為の捜索に手を挙げた。そこで自由行動になることで誰よりも先に、あるスポット地点に先回りするつもりだった」
「簡単に言うけれど、スポットの位置なんて誰にも分からなかった筈よ」
「そんなことはない。お前は体調が悪くて船内に居たから分からなかっただろうけど、学校側はスポットに関するヒントを船上から既に与えていた。
Aクラスが早々にスポットを独占できたのだって、事前にある程度目星をつけていたからだろうな」
「船に居た時から、既にそれだけの差を付けられていたという訳ね」
開始の前から既に出遅れていたという事実に、苦い表情を浮かべる堀北。
しかし綾小路は敢えてその表情を無視して言葉を続ける。
「そして俺は洞窟に辿り着いた。そこが一番の重要拠点だと思ったからな」
「洞窟が一番の拠点? 川や井戸の方が便利にも思えるけれど?」
「大切なのはスポットそのものじゃない。どこにあるか、だ。
あの近くには他に塔と小屋、二か所のスポットが用意されていて管理するにはうってつけの場所だった」
「でも、あの時点ではまだリーダーは決めてなかった。カードも持たないあなたが先回りしたメリットは何?」
「最初は色々と探る程度のつもりだったんだ。俺達が占有できなくても、同じように考えた他のクラスが現われる可能性があったからな。
すると案の定、そこにはAクラスの五条達が居た」
「五条君達が? ……っ、ちょっと待って。だとしたら少し変よ」
一瞬疑問気な表情を浮かべながら、しかしすぐさま何かに気付いた堀北。
流石に察しが良い。いや、この場合は記憶力を褒めるべきか。
試験初日の状況を鮮明に覚えていなければ、この違和感にはすぐさま気付けない。
「あなたの話が本当だとしたら、五条君はスポットを占有した後すぐに私達のところに交渉に来たことになる。
彼らが最初からリーダー交代を目論んでいたなら、スポットの確保は私達と交渉した後でもよかった筈。順序が滅茶苦茶だわ」
「ああ、俺もそれが気になった。スポット占有に関しても交渉に関しても、五条ばかりが主体で動くのは明らかに効率が悪い。
だが、次の日一之瀬から龍園との話を聞いて合点がいった」
「どういうこと?」
「お前は龍園がAクラスの作戦を真似たと言ったが、おそらくは逆だ。
これはあくまで推測だが、龍園は最初BクラスじゃなくAクラスにポイントの交渉に行ったんだろう」
洞窟に辿り着いた時間からして、Aクラスは試験開始直後すぐにリーダー交代の作戦を思い付き、実行に移したのは間違いない。そしてこの時点では他クラスと交渉をする発想も無かった。
つまり順序は逆。
龍園がAクラスの作戦を真似たのではなく、Aクラスが龍園に交渉を持ち掛けられたという予想が成り立つ。
「……確かに、それなら色々と納得は出来る。けど、だからどうしたというの?
そこまで状況を見通した考察力は認めるけど、まだあなたがどうやってポイントを得たのか、その方法を聞いてないわ」
「言っただろう、順を追って話すと。ここまでは俺がリーダー当てというプランを捨てるに至った過程だ。
この時点で3クラスの動きを把握した俺は、リーダーを当てるのはほぼ不可能だと確信した」
「不可能って……私も困難とは言ったけど、随分と強く言い切るのね?」
「まず、言うまでも無くAクラスのリーダー交代策を破るのは困難だ。Bクラスとは協定を結んだ為リーダー当ての候補から外れる」
説明しながら、綾小路は堀北の眼前で指を三本立て、それを一本ずつ折りたたんでいく。
「残る候補はCクラスだが、スポットがAクラスに独占された以上、連中がカードを人前で出す機会も無い。
何なら、カード自体処分されていた可能性だってあり得る」
カードなんて、スポット更新の役割さえなければ単にリーダーの名前が書かれた弱点にしかならない。
それこそ焚火にでもくべてしまえば、それだけでリーダーの特定は不可能になる。
その可能性があるというだけで、候補から外すには十分だ。
「リーダーの特定は不可能。この時点で、俺は試験で勝利する為の方法は一つしかないと思った」
ここでようやく、堀北が聞きたかった本題。
いよいよもって明かされる答えに、緊張感からか堀北は息を呑んで言葉を待った。
「ポイント得る手段は、リーダーを当てるかスポットの占有のみ。
リーダーを当てた訳ではない以上、残る方法は一つ」
「だからそれは……」
「占有するスポットならあるだろう」
堀北が何か言い返すより先に、綾小路はきっぱりとした強い口調でその言葉を遮り、そして言った。
「――Aクラスが占有していたスポットが」
「あなた……何を言って……」
言葉の意味が分からないのか、唖然とする堀北。
そんな彼女に、綾小路は淡々と言葉を続ける。
「堀北、もしお前がAクラスの立場だったらどうする?
リーダーを交代した後、交代したリーダーはスポットの占有を続けると思うか?」
「……っ、まさか!」
そこまで言われ、堀北も理解したらしい。綾小路の言いたいことの意味。
「俺ならまずやらない。例えリーダーを交代しても、その後更新する瞬間を見られたら全てが台無しになるからな。
最低限ベースキャンプの更新はするかもしれないが、大部分のスポットは放棄すると読んだ」
「待って! ……だとしても……そうだとしても、それは確実な手段とは言えないわ。
もしもAクラスが試験終了間際に交代していたら、スポットを奪いとる時間なんて無かった」
動揺を抑えながら、必死に頭を回転させ状況を整理する堀北。
スポットの占有時間は8時間。それが切れなくては奪い取れない以上、もしもAクラスが最終日ギリギリまで粘っていたとしたら、到底奪い返す時間など取れなかった。
綾小路が最初からそれを当てにしていたというなら、あまりにも不確実な方法だと。
「リーダーの交代は、止むを得ない事情が無い限り認められない。
終了時間間際。最終日になってスポットを更新する必要もないのに、リーダーの交代を申請して認められると思うか?」
「それは……そうかもしれないけど……」
「万全を期すなら、Aクラスはある程度時間に余裕を持った上で交代する」
ついでに言うと、龍園の事も有る。
堀北には言わなかった、龍園がAクラスに仕掛けた強行策。
Aクラス側も龍園のポイントゼロ作戦を把握していたのなら、彼が何かしらの強行策に出るだろうと予想するのは難しくない。
であれば、その襲撃に備えて暗くなってからのリーダー交代は控えるだろうと、綾小路は予想していた。
「俺は3日目の時点で、この島にあるスポットの位置を把握しようと動いていた。連中がリーダーを交代したら、すぐに動けるようにな。
最終的に、俺が新たに確保したスポットは15か所。それら全て3回の更新を行った」
ちなみに、Aクラスのキャンプ地近くに在った二つのスポットに関しては目立つ危険性を考慮してスルーしたが。
他に幾つか見落としたスポットが存在する可能性もあるが、なんにせよこれでDクラスが元々持っていたスポットと合わせて、リーダーの指名にも相当するポイントを得る事が出来た。
もし目標値に届かなければ、高円寺が撮ったBクラスのリーダー情報を使わざるを得なかっただけに、中々に上々の結果である。
「あなた、どこまで……!」
驚愕の表情で瞠目する堀北。これがどれほど至難な事か分かったのだろう。
他クラスの思考を見切り、その隙を突いた作戦の奇抜さもさることながら、なにより単独で15か所ものスポット探り当て、それを気取られることなく更新するという所業。
並大抵の精神力と身体能力で出来ることではない。
「これが俺が試験で行ったことの全てだ」
正確には言っていないこともあるが。
綾小路は敢えて話さなかった、この作戦の穴。
大抵の者はAクラスが独占した時点で、スポットの占有は選択肢から外れる。その後の占有などまず思いつかないだろう。
だが、可能性はゼロではない。
いや、例え同じ作戦を思いつく者が居なかったとしても、短期間で多数のスポットを回るこの作戦は、偶然他の生徒の目に留まってしまう可能性も在り得る。
AクラスとBクラスであれば問題ない。既にスポットで多大な成果を得ているAなら、残り時間は余計な危険を冒さずキャンプに籠るだろう。
Bも似たようなもの。龍園に対する警戒から、仮に同じ方法に思い至ったとしても余計なリスクを冒しはしないだろうし、一之瀬は協定を破るような性格でもない。
問題はCクラス。どれだけの人数が島に残っているかも不明瞭。なんなら同じようにスポットの確保に動く危険性すらある彼らの存在は、放置しておけるものではなかった。
故に、綾小路は張った。最終日前日、浜辺周辺に監視の目を。
確実にCクラスを失格に追いやる為に。
もっとも、これに関しては堀北に言う必要も無い事。
綾小路にとっての本題はここからだ。
「それで堀北、今度はこっちが聞きたいんだが――お前はこの試験、何をしてたんだ?」
「……何が言いたいの?」
「いや、ただ質問してるだけだ。お前が馬鹿にしてた池や須藤は率先して動き、クラスに貢献してた。
アイツらが居なければ、Aクラスから得た物資だけじゃ足りず、ここまでポイントを残せなかったかもしれない」
「わ、たしは……」
今回の試験で堀北が出来たことは何もない。
自身、無力であった自覚が有る故か、怒気を抱きながらも弱々しい声で返す言葉を失う。
「いい加減、お前は認めるべきだ。一人で出来ることには限界がある。
上のクラスを目指したいなら、その独りよがりなやり方を見直した方がいい」
「それをあなたが言うの? 一人でこの試験に勝ったあなたが」
「むしろ俺だから言ってる。お前は勝ったと言うが、今回の実質的な勝者はAクラスだ」
Aクラスの最終ポイント。綾小路も流石にあれ程のポイントを得ているとは予想外だった。
プライベートポイントの引き渡しというAクラス優位の契約を結ばれながら、肝心のクラスポイントでも大した差を詰めることは出来なかった。
本来なら今の堀北にここまで辛辣な言葉を掛けるつもりも無かったが、あの結果を見てはそうもいかない。
「お前が今回の結果を見て満足してるなら、それは大きな間違いだ。今回1位を取れたのは向こうに勝つ気が無かったからだ。
今後もこんな試験は増えてくるだろう。お前が自分の欠点を自覚できないなら、このままズルズルと差は広がっていくだけだ」
言いながら、綾小路は堀北に背を向ける。
「俺からできるアドバイスはこれくらいだ。後は自分で考えろ」
「っ、待ちなさい! 結局、あなたは何がしたいの?
事なかれ主義のあなたが試験に参加し、こうして今私に助言している。あなたの狙いは何?」
「『俺に関する詮索はしない』それが1位を取った時の約束だ」
そう言い残し、綾小路は背を振り返ることなく歩き出す。
堀北からはまだ何か言いた気な気配が伝わってくるが、約束を違える気も無いのか呼び止められることは無かった。
デッキに出ると、赤い夕陽がゆっくりと水平線の向こうに沈んでいくのが見えた。
(結局、カメラに関しては余計な出費になったか……)
ポケットに入ったSDカードを弄りながら、綾小路は一人思考に耽る。
本来であればCクラスをリタイアさせるために用意したカメラ。
結局龍園たちは自らリタイアしたので、記録した映像も使うことは無かった。
(とはいえ収穫もあった。
五条護……やっぱりあいつを敵に回すのは駄目だな)
Cクラスとの争い。まさかああも一方的な展開になるとは綾小路も予想してはいなかった。
改めて再認識する。アレは暴力でどうにかなる次元の存在じゃないと。
(理性によって制御された力。一定のラインさえ越えなければ暴発の危険は無いか)
綾小路にとってこの試験、一番の利益が有ったとすれば、五条護という爆弾の導火線の位置が少しだけ分かったこと。
しかしまだ不十分。
Aクラスの座に興味など無いが、五条護という個人を知る為にも、今後もクラス争いにある程度の干渉は必要になってくるだろう。
(堀北は当面様子見だな。あとは龍園……出来ればあいつも、折れずにいてくれたらいいんだが……)
ぶつける手駒は、多いに越したことはないのだから。
◆◇◆
さて、そんなこんなであちらこちらにて話題の的となっている五条護。
そんな彼が一体何をしているのかと言うと……
場所は船内の私室。護はジャージから着替え、ラフなワイシャツ姿でベッドに腰掛けていた。
浮かべているのは、ボーっとどこを見ているかも分からない無表情。
無人島試験の疲れが有るのか、とも思えるが、よく見てみると彼から漂っている雰囲気は、疲労というよりどこか諦観に近い様相を思わせた。
何とはなしに、視線をゆっくり右へと向ける護。
するとそこには、護の手を抱きしめるように握りながら寝息を立てる有栖の姿が。
「スゥ……スゥ……」
そして今度は視線を部屋の隅へと動かすと、そこには女性物の旅行バックが置いてあり、その傍のハンガーラックに有栖のジャージや制服が掛けられた光景が。
(ここ……俺の部屋なんだが)
改めて、この状況を見て思う。
(どうしてこうなった……!)
突然ですが、急遽アンケートを取らせて頂きたいと思います。
議題は今後予定している、夏休みイベントの締めくくりとして書く予定の水着回について。
現状考えている2パターンについてどちらがいいか。
あまりこういう風に、展開に関して読者様任せにするのはいけないこととは思うんですが、正直今回に関しては私自身にどちらのパターンが良いとか、あまり拘りが無かったので。
参考程度に需要を聞いた上で判断しようかなと。
アンケートの締め切りは、船上試験終了までを予定しております。
なお、それぞれどういう展開かをざっくり説明しておくと……
前者の場合よう実の他キャラと関係が深まる……かも?
後者の場合、パンダと五条先生がハッチャケます。
夏休みの締めくくりの水着回、開催するならどっちがいい?
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よう実4.5巻準拠。学内プールに行こう
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高専メンバー参加型。学外で皆と楽しもう