よう実×呪術廻戦   作:青春 零

62 / 80
62話 ターニングポイント

 

 

 東京都郊外――筵山麓(むしろやまふもと)

 

 首都圏にありながら深い緑に覆われた山の奥地。荘厳な寺社仏閣が立ち並ぶ景観の中、長い石畳の路を歩く一組の男女の姿があった。

 

 一人はいつもながらの黒い衣服に身を包んだ五条護。もう一人は灰色のデニムに紺色のジャケットを合わせた、カジュアルな服装の女性、鬼龍院楓花。

 

 日付は無人島試験が終わった翌日8月8日。

 多くの生徒達が過酷なサバイバルの疲れを癒すべく船で一夏のバカンスを楽しんでいる中、護は船を抜け出し楓花と二人呪術高専へと赴いていた。

 

「ほぅ、今年の1年はそのような試験だったのか」

 

「あぁ……今年のってことは楓花の時は違ったのか。

 やっぱこういう特別試験って、毎年内容は違ってる感じ?」

 

「基本的にはそうだな。お前達が最初に経験した中間テストのように通例となっている試験もあるが、大半は毎年内容が異なっているらしい」

 

「へぇ……」

 

 質問の体を取ってはいたが然程関心は無かったのだろう。気の無い返事を返す護。

 何とも適当なリアクションであるが、所詮は道すがらの雑談。楓花も特に気を害した様子もなく言葉を続ける。

 

「しかしお前も相変わらず忙しないな。そんな試験が終わったばかりだというのにすぐ高専にUターンか。

 折角の旅行、少しくらい休んでも罰は当たらないだろうに」

 

「別に休みが必要なほど疲れちゃいないさ。

 この時期割と忙しいし、時間が有るうちにやれることをやっといた方がいいんだ」

 

 今の時期は任務が多いというのも有るが、兄に頼まれた乙骨の特訓の件も有る。

 交流会まで残り1か月程度。お互い任務などで都合が合う時間も限られる以上、あまり猶予があるとは言えない。

 

「そうか? それにしては随分と気怠そうに見える」

 

「ちょっと寝不足なだけだよ。流石に1週間も無人島で過ごしてたら生活リズムも狂うって」

 

 何でもないようにサラリと言葉を返しながら、しかし護は内心ギクリと密かに動揺を抱いた。

 流石に目聡いと言うべきか、表情に出したつもりは無かったがどうやら僅かな疲労の色を感じ取ったらしい。 

 

(言えねぇ……試験より、有栖の映画鑑賞に付き合ったせいで寝不足とか)

 

 まさか楓花も、怠そうにしている原因が試験ではなく映画を観ていたからだとは思うまい。

 昨夜の事を思い返すと遠い目が浮かびそうになるが、それを堪えて表面上はシレッとした表情を浮かべる。

 

 そんな護の様子を怪しむかのように、楓花はしばらく横目で眺めていたが、程なくしてポツリと言葉を返した。

 

「ふむ……そういうことにしておこう」

 

 何とも意味深な呟きであるが、どうやら引き下がってくれたらしい。

 そして楓花は護から視線を外し正面を向き直すと、改まって言葉を続けた。

 

「しかし、しばらく船を離れるつもりなら気を付けた方がいい」

 

「気を付けるって、何を?」

 

「先程試験は毎年異なると言ったが、それでも傾向として似通った部分はある。

 試験の褒美として1週間のバカンスなど、私の経験上あの学校が素直に生徒をねぎらうかと言われたら怪しいところだ」

 

「……つまりこの旅行中、まだ何かあると?」

 

「おそらくとしか言えんがな。流石に試験が終わってすぐ何かがあるとも思わないが、長期間留守にするつもりなら念頭に置いておいた方がいいだろう」

 

 護自身もその点に関しては危惧していたことだが、あの学校で1年過ごした経験のある楓花の口からそれを言われると、より実感が籠って聞こえた。

 

「そうする。まぁ、一応有栖にも何かあったら呼ぶように言ってあるし、多分大丈夫だとは思うけど」

 

 元々有栖には危機が迫った時の為に呪力を感知するお守りを渡していたが、今回はそれとは別に破ることでそれが護に伝わるタイプの呪符を渡してある。

 

 本当は学外で使っているケータイでも渡せたら話は簡単だったのだが、海の上では場所によっては圏外になることもある為断念した。

 

「成程、抜かりはないということか」

 

 まぁ、願わくば何かの弾みでうっかり破らないことを祈るばかりだが。

 護が不在の間、有栖には無理の無い範囲で映画を観るようにと言ってある。

 映画を観てたら気が動転してうっかり、なんてことは有栖に限って無いと思うが、あれだけ怯えていた姿を見ると絶対とも言い切れないのが怖い。

 

 ――と、そんなことを考えている間も歩は進み、気付けば二人の進む先に一軒の御堂のような建物が見えてきた。

 

 周囲にある建物より一際大きく立派な佇まい。閉じられた門の前には一人の男性が階段に腰掛けており、その人物は護達が近づくのを見ると、軽く手を挙げて声を掛けてきた。

 

「や、来たね」

 

 そう言って軽い調子で声を掛けたのは、特徴的な眼帯で目を隠したいつもながらの不審者ルックの青年――五条悟。

 その姿を見て、護の方も軽く手を挙げて応える。

 

「ん、珍しいね。兄さんが先に待ってるなんて」

 

「そんないつも遅刻してるみたいに言わないでよ。まるで僕が時間にルーズみたいじゃない」

 

「実際そうでしょ」

 

「んなことナイナイ。僕ほど時間に細かい人間は居ないよ?

 いつも待ち合わせ時間の7、8分前後にはついてるし」

 

()に来てたら意味ないでしょうが後に来てちゃ。

 ……っていうか、具体的な数字が出る辺りやっぱ毎回狙ってんでしょ」

 

「細かいこたぁいいじゃない。10分前行動とかさ、10分の誤差が許されるなら10分後に来ても許されると思うんだよね」

 

「んなこと言って、もし兄さんが待ち合わせ相手に10分待たされたら?」

 

「え? 勿論罰ゲームでしょ」

 

「…………」

 

 なんでこっちの方が「何言ってんの?」みたいな反応を返されているのだろうかと、一瞬我が身の常識を疑いそうになってしまう護。

 

「……護、この人はいつもこんな感じなのか?」

 

「そうだよ。少しは分かってきたみたいだな」

 

 どうやらようやく楓花も、五条悟という男がどういう人物か分かってきたらしい。

 彼女も大概マイペースなタイプではあるが、それでも会話のキャッチボールが成り立つだけ常識を弁えている方である。

 対し兄の場合、こちらがキャッチボールのつもりで投げたボールをフルスイングでかっ飛ばそうとしてくるから手に負えない。

 

「お前が普段から坂柳に弄られている理由が分かるな」

 

「言っとくけど、お前もそっち側だからな?」

 

 なにやら他人事のように愉快そうな笑みを浮かべる楓花に対し、護はジト目を向けながら嘆息する。

 

「もういいや……それで、乙骨君は?」

 

「憂太ならグラウンドに居るよ~。今頃真希達にしごかれてんじゃない?」

 

「ああ、そう……じゃあ俺はそっちに行くから()()()()()は頼むよ?」

 

「オッケー」

 

 親指を立てながら軽い調子で返事が返される。

 その様子を見届けるなり、護は背を向けるとグラウンドへ向かって一人歩き出した。

 

「相変わらず素っ気ないなぁ。やっぱ反抗期かな?」

 

「むしろ子供の頃は違ったのですか? 護が誰かに甘えている姿というのも、中々想像できませんが」

 

「そりゃモチ。あいつにだってそういう時期くらい…………」

 

 と、言いかけた所で固まること3秒……5秒……およそ10秒近く経ったところで楓花が口を開いた。

 

「……無かったんですね?」

 

 その声に籠るのは呆れか憐憫か、淡々とした態度でツッコミを入れる楓花。

 するとその言葉に、五条悟はフッと笑みを浮かべると、何ともキザったらしいポーズをキメながら口を開いた。

 

「ま、あいつは昔からしっかりしてたからさ。ほら、なんせ僕の弟だから」

 

「なるほど。それはしっかり者に成らざるを得ませんね」

 

「でしょ~……ん、今ニュアンス変じゃなかった?」

 

「いえ、今の護があるのはあなたのおかげなのだなと実感しただけです」

 

「わー、すっげぇ嘘臭~い。やっぱ前にも思ったけど君、割とイイ性格してんね」

 

「ええ、自覚しています」

 

 そう言って笑みを浮かべる楓花を眼帯越しに見ながら、こちらも愉快気な笑みを浮かべる五条悟。

 

「オーケーオーケー。ま、そんくらいの方があいつには丁度いいしね。

 んじゃ、そろそろ行くよ」

 

 雑談もそこそこに切り上げ、二人は御堂の扉の前へと移動する。

 

「真面目な話、護とはこれからも仲良くしてやってよ。あいつも割と影響を受けやすい子だからさ。

 まぁ、もっとも――」

 

 そこまで言ったところで、目の前の御堂の扉が開かれる。

 扉の奥に広がる薄暗い空間。その景色を前にしながら、五条悟は笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

「――今日を乗り切れればだけど」

 

 さて、どうして今日楓花が高専へ訪れることになったのか。

 その理由は、夏休みが始まる少し前まで遡る。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「は……? 反転術式を教えて欲しい?」

 

 それはある日の放課後。

 恒例となっている校内の巡回が終わり、楓花の部屋で軽く呪力操作の鍛錬に付き合ってた時の事だった。

 

「……どうしたよ、いきなり?」

 

 突然の楓花の申し出にキョトンとした表情を浮かべる護。

 彼女の突拍子もない発言にも慣れてきたつもりだったが、今日はまた随分と無茶なことをと思いながら。

 ともあれ、まずはどうしてそのような事を言い出したのか理由を聞くことにした。

 

()()()()から色々と考えてな。今のままでいいのかと少々疑問を覚えた」

 

「疑問?」

 

「ああ……私自身、お前から呪力の扱いを学びそれなりに動けるつもりでいたが、いざ実戦を経験してあの有り様だ。

 いくら呪力で肉体を強化しても、それだけでは純粋な格上相手にまるで通用しないと身に染みた」

 

 そう言って語る楓花の声も表情も、至って静かで落ち着いているように見えた。

 しかし護には、その淡々とした様子が却って普段の楓花らしくないようにも思えて、むしろ努めてそう繕っているような印象も受けた。

 

「基礎を軽んじるつもりはない。

 しかしただでさえ術式という才を持たない私が、経験値の量で遥か上をいく相手に追い縋るには、基礎力を磨くだけでは足りないと考えた」

 

(……意外とちゃんと考えてんな)

 

 楓花の言っていることはあながち間違っていない。

 力不足を埋める為に新しい技を習得する。見ようによっては短絡的な発想ともとれるが、むしろ選択肢としては割と妥当な線をいっている。

 

 なにせ呪術の世界は才能の世界。個々に適性がある以上、がむしゃらに努力するだけではどうしたって越えられない壁というものが存在する。

 故に大抵の術師はある程度の基礎を修めたら、早い段階で自分の適性を見極め、独自の戦闘スタイルや立ち回り方を確立していくことが肝要となる。

 

 とはいえ――

 

「言いたいことは分かったけど、いきなり反転術式は飛躍しすぎじゃない?

 仮に習得できたとしても、回復術なんて身に着けたって近接戦の技量が伴わないことには大して意味なんてないぞ」

 

 反転術式の利点は、並外れた回復力により多少の負傷をものともしない無茶な立ち回りが可能になる事。

 デメリットは、使用に対し多大な燃費の悪さと高い集中力を要すること。

 

 出来る出来ないは別にしても、実際の戦闘で運用するには、前提としてある程度近接で立ち回れるだけの技量が求められる。

 

「反転術式を挙げたのは、あくまで検討している手段の一つとしてだ。

 追い縋るとは言ったが、それは何も私自身が戦って倒す(すべ)を得たいという意味じゃない」

 

「ふむ……というと?」

 

「戦闘面に限らず、今後も呪術界に関わるのであれば何かしら自分なりの強みとなる武器は必要だろう?

 反転術式のような治癒術が使えるようになれば、回復の出来る支援要員として重宝されると思ってな」

 

「……言っとくけど、反転術式の使い手が皆、他人を治癒出来る訳じゃ無いぞ」

 

「む、そうなのか?」

 

 問い返してくる楓花を見て、成程そこを勘違いしていたかと内心納得した。

 まぁ、考えてみれば無理もない。なにせ彼女は他の術師の事をよく知らないのだ。

 護や家入といった、数少ない面識のある術師がホイホイ他人を治療しているのを見ていれば、反転術式に間違った認識を抱くのも仕方ないことと言えた。

 

「そもそも反転術式を使える術師自体少ないからな。1級のベテランでも使える人はほとんどいない。中でも他人の治癒が出来るなんて、俺の知る限り家入先生くらいだ」

 

「……? お前も以前、私と坂柳を治療しただろう」

 

「あれは自分の身体から漏れ出る反転術式のエネルギーを、俺の結界術で無理矢理に押し留めたゴリ押し技。

 他の奴が真似出来るものじゃないし、はっきり言ってまともなやり方じゃない」

 

 護自身、自分で編み出しといてなんだがこの治癒方法はかなり頭の悪いやり方だと思ってる。

 例えるなら、蛇口を思い切り捻って飛び散った水飛沫だけをコップに集めるような、そんな非効率的極まりないやり方。

 

 閑話休題、それはさておき。

 

「ここまで話してもらってなんだけど、反転術式を教えるってのは無理だ。まず教えられる人間が居ない」

 

「ふむ……? 難しいというのは理解したが、教えられる人間が居ない?」

 

「元々呪力を練る感覚ってのは人によって微妙に異なるものだけど、反転術式は殊更に独特のセンスが要求される。

 俺を含め、使える人間は大体感覚で使ってるような感じだからな。理屈をいくら口で説明しても、大した参考にはならないんだよ」

 

 護自身、反転術式のコツを掴むため過去一時期の間、家入に師事していたことが有るが、話を聞いても大した参考にはならなかった。

 まぁ、一応は解剖を手伝ったり助手のようなことをしてる内に人体構造への理解は深まったので、全く無駄な経験という訳でも無かったが。

 

「分かってはいたが、やはりここでも才能がものを言う訳か……」

 

 ある程度の難度は覚悟していたのだろうが、護の口から語られた事実に悩まし気な表情を浮かべる楓花。

 いきなり反転術式を覚えたいと言われた時は無茶なことをと思ったが、先の会話と今の様子から、それが単なる思い付きではなく真剣に考えた上での発言だったことが窺える。

 

「ていうかさ……サラッと聞き流してたけど、そもそも本気で呪術師を目指すつもりなの?」

 

 何やら当たり前のように呪術界に関わっていく体で話をしているが、そもそも楓花が呪術を学んでいたのは護身の為である。

 危険から身を守るために呪術を学んでいた人間が、危険の渦中に身を置く呪術師を志すというのも奇妙な話に思えた。

 

「あくまで、進路の一つとして考えている程度だがな。

 身を守る術として今後も呪術を学んでいきたいとは思っているが、正直私は自分が戦いに向いている人間だとは思っていない。

 なので補助的なスキルを身に着け、前線ではなく"窓"や補助監督官に近い立場で立ち回れないかと考えている」

 

「……言っとくけど、"窓"や補助監督官だって死ぬ危険性はあるんだからな。

 呪霊が居そうな場所が見つかったら真っ先に調査に踏み込み、場合によってはそこで死ぬことだってある。

 前線に出ないサポート要員なら安全とか考えてるなら、大間違いだぞ?」

 

「承知しているさ。だからこそ、こうして身を守るために学ぶことを止めるつもりもない」

 

 意思を確かめるように真っすぐ見つめる護に対し、楓花もまた真正面からその目を見返す。

 彼女の表情にはいつもと同じような薄らとした笑みが浮かんでいるが、その瞳からは確かな意思の強さが感じられ、そのことが護に僅かな困惑を抱かせた。

 

「……わかんないな。楓花の場合、別に命を懸けてまでこっちに関わる理由なんてないだろ?」

 

 身を守るために呪術を学ぶ。呪術を学ぶために危険な呪術界に関わる。

 並べてみると一見筋が通っているようで、その実完全に矛盾した考え方だ。

 

 楓花は以前、夏油との一件で一度死にかけている。

 死の淵を彷徨った経験がある以上、呪霊という存在を甘く見ている訳でも無いだろう。

 

「理由か……しいて言うなら、私が私である為にといったところか」

 

「答える気は無いと」

 

「フッ、乙女の心の内を(つまび)らかにしようなど、紳士の行いではないぞ?」

 

「紳士がどうとか知らんわ。

 まぁ、言いたくないならいいけどさ……」

 

 楓花が胡乱な言い回しをするのはいつものこと。

 秘密にする理由は分からないが、何かやましい事があってという訳でも無いだろう。

 

「なんにせよ、楓花としてはもう少し本格的な呪術を学びたいってことでいいんだな?」

 

「ああ、今はとにかく出来ることを増やしておきたいと思っている」

 

 繰り返しの確認に対し頷く楓花。

 それを見て護は「そうか」と呟くと、一旦間を置いてから言い聞かせるように口を開いた。

 

「そういうことなら、今すぐこの学校を辞めてさっさと高専に編入した方がいい」

 

 それは、初めて楓花に会った時にも言った提案。

 但し違うのは、あの時は適当に流すようなぞんざいな口調だったのに対し、今は真剣に言い聞かせるように言っているということ。

 

「……そうなるか」

 

「学べる環境としてそっちのがいいって意味もあるけど、そもそも現状じゃ呪力操作から先の技術は教えられないんだよ。

 呪術規定に照らし合わせるなら、本来今の状態だってグレーゾーンなんだ。

 本格的に呪術を学びたいって言うなら、高専に編入して正式に呪術師として登録を受ける必要がある」

 

 ただ呪力で肉体を強化できるだけなら、在野にも無自覚でやっているような一般人が稀に居るから見過ごしも利く。

 しかしこれ以上の術を求めるなら、それは最早護身の枠に留まらない。言い逃れようなく呪術師の領分に足を踏み入れることになる。

 

「そうは言っても、私のように後天的に呪力に目覚める例もある以上、全ての術師が高専を通過して認可を受けている訳では無いのだろう?」

 

 確かに、術師の中には楓花のように後天的に呪力を知覚できるようになった者もいるし、生まれながら呪力を使えても、高専の存在を知らず大人になってから知るという例だって存在する。

 

「そりゃ、一応例外はあるさ。そういう術師は幾つかの審査と講習を受けて、術師として認可を受けることもある。

 けどそうなると、どっちにしろ楓花が望むような呪術を学べるのは認可を受けた後。結局この学校に居る間は、基礎練くらいしか出来ることが無くなる」

 

「本末転倒という訳か……」

 

 そう言って真剣な表情で考え込む楓花。

 その悩まし気な表情を見て護は不思議に思った。

 

「そもそも、どうしてこの学校に拘ってんのさ?

 楓花の場合、別にAクラスの特権が欲しいってタイプでもないだろ?」

 

「そうだな。たしかに私にしてみれば、Aクラスの特権など無くとも大抵の進路はどうとでもできる自信が有る。 

 それでも、やはり保険はかけておきたいのでな」

 

「保険?」

 

「どうとでもできると言ったが、流石に高専のような特殊な学校に入ってしまえば進路の幅は狭まるだろう?」

 

「まぁ、この学校に比べればそうかもな」

 

「先ほども言ったが、私としては将来的には補助監督官のような支援職を主眼に据えたいと思っている。

 場合によっては一般人に近い立場から、支援を行うことも視野に入れている。

 そのためには、今の内から進路の幅を狭めるのはあまり望ましくないのでな」

 

 一応、理解できなくはない。

 原則、呪術師は高専の認可を受ける義務があるとはいえ、厳密に呪術師と呼ばれるのはある程度の戦闘力を有し、実際に現場で呪霊を祓う立場の者に限定される。

 補助監督官などサポートを行う人材に関しては、今楓花が言ったような理由から一般校を出ている者も多い。

 

 とはいえ、それでもやはり楓花くらいの年齢で本腰を入れて学びたいというなら、高専を出た方がいいのは事実。

 

(それに……なんかそれだけじゃない気がするんだよな)

 

 あくまでなんとなくでしかないが、護には楓花の語った理由がただそれっぽく取り繕っただけのように思えた。

 

(とはいえ、俺こういう説得って向いてないしな)

 

 色々と講釈を垂れはしたが、正直言うと護自身、自分が高専に入る義務もなく幼少期から術師として活動していただけに、高専で学ぶ重要性について理解はしていても実感として伴ってはいなかった。

 

(……仕方ない。やっぱ、こういうのは()()()に任せるか)

 

 長い独白。護はようやく自分の中で結論を出すと、楓花に向かって意を決したように切り出した。

 

「わかった。お前が高専に通いたくないって言うなら、一つ条件がある」

 

「条件?」

 

「ウチの責任者を認めさせてみせろ」

 

 

 

 




 申し訳ありません!
 遅れたこともそうですが、おそらく今回の話を読んだ方々はそもそもどうしてこのタイミングでこんな話を? と思った事でしょう。

 ぶっちゃけ、私も書きたくなかったし、書こうと覚悟を決めるまでにすんごい時間がかかった。
 
 ただ、やっぱり楓花さんの立場をこのままなぁなぁで進めて行くわけにはいかないしなぁ。
 こういうイベントを差し込む機会と言ったら、この夏休みの間に差し込むべきだろうなぁ。

 などと思った結果、こうなりました。

 
 そして久しぶりの楓花さんと五条先生のキャラが書きにくい!
 
 今回、夜蛾学長とのやり取りも終わらせたかったのですが、どうしてもしっくりくるやり取りにならず。
 これから仕事だし、これ以上皆様待たせるのもなぁ、ということで一旦ここで投稿させて頂きました。次回、もう少々お待ち頂ければと。

夏休みの締めくくりの水着回、開催するならどっちがいい?

  • よう実4.5巻準拠。学内プールに行こう
  • 高専メンバー参加型。学外で皆と楽しもう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。