よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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65話 銀髪少女は新たな世界を知る

 

 それは無人島試験終了から3日後。豪華客船での船旅も折り返しに差し掛かろうという頃。

 時刻は19時。乙骨の特訓を終え客船へと帰ってきた護は、出迎えた有栖からある報告を受けていた。

 

「『グループ別特別試験』……ねぇ」

 

「はい。船内アナウンスで通達があったのが、今から3時間前のこと。

 既に幾つかのグループは説明も終わっていて、聞き取りをした所このような内容でした」

 

 言いながら、有栖はテーブルの上に一枚の紙を差し出す。

 そこには今回の試験のルールを纏めたのだろう、以下のようなことが書かれていた。

 

 


 

《夏季グループ別特別試験》

 

【試験の流れ】

 

 ・生徒は各クラス混成、干支になぞらえた12のグループに分かれ行動する。

 ・試験期間は明日から4日後の午後9時まで。その間1日の完全自由日を挟む。

 ・試験期間中、生徒は午後1時と午後8時に集合し1時間の話し合いを行う。

 ・話し合いの内容は自由。なお、その間の退出は認められていない。

 

【優待者について】

 

 ・各グループには『優待者』となる人物が一人設定されている。

 ・優待者が分かるのは試験開始日の午前8時。学校からの一斉メールにて告げられる。

 ・試験終了後、午後9時半から午後10時までの30分間、生徒には自グループの優待者が誰であったか解答する時間が与えられる。

 ・解答は自分の携帯を使って、所定のアドレスに送信することで受け付ける。

 ・優待者及び優待者の所属するクラスの生徒には解答する権利が無い。

 ・試験の結果は解答によって、以下四つの中から決定される。

 

≪結果1≫

 解答時間中、グループ内の全員が優待者を正答した場合、優待者には100万prそれ以外の生徒全員に50万prが与えられる。

 

≪結果2≫ 

 全員の解答で一人でも未解答もしくは不正解者がいた場合、優待者のみが50万prを得る。

 

≪結果3≫

 優待者以外の生徒が試験終了を待たずに解答し正解した場合、その時点で試験は終了。

 正解者のクラスには50clと正解者個人に50万prが与えられる。なお、優待者を当てられたクラスはマイナス50clとなる。

 

≪結果4≫

 優待者以外の生徒が試験終了を待たずに解答し不正解だった場合、その時点で試験は終了。

 その生徒のクラスはマイナス50cl。優待者のクラスには50clと優待者個人に50万prが与えられる。

 


 

 

 長々と羅列された試験のルール。おそらくはこれでも最小限に纏めたのだろうそれに目を通し終えたところで、護は近くに置かれたペットボトルのお茶を飲み一息ついた。

 

「ん……結構面白そうなルールだな」

 

 ポツリと呟かれた一言。

 初めてかもしれない。護がこの学校の試験に対して肯定的にも取れる発言をしたのは。

 それを聞いた有栖は意外そうな表情を浮かべた。

 

「意外ですね。護君の事ですからてっきり「面倒だ」とでも言うかと思っていたのですが」

 

「そりゃ、試験自体が面倒だって気持ちに変わりはないさ。

 ただ内容だけを言うなら、こういう思考トレーニングみたいなゲームは割と嫌いじゃない」

 

 少なくとも、無人島試験の事を思えば今回の試験は大分楽な部類である。

 試験時間も一日に二度、一時間ずつ拘束される程度。その間も基本自由にしていいということであれば、極論寝て過ごしたっていいことになる。

 

「なるほど。この内容を聞いて面白そうと言えるのも、護君ならではですか」

 

 他の生徒であればクラスの進退が掛かっている以上、こうも気軽に考える余裕なんて無いだろう。

 そういう意味では、このような感想もある意味らしいと言えるのかもしれない。

 

 それはともかく。

 

「で、俺の集合時間は?」

 

 なんだかんだ悠長に話しているが、そもそも護はまだ自分の集合時間が何時なのかも聞いていなかった。

 有栖が呑気に説明している辺り大丈夫だとは思うが、気になったので問いかける。

 

「ご安心ください。まだ時間に余裕は有ります。

 護君の集合時間は8時40分。私と同じ最後の組ですから」

 

 そう言って、()()携帯を差し出してくる有栖。

 こういう時の為、護は予め自分の携帯を有栖に預けていたのだ。学校からの連絡があった時は、代わりに確認できるように。

 携帯を受け取りメールを開く。すると、中には確かに20時40分集合との記載があった。

 

「また一緒か」

 

「何かご不満ですか?」

 

「んにゃ、別に」

 

 別に嫌という訳では無い。むしろ今回の試験内容を考えるなら、護のスタンスを理解している有栖が傍に居るのは心強いと言うべきだろう。

 それでも、最近は殊更に他のクラスメイトから有栖とセットで扱われていることを考えると、やはり複雑な心境を抱かずにはいられない。

 

 そう思っていると、続けられた有栖の言葉に護は明確に眉を顰めた。

 

「ちなみに、他のグループメンバーは葛城君と的場君です」

 

「そりゃまた……」

 

 葛城は言うまでもなく、的場もAクラスにおいては割と目立つ生徒の一人である。

 学業成績においては常に上位。クラスでの話し合いの場でも率先して意見を述べたりと、発言力のある生徒。

 

 有栖に加え、その二人が一緒のグループに固められている事。

 更にグループ毎への説明時間帯が最後(トリ)に据えられている事。

 作為的なものを感じずにはいられない。

 

「単純な成績順……っていうなら俺より上の生徒は居るし、他の部分込みで目立つ生徒を集めたってとこか」

 

 一応、テストの点数に関して言うなら護も上位に入る方ではある。

 しかしながら、普段から本腰を入れて勉強に取り組んでいる生徒達に比べれば、やはり見劣りしてしまう。 

 

「そうですね。細かい基準は分かりませんが、クラス内における中心人物が集められていると捉えて問題無いでしょう。

 加えてグループ毎のパワーバランスを考慮すれば、他クラスも同様の基準で選ばれると考えていい筈です」

 

 こうなってくると、同じグループになるだろう他クラスのメンツも、ある程度は予想できる。

 生憎と護自身は他クラスの情報に疎いため完全な推測を立てることは出来ないが、有栖の方はおそらく既に細かい目星も付けているのだろう。

 

「ま、その辺りはどうせ説明時間になれば分かんでしょ。まだ時間もあるし、俺はちょっとシャワー浴びて来る」

 

 なんにせよ、情報も出そろってない状況でとやかく考えても仕方がないだろう。

 つい先程まで乙骨のトレーニングに付き合っていたこともあって、護も少々汗を掻いた。

 集合時間までに一汗流しておこうと、着替えを取りに鞄に近づく。

 

「それは構いませんが、護君」

 

「ん?」

 

「なにやら機嫌が良いようですが、何かありましたか?」

 

「……そう見えた?」

 

「ええ、あくまでなんとなくそう感じた、というだけですが」

 

 思わぬ指摘に、ふと鞄に掛けた手が止まる。

 

「そうだな……そうかも」

 

 自覚は無かったが、不思議と有栖に指摘された言葉には妙な納得感を覚えた。

 自然と、その視線が自身の右腕に向かう。

 僅かに破れた服の袖。その奥に見える、痣と呼ぶほどでは無いがほんのりと赤みがかった皮膚に。

 

「才能か……」

 

「護君?」

 

「いや、何でもない。ていうか有栖の方はどうなのさ? 俺が薦めたやつ以外に、少しはまともなホラーも見れるようになった?」

 

 話を逸らしたい訳では無いが、どうしたと言うなら有栖の方はどうだったのかと問いかける。

 すると、何故か途端に有栖の目の色が沈んだ。

 

「ええ……一本だけですが、護君に選んで頂いたもの以外に私自身でも選んで観てみました」

 

「……どしたのさ?」

 

 ただ恐怖を感じているのとは違う、心なしか背景が煤けたようにも見える虚無顔。

 一体どんな映画を観ればそんな顔になるのか。困惑を抱きながら問い返すと、有栖は心底疲れたように嘆息してからタイトルを告げた。

 

「……『シャークハザード』という作品を」

 

「……サメか」

 

「サメです」

 

「そうか、うん…………何で?」

 

 心の底から疑問の声が漏れ出た。

 ホラーじゃないだろ、というツッコミに関してはまぁいいだろう。

 パニックホラーもある種のホラー。埒外の怪物が襲ってくるという点において、スリルや驚きを与えてくれる作品であることに違いはない。

 

 しかし、何故にそこでサメ?

 

 B級映画の代名詞。

 まして見るからにバイオとサメを掛け合わせたような、いかにも一発ネタ染みた地雷臭漂うタイトル。

 もはやB級通り越して、Z級の匂いがプンプンする。

 

 直感的に護が抱いた感想を裏付けるように、有栖は沈んだ表情のまま言葉を続けた。 

 

「いえ、私なりにどうすれば恐怖心を克服できるかと考えてはみたのです」

 

「うん」

 

「少しずつ怖さのレベルを上げていくといっても、恐怖と言うのは明確に数値化できるものではありません。

 なので考え方を変え、まずは人が死亡するシーン、流血シーンに慣れるところから始めようと考えました」

 

「それで?」

 

「とはいえ、いきなり刺激の強い演出を観る勇気は持てず。

 ならば逆に、評価が低い作品であればそれほどでもないのではと調べたところ……」

 

「予想以上の駄作を引き当てた?」

 

「……はい」

 

 思い出したのか、再び虚無顔になる有栖。

 サメ映画にはよくある事である。好奇心から手を出したはいいが予想以上に内容がくだらなくて、終わってみれば虚しさばかりが残るだけというのは。

 

「つまらない映画は他にもありましたが、あそこまでのものは初めてでした。

 私の人生において、最も無駄な時間だったようにすら感じます」

 

「そこまで言うか。いや、俺も経験あるから気持ちは分かるけど」

 

 僅かに苛立ちの籠った声で語る有栖。

 察するに余程の駄作だったらしい。有栖からこうも珍しい表情を引き出してみせたその作品に、護はいっそ感心を覚えた。

 

「……一応聞くけど、怖くはなかったの?」

 

「怖さ以前に内容が奇天烈過ぎて……自分は何を見せられてるのだろうと、そんな感想しか浮かびませんでした」

 

「むしろ、そんなのをよく最後まで観たな。俺だったら途中で切ってる」

 

「あそこまで観たら、最後どのように収拾をつけるのかと逆に気になってしまって……」

 

「ちなみにオチは?」

 

「研究所が爆発して全て吹き飛びました」

 

「だろうよ」

 

 もはや約束された爆発オチ。

 ある意味期待を裏切らない結末である。

 

(大した進展は無しか……)

 

 まぁ、精神的なトラウマなど一朝一夕にどうにかなるものでもない。

 特に落胆した訳でも無く、ただ何となく心の中でそう呟くと、しかし有栖は更に口を開いた。

 

「ただ……」

 

「ん?」

 

「あまりに酷かったせいで冷静になれたと言いますか……なんとなくですが、自分の中でスプラッタなシーンに対する抵抗が薄れたような気がします」

 

「え、マジ?」

 

「実際に他の映画も観てみないと何とも言えませんが……今なら多少の流血シーンも、一つの演出として受け入れられるような気がするんです」

 

 つまらなさがグロさや怖さを上回ったか。

 

 これまでの有栖は心の中に沁みついたトラウマで、ただ漠然と目の前の物語に恐怖心を抱くだけだった。

 それがあまりにチープな作品を観たせい(おかげ)で、余計な感情移入をすることなく演出や話の構成など、映像作品としての技術に目が行くようになったのだろう。

 

 映画を映画として楽しむ余地が出てきた、とでも言えばいいか。

 予期せぬ形ではあるが、どうやら一応の成果はあったらしい。

 

「はぁ……何がプラスになるかって、分かんないもんだな」

 

「釈然としませんが」

 

 まぁ、克服の取っ掛かりが出来ただけでも重畳である。

 正直護としては、有栖のホラー克服に関してはどう手を付けたものかと悩んでいたのだ。

 

 お化けが怖いという気持ちを共感できない護には、有栖が何を見てどの程度怖がるかを判断するのが難しい。

 一人でも観れるようにと薦めた作品はと言えば、ほとんどコメディベースにお粗末程度のホラーを加えたような作品ばかり。

 

 今回の件で多少なりスプラッタ系に耐性ができたのなら、そこから徐々にホラーに寄せていくという手も取れるだろう。

 

(まずは『プレデター』とかのパニック映画に慣れさせて、そこからゾンビ系にって感じで少しずつホラーに寄せてくか?

 いや、つまらなくて冷静に慣れるってんならいっそ『ミミズ人間』とかも……)

 

 脳内で今後のホラー克服チャートを組み立てる。

 すると何を察したのか、有栖は小さく身震いした。

 

「……今、妙な寒気が」

 

「大丈夫か? ちょっとクーラー効きすぎてんじゃない?

 これから試験なんだし、風邪ひかないよう気を付けなよ」

 

 よもや自分の考えていることが原因とも知らず、気遣う声を掛ける護。

 

 後日、有栖はその身で三歩進んで二歩下がるを実践することになる。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 時刻は20時30分。

 綾小路清隆は、同じクラスの平田洋介に連れ添って2階フロアへと来ていた。

 フロアへ降りた途端、そこかしこに居る生徒達の姿が目に入る。

 

 全員が集合時間に集まった生徒――という訳では無いらしい。

 その場に居るほとんどの生徒は、もうすでに集合時間間際だというのに部屋に入る素振りも無く、つぶさに周りを観察しながら携帯を弄っていた。

 

 平田と軽い雑談を交わしながら、彼の集合場所に指定された部屋へ向かって歩く。

 すると一つの扉の前で、数人の生徒が固まっている姿が見られた。

 そしてその中心には、見知ったクラスメイト――堀北鈴音の姿が。

 

「もし俺の勘違いでなければ、20時40分組なんじゃないか?」

 

 堀北の前に立つ、禿頭の生徒がそう言った。  

 

(たしか葛城、だったか)

 

 直接の面識こそ無いが、綾小路はその人物に覚えがあった。

 目立つ風貌と高校1年生にしては落ち着いた態度。Aクラスの中でもリーダー格の生徒として、時折聞こえてくる人物だ。

 

「そうだとしたら……あなたに何か関係があるのかしら?」

 

 ガタイの良い葛城に見降ろされながら、しかし臆することなく毅然とした態度で堀北が答える。

 

「やはりな。俺も同じ20時40分組だ。明日からは同じグループとして協力し合うことになる」

 

「協力ね……それは共通の目的を掲げた者同士でこそ成立する言葉よ。 

 それとも、言外に私達なんて敵にも値しないという意思表示かしら?」

 

 些か喧嘩腰過ぎる態度にも見えるが、堀北の発言にも一理ある。

 綾小路の目から見ても、協力という言葉を吐いた葛城からは言うほど友好的な雰囲気は感じられなかった。

 

「随分と威勢がいいな。だがそのように噛みつく態度は感心しない。

 前回の無人島試験で1位を取った手腕は見事だが、それは複数の要因が重なった結果だ。

 順位がそのままクラスの実力を表している訳ではない」

 

 表向き、無人島試験でのDクラス1位という結果は、堀北がCクラスのリーダーを突き止めたから、という形にしてある。

 実際は綾小路がスポット占有でポイントを稼いだ訳だが、その事実を知るのは作戦を実行した綾小路本人と堀北。そしてキーカードを借りるため事情を説明せざるを得なかった平田のみ。

 その平田に関しても、あくまで作戦立案は堀北。綾小路はスポット占有に動いただけという認識だ。

 

 堀北に対し()()と言った口振りからして、葛城も無人島試験の立役者は堀北と認識している様子。

 どうやら他クラスにも、こちらが実行した策は見破られていないらしい。

 

「わざわざそれを言いたくて声を掛けてきたのかしら?

 だとしたら負け惜しみにしか聞こえないわね。過程がどうあれ、降ってきたチャンスを結果に結びつけたのは私達の力よ。批判される筋合いはないわ」

 

「何も結果に不満があって話しかけた訳じゃない。これはあくまで忠告だ。中間テストと無人島試験、一度や二度成功したくらいで勘違いしない方がいいと。

 仮に君達がCクラスに上がったとしても、クラスポイントの差は今も歴然としてある事を忘れないでもらいたい」

 

 今やDクラスのポイントはCクラスを射程圏内に収めている。今回の試験の結果次第では順位変動も十分に起こりうる。

 葛城はそれを見越した上で、調子に乗るなと念を押しているのだろう。

 

 どうやら葛城という男は余程用心深いらしいと、綾小路は思った。

 現在のAクラスとDクラスの差は歴然。無人島試験にしたって、こちらが1位を取れたのはAクラスとの取引があったからだ。

 にも拘らず、それに慢心することなく自分達が上であるとプレッシャーを掛けに来ている。

 

 しかし堀北もそれに負けじと言い返す。

 

「私達はまだ入学して間もない。あなたと私にそれほどの差があるとは思えないわ。学校側が勝手にジャッジしてクラスを振り分けただけ。それを忘れないで」

 

 そのやり取りを眺めながら、綾小路は隣に居る平田へと話しかけた。

 

「平田、もしかしたら大変なグループに巻き込まれたのかもしれないな」

 

「そうだね。葛城君と、あっちにはBクラスの神崎君も居る。彼らと同じグループなら苦戦は必至だと思う」

 

「いやそれだけじゃない」

 

「え?」

 

「オイ、ここはいつから見世物小屋になったんだ? 道を塞いでんじゃねぇぞ雑魚共」

 

 背後から響く荒々しい声。

 振り返ると、そこにはCクラスの龍園翔が三人の生徒を引き攣れて歩いてくる姿があった。

 

「……龍園か。お前もこの時間に招集されたのか? それとも、偶然ここを歩いているだけか?」

 

「残念なことに、お前らと同じ時間のようだな」

 

 堂々とした歩みで人混みを割って進む龍園。

 綾小路もさりげなく脇にどいて道を譲ると、龍園は葛城へと近づき正面から睨み合う形となった。

 

「成程。この組は学力の高い生徒を集めているのかと思ったが、お前とそのクラスメイトを見る限りそうでもないらしい」

 

「学力だ? くだらねーな。そんなものには何の価値もない」

 

「それこそ残念な発言だ。学業の出来不出来は将来を左右する最も大切な要素だ。日本が学歴社会と言われていることは知っているはずだが?」

 

「ハッ、本気でそう思ってんなら哀れなもんだ。テメェのやってることが茶番ってことにすら気付いちゃいねぇ」

 

「どういう意味だ?」

 

「さぁな。ご自慢の出来の良い頭で考えたらどうだ?」

 

 まともな回答を返さぬ龍園を見て、単なる挑発と受け取ったのだろう。

 葛城は「フン」と軽く鼻を鳴らすと、特に気にした風もなく言葉を続けた。

 

「まぁいい。同じグループだというなら、ゆっくり話す時間もあるだろう」

 

「生憎こっちはテメェに興味はねぇがな。他のメンバーはどうした? まさかその辺に居る雑兵連中がそうってことはねぇだろ」

 

 確かに、綾小路もそれは気になっていた。

 現在、葛城の近くに見える生徒は一人だけ。他のAクラスの生徒は遠巻きに眺めているだけでグループメンバーのようには見えない。

 

 おそらくは龍園も気付いているのだろう。

 今この場に各クラスの主戦力たる生徒が集まっているこの状況。

 残るAクラスのメンバーが誰か。否応なしに、ある二人の存在が頭をチラつく。

 

 そう思っていると、綾小路は丁度こちらに近づいてくる気配を感じ取った。

 

(噂をすれば、か)

 

 廊下に佇んでいた生徒達は、その人物たちの接近に気付くなり一様に視線を向ける。

 部屋から遠い位置に居る生徒達から順々に。まるで波のように意識が伝播していき、次第に綾小路の周囲に居る生徒達や、今まさに問いかけていた龍園もまた閉口し、そちらへと視線を向けた

 

 そこに居たのはやはりと言うべきか、身長差のある二人の生徒。

 ゆったりとした歩調で歩く小柄な少女に合わせ、隣を歩く長身の男子――坂柳有栖と五条護。

 

 おそらくは今の1年生の中において最も注目と警戒を集めるコンビ。

 

 皆の視線が集まる中その二人は――――

 

 

「つまんないって言ったら、俺はアレかな『ツインヘッドシャーク』。

 ほぼ内容が頭を素通りしたからあんま覚えてないんだけど、とにかくそうはならんだろってツッコミ所が多かったのは覚えてる」

 

「こちらは逆に、内容がひどすぎて忘れられそうにないです。

 ウイルスで人がサメになるという突飛なストーリーに目を瞑るとしても、変貌したサメ人間の姿が被り物をしただけの人というのは、些か手抜きが過ぎると思いませんか?」

 

「予算不足だったんだな」

 

「それくらい企画の段階で予想できるでしょうに。

 それにサメなのに銃を使ったり爆弾を使ったり、サメに変貌した意味はどこにあったのかと」

 

「サメも多様化の時代だからな。今時は頭が増えたりタコと合体したり、メカになったりしてるくらいだし」

 

「護君……サメって何なんでしょう?」

 

「知らね」

 

 

 ――――周りの視線を気にすることも無く、何故かサメ映画について語り合っていた。

 

「……お前達は、一体何の話をしているんだ?」

 

 その場に居る一同の気持ちを代弁するように、葛城が二人へと声をかける。

 

「これは皆さんお揃いで。何のと聞かれましても、最近観た映画の話ですが?」

 

 それが何か? とばかりに首を傾げる坂柳。

 おちょくっているのか素で言っているのか、判断に困った様子で葛城は声を絞り出す。

 

「……これから試験だということが分かっているのか? 少しは緊張感を持ったらどうだ」

 

「フフッ、今から気を張っていても疲れるだけですよ?

 "self-possessed" 成功を収める為には常に冷静沈着に、己を保つことを心掛けなくてはなりません」

 

 それにしても気を抜きすぎな気がするが。

 先程堀北は葛城に対し、眼中に無いのかと問うたが、それを言うならこの二人の態度こそそれだろうと綾小路は思った。

 まさしく周囲の者達など敵とも思っていないような自然体。

 

 それを見た龍園から小さく舌打ちする音が聞こえた。

 

「やっぱテメェらも同じ組か」

 

「どうやらそのようですね。他のクラスの方々も中々興味深いメンバーが揃っているご様子。どうぞお手柔らかにお願いいたします」

 

 そう言って、周囲を軽く見渡しながらちょこんとスカートを摘まみ礼をする坂柳。

 可憐な容姿と相まって様になった仕草。

 その場にいたほどんどの者が男女問わず見惚れたような反応をするが一部の例外、龍園はその視線を坂柳ではなく、隣に立つ五条へと向けていた。

 

(さて、どうなる?)

 

 無人島での一件を知る身として、興味深く事態を見守る綾小路。

 他の面々も、次第にその険呑な雰囲気に気付き固唾を飲んで見守るが、しかし意外なことに龍園は程なくして興味を失ったかのように視線を切った。

 

「フン……いくぞお前ら」

 

 控える生徒に指示を出し、五条の横を通り過ぎる龍園。

 随分と大人しい姿に違和感はあるが、どうやらこの場は何事も無く終わるらしい――と、皆が思ったその瞬間、龍園は唐突に振り返り、背を向ける五条へと回し蹴りを繰り出した。

 

「なっ――」

 

 誰の口から漏れたのか、驚いた声が耳に届く。

 

 ――が、その驚愕は杞憂だった。龍園の繰り出した回し蹴りは、振り返ることも無いまま五条が無造作に伸ばした手によって、足首を掴まれ止まっていたから。

 

「……これも防ぎやがるか。バケモンが」

 

「ん、おかしなこと言うね? お前自身、今のが通るとは思ってなかった癖に」

 

 今まさに攻撃を仕掛けられたとは思えない落ち着いた声で、言葉を返す五条。

 その呑気な態度に一瞬理解が遅れたのか、僅かな間をおいて葛城が声を上げる。

 

「な――何のつもりだ龍園!」

 

「ギャーギャー騒いでんじゃねぇ。

 こんなもん、ただの俺流の挨拶だ。実際怪我なんざしてねぇだろ」

 

「詭弁ね。今のは明らかに危害を加える意図の攻撃だった。目撃者だって大勢いる。学校に報告すればタダじゃすまない筈よ」

 

 それを見ていた堀北もまた、龍園を糾弾する声に加わる。

 

「ハッ、部外者がうるせぇこった。外野が何を言ったところで当人が被害を訴えなきゃ、罰則なんざ下りようがねぇ。

 オイ、メルヘン野郎。今俺はお前に危害を加えたのか」

 

「あぁ、いいよいいよ。たかだかじゃれつかれた程度で怒るほど狭量じゃないつもりだし。さっさと用件終わらせて休みたい」

 

 今の龍園の攻撃は傍から見てもかなり勢いのある蹴りだった。

 にも拘らず、まるで意に介した様子も無い五条に、周囲の者達は困惑の表情を浮かべた。

 

「チッ……だと思ったぜ」

 

 ある意味望み通りの返答だったろうに、忌々し気な舌打ちを漏らす龍園。

 すると彼は振り返ると、今度こそ本当に集合指定のあった部屋へと入っていった。

 

「……付き合ってられないわ」

 

 理解できないやり取りに呆れたのか、堀北もまた背を向け別の部屋へと入っていく。

 

「……本当に、とんでもない人たちのグループになっちゃったみたいだね」

 

 隣でしみじみと呟く平田に、綾小路は頷きを返す。

 

「本当にな。平田も頑張ってくれ。俺はそろそろ戻る」

 

「うん。ありがとう綾小路君。また何かあったら連絡するよ」

 

 そして、綾小路は踵を返しその場を後にした。

 

 

 

「――綾小路?」

 

「どうかした?」

 

「いえ……知人と同じ名前が聞こえたと思ったのですが、偶然でしょう。

 彼がここに居る筈は有りませんから」

 

 後ろから聞こえたそのやり取りを、気にすることも無く。

 

 

 






 ちなみに、原作じゃ竜グループが最後の組とは明記されてなかったんですが、卯グループの説明時間との幅。
 卯グループの説明があった時点で、既に何組かは説明が終わっていた事。
 1グループあたりの説明時間が20分。加えて10分程度の遅刻を想定している点から多めに時間を取っているだろうこと。

 それら幾つかの情報を踏まえタイムスケジュールを考えた所、各クラスのリーダー格が集まった竜グループは最後の組だったんじゃないかと勝手に考察しました。

 

 なお、『シャークハザード』という作品は実在しません(私が知る限り)。
 もし有栖さんと同じ気持ちを味わいたいという人は、『ハウスシャーク』という作品を観たら少しは気持ちが分かると思います。
 あくまで個人的な感想だけど、私が観た映画の中で一番わけがわからなかった作品。
 
 
 私自身そんな映画観る方じゃないし、共感してもらえるか分からないけど、ホラー映画に興味があるけど苦手って人は、一度くだらないスプラッタ映画を経験してみるといいと思う。
 少なくとも、自分はそれで大分抵抗感が薄れました。

夏休みの締めくくりの水着回、開催するならどっちがいい?

  • よう実4.5巻準拠。学内プールに行こう
  • 高専メンバー参加型。学外で皆と楽しもう
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