よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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68話 早まった邂逅

 

 夜、満天の星が煌めく夜空の下。

 見渡せば遥か水平線の向こうまで続く星の海。

 そんな見事な夜景が見える船のデッキで、龍園翔は一人海を眺めていた。

 

 船の手すりに肘を掛けながら、缶コーラ片手にちびちびと飲む龍園。

 少し離れた場所では幾人ものカップルがいちゃついていたが、夜の薄暗さに加え、皆このロマンチックなシチュエーションに酔っているのか誰も彼に注目する者は居なかった。

 

 しかしそんな中において近づく人影が一つ。

 

 その人物は景色を眺めるようにさりげない動作で彼の隣に立つと、顔だけは海へと向けたまま陽気な声で声を掛けた。

 

「よかったぁ、来てくれたんだね。

 すっぽかされたらどうしようかと思ったよ」

 

 チラリと、視線だけを動かしその人物の姿を確認する龍園。

 

「まさかお前からデートの誘いが来るとは思わなかったんでな。

 いい加減、この船旅にも退屈してたところだ。暇潰しには丁度いい」

 

「あはは、デートだなんてやだなぁ。冗談キツイよぉ」

 

 軽口でも叩くような調子でありながら、なんだか毒気を感じさせる返答。

 しかし龍園の方もそれを気にした様子はなく、鼻で笑いながら言葉を続けた。

 

「デートじゃねぇってんなら、さっさと用件を言うんだな。

 暇潰しとは言ったが、だからと言って無駄話に付き合う趣味はねぇ。

 

 一体俺に何の用だ――()()

 

 名を呼ばれた女子――櫛田桔梗はこれまで浮かべていたにこやかな笑みを潜め、スッと真面目な表情を浮かべた。

 彼女はまるでこちらの反応を探ろうとするかのように、慎重な様子で口を開く。

 

「ねぇ、龍園君……私と取引しない?」

 

「取引だ?」

 

「私、今少し困ってるの……もし龍園君が私に協力してくれるなら、今後の試験で私はCクラスが有利になるよう、Dクラスの情報を渡してあげる」

 

 内容とは裏腹に明るい調子で問い掛ける櫛田。

 普通に考えるならあり得ないその提案に、しかし龍園は欠片も動じた様子はなく、口元に薄ら笑いを浮かべながら平然と言葉を返した。

 

「そいつは愉快な提案だな」

 

「悪くない条件でしょ?」

 

「悪くないかどうかはそっちの要求次第だ。

 わざわざクラスを裏切ってまで、テメェは何がしたい?」

 

「堀北鈴音を退学させたい」

 

「あぁ?」

 

 間髪入れず放たれたその言葉に、龍園は一瞬耳を疑った。

 クラスを裏切ると言うから、大方自分だけAクラスに引き上げろとかそういう要求かと思いきや、まさかの提案。

 龍園も流石にその返答は予想できず、怪訝な表情を隠すことなく櫛田の方へと顔を向けた。

 

 ここに来て初めて、真っすぐに見た櫛田の表情。

 するとそこには、昼間見た彼女とは全く異なる表情が浮かんでいた。

 普段の陽気な雰囲気など欠片も感じられない。海を眺めるその瞳は鋭く、どこか殺気にも似た暗い感情が宿って見えた。

 

「ハッ、成程……そっちがお前の本性って訳か」

 

「本性なんて、やだなぁ。誰だって人に見られたくない顔の一つや二つ、あるでしょ?」

 

 そこで櫛田の顔に、普段と同じにこやかな笑みが戻る。

 もっとも、その瞳の奥にある険呑な光は隠し切れていないが。

 

「ククッ、それにしちゃ随分と厚いツラの皮を被ってたもんだ」

 

「……女の子にそういうこと言うの、どうかと思うな」

 

 龍園の口振りが癪に障ったのか、眉を顰める櫛田。

 しかしそれも一瞬。見事な切り替えの早さで彼女はすぐさま笑みを取り繕うと、再度問いかける。

 

「それよりどうかな? 悪い話じゃないと思うけど?」

 

 それに対し、僅かに考える龍園。

 

 おそらくだが、櫛田の発言に嘘は無い。

 あるいは取引の体を装い、こちらに偽の情報を流して嵌めようとしている可能性もゼロでは無いが、それにしてはやり方がお粗末だ。

 

 こちらに大したデメリットは無く、一方的に得をする内容。

 少し前までの自分であれば、迷うことなく受けていただろう。だが……

 

(つまらねぇな……)

 

 自分でも驚くほどに、龍園の心は櫛田の提案に対し何の魅力も感じなかった。

 

「なんだって、お前は堀北を退学させたい?」

 

 答えは返さずになんとなく感じた疑問を問いかける龍園。

 すると櫛田は、にこやかな笑顔を浮かべて即答した。

 

「堀北さんが嫌いだから」

 

 本当に、清々しい程に満面の笑みだった。

 言っている内容とその表情とのギャップに、さしもの龍園も呆れの感情が湧き上がる。

 

「誰だって気に食わない相手っているでしょ。一緒の空間に居るのも我慢できないくらい嫌いな相手って。

 私にとっては、それが堀北さんなの」

 

「つまり話す気はねぇって訳か」

 

 堀北が嫌いというのは櫛田の本心だろうが、肝心のその嫌いな理由に関してはぼかしたままだ。

 まぁ、こうも外面とギャップのある本性を隠しているとなれば、過去にどんな因縁があったとしても驚かないが。

 

「そういうこと。協力してほしいとは言ったけど、余計なことにまで首を突っ込んで欲しくは無いの。

 もし龍園君が私と堀北さんの関係について詮索するようなら、場合によっては龍園君にも退学してもらわなきゃいけなくなっちゃう」

 

「ククッ……言うじゃねぇか。

 だがハッタリとしとしちゃ落第点だ。お前に俺の退学をどうこうできる自信が有るなら、そもそも協力なんざ申し込まねぇだろ」

 

 今の櫛田には余裕がない。

 それは待ち合わせ場所に船のデッキを指定したことからも見て取れる。

 

 普通密談をするなら誰も立ち入らぬような人気のない場所を指定すべき。それをわざわざ人の多いこんな場所を指定したのは、龍園の事を信用していないから。

 万が一不埒な真似をされても、周りに助けを求められるようにと考えての事だろう。

 

 そしてそんな信用できない相手を頼らねばならぬ程、今の櫛田は取れる選択肢を持っていない。

 

「それはどうかな? だって龍園君と堀北さんじゃ条件が違うもの。龍園君は男の子で、私は女の子。

 もし私が龍園君に何かされたって訴えたら、信じてくれる人は多いと思わない?」

 

「協力を要請しながら脅しやがるか。食えねぇ女だ」

 

 もっとも実際にはそんな簡単にいかないだろう。如何に罪状をでっちあげた所で、証拠が無ければこの学校が実際に処分を下すことはない。せいぜい生徒間の評判を落とす程度の結果に終わるのが関の山だ。

 

「そろそろ、返事を聞かせてくれない?」

 

 いい加減に焦れて来たのか、返事を急かす櫛田。

 龍園としても中々面白い暇潰しではあったが、そろそろ答えを返すことにする。

 

「ああ、そうだな。その提案――却下だ」

 

 その答えを聞いた瞬間、櫛田の目が薄らと細められる。

 

「……へぇ、断るんだ。もしかして、さっきの脅しで怖くなっちゃった?

 それとも堀北さんを退学させる自信が無いのかな?」

 

 挑発のつもりなのか、煽る様に問いかけてくる櫛田。

 しかし龍園は気にも留めず言い返す。

 

「ハッ、単にお前の話にそそられねぇってだけだ。

 今更堀北程度を潰したところで何の面白味もありゃしねぇ。

 手を貸すだけこっちにとっちゃ時間の無駄だ。やりたきゃお前で勝手にやってろ」

 

 取り付く島もない龍園の態度に、櫛田の笑顔の仮面に亀裂が入る。

 

「どうして……私がスパイになれば、それだけそっちは有利になる。堀北を潰すことは、そっちにだって十分メリットはある筈でしょ。

 なんなら、今回の試験の優待者の情報だって私は持ってるんだから」

 

「お前が言う優待者の情報ってのは、そりゃお前自身のことを言ってんのか?」

 

 瞬間、櫛田は小さく目を瞠ったことを、龍園は見逃さなかった。

 そこで、更に龍園は情報を畳みかける。

 

「それとも、馬グループの南か兎グループの軽井沢か?」

 

「ッ……なん、で……」

 

 そこまで言ったところで、櫛田は明確に驚いた反応を示した。

 どうやら図星らしい。今言った二人の情報を両方持っていたのか、あるいは片方だけなのかは知らないが、櫛田の知る優待者というのは、今龍園が告げた人物で間違いないようだ。

 

 一応言っておくと、龍園自身今言った櫛田を含めた三名が優待者であることに、確信があった訳では無い。

 今言ったのは、事前に優待者の可能性がある者としてピックアップしていた者達の名前。

 

 この試験が始まってすぐ、龍園は自分のクラスの全員に優待者が居るなら名乗り出るよう通達していた。

 もしもそれで他クラスに指名されるようなことがあれば、得るはずだった50万ポイントはこちらで補填してやるからと言って。

 

 その時点で、龍園はこの試験における優待者の法則性についてある程度のアタリを付けることが出来た。

 勿論それだけでは確信と呼ぶには一歩足りない。

 だが、今の櫛田の反応で龍園は確信を得ることが出来た。

 

「わかったか。俺からすりゃこんな試験、遊びみてぇなもんだ。わざわざお前の手を借りる必要はねぇ」

 

 そう言って、つまらなそうな視線を向ける龍園。

 もっとも、その視線は櫛田の方にこそ向いていたが、その感情の矛先はむしろ自分に向かっていた。

 

(本当に……くだらねぇ試験だ)

 

 優待者の法則を特定したことで、Cクラスの勝利は確定したも同然。

 なのに龍園の中には、ただ虚しさばかりが広がっていた。

 

 おそらく以前までの龍園であれば、このような感情を抱くことは無かっただろう。

 以前の龍園は、勝負においてただ勝つのではなく、どういう勝ち方をするのか、どうやって相手を屈服させるのか、そういった過程の部分を拘る気持ちがあった。

 

 しかし、今の龍園にはそのような感情が湧き上がらない。

 ただ勝利のために効率の良いやり方を考え、実践しただけ。

 

 それのなんと退屈な事か。

 クラスを裏切るという櫛田の提案は、今の龍園にしてみればただでさえつまらない試験をよりつまらなくするだけのものでしかない。

 

「どうやら、話は終わりのようだな」

 

 計画が頓挫した為か、最早外面を取り繕うともせず苦々しい顔を浮かべる櫛田に、龍園は背を向ける。

 これからも、こんな消化試合のような試験が続くのだろうかと、小さな落胆を抱えながら歩き出す龍園。

 

 ――が、そこで背後で呟かれた櫛田の声に踏み出そうとした足を止めた。

 

「偉そうに……自分だって、無人島じゃ堀北に出し抜かれた癖に」

 

「あ?」

 

 身に覚えの無い櫛田の言葉に龍園は訝し気な表情を浮かべながら振り返る。

 

「堀北に出し抜かれただと……おい、まさか無人島でこっちのリーダーを当てたのは堀北だとでも言うつもりか?」

 

「……他に何があるのよ。少なくともDクラスじゃそういう話になってるけど」

 

 交渉を決裂させておきながら質問されるのが不服なのか、不機嫌そうに言葉を返す櫛田。

 それを聞き、龍園は僅かな引っ掛かりを覚えた。

 

「…………在り得ねぇな」

 

「は? 在り得ないって何が……」

 

 櫛田の問いに答えることなく、龍園は一人思考に沈む。

 龍園の予想では、自分達と五条のやり取りを眺めていた奴と、Dクラスを勝利に導いた人物は同一人物の筈だ。

 そいつはこちらがAクラスに仕掛ける強行策を見破った上で、先回りし見張っていた人物。相当に頭のキレる相手。

 

 堀北のように自分の枠に嵌った考え方しか出来ない人間に、それが出来るとは到底思えない。

 

 というより、改めて考えてみればおかしな話だ。

 あの時は深く考えなかったが、そもそもあの試験、DクラスがCクラスのリーダーを当てるのはまず不可能だった筈だ。

 こちらはキーカードを常に隠し持ち、人前どころか無人島では一度たりとも鞄から出し入れしていない。

 

 ならばそいつはどうやって、こちらのクラスのリーダーを特定したのか。

 

(そもそも、本当にリーダーは特定されたのか……?)

 

 そこまで考えた所で、龍園の脳内にぼんやりと幾つかの可能性が浮かび上がる。

 

「オイ……無人島試験で、お前達のクラスでキーカードを持ってたリーダーは誰だ?」

 

「は、何でそんなこと……」

 

 櫛田にしてみれば、取引を蹴った相手の質問に律儀に答える必要もないこと。

 しかし一方で、まだ交渉の余地があるかもという可能性も捨てきれない為か、彼女は渋々とそれに答えた。 

 

「……キーカードの代表に選ばれたのは綾小路くんだけど……」

 

「綾小路……」

 

「堀北の傍でいつもぼんやりした顔をしてる男子よ」

 

 流石に名前を聞いただけではすぐにピンとこなかったが、櫛田の補足により記憶の底から一人の男子の姿が掘り起こされる。

 

「ククッ、成程。そいつか……出歯亀野郎は」

 

「出歯亀野郎?」

 

 何のことかわからず疑問符を浮かべる櫛田。

 そんな彼女を他所に、龍園は一人笑みを浮かべる。

 

 薄らとではあるが、ぼんやりと絡繰りが見えてきた。

 あの無人島試験に置いて、綾小路という男が何をしていたのか。

 

「ハッ、随分と愉快な事を考えやがる」

 

 別に龍園としては倒し甲斐がありそうだとか、試験で1位を取られたリベンジをしたいとか、そういった気持ちがある訳では無い。

 ただ少しだけ興味が湧いた。Aクラスの作戦、こちらの思考、それらを全て読み切って出し抜いたその人物に。

 あるいはその人物こそ、今自分が抱く虚しさから脱却する術を見つける鍵になるのではないかと。

 

「面白い情報の礼だ。お前のその裏の顔に関しちゃ、口外しないと約束してやるよ」

 

「……そう言われて、信じられると思う?」

 

「別にこっちはお前に信用してもらう必要もありゃしねぇ。

 お前が俺の言葉を信用できないってんなら、それこそさっき言ったようにいつでも俺を排除しにくればいい」

 

 結局のところ、現状打つ手がない櫛田には龍園の言葉を信じる以外の選択肢がない。

 悔し気に歯噛みする櫛田に背を向け、今度こそ龍園はデッキから去った。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 翌日、試験二日目。

 綾小路は船のラウンジで、一人ソファに座り携帯を眺めていた。

 

(やはり、こうなったか)

 

 彼が見つめる携帯の画面。そこには学校から来た一つのメールが表示されている。

 

『兎グループの試験が終了いたしました。兎グループの方は以後試験に参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』

 

 このメールは、先程綾小路の携帯に届いたばかりのメール。

 しかも、このメールは一通だけではない。綾小路達兎グループを含め合計七グループ分のメールが届いていた。

 

(昨日、高円寺が指名した分と竜グループを含めて、終了したのは合計九グループか……)

 

 十二グループの内九グループが終了。果たして生徒達の内何人が気付いているだろうか。

 これが意味するところはつまり、一つのクラスを除き他のクラスは全滅したということ。

 

(思ったより、早かったか)

 

 本来これだけの情報では、どこのクラスがそれを成したかまでは分からない。しかし綾小路は、薄々それを成したクラスに見当がついていた。

 

(あと1日くらい遅くてもよかったんだがな)

 

 兎グループ内において、同じクラスの軽井沢の様子が気になっていた身としては、もう少し彼女の観察をする時間が欲しかったところだ。

 まぁ、それに関してはこれからも機会はあるからいいだろう。

 

(問題は、龍園が立ち直ったのかどうか……) 

 

 綾小路にとって今一番重要なのは、龍園翔が今どのような心理状態にあるかだ。

 1学年の中でも一番手段を問わず動けるアウトロー。あの男がどう動くかによって、今後のクラス争いの動向は激変し得る。

 

 そう思っていると、ふと自分が座る背後のソファに、自分と背合わせで誰かが腰を掛けるのを感じた。

 

「よう、出歯亀野郎。今日は何を覗いてやがんだ?」

 

 背後に座った人物が、唐突に声を掛けてくる。

 その男――龍園翔のその声に綾小路は少しばかり意表を突かれた。

 

「……もしかして俺に話しかけてるのか? そんな呼ばれ方をされる覚えは無いんだが」

 

 まさかこのタイミングで接触があるとは思わず、内心意外な気持ちを抱く綾小路。

 しかしそれを顔に出すことなく、彼は惚けた声を出す。

 

 しかし龍園はまるでこちらの言葉など聞こえていないかのように、構わず一人で勝手に話を続ける。

 

「他に方法が無かったとはいえ、テメェ自身がリーダーを務めたのは失敗だったな。あの試験でポイントを得る方法はスポットの占有かリーダーの指名のみ。

 リーダーの指名という可能性が排除されちまえば、必然的にそのクラスのリーダーだった奴がポイントを稼いだ立役者ってことになる。

 お前だろ、Dクラスのリーダーは」

 

「……すまん、何の話か分からな――」

 

 尚も惚けようとした瞬間、背後で龍園が立ち上がるのを感じた綾小路は、咄嗟に身を屈めソファの背から頭を引っ込めた。

 直後、綾小路の頭上を、振り返り様に繰り出した龍園の裏拳が通り過ぎる。

 

「……危ないな。当たってたらどうするつもりだったんだ?」

 

「抜かせ、テメェがやったことに関しちゃ粗方見当がついてる。

 あの短時間で大量のスポットを回りきるような奴だ。当たったとして、大したダメージじゃねぇだろ」

 

(いや、今の裏拳は当たり所が悪ければ鼓膜が破けてたとこだぞ)

 

 こいつ五条とやり合ったことで若干容赦が無くなってやしないかと、内心呆れながら綾小路はともあれ状況を整理する。

 どうやら龍園は既に確信を持っているらしい。あの無人島試験で綾小路がスポットの占有でポイントを得た事。そして龍園達の事を覗き見ていた事を。

 

「確かに……お前が言う通り俺はスポットを占有した。だがそれは、全て堀北の指示だぞ」

 

「それこそ在り得ねぇ話だ。Aクラスが確保したスポットを奪い返すだけならまだしも、俺らを覗いてた件に関しちゃ、こっちがAクラスを襲撃すると読み切ってなきゃ無理だ。

 そんなの、型に嵌った思考しか出来ねぇあの女に思いつくアイデアじゃねぇ」

 

(こいつの言う通り、少し派手に動きすぎたか)

 

 綾小路にしても、まさかこんなにも早く自分に辿り着くとは予想外だった。

 成り行き上仕方なかったとはいえ、やはりあの試験で自分がリーダーとして動き回ったのは失敗だったのかもしれない。

 

 一応この状況でも適当な言い訳は幾つか思いつくが、ここまで綾小路自身をマークされてしまえば、いずれバレるのは時間の問題だろう。

 

 綾小路はそっと嘆息した。

 

「……それで? 仮にそうだったとして、俺に何の用なんだ?」

 

 すると龍園は尊大な態度でドカリとソファに腰を下ろし、改めて口を開く。

 

「大した用じゃねぇ。お前の事はほとんど視界にも入ってなかったんでな。

 こっちの策略を見破った食わせもんがどんなもんかと、ツラを拝みに来ただけだ」

 

「生憎と、俺はお前に何かを期待されるほど面白い人間じゃない。

 そういうことなら、五条の方にでも行ったらどうだ?」

 

「五条か……」

 

 その名を告げた瞬間、「チッ」と舌打ちの音が響く。

 

「……オイ、聞かせろ。お前の眼から見て、五条はどう映った?」

 

 問われた綾小路は、少し考え込む素振りを見せてから口を開く。

 

「しいて言うなら……自分から檻に入っている猛獣ってところか。

 アレに挑んで怪我も無く済んだのは、運がよかったな」

 

「慰めのつもりか? コケにされてるようにしか聞こえねぇぞ」

 

「そんなつもりはない。ただ最後、あそこで踏みとどまったのは英断だったな。

 もしあそこで枝を五条に突き刺してたら、お前は今頃、この学校にはいられなかったところだ」

 

「そりゃ()()()()()()()だ?」

 

()()()()()()()、だ。実際にあいつがどういう処分を下すつもりだったかまでは、流石に分からないからな」

 

 龍園が聞きたかったのはこういうことだ。

 自分が五条を突き刺すことで、傷害事件として退学させられていたと言いたいのか、それとも()()()()()()()で排除されていたと言いたいのか、と。

 そしてその意図を汲み取った上で言葉を返したことで、綾小路も五条の異様な雰囲気を感じ取っていたことが龍園にも伝わったことだろう。

 

「今度はこっちから聞きたい。お前は、まだ五条に挑むつもりはあるのか?」

 

「……それがお前に何の関係がある」

 

「単なる興味本位だ。お前が五条を恐れAクラスを諦めるのであれば、Dクラスにとってのライバルが一つ減ることになる。

 だが、今回の試験を見た限りそうじゃないみたいだからな」

 

「ほぅ……お前は俺が今回の試験で何をしたか、理解できてんのか?」

 

「無人島試験で俺がリーダーだったことをお前は知っていた。そして今日になって複数のグループが終了したという事実。

 これを踏まえれば、大体の背景は見えてくる。誰がそれをお前に教えたのか、までは知らないがな」

 

 嘘だ。証拠が無いから断定しないだけで、綾小路としても誰が龍園に情報を渡したのか大凡の見当はついている。

 

「ククッ……想像以上だぜ綾小路。だが、そこまで理解してなんも対策をしなかったのは間抜けだったな」

 

「生憎と、俺はクラスでも目立つ生徒じゃないんでな。この手の試験に関してはお手上げなんだ」

 

 これに関しては割と本心からの言葉だ。

 今回のようなグループ毎の試験の場合、横の繋がりが無い人間には他のグループに対して影響を及ぼすことが難しくなる。

 

「ハッ、惚けた野郎だ」

 

「それで、結局どうなんだ。お前はまだ、五条に挑むつもりはあるのか?」

 

「……勘違いすんな。五条に挑むこととAクラスを目指すことはイコールじゃねぇのさ。

 アイツはAクラスの座になんざまるで興味を持っちゃいねぇ。Aクラスになるだけなら、わざわざぶつかりに行く必要もねぇ」

 

「つまり、五条個人に勝つのは諦めたってことか」

 

「あぁ?」

 

 そう言った綾小路に、ドスの効いた龍園の声が響く。

 しかし綾小路は引け目を抱くことなく淡々と言葉を返す。

 

「さっきからお前は、五条に挑むかという点について曖昧に答えを返してる。

 Aクラスを目指す上で必要無いと言いながら、言葉の裏ではあいつと戦いたくないという意思が透けて見える。

 

 そんなに、アイツが怖かったか?」

 

 瞬間、龍園は立ち上がるとソファを踏みつけ身を乗り出し、綾小路の胸倉に掴みかかった。

 

「オイ……勘違いするなよ。五条に負けて、俺が丸くなったとでも思ったか?

 あんまり舐めた態度をとるなら、先にテメェから潰してやってもいいんだぞ」

 

「お前には無理だ」

 

「なん――」

 

 龍園が行動を起こすより早く、綾小路は自身の胸倉を掴む彼の手首を掴むと、そのまま捻り上げ、後ろ手に回しながらその身をソファに押し付け組み伏せた。

 

「テ、メェ……」

 

 何が起こったかもわからぬまま、一瞬のうちに拘束された龍園は怒りの表情を浮かべている。

 その表情を冷めた目で見ながら、綾小路は静かに分析する。 

 

(どうやら……まだ完全に折れてはいないみたいだな)

 

 話してみて分かった。龍園の中に在る闘争心の火はまだ完全には消えていない。だが、かなり小さくなってしまっているのもまた事実。

 ならば、その火を再び燃え上がらせるにはどうすればいいか。考えた綾小路は、薪をくべるべく口を開く。

 

「お前は少し、他のクラスを舐め過ぎだ。五条という規格外を見て天井を知ったつもりかもしれないが、五条以外にもお前が見るべき生徒は他にもいる。

 お前が思っている以上に、Aクラスを目指すというのは簡単じゃない」

 

「っ……随分と上からな物言いじゃねぇか。優待者の一人も見つけられなかったテメェが言ったところで、負け惜しみにしかならねぇぞ」

 

「それに関しては、返す言葉も無いな。

 だがお前も分かっている筈だ。今回の試験だって、お前は勝たせてもらったに過ぎないことが。

 Aクラス……坂柳がその気だったなら、初日の時点で他クラスの全滅だって在り得た」

 

「チッ……」

 

 龍園自身自覚があるのか、忌々し気な舌打ちが漏らしながらも何か言い返すことはしなかった。

 組み伏せていたその手を離し、ゆっくりと立ち上がる。

 遅れて龍園も起き上がり、ソファに腰を掛け直した彼は、ギロリと綾小路を睨みつけた。

 

「五条といい、テメェといい……この学校は一体どうなってやがる」

 

 そんな事を言う龍園だが、自分や五条のような存在は間違いなくこの学校の中でも異端の部類だろう。

 というか、なんなら綾小路としても五条(アレ)と一緒の括りで語られるのは少々自信が無くなってしまう。

 

「流石に俺も五条程動ける自信は無いけどな」

 

「……綾小路。テメェは何がしたい。わざわざ俺を焚きつける真似しやがって、一体何のつもりだ?」

 

「俺としては、平凡な学校生活を送りたいってのが本心だ。

 ただ、訳有って最近Aクラスを目指さなくちゃいけない理由が出来てしまってな。その為にも、今お前に崩れられると勝率が下がると思った」

 

 嘘では無いが完全な本心でもない。

 実際綾小路が龍園を焚きつける理由としては、興味本位というのが本心である。 

 

「現状のAクラスに、1対1で勝てるクラスはまずいない。クラスとしての地力が違う上、リーダーの質に於いても他のクラスより数段上だからな。

 これを崩そうと思えば複数のクラスで協力するか、でなければ他のクラスを交え、純粋な1対1の状況に持ち込ませないことが重要になる」

 

「ハッ、要は体のいい当て馬が欲しかったって訳か。

 だが、わかってんだろうな。俺を焚きつけた以上、お前自身も狙われる獲物の一人になったってことが。

 Aクラスを目指す以上、遅かれ早かれ俺はいずれテメェを潰すぜ」

 

「そうか。どうあれ、やる気が出てくれたのであればなによりだ」

 

 それでいい――殺気の籠った視線を受けながら、綾小路は内心で呟く。

 龍園に目を付けられたのは少々厄介だが、これで盤上を搔き乱してくれる駒が息を吹き返した。

 果たして今後の学校生活で何が見られるのか。

 綾小路は未知への期待を胸に、その場から去っていった。

 

 

 

 かくして、夏休みの船旅は幕を閉じた。

 

 幾人もの生徒達の思惑が絡む中、勝負は二学期へと持ち越しとなる。

 

 

 

――リザルト――

 

 

子(鼠) ―― 裏切り者の正解により結果3とする

丑(牛) ―― 裏切り者の正解により結果3とする 

寅(虎) ―― 裏切り者の正解により結果3とする

卯(兎) ―― 裏切り者の正解により結果3とする

辰(竜) ―― 裏切り者の正解により結果3とする

巳(蛇) ―― 優待者の存在が守り通されたため結果2とする

午(馬) ―― 裏切り者の正解により結果3とする

未(羊) ―― 優待者の存在が守り通されたため結果2とする

申(猿) ―― 裏切り者の正解により結果3とする

酉(鳥) ―― 裏切り者の正解により結果3とする

戌(犬) ―― 優待者の存在が守り通されたため結果2とする

亥(猪) ―― 裏切り者の正解により結果3とする

 

 

 

Aクラス …… -100cl  +50万pr

Bクラス …… -150cl  +0pr

Cクラス …… +350cl  +500万pr

Dクラス …… -100cl  +50万pr

 

 





 あけましておめでとうございます!
 結局昨年の内に最新話を投稿できず、申し訳ありませんでした。

 幸先の悪いスタートとなってしまいましたが、今年も本作品をよろしくお願いいたします。

夏休みの締めくくりの水着回、開催するならどっちがいい?

  • よう実4.5巻準拠。学内プールに行こう
  • 高専メンバー参加型。学外で皆と楽しもう
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