よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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71話 晴れのちくもり、そして晴れ

 8月31日。夏休みも最終日となったこの日。護は有栖達と共に学内のプールに来ていた。

 メンバーは護自身を含め、かねてから約束していた有栖。

 話を聞きつけ付いてきた楓花。有栖が折角なのでと声を掛けた神室の計四人。

  

 護としては男一人というのも肩身が狭いのでクラスの男子でも誘おうかとも考えたのだが、その場合一人だけ2年生の楓花が浮いてしまうと思い直し、結果いつものメンツとなった。

 

 そんなこんなで現在、早々に着替えを済ませた護は一人、プールサイドで彼女たちが着替え終わるのを待っていた――のだが。

 

(目立ってんなぁ……)

 

 来て早々、護は周囲から感じる視線に疲労感を感じていた。

 

 いや、わかってはいた。プールに来ると決まった時点で覚悟はしていたのだ。

 元々兄と顔立ちが似ている護は、自身の容姿が整っている方だという自覚はあるし、普段から鍛錬を欠かさぬこの身は、同年代の男子に比べて目立つだろうと。

 

 最低限、身体に付いた傷痕が見えないようラッシュガードを着用してきたが、鍛え抜かれた肉体までは隠しきれず、先程から通りがかりにチラチラと視線が向けられるのを感じていた。

 

 それらの視線がなんとも落ち着かなくて、護は暇潰しがてら近くを軽くぶらつくことにした。

 

(っていうかこの学校、流れるプールまであんのかよ)

 

 まず目に留まったのは近くにあった流れるプール。

 なだらかなカーブを描いて引かれた長い水路。透き通った水の流れは緩やかで、レジャー施設さながらのなんとも見事なプールだった。

 

 しかしそれを見て抱くのは、関心よりもむしろ呆れの感情。

 

(こんなプール、普段何に使うんだよ)

 

 元々この施設は普段は水泳部のみに開放していると聞いたが、水泳の練習でこの規模のプールは明らかに不要だろう。

 いい加減慣れてきたとはいえ、相も変わらずこの学校の金の掛け方はどうかしていると思わずにはいられない。

 

 そんなことを思いながら、意味も無くプールに手を突っ込みバシャバシャとかき回す護。

 

「――ん?」

 

 そうしていると、ふと上流から流れてくる一人の人物が目に入った。

 そこに居たのは学校指定の水着に身を包み、仰向けに水に浮かびながらプカプカと流れに身を任せている一人の少女。

 

(……何やってんだ、あの娘?)

 

 流れるプールなんだから流されて遊んでいる。それはいいだろう。

 気になったのは彼女の姿勢と表情。

 その少女は直立姿勢のまま水にプカプカ浮いており、表情は全く楽しんでいるように見えない無表情。その姿はまるで一つの流木にでも成り切っているかのようだった。

 

 その少女が()()()()生徒であったこともあって、護は何となく目で追ってしまう。

 

「――あ」

 

 ふと、その少女と目が合った。

 互いにジーッと見つめ合いながら、ゆったりした速度で流されていく少女。

 

 そのまま護の眼前を通り過ぎようかというその直前、しかしその少女は突然口を開いた。

 

「どんぶらこ~、どんぶらこ。五条護がプールを眺めていると、一人の女の子が流れて来ました」

 

「…………」

 

 何故か突然始まるナレーションのような語り。

 こういう時どういう反応をしたらいいのかと、思わず固まってしまう護の前で、少女はどんどん流されていく。

 

 しかしそのまま流されること僅か。護の前を通り過ぎてすぐの所で、少女はおもむろに浮くのを止めて立ち上がると、流れに逆らって歩き出した。

 そうしてある程度戻ったところで、彼女は体の力を抜いて水に浮くと再び護の前を流れ始める。

 

「どんぶらこっこ~、どんぶらこ。五条護がプールを眺めていると、一人の可愛らしい女の子が流れて来ました」

 

「いや、どうしろと?」

 

 微妙に台詞を変えての再登場。

 もしやこちらが何か言うまで延々と繰り返すつもりなのかと、護は思わず口を開いた。

 すると少女は浮くのを止め、護に向き直って言葉を返す。

 

「わかっていませんね。五条護は。そこは『なんと可愛い女の子。この子の名前はかぐや姫じゃ』と言うべきでしょう」

 

「何そのカオスな昔話」

 

「何を言ってるのですか。カオス()昔話と言えばギリシャ神話でしょう」

 

「それカオス()()始まる昔話な。いやホント何の話?」

 

「五条護は、水の流れに抗えないか弱い少女を放置する冷血漢だったという話です」

 

「さっき普通に抗って歩いてませんでしたかね?」

 

 なんて中身のない会話か。

 このまま彼女のペースで話を続けていたらいつまでも続きそうだと、そう思った護は自分から目の前の紫髪の少女に向かって問いかけた。

 

「実際のとこ何をしてたのさ? ()()()()

 

 1年Aクラス森下藍(もりしたあい)

 護と同じAクラスの生徒。人をフルネームで呼ぶ独特の癖を持ち、成績に関しては割と優秀。反面、このようにマイペースな性格で時折人をおちょくるような言動をするため、クラス内では浮いている生徒。

 それが目の前の少女だった。

 

「見てわかりませんか?」

 

「俺には水に浮いていた事しか、わからなかったかなぁ」

 

「仕方ありませんね。察しの悪い五条護に教えてあげましょう。私は空に向かって祈りを捧げていたのです」

 

「祈り?」

 

「これを話すには、私の夏休みのこれまでを語らなくてはなりません。聞くも涙、語るも涙のこの日々を」

 

「ごめん、長くなるなら遠慮したい」

 

 これでも待ち合わせの最中なのである。

 まぁ、更衣室から然程離れていないので有栖達も出てきたら護の姿に気付くとは思うが、長話に付き合って放っておくわけにもいかないだろう。

 

「やれやれ、我が儘ですね。仕方ないから簡潔に纏めてあげましょう」

 

(止めるって選択は無いのな)

 

 どうやら聞いて欲しいらしい。

 仕方が無いので、護も口を挟むのは止めて大人しく聞く姿勢に入る。

 

「知っての通り、私は生物観察が趣味なのですが」

 

(それも初めて聞いたなぁ)

 

「旅行が終わってすぐ私はカブトエビの飼育キットを買いました」

 

「…………」

 

 なにやら初っ端から全く興味をそそられない内容だが、それでも当人が真剣な様子なのでこちらも真面目に耳を傾ける。

 

「そして昨日、育てていたカブトエビの最後の一匹が亡くなったのです――おしまい」

 

「早いな!」

 

「簡潔にと言ったでしょう」

 

 確かに簡潔にとは言ったが、予想以上に早すぎだろう。なんなら生物観察が趣味~のくだりから三言程度しか話してない。

 最早簡潔すぎて、逆に内容が頭に入ってこないまである。

 

「私が大事に大事に育ててきたカブトエビ。亡くなったあの子達の冥福を祈ろうと、こうして私は空を見上げ祈りを捧げていたという訳です」

 

「……さいですか」

 

 冥福を祈ると言う割には全く悼んでいる様に見えない訳だが、まぁ深くはツッコむまい。

 

「それで、五条護は一人寂しく何をしていたのですか? ナンパが目的なら、たこ焼きでも買って出直してください」

 

「むしろ、たこ焼き買って来たら引っ掛かるのか君は……」

 

「引っ掛かる訳ないじゃないですか。森下さんちの藍ちゃんはそんな安い女じゃありません」

 

「なら何で言った? いや、ナンパする気なんて無いけども」

 

「美少女と会話がしたいというなら、相応の対価を支払うのは当然の事です」

 

「何そのチャージ料金みたいなシステム」

 

「友達料という奴ですね」

 

「それ請求する奴は絶対友達じゃないと思う」

 

「冗談はさておき、実際は何をしていたのですか?」

 

 本当に冗談だろうか。

 どうもこの娘の場合、表情も声音も常に淡々としているから冗談が見分けにくい。

 ともあれ、護は質問に答える。

 

「いや、普通に待ち合わせ。夏休みも最後だし折角だからってんで、何人か誘って遊びに来たんだよ」

 

 まぁ、むしろ護は誘われた側で誘ってきたのは有栖だが。

 

「遊びにですか……意外ですね。普段プール授業も休んでいるから、てっきり五条護はカナヅチなのかと思ってました」

 

「いや泳ぎ自体は出来んだけどね。なんて言うか……昔ちょっとした事故で怪我をしちゃったもんだから、あんま人前じゃ肌を晒したくないんだよ」

 

「成程……どうやら話し難い事を聞いてしまったようですね。失礼しました」

 

 なんだかんだふざけてはいるが、悪いと思ったら素直に謝れるのが森下という少女である。

 護としては半分虚偽の混じった言い訳だけに、あまり申し訳なさそうにされると気が引けてしまうのだが。

 

 そんな複雑な気持ちを抱いていると、ふと背後から声が掛けられた。

 

「やれやれ待ち合わせの最中に他の女と談笑とは、感心しないな」

 

 掛けられた声に振り返ると、そこに居たのは楓花の姿。

 元々気配には気付いていたので、突然声を掛けられたことそれ自体に驚きは無かったが、しかし目に入った彼女の姿を見て、護は「へぇ」と感心した声を上げた。

 

「その水着にしたんだ?」

 

「折角、お前が薦めてくれた水着だからな」

 

 楓花が今着ている水着は、以前に学外で護と共に購入した水着だ。

 首下で紐を交差させたクロスホルダータイプの白いビキニ。腰には小さなパレオ。

 普段は降ろしている長い髪を今日は後ろで纏めており、髪型の変化と相まって普段よりも清楚で落ち着いた雰囲気に見えた。

 

「さて、実際に見た感想はどうだ?」

 

 そう言って揶揄うような笑みを浮かべる楓花。

 彼女がこのような態度をとるのはいつもの事だが、しかし今回は彼女にとって一つの誤算があった。

 

 護にとって、実際に着ているところを見るのは初めてだが、水着そのものを見るのは二度目。

 以前さんざん似合うかどうかと感想を求めれた身として、実際にそれを見せられるのはある意味答え合わせをされているのに近い感覚だった。

 だからだろう、護としては特に意識することなく素直な感想がすんなり口から出た。

 

「うん、良いんじゃないか? よく似合ってると思う。

 やっぱ白だと清楚な感じが出るからかな。何ていうか、綺麗なだけじゃなく可愛らしい感じがする」

 

 まさかド直球な誉め言葉が出るとは思わなかったのか、一瞬フリーズする楓花。

 数度の瞬きの後、ゆっくり再起動した彼女は小さく言葉を返した。

 

「そうか……」

 

 口元に手をあて、軽くそっぽを向く楓花。

 その頬がほんの僅かに赤みが差して見えるのは気のせいか。

 しかしそれも極僅かな間だけ。楓花は軽く咳ばらいをして冷静さを取り戻すと、普段通りの不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

「フッ、お前からそんな言葉が引き出せただけでも、今日は来た甲斐があったというものだな。

 そっちの女生徒は――クラスメイトか?」

 

 話しを逸らす意味も兼ねてか、楓花の視線が森下の方へと向く。

 

「ああ、同じクラスの森下藍さん」

 

 そう言って楓花の方を向いたまま後ろに居る森下の紹介をすると、何故か護の背中に水が当たる感触がした。

 振り返ると、手を組んで水鉄砲を撃つ構えをしている森下の姿。

 

 何をしているのかと見つめる先で、森下は更にもう一度水を飛ばしてくる。

 飛んできた水は護の顔に当たり、少量の水が頬を伝って滴り落ちた。 

 

「……なにしてんの?」

 

「いえ、一つ牽制をしておこうかと」

 

「牽制?」

 

「はい。噂には聞いていましたが坂柳有栖だけでなく上級生にも手を出しているとは。

 女性と見れば誰彼構わず引っ掛ける節操なし。その毒牙が向けられる前に、か弱い私にできる必死の抵抗を試みました」

 

「手を出した覚えも無けりゃ、今後誰かに手を出す予定も無いわ」

 

「口では何とでも言えるものです。男は等しく(けだもの)と言いますから。

 今も硬派を気取りながら、虎視眈々と獲物が近づくのを待っているに違いありません」

 

「違いあるよ」

 

「私の溢れる魅力で五条護が暴走する前に、失礼させてもらいます。ではこれにて、ドロン」

 

 ドロンというより、ドボンと音を立ててプールに潜る森下。

 そのまま水に潜って数メートル程下流に移動したところで顔を出すと、チラリと護の方を見てから再び流されていった。

 

「フム……お前はつくづく変わった人間を引き寄せるな?」

 

「俺が引き寄せた覚えは無いんだが」 

 

 そして他人事のように言っているが、自分もその内の変わった人間の一人であるという自覚はあるのだろうか。

 ともあれ、そろそろ有栖達も着替え終わった頃だろうかと立ち上がる。

 

「そういや、楓花は良かったのか?」

 

「ん、何がだ?」

 

「いや、折角の夏休みの最後なんだし、他にやりたい事とか無かったのかなぁって」

 

 この夏休み、護も大概だが楓花も大半は任務やらトレーニングやらで、まともに学生らしい夏休みなど過ごせていなかった。

 今日の事は楓花自身から参加を申し出たとはいえ、他にやりたいことは無かったのだろうか。

 

「なに、構わんさ。さっきも言ったが、折角お前が買ってくれた水着があるんだ。

 このまま着る機会も無く夏を終えるのは、あまりに勿体ないからな」

 

「そういうもんか」

 

 そんな風に会話をしながら更衣室前に戻る。

 すると程なくして、着替えた有栖達が出てくるのが見えた。

 遠目にも分かる小柄な体躯。そちらに向かって軽く手を挙げると、向こうもすぐに気が付き近づいてくる。

 

「お待たせしました」

 

 そう言って微笑む有栖。

 そんな彼女を見降ろしながら、護は先程の楓花に対してと同じように密かに感心した。

 

 有栖が着ているのは、白を基調に水色のグラデーションがかかったフレアビキニ。

 普段被っているベレー帽の代わりに白いツバ広の帽子を被り、全体的に淡い色合いが有栖自身の儚げな雰囲気にマッチして見えた。

 

 水着というのは布面積が少ない分、着ている当人たちの素材の良さに左右されるもの。

 こうして見るとやっぱりこの娘達って美少女なんだなと、今更ながらにそういった感想が湧いてくる。

 

「その、どうでしょうか?」

 

 そう言って、上目遣いに見上げてくる有栖。

 いつもの如く何ともあざとい振る舞いだが、どうやら今回に関してはあながち演技という訳でも無いらしい。

 

 やはり着慣れぬ水着姿だからだろうか。

 僅かに染まった頬。視線はどこか落ち着きなく揺れており、所作の節々から緊張の色が見て取れた。 

 

「うん、似合ってる。淡い色合いが有栖に合ってるし、フリルが付いたデザインも可愛いな」

 

 先程楓花の水着を褒めたこともあって、護の口からはすんなり素直な感想が吐き出される。

 それに対し有栖はパチリと目を瞬かせると、数瞬遅れてからか細い声で言葉を返した。

 

「それは、その……あ、りがとうございます……」

 

(珍しく可愛い反応してんな)

 

 楓花の時も似たような反応をされたが、そんなに自分が褒め言葉を口にするのは意外なのだろうか。

 そんなことを思っていると、有栖の後ろでそのやり取りを見ていた神室が呆れた様子で口を開く。

 

「……あんた、よく恥ずかしげも無くそんな台詞が言えるわね」

 

「いや、お洒落してる相手に何も言わないのって、それはそれで失礼じゃない?」

 

 女心など分からぬことの方が多い護であるが、その程度の機微は弁えている。

 そもそも、『恥じらい』や『照れ』といった感情は、自分の発言が相手にどう思われるかという恐れから来るもの。

 根本的な部分で他者からの評価を気にしない護にとって、それらの感情を切り離して考えるのは難しい事ではなかった。

 

「あ、神室さんもその水着、似合ってるね」

 

「あっそ。それはどうも」

 

 一応有栖達にも言った手前、神室についても同様に賛辞を述べるがこちらはあっさり流されてしまった。

 やはり取ってつけたような言い方になってしまったのがいけなかったのか、護としては正直な感想を言ったつもりが社交辞令と取られたようだ。

 

 ちなみに彼女が着ているのは、上は紺色のタンキニに下はベージュのショートパンツタイプの水着という、ボーイッシュな装い。

 飾り気は無いが、それが却ってクールな神室の雰囲気に合って見えた。

 

「んじゃ、まずは空いてる場所探すか」

 

 ともあれ、無事に合流も済んだところでひとまず場所を変えるべくそう切り出す。

 既に開場からそこそこ時間も立っているため結構な生徒で賑わっているが、施設自体が広いこともあってスペースには余裕が有りそうだ。

 

(とりあえず有栖も居るし、競泳用の深いプールはやめた方がいいよな……)

 

 この施設にあるプールは三つ。一つは普通に泳ぐ目的で楽しめる競泳用プール。もう一つが先程森下が流れていた流れるプール。そして最後が、スポーツやレクリエーション目的で使える自由に入って遊べるプールだ。

 

 泳ぐのが初めてな有栖に、足もつかない深さの競泳用プールはハードルが高いだろうとひとまず娯楽用のプールを目指す。

 

 そうして歩いていると、思い思いに楽しむ生徒達の姿が目に入った。

 

 プールの中で楽し気に水を掛け合うカップル。

 ゴムボートや浮き輪に浮かびながら、仲良くおしゃべりするグループ。

 何をするでもなくぼんやりと水に浮いて流されていく女子(森下)。

 

 そんな光景を見ながら、ふと思う。

 

(今更だけど、プールで遊ぶって何したらいいんだ?)

 

 今更といえば本当に今更な疑問。

 だが仕方ない。何せこれまで護は友人とプールに来るなんて経験、皆無だった。

 いざ来てみれば他の生徒の過ごし方を見て何かしら思いつくかもとも思ったが、実際に抱いた感想は「あれって何か面白いんだろうか?」といったもの。

 

 そんな感想を抱いてしまう時点で、つくづく自分はこういったアクティビティなイベントには不向きな性格なのだなと実感してしまう。

 

 しいて参考になりそうなのといえば、今向かっている先のプールで水中バレーをしている一団くらいか。

 それでもここにいるメンツで同じことをして楽しめるかというと疑問だが――と、そこでそのバレーをしている一団が見知った顔であることに気付く。

 

「ん、あれBクラスとDクラスだな」

 

 その言葉に有栖達も足を止め、護と同じ方向を向く。

 

「本当ですね。クラス対抗でバレー勝負ですか。こうしてご一緒に遊んでいることから見ても、どうやらBクラスとDクラスの関係は良好なようですね」

 

 この学校のシステムを考えるなら、他クラス同士で仲良く交流している光景というのは中々に珍しい光景に見える。

 

 もっとも、護が目を留めたのはそれが理由ではない。

 護が目を留めたのは、そこに個人的に気になっていた人物が居たから。

 

 それはBクラスの一之瀬――ではなく、対面のコートに居るDクラスの一人の男子。

 

 その人物を見ながら、護はポツリと呟いた。

 

「……やっぱ、イイ体してんな」

 

 そう呟いた瞬間、何故か後ろから険呑な気配を感じた。

 続いて背中をつねられ、小さな痛みが走る。

 なんだと思い振り返ると、そこには微笑みながらも目は笑っていない有栖の姿。

 

 傍では楓花が何やら愉快そうな笑みを浮かべており、神室からは何やら非難気な視線を感じる。

 

「え、なに?」

 

 三者三様。それぞれ異なった反応に困惑する護。

 

「いえ、やはり護君も男の子なのだなと思いまして」

 

「は?」

 

「男性であれば、一之瀬さんのような体つきに目を奪われるのは仕方ないでしょう。

 ですが傍に女性を伴っているのに、そのような発言を口にするのはあまり感心しませんね」

 

「一之瀬さん……? あ――」

 

 そこでようやく護は状況を察した。

 どうやら有栖は、今しがたの呟きが一之瀬に向けてのものと思っているらしい。

 

「いや、違うわ!」

 

「ククッ……違うぞ坂柳。護が見ていたのは向かいのコートだ」

 

 どうやら楓花は勘違いに気付いていたようで、愉快気に笑いながらも一応擁護の言葉を述べてくれた。

 

「向かいのコート……? Dクラスに気になる方でも?」

 

「ん、ほらあそこのラッシュガードを着てる男子。俺が言ったのは彼の事だよ」

 

 そして護が綾小路を指さすと、有栖と神室もそちらを向く。

 コートでは丁度その瞬間、綾小路の方にボールが飛んできたところで、綾小路は不格好にレシーブをするとプールの中に倒れてしまった。

 

 傍から見たらなんとも情けない有り様に、神室は訝し気な表情を浮かべる。

 

「気になるって、アレが?」

 

 理解できないと言いたげな神室。

 一方で有栖はジッと彼の様子を観察し、綾小路の事を知っていた楓花は、護と同じく興味深げな視線を送りながら声を発した。

 

「確か綾小路といったか……成程、随分と露骨に手を抜いてるな」

 

「綾小路…………手を抜いてるというのは?」

 

 綾小路の名を反芻しながら、楓花に問い返す有栖。

 それに対し、今度は護が楓花に代わって答える。

 

「ああ……彼、明らかにボールに反応出来てるくせに、わざと打つとき体勢を崩してる。

 それにあの体つき、あの筋肉の付き方は普通に筋トレしただけじゃならない。

 何かしらのスポーツや格闘技をやってるのは間違いないし、それであの動きは無い」

 

「護君は……彼の事をご存じだったのですか?」

 

「ん、まぁ何回か顔を合わせた程度だけど」

 

「成程。では護君から見て、彼はどのような人でしたか?」

 

「どんなってもな。言っても二言三言言葉を交わした程度だし……ああ、けど――」

 

 何故か、やけに突っ込んだ質問をしてくる有栖。

 真剣な彼女の様子に護は少しばかり疑問を抱きながらも、これも他クラスの調査の一環かと深くは考えず答える。

 

「さっきも言ったけど、何かしらの格闘技をやってるのは間違いない。それも複数。

 日常的に重心の置き方が自然になる程の染み付き方。正直言って、初対面の時は本当に一般人かって疑った」

 

「成程……ありがとうございます。参考になりました」

 

 そう言って笑みを浮かべる有栖。

 しかし護には、その様子が普段の有栖とはどこか違って見えた。

 

 笑いながらも、どこか寂しさを抱いているかのようなそんな笑み。

 

「何か、気になることでもあったか?」

 

「そうですね。綾小路という名前からもしかしてと思ったのですが、どうやら彼は私が知っている人物と同一人物のようです」

 

「ふぅん……知り合いだったなら、挨拶でもしてくか?」

 

「いいえ、やめておきます。知り合いと言っても、あくまで私が一方的に知っていただけ。向こうは私のことなど知らないでしょうから」

 

(一方的に、ね……)

 

 ますますよくわからない関係だ。

 護としては綾小路個人にも興味があったので、少しばかり踏み込んでみようかとも思ったが、しかし護が口を開こうとする前に、有栖が言葉を続けた。

 

「それに、今日は護君と遊ぶのが優先ですから。私これでも、今日は楽しみにしていたんですよ?」

 

 そう言って、有栖は護の手を掴み晴れやかな笑みを浮かべてみせる。

 

 こう言われてしまえば、護としては何も言えない。

 元々今日は彼女のために来たのだから。自分の興味より優先すべきは有栖達。綾小路に関しては、その気になればいつでも聞けることだ。

 

「そうかい。ま、俺も今日は完全にオフのつもりだったしな。とことん遊ぶか」

 

「はい」

 

 そう言って微笑む有栖。

 プールの楽しみ方なんて未だによく分からないが、今の彼女の笑顔を見たらそれだけで来た甲斐は有ったかと、そう思えた。

 





 お待たせいたしました!
 なんだか予想以上に長くなってしまったので、またも今回キリの良いところで区切って一旦投稿します。

 森下さんとの掛け合いとかイマイチ物足りない感じもするしで、この辺りも次回投稿時までにもうちょいまともな会話が思いついたら修正するかもです。


 それとどうでもいい余談

 原作読んでて疑問に思ったんですが、この遊泳施設って競泳用プールに対する言及が無くね?

 原作で綾小路が紹介していたプールは三つ。
 一つは自由に入れるスタンダードなタイプのプール。もう一つが流れるプール。最後に娯楽メインのスポーツ用プール。
 
 ただこれ、普段は水泳部員専用の施設とか言ってるのに競泳用のプールが無いのはおかしいだろ! と思ったので、スタンダードなプールっていうのが多分競泳用のことを言ってるんだなと、強引に解釈しました。


 あとちなみに、女性陣の水着のコーディネートに関しては適当です。
 ネットで水着ってどういうのがあるんだろうと調べながら、適当に各キャラに似合いそうだと思ったものをあてがいました。
 私自身、そのキャラが着てるところを細かくイメージできてる訳じゃ無いから、正直センスに関しては自信ない。

夏休みの締めくくりの水着回、開催するならどっちがいい?

  • よう実4.5巻準拠。学内プールに行こう
  • 高専メンバー参加型。学外で皆と楽しもう
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