よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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4章 体育廻戦
75話 ささやかな変化


 

 9月1日――夏休みも明けて2学期最初の登校日。

 この日護は、朝からやけに落ち着かない視線を感じていた。

 

 最早お馴染みになった有栖と歩く登校風景。

 彼女のペースに合わせている為そのペースは遅く、遅れて登校する他の生徒に抜かれるのはいつものこと。

 いつもと違ったのは、その生徒達が何故か通りがかりざまにチラチラと視線を向けてくること。

 

 いや、何故かというのは正しくないか。正直思い当たる節はある。

 

「どうやら、先日の一件が既に広まっているようですね」

 

「やっぱそれか……」

 

 今まさに思っていたことを有栖に指摘され、護はうんざりした表情を浮かべた。

 

「昨日の今日だぞ? たかだかビーチバレーの勝敗一つでここまで注目する?」

 

「今回は相手が相手でしたからね。それに私も、まさかあそこまで一方的な試合展開になるとは思っていませんでした。

 護君達の事を知っている私ですらそうなのです。何も知らない方達からすれば驚きも一入でしょう」

 

(……もうちょい手ぇ抜きゃよかったか)

 

 こんなことを言ったら対戦した相手に失礼なので声には出さないが、内心そんなことを思う護。

 幼い頃から同年代の一般人と接する機会が少なかった護は、どうもこういった部分で認識がズレ気味だった。

 

 相手は生徒会のツートップ。知名度が高く優秀な生徒であることは知っていたし、身体を見ればそれなりに鍛えていることも見て取れた。

 だが、身体能力の高さと球技が上手いかというのは必ずしも一致しないもの。

 護自身バレーをやるのは初めてだったし、南雲も授業以外はほとんど経験が無いと言っていた。

 つまり護の認識ではお互い初心者同士の勝負。実際、やってみてそこまで手強いとも感じもしなかったし、この程度は然して驚く程のプレーではないと思っていたのだ……試合中は。

 

 その結果がご覧の有様である。

 試合が終わった後になって、護は自分がやり過ぎたことを自覚した。

 

「はぁ……いっそサボりたい」

 

 入学してから何かと話題に上る事の多い護としては今更な話ではあるのだが、やはり変に注目されるのは落ち着かないものである。

 そしてこういう時に限って任務も無いというだから皮肉なものだ。

 

「そのような事をおっしゃらないで下さい。私は護君とご一緒に登校できて嬉しいのですから」

 

「それどこにテンション上がる要素あんのさ?」

 

「おや、私と一緒に居るのは楽しくないですか?」

 

「何その面倒臭い彼女みたいな返し。一緒がどうとかの前に学校自体そんな楽しんで行く場所じゃねぇだろ」

 

「学校に行く楽しみですか……」

 

 学校なんて大半の生徒はかったるいと思ってる場だろうし、それは護も例外ではない。

 ハッキリ言って護にとっては学校なんて時間の無駄というのが本心だ。

 勉強ならば自宅で出来るし、鍛錬の時間も含めればそちらの方がより効率的に時間を捻出できる。

 兄の意向で中学は普通に通ってはいたが、「何のために?」と思わずにはいられなかった。

 

「そうですね……」

 

 すると有栖は足を止めて少し考え込む素振りを取る。

 それに合わせて護も足を止めると、有栖は護へ向き直ってから数歩下がった。

 自身の全体像が見えるよう距離を取ると、そこで彼女はスカートをチョンと摘まみ上げると微笑みながら言った。

 

「私の制服姿が見られる、というのはどうでしょう?」

 

「……なんだそりゃ」

 

 勿体ぶって出した答えがそれかよと、内心呆れた感情を抱く護。

 まぁ可愛い可愛くないで言うなら可愛いが、生憎護は制服フェチではないのである。

 

「む、この制服は護君の好みではありませんでしたか?」

 

「いや、そういう問題じゃなく……」

 

「成程。つまり護君は……セーラー服派だったと」

 

「何でだよ!?」

 

「いえ、以前男性の好みに関して調べてみたらそのような派閥があると聞いたので」

 

「必ずしも男が皆ニッチな趣味を持ってる訳じゃねぇよ?!」

 

 というか、そんなことを調べたの絶対もしかしなくても東堂の影響だろ。

 

 たった一度の邂逅で余計な影響与えやがってと、護は心の中で半裸ゴリラのあん畜生に野次を飛ばした。

 

「むぅ、学校制服は護君の好みではありませんか……」

 

「何で不満気だよ……」

 

「いえ、東堂さんの一件で思ったのです」

 

(やっぱアイツか)

 

「あの方は極端な例だとしても、むしろ年頃の男性なら好みのタイプくらいあって当然。

 むしろ無い方が不健全なのではないかと」

 

「なんかすっごい偏見な気がするけど、好みのタイプなら答えただろ」

 

「あのようなその場凌ぎの回答ではなく、もっとフランクな容姿に関する話です。

 護君も普段このような話をしませんし、偶には学生らしい一面を覗いてみたかったのですが……」

 

(女子ってこういう恋バナ好きだよな…………いや、恋バナかコレ?)

 

 果たして有栖がどこまで真面目に言っているのか。

 学生らしさというものが分からない護としては何とも否定し難い話である。

 

 そんなこんな話している内に、いつの間にやら校舎は二人の目前に。

 周りに生徒も多くなってきた所で有栖は会話を打ち切る。

 

「仕方ありません。このお話はまた今度にしましょう」

 

「いや、遠慮したいわー。ってかこれ、そもそもどういう話だっけ?」

 

 なんか、最初は学校に行く楽しみがどうたらという話だった気がするのだが、いつの間に自分の好みに関する話に変わったのだろうと、護は内心首を傾げた。

 

 

 

 後になって思い返す。

 なんだかんだ、自分は楽しんでいたのだろう。学校なんて時間の無駄とは思ったが、それでも有栖とこうして過ごす時間は決して嫌なものではなかったと。

 もっともそれを自覚したのは、大分後になってからだが。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 2学期初日、本日午後の授業は丸々2時間ホームルームとなっていた。

 

「さて、2学期も始まって早々ではあるが、本日より10月に行われる体育祭に向けての準備期間へと入る」

 

 予め何か来るだろうと予想していた生徒達。

 緊張の面持ちを浮かべる彼らに向かって、真嶋は開始早々にそう切り出した。

 

「期間中は授業時間も体育の割り当てが増え、少々変則的な時間割となるので各自しっかりと確認しておくように。

 今から時間割表と体育祭の資料を配布する。後ろの席へと回してくれ」

 

 言いながら先頭の席の生徒へプリントの束を配っていく真嶋。

 粛々と回されていくプリント。護も自分の分を受け取ると手早く後ろへと回し、すぐさま内容に目を通し始める。

 

「全員に回ったな。では説明していくが、まず今回の体育祭では全学年を二つの組に分け勝負する方式となっている。

 今回AクラスとDクラスは赤組。BクラスとCクラスは白組へと配属され、この二組に分かれて戦うこととなる」

 

 おそらくは現状のクラス成績からバランスを考慮したのだろう組分け。

 護としては別段意外とも思わなかったが他のクラスメイトにとってはそうでもないようで、今まで競っていた他クラスと共闘するという事実に僅かながら動揺している様子が見られた。

 

 ちなみに夏休みの試験を経た現在の各クラスのポイントは次の通り。

 

 

 Aクラス――1236 

 

 Bクラス――970 

 

 Cクラス――852 

 

 Dクラス――320

 

 

「続いて体育祭における基本ルールと、勝敗によって得られる結果について説明していく」

 

 そして続く真嶋の説明。

 護はプリントに視線を移すとそこには以下のようなことが書かれていた。

 

 


 

・体育祭におけるルール及び組分け

 全学年を赤組と白組に分け行われる対戦方式の体育祭。

 内訳は赤組がAクラスとDクラス。白組がBクラスとCクラスで構成される。

 

・全員参加競技の点数配分(個人競技)

 結果に応じて1位15点、2位12点、3位10点、4位8点が組みに与えられる。

 5位以下は1点ずつ下がって行く。団体戦の場合は勝利した組に500点が与えられる。

 

・推薦参加競技の点数配分

 結果に応じて1位50点、2位30点、3位15点、4位10点が組に与えられる。

 5位以下は2点ずつ下がって行く(最終競技のリレーは3倍の点数が与えられる)

 

 

・赤組対白組の結果が与える影響

 全学年の総合点で負けた組は全学年等しくクラスポイントが100引かれる。

 

・学年別順位が与える影響

 総合点で1位を取ったクラスにはクラスポイントが50与えられる。

 総合点で2位を取ったクラスのクラスポイントは変動しない。

 総合点で3位を取ったクラスはクラスポイントが50引かれる。

 総合点で4位を取ったクラスはクラスポイントが100引かれる。

 


 

 

「気付いたと思うが、今回組別の総合成績で勝利しても特に報酬は無い。

 仮にクラスが1位を取ったとしても赤組として敗北すれば収支としてはマイナスとなり、逆に赤組として勝利してもクラスの成績が芳しく無ければそのままマイナスのペナルティを受ける。

 どんな競技でも気を抜かず、全力を尽くすことを肝に銘じておくことだ」

 

 全体的に収支がマイナスになる確率の方が高い試験。

 何とも旨味の少ない内容であるが、よくよく考えれば夏休み中の試験の方が特別だったのかもしれない。

 以前の試験でポイントを大盤振る舞いした分、ここで帳尻を合わせに来たということか。

 

 とはいえ、全くの見返りが用意されてない訳でも無いらしく、プリントの次の欄には個人報酬に関する説明が記載されていた。

 

 


 

・個人競技報酬(次回の中間試験にて使用可能)

 各個人競技で1位を取った生徒には5000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で3点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合個人への付与は出来ない)

 

 各個人競技で2位を取った生徒には3000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で2点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合個人への付与は出来ない)

 

 各個人競技で3位を取った生徒には1000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で1点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合個人への付与は出来ない)

 

 各個人競技で最下位を取った生徒にはマイナス1000プライベートポイント(所持するポイントが1000未満になった場合には筆記試験でマイナス1点を受ける)

 

・反則事項について

 各競技のルールを熟読の上遵守すること。違反した者は失格同様の扱いを受ける。

 悪質な者については退場処分にする場合有。それまでの獲得点数の剥奪も検討される。

 

・最優秀生徒報酬

 全競技でもっとも高得点を得た生徒には10万プライベートポイントを贈与。

 

・クラス別最優秀生徒報酬

 全競技でもっとも高得点を得た学年別生徒3名には1万プライベートポイントを贈与。

 

・全競技終了後、学年内で点数の集計をし下位10名にペナルティを科す。

 ペナルティの詳細は学年毎に異なる場合があるため担任教師に確認すること。

 


 

 

 特筆して目を引くのは、まず筆記試験で点を与えるという項目。

 少々……というかかなり風変わりな報酬ではあるが、まぁこれに関してはいい。

 元々Aクラスは他クラスと比較しても全体的に学力が高い。例えクラス内における成績下位の生徒であっても、このような報酬に頼らずとも赤点の心配など無いだろう。

 

 不穏な点があるとするなら、最後の方に書かれた下位10名に科せられるペナルティ。

 真嶋もそれが重要であるとを示すかのように、一旦咳ばらいをして間を置くと改めて口を開いた。

 

「最後のペナルティだが――1年生の場合は次回筆記試験における減点だ。

 総合成績下位10名の生徒は次の中間テストで10点の減点が科せられることになる。

 なお、どのような方式で減点が適用されるかは筆記試験が近づいてから改めて説明するためここでは質問を受け付けない。

 ペナルティが適用される下位10名の発表も、その際に通告することとなっている」

 

 その瞬間、クラス内に小さなざわめきが生じた。

 普段こういった説明の場では大人しく耳を傾けるこのクラスにしては珍しいリアクション。

 

 無理もない。10点というのは中々に手痛い減点だ。例え赤点の心配がなくとも、勉強に力を入れている生徒にとって成績を落とされるのは面白い事ではないだろう。

 

 まぁ、この中で確実に学年最下位を取るだろう護の隣に座る有栖は、ペナルティを聞いても全く気にしていない様子だったが。 

 ともあれ、基本ルールの説明も終わったところで、続き競技の説明へと移っていく。

 

「体育祭で行う競技は全13種目。クラス全員が参加する『全員参加種目』とクラス内で選抜した一部の生徒が参加する『推薦参加種目』とに分かれている」

 

 


 

・全員参加種目

 ①100メートル走

 ②ハードル競争

 ③棒倒し(男子限定)

 ④弾入れ(女子限定)

 ⑤男女別綱引き

 ⑥障害物競走

 ⑦二人三脚

 ⑧騎馬戦

 ⑨200メートル走

 

・推薦参加種目

 ⑩借り物競争

 ⑪四方綱引き

 ⑫男女混合二人三脚

 ⑬3学年合同1200メートルリレー

 


 

 

「少々過密なスケジュールとなっているが、その分一般的な学校で行われるような応援合戦や組体操などの種目は一切存在しない。あくまで本校の体育祭は体力、運動神経の競い合いに重きを置いている」

 

 もっとも、それがどれほどの気休めになっているのか。

 まだ説明中故に表立って声を上げる者こそいなかったが、チラリと見渡しただけでも大半の生徒達から憂鬱気な雰囲気が滲み出て見えた。

 

「そして最後に非常に重要なことを説明する。

 ここに、全種目の詳細が書かれた参加表と呼ばれる物がある。

 諸君らにはこの用紙にどの種目に誰がどの順番で出るか、それら全てを記入した上で期日までに提出してもらう。

 提出期間は体育祭の1週間前から前日の午後5時まで。締め切りを過ぎた場合、こちらでランダムに割り振る事となるので注意するように」

 

 つまりは単なる運動能力を競い合うだけでなく、他クラスの実力も加味した上で選手をどう割り振るか、戦略性も試される試験ということか。

 

(……思ったよか普通だな)

 

 一通りのルールも聞き終えた所で、護が抱いたのはそんな感想だった。

 長々と説明が羅列されてはいるが、基本的な要素を抜き出すなら要はそれぞれの競技における獲得点数の競い合い。 

 夏休み中に行われた試験と比べればあまりに普通。特段変わったルールは見受けられない。

 

「以上が大まかなルールとなる。何か質問はあるか?」

 

 そう言って生徒達に問いかける真嶋。

 するとすぐに、一人の生徒が真っ先に手を挙げた。

 ピンと真っすぐに伸ばされた挙手を見て、真嶋はその生徒の名を呼ぶ。

 

「葛城」

 

「はい。もしも当日、病気や怪我でその競技に参加できない生徒が出た場合はどうなるのでしょうか?」

 

「徒競走などの個人競技に関して言うなら、その生徒は失格扱いとなり点数は計上されない。

 二人三脚でも同様だ。ペアが組めなくなった時点でその組は失格。0点となる。

 騎馬戦においては最初から1騎分の補欠要員は設定されているが、それすら下回った場合は1騎少ない状態で挑むことになる」

 

 個人競技であれば例え最下位でも4点は貰える計算だが、失格の場合はそれすら無いということ。

 全体から見れば微々たる点数ではあるが、その僅かな差で負けたとあっては悔やんでも悔やみきれないというもの。馬鹿にしていい数字ではないだろう。

 

 更にそこで「但し――」と真嶋の説明が続く。

 

「――今回の体育際で花形となる『推薦参加種目』に関しては救済措置としてポイントを支払うことで代役を立てることが認められている。

 価格は各競技につき10万ポイント。ポイント自体は誰が立て替えても構わない。

 他に疑問はあるか?」

 

「……逆に言うなら、欠席しても失格以上のペナルティは存在しないということでしょうか?」

 

「そうだ。あくまでその競技において不利になるだけだ」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「他に質問がある者は?」

 

 葛城が着席したのを見届け、繰り返し生徒達に問いかける真嶋。

 すると今度は、護の隣で有栖が手を挙げた。

 

「坂柳」 

 

「はい。私からは三点程、確認させて頂きたいことがあります」

 

「三つか……」

 

「はい。まず第一に、参加表の提出にあたって。

 一度提出した参加表の内容を後から変更することは可能でしょうか?」

 

「可能だ。締め切り時間までの間であれば変更の申請も受け付けている」

 

「では第二に、これも参加表の提出に関してですが。

 もし他のクラスが提出を済ませていた場合、もしくは変更の申請があった場合、それらの事実は聞けば教えて頂けるのでしょうか?」

 

 その問い掛けに、真嶋はしばし考える素振りを見せてからゆっくりと口を開いた。

 

「……答えはNOだ。厳密に言うならば規則として明言されている訳では無いが、他のクラスが参加表の提出を済ませたかという情報は我々担任教師の間でも共有されない。

 例えばお前達が既に参加表を提出したとしても、私がそれを言いふらさない限り他のクラスの担任は期日までその事実を知らないし、私も当然それを言いふらすつもりはない」

 

「つまり、もし他のクラスの担任が居る場で参加表を提出した場合はその限りではないと?」

 

「……本来、教師が特定のクラスに過度な肩入れをすることは禁止されている。

 だが例え意図的では無かったとしても、その場に居合わせた誰かが見聞きした事実を口にしてしまう可能性は必ずしもゼロではない。

 こちらから言えるのはこれくらいだ」

 

 相変らず回りくどい言い方だが、つまり抜け道は有るということ。

 例えば「どこそこのクラスが参加表を提出したよ」と直接的に伝えることは出来なくとも「昨日職員室に〇〇クラスの〇〇さんが来たよ」と、胡乱気にヒント与えるくらいならおそらく教師側にも罰則は発生しない。

 

 もっとも、あくまで参加表を提出したかどうかという程度の情報、そんな際どいラインを踏んでまで漏らす教師が居るかは疑問だが。なんにせよ参加表を提出するなら時と場所を選んだ方がいいだろう。

 

「成程。ありがとうございます」

 

「三つ目は何だ?」

 

「はい。三つ目は他学年の団体競技に関してです」

 

「他学年の?」

 

「例えば綱引きや棒倒し、これらは人数差で形勢が大きく傾く競技ですが、他の学年ではクラス毎に生徒数もバラつきがあるかと思います。

 それらに関して何かしらの措置は取られるのでしょうか?」

 

 これまた変わった着眼点の質問だが、まぁこれも重要なポイントか。

 今回は2、3年の勝敗もこちらの趨勢に関わって来る。この辺りのルールによっては2、3年が敗北することを前提とした上で戦略を立てる必要も出てくるだろう。

 

「病気や怪我以外の失格者……ストレートな言い方をするなら退学者による人数差があった場合だが、その場合赤組白組間で、人数の多い側が少ない側に合わせる形で調整することとなる。……これでいいか?」

 

「はい。大変参考になりました。ありがとうございます」

 

「他に質問がある者は…………居ないようだな。 

 次の時間は体育館で上級生を含む他クラスとの顔合わせとなる。

 残りの授業時間は自由時間とする。各自話し合うなり好きに使うといい。以上だ」

 

 他に手を挙げる生徒が居ないのを確認すると、真嶋はそう言い残して教壇を降りた。

 

 静まり返る教室。自由時間と言われたのに、誰もすぐに動き出そうとはしない。

 普段ならこういう時は率先して葛城が会議の進行役として前に出るのだが、今日の彼は仏頂面を浮かべながら(まぁそれはいつもの事だが)その場に留まっていた。

 

 まぁ、今日は時間が時間だ。次のホームルームまでおよそ20分。この短時間でまともな会議をしようとしても議題の方向性を決めるだけで終わってしまう。本人もそれが分かっているのかもしれない。

 

 しばらくして葛城が動かないと見るや、生徒達は次第に立ち上がり親しい者同士で集まって言葉を交わし始める。

 有栖の元にも橋本らいつものメンツが集まってきた。

 

「こりゃまた、如何にも学校っぽいイベントが来たもんだな。

 分かり易いっちゃ分かり易いが、どうも今回は報酬も少ないしイマイチ乗り気になれないぜ」

 

 何とも不真面目な橋本の発言だが、これに関しては他のクラスメイトも本心では少なからず同意するところだろう。

 1位を取ったとしても得られるクラスポイントは微々たるもの。

 個人成績毎にも報酬が出るとはいえ、現状プライベートポイントにも余裕があるこのクラスにしてみればどれもはした金に過ぎない。

 モチベーションが上がらないのも当然と言えた。

 

「お気持ちはわかりますよ。私も今回はあまりお役に立てそうにありませんから」

 

 一応少し前からリハビリも開始している有栖。

 最低限の参加は出来なくも無いだろうが、成績に関しては間違いなく最下位になる事だろう。

 

「まぁ、姫さんの場合競技はな……つっても、何か作戦はあるんだろ?」

 

「さて、どうでしょうか。今回はあまり複雑な策を挟む余地がありません。

 こちらで決められるのは各競技の出場順と推薦競技の参加者のみ。それらも、身体能力が上位の方を優先的に選抜するのがどのクラスも基本方針となるでしょうから」

 

「……そりゃそうか」

 

 橋本としてはもう少し奇抜な作戦を期待していたのか、僅かにテンションが下がる。

 しかしすぐさま気を取り直すと、明るい調子で言葉を続けた。

 

「やっぱ重要なのは推薦競技か。

 となると、ウチの場合一人は決まってるな。頼むぜ五条」

  

「ん、俺?」

 

 護としてはただ位置的に近くに居ただけで別段話し合いに混ざってるつもりも無かったのだが、突然声を掛けられ首を傾げる。

 

「当然だろ。もうクラスでも話題になってるぜ。生徒会長コンビに勝ったって」

 

「あ、昨日のやつなら俺も見たぜ」

 

「私も。凄かったよね~」

 

 その言葉に同調するように、近くで話を聞いていた生徒達も盛り上がりを見せる。

 今朝の内はほんの数名から話しかけられる程度であったのだが、どうやら午前中の間にクラス内に広まったらしい。

 

「あー、……うん。期待に応えられるか分からないけど、もし出ることになったら頑張るよ」

 

 この目立っている現状に辟易しつつ、しかし表面上は愛想笑いを浮かべながら無難に言葉を返す護。

 ぶっちゃけ面倒臭いというのが本心だが、ここまで来たら割り切ろう。

 

(まぁ、ある意味好都合と考えよう)

 

 護としても、今回の行事はある程度活躍する必要があるとは思っていたのだ。

 

 何せ、今は体育祭とは別に高専の方も交流会が目前に控えている。

 本番までに乙骨のトレーニングも詰めなくてはならないし、任務との擦り合わせも踏まえれば学校を休んでスケジュール調整をする必要も出てくるだろう。

 

 もしも学校を休んで、その上体育祭の成績もそぐわないとなればクラス内で顰蹙を買うのは必至。

 それを避けるためにも、最低限の結果は残しておかなければならない。

 

 まぁ、そこまでやって本番当日に任務が入って欠席になろうものなら全て台無しな訳だが。そこは運に任せるしかない。

 

「少しいいだろうか?」

 

 そんなことを考えていると、ふとその会話の輪に向かって一人の生徒が声を掛けた。

 振り返ると、そこに居たのはいつの間に席を立っていたのか葛城の姿。そしてその視線は、有栖の方へと向いていた。

 

「はい、何でしょうか」

 

 問い返す有栖。

 すると葛城は、僅かに悩む素振りを見せながら口を開く。

 

「……今回の体育祭について、お前の意見を聞きたい」

 

 葛城の方から有栖に意見を求めに来るなど珍しい。

 そう思ったのは護だけでは無いようで、有栖の傍に集まっていた生徒達も、離れた場所で会話していた生徒達も一様に黙って二人に注目した。

 

 しかし当の有栖だけは然程意外そうな様子は無く、薄く微笑みながら言葉を返す。

 

「意見ですか。具体的に、どのようなものをお求めでしょう?

 細かい戦略や方針について話すのであれば、今はまだ時間も情報も足りていないと思いますが」

 

 なんとなく白々しさを感じるのは有栖をよく知る護だからか。

 おそらく彼女は今の段階で葛城が何を考えて相談を持ち掛けて来たかも予想がついているのだろう。分かった上で、周りの認識を擦り合わせる為に敢えて問い返している。

 

「分かっている。推薦競技や参加表の順番に関しては今すぐ決められることじゃないだろう。

 話したいのは、次の時間にある他クラスとの顔合わせについてだ」

 

「つまり赤組としてDクラスとどこまで協力関係を結ぶべきか、と?」

 

「そうだ」

 

「葛城君はどうお考えなのですか?」

 

「……俺としてはあくまで最低限、団体競技における共闘だけで十分と考えている。

 もし個人競技の出場順まで教え合えば、そこから他のクラスに情報が洩れないとも限らない。仮に相手のミスでなくとも、そうかもしれないと疑心暗鬼に陥れば連携は崩れるからな」

 

 何とも無難な考え方。しかしこれに関しては葛城でなくとも大半の生徒がそう考えるだろう。

 同じ赤組とはいえ、クラス争いの観点から見ればDクラスも完全な味方と言えないのがこの学校。クラスとして一定のラインを引くのが当然の思考だ。

 

「成程、では今度は私の意見を述べましょう」

 

 しかし、有栖の考えは少し違った。

 

「私としてはもう少し踏み込んだ協力関係を結んでもいいと考えています」

 

「踏み込んだ?」

 

「あくまでDクラスの出方次第ではありますが。

 例としては各競技における成績優秀者……そうですね、上位3名くらいでしょうか。それらの選手の出場順を教えるくらいならしても良いと思っています」

 

「それは……互いのクラスの成績上位者が潰し合わないようにか?」

 

「簡潔に言うならばそうなりますね」

 

「いや、だがそれは……」

 

 有栖にしては珍しい踏み込んだ共闘の提案に、葛城のみならずそれを聞いていた周りの生徒も驚いたように僅かに目を見開く。

 各々吟味するようにその提案を考え込む中、彼女は説明を続ける。

 

「まず前提として、今回の体育祭において絶対に避けなくてはいけない結果は何か分かりますか?」

 

「赤組として敗北し、尚且つクラス成績で4位になる事だろう」

 

「オマケして50点といったところですね」

 

「む……」

 

「では、護君は何か分かりますか?」

 

(だから、何で一々俺に振るんだよ)

 

 何でこの娘はこの手の話し合いがある度にこちらに話を振ってくるのか。

 別に見せ場を作って欲しいなど頼んでいないのだが、話を振られた手前渋々答える。

 

「……赤組としての敗北だろ。白組が負ければ、その時点でクラス順位に関わらずB、Cの減点は確定。

 逆にそれさえ避ければ、例えクラス成績が4位でもクラスポイントの差はそこまで広がらないからな」

 

「正解です」

 

「つまり赤組としての勝利を優先する為にDクラスは競争相手として除外すると言うことか」

 

「少々不十分ですが……ひとまずはその解釈で構いません」

 

「……もしDクラスが裏切ったらどうする? 他のクラスと結託し、赤組としての勝利まで捨ててこちらを追い落とそうとしてきたら」

 

(へぇ……)

 

 葛城が発した問い掛けに、護は素直に感心を抱いた。

 少し前の彼であれば、他のクラスが自滅覚悟でこちらを裏切ろうとする可能性など考慮しなかっただろう。

 それに気付き指摘できただけでも、大した成長である。

 

「現状のクラスポイントから見てDクラスが裏切りを働く可能性は限りなく低いでしょう。

 それに仮に裏切ったとしても問題はありません。それを考慮した上で、公開する情報は上位3名と限定したのですから」

 

「どういう意味だ?」

 

「申し訳ありませんが、それをお話しするには少々時間が足りませんね」

 

 有栖がそう言うと同時に、授業終了を告げるチャイムの音が響いた。

 

「ではこれにてホームルームを終了する。各自、体育館へ移動する準備を始めるように」

 

 そう言って廊下へと出る真嶋。

 まだ話の途中ではあるが、こうなっては続ける訳にもいかない。

 有栖は席から立ち上がると、最後に葛城に向かって言った。

 

「ひとまず、最低限お伝えしておくべきことはお伝えしました。

 どちらにせよ次の時間は他クラスの目もある以上、そこまで踏み込んだ話し合いは出来ないでしょう。

 実際にどうするかは葛城君にお任せしますので、よくお考え下さい」

 

「待て、お前はどうする。今回の指揮は取らないつもりか?」

 

「橋本君にも言いましたが、今回は策謀を挟む余地が限られています。

 私に出来ることがあるとすれば、参加表の選定くらい。お任せして頂けるならやらせて頂きますが、無理にその役目を奪おうとも思いません。

 判断は葛城君にお任せします」

 

 

 





 2025年中に上げるつもりだったんですが、今回も色々直している内にギリギリアウトに。

 何とも幸先の悪いスタートとなってしまいましたが、どうぞ今年も当作品をよろしくお願い致します!

夏休みの締めくくりの水着回、開催するならどっちがいい?

  • よう実4.5巻準拠。学内プールに行こう
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