よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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 今回2話投稿です。
 以前からチマチマ書いていたオマケ的な小話。それがようやくキリの良い所まで書けたので、3章の最後部分に幕間の物語として差し込みました。

 本編にはあまり関係ない内容となっていますが、気が向きましたらどうぞご覧になってください。


77話 体力測定

 

 これは護に限らず、多くの術師が当たり前すぎて自覚していないことであるが。

 そもそも呪術師と非術師は身体能力の基盤となる部分に、一つの明確な隔たりがある。

 それは単に普段から鍛えているというのはまた別種の先天的な要因。

 

 すなわち――平時における呪力の流れ。

 

 本来、呪力というのは一部の例外を除けば術師、非術師問わず大なり小なり保有しているエネルギーだ。

 呪力を認識できない一般人は、平時に於いてただ無自覚に垂れ流すことしか出来ないのに対し、術師の呪力は本人が意識せずとも自然と自身の肉体を廻っている。

 

 問題なのは、垂れ流しているということは、つまりそれだけ持っているエネルギーを無駄にしているということでもある。

 呪力というのは、ある意味それ自体が人間が宿しているエネルギーそのもの。

 保有している呪力の量、それ自体が本人の体力(スタミナ)に直結することは無いが、全身を廻る呪力は肉体に活性を促し、パフォーマンスを向上させる。

 

 勿論、これ自体は微々たるアドバンテージでしかない。

 碌に体を鍛えていない術師と日頃から筋トレをしている一般人。比較したら後者に軍配が上がるように、鍛錬次第では容易に覆る程度の差。

 

 しかしだ、もしも生まれながらに恵まれた体格を持ち、尚且つたゆまぬ努力を積んだ術師が居たとするなら。

 その僅かな差はどれ程に深く埋めがたい物になるだろうか。

 

 さて、長々と語ってしまったが要は何が言いたいかというとだ――――逸般人と一般人を同じ土俵に並べるもんじゃねぇという話である。

 

 

◆◇◆

 

 

 9月4日 月曜日。体育祭に関する説明から土日を挟んだ週明け。いよいよ今日から本格的に体育祭に向けての準備期間へと突入する。

 それにあたり時間割も変則的なものへと変わった訳だが、大きな変更点としては二点。

 一つは既に真嶋からも説明が有った通り、体育の授業時間が増えること。

 そしてもう一つは、週に一度2時間のホームルームが設けられるようになったということだ。

 

 基本的にそれらの時間は各クラスの自由に使っていいことになっており、Aクラスでは早速この時間を使いクラス全員の体力測定を行う運びとなった。

 

 各競技の参加順、推薦競技の出場者。何を決めるにもまずは全員の基礎体力を測ってからの方がスムーズに進むだろうという判断だ。

 

「では、まずは100m走から測っていこう。そうだな……とりあえず順番に四人ずつ、走りたい者からレーンに出てくれ」

 

 そう言って仕切るのは、やはりこの男――葛城。

 やはりこういう時、率先して場を取り纏めてくれる存在はありがたい。

 普段有栖の派閥に属している者達も、彼のこういう部分は認めているのだろう。なんだかんだこういった場で、彼が仕切ることに不満を漏らす者は居ない。

 

「スタートの合図は俺が出そう。すまないが誰か先に終わった者は戻ってきて俺の時だけでいいから合図役を変わってくれ」

 

「じゃあ葛城さんの番になったら俺が変わりますよ」

 

 そう言って率先して手を挙げたのは戸塚。

 普段はあまり積極的に行動するようなタイプでは無いのだが、葛城からの頼みとなると調子よく請け負うのがこの男である。

 

 ちなみにだが、今回有栖は記録係としてゴール付近に控えている為この場には居ない。

 最近ではそれなりに軽い運動も出来るようになってきたとはいえ、流石に激しい運動はまだ出来ない為そうなった。

 

 ともあれ、そんなこんなで手早く段取りも済んだところでいよいよ計測である。 

 まずは最初に戸塚が前に出て、遅れてポツポツと三人の男子が横に並ぶ。

 

 護はその光景を眺めながら、自分は何番目に走ろうかとぼんやり考えていると、ふと横から肩を叩かれた。

 チラリとそちらを見ると、そこに居たのは橋本。

 

「よっ、お手柔らかに頼むぜ五条」

 

「いや、体力測定にお手柔らかも何も無いでしょ。競ってんじゃないんだから」

 

「そうでもねぇさ。小学生の時なんか、単に足が速いってだけでスターに成る奴だって居ただろう?

 単なる体力測定でクラスのヒエラルキーが変わることだってある。男だったら、誰だって女子の前で恰好悪いとこなんて見せたくないからな」

 

「そういうもん?」

 

 生憎と碌に小学校に通ってこなかった護としてはピンとこない話だ。

 

「そういうもんなんだよ。お前に突出した記録を出されたら、俺ら他の男子がしょぼく見えちまうだろ? だから、お手柔らかにって言ってんのさ」

 

「随分と情けないことを言ってますね。橋本正義は」

 

 突然の割って入る声。

 この他人をフルネームで呼ぶ独特の話し方。護達がその声の方を見ると、そこに居た森下の姿を見て橋本がゲッと眉を顰めた。

 

「まったく、女子の人気を得るために他人を引きずり落とそうとするとは。これだから橋本正義は橋本正義なんですよ」

 

「俺の名前は蔑称かよ。

 ってか、俺だって別に本気で手を抜けって言ってるつもりはねぇよ」

 

「少なくとも女子に良い恰好をしたいという部分には本気を感じましたが?」

 

「そりゃお前……年頃の男子としての一般的な意見としてだな……」

 

「そうなのですか? 五条護」

 

「そこで俺に振らないでくれ。知らないよ。そんな見解」

 

「見捨てられましたね。橋本正義」

 

「そう言われて、俺はどういう感情を浮かべればいいんだよ?」

 

「笑えばいいと思います」

 

「笑えねぇよ」

 

 どこかで聞いたネットミームを口にする森下。

 放っておいたらいつまでも不毛な会話を続けそうな彼女に、護はいい加減この場を離脱すべく口を開く。

 

「んじゃ、そろそろ俺も走って来るから」

 

「お、おお。そうだな。そろそろ俺らも行かねぇと」

 

 サラッと護に便乗してしようとする橋本。

 さっきは護と比べられたくないような事を言っていたのに、余程森下との会話から解放されたいのか、笑みを浮かべながら護について来ようとする。

 

「仕方ありませんね。ではそろそろ行きますよ」

 

「は?」

 

 そう言って、さも当然のように一緒に行こうとする森下に橋本はポカンと口を開けた。

 護も予想外の彼女の行動に、小さな驚きを感じながら問いかける。

 

「……森下さんも一緒に走る気?」

 

「いけませんか?」

 

「いやダメってことは無いけどさ……」

 

 今回はあくまで計測。別に男女別にという決まりがある訳でも無し、どのタイミングで走るかは個人の自由だ。

 とはいえ、普通年頃の女子としては体力差のある男子と一緒に測るのは抵抗があるもの。

 じっさいここまでの組み分けも、自然と男子は男子、女子は女子同士で一緒に走る流れになっていたのだ。

 

「では行きますよ。コンクリートジャングルの女豹と恐れられた私の俊足、見せてあげましょう」

 

「いや、女豹って速さを讃える称号じゃないと思うんだが」

 

 一体その自信はどこから来るのか。

 明らかに大して鍛えられてないだろう小さな体躯を見て、護は呆れた呟きを漏らした。

 

 

 そんなこんなで、ともあれレーンに着く護。

 その横に並ぶのは三人の走者。橋本と森下、そして最後の一人がクラスでも一際厳つい顔つきの男子鬼頭隼(きとうはやと)

 

 傍から見たらなんだこれと言いたくなる組み合わせ。主に森下。

 スタートの合図を出す役目の葛城も、彼女の存在に困惑の表情を浮かべていた。

 

 そんなシュールな光景の中、レーンに着いた護は考えていた。

 

(さて、どうするかな)

 

 先程橋本にはああ言ったが、正直護としては本当に本気で走っていいのか悩んでいた。

 本来の目的の心情としては、目立たず静かな学園生活を送りたいというのが本心。そのためにはそこそこの記録で抑えるべきではないかと。

 

 しかし同時にこうも思うのだ。

 

(けど、たかだか体力測定だしなぁ……)

 

 言ってもたかだか体力測定。そんなもので目立ちたくないからと手を抜くのは、少々自意識過剰ではないかと。

 勿論護自身、自身の身体能力に一定の自負はある。普段から鍛えている自分であれば、呪力無しでもそこらの一般人に負けることは無いだろうと。

 

 しかしだ、だからと言ってそれで手を抜くというのは周りを嘗めているというか、自惚れが過ぎるような気がした。

 

(そもそも加減っていっても、どの程度が普通か分かんねぇし)

 

 大凡、護は世間一般における同年代の普通を知らない。

 中学の頃も体力測定で少々目立った記憶はあったが、生憎と当時の学校はそこまで部活などスポーツに力を入れている学校ではなく。

 護としても自分が凄いというよりも、むしろ皆運動不足過ぎないか? という印象しか抱かなったくらいだ。

 

(なんなら生徒会長達()()()あれくらいは動ける訳だし)

 

 そしてついでに思い浮かぶ、つい最近試合をした生徒会長コンビの存在。

 護にとって生徒会という役職は、デスクワークがメインでそこまで身体能力を要するイメージが無い。

 そんな役職にある彼らですらあそこまで鍛えているのだ。ならば普段から部活に打ち込んでる生徒の中にはあれ以上が居てもおかしくない。

 

 というか、実際1年Dクラスには約二名、彼ら以上の練度で肉体が仕上がっている生徒が存在していることを護は知っている。

 

 ここまでの思考、僅か数秒。

 護は考えた末に結論を出した。

 

(よし、真面目にやるか)

 

 同時に、葛城の声が響く。

 

「では、位置に着いてー!」

 

 掛け声と同時、四者それぞれ構えを取る。

 護が取ったのは、典型的なクラウチングスタートの構え。

 

「よーい!」

 

 腰を上げ、重心は前に。

 膝は伸ばしすぎず、最大限にバネを活かせるよう力を溜める。

 

「――――ドン!」

 

 ――瞬間、弾丸もかくやという勢いで護は駆け出した。

 力強い踏み込みと同時、他の走者を置き去りにして飛び出す。

 低姿勢のまま重心はひたすら前へ前へ。

 無駄なく力強いストライド。一歩ごとに加速していく体は一気にトップスピードへ。

 全身で冷たい風を正面から受けながら思う。

 

 ――ああ、煩わしい。

 

 呪力が無ければこの程度の速度しか出せないのか。

 感じる風に爽快感より歯痒さを感じながら、護は気付けばゴールラインを踏んでいた。

 

「――フゥ」

 

 深く息を吐き、呼吸を整える護。

 振り返ると、遅れて鬼頭が、それより僅かに遅れて橋本がゴールした。そしてそこから案の定、大分遅れて森下がゴール。

 

 全員がゴールしたところで、ゴールラインに居た有栖が護に近づいてくる。

 

「お疲れさまでした。護君」

 

 そう言いながら、護に向かってタオルを差し出してくる有栖。

 いつもながら準備のいいことであるが、今これが必要なのは自分では無いだろうにと、護は少し離れた場所でゼェゼェと息を吐く森下を見やる。

 

「いや、ありがたいんだけどさ。こういうのはもっと疲れてる人に渡してあげようぜ?」

 

「私は護君専属のマネージャーですので」

 

「君、いつからマネージャーになったよ?」

 

 そんな言葉を交わしながら、流石に自分だけタオルを貰うのは申し訳ないので、護は受け取ったタオルをポンと有栖の頭に置いた。

 

(それにしても……やっぱAクラスって学力にパラメーターを振ってるって言うか、あんま運動神経が良い人は居ないのかね?)

 

 ともあれ、ひとまず100m走が終了。

 護は周囲から畏敬の念が混ざった視線を受けながら、ぼんやりそんな事を思った。 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 その後も計測は続き、およそ1時間程の時間をかけて一通りの測定は終わった。

 測ったのは100m走に始まり、ハードル走、200m走、そして四方綱引きの参考にするための握力測定だ。

 

 そうして全ての計測を終え現在。

 

「これはまた……何と言うべきか」

 

「予想はしちゃいたけど……五条、お前マジでとんでもねぇな」

 

 そう言って呟きを漏らしたのは二人の男子。

 有栖から渡された記録用紙を確認する葛城と、それを横から覗き込む橋本。

 普段、性格的にも立場的にもあまり馴れ合うことの無い二人。そんな二人が、今この瞬間においては息が合ったように揃って唖然とした表情を浮かべていた。

 

「なぁ……高校生の世界記録っていくつだっけ?」

 

「知らん、が……流石に世界記録までは行ってないだろう」

 

「ホントか? いや、だってこれ握力とかよ、高校生で100kgなんて出せる奴なんて居ると思うか?」

 

「……Cクラスの山田ならあるいは」

 

 そんな会話をする二人。

 まぁ、最早わざわざ言うまでも無いことであるが、敢えて結果について述べるならばだ。

 

 簡潔に言って――ぶっちぎりだった。

 

 100m、ハードル、200mと、走力を競う項目に関しては次点の鬼頭と明確に差をつけての堂々のトップ。

 加えて最後の握力測定に至っては、握力計の限界値である100kgを記録。

 

 この間のビーチバレーの一件もあって何かと注目されていた護であるが、今回改めてその身体能力の高さを実際に目にしたクラスメイト達は、一様に驚きの表情を浮かべていた。

 

 ある程度目立つことは覚悟していたが、予想以上の周囲の反応に、なんとも落ち着かない気分になる護。

 クラスメイト達の輪からそれとなく距離を取っていると、そこに有栖と神室の二人が近づいてきた。

 

「あんた……ちょっとやり過ぎたんじゃないの?」

 

「そうかなぁ……そうかも」

 

 どこか呆れたような神室の言葉に、ぼんやりと空返事を返す護。

 一方でそんな二人に対し有栖はクスクスと楽しそうな表情を浮かべている。

 

「そう思うならもう少し手を抜けばよかったじゃない。

 あんたって目立ちたくないって割に、こういう所で手を抜くの下手よね」

 

「いや、だってさ……そりゃ俺だって鍛えちゃいるけど、呪力を使わない俺の体なんて普通の人間と変わんないよ?

 なのにたかが体力測定で手加減するとか正直舐めプが過ぎるって言うか、自意識過剰なイタい奴みたいじゃない?」

 

 橋本はヒエラルキーがどうのと言っていたが、護にとってはたかだか体力測定だ。

 運動の出来る出来ないで人間の価値が決まるでも無し、たかがその結果で一喜一憂する人の気持ちが護にはわからない。

 

 競っている訳でもないのに、わざわざ周りの基準に合わせて手を抜く。 

 それはむしろ周囲を馬鹿にしているような気がして、護としてはあまり好ましい行動では無かった。

 

「……時々思いますが、護君って周りから向けられる感情に無頓着な所がありますよね?」

 

「そうか?」

 

「はい。人の感情を読めない訳ではないのに、それに対する重きの置き方がどこかズレてるような気がします」

 

 正直自覚は薄かったが、言われてみればなんとなく思い当たる節はある。

 例えば護の場合、周りから注目されることに居心地の悪さはあっても、実際のところそこまで大した問題として受け止めてはいなかった。

 

「おそらく護君の場合、大抵の問題に対処できる力があるからこそ、他人から向けられる敵意や悪意も軽く受け流せてしまえるのでしょう。

 それが一周回って、他人からどう思われても構わないという認識に繋がっているのではないでしょうか?」

 

 よくそこまで分析できるなと思うと同時、護は内心で的を射た発言であると感心を抱いた。

 考えてみれば、呪術師の中には割とそういう人間が一定数いる。向けられる悪意に慣れ過ぎているからこそ他者に対して物怖じしない。

 相手の心境に考慮せず、割とずけずけと明け透けに物を言うタイプが。

 

「なぁ……もしかして俺、普段から結構無神経なこと言ってたりする?」

 

「無神経とまでは行きませんが、天然? というのでしょうか。時折会話がズレていると感じる時があります。 

 私としては可愛げがあって好ましい部分だとは思いますが」 

 

「可愛げが有るって、男に対する褒め言葉じゃねぇだろ」

 

 というか、こっちも大概世間知らずな有栖に、天然呼ばわりされたのは軽くショックである。

 

「とはいえ、今回は少々面倒なことになるかもしれませんね」

 

「ん?」

 

 どういう意味かと疑問符を浮かべる護。

 すると直後、近づいてくる人の気配を感じた。

 

「少しいいか?」

 

 振り返ると、そこには葛城の姿。更に周囲からは、他のクラスメイト達も集まってくるのが見えた。

 どうやらぼちぼち休憩も終了らしい。そろそろ体育祭に関する話がしたいのだろうと護があたりを着けている横で、有栖が葛城の声に応える。

 

「はい、何でしょうか」

 

「今回で、全員の計測結果は出た。おそらく推薦競技の参加者はこの結果を元に、成績上位者を振り分けることになるだろう。勿論自薦他薦があった場合は考慮もするが」

 

「そうですね。おそらく皆さん、自分より優秀な方を押しのけてまで、出場したいという方はいらっしゃらないでしょう」

 

 Aクラスの場合、ポイント的にも学力的にも他クラスより圧倒的に余裕がある。

 競技ごとに与えられる個人報酬。総合成績下位になった際のペナルティ。どちらもこのクラスにとっては然したる問題にはならない。

 クラスが勝てる可能性を捨ててまで、率先して出場したいという者は居ないだろう。

 

「となれば、残る当面の課題は本番までにどうやって全員の記録を底上げするかだ」

 

 以前も述べたことだが、今回の体育祭では小細工を弄する余地がほとんどない。

 基本的には純粋な競技の競い合いとなる以上、全員の身体能力底上げが重要なファクターとなるのは間違いない。ここまでは当然の事実。

 

 しかし何故だろう。この当たり前の事実を聞きながら、護は薄らと嫌な予感を感じていた。

 先程有栖が言っていた「面倒なこと」という言葉が頭をよぎる。

 

 そして直後、その嫌な予感は現実のものとなった。

 

「そこで五条、お前にはこれから本番まで練習時間のコーチ役を頼みたい」

 

 瞬間、告げられた言葉に空を仰ぎたくなった。

 反射的に眉を顰めそうになるのを堪えながら、感情を殺した静かな声で問いかける。

 

「……何で俺?」

 

「お前が一番、このクラスで運動能力に優れているからだ」

 

 即座、はっきりと断言する葛城に、周りにいた生徒達もうんうんと頷く。

 頷いたのは、彼の派閥の生徒だけではない。橋本を始め、有栖の派閥に属する生徒達も関係なく、皆一様に同意の姿勢を見せていた。

 そして葛城の説明は続く。

 

「真嶋先生も言っていたが体育祭までの期間、今日のようなホームルームや体育の授業は、基本的に自分達の自由に使っていいということだった。

 つまりその期間中、俺達は練習メニューも自分達で組まなければならないことになる」

 

「まぁ、そうだね……」

 

「お前の身体能力が抜きんでているのは、今回の計測結果を見ても明らかだ。

 そこまで身体を鍛え上げたノウハウを、どうか皆に伝授してほしい」

 

(いや、ノウハウって言われてもよ……)

 

 基本的に護の場合、身体の動かし方や鍛錬の方法に関しては独学だ。

 一応スポーツ医学やトレーニング理論の本も多少読み漁りはしたがあくまで参考程度。

 子供の頃からひたすらに壊しては治し壊しては治し。それを繰り返して作り上げてきたのが今の護の肉体である。

 

「……優れた選手が優れたコーチに成れるとは限らないって言うけど?

 ぶっちゃけ俺専門的な知識なんてあんま無いし、確実に成果を出せるって保証は出来ないよ?」

 

「それを言うならここにいる全員、指導者の素質は未知数だ。

 ならば最低限、実力の面で信頼が置ける者をコーチに据えるべきだろう。このクラスで、お前以上にその条件を満たしている人間は居ない」

 

 ごもっとも。

 この場で、コーチとしての指導経験がある生徒なんてまずいないだろう。

 全員が未経験。誰がやっても上手くいくという確実な保証が無い以上、現状において最も優秀な生徒に指導を頼むのがベターな判断だ。

 

「勿論、こちらでもできる限りのサポートはする。一から十まで全てお前に丸投げしようなどとは思っていない。どうか、頼まれて貰えないだろうか」

 

 そう言って頭を下げる葛城。

 こうして頼まれると護は弱い。基本的に護は、人からの頼みにはできるだけ応えるタイプだ。

 普段から仕事のせいで他者との接点が薄い分、こういう所で好感度を稼いでおくのが護の処世術。

 加えて本人、面倒見が良い性格もあって、こういう真摯な頼みには弱かった。

 

 救いを求めるように有栖に視線を向けると、そっと首を振られてしまった。

 

(ああ、そうですか。駄目ですか)

 

 そりゃそうだろう。この場で皆を納得させるような正当な理由なんて護にも思いつかない。

 普段から授業を休みがちな自分は相応しくないと言ってしまえば、じゃあ何でそんなに休んでるんだと突っ込まれる。

 これまでは、自分のペースで自宅学習をしていた方が勉強の効率が良いからという理由でどうにかゴリ押ししてきたが、今回に至ってはその理由は使えない。

 

(体育の授業だけ出席……緊急度の低い案件は土日に回してスケジュール調整……イケる……か?)

 

 8月の呪霊繁忙期が過ぎて9月。どうやら護のハードワークは暫く続くようであった。

 




 
 冒頭で語った呪術師の身体能力云々に関しては、私個人の独自解釈です。
 
 小学生の時に高校生をボコった東堂。呪力強化無し(推測)で不良の山を築いためぐみん。不意打ちで滅多刺しにされても生き残ってる伊地知さん。

 
 原作でも呪術師の身体能力って割と常人離れしてるし、その辺りに勝手な解釈を付けさせて頂きました。

夏休みの締めくくりの水着回、開催するならどっちがいい?

  • よう実4.5巻準拠。学内プールに行こう
  • 高専メンバー参加型。学外で皆と楽しもう
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