トレセン学園での奇妙な日常   作:ボンゴレパスタ

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鋼の意思

 

 

 

 

 

 

施設の3階から飛び降り意識が目覚めたある日、突然自身に目覚めた能力に最初はまったく何のことか分からない九条は大いに思い悩んだことは言うまでもない。どうやら自身の背後に突如出現した幻影は、自身の他にその姿を視認できるものはいないようであった。数か月後に退院する運びとなった九条は、再び施設で生活を送ることになったが、その自身にだけ見える幻影に心悩まされる毎日を送ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「琢実君、退院おめでとう!」

 

 

 

 

…そう声を掛けてきたのは、今では名前を思い出すことはできないが、彼女は施設の中でも煙たがられていた自身に優しく、他の人間と分け隔てなく接してくる数少ない人物だった。彼女は幼いころから両親から虐待を受けていたところを施設に引き取られたという、自身と似たような境遇を持ちながらも太陽のように明るく、美しい顔と手の女の子であると周囲から評判だったことだけは覚えている。

 

 

 

 

「……ありがとう」

   

 

 

 

 

 

九条はそうポツリとつぶやくと、その場を後にした…九条は、自身と似た暗い過去を持ちながらも周囲に明るく振舞う彼女のことが大嫌いだった。彼女と一緒にいると、何故だか自身の存在を強く否定されたような気がした。

 

 

 

 

 

「……九条君」

 

 

 

 

彼女は小さくなっていく九条の背中を寂しそうに見送るのだった…彼女はやがて高校を卒業すると、M県杜王町のとある職場に勤務する運びとなったが、ある時を境に彼女からの連絡はぱたりと途絶え、その消息は不明のものとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日のこと、自身のことをいつものように憂さ晴らしの標的にしようとクラスメイトの一人がゆっくりと近づいてきた。彼の気が晴れるまで、嵐が通り過ぎるまでいつものように弱者のごとく蹲っておいたのだが、その時自身の側に立っていた幻影が独りでに行動を開始するのだった。その幻影はゆっくりとそのクラスメイトの側に近づくとその肩に触れるのだった…するとそのクラスメイトの身体が鈍い音を立てながら遥か後方へと吹っ飛ばされていくのだった。

 

 

 

 

「……一体何が起こったんだ?」

 

 

 

 

突然目の前で繰り広げられた光景に言葉を失っていたが、ゆっくりとクラスメイトの元へと駆け寄った。彼の身体は不自然な方向に曲がっており、その頭からは蛇口からあふれ出るように血が流れ落ちているのだった。足早にその場を立ち去った九条は、公衆電話から匿名で119番通報をした。彼はクズではあるが、別に死ぬ必要はないと感じたからであった。病院へと搬送されたクラスメイトは九死に一生を得たが、奇妙なことにその傷は車のバンパーに当たったものであると判明された。校内で自動車に轢かれるという奇妙さももちろんのこと、その車も校内で誰も見た者はおらずバンパー痕が通常よりも遥かに高い位置につけられていることがより奇怪さを生み出すことになり、やがて学校の7不思議と化した。

 

 

 

その一件によって、九条は自身の幻影のことを、そして能力の全貌を完全に理解するのだった。そしてこの能力を用いて、自身の幼いころから脳裏に蠢く問題…「自身の出自を解明し、どうしてこのような運命を辿るようになったのか」ということを。高校2年生の時、施設の全員が寝静まったことを確認し、警備員の目を掻い潜りながら施設内にいる子供たちの数少ない個人情報が保管されている資料室へと忍び込むと、自身の情報を発見する運びとなったのだった。そこには自身が施設で生活を送っている前に生活を送っていた義両親の住所が記載されているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 資料に記載されていた住所に赴くと、そこは正しく自身の奥底で眠る忌々しく、心のうちに蓋をしていた記憶の箱を強く刺激するものだった。どんなに自身が許しを乞うても、それを無視するかのように自身に振り下ろされるベルト、食事の時間になると自身の食卓に並ぶ、およそ人間に与えるものとは到底思えない食事…その記憶の数々が瞬く間に想起され、自身の神経や情緒に土足で踏みあがり、そして荒らしていく。九条はあまりの苦痛に首をもたげたが、やがてその上げた顔に迷いは窺い知ることはできなかった。

 

 

 

…自身の過去に向き合わなければならない。

 

 

 

それが運命という、自身をこんな目にあわせている大きな流れに逆らう唯一の手段なのだ。自身が何処から生まれ、何のために生きなければならないのか。それを知って、立ち向かわなければならない。

 

 

九条は縁に所々錆が浮いているノブを掴むと、ゆっくりとドアを開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……結果的に自身を縛り付けていた呪いというものは、案外大したことはなかったということを実感した。

 

 

 

 

 

 

およそ数年ぶりに再会した義両親の姿は、あの頃恐怖の対象と見なしていたとは思えないほどみすぼらしく、あまりにも老いて弱々しく成り果てていたが、自身の運命をまた一つ形作る要因ともなった義両親から懇切丁寧に話を聞きだしたあとは、自身の能力が何処まで汎用できるかの実験台となってもらった。そして彼ら自身の生い立ちに関する話を聞く中で、奇しくも九条は自身の生きがいを見つけることとなったのだった。

 

 

 

 自身は元々九条家の宗家である名家の子であるとのことで生まれてきたすぐに母はその宗家によって謀殺され、自身は直ぐに分家である九条家のもとに預けられたとのことだった。どうして自身が生かされることになったのか。どうして実の母は殺されなければならなかったのか。疑問は尽きなかったが、九条の心の中にはこれからの人生において、自身がしなければならないことを深く刻み付けることになった。

 

 

 

 

 

 

 ……その宗家のやつらに。母を殺し、自身をこんなどん底の人生に叩き落とした全てに復讐をしてやる、と……

 

 

 

 

 

 

 

 

九条は義両親の口から聞いた、母の始末に関わったというとある反社会的組織から話を聞くため高校の夏休みを利用して東京に赴くのだった。その組織は所謂極道であり東京の某所を根城にし、海外のマフィアの麻薬密売の仲介や上客からの裏仕事を主に稼業としているろくでなしであることは既に分かっており、事務所に乗り込んだ九条は必要な情報を聞き出したのちに自身の能力を用いて組員を一人除いて皆殺しにすると、その一人を自身の操り人形として利用するのだった。

 

 

 

 

 

 必要な情報を数年がかりで取りそろえる傍ら、九条は自身の目的を完遂するためにトレーナー試験を合格し、トレセン学園に勤めるための勉学を始めとした努力を懸命にこなした。施設にいたころは根暗な性格であると評されていた九条であったが、自身の計画の遂行のために心理学の書を読み漁り、鏡の前で不自然に思われないような笑顔ができるように何時間も練習した…そして九条は数年後にトレセン学園のトレーナーとしてそのキャリアをスタートさせることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレセン学園でそのキャリアをスタートさせた九条は、自身の計画を動き出させるきっかけを求めていた…一つのきっかけは数年後に動き出すだろうが、それだけでは物足りない。そう思っていた九条の元に一つ幸運が舞い降りることになった。それはおよそ数年前、トレセン学園の夏季を利用した合宿の初日、九条は自身の請け負った仕事を終わらせるために殆ど職員やウマ娘が出払った学園にとどまっていた。すると何処からか爆発音が響き渡り、九条はその音の出どころに向かうのだった……するとそこは既に新校舎の建設によって普段使われることのない、旧校舎からその音は発せられているようだった。やがて再び大きな爆発が生じると、今度は校舎の2階の窓が熱風と共に砕け散り、そこから何か物体が降ってくるのだった……その物体はストンと目の前に落ちると、九条は地面に突き刺さったその物体を引き抜くと徐に口を開くのだった。

 

 

 

 

「……これは……矢か?」

 

 

 

 

 

それは何の変哲もない、しかし日常ではまずお目にかかれない代物である「矢」であった。その矢は何か禍々しいオーラを放っており、持ち続けていると何か引き込まれてしまうと思わせる何かがあった。すぐに矢を打ち捨てようとした九条だったが、その時自身の目の前で何か不自然な光景が広がっていることに気が付くのだった……矢が落ちてきた場所に偶然いたであろう大きなドブネズミが、どうやら偶然矢に身体を貫かれていたようだった…通常であれば、そのネズミは直ぐに息絶えることだろう。しかしそのネズミは何事もなかったように起き上がると、そのネズミの背後から幻影のようなヴィジョンが浮かび上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

この幻影には見覚えがあった。数年前から自身の背後に立ち、自身が使役する能力と酷似している。つまりこの矢は…

 

 

 

 

 

 

九条は恐るべき矢の持つ力の片鱗を目撃すると、即座にスタンドを繰り出してたった今死の淵から生還したネズミを始末するのだった。どのような能力であるのかは気になる所だったが、その全貌がつかめない以上、ネズミ自身が状況を把握する前に手を打ってしまった方が得策である。しかし、結果的にこれで九条は「きっかけ」を手にすることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――九条先輩!」

 

 

 

 

 

 

 

 

凡そ待ち時間よりも数十分も早くきたのだろう、彼女は頬を赤らめながら自身の姿を認めると、忙しく頭をこちらに向けて下げる…九条はそれを確認すると、いつものように太陽のような笑みを彼女に向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分待ったんじゃあないか?だとしたら済まない…」

 

 

 

 

 

 

「いえいえ!私も今来たところです!」

 

 

 

 

 

見え透いた彼女の嘘に笑顔で答えると、九条は彼女を退屈させないように話題を振りながらリードするかのように少し先を歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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