トレセン学園での奇妙な日常   作:ボンゴレパスタ

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禾スナハチ登ル

 

 

 

 

 

 

 

九条は自身の担当、グラスワンダーの練習が終わると静かに仕度をしながら校舎の方へと視線を向けるのだった。樫本への口封じは上手く作用したようで、意識が回復しない彼女から話を聞くことができない以上、自身の正体へとたどりつくことは困難を極めるだろう。しかし、自身の再び動き始めた計画には水を差されたくないため、既にスタンド使いたちには刺客を差しむけておいた。彼女らがスタンド使いたちを足止め、始末してくれることを期待しながら、九条はその場を後にするのだった。

 

 

 

 

樫本が病院に搬送されてから数日後、メジロマックイーンは小さくため息をつくと東方仗助から聞いた話を脳内で整理しながら廊下を一人で歩いていたのだった。犯人に繋がる重要な手がかりである樫本の意識が戻らない以上、その手がかりは失ったに等しいだろう。マックイーンは自室に戻るために静かに廊下を歩いていたが、その時後ろから鋭い殺気を感じとるのだった。

 

 

 

 

そこには一人のウマ娘が静かに立ち尽くしていた。左耳には幣がつけられた達磨がアクセサリーとしてつけられており、その瞳は大きな宝石がはめ込まれたかのように光り輝いていた。マックイーンは見覚えのある学友を一瞥すると、彼女に言葉を掛けるのだった。

 

 

 

 

 

「マチカネフクキタルさん…」

 

 

 

 

マチカネフクキタル。占いやまじないを好み、開運グッズを身にまとって時にそれを友人に好意のもとで押し付けることで知られるウマ娘である。しかし彼女の今の様子はとても正常なものであるとはいい難く、マックイーンは思わず身構えると、彼女の背後から人型の幻影がゆっくりと出現するのだった。

 

 

 

 

…やはりスタンド使いにされてしまっていましたか

 

 

 

目の前のスタンドの表情は窺い知ることができなかったが、その出で立ちにはどこか「寂しさ」を感じさせるものがあった。フクキタルは小さくため息をつくと、徐に口を開くのだった。

 

 

 

 

「私は本来、シラオキ様を信仰しています。ですが今は他の宗教の教えの一つを引用させてもらいます…仏教の考えの一つに、「四苦八苦」というものが存在します。普段の使い方としては、非常に苦しみことを現す四字熟語として認識されていますが、これは仏教の世界では苦しみの分類を現すために用いられるようです」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「基本的な「生(生きることそのもの)、老(老いること)、病(病気に罹ること)、死(死ぬことへの恐怖)に加えて怨憎会苦(憎むものに出会うこと)、求不得苦(求めることが思うように手に入らないこと)、五蘊盛苦(人間の肉体、精神が思うようにならないこと)、そして」

 

 

 

 

「愛別離苦…愛する者と別れる苦しみ。これを合わせて「四苦八苦」と定義されています」

 

 

 

「愛別離苦…それがあなたの苦しみなのですか、フクキタルさん?」

 

 

 

 

「……苦しみ。悲しみ…走る度に吐き出される息苦しさは、いやというほど私が「生きている」ということを実感させられる」

 

 

 

彼女の話はどこかで聞いたことがある。フクキタルには将来を期待された姉がいたが、彼女が幼いころに死別してしまったという。自身も覚えがある種の痛みに彼女が苦しんでいるというのならば、マックイーンは彼女にある種の同情、親近感、そして助けてあげたいという思いを抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

…もっと走らなければ。もっともっと、苦しまなければ。

 

 

 

 

彼女の身体を喪失感という渇きが蠢く度に彼女の生きることへの憎悪、後悔そして嫌悪は発露を求め、能力への負の活力となって吐き出されていく。とどのつまり彼女の姉を失ってしまったというどうしようもない喪失感が、そして穴の開いた器のように満たされない、そんな感情に折り合いを付けたい、埋め合わせたいと願う、人として当たり前の感情が、そのスタンドの力の動力源だった。メジロマックイーンは正気を失いながらも感情の発露をもとめて、そんな途方もない苦しみに藻掻く彼女を何としても救いたいと強く思うのだった。彼女は目の前に立ちはだかるスタンドに視線を送ると、彼女を救うために歩み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……貴方も救ってあげます」

 

 

 

 

 

フクキタルはぎろりとマックイーンに視線を送ると、スタンドの姿はまるでモザイクがかかったように形状が変化していくのだった。その顔や身体はやがて肌色となり、頭部からは人間のように頭髪が伸びていくのだった。そのスタンドの姿が完全に変化すると、マックイーンの目は大きく見開かれ、その口からあふれ出る感情を懸命に抑えるように寮で口を押えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

……そこにいるのは、かつて吉良吉影によって殺害されたはずのチーム「シリウス」のトレーナー、班目洋一の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

ずっと会いたかった。会って話をしたかった…またあの時みたいに。あれから何があったのか、どんな楽しいこと、どんな悲しいことがあったのか。彼がいなくなってから、話したかったことが沢山ある。

 

 

 

 

 

 

 

マックイーンの口や指、瞼は小刻みに震え出し、その感情を端的に表すかのように瞳からは大粒の涙があふれ出す。数年間ずっと押さえつけていた感情が、最早人智では打つ手のない絶望から目をそらすように、しかし確実に心のうちに巣食い、ふとした瞬間で彼女の背中を引き続けた感情が、班目の姿を認めた瞬間にダムが決壊したかのようにあふれ出し、彼女の心を強く捕らえて離さないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…トレーナーさん…」

 

 

 

 

 

 

 

失われた数年間の孤独を取り戻すかのように、マックイーンは班目のもとへとフラフラと向かっていく。突然の彼との邂逅に、彼女は自身のスタンドをだすことさえも忘れてしまったのだった。フクキタルはそんな彼女の様子を静かに見守ると、徐に口を開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のスタンドは、貴方の深層心理で最も会いたいと願う人の姿を投影するスタンドです…そして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その人への想いがあふれ出した時、私のスタンドの攻撃は完遂します」

 

 

 

 

 

 

マックイーンは自身の身体の異変にそこに気が付くのだった。思うように呼吸ができない。身体が突如自身に酸素が行き渡らないことに危機を察知し、空中の酸素を求めて喘ぐように肩で呼吸をするが、彼女の精神は彼女の脳への酸素の供給を完全に締めきってしまうのだった。マックイーンはやがて白目を剥くと、その場に力なく倒れこむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に羨ましいです…どんな形であれ、自身の想い人に、会いたいと思う人に会うことができるんですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

フクキタルはその場を立ち去ろうとしたが、後ろから突然声を掛けられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フクキタル…今すぐ彼女を元に戻すんだ」

 

 

 

 

 

 

 

フクキタルはゆっくりと声のする方向を振り向く…そこには彼女と同じ苦しみを抱えたウマ娘、シンボリルドルフが立っているのだった。







個人的に今回のスタンドは、ある意味1番会いたくないというか、手強いと感じます
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