トレセン学園での奇妙な日常   作:ボンゴレパスタ

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禾スナハチ登ル2

 

 

 

 

 

 

 

あの時、トレーナー君に調査の依頼なんてしなければ。

 

 

 

 

あの時、私が彼に担当になってほしいなんて言わなければ。

 

 

 

彼は今でも、この世界の何処かで少しでも長く息をすることができたのだろうか?尽きぬ後悔と、あの時こうしていればというどうしようもない仮定の堂々巡りは、ルドルフの心を確実に蝕んでいった。今でこそ、だいぶその頻度は減ったものの、その感情をゼロに戻すことなど到底できない相談であることは言うまでもない。

 

 

 

今の私は、彼の目にどう映るのだろうか?

 

 

 

…彼に会いたい

 

 

 

 

 

 

 

人は誰しも、その人にだけにしかわからない痛みや苦しみを抱えている。その途方もない苦しみは、時間が解決してくれることもあるが、時には年をとり、生きていくうちにまるで重石のようにその体にまとわりつき、離れずに徐々に増えていくこともある。その問題が解決することができないものであるほど、その人の精神は確実に蝕まれ、自覚していようといまいと、その絶望という深く底の見えない感情に精神を浸していることは言うまでもない事実である。

 

 

 

では、その絶望という悲しみが目の前を覆っていたとしても、そこから抜け出したいと思うことは果たして罪なのだろうか。勿論その痛みを抱えて生き続ける人もいる。痛みが致命傷となり、自身の最善の手段として最後にそこから逃れた、逃れるしか方法がなかった人もいる。問題が多種多様であるならば、向き合い方も当然のごとく多種多様であることは言うまでもなく、それを否定することは他人である私達にはできないことである。

 

 

 

 

…そして、最もこの状況。自身が会いたいと願う、それでも会えない人と会えてしまった時。あるかも知れぬ世界の先で、もしかしたら自身の旅路を終えた時、その人と再び出会ってその道中の話を聞かせたいと望んでいたところにもしも全くもって予想もせず、会いたいと願う人物とふとせず出会えてしまえた時。果たして人はその抑えつけていた悲しみを乗り越えることができるのだろうか?再び自身の目の前から消えてしまうかもしれないその人物にふと出会えてしまった時、その人は果たして以前のような心持でいられるのだろうか?

 

 

 

 

 

その答えが、メジロマックイーンはまるで陸に打ち上げられた魚のように身体を小刻みに震わしながら、痙攣していることであった。彼女にとって最も会いたいと思っていた人物と意図せず再会を果たした時、彼女は心の中で「彼といっしょにいたい」と願い、フクキタルの能力によってそれを無意識に彼女自身の身体がそれに呼応してしまったのだ。つまり、再び自身の最愛のトレーナーを失ったという身体に染み付いた喪失感が再び想起され、彼女の身体は自ら彼のところにいく…つまり自死を選んでしまったのだった。

 

 

 

 

今フクキタルの能力を解けば、マックイーンを救い出すこともできるだろう。シンボリルドルフは目の前でその瞳を絶望と喪失感で塗りつぶしているフクキタルに近づくと、言葉を掛けるのだった。

 

 

 

 

「もう一度いう。今すぐ彼女のことを元に戻すんだ」

 

 

 

 

フクキタルは生気のうしなった視線をルドルフに向かって投げかけると、徐に口を開くのだった。

 

 

 

「……貴方では私には勝てません。分かります、貴方は私と同じ痛みを抱えているのを感じるんです」

 

 

 

 

ルドルフはそれ以上言葉を続けようとはせず、フクキタルのもとへと近づいていくのだった。するとフクキタルは無言でスタンドを繰り出すとそのスタンドはゆっくりと姿を変貌させ、ルドルフが会いたいと強く願う人物…甲斐俊の姿へと変わるのだった。

 

 

 

 

「……トレーナー君」

 

 

 

一体どれほど彼に会いたいと望んだか。どれほどの悲しみが体を貫き、どれほどの喪失感で眠れぬ夜を過ごしたことか。スタンド使いではなくとも、その能力の影響は十分にうけることになる。ルドルフはマックイーンほどではなかったがその影響をうけることになり、突然息苦しさを感じると、ルドルフはかきむしるように喉を抑え、そして酸素を求めて口を金魚のように開閉するのだった。

 

 

 

 

ルドルフは自身が置かれている窮状を打開するために、そして全てのウマ娘の幸福を願う立場として…そして再び、本当の意味で彼に胸を張って会うことができるように、ルドルフはこの戦闘に勝利し、彼女の心を救い出すことを覚悟するのだった。ルドルフは胸ポケットにささっているペンを取り出すと、気道を確保するために喉に突き立てるのだった。目の前で見せつけられたルドルフの覚悟に、フクキタルが閉口していると、苦痛で顔を歪めながらルドルフはゆっくりと彼女のもとへと近づいていくのだった。

 

 

 

 

「き、君も確か…お姉さまを…」

 

 

 

「……それがどうしたっていうんですか?惨めだって言うんですか…?姉の背中を、彼女の背中を追い続けていることは間違っていると…?」

 

 

 

 

ルドルフは血交じりの咳を口から吐き出しながら、ゆっくりとフクキタルの方へと近づいていく。思わず目を瞑ったフクキタルだったが、自身を襲うはずの痛みはいつまでたってもやってこない。ゆっくりと目をあけると、彼女は自身がこの世のどんな抱擁よりと温かく、安らぎを感じられる…フクキタルは自身が抱きしめられていることに気が付くのだった。

 

 

 

「……これは…?」

 

 

 

「……私もそうだ。私の心の中にも、今でも彼がいるよ。忘れたことなんてありはしない。一日たりとて、彼のことを忘れたことなんてないさ…君の能力に出会った時、私もすぐに彼に会いたいと思った…でもね、気づいたんだよ」

 

 

 

―――それでも何処かで貴方が待っていてくれていると分かるから。貴方は今でも、私の背中を押してくれていると、信じることができるから。

 

 

 

悲しみに身を任せて、過去に向かって歩みを進めることができたらどんなにいいことか。それでも、それをするのは今日ではない。彼に顔向けができるように、彼に沢山道中の話をするには、もっとこの足で歩みを進めなければならない。

 

 

 

「……君もきっとそうだろう、フクキタル?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おねーちゃん!おねーちゃん!」

 

 

 

「……フクキタル?おねーちゃんのいうこと、最後のお願い、聞いてくれるかな…」?」

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

「貴方のこと、ずっと見守っている…だからゆっくりでいいから、ずーっと、ずーーっと先にまた会えるその日まで」

 

 

 

 

「……精一杯、私の分まで楽しんで欲しい。私の分まで笑ってほしい…」

 

 

 

 

 

「……どうか幸せに」

 

 

 

 

 

 

 

「…ごめんなさい…ごめんなさい」

 

 

 

フクキタルはそのあふれんばかりの感情が涙となって頬に伝うたびに、その口から懺悔の言葉があふれ出る。ルドルフはまるで自身の子供をあやすかのように優しく頭を撫で、彼女にだけ聞こえる小さくつぶやくのだった。

 

 

 

 

「…私達は醜いな…でもそれが私達なんだ」

 

 

 

 

…結局のところ、彼が待っていてくれる。そんな想いさえも私のエゴなのかもしれない。それでもきっと、この足で立つには、そんなエゴが必要なのだ。それならば、きっとこのエゴにだって意味があると言えるだろう。懸命にあふれ出る傷を想いながら、その傷がいつか癒えることを信じながら歩くことが、今の私達にはきっと必要なんだ。

 

 

 

 

―――もう少しだけ、もう少しだけ愚かな私のことを待っていて欲しい。

 

 

 

夕暮れ時の廊下に、突然そよ風が吹き込む。その風は絶望の中で再び歩み出そうとする彼女らの背中をそっと押すかのように頬を優しくなでつけると、静かに空に溶け込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……いつかまた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレクトリックサーカス

能力者 マチカネフクキタル

 

破壊力:なし

スピード:E

射程距離:B

持続力:D

精密動作性:D

成長性:A

 

人型のスタンド。対象が出会いたいと心で思う人に姿を変えらスタンド、その人に対する想いが強いほど強く能力は作用し、その度合いに応じて対象にダメージを与える。特に故人に会いたいと願った場合、その会いたいという願いはその人の身体を自死に追い込むほど強力なものとなる。

 




好きな言葉があります。


「“さようなら”は永遠の別れではない。“さようなら”は終わりではない。“また会う日まで、寂しくなるね”という意味なんだ



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