私が違和感を抱きながらも懸命にそれを飲み込み、偽りの仮面をその顔に据えて送っていた結婚生活のさながら、ある時、夫から先に帰っていいと告げられ、一人で肩書や家柄という物差しでしか人を測ることができない者たちが集まる退屈なパーティー会場から出ようとしたその時、突然後ろから声を掛けられるのだった。
「……貴方、○○さんの奥様、ですね?」
一目見た時、この男はただ交流のためにこのパーティに参加している他の連中とは毛色の違う、何処かその瞳の奥に意思と狙いを据えた、そんな感覚を感じることができた。
「……そういう貴方は?」
「……ここでは人目に付く。場所を変えてはいただけませんか?」
「…わかりました」
「……私は中央新聞で記者をやっている大羽元人と申します。」
「……そう。記者さんが私に一体何の御用かしら?」
「…貴方の旦那さん。○○さんの汚職疑惑についてです。」
単刀直入に男の口から飛び出した、耳を疑う言葉。彼女が思わず目を見開くと、大羽は言葉を続けるのだった。
「……どうやらご存じなかったようですね。ですがこの話は事実です。証左はこちらに」
大羽の手には数枚の写真が握られていた。その写真には、自身の夫がとある人物にアタッシュケースを手渡す様子が写真に収められていたのだった。そしてその次の写真にはそのアタッシュケースが開けられ、中身を改めている様子が写されていて、そのケースの中身はびっしりと敷き詰められた札束が見えるのだった。
「……これは…」
「……この写真だけでも記事を書くことができますが、決定的な証拠には欠けます。つまり明確な取引があったというデータが必要なんです。」
妻であれば、夫の悪事を暴こうとするこの目の前の男の提案を断ろうとすることが正しいのだろうか。こんなことを聞かれたと夫に包み隠さずに伝えることが正しいのだろうか。しかし彼女はこの目の前の男に協力するという選択を選んだ。自宅内の、彼しか普段入らない部屋に彼が不在の時を見計らって入ると、怪しげな資料を確認し、彼の犯行を決定的に裏付ける資料であることが分かると、それを大羽の元へと送り届けるのだった。
そしてこの選択が結果的に彼女と、そして未だ彼女が及び知らぬことではあるが、そのお腹に宿った彼女の子供の運命を決定づけることになったのだった。
セイウンスカイの目つきに、仗助とキングはおよそ覚えがあった。どうやらスカイも犯人によってスタンド使いにされ、正気を失ってしまったようだ。仗助は臨戦態勢をとるためにクレイジー・Dを繰り出すと、スカイはいつものような朗らかな笑みではなく、まるで周囲を青ざめさせるような笑みを浮かべたまま言葉を放つのだった。
「ほうほう。それが貴方の能力ですか~…確かに私のスタンドがまともに戦ったら勝てないでしょうね~」
およそ自身の敗北を認めるようなセリフだが、その様子からは負けを認めるような態度はまったく感じられない。
仗助がその様子に戸惑っていると、突然微かではあるが、音が聞こえるのに気づくのだった。
…どこか波を切るような、水と水がぶつかり合う音…
「まさか!」
仗助が振り向くと、プールの中にいる無防備な自身の担当ウマ娘、キングのもとへと真っすぐと何かが向かっていくのが見えた。初めからスカイは自身と勝負をするつもりなど毛頭なかったというわけだ。
「キング!」
仗助はプールに飛び込むと、水の抵抗を身体に感じながら懸命に足を繰り出していく。そしてキングの元へとたどり着いた仗助だったが、懸命にキングを助けようと駆け寄ったあまり防御のためにクレイジー・Dを繰り出すのに一歩遅れてしまうのだった。
「やっぱり、キングのこと大事だよね~。だからこそ、そこんところが仗助さんの弱点なんだろうけど」
スカイのスタンド…魚のような姿をしたスタンドが飛び出すと、仗助の首にかぶりつくのだった。
「……ガフっ」
「仗助!やめてスカイさん!やめて!」
仗助は口から血をたらしながら水面へと沈んでいき、キングは取り乱したようにスカイに懇願する…スカイはその様子をさも満足そうに眺めると、キングに向かって言葉を投げかけるのだった。
「急所まではかぶりついてないから、まだ死んでないよ~?もっとも今食いついている顎にもう少し力を込めたら…」
「やめてスカイさん!仗助が!仗助が死んでしまう!」
「……だったらさぁ~。勝負してよ」
「……え?」
突然スカイの口から発せられた言葉にキングが真意を掴みかねていると、スカイは笑みを浮かべながら言葉を続けるのだった。
「出るんだよね天皇賞?だったらその前に私と同じ距離、2000メートルで勝負してほしい。それでキングが勝ったらトレーナーさんのこと、放してあげるよ」
「…やるな。ただのウマ娘だと舐めていたが、どうやらそういうわけにもいかないみたいだな」
「…こンだけ顔がバレずに暗躍してたやつだ。自分を止めようとしている奴らの顔や動向はある程度把握しているとは思っていたが…」
「能力はモノの情報を抜き取ったり、記載することができる能力。あまり戦闘向きではないと思っていたが、こんな使い方もできるんだな」
九条の姿は何度か見かけたことがあるが、非常に柔和な笑みを浮かべて、優しく生徒たちに接していたことを記憶しているが、目の前の彼からはそのような様子は一切感じ取れず、その瞳からは覚悟と残虐性、そして自身のことを鬱陶しい蠅をみるような視線で睨みつけてきていた。シャカールは固唾をのむと、ゆっくりとその場から立ち去ろうとする…すると九条はまるでそのことを見透かしているかのように言葉を投げかけるのだった。
「別に逃げても構わない。そして仲間…そうだな、東方仗助にそのことを伝えるがいい。恐らくだが能力者の中でオレを倒す可能性があるのはあいつくらいしかいない」
「……随分とお優しいンだな」
「だが、その場合はこいつが死ぬことになる」
そう言って九条がスマホを掲げる…そこには血だらけとなって倒れているメイショウドトウの姿が映っているのだった。
「……てめー、こンなことをして許されると思ってンのか?」
「彼女の身体は今、校舎裏の生垣に隠してある。今なら死ぬことはないだろう。だが、校舎裏への道は、私の後ろから続いている。とどのつまり、君は既にオレと戦わなくてはいけない運命にあるってことさ」
シャカールの怒りは、既に頂点に達していた。シャカールはスタンドを繰り出すと、真っすぐに九条の元へ駆け寄っていく。彼は彼女を迎え撃つために、スタンドを繰り出すのだった。
九条のスタンドが、シャカールへと攻撃を繰り出す。シャカールはその攻撃をしゃがみ込むことですんでのところで躱すと、後方へと一度下がって態勢を整えるのだった。
「やはり攻撃を迎え撃つほどの攻撃力はもっていない、そういうわけか」
「……その必要はない」
「……え?」
「その必要はないって言ったンだよ。テメーへの攻撃は既に終了している。」
その瞬間、地面の床が大きな音を立てながら跳ね上がり、九条の元へと迫ってくる。九条は驚きのあまり目を見開くと辛うじて攻撃をスタンドでガードする。しかしその板は球状へと形が変わると九条を取り囲む檻のような形状へと様変わりするのだった。
「……これで完了だ」