ターフの上に吹き抜ける心地の良い秋風とは対照的に、スカイとキングの間には氷点下に達するほどの殺伐とした空気が吹き込んでいく。自身の担当トレーナーを人質に取られ、無理やり勝負の場に引きずり込まれたのだから、無理もないだろう。スカイはいつものような飄々とした笑顔と、その奥底に潜む狂気を孕ませながらキングに言葉を投げかけるのだった。
「距離は2000メートルの左回り。東京レース場と同じだよ~」
「……スカイさん。本当に貴方に勝てたら仗助のこと、放してくれるんでしょうね?」
「……それはウマ娘としてのプライドに賭けて、約束するよ」
仗助のことを助けるには、スタンド能力を持たない私にできることはこのレースで彼女に勝利するしかない。仗助のことを助けて、秋の天皇賞を勝利する。その前哨戦として、スカイは申し分のない敵だろう。スカイとキングはスタート地点に直線状に並ぶと、スカイは右手を握りこむとその上にコインを乗せる。そして勢いよく親指をはじき出すと、コインが空中に舞っていく。そして地面にコインが落ちた瞬間、二人ははじき出されたように走り出すのだった。
スカイが先頭を走り、キングはその4バ身ほど後ろを追走する。しかし第4コーナーに差し掛かり、ぐんぐんとキングはその距離を詰めていくと、あっという間に追いぬいてゴールしてしまうのだった。
「グ、グレートだぜ、キング…」
「じょ、仗助!傷は大丈夫なの!?」
そこには首をタオルで押さえつけ、全身がプールの水によってずぶぬれとなった仗助が立っていたのだった。
「あぁ、首にちょいと穴は開いたが傷は浅いぜ……初めっから俺を殺す気なんかで掛かってきてないってことだったわけだな」
「……どうして?」
スカイの心痛な呟きが、空中へと霧散していく。キングと仗助はスカイの方へと視線を向ける。スカイの瞳からは、既に狂気と余裕はすっかり消え失せ、失意と疑念に顔を染め上げながら空中をぼんやりと見つめていた。
「……どうして私は勝てないの?策を練って、本気のキングと戦って、それでも自分の力不足だけを思い知って…もう私は…競技者としての私は、もう…」
その言葉を聞いたキングは、つかつかと彼女へと歩み寄っていく。仗助はキングのことを止めようと一歩近寄ったが、彼女の顔をみるとその警戒を解いて踏みとどまるのだった。
「…スカイさん」
キングの問いかけに、スカイは吸い込まれていくそうな空をぼんやりと見つめたまま返事をしようとしない。そんなスカイの様子を見ると、キングは肩を掴んでむりやり彼女を立たせると、再び彼女に言葉を投げかけるのだった。
「こっちを向きなさい」
キングの強い口調に、スカイはおびえたようにぴくっと身体を震わせる。自身の心を見透かされたように、じっと自身のことを覗き込む彼女の視線に耐えかねたのか、スカイはその視線を地面へと向ける。そんな彼女の様子を見つめたキングはため息をつくと、彼女の額を中指で強く弾く…スカイは彼女からデコピンを受けた箇所を手で押さえると、キングは彼女に言葉を投げかけるのだった。
「仗助にこんなことをしたことは少しばかり腹がたつけれど、そもそもそれは貴方をスタンド使いにした犯人が悪いのであって、貴方は暴走しただけ。貴方みたいに暴走してしまったウマ娘たちを、私達は既に沢山出会っているの。思い上がるのも大概にしなさい。」
「……キング」
「もしも本当に申し訳ないと感じているんだったら…」
「また胸を張って、ターフに戻ってきなさい。セイウンスカイ」
…やはりキングは、一流のウマ娘だ。誇り高きウマ娘だ。仗助はスカイにそう言い残して颯爽とその場を立ち去るキングの背中を追って、その場を後にした。
「…キングには敵わないな」
スカイは何処か寂しそうに、しかし何処か満たされたように微笑みながら、夕焼け空を静かに見つめていた。後の天皇賞ではキングが1着、スカイは入着止まりとなったが、その顔には以前のような後悔や心痛な表情はなくまた自身のことを導いてくれたキングと相まみえる日を楽しみにしながらターフを後にするのだった。
シャカールは目の前で即席の檻に閉じ込められている九条のことを見つめながら、仗助へと連絡を入れる。数コール後に電話に仗助が出ると、シャカールは口を開くのだった。
「仗助か?単刀直入に言う。一連の事件の犯人と戦って奴を閉じ込めた」
「それは本当か!?今どこにいるんだ!?」
「2階のB棟の廊下だ。ドトウが校舎裏で奴に傷つけられて放置されているから、先にそっちに向かってくれ」
「それで敵は!?奴の正体は何なんだ!」
「――それは、奴の正体は、」
その瞬間、手に持っていた携帯電話が真っ二つに弾け飛ぶ。シャカールは眼前を見据えると、檻の隙間から何かが九条が何かを発射していたのだった。
「…さっきの君の攻撃、応用させてもらったよ。オレの攻撃が繰り出せる隙間さえ作れればいい。どうやら君は随分友達想いのやつなんだな。もしも先にオレの正体を言っておけば、オレを倒す可能性のある仗助に伝えられたのになぁ」
その隙間からスタンドが木材を打ち壊しながら、九条はその檻から難なく出てくる。そしてそのままスタンドを繰り出すと、シャカールに攻撃を打ち据えるだった。
…この距離だと、一撃は覚悟しなければならないか
シャカールは体の前で腕をクロスさせると、重い一撃を覚悟する…しかし、九条のスタンドは手のひらでシャカールに触れるだけだった。シャカールは疑念を抱きながら九条と距離を取ると、九条はスタンドを引っ込めるのだった。
「……おい。まだ戦いは終わってねーぞ。」
「……いや。もう終わったよ。君は既にオレの…スタンドっていうのか?能力によって始末されている」
…目の前の男が言った不可解な台詞に、シャカールは首を傾げる。その様子を静かに見つめていた九条は口角を醜く上げながら、シャカールに言葉を投げかけるのだった。
「…私のスタンドの能力…それは「触れた者に自身が経験した傷の記憶を追体験させる」能力だ。私が事故にあったり、殴られたり…そんな過去に受けた傷や痛みを、触れた物に負わせることができるってわけさ」
「つまり君に触れた時点で、私の勝ちってことさ」
シャカールの首に亀裂が入って血が噴き出し、手足はあらぬ方向へと折れ曲がっていく。苦痛に顔を歪ませているシャカールの顔を覗き込みながら、九条は言葉を続けるのだった。
「……痛みは一瞬で終わる。過去にその傷を負った私は、直ぐに気を失ってしまったからね。運よく近くに医者が通りかかって命に別状はなかったが、果たして君はどうかな…?」
一之瀬の遺体の不自然さは、これが原因だったのか。奴は九条の能力によって過去の記憶を追体験したっていうことか。
シャカールはやがてその瞼を閉じると、九条は満足そうに微笑んだ。確実な彼女の最期を見守ろうとしたが、階下からこちらに向かってくる音が聞こえてくる。九条は忌々し気にシャカールの顔を睨みつけると、その場を立ち去るのだった。
「シャ、シャカール…!」
電話が不自然に切れたことを不審に思った仗助がその場に向かったが、その時すでに全て終わった後だった。大怪我を負ったシャカールをすぐさまクレイジー・Dによって治した仗助だったが、その意識が直ぐに目覚めるということはなくしばらく入院する運びとなったのだった。
急いでシャカールが言っていたドトウの場所へと向かおうとする仗助だったが、その時あるものが目に付くのだった。
「……これは?」
それはシャカールの能力によって生成されたデータだった。今にも消滅してしまいそうなデータに目を通した仗助だったが、その驚愕の内容に仗助は大きく目を見開くのだった。
アングリング×スキーミング
能力者 セイウンスカイ
破壊力:B
スピード:B
射程距離:B
持続力:C
精密動作性:D
成長性:A
魚の様な容姿をした遠隔操作型のスタンド。どんな場所にも潜航でき、死角から相手を牙で仕留めることができる。オアシスとクラッシュのハーフの能力だと思っていい。