トレセン学園での奇妙な日常   作:ボンゴレパスタ

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精神一到何事か成らざらん

 

 

 

 

 

シャカールの決死の覚悟によって情報を入手した仗助は、とある人物と会っていた。本来ならば、顔なんか合わせたくない人物。だがこのような情報が出てきてしまった手前、彼ほど商人として適している人物がいないこともまた事実であった。

 

 

 

 

 

「本当はよ~、テメーなんかと顔なんざ合わせたくねーっていうのが本音なんだ…「人間関係、無理なもんは無理っ!」ってやつだぜ。だがよ~、シャカールが懸命に残したデータにとんでもね~事実が出てきたってわけだ」

 

 

 

 

 

仗助は、目の前の男…数年前、杜王町とトレセン学園の誇りをかけて戦い、死闘の末に打倒した男…後のマックイーンの報告によって、その男は実体を持たぬ幽霊となり、とあるウマ娘の背後霊と化してしまったという事実を知ることになった。すぐにでもその男をあの世に送ろうとした仗助だったが、その男が既に殺人衝動を有していないこと、そして一人の少女を見守ることしか執着が無くなってしまったこと…様々な理由を列挙された後にマックイーンは自身にこれ以上その男を放っておいて欲しいと懇願されてしまった。

 

 

 

 

 

 本心のところでは、マックイーンは少女にとって大切であったその男を再び引き離したくはなかったのだろう。その闘いで、間接的に、しかし致し方ないことではあったがマックイーンはトレーナーとしてそのウマ娘の心の在りかとなっていた男を奪ってしまったことに大きな罪悪感を抱いていたのだろう。それに自身の罪を犯したことを、実体を持たぬ姿で自身の帰りを待ち続ける少女を只々見守ることしかできない状態が、なにより自身の罪を見直すことになる、それこそがその男への罰となるだろうと思いなおし、仗助はマックイーンの懇願を受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 仗助が目の前の男を見据えると、その男…吉良吉影は徐に口を開くのだった。

 

 

 

 

 

 

「東方仗助…こうして話をするのは数年ぶりだな。何度か君の顔は見たんだが…」

 

 

 

 

 

「……余計なことは言わなくていい。てめ~は聞かれたことに答えればいい」

 

 

 

 

 

「……数年前、テメーがオレと戦っている時、奴が…犯人が「矢」を拾ったことが分かった。その場にあった小石がその記録を残していたってわけだ。「矢」はどこにあったんだ?」

 

 

 

 

「…矢は親父が管理していた。あの日も親父が持っていたはずだ。親父が爆破された時、矢を打ち捨てたのか、爆あの拍子に飛び出したのか…真偽は定かではないが、その矢を偶然通りがかったやつが拾ったと考えるのが妥当だろう」

 

 

 

 

 

「その日は夏合宿だった…つまり、その日夏合宿に参加していなかったやつが犯人の可能性が高いってことになる。てめーがトレセン学園にいた当日、学園に残っていたやつがいないか聞かせろ」

 

 

 

 

 

仗助はそう言うと、死刑執行人のような面持ちをしながら吉良のもとへと一歩踏み出していく。しかし吉良が突然放った一言に、仗助の顔は戸惑いの表情に染め上げられることになった。

 

 

 

 

 

「……一つ約束してほしい」

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 

「私が学園にいた当日、私の他に一人学園に残っていた奴が一人いた。M県からの転勤で中央での経験が浅かった私と、新人だったそいつは雑務をちょいとばかり押し付けられていたんだ」

 

 

 

 

 

「……つまりそいつが…」

 

 

 

 

 

 

「私がそいつを庇い建てする理由はまったくない。君にもその人物の名前を教える。そして私がその名前を口にすれば、そいつを君は決して許さないだろう。」

 

 

 

 

 

その犯人の目的は見えてこないが、既に沢山の人々に平然と危害を加え、トレセン学園の誇りを奪う行為の限りを尽くしている。その人物の正体が明らかになったのだとしたら、この身を賭けてその人物と戦いトレセン学園に居座らせるつもりなど毛頭ない。

 

 

 

 

 

「……当たり前じゃあね~かよ~」

 

 

 

「…既に今は11月。12月の有馬記念まで、そいつの処分は待ってやって欲しい。これはそいつのために言っているわけじゃあないんだ……そいつの担当ウマ娘のため。担当ウマ娘の未来のためだ」

 

 

 

 

 

担当ウマ娘の目の前から去らざるを得なかった男がたどり着いた、吉良なりのポリシーということだろうか。そう考えれば、吉良もトレーナーの端くれとしての信念を持ち合わせていた、というわけか。今まで対峙してきた殺人鬼とは思えない言動に動揺した仗助だったが、やがて深いため息をつくと同意の意を示すために、首を縦に振るのだった。

 

 

 

 

 

 

「…そいつの名前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先の天皇賞でのキングヘイローの快勝は、大きな衝撃を与えることになった。「マイラー・スプリンター」としてシニアで名声を欲しいままにした彼女が再び中長距離路線へと舞い戻り勝利を挙げたという事実は、業界を震撼させることになった。

 

 

 

 

 

「恐らく、キングヘイローは年末の有馬記念に出走する。今までで一番の強敵になることは間違いないだろう」

 

 

 

 

 

自身の担当トレーナーの言葉に、グラスは静かに頷く。

 

 

 

 

初めてトレーナーさんに出会った時は、この人はまるで太陽のような人だなと感じた。いつも周囲には人がいて、その中心で笑顔を絶やさない、そんな人物だった。選抜レースで2着だった私が、その不満のために周囲からのスカウトを断り続けていた…誰もそんな私のことを理解しようとはしなかったが、彼は私にこう声を掛けたのだった。

 

 

 

 

 

「……君、2着は不満だったんだろう?俺が1着の景色をみせてやる」

 

 

 

 

この人だけが私の、炎を、闘志を見出してくれていた。彼の観察眼と、その熱意に押され、私は彼の手を取ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

朝日杯フューチュリティステークス、有馬記念、宝塚記念…トレーナーさんは沢山の景色を私に見せてくれた。だからこそ、シニア最後を飾る有馬記念、必ずや彼に1着を持って帰るのだ。静かな決意の炎を瞳に宿らせると、グラスはターフの上を駆けていくのだった。

 

 

 

 

 

九条が自身の担当ウマ娘がターフの上を駆けていく様子を静かに見守っていると、隣に誰かがやってくる。その人物の顔を見ずとも、誰がそこにいるのかは既に分かっていた。運命が逃れようのない、大きな流れとなって自身を押し流していくのを感じる。九条は相手の顔を見ずに徐に口を開くのだった。

 

 

 

 

 

「……よくわかったな」

 

 

 

 

 

「……本当はこの場でテメーをぶちのめしてやりたい。許してやるつもりなんて毛頭ない…だがな」

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

 

「有馬記念が終わるまで待ってやる。それまでにテメーは担当のグラスワンダーとの折り合いをつけろ。テメーをトレセン学園に居続けさせるつもりなんてね~からよ~」

 

 

 

 

 

 

「……随分とお優しいんだな」

 

 

 

 

「あくまで執行猶予だ」

 

 

 

 

そう言うと、その人物は静かに立ち去った。九条はその男の立ち去って小さくなっていく背中を見やると、携帯電話を掴んでとある人物に電話を掛けるのだった。既に賽は投げられた。有馬記念の前に、オレはオレなりにできることをしなければならない。奴が有馬記念まで待つとは言っても、オレはそこまで手をこまねく理由はどこにもない。終わりを提示されたのだとしたら、それまであがいてやるまでだ。

 

 

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