トレセン学園での奇妙な日常   作:ボンゴレパスタ

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drain for rose

 

 

 

 

 

…そろそろか

 

 

 

 

 

調べによると、今日九条は外へと出払っている。そろそろトレセン学園に戻ってくる九条を出迎えるために校門の前へと向かっていいだろう。仗助が外へと向かおうとしたその時、突然声を投げかけられるのだった。

 

 

 

 

「…仗助?」

 

 

 

…今一番出会いたくないその相手。今から命のやり取りに向かい、そしてもう帰ってこれないかもしれないという状況の中、心残りとなってしまう彼女の顔を見たくはなかった。仗助はいつものように努めて明るく声色を保ちながら、後ろを振り向くのだった。

 

 

 

 

「おぉキング!どうしたんだ?今日トレーニングは休みのはずだがよ~?」

 

 

 

 

しかし取り繕って欺くことができるほど、彼女は甘くはなかった。

 

 

 

「行くのね…決着を。トレセン学園を傷つけた犯人…九条と」

 

 

 

 

驚きの表情で顔を染め上げている仗助を見ながら、キングは呆れたようにかぶりを振る。そして子供をなだめるかのように優しい声色で言葉を続けるのだった。

 

 

 

「バカね…何年貴方と一緒にやってきたと思っているのよ。今じゃあ貴方の顔を見れば、何考えているのかなんて大体把握できるってものよ」

 

 

「…こりゃあキングには敵わね~な」

 

 

 

キングの言葉に肩をすくめると、直ぐに彼女の顔は真剣そのものになる。

 

 

 

「…本当は行ってほしくない。でも止めても行くんでしょう?」

 

 

 

「…あぁ。奴がこの神聖な場所に、ウマ娘たちが夢を乗せて駆けるこの場所にいてはならない。奴とは決着を付けなければならない。」

 

 

しばしの沈黙が二人の空間を支配する。どちらかが事を起こしてしまえば、全て壊れてしまいそうな、そんな一時。迫る時に内心焦りつつ、彼女とのしばしの別れに何か気の利いたことを言わなければとまごついていると、その沈黙を打ち破ったのは意外にもキングの方だった。

 

 

「…帰ってきなさい。私のトレーナーは貴方だけなんだから」

 

 

 

彼女の言い方には、少し狡猾さがあった。「帰ってこい」なんて。それでは命のやり取りなんて大それた立ち回りを演じるうえで、オレがなせば成らないことは、一つしかないではないか。それでも彼女のその一言には、力があった。仗助がその使命に胸を燃やし、大義に身を投じるための勇気があった。仗助は僅かに口角を引き上げると、彼女に背を向けて校門の前へと歩みを進める。そして彼女の言葉がしかと届いたことを示すため、その手を握りしめて空に引き延ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不在着信;8件 メッセージ;9件」

 

 

 

 

 

出るつもりなど毛頭ない携帯電話を胸ポケットにしまい込むと、九条は府中駅を降りたってその場所へと向かう。電車内で確認したSNSでは自身が拡散したURAを巻き込んだ桐生院家の悪事があっという間に拡散し、ニュースでも取り上げられていた。ここまで火の手が燃え広がってしまえば、最早桐生院家は、康隆は終わりだろう。奴も、奴がのさばるURAも全て燃えつくされてしまえばいい。寒空の中その建物が見えてくると、夜にも拘わらずライトアップされて暗闇の中でもその輪郭を闇夜に映しこんでいた。ここが自身の人生の終着点となるのか、それともこれから目的を失い、あてもなく彷徨う後悔の始まりとなるのか。やがて目的地に近づいていくと、校門の前に誰かが立っていることに気が付くのだった。校舎のスポットライトを背中に受けて、その表情は窺い知ることはできない。それでも彼の顔には、怒りの表情で染め上げられていることだろう。それだけのことをオレはしてきた。自分の都合で人を傷つけ、利用し、尊厳を踏みにじってきた。

 

 

「メジロマックイーンのことが気になるのかい?」

 

 

 

その言葉を聞いた仗助の顔が僅かに動揺で動いたのを、九条は見逃さなかった。仗助が正々堂々1対1で自身を出迎える必要はどこにもない。誰かを呼ぶことは想像していたが、エアシャカールは入院していて、現在出払っているウマ娘たちを除けば、戦闘に出向けるウマ娘はメジロマックイーンくらいだろうと検討はついていた。この戦いを少しでも有利に運ぶためには、上手く立ち回らなけらばならない。

 

 

 

「…まずメジロマックイーンだが、彼女だって罪を抱えている…彼女の罪は許されるかも、正当なものと認められるかもしれないな。傍から見れば、トレセン学園の尊厳を踏みにじった殺人鬼から学園を救ったんだから……だが、彼女に大切なものを奪われた者はどうなる?そいつの心の安寧は、その子にとって大切な者を引きはがしたという事実には変わりない」

 

 

 

「何が言いたいんだよ…」

 

 

仗助の苛立たしさを滲みだして発する声を聞き流しながら、九条は言葉を続けるのだった。

 

 

 

「……つまり彼女はこの場には来ないってことさ。オレはちょいと唆しただけ。あるウマ娘に真実を伝えただけ。今彼女は僕と同じく罪に向き合っている。もしもこの世に神様というものがいて、その行為を正当なものだと認めるのならば、その罪を許すというならばきっと彼女は生きて帰ることができるだろう」

 

 

「テメーのやったことも、神が許してくれると?」

 

 

「もしもそれが正当なものだと認められるのであれば、な。それを見極めるためにオレは逃げずにここに来たんだ。」

 

 

ここにきてようやく仗助の顔の顔を視認できる位置にまで近づいた。予想通り、彼の表情はやはり般若のごとく憤怒で染め上げられていた。

 

 

「……ここではマズイだろう。場所を変えようじゃあないか」

 

 

仗助は九条の背中についていきながら、この場には来なかったマックイーンの身を案じるのだった。マックイーンのやったことが罪だとは露とも思わない。しかし、彼女が無事で戻ってくることを願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライスさん…?」

 

 

 

 

 

「ある人から聞いたんだ。お兄様がもうこの世にいないって…そのお兄様のことを殺したのが、マックイーンさんって…」

 

 

 

 

 

「……それは」

 

 

 

 

数年もの間、自身の心の中でくすぶり続けていた罪悪感。彼女の担当トレーナーを、致し方ないとはいえ命を奪ってしまった。それを知っている仗助を初めとした人々は、そんなことは気にすることではないと言ってはいたが、本音で言えば誰かに裁いてほしかった。誰かに咎めて欲しかった。

 

 

 

 

「沈黙は肯定と捉えるよ…マックイーンさん」

 

 

 

彼女の瞳には、いつものような気弱さは微塵も感じられない。かつての天皇賞で見た時のように、人を殺めてしまいそうなほどの狂気を孕ませた、そんな恐ろしさがある。

 

 

 

 

「……それは。貴方の担当トレーナー…川尻浩作は…」

 

 

 

こうなっては仕方がない。

 

 

 

 

「知ってるよ。本名は吉良吉影だってことも。お兄様が過去に何をやったのかも」

 

 

 

その言葉にマックイーンの顔は驚愕の表情で染め上げられることになった。ライスはそのことを知っていたのか。彼女は吉良吉影の凶行を及び知ったうえで私の前に立ちはだかっているのか。

 

 

 

 

「…だとしたら私のトレーナーを殺したのも…」

 

 

 

 

「そうだね。お兄様がやった。でもそれはそれ、これはこれでしょ?確かに因果応報って言葉があるように、お兄様も自分のやったことが原因でそうなったのかもしれない……でもマックイーンさんは?マックイーンがやったことは、何にもお咎めなしで済むってことなの?」

 

 

 

 

目の前の復讐鬼と化した少女の言葉の一つ一つが、マックイーンの罪悪感に浸された心を鋭くえぐり取っていく。ライスは全ての業を認識し、その因果を背負う覚悟を胸に秘めて今この場にいる。彼女に対する申し開きをしたいところではあるが、今は九条を倒すために一刻も早く仗助のもとへと向かわなければならない。

 

 

 

 

 

「―――すみませんが、今の貴方と話しても埒があきませんわ。後でお話する機会は必ず設けますから、今は急いでいますので」

 

 

 

 

そう言うと、マックイーンは地雷原を細心の注意を払って踏み抜くことがないように横をすり抜けようとする。しかしながら、数メートルまでライスに迫った時、一気に二人の間に殺気が立ち込めるのを感じ、直ぐに距離を取ろうとする。すると目の前の地面を何かが鋭く、まるでショベルカーが抉り取ったかのようなクレーターが出来上がるのだった。

 

 

 

 

「ラ、ライスさん…」

 

 

 

そんなまさか。彼女もなっていたというのか。

 

 

 

 

 

 

「だからマックイーンさん。確かめさせて。貴方が本当に「正しいこと白」の中でやってことなのか、貴方が本当に許されるはずだったら、きっとライスにも勝てるはずだから」

 

 

 

 

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