トレセン学園での奇妙な日常   作:ボンゴレパスタ

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drain for rose2

 

 

 

 

 

人は、運命を避けようとしてとった道で、 しばしば運命にであう。~ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライスシャワーの心の中には、いつも闇が巣食っていた。正確には、目の前から愛するお兄様が消えてから。日常を送っていても心の何処かにはその敢然たる事実が蠢き、ライスの精神を少しずつ、しかし確実に蝕んでいった。そんなある時、ライスは突然後ろから声を掛けられた。その人物は学園内で何度か見た覚えがあった…確かグラスワンダーさんの…ライスは目を落としながらその男の横をすり抜けようとしたが、突然男の口から発せられた言葉に、ライスの思考は占有されることになった。

 

 

 

「…もし立ち止まってくれたら、君のトレーナーに関して真実を教えよう」

 

 

「え?」

 

 

その言葉を聞いたライスはぴたりと立ち止まり、九条の顔を見つめる。放心状態となってしまったライスの意識を再びこちらに向けるため、九条は再び言葉を投げかけるのだった。

 

 

 

「行方不明になった君のトレーナーのことについて真実を知ってる、そう言ったんだよ」

 

 

「お兄様は!?お兄様は一体何処に!?」

 

 

途端に取り乱したかのようにライスは九条のもとへと駆け寄っていく。小柄ではあるがウマ娘の力で押されることに顔をしかめながら、九条は残酷な、だが真実をライスに告げるのだった。

 

 

 

「君のトレーナーは既に殺害されている」

 

 

その言葉に、ライスは壊れた機械仕掛けの人形のように頻りに、そして一定の間隔で首を横に振る。どうやら事実であると信じられないようだ。その様子をみつめながら、九条はさらに言葉を続けるのだった。

 

 

「残念だが事実だ…だが君のお兄様、トレーナーが殺されたのはこういっては何だが、ある意味仕方のないことだ。何故なら彼の本名は吉良吉影。自分の快楽に身を任せて、沢山の人を手に掛けた殺人鬼なんだから」

 

 

 

その言葉に、ライスの顔はさらに絶望へと染め上げられることになる。決して知られることがないとされた真実。九条は数年前の最終決戦を目撃していた。あの時九条が目撃したのは、血だらけの高校生の頃の東方仗助と、M県から転勤にきたはずの川尻トレーナーだった。不審に思った九条は調査を並行して進めていたが、その過程でマックイーンと仗助の会話を盗聴したことで判明した事実であった。自身よりも遥かにどす黒く、強力な能力を有した殺人鬼。そんな吉良吉影を倒した東方仗助とマックイーンが二人がかりで自身を倒すと向かってくるとなれば、自身の勝機は限りなくゼロに近いものとなるだろう。つまり彼女には、このまま打ちひしがれたままでいてもらうわけにはいかないのだ。彼女には、自身が仗助と決着をつけるまでのマックイーンの足止めになってもらい、あわよくば障壁となる彼女を打倒してもらわなければならない。九条は泣き崩れるライスを尻目に、新たな燃料を投下するのだった。

 

 

「まぁただ、君も随分辛い立場に身を置いているな。君のトレーナーを殺したやつと、日常をおくっているんだから」

 

 

その言葉に、ライスはまるで放心したかのように顔を上げる。何を言っているんだと言わんばかりに、底の見えない洞穴のような目で九条のことをじっと見つめる。だが、空洞となった彼女の心理状態の方が九条にとって扱いやすかった。もったいぶるように手を振りながら、九条はライスへ言葉を投げかけるのだった。

 

 

 

「だがそのウマ娘は自分のトレーナーを殺した吉良への復讐を果たしただけだ。今君はそいつと同じチームのはずだが?君は天皇賞でそいつと戦っているはずだ」

 

 

 

そんなまさか。衝撃の事実にライスの目はこれでもかと見開かれる。目の前の男の話を嘘であると信じたかった。しかし、数年前マックイーンに自身のトレーナーことをしつこく聞かれていたことに覚えがあったため、九条の話を只の与太話と切り捨てることはライスにはできなかった。

 

 

 

 

 

 

「マックイーンさんが…………?」

 

 

 

「確かに君のトレーナーは許されないことをした。間違いなく、決して許されない。しかしだからと言って君のトレーナーをそのウマ娘が……マックイーンが殺したことは、果たして無罪放免になるのかい?君のトレーナーは、その死をもって罰を受けた。だが、新たに生まれた罪は?彼女が行ったことが誰にも裁かれず、のうのうと学生生活を送っていいのかい?こんなにもトレーナーのことを想って涙を流す哀れな少女がいるというのに」

 

 

 

そう言うと、九条は背中から矢を取りだす。禍々しい雰囲気を放つ、そんな近づきがたい矢だというのに、ライスの手は無意識に矢の方へと伸ばされていた。息が苦しい。視界が霞む。衝撃的な事実と狂気が脳内で蠢き、彼女から正常な思考を奪っていく。

 

 

 

 

「―――さぁ。君がその因果を背負う覚悟があれば、この矢で能力を得ると良い。もし君に素質があれば、マックイーンに真偽を問うことができるだろう」

 

 

どうしようもなく大きな運命の流れが、一人の少女を飲み込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライスの背後から、ゆっくりと人型の幻影が浮かび上がる。その姿は、さながらかつて見たスタンド、彼女が思い焦がれ、その帰りを待ち続けた男のスタンドと酷似しており、猫と人を掛け合わせたかのような容姿をしたスタンドだった。

 

 

 

「…ラ、ライスさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつてトレセン学園を恐怖に陥れた怪物のスタンドを思い出させるその姿に、マックイーンは一歩後ろへと引き下がる。どうやらどうあがいても、ここで彼女と戦わなければならない運命のようだ。マックイーンは自身が大きな潮流の流れに既に身を投じていることを否応なく実感した。マックイーンも彼女に迎え撃つべく自身のスタンドを繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

「マックイーンさん。残念だけど、貴方じゃあライスには勝てない。分かるの…直感で」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それは過小評価、と言いざるを得ませんわ。私は仮にもこのトレセン学園を守るため、闘いをしてきた経験があります。貴方の怒りを鎮めて、ここは切り抜けさせてもらいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

マックイーンのスタンドは、すかさず拳を繰り出すと、ライスへと向かっていく。その攻撃を防ぐために腕をクロスしたライスのスタンドだったが、その直前でマックイーンは自身の身体を襲った違和感に気が付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「な、こ…これは…」

 

 

 

 

 

 

 

自身の足が鉛のように重い。いつものようにトレーニングでつける重りとは比べ物にならないほど、足から波紋上に全身に隙間のない圧力が絶え間なく襲ってくる。あまりの息苦しさにマックイーンが後ろに仰け反ると、その圧力から解放され、肩で呼吸して何とか体制を整えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「お兄様のことを聞いた時、マックイーンさんの能力を聞いちゃったから、それだとライスの能力を知らないと勝負で不公平だから、教えてあげるね」

 

 

 

 

 

 

 

「…ライスの能力は重力を操るスタンド。」

 

 

 

 

 

 

 

 

何というおそろしい能力なのだろうか。どうやら、ライスから離れることによってその支配下からは逃れることができるようだが、仗助の元へと向かうにはライスを倒してから進まなければならない。彼女の負の感情を、何とか取り除くことができれば何とか勝機は見えてくるはずだ。マックイーンはため息をつくと、再びライスのもとへと向かっていくのだった。

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