人はふとした時、自身の今までの行いについて、その如何を問われる場面に直面する機会がしばしばある。メジロマックイーンの場合、正に今この場が、寒空のもとで一人の友人によって詰問されるこの状況が、その如何を問われる場面であった。果たして吉良吉影の命を奪い自身のトレーナーの仇を討ったことは、正義の下で行われた純然たる、そして聖なる行いと見なされるのか。それとも自身も一人のウマ娘から最愛の人間を奪ってしまった罪と見なされるのか。マックイーンもその運命の行方を見極めようと、この場に残りライスと戦うことを選択したのだった。
マックイーンは目の前で愛する男の復讐に燃える少女を静かに見つめる。彼女の口から告げられた「重力を支配する能力」であるが、いかにそれが強力な能力であるかは先ほど身をもって体感していた。彼女のスタンドはその姿からして、近接攻撃も行うことができるパワーを有したスタンドであることは間違いないだろう。しかしライスの能力では遠距離で何かを飛ばして攻撃を加えようとしても重力によって彼女のもとまでは届かないことは明白であった。つまり彼女と決着をつけるためには、自身の足で近づいて攻撃をするしかないようだ。マックイーンはため息を一つ口からこぼすと、すかさずライスのもとへと向かっていく。彼女は自身のスタンドを繰り出すが、ある程度彼女の下へと近づくと、再び彼女の身体を重力の圧力が襲ってくる。思わず膝をついてしまいそうなほどの重さであった。
「くっ……グレイト・デイズ!」
マックイーンは自身のスタンド能力を用いて自身の闘争心を掻き立てると、その足で力を込めて立ち上がる。そして再びライスのもとへと向かっていくのだった。彼女に攻撃を加えるために。マックイーンはスタンドの射程距離まで近づくと、ライスに言葉を投げかけるのだった。
「ライスさんっ!貴方が戦うと決めたのなら、受けて立ちますわ!多少ケガしてしまうかもしれませんが、覚悟してください!」
マックイーンがスタンドを出し、攻撃を繰り出していくがライスのスタンドはそれ等の攻撃を的確に防御すると、カウンターに鮮やかな蹴りをマックイーンの腹部に繰り出したが、その攻撃を間一髪のところでマックイーンは受け止めたのだった。互いに一進一退の攻撃を繰り出す中、予想以上に強力なスタンド能力を持ったライスに舌を巻くマックイーンだったが、それも偏に彼女の強い覚悟に呼応して能力が引き起こされたということだろう。
マックイーンは攻撃の糸口をつかむため、ライスの攻撃を受け流しつつカウンターとしてライスが放った鋭い蹴りを掴む。卑怯な手であると思われるかもしれないが、ウマ娘にとって命の次、もしかしたら命よりも重いとされるその足を担保にすることに若干の罪悪感を抱いたマックイーンであったが、しかしライスは意にも介さないようにその足をねじ込むようにして腕の拘束から逃れると、そのままマックイーンの頭をその足で薙ぎ払うように蹴り上げるのだった。
……なんということだろう。
いまいちライスの覚悟の強さいうものを把握しきれていなかったようだ。この場で雌雄を決する覚悟を、彼女は自身のウマ娘としての選手生命そのものと言える足をないがしろにしたとしても、持っているようだ。それほど強い覚悟を持った彼女に、果たして勝つことができるのだろうかとマックイーンが思わず顔をしかめていると、ライスは徐に口を開くのだった。
「……ライスには「覚悟」がある。本当はこの攻撃をしてしまえば、ライス自身にもダメージがある…それでも、決着をつけるために。マックイーンさんを確実に裁くための「覚悟」が、ライスにはある!」
すると、辺りの空気が徐々に変化していくのを肌で感じる。不審に思ったマックイーンが頭上を見上げるとそこには東京に珍しく降り注ぐ粉雪が、空から自身やライスの身体にしきりに降り注いでいるのだった。するとその雪は徐々に速度を増していき、マックイーンの身体に落ちると、その身体にめり込んでそこから血が噴き出すのだった。
「……がはっ」
苦痛に顔をゆがめたマックイーンは地面に倒れこみそうになるが、すんでのところでこらえる…身体を間隙のない鉄の雨が襲うなか、マックイーンは目の前の少女を見据えた。どうやら泣いても笑っても、ここが最終局面であることに変わりはないようだ。マックイーンは再びスタンドを繰り出すと、ライスに対して攻撃を繰り出すのだった。ライスの能力によって銃弾のような雪のシャワーが絶え間なく二人に降り注ぎ、二人は間隙のない攻撃のラッシュを互いの身体に叩き込んでいく。ライスは重力の作用によってマックイーンの膝を地面につかせるために。マックイーンは一刻も早くライスの敵対心を消滅させて、その攻撃を中断させるために。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「はあああああああああああああ!!!!!!!」
互いの譲らぬ想いと執念がせめぎあい、音を立ててぶつかり合っていく。互いに譲れぬ想いがある。互いが此処に立つ理由がある。永遠に続くかと思われた死闘の末、先に膝をついたのはメジロマックイーンだった。ライスは重力を解除させると、肩で呼吸をしながら地面に倒れこむマックイーンのことを見つめながら、徐に口を開くのだった。
「……本当はもう少し早く倒れると思っていたのに…流石マックイーンさんだね」
自身の身体はマックイーンと自身の血が垂れ流されておりその意識は今にも失われてしまいそうであったが、ライスは自身のスタンドを構えると、マックイーンの因果に決着をつけるために、そして自身がその長く辛い因果を背負うためにその拳をマックイーンへと繰り出すのだった。
「…………?」
マックイーンの身体にすんでのところまで迫った拳だったが、その拳はそこからピクリとも動かない。不審に思ったライスだったが、やがて自身のスタンドの腕を何者かが制止するように掴んでいることに気が付くのだった。
「……これは?」
やがてその腕を掴むヴィジョンが鮮明に見えてくる……その姿は猫と人を掛け合わせたような姿をしており、禍々しいデザインが施されており、ライスのことを想いそして彼女のことを守り通すことを、それだけに死後もすがり続け、それを身命に賭す覚悟を有した男のスタンドそのものだった。
「……あ、あ」
どれほど会いたいと願ったことか。ライスは自身の隣に浮かび上がる男…その顔は金髪に整った顔立ちであり、およそ自身が見知った顔ではなかったが、ライスにはその男が誰であるかは一目でわかった。ライスは会いたいと切に願い、思い焦がれたその男。ライスの目からは絶え間なく感情の発露である涙がこぼれおち、殆ど寒空にかき消されてしまいそうなほど小さな声を辛うじて発するのだった。
「……お兄様?」
ライスの顔を愛おしそうに、そして悲しそうに見つめるかつての殺人鬼はやがて彼女の耳にも届く、贖罪の言葉を口にするのだった。
「……本当に済まない。ライス。君には本当に済まないことをした。あのまま君が真実を知ってしまったら君はきっと私の後を追ってしまっただろう。そんな姿は見たくなかったんだ。許して欲しい」
彼女の耳に届く、確かに聞こえる吉良の声に、数年もの間乾ききっていたライスの心は直ぐに溶かされていったのだった。お兄様の声が聞こえる。お兄様の姿をこの目で見ることができる。小さな彼女の身体に、しかし確かにそこにある心を満たすようにライスは首を横に振りながら言葉を口にする。
「ううん。いいの…いいの」
「君が運命によって苦しむ姿は見たくないんだ。どうかメジロマックイーンにこれ以上攻撃を加えないでやってほしい…君には今まで通り友達と一緒に日常を送って、ターフの上を駆けてほしいんだ」
「お兄様…」
既に実体を失い、魂だけになってしまった殺人鬼。生前は自身の歪んだイズムと快楽に身を任せ、凶行に走った彼が死後自身の罪に向き合い、この世にとどまり続けたのは偏にライスのことを見守り続けるためであった。彼女には普通の女の子として、自身のように因果の流れに身を置き、裁かれる立場に身を置いてほしくないという切なる願いは、数年もの時を隔てて遂にライスのもとへと届くのだった。
「……私はずっと君の姿を見てきた。これからもそうしよう。君が望むんだったら。」
「もちろん…ずっとそばにいて…お兄様」
彼女の心は、そして精神だけになっても尚のこと少女を見守り続けた殺人鬼の心は救われていた。それだけでも彼らの罪は救われ、許されたものであると言えるのはないのだろうか。もう既に重力の支配から解放された雪は、人知れず全ての呪縛から解放された彼女の身体に優しく降り注ぐのだった。
Drain for rose
能力者;ライスシャワー
破壊力:A
スピード:B
射程距離:D(重力の及ぶ範囲はB)
持続力:C
精密動作性:B
成長性:A
キラークイーンの姿に酷似したスタンド。自身を中心とした半径5メートルほどの重力を思うがままに操る。今回の戦闘のように雨や雪の重力を操り攻撃に用いることもできる強力なスタンドだが、その場合は自身にもその攻撃を受けることになる。