トレセン学園での奇妙な日常   作:ボンゴレパスタ

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キングヘイローは走りたい

 

 

 

ついに迎えた某日。

トレセン学園が手配した送迎バスの中で、仗助とキングはとある場所へと赴いていた。

 

 

 

「――いよいよだな、キング」

 

 

 

 

「――えぇ、仗助。一流の私たちの船出には丁度いいわ!」

 

 

 

 

 

――今日は待ちに待ったキングのメイクデビューの日

その遥かなる旅路の第一歩を遂にこの日、2人は踏み出すこととなったのだった。

 

 

 

 

会場である中山レース場に到着すると、あふれんばかりの人々が新人であるウマ娘たちの雄姿を一目みようと詰め掛け、大変な賑わいを見せていた。それほどまでに、ウマ娘たちのレースというものが人々に愛され、注目の的となっているということだろう。

 

 

 

 

「―――グレート」

 

 

 

その熱狂の渦の中で、ポツンと仗助はそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キングと控室にて最後のミーティングを行った仗助は、会場の最前席に着くと、隣から唐突に声を掛けられるのだった。

 

 

 

 

「―――よう。君は東方仗助、だよな?」

 

 

 

 

 

 

 

「アンタは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

その男は仗助よりやや小柄で、髪はリーゼント風のツーブロックに刈り上げられていた。男は子犬のように人懐こい笑みを浮かべながら、仗助に続けて話しかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ーー九条拓実。今日のデビューレースは出てないけれど、君の担当のキングヘイローと同期のグラスワンダーのトレーナーだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言うと、九条は胸元についているトレーナーバッジを指で挟み、仗助に見えるように引っ張った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーグラスワンダー

 

 

 

 

 

 

 

 

つい先日、キングと昼食を一緒に食べた時に同席していたウマ娘たちの内の1人に彼女がいたことを仗助が思い出すと、九条は笑顔で右手を差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーよろしくな、仗助…この際だから敬語とかはやめてくれよ。そういう堅苦しいのは苦手なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーおぅ、よろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

仗助が差し出された右手を握り返すと、九条は人懐こい笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「理事長代理に楯突いたやつがどんな奴か気になってたが、こりゃあ中々骨のありそうなやつだなって分かったよ。今日は敵情視察ってことで身に来たってわけさ」

 

 

 

 

「げぇ、やっぱしその話題、広がってんだなぁ~~」

 

 

 

「お前は有名人だぜ、仗助。まぁ担当ウマ娘が仲良しのよしみでこれからも仲良くしようぜ、仗助……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、キングヘイローよね?」

 

 

 

 

 

見覚えのないウマ娘がニヤニヤとキングを見つめながら話しかけてくる。キングは訝し気に首を傾げながら、その馴れ馴れしい声掛けに応じるのだった。

 

 

 

 

 

 

「――そういうあなたは?」

 

 

 

 

 

 

「そんなことはどうだっていいじゃあないの…あんたはこのレースで大恥かくことになるんだから。あんたの実力不相応な態度じゃあ、新人トレーナーしか掴まらなかったんでしょう?」

 

 

 

 

新人トレーナーが見つけた、大した実力もない親の七光りのウマ娘。

およそ一部の評価などそんなものだろう。現に目の前のウマ娘はキングのレースはまだ始まっていないというのにその実力を未熟な観察眼で判断し、勝てるものだと肩を括っている。

 

 

 

 

それに彼女はなにも分かっていない。彼女にはおよそ、私の誇り、そして仗助の覚悟なんて感じることもできはしないだろうーーーだがキングは興味もなさそうにため息をつくと、踵を返してゲートに向かっていったのだった。

 

 

 

 

「―――おい!なに無視こいてんだよ!」

 

 

 

――何の覚悟もない愚か者には、好きに言わせておけばいい。一流のウマ娘たるもの、ここでムキになって言い返すのは適切であるとは言い難い。

 

 

 

全てはレースで見せてやればいいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――3枠8番、キングヘイロー。本レースの1番人気です。パドックでは自信満々な面持ちでしたが、いかがでしょうか?

 

 

 

 

――さすが彼女、というべきでしょうかね。不敵に笑っています。一番人気の故はもちろん、彼女の母親の功績からくるものと言って差し支えないですからね…その笑みは絶対的な実力からくるものか、はたまた、ただの虚勢によるものなのか。

 

 

 

――いずれにしても、本レースがデビュー戦となる彼女の走りになります。期待したいですね。

 

 

 

 

実況と解説による子気味良く言葉を繰り返し、それによって会場のボルテージは等加速度的に盛り上がっていく。キングヘイローというウマ娘を語る上で、やはりその血統というものは切っても切り離せないものであることは自明の理であった。それでも尚、彼女が一人のウマ娘として大いなる海原へと漕ぎ出そうとしている以上、その枷を断ち切ることが肝要であることは間違いない。

 

 

 

 

全てのウマ娘たちがゲートインを完了すると、会場は水を打ったように静まりかえる

 

 

 

 

ゲートが開き各々のウマ娘たちが想いをその足に乗せて、走り出していくーーキングは自身の脚質に合わせて中団やや後方にその位置を落ち着かせたのだった。

 

 

 

 

前方を走るウマ娘たちが地面を強く蹴り出すたびに足元からターフの土が抉れ、彼女の顔や服に容赦なく降り注いでくる。その姿はカメラによって捉えられレース場の液晶に映し出されており、彼女の額から零れ落ちる汗や頬に掛かった泥の細部まで視認することができた。およそ優雅、上品とはかけ離れたその姿ではあったが、仗助にとってはそのキングの姿は、他のウマ娘たちを差し置いて誰よりも美しかった。

 

 

 

 

 

 

――自身の脚質に合わせて中団やや後方に位置し、レースの展開を窺う。

 

 

 

 

囲まれないように落ち着いて息を入れながら、前に上がる一瞬のタイミングを窺うキングは心中ではらしからず興奮を抑えることに苦心していた。

 

 

 

 

――私のやりたいレースができている。

 

 

 

 

選抜レースでは集団に囲まれてしまい、持ち前の末脚を活かしきることができず、先頭でゴールに到達することができなかった。それは偏に自身が器用な性格ではないからだということを、キング自身既に自覚していた。自身が一流のウマ娘であるため、あり続けるため、そして親の七光りだと言われないためというキング自身の胸にこびりついた強迫観念と理想が綯い交ぜになった想いが急いてしまい、ペースの乱れや展開を見誤るといった、思うようなレース運びをすることができなかった。

 

 

 

 

―――でも今は違う。

 

 

 

 

前方を進むウマ娘たちの動きをしっかりと観察することができている。

自身のペース配分を乱すことなく、その足を繰り出すことができている。

 

 

 

 

 

 

 

――それは仗助とのトレーニングの成果と言って良いだろう。

 

 

 

 

 

 

彼が私を担当ウマ娘へスカウトした時、今にも押しつぶされそうな自尊心と誇りを懸命に固辞する中で、それを哀れな三文劇を繰り広げるピエロを見るような、突き刺さる視線の中で、彼だけが私の誇りを肯定してくれた。彼だけが一流とは何かという理解と、それを貫く覚悟を見せてくれた。

 

 

 

 

 

―――だからこそ。

 

 

 

 

 

このレース、決して負けることなど許されない。

刹那、キングの眼には前方のウマ娘たちの中で、僅かな隙間が生じたのが映った。ほんの一瞬、スパートを掛けるために、前方に踊りだすための勝利への活路が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

滑り込むように、ジョーモンタナのタッチダウンパスのようにバ群に突っ込むと、キングはバ群を一気に撫で切って先頭に踊りでる。

 

 

 

 

 

「――――キングヘイロー!!!ここで一気に抜け出した!!恐ろしい末脚だ!」

 

 

 

 

―――仗助、ここからよ。私達の旅路は

 

 

 

 

 

ゴール!!!一着はキングヘイロー!!デビュー戦を見事に飾りましたーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイヤモンドのような気高さを宿した、彼女の姿。

栄光を勝ち取った彼女の雄姿を、仗助はしっかりとその目に焼き付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見事レースを1着に収めたキングは、ヒーローインタビューを受ける選手よろしく記者たちの囲み取材を受けていた。仗助はその隣でキングを見守りながら、記者たちに目を配らせていた。

 

 

 

 

「――やはりお母さまにしてこの子あり!という素晴らしいレースでしたね?」

 

 

 

 

ある記者の口から、不躾な質問がキングに投げかけられる。

 

 

 

 

 

――走っているのは彼女の母親なんかじゃあない。まぎれもなく、彼女自身だ。

 

 

 

 

 

 

仗助が注意しようと口を動かすと、それを見たキングは静かに仗助に目配せし、仗助を征しするのだった。

 

 

 

 

「――そうね。だけど私は、いずれ母をも超えて、一流のウマ娘である私の名前を世間に知らしめてみせるわ!貴方たちには、その遥かなる旅路の第一歩の証人となる権利をあげるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

そうキングは質問した記者に応えると、いつものように高笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そうだ、お前はそれでいい…いや、それがいいんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

―――王たる者、民衆の前で不遜に笑い、時には毒酒とわかっていても平然と呷る。それが彼女、キングヘイローというウマ娘が自ら背負った業であり、仗助がその半分を背負うと決めた覚悟なのだ。仗助は手を隣のキングの肩に回すと、差し向けられたマイクの一つをふんだくって口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちのキングはこんなもんじゃあね~からよ~~!よ~く俺達の旅路を目に焼き付けておくんだな~~!」

 

 

 

 

 

 

一流のウマ娘、キングヘイローとそのトレーナーの東方仗助。彼らは英雄となるか、それとも蛮勇となるのか。

 

 

 

 

 

 

大いなる海原に向かって、小さな一歩を二人は歩み出したのだった。

 

 

 

 

 

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