罅割れ世界のプライムパッセンジャー   作:ZenBlack

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epis49 : No Man's Dawn / Story of dream u saw

 

<ジュベ視点>

 

「はあっ……はぁっ……ぁあっ……」

 

 帰りたい。

 

 帰りたい。

 

 あの場所に帰りたい。

 

 お母さんがいて、お父さんがいて、わたしは子供だった。

 

「わ、わたしは悪くない」

 

 帰りたい。

 

 帰りたい。

 

 あの場所へ帰りたい。

 

 だいすきなお母さんがいて、だいすきなお父さんがいて、そこはあたたかくて、おだやかで、しあわせで。

 

「ど、どうしてこんなところに、いるのよっ」

 

 帰りたい。

 

 帰りたい。

 

 お母さんが死んで、お父さんが死んで、わたしを愛してくれる人は誰もいなくなって。

 

 世界はもう、ただひたすらわたしに冷たくて、きびしくて、苛酷(かこく)だった。

 

 

 

『おばさんとおじさんの分も、ジュネが頑張って生きなくちゃ』

 

 わたしが十四の時、王都はモンスターに襲われ、お母さんとお父さんが死んだ。

 

 わたしは、なにもできなかった。

 

 親しき者の死に何もできなかった。しなかった。

 

 自分だけが避難したから。

 

 王都に、いなかったから。

 

 子供だったから。

 

 

 

『ね、ジュネ。これからは私と一緒に、頑張って生きよ?』

 

 でも、それは言い訳にはならない。

 

 だってわたしはお母さんが死ぬことも、お父さんが死ぬことも知っていたから。

 

 だってわたしは、王都がモンスターに襲われることも、知っていたから。

 

 夢で見たから。

 

 王都がモンスターに襲われ、多くの人が死んで……お母さんとお父さんが死んで……英雄レオポルドが現れ、王都を救う……そのことは……そのような流れの出来事については、わたしはその何ヶ月も前に夢で見て……知ってしまっていたのだ。

 

『ジュベは悪くないよ。悪いのは帝国と、おじさんとおばさんを助けてくれなかったレオポルドとかいう英雄モドキでしょ?』

 

 

 

 夢と現実は、微妙にその展開が、その推移が違っていた。

 

 例えば、わたしが夢で見た英雄レオポルドは、王都を救った後、国を救った英雄として祭り上げられる。叙勲されて貴族にもなる。

 

「そうよ……わたしは悪くない、あなたがここにいたから……だから……」

 

 でも、それを血統主義の貴族達から(うと)まれ、(ねた)まれ、数多の貴族達から政治的な(から)()によって攻撃されるようになる。

 

 国を救ったその力は、悪魔と契約し、得たものであると噂され。

 

 むしろレオポルドこそが、悪魔そのものであるとさえ誣告(ぶこく)されていく。

 

 叙勲の際、王様より(たまわ)った領地の経営は、ありとあらゆる妨害にあって失敗する。

 

 そして数年後には、スラム街出身であるというその出自のいやしさを暴かれ、一般市民からの支持も失ってしまった英雄は、失脚して……国を追われることになる。

 

 そうして英雄レオポルドは、ユーマ王国に牙を向けて、滅びる。

 

 王国と西の同盟国との連合軍を、たったひとりで四万人以上の人間を殺すという、まるで現実味のない戦果をあげてから滅びる。

 

 

 

 現実には。

 

 

 

 英雄レオポルドは、王都を救うだけ救って、去っていった。

 

 叙勲もされなかったし、祭り上げられることもなかった。

 

 だからこの現実においては、貴族達の不満は、それだけの強さを持つ人間を、みすみす(のが)してしまった王様へと向けられている。

 

 その上で帝国へ、出兵しようともしない王様は臆病者であると、弱腰であると、敗北主義者であると、口角泡(こうかくあわ)()ばしている。

 

 ……おそらく、その中にこそ、モンスターを王都へと呼び込んだ一派が紛れ込んでいるのだろうけど。

 

 夢の中においては、英雄レオポルドを全面的に支持し、バックアップをして、彼と共に凋落(ちょうらく)していくロレーヌ商会も、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの商会となっている。

 

「どうして……なんで……なんでこんなところに()がいるのよ!?」

 

 わたしの「予知夢」は、そんな風に「正確ではない」。

 

 それは自分に、この力があると気付いた七歳か八歳の頃、すぐに気付いたことだった。

 

「殺しちゃったじゃない!? 思わず魔法で、()()()()()()()じゃない!」

 

 だから、王都がモンスターに襲われる夢を見たその時は、それは、自分史上最大に「不正確な」夢なのだと思った。そんなことが起こるとは信じられなかった。そして同じように、誰も信じてくれないと思ったから誰にも話さなかった。二個下の、だけど当時から一番仲が良かった幼馴染のノアにさえも。

 

「死んでる……死んでいるよね?……こんな真っ黒に焦げて……わたしの火炎魔法、こんなに強くはなかったはずなのに……でも、こんな状態でまだ生きている方が……かわいそう……だから……弔いは海へ……それでいい……よね?」

 

 

 

 でも、「正確ではない」夢は……英雄レオポルドの動向であるとか……どうでもいい部分だけが「不正確」で。

 

 実現してほしくない部分だけが「正確」で。

 

 

 

 残酷なまでに「正確に」、お母さんとお父さんは死んでしまって。

 

 

 

 そうしてわたしは孤独になって。

 

 

 

 なにもかもを失った。

 

 あたたかかった過去も。

 

 未来を夢見るという無邪気も。

 

 

 

 幼いわたしが愛していたはずの世界は、もうどこにもない。

 

 

 

「とにかく、この死体を海へ……」

 

 そうして、目の前には、また死体。

 

 とうに生きる気力を失ったこの(むくろ)は、だけどどうしてか自分以外の(むくろ)を生み出す、軍人なんて仕事をしている。

 

 あらゆることから、現実感(リアリティ)が喪失している。

 

 自分が生きているという実感がない。

 

 ただ悪夢の海に、苦しみの波に溺れている自分がいる。

 

 ノアの「求め」にも溺れ、沈んでいる自分がいる。

 

 今も……だからわたしは……何をしていたんだっけ?

 

 わたしは今、船に乗っている。それは、周囲を見れば一目瞭然で。

 

 足元には船の甲板があって、それ以外は空と海しかなくて。

 

 薄暗い空は、水平線に近い部分がピンク色に染まり、夜明けが近いことを教えてくれている。海面は、凪いでいて穏やかだ。

 

 時折吹く風に、マストがぎぃ……と揺れ、船全体も揺れる。そのたびに足元が覚束無(おぼつかな)いわたしは、よろけてしまい、よりいっそうの気持ち悪さに襲われる。

 

 わたしはそう……ドヤッセ商会が所有する貿易船、そこへ、処分対象者を追って潜入していた……そのはずで……そう、だったはずで。

 

 ……どうしてここに、処分対象者がいるって、わかったんだっけ?

 

 思い出せない。

 

 思い出そうとすると、蘇ってくるのは、幼い頃の、現状とはまるで関係のない、わたしが幸せだった頃の記憶だけだ。

 

 わたしの全てはそこにある。

 

 今という現実は、ずっと悪い夢を見ているかのよう。

 

 ただ、誰かに言われるがままに、命じられたことを、強要されたことを、怯えながらこなしている。

 

 

 

 起きていても、眠っていても、わたしはずっと悪夢を見続けている。

 

 

 

 だから。

 

 

 

 もうこれが現実のことなのか、それとも覚めぬ悪夢を見続けているのか、わからなくて。

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 唐突に現れた、その姿を視界に納めても、わたしの世界はただ酩酊感を増すばかりだった。

 

 

 

「私の、ヴォルヴァにも似た力を持つお方が、こんなところにいらしたとは……」

 

 

 

 目の前に、鮮やかな薔薇色のローブをまとう、とびっきりの美少女が佇んでいる。

 

 年の頃は……ノアと同じくらいに見える……なら十五か六くらいだろうか?

 

 ありえないほどに整った顔の造りと、ありえないほどに現実離れした「可愛らしい」雰囲気。

 

「えっ……だ、だれ?」

 

 

 

 それは唐突に現れ、しゃがみ込んで。

 

 焼け焦げた大きな犬の死体を、慈しむかのように撫でるその姿は、神か天使か、悪魔かを描いた一枚の絵画のようで、違和感がない代わりに現実味も無かった。

 

「な、な、な、なに? あなたはなんなの!?……きゃっ!?」

 

 だから、降って湧いたかのようなその登場には何の驚きも無かったが、わたしはそのあまりの美貌と可愛らしさに心底驚いてしまい、心ならず三歩、四歩と後ずさりをしてしまい、そのまま尻餅をついてしまった。

 

「うぅ……」

 

 薄明の中、少女の、宝石のような白金の瞳がこちらへと向き、キラリと輝く。

 

「大丈夫ですか?……落ち着いてください、ジュベミューワ様。これは、現実ではありません。ジュベミューワ様はこの船に乗っていませんし、マイラも、この時間軸においてはまだ、死んでいません」

 

「え……」

 

 少女が立ち上がり、こちらへ向かってくる。

 

 朝焼けの、ピンク色に染まり始めた世界に、少女の白銀の髪と、薔薇色のローブが揺れている。その存在感はもう、魔性……というか……神性を帯びているとさえいえる何かだ。

 

「私が、ジュベミューワ様の機構不正使用(システムクラッキング)魔法(マジック)を、逆探知によってハッキングさせていただきました。現在、ジュベミューワ様の魂は私の魔法(ヴォルヴァ)可動子指機構(dactylシステム)とし、幽河鉄道(ゆうがてつどう)不動母指機構(pollexシステム)として固定され、安定しています。十年ほど前より、ジュベミューワ様の知覚世界は、幽河鉄道(ゆうがてつどう)システム不正使用(クラッキング)によって、幽河鉄道(ゆうがてつどう)へ不完全な形で接続されていたようです」

 

「何を言って……いるの?」

 

「別の世界線の光景が見えたのは、そのせいです」

 

「何を言っているのよぉ!?」

 

 もう、世界のありとあらゆる要素に現実味が無くて。

 

 理解をわたしの脳が拒む。

 

「この不具合は、私の不徳の致すところ、私がマイラを通じて千速継笑様、いいえ、ラナンキュロア様を観測していたがゆえに発生したもの。ジュベミューワ様の機構不正使用(システムクラッキング)魔法(マジック)は、三次元空間の座標において近くにある、一定以上に複雑なエピスを、自動的に手繰(たぐ)りよせてしまうようですね。座標がズレたままであれば、そのまま放置してもよかったのですが……ジュベミューワ様がラナンキュロア様に接近したことで、どうやらこれが修正されてしまったようです」

 

 少女が、その輝ける白金の瞳をわたしに向け、手を伸ばす。

 

 その手を取り、立ち上がれとでも言うかのように。

 

「あ……」

「こちらは、とびっきり魔素(マナ)の濃い星のようですね」

 

 おもわず、魅せられる。

 

 なんて、可愛らしい雰囲気の少女なのだろうか。

 

 なんて、キレイな物腰の少女なのだろうか。

 

 それはもう、それがそこにあるというだけで強力な強制力を放つ、暴力的なまでの美貌だった。

 

「驚きました。準空子(クアジケノン)空子(ケノン)と共に層を作り、人工ではない流体断層(ポタモクレヴァス)が、そこかしこに空いています」

 

 わたしなんかとは、足の爪から頭のてっぺんまで、なにからなにまでもが違う。

 

準空子(クアジケノン)とは、“絶対時間軸”と“相対時間軸”とを、科学が分けてよりの魔法構造学において重要となった概念です。テーブルのリンゴを()けても、過去、そのテーブルの上にリンゴがあったという事実は残る。つまり、時空間を超克(ちょうこく)した観測者から“相対的に”見れば、その(ゼロ)(ゼロ)ではないのです。知性ある存在が、過去を(ゼロ)とすることができないのと、同じように」

 

 吸っている空気そのものが違うのではないかとさえ、思うくらいだ。

 

「あり得た……しかし無かった世界を記憶に持つジュベミューワ様は、その意味において準空子(クアジケノン)の世界に侵食されてしまった……そうとさえ()えるのかもしれません」

 

 こんなもの、夢でさえ、わたしと関係があるはずもない。

 

流体断層(ポタモクレヴァス)に、堕ちたとも」

 

 美貌に、捕まれたままの心が冷えていく。

 

流体断層(ポタモクレヴァス)とはつまり、次元に開いた穴。科学的にいえば三次元的な存在が高次元に干渉するためのワームホール。伝統的な一類のそれではなく、魔法学がコペルニクス的転回を迎えてより以降の二類魔法構造学に従うのならば、その有害性を考慮してのヴァーミンホール。もしくは……その提唱者は虹色の色覚、視神経に七系統(ななけいとう)錐状体(すいじょうたい)を持っていたとされる“人体の観測()拡張計画”、その推進派、五感を魔法的に十一感にまで拡張することで世界の完全観測が叶うと唱えたイデア派、ナオ様も属していたその団体の仮説に順ずるのであれば、その体液、あるいはその(ほむら)によって世界を黄昏色(ラグナロクカラー)に染めるバーミリオンバグ。つまりは世界のウツロ……ホコロビです。この星は、まるであちこちにウロの空いた大樹のよう」

 

 意味が全く理解できない、しかし愛らしいその声は……幻だ。

 

 彼女は別の世界の人間……いや別の世界の存在だ。

 

「ですが、このように不安定な惑星だからこそ、数百人にひとりが魔法使いとなれるのでしょうね……ナオ様の前世、千速継笑様の惑星においては、人間の魔法使いが発生する確率は、壱兆(いっちょう)分のいち程度だったようです。天と地ほどの差が、そこにはありますね」

 

 わたしは、わたしの醜い世界を思い出す。

 

 醜いわたしを、見放して(かえり)みない世界を思い出す。

 

 愚鈍(ぐどん)なわたしを(うと)み、迫害するその冷たさと厳しさを思い出す。

 

『ね、ジュベ……いいでしょ?……愛しているの』

 

 身体を這い、撫でる、ノアの無骨で無遠慮なその手を思い出す。

 

 ノアは嫌いではない。嫌いではないけど、わたしは彼女を可愛いとも、美しいとも思ったことはない。友人だとは思っているけれども、それ以上を求められるのは……正直憂鬱(ゆううつ)だ。

 

『や、ゃだ……ノア……ゃ……』

『私達はもう……ふたりっきりなの……だから……ね?』

 

 だけどもう、わたしを気にかけてくれるのは彼女しかいなくて。

 

 ならば憂鬱なだけの「求め」も、ある程度は応えなければならなくて。

 

『わたし達……あっ……幼馴染の……んっ……友達のままじゃ……ダメなの?』

 

 ノアのそれが「愛」と呼べるものならば。

 

『……ダメだよ』『ぇ……ぁ……ゃぁぁぁ!……』

 

 わたしにとって、世界はもうその(すべ)てが。

 

『そんな繋がりは、すぐに壊れちゃうから』

 

 愛までもが、憂鬱なものだった。

 

「このような世界で幽河鉄道(ゆうがてつどう)に触れてしまった結果、どうやらそれによってエピスデブリが生まれるほどの混乱と混沌を、ジュベ様は得てしまったようです。これは意図せぬこととはいえ、私の観測それ自体が原因のひとつ。ジュベ様には、これをお詫び申し上げたいと思います」

 

 それがわたしの世界。

 

 わたしが溺れていた世界。

 

 だから。

 

「わたしに触らないで!!」

 

 こんな少女が、わたしの味方であるはずもない。

 

「わたしに近寄らないで!!」

「ジュベミューワ様……」

 

 そう思うと、一瞬で全てが繋がったような気がした。

 

 ああ、だからわたしは。

 

「どっか行って! いなくなって!」

 

 要するにわたしは、()()されているのだ。

 

「ジュベミューワ、様……」

 

 ここは夢の中と、白銀の、白金の少女は言った。

 

 それはそうだろう、現実の世界に、ここまで容姿の整った可愛らしい、キレイな美少女なんて、いるわけがない。

 

 もしかしたら、どこかにはいるのかもしれないが、わたしが関われる範囲にはいないのだ。

 

 わたしの世界には、あるはずもないことなのだ。

 

 目の前の少女は幻で、だからこんなにも可愛らしく、美しい。

 

 彼女は美麗なる幻で……つまり敵。

 

 排除すべき、敵なのだ。

 

「ジュベミューワ様、このままで事態が推移すると、ジュベミューワ様は程なく落命されることとなります」

 

 ほらやっぱり。

 

「マイラを殺し、その亡骸を海に捨て、その現場をレオ様に目撃されて、斬り捨てられることとなります。私はマイラにも、ジュベミューワ様にも死んでほしくありません。そのために私は、このローブの力を借りてまで、ここに(あらわ)れたのです」

 

 見せびらかすように、荘厳な薔薇色のローブを見せつける偽りの美少女に、わたしは思う。

 

「わたしに関わらないで! わたしに触れないで! わたしに醜い現実を見せないで!」

「ジュベミューワ様……どうか私の話を聞いてください……そうでなければ、大変なことになってしまいます」

 

 わたしの味方なら、お母さんやお父さんのようにわたしだけの味方ならば、こんなことは言わない。

 

「全部全部消えて!」

 

 わたしの世界に、もうわたしだけの味方なんていないから。

 

「みんなみんな死んじゃって!!」

 

 だからもう、この世界は敵だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ラナ視点>

 

「こちらが言われたとぉ~り~準備したぁ、船乗りじゃなくてぇも、なるだけ快適に過ごせるよぉに造った部屋だょ~」

 

 船には、何事も無く乗り込むことができた。

 

「ありがと。では出港は、明日の明け方に?」

「これからじゃ、す~ぐ夕方になっちまぅ。出航すること自体は無理じゃぁ、ないんですがぁ~、出港する船が少ない時間帯に出航すっとぉ~、目立つんでぇ。あたしゃ嬢ちゃん達の事情は知らねぇし、知りたくもねぇがぁ~、ワケ有りなら目立たない方がいいんじゃぁ、にゃいですかぁ?」

 

 この船は、コールタールを塗っているようで、外観が真っ黒だ。大きさとしては全長が四十メートルほどでマストは五本。乗組員は私達を入れて四十人ほどなのだとか。商売上、何度も見た船ではあるが、中へ乗り込んだのはこれが初めてだった。

 

 案内された部屋……船室は、夢の世界の単位でいえば十畳(じゅうじょう)ほどの広さだった。

 

 船室としてはそれなりの広さだが、大きな樽(高さが私の胸元くらいまである)が壁際に六つ並んでいるのと、出入り口付近にはキャビネットやらチェストやらが多いのと、奥にはテーブルやダブルサイズのベッドが置かれているのもあって、居住空間的な意味での広さはあまり感じられなかった。

 

「それもそうね……その割には、この部屋、窓が多いみたいだけど」

「初めてだと、しばらくは食っても戻しちまうんでぇ~。ま、換気の問題ってヤツでぇ」

「うぇ……」

 

 ちなみに、コールタールも東の帝国からの輸入品だ。コールタールがあるということは、その原料であるはずのコークス、石炭を工業的に扱う技術が、東の帝国にはあるのかもしれない。もしかしたら蒸気船とかもあるのかもしれない。けど王国に、そうした技術がもたらされている様子はない。コークスの輸入はないし、石炭を使う文化もない。燃焼石(ねんしょうせき)があるから不要とも言えるが、燃焼石からでは、コールタールなどは生み出せないこともまた確かだ。

 

 その辺は、帝国が外へ流出しないよう、しかと握っている技術なのかもしれない。

 

「吐く時は窓から海へお願いするっす~」

「……了解」

 

 ま、コールタールは強い発癌性(はつがんせい)を持つ危険物でもあるから、人権意識のないこの世界で下手に製造が始まると、間違いなく悲惨なことが起きる。その意味においては、それを帝国が握ったままであるというのも「一般市民の日常生活においては」けして悪いことでもないのだろう。

 

「船酔い、か……最初の内は地獄だっていうけど……」

「馴れっすよ馴れぇ~。着く頃には陸にいる方が不思議な感覚になるもんでさぁ」

「そういう、ものですか」

「う~ん……なんでだろう……レオが船酔いしているところが、全く想像できない」

 

 この辺、なんていうか……ヒーロリヒカ鋼もそうだけど……「名目上は南の大陸との取引であるからセーフ」なんて情けないコト言う前に、王国と帝国の技術格差について、もっと真剣に考えた方がいいんじゃないかなぁって思わなくもない。

 

 ここ一、二年、王国の多くの貴族達が、帝国への遠征を強く主張している。

 

 やられっぱなしでいるとは情けない、正義は我らにあるのだから神もこれに味方してくれるであろう、敗北などあるわけがない、これに反対するは王国の力をも疑う敗北主義者どもである、云々。

 

 たぶん、この主張をしている貴族の何割かは、三年前に王都へモンスターを呼び込んだ裏切り者達だ。つまり、帝国は王国へ遠征軍を出して欲しいんだと思う。帝国にはモンスターを手懐ける技術なり魔法なりがある。三年前は、しかしそれを使った大規模な侵略も防がれてしまった……では、ならば遠征軍を出し、手薄となった王都であればどうか?

 

 森の大迷宮(ダンジョン)が切り拓けない以上、帝国へは海路を進むしかない。個人でさえ通常一年はかかる距離だ、軍隊ならもっとかかるはず。それは行きも()()もそうであるはずだから、王都がまた襲撃されたからといって、帝国へ向かわせていた軍隊をすぐに戻すことなどできない。

 

 そこを狙い撃ちされたら、今度こそ王都は落ちてしまうかも知れない。

 

 ただ……こんなのは当然、王様だってわかっていることだろう。

 

 だからこそ遠征軍は、いまだ編成すらされていないのだから。

 

 正常な判断ができる中枢のようでなによりだけど……でも、それならばやるべきは、英雄レオポルドの捜索などではなく、スパイの炙り出しと、あらゆる方面における技術開発だったと思う。

 

 技術こそが世界を変えていくのだから。

 

 蒸気機関が、電気が、モーターが、インターネットが、世界を変えてきたように。

 

 技術こそが世界を変える。だからこそ技術は絶えず研究をし、開発していくべきなのだし、それを横から盗んでいくようなスパイの存在を許してはならない。

 

 ましてや戦争ともなれば、この原則はより強固、あるいは凶悪なものとなる。

 

 帝国はおそらく、やろうと思えば、モンスターを手懐ける技術なり魔法なりを使って森の大迷宮(ダンジョン)を抜けることができるのだろう。そうでなければ、こちらへ領土的野心を見せる意味がよくわからない。飛び地の統治が困難であるのは、国家運営における常識中の常識だ。

 

 それをやっていないのは、大迷宮(ダンジョン)に大軍が通れるほどの道を拓いてしまうと、西の同盟国と手を結んだ時の王国が、それなりに強力だからなのではないだろうか。侵略は、それより先にこれを(くじ)く必要がある……たぶんそういうことなのだろう。

 

 ならば王国も、モンスターを手懐ける技術なり魔法なりの研究を急ぐべきだった。大迷宮(ダンジョン)を抜ける技術を開発すべきだった。

 

 技術を軽視するというのは、自分に首輪をして、その手綱を敵国に譲り渡すかのようなものだ。

 

 現状、新たなる展開も、終わりも見えぬこの戦争において、王国は帝国と同じ土俵にすら立っていない。

 

「あ~、技術開発って話なら、酔い止めとかも、創っておけばよかったな~。ま、そんな知識は持ってないけどね~」

「あ、飴ちゃん舐めるっすか?」

 

 裏切り者こそが聖戦を(うた)う。

 

 追従するは、彼我(ひが)の足元すらも見ようとしない者達。

 

 見え見えの落とし穴を前に、進まぬ者は臆病者であると嘲笑って煽る。

 

 進まぬ者は去れ、王であるなら玉座より去れ、貴人であるならば失脚せよ、被支配民であるならば、せめて最前線にて()()けと舌鋒(ぜっぽう)鋭くして気炎(きえん)()く。

 

 なんとも、人類史の愚かさを凝縮したかような、莫迦莫迦(バカバカ)しい話だった。

 

「大丈夫、飴ならロレーヌ商会謹製のを準備してもらってるから」

「あー、ロレーヌ商会のは味がいいっすよねぇ~。あたしゃぁ、チョコレートは腹を下しちまうんでぇ、好きじゃねぇんですがぁ~、飴ちゃんはグッドだと思いますぅ~。高いけどぉ」

「あっ、はい……ぃゃだって飴は昔からあるモノだから、高品質化するくらいしか、差別化の目がなかったから……」

「そんなのにも手を出していたんだ、ラナ」

 

 ま、こんなのはもう……私には全部、関係のないことだけれどもね。

 

 今はもう、ここより始まる、虹色の船酔い生活が憂鬱なだけだ。

 

 はぁ……。

 

「まぁ~慣れてくっとぉ、その(にお)いすらも、どぉってぇ~ことにゃくなるんですがぁ~。不要なら舷窓蓋(げんそうぶた)を下げたままにしておいてくだせぇや。どっちにしぃろ明日、沖に出るまでは下げといてもらわにゃ困りますがぁ~ね」

「明日からは、船の中を歩いても?」

「明日の昼頃までにゃあ~、船員全員に話つけとくんで、それからなら構いませんぜぇ~」

「そう。それにしても……船は女人禁制のところも多いって聞いていたけど、そうでもないのね」

 

 私は、猫耳をぴこんぴこんさせているボサ髪の少女へ、そう言う。

 

 それは随分と眠そうな目をした、出会った頃のレオ並に背が低い、だけどしなやかな筋肉が全身についた女の子だった。猫人族(ねこじんぞく)は、ボユの港ではたまに見る。でも、この船の乗組員にいたとは知らなかった。

 

 事前に、私達への応対役はできれば女性をと、それなりに切実なオーダーを出していたのは私だが、それへの(こた)えがこの猫人族のようだった。

 

「ユーマ王国にとっちゃあ~、西の同盟国ですかぁ~ね? そっちだとそぉ~ゆぅ~のぉも、あるみたいなんですがぁ~。あたしゃ南の大陸の生まれなんでぇ」

 

 確かに、タンクトップのような上着に、短いオーバーオールというかサロペットというか、そういうものを着込んだその身体は、南の大陸の出身らしく色々な意味で慎ましい。筋肉がついていてさえ、手足は棒のような細さだった。

 

 全体としては……なんていうか、野良猫みたいな女の子だ。

 

 元は銀髪だったのであろう髪も、そのあまりのボサボサぶりに、そのあまりのモワモワぶりに、なんだかもう、キジトラの模様みたいに見えてしまう。

 

「かぁーちゃんは東の帝国生まれみたいなんですがぁ~、なんか色々あって南の大陸へ逃れて、とぉ~ちゃんと結ばれたみたいなんでさぁ。南の大陸では、働くんにぃ、男とか女とかあんま関係ないんでぇ~」

「南の大陸では、そうなのね」

「あたしらみたいなんはぁ~、メスの方が強かったりもしますんでぇ」

「そ、そうなんだ」

 

 うーん……猫は、カマキリとかチョウチンアンコウとかとは違って、喧嘩はオスの方が強い生き物だった気がするけど……ま、サルと人間が違うように、猫と猫人族も違う生き物なのだろう。知らないけど。

 

「ま、そんなわけで今日はぁ、この部屋で大人しくしててくだせぇ~。何かありましたら、声をかけてもらえればぁ~」

 

 ……などと、そんな、どうでもいいことを考えていたら、キジトラっぽい女の子は「あたしにも色々仕事があるんでぇ~」とのことで、そそくさと私達に背を向けてしまった。

 

「あっ、はい」

 

 その、つれない様子まで、猫みたいだなって思った。

 

 ……最後の一言を聞くまでは。

 

「そんじゃごゆっくり~。あ~、そこのベッドでまぐわってもぉ~、問題はないでぇすがぁ~、真水が貴重な分、洗濯が大変なぁんで~、そこだけ注意してもらえればぁ~」

「……はい?」

「子孫繁栄は陸でお願いするっす~」

「……」

 

 

 

 ……うるさいよ、こんニャろう。

 

 

 

 

 

 

 

「……余計なお世話っす~」

「ラナ、相手がいなくなってから物真似で答えるって、僕でもどうかと思うよ?」

「真水が貴重なら、あの子こそ出港の前に一度お風呂入って欲しいなぁ……」

 

 正直、キジトラな少女からは、結構な(にお)いが感じられた。といっても、私が男性に感じる(にお)いとは、また全然別のものだ。詳細は……まぁ……さすがに本人の名誉のため省くけど……随分長いことお風呂に入っていないんだろうなぁ、って(にお)いだった。猫が風呂嫌いであるというのは有名な話だけど、猫人族もそこだけは同じなのだろうか。

 

「……いやでも、猫は猫でキレイ好きだったような……どうなんだ? ホント」

「さぁ?」

 

 もっとも、真水が貴重な船の上では、入浴に無頓着でいられる方が強いのかもしれない。

 

 その意味で言えば、私はその真逆(まぎゃく)の人間だ。わかっていたことだが、これからしばらくは入浴もできない。憂鬱だ……。

 

「ラナはホント、お風呂が好きだよね。でも、郷に入っては郷に従え……だっけ? ここでは船乗りの流儀に従うしかないんじゃない?」

「そうかもしれないけど……でも大丈夫かな、マイラがまた吠えちゃうんじゃ……って、あれ?」

「ん?」

「マイラは?」

 

 そういえばあの巨体がいない。ここで待っているかと思ったのに。

 

「む?」

 

 マイラのことは、ラナが知ってるんじゃないの? って、レオの目が言っている。

 

「え、と」

 

 ごめん、知らない。昨日、私はこの船の乗組員にマイラのリードを渡した。さっきの猫人族の子ではない。でも、その男性はここ一年くらい、商取引上の都合で何度もお店に来ていた。顔見知りだったし、だからこそそこで間違いが起きたはずもない。

 

 でも、そういえばその扱いについては、ちゃんと指定してなかった気もする。手間賃を渡し、ちゃんとご飯をあげてくださいね、くらいは言った……かな?

 

 てっきり私達の部屋で待っているかと思っていたが……よくよく考えてみれば大型犬は、そもそも飼い主と同じ部屋で飼うという概念が薄い……そういえば、一応は番犬であるとも言ってなかった気がする。

 

 下手したら、船倉にでも押し込められた?

 

「あー、もー、こういうのがあるから、すぐいなくなっちゃうのは困るのにぃ~」

「どうする? さっきの子、呼んでくる?」

「あー……ううん、待って」

 

 ここ数日間は、他に考えることが多かったから、マイラのことがおろそかになっていた。

 

「うん?」

 

 思えば私は、マイラのことは「レオの領分」と考えていた部分がある。

 

「ちょっと船上生活を甘く見ていた。虹色なアレでさえも窓からしなきゃならないって……じゃあマイラのアレとかソレとかの諸々はどうすればいいの? 人間が船上で快適に過ごすための準備は……飴ちゃんとかもそうだけど……それなりに整えたつもりだったけど、そういえば犬用のソレについては、な~んにも相談してなかったって、今気付いた。エサとかについての話はしてあったけど」

「あ~」

 

 けど、今回の場合、金銭の問題であるとか、居住空間の問題であるとか、そういった方向からもマイラのことを考えなければいけなかった。私とレオとの関係性において、それは商人の娘である私の領分だ。

 

 レオがやってくれるだろうと、ぞんざいにしてはいけない領域だった。

 

「出港まではあと十時間くらい? 必要なものがあるなら、船が港へ停留している間に準備してもらわないといけないから……レオだけじゃ、お金の話とかで面倒になるかもしれないでしょ? だから私も行く」

「そうだね、一緒に行こう」

 

 

 

 ……思えば。

 

 

 

 ……私はこの時、色々と気が抜けていたのかもしれない。

 

 

 

 私にとって、この世で一番大切なのはレオ。

 

 私とレオが平穏に、幸せに暮らすことがもっとも重要で。

 

 でも、何事もなく船に乗り込み、レオとふたりっきりになって。

 

 私は、少しだけ安心してしまったのだろう。

 

 だからこそ、マイラのこともちゃんと考えなければと思い至ったのだし、それはつまり、私が「レオ以外」へ目を向ける余裕を、(ようや)く取り戻していたということでもあったのだろう。

 

 

 

『それには及びません』

 

 

 

「ん?」「あれ?」

 

 

 

 だから唐突に聞こえたその声は、最初なにかの気のせいかとも思った。

 

 気が抜けたところに、少しだけ入り込んだ幻であると。

 

 けど、レオの様子を見るに、声が聞こえたのは自分だけではないようだった。

 

 

 

「ラナ、今何か言った?」

「んー……私の声は、もっとトゲのある感じなんじゃない?……誰かいるの?」

 

 後で考えれば、ふたりしてこの気の抜けた反応は、やはりおかしいものであるとも思えた。

 

 私達は逃亡者であったはずで、ならば唐突に聞こえた未知の声には、もう少し警戒が先に立って、(しか)るべきだったのだから。

 

「そんなことはないけど……まぁ確かに、ラナよりも優しい感じのする声だったね……っつぅ……なんで背中を(はた)くのさ」

「知らないっ」

 

 

 

『こちらです、センゾクツグ……ラナンキュロア様』

 

 

 

 けど、だからといって破滅的なことは何も起きず、その声は再び聞こえてきた。

 

 優しい、だからそれに対してはなかなか警戒もできないような、それどころかどこか心がホッとするような、暖かな気持ちになるような、そんな柔らかな声だった。

 

 

 

「……また聞こえた。しかも名前を呼ばれた。ねぇ誰なの? どこに隠れているの?」

「……ええっ!?」

「ん? レオ……どうし……ほへ!?」

 

 十畳くらいの面積に、様々なものが置かれた船室。

 

 だからそこには、(かげ)となるスペースがいくつかある。

 

 出入り口付近にはキャビネットの陰。

 

 ベッドの(そば)にはその陰。

 

 壁際に林立する樽の間にも、子猫くらいなら隠れられそうだ。

 

「え? え? え?」

 

 そうした「物陰」のひとつ、いくつかある丸窓のひとつ、その手前に置かれた机、その脇の、丸めたテーブルクロスのようなものを差してある木箱、その陰に。

 

 

 

「な、な、な、な、な」

『ラナンキュロア様の体感的には、十六年ぶり……でしょうか』

「ラ、ラナ! 僕の後ろに!!」

 

 

 

 私が、かつて夢で見た、マイラよりはふた周りほど小さいけれど、それでも大きな、白い犬。

 

 銀色にも、薄い金色にも見える艶やかな毛並み、それが今は、何の比喩でもなくぼんやりと輝き、光っている。

 

 

 

「毛並みが光って、人語を喋る犬なんて……そんなモンスター、いるの? ラナ。……それともあれは犬人族(いぬじんぞく)の亜種か何か?」

 

 

 

 その姿と、今のこの光景の非現実感とがカチッっと()まり()んで。

 

 

 

「違う……あれは……」

「……ラナ?」

 

 

 

 脳内で、なにかがガッチリと繋がった感覚があった。

 

 この世界に生まれてから、この世界でずっと生きてきた私。

 

 夢の世界の、推定前世でひどい死に方をしたあたし。

 

 

 

 そのふたつの、架け橋(ブリッジ)となった「犬の夢」「鉄道機関車の夢」。

 

 

 

 しばらく前から、妙に色々と、前世のことを思い出せるようになっていた。

 

 レオと出会うまでは、ぼんやりとしたイメージでしか覚えていなかった夢の世界。

 

 レオと出会ってからは、色々なことが思い出せるようになった。

 

 今となっては、どうしてそれを不思議とも思っていなかったのかも、わからない。

 

 ただぼんやり、脳内のなにかしらの回路が開いたのかなと思っていた気がする。恋をしたから、思春期以降の思い出が蘇ったのかなとも。

 

 

 

 でも、そうであっても、思い出せなかったことがひとつある。

 

 なにか、作為的とも思えるほどに、霞がかって見えていなかったもの。

 

 

 

 この犬の正体。

 

 

 

 時を渡る幽河鉄道(ゆうがてつどう)()()()()()

 

 

 

 その真の主である()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 それゆえに、()()()の魂に新たなる一類のエピスデブリ、「自分は犬畜生にも劣る妹」を与え、あたしという人間をより破滅的にさせた張本人……もとい、張本犬(ちょうほんけん?)

 

 

 

 私に罅割れ世界の統括者(フィヨルクンニヴ)を授けた魔法犬(まほうけん)

 

 

 

 幼少期に得てしまった一類のエピスデブリ「世界に愛されなかった者を愛したい」によって、真っ当な人の愛し方を忘れてしまった前世の()()()が……それはもう激しく嫉妬した、その対象、その相手、憎悪というベクトルが向かうその先。

 

 

 

 それは……。

 

 

 

 嗚呼、それは……。

 

 

 

「ラナンキュロア様……申し訳ありません、私、ジュベミューワ様を……ジュベ様を、壊してしまいました」

 

 

 

 忌々しいほどに、狂おしいほど愛らしい姿をした……凶悪な犬畜生だった。

 

 

 

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