罅割れ世界のプライムパッセンジャー   作:ZenBlack

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epis06 : Re:Memento

 

『良ければ、もう少し落ち着ける場所で話しませんか?』

 

 そう、提案され、その時点で自分の内面がボロボロであることを自覚していた私は、嫌もなく、(今回?)目覚めた場所である寝台車の車両から、高級そうな数々の調度品が並ぶ食堂車へ、話し合いの場を移した。

 

 そこはやはり古めかしい、アンティークの家具がロマネスクの香り放つ空間だったけれど、ひとつだけ、現実ではありえないような特徴があった。

 

 最初に断っておく、私は映画好きだ。

 

 テレビやサブスクの小さな画面で見るより、ちゃんとした映画館で()たい性質(たち)なので、高校生の身分では数こそまだあまり観てはいない。でも、お小遣いにおけるシネマ係数(そんな言葉はないけど)はかなり高い方だ。キャラメルポップコーン、ホットドッグにドリンクを含まないでそれだ。パンフレットは許して。

 

 ただ、これにも例外が少しあって、ハ●ー・ポ●ターやピ●サーの何作品かは、小学校低学年の頃にテレビで見てしまった。昔のこと過ぎて、ストーリーはほぼほぼ忘れてしまったものの、一部のシーンやカットについては、妙に頭へ焼きついているものがある。例えば、幼いあたしにはなんだか恐ろしく思えたウ●ディの顔とか動きとか。

 

 そんなわけで、この食堂車に入り、その現実ではありえないような特徴を見て、まず思い出したのは、ハ●ー・ポ●ターだった。より具体的に言うならその日刊●言者新聞であるとか、そこかしこに掛けられた肖像画などだった。

 

 つまり。

 

 動いてるのだ、壁にかけられた額縁の中で、映像が。

 

 それは大体がファンタジー映画の映像のようで、魔法らしき七色の光のエフェクトをまとう黒髪の少女が映っていたり、なにかのパーティの映像だろうか? アカデミー衣裳デザイン賞でも取れそうな豪華絢爛のドレスの群れが、広い空間で惜しげもなく群舞を踊っていたり、金髪で耳の長い……エルフと思しき少女が地下室のような暗い場所で、ぼーっと(くう)を眺めていたりもした。

 

 そんなものが、列車一両分の空間に、二十から三十、ずらっと並んでいる。

 

 へぇ……と映画好きは少し感動。額縁にモニターが埋まっている風でもなく、それがどういう技術で実現しているものなのかはさっぱりわからないけれど、なにせここは空を飛ぶ列車の中だ。そういうこともあろうかと納得する。

 

「で?」

 

 感心しながら、白いテーブルクロスが引かれた、マホガニーらしき光沢のあるテーブルの、備え付けらしき椅子……というかボックス席っぽい形状の座席……に、勧められるまま腰を下ろす。

 

「はい。なんでしょうか?」

「……ん?」

 

 ところが、私をここまで案内(まぁ一本道だったけど)してきた真っ白な美少女は、どういうわけか、すぐには対面に座ろうせず、テーブルの脇に突っ立ったままだった。

 

 しょうがないので、「私が落ち着かないから座ってよ」と促すと、美少女は、「はい。それでは」と……何故だか対面ではなく、私の横に座ろうとしてきた。

 

「おぃぃぃ!?」

 

 慌てて「違う違う! そっちそっち!」と押し退け、無理矢理対面に座らせる。

 

「……申し訳ございません」

 

 やっぱりこの子(女神様?)、なんかこう……距離感がおかしい人(天使?)なんじゃないだろうか? それについては私が言うなって話でもあるんだけど。

 

「失礼しました」

 

 品の良い仕草で、ようやっと白い少女は私の体面に座ってくれた。あれだけ品良く、ふんわりと座ったのであれば、ロングスカートの白いフリルにも変な皺はよらないだろう……どうしてあたしがそんな心配をしなくちゃいけないのかはわからないけど。

 

「いいけど……私達、そういう距離感を許すような仲だったの?」

「いえ、ちょっとした昔のクセのようなモノです」

 

 対面から、深々と白銀の頭を下げる美少女へ、まぁ……あまり気にしててもしょうがないと気を取り直し、話を再開することにした。

 

 視界の端、テーブルの窓側には、多肉植物っぽい葉っぱと、小さなベルのような、ピンクがかった黄色い花をつけている植物の鉢が飾ってあった。あれは……えっと……エンゼルランプ……だっけ? 花にはそこまで詳しくはないけど、見た目がまんまだったので、なんとなく覚えている名前だった。

 

「で……死を、それ自体を、無かったことにしませんか?……だっけ? そんなことができるの?」

「時を戻せば」

「時を戻すとどうなるの?」

 

 だがその答えは決まっている。

 

 そう、決まっているはずだ。

 

 その答えが、納得のいく何かであるのならば。

 

 私は今、ここにこうしていない。

 

 何回も何回も、若くして死ぬという悲劇を繰り返してはいないだろう。

 

「正確な表現ではありませんが、千速(せんぞく)継笑(つぐみ)様は生き返ります」

「ふむ」

 

 とりあえず。

 

 まぁ……ボックス席に対面で座るという距離感は、まぁまぁいい感じに思えた。

 そうそう顔がドアップになることはないし、肉体的接触も、足の先なんかを除けば簡単ではないだろう。

 

 なるほど、確かにここは、『少し落ち着ける場所』だ。

 

「それは、どういう状態で?」

「時を過去へと戻し、肉体の状態も全てその時の状態へと戻ります」

「その表現だと、いわゆる逆行転生でもするみたいに聞こえるけど」

 

 逆行転生。タイムリープに近いけれど、記憶を持ったまま幼い自分へ戻り、過去をやり直すタイプの転生。……それを転生と言っていいのかについては、諸説分かれそうだけど。

 

「……千速継笑様が以前、生き返りを拒絶したみっつの理由の内のひとつは、記憶を持ったまま幼い自分へと戻るというのが、現実にはかなり不安定なモノだということです」

 

 ……えっと?

 

「つまり?」

「それは……」

 

 すると白い少女は、テーブル(クロス)の上に載っていた三叉(みつまた)燭台(しょくだい)、そこに刺さっていた白いキャンドルの一本へ、指をひょいとかざした。

 

 するとどうしたわけか、そこへぼぅと炎が灯る。

 

「へ?」

 

 なにこれ?

 

「ある程度の記憶であれば一応、持って逆行することは可能なのですが……それは実感を、まるで伴わないモノとなります」

「と、というと?」

(たと)えるなら夢です。そうして持ち越す記憶は、五感の刺激を伴わないただの情報に過ぎません。つまり、ご本人の感覚からすれば実体のない、不安定であやふやな記憶ということになります」

「あ、あぁ、なんとなくわかる……かも?」

 

 マッチもライターも使わず、蝋燭に炎を灯した手品のタネはわからないけれど。

 

「逆行した地点より先の、いわば未来の知識、情報等は、ここでの会話も含め、夢のように、泡のように薄い記憶として、数日で霧散してしまう可能性が非常に高くなります」

「つまり、予知夢を見たとして、それを真に受けて未来に備えるほど私がロマンチストか……って話ね」

「はい」

「んー……」

 

 それでも、例えば地震とか火山の噴火とか、そういった、新聞のトップを飾るようなニュースを複数覚えていって、世界がその通りになるのであれば、いつかは信じてしまいそうだけど。

 

「そこが」

「ぉ……ぅ?」

 

 と、美少女はまた燭台に手をかざす。すると二本目の蝋燭に再び炎が灯る。

 

「そこが、理由のふたつめです。そうした予知夢を千速継笑様が信じ、行動する……そういう世界線へ行けたとします……ですがそうなると、世界が変わってしまいます」

「え?」

「この場合の千速継笑様は、高い確率で己の死を回避できます。本来のレールからは外れ、自由に行動できるようになります」

「本来の……レール……」

 

 それの何が、問題だったのだろうか。

 

 歴史の改竄(かいざん)は許さないって話? 本末転倒も(はなは)だしくない?

 

「千速継笑様が、医療過誤(いりょうかご)を専門とする弁護士のお父様から強要されている……されていた未来、つまりは、千速継笑様の本来のレールとは、どのようなモノでしたか?」

「ん……」

 

 やめろその質問は俺に刺さる……と、思わず反射的に叫びたくなるくらい、それは私の気分を落ち込ませる問い掛けだ。

 

「医者になれ……とは言うけれども、実際は医者になれなくてもいいし、せめて医療過誤が専門の自分を手伝いになれるくらいには、医療分野に明るくなっていてほしい……ってことかな。多分本音はそんなところ」

「それでほぼ正解です」

「……ほぼ?」

「本当の本音はそれに、“最悪、俺が認める立派な医者なり医療関係者を捕まえろ”、が付きます」

「パパン!?」

 

 え、なにそれ……だったら医師免許取得に比べたらずっと難易度が下がるKとかD女子の薬学部とかでもいいじゃない……その辺、提案したら最初から志を低くしてどうするって、めっちゃ怒られたけど……。あのパパン、ママンの出身校が含まれるマーチでさえ「下らん大学」って()()ろすからなぁ……。自分だって、一浪してもT大(の法学部)に入れなかったクセによぉ……。

 

 ちなみに。

 

 私の学力は、「ならT大に現役合格すればお父さんの鼻を明かせるんじゃ? 一生、四の五の言わせなくすることができるんじゃ?」と思いついて、一秒で「……いや無理だから」となる程度のモノです。高校こそ、歴史ある高名な進学校へかろうじて潜り込めたものの、そこで完全におちこぼれてしまった。

 

「ともあれ、千速継笑様はお父様の希望により、ご自宅より少し離れた進学校へ入学し、通学されていましたよね?」

「……そうね。やり直せるなら、受験に失敗して、私でも友達になれるような誰かがいる高校へ行きたいかな」

「それも可能ですが、今回の場合、意味がありません」

「……あたしのボッチが既定路線みたいに言われた」

 

 すると、そこで白い少女は目を伏せ、もの凄くわかり易く、悲しそうな顔になった。

 そうだね、私も悲しいよ、友達ゼロの人生は……え、違うの?

 

「千速継笑様は……この時点でもう、死の運命を、既定路線として受け入れているのです。お父様の希望により、ご自宅より少し離れた進学校へ入学し、通学され、その“路線”の途中で死ぬという、ご自身の死の運命を」

 

 ……そうだよね、私が今ここにいるってことは、そういうことだよね。

 

 うん知ってた。

 

 だって、そうじゃなきゃきっとこんなことになってない。

 

「……なんで?」

 

 でもなんで?

 

 私は電車に()かれての轢死(れきし)……なのよね?

 

 ということは、ホームから線路に落っこちた……ってことでしょ?

 

 そんなの事故じゃない。それで何が変わるっていうの?

 

「事故死は、世界が変わらない範囲で、なるべく苦痛の少ない死で済むよう、千速継笑様ご自身が選択されたことです」

「……はい?」

「千速継笑様の本来のレール、本来の死の運命はかなり苦痛に満ちた……少し……というかかなり、センシティブな話題となってしまいます……ですが、必要なことなので、ここでは語らせていただきます」

「んんん??」

 

 なんだなんだ。話の流れが変わったぞ?

 

 キャンドルに(とも)るふたつの小さな炎が、決然とした表情の、白い少女の勢いに煽られでもしたのか、ゆらゆら、ふわふわと揺れている。

 

「高校二年の二学期、現状の千速継笑様の主観から見て一ヵ月後の十月、制服が冬服に変わったことである変化が起きます」

「へ?」

 

 えっと……。

 

 ウチの高校は……制服の着用が義務だけれど、学校指定のものであれば、女子はセーラー服とブレザーのどちらでもいいことになっている。夏はセーラー服、冬はブレザーというのも可能だ。私は……あたしは一年次、そうしてきた。ただ、二年次はなんとなく、ぼんやりと、冬服はセーラーにしようかなと思っていたが。

 

「結論から言うと、千速継笑様は悪質な痴漢に遭います」

「げぇぇぇ!?」

 

 ちょっと待ってよ!?

 

 ウチの高校って、確かに制服が可愛いことでも有名だけど! 過去に勇気ある告発をした生徒の存在が複数あることから、痴漢にも狙われ難いって聞いてたんだけど! ありがとう先輩じゃなかったの!?

 

「悪質というかプロというか、いわゆるダークウェブで独自のネットワークを持ち、抵抗しない被害者を見つけると、(ほね)(ずい)までしゃぶり尽くすような、かなり悪辣(あくらつ)な集団ですね」

「え……実在するの? そんな連中……」

 

 ドン引きなんだけど。むしろ不審と怖気(おぞけ)が山盛りテンコ盛りの丼曳(どんび)きなんだけど。

 

「これに、ほとんどの場合、千速継笑様は抵抗しない被害者となります」

「あー……」

 

 それはまぁ……そうだろうな。

 

 私は親との折り合いが悪い。

 

 告発したとして、私は未成年であるからして、すぐに保護者へと連絡が行ってしまう。そうなると確実に弁護士であるオヤジがしゃしゃり出てくる。それはイヤだ。本当に、とてもイヤだ。あのオヤジに、これ以上デカイ顔はさせたくないってのもあるけど、痴漢は性犯罪だ。そして性犯罪はデリケートな問題なのだ。専門家でもないパパンに任せて、いい結果になるとはとても思えない。

 

「そうして一ヶ月で、千速継笑様はダークウェブを通じて、何をしても抵抗しようとしない、その筋でもブランド力のある進学校の女子生徒として有名になってしまいます」

「あ~……」

 

 頭を()(むし)りたくなる。なんだそれは、そんなことが現代日本において起こっていいモノなのか、許していいモノなのか。その筋のブランド力ってなによ。あたしはイクラだけじゃなくて筋子も好きなんだぞ莫迦(バカ)ぁー。社会正義どうなってんの、ねぇお父様。

 

「そこから先は……三題噺(さんだいばなし)風に表現すると、集団ストーカー、拉致監禁、証拠隠滅……となり、千速継笑様は十八歳の誕生日も迎えられず、亡くなられてしまいます」

「わー、これが本当の十八禁ってか~……ぢゃねぇわっ!?」

 

 そういう方向性のえっちぃのはあたしでも嫌いです。色んな意味で、イケナイと思います。

 

「……痴漢の段階で抵抗した場合はどうなるの?」

「千速継笑様がご心配なされているように、お父様が大事(おおごと)にします」

「パパァ!?」

「相手が相手ですからね、すぐに未成年であるはずの千速継笑様のお名前、それと盗撮写真等がネットにバラまかれ……それはもう見事なまでに、人生が滅茶苦茶に」

 

 酷すぎるっ!

 

「やだ……そんな薄い本で語れてしまうような人生やだ……」

「実際、そのルートでは数年後に、固有名詞こそ変えてあるものの、明らかにそれとわかる形で事件の概要が薄い本になりましたね」

「そんなチャレンジ精神はいらねぇよ三日目層ぉぉぉぉぉ!?」

「お父様はそれにも噛み付かれ、その後、医療過誤の専門家から痴漢問題の専門家に転進したあげく、問題を悪化させまくった弁護士様として、ネット住人のいいオモチャに。お父様を象徴するAA(アスキーアート)は、私が! 娘を! 守る! と叫ぶ濃い顔の男性に、猫っぽいなにかが、ヤメテ! と叫んでいるモノでした」

「ウチの一親等がインターネットに詳しい弁護士カッコワライみたいな扱いに……」

 

 もはや悲劇を通り越して笑劇(ファルス)だにゃん。……第三者視点から見れば。

 

 あれ……でも。

 

「その運命はでも、回避できるんだよね?」

 

 そう、これは私が生き返りを拒絶したみっつの理由、そのふたつめの話だったはずだ。

 

 痴漢なんて通学方法を変えてしまえば、それで済む話だ。まぁ面倒ではあるけど、莫迦(バカ)みたいな末路を迎えるよりかは、ずっといい。

 

 というか……つまりきっかけは……冬服をセーラー服にしたから……なんでしょう?

 

 そんなことが生きる死ぬの話になるなんて……物凄く釈然としないけれど……。

 

 あのね? 私別に、そこに強いこだわりはないからね? 冬服をブレザーにするだけでいいなら喜んでそうするよ?

 

 避けられない死であれば、せめて苦痛の少ない方を選ぶというのはわかる。だけどその死は避けられるモノのはずだ。

 

「はい、千速継笑様は、世界を変革することにより、この死を避けることができます」

「え、ちょっと待って……話が混乱してきたんだけど」

 

 私は生き返りを拒絶した。過去にそう決断したらしい。記憶にございませんケドそうらしい。

 

『千速継笑様は……この時点でもう、死の運命を、既定路線として受け入れているのです。お父様の希望により、ご自宅より少し離れた進学校へ入学し、通学され、その“路線”の途中で死ぬという、ご自身の死の運命を』

 

 つまり……世界を変える変えない、変革するしないというのは、それができるできない、許される許されないという話ではなくて……私が、私自身が世界を変えたくない、変革したくないと判断した……つまり轢死を受け入れることに納得した……既に、自らその路線(レール)に乗ると決めている……これは、そういう話なの?

 

「私は、絶対に未来を変えてみせると決意し、過去の自分が納得するような材料……予知夢で見たことが現実であると確信できるだけの情報を持って過去へと戻れば、悲惨な死を回避することができるんだよね?」

「はい。再三、私が千速継笑様へご提案申し上げているのは、正にそのことです」

「でも……そうすると世界が変わってしまうから……変革してしまうから……ダメ?」

「はい。千速継笑様はそう、決意されています」

「いや私の知らないところで、私が決意されていますと言われても……」

 

 だって。

 

 今の、この私は思う。

 

 世界が変わる。そのことに何の不都合が?

 

 自分の生死がかかっているのに、本来がどうとか、正史がどうとか、どうでもいいじゃない?

 

 すると白銀の少女は「ふぅ」と重々しく、だけど花の香りでも漂ってきそうなほど優雅にため息を吐き、何かを諦めたかのように言葉を続けた。

 

「……こうなった時、こうこうこうであるという話を、直ぐにしてほしいと、以前の千速継笑様より言い付かっていることが御座います」

「……伺います」

 

 つまり、私が死の運命を受け入れた理由……か。

 

 私は自分がそれなりに利己的な人間であると知っている。

 

 自分が、生にあまり執着のない人間であるとも知っているけど、自分が生きていたら、見知らぬ誰かの運命が変わってしまうからとか死ぬとか、そこまで……死にたがりではない。仮に、私が生きていると未来に五十億人が死ぬと言われても……あっそ、で生きる方を選ぶ気がする。

 

 何が私に、死の運命を受け入れさせた?

 

「……千速継笑様が既定路線のまま生存し、かつお父様が医療過誤裁判の専門家のままであった場合、未来において、とあるお医者様が事実無根の罪に問われ、追求される中で自殺してしまいます」

「……ん?」

「そのきっかけとなるのが、千速継笑様のお父様なのです。この運命はかなり強固で、千速継笑様が痴漢を告発し、お父様が医療過誤の事件などどうでも良くなった場合か、本来のレールに乗り、お父様にとって“良くできた娘”であるところの千速継笑様が死亡し、気落ちしたお父様が弁護士を引退なさるか、どちらかの場合にのみ回避が可能となります」

「お、おう?」

 

 え、えーと?

 

 A:痴漢を告発しない → 私が薄い本展開で死ぬ。パパが気落ちして弁護士辞職

 B:痴漢に遭う前にあたし死亡 → パパが気落ちして弁護士辞職

 C:痴漢を告発する → パパが痴漢問題に詳しい弁護士カッコワライに転進

 D:痴漢も自分の死も回避 → パパのせいでひとりのお医者様が自殺する

 

 こういうこと? そして本来はAだったものを、今はBの状態に変えてあると。

 

 あ、あとついでに。

 

 X:今の高校へ進学しない → あたしが悪い娘だからパパ気落ちしない弁護士辞めない

 

 ってのもあるか。パパァ……そういうところだぞぉ……。

 

「ま、まぁ……それはまぁ……私が生きているせいで無実の誰かが自殺するというなら、多少気は引けるけど、それって悪いのお父さんだけじゃない? あたし関係なくない? それだけで、私が生きるのを……生き返るのを……諦める?……の?」

 

 けど、諦めるのだ。

 

 それは私が今、ここにこうしていることによって、証明されてしまっている。

 

 それだけの理由が、あるのだ。

 

「そこがみっつめの理由です」

 

 真剣な表情で手をかざす白い少女に、なぜかごくりと、喉が鳴る。

 

 白金(プラチナ)の燭台に、ぽぅとみっつめの炎が灯る。

 

 三本の蝋燭、全てに炎が灯った三叉の燭台(キャンドル)は、私にはなぜか酷く眩しいモノのように思えた。

 

「千速継笑様が健やかに生存することにより、自殺されることとなるお医者様は、非常にプライドが高く、繊細であったので、そのように疑われたというだけで、確固たる自死の意思を固めてしまわれるメンタルの男性だったのですが……医者としての能力は確かなものがありました」

「……えっと、その人が救った人の中に、未来において重大な仕事を果たす人がいたとかって話?」

 

 言いながら、そうではないと、自分でも思う。

 

 そんなことで、自分が生き返りを諦めるとは思えない。

 

 あたしはそれくらいには利己的なのだ。

 

「いいえ、もっとシンプルで、小さな話です」

 

 白い少女が、みっつの炎が灯った燭台越しに、私の目をじっと見つめてくる。

 

 ゆらめく白に近い蝋燭の灯りが、白銀(はくぎん)の髪を照らし、部分部分を白金(はっきん)に輝かせている。

 

 その輝きは、いまだ胸の(うち)に残る私の熱を刺激してきて、落ち着かない気分にさせてくる。炎から、こちらへもなにかが燃え移ってきてしまいそうで不安になる。

 

 けど。

 

 逃げるなと、その炎が言っている。

 

 そんな気がする。

 

 揺らめく炎が、目を逸らすなと囁きかけてくるかのようだった。

 

 ……ややあって、白銀白金の少女は、言葉を続けた。

 

「千速継笑様のお兄様、十三歳で他界されてしまわれた千速長生(なお)様。その死因をご存知ですか?」

 

 

 







千速継笑が映画館で観劇済みの、二十六(26)本の名作映画

※現実には全くリバイバルされてなく、十七歳の女子高生が(映画館で)見ているはずのない作品もあります

○ 雨に唄えば(1952年)
○ 異端の鳥(2019年)
○ E.T.(1982年:銃が消されていないバージョン)
○ カメラを止めるな!(2017年)
○ 桐島、部活やめるってよ(2012年)
○ グリーンマイル(1999年)
○ シザーハンズ(1990年)
○ ショーシャンクの空に(1994年)
○ シン・ゴジラ(2016年)
○ スリーピー・ホロウ(1999年)
○ セブン(1995年)
○ ターミナル(2004年)
○ チャーリーとチョコレート工場(2005年)
○ 天空の城ラピュタ(1986年)
○ ニュー・シネマ・パラダイス(1988年)
○ 野火(2015年:塚本晋也監督版)
○ ハウルの動く城(2004年)
○ パプリカ(2006年)
○ パルプ・フィクション(1994年)
○ フォレスト・ガンプ/一期一会(1994年)
○ ブラック・スワン(2010年)
○ ブレードランナー(1982―2019年:IMAX版)
○ ベンジャミン・バトン 数奇な運命(2008年)
○ ボヘミアン・ラプソディ(2018年)
○ ラ・ラ・ランド(2016年)
○ レオン(1994年)


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