アグネスタキオンとおかしくなったトレーナー【完結】   作:砂糖ノ塊

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はじめましての方ははじめまして。

砂糖のカタマリと申します。

衝動的に筆を取りました。後悔はしてません。

どうぞ、気楽に読んでやってください。



問:もとに戻るか?

 きっかけは何てことない、ただの好奇心だった。

 

 一介の研究者としての、純粋な好奇心。

 

『俺も、一緒に"果て"が見たい』

 

 そう狂った瞳で話す彼への興味、自らモルモットとなった彼への好奇心。

 

 好奇心は猫をも殺す。

 

 私はこの言葉の意味を、もっと熟考するべきだったと後悔する。

 

 熟考し、考慮し、配慮に配慮を重ねるべきだったと。

 

 しかしそんな後悔も今更だ。

 

 私は──いや、彼は、私のその飽くなき"好奇心"に、

 

 無惨にも食い殺された。

 

 もう遅い。

 

 いくら謝罪をしたところで何の意味もない。第一、彼の耳には私の言葉が届いているのかすら分からない。

 

 それでも、謝らずにはいられない。

 

「ゴメンよトレーナー君……」

 

 私は謝った。

 

 もっと早くこうしていれば、後戻りもできたはずなのに。

 

 私は誤った。

 

「もう君を無理に実験に突き合わせたりしない……君の言った通り、毎日3食欠けることなくちゃんと摂るし、自分の身の回りのことはな、なるべくだが自分でやる!」

 

「だから……だから…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう帰って寝ておくれよ…………」

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!

 

 トレーナー君が壊れた。

 

 ある日、いつものように実験のために薬を飲ませたら彼は突然こうなってしまった。

 

 そしてその実験以来、彼はずっと()()なのだ。

 

「もうやめてくれ!これ以上は君の体が持たない!!」

「ぇあ〜?あア!大丈夫ダイジョウブ!」

 

 狂気じみた笑い声を上げた彼は、操作しているノートパソコンから手を話すことなく、首だけをこちらに向けて私の嘆願に答える。

 

 人間の首というものはその角度で曲がるものなのか、人間の笑顔というものはここまで狂気的になるものなのか。

 

 興味というよりもはや恐怖を感じる。

 

 彼の瞳は私と出会ったときの彼とは別の意味で狂っていた。

 

「大丈夫なわけないだろう!?君は人間の睡眠の限界というものをまるでわかっていない!!」

「タキオンだっテ、研きゅウで徹夜とカするじゃ〜ン???」

「ヒトとウマ娘では違うんだよ!!それにだ!君は自分がどれくらい寝ずに仕事をしているか知っているのかい!?」

「んン〜?…………3日くらぃは徹夜したかナぁ?」

「今日で2週間だ!!」

「ぁハ!()()2週間じゃン!もウ〜タキオンは繧キ繝ウ繝代う諤ァ縺ェ繧薙□縺九i」

「その解読不能な言語で喋るのやめておくれよ!怖いんだよ!」

 

 私と出会ったときの彼の姿はどこにもなく、喋り方も性格もすっかりおかしくなってしまった。

 

「たのむよぉ………もう休んでおくれよぉ…………」

 

 『身体の構造が変わっていないだけ僥倖だろう』なんて思っていた時期の私をぶん殴ってやりたい。

 

 十分すぎるほど、変わっている。

 

 見た目こそ違和感がないが、昨日は真っ暗な部屋の中で四つ折りになっていた。

 

 人間の身体には存在しないはずの関節を綺麗に折り曲げ、見た通りの()()()()に。

 

 その態勢で『やァタキオン!』とか言ってくるものだから本当に心臓に悪い。

 

 ここまで来るともう人かどうかも怪しい。

 

 それでも私は終わらせねばならない。彼の14徹を。

 

「トレーナーくぅん……」

「そんなニ泣きそウナ目デ見ルナよ。今日はイツにもまシて強情だなァ」

「当たり前だろう!?君は私の担当トレーナーだ!死なれたら困る!!」

「大ゲサだょタキオン?チョっト寝ないクラぃで人は死ナナいサ!」

「死ぬよ!2週間も寝てなかったらッ!!」

 

 おそらくだが、私は今、半泣きだろう。

 

 みっともなくても構わない。私は椅子に座っている彼の脇腹にしがみついた。

 

「帰って眠るまで絶対離さないからな!!」

 

「ぜったいぜったいぜ〜〜〜ったい離さないからなぁ!!!」

 

「はぁ…………モう、仕カタなぃナァ……」

「トレーナー君ッ……!」

 

 困ったように頬を掻きながら、トレーナー君はパソコンを閉じて、椅子から立ち上がった。

 

「ジャあこれ、今日のトレーニングメニュー」

「後で!!後で貰うから!!今は一刻も早く帰るぞトレーナー君!!!」

「ウォわ!ちょット謚シ縺輔↑繧、縺ァ繝ァ」

 

 また意味が分からない言葉を発しているトレーナー君を、私は体当たりで部屋から押し出そうとした。

 

 あと少しでこの部屋からトレーナー君は退出することができる!2週間ぶりに!

 

「イや、買イ出しとかトイレとかお風呂とかで部屋カラは出テたヨォ?」

「なら帰って休んでおくれよ!!」

「デもトレーナーの仕事が……」

「あれだけ頑張ってただろう君は!?2週間も!!一睡もせずにッ!!!」

 

 もしかして、今のトレーナー君の姿は、彼の中に潜在的にあった『もっと努力しなければ』という強迫観念のような物が表に出てきた姿なのかもしれない……

 

「ンん〜……じゃァ、少シくらい休んデもイイのかナぁ?」

「もちろんだとも!存分に休んでくれ給え!!というより休んでおくれ頼むから!!」

「…………ヨシ!そうと決マレば今日ハ早ク帰って寝ヨう!」

 

 彼のその言葉とは逆に、何故か私が押している彼の身体はビクともしなくなった。

 

「ト、トレーナー君……?どうして止まるんだい……?」

 

 嫌な予感というものは、例え確証が無くとも当たるものだ。

 

 この場合、トレーナー君には"何をするか分からない"という確証があったけれど。

 

アハ……アハハ……

 

 先述した通り、彼の肉体は度重なる実験の影響で人知を超越しつつある。

 

 異常なまでの関節の軟化、急激な筋肉の増強と身体能力の向上……

 

 今の彼の力はウマ娘すら凌駕する。

 

「ッ!?」

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!

 

 狂った笑い声をあげ、私の拘束を振りほどいたトレーナー君は、

 

「ちょ、まっ──」

 

 そのままの勢いで窓を突き破り、外へ出て行った。

 

アハハハハハハ

 

 遠ざかっていく笑い声を、数テンポ遅れながらも追いかける。

 

「待ってえええええええええええ!!!!!」

 

 奇声をあげながら。全力で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……いいかい!?今日一日は絶対安静!!」

「はいはイ、ワかッた分かっタ」

 

 やっとトレーナー君の背中を捉えたときには、既にトレーナー寮が目の前にあった。

 

「何で君は息ひとつ切れてないんだよ……」

「タキオンのおカゲだねェ」

 

 以前の私なら今すぐにでも研究室に連れ帰っていただろう。

 

 今でも彼の肉体を余すところなく調べつくしたいという気持ちも無くはないが、今は帰って休んでもらうのが先決だ。

 

 やっとここまで来た道のりを無駄にはしたくない。

 

「まったく……我ながらどうかしているよ」

 

 これまで好き勝手振る舞っていたこの私が、今じゃ彼の一挙手一投足に振り回されている。

 

 ……もしかして、彼もこんな気持ちだったのだろうか?

 

「ン?どうカした?」

「いや、何でもないよ。私はトレーニングをするから、トレーナー君は早く帰って寝てくれ」

「分かッタよ。譌ゥ縺剰。後▲縺ヲ縺励∪縺医い繧ー繝阪せ繧ソ繧ュ繧ェ繝ウ」

「次会ったときにはその喋り方を直しておいてくれると助かるよ」

 

「それじゃあ、また」

「うン」

 

 やれやれ。いくら私達がトゥインクルシリーズの大事な最初の3年間を乗り越えたからと言って、彼がいつまでもこのままだと私も困る。

 

「まぁ……自業自得と言えばその通りなんだろうけど……はぁ…………」

 

 

 

 

 

「ナニか喋ッてるなァ、タキオン」

縺輔▲縺輔→繝ィ繧ウ繧サ

「…………ダマってロ」

 

「……何だか眠くなっテキたな、今日は言ワれた通り休ムトシよウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜次の日〜

 

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!

「昨日と全然変わってないじゃないかッ!!!!!」




キャラ紹介(雑)
・トレーナー
アグネスタキオンの担当トレーナー。

身体が黄緑色に光ったり、ウマ娘よりも速く走れたり、30日間までの徹夜なら耐えられたり、情緒が不安定だったり、狂った笑い声を上げたり、理解不能な言語を話すこと以外は、至って普通な成人男性。

・アグネスタキオン
ある日、実験に使った薬の副作用で担当トレーナーの正気を奪ってしまった愚かなウマ娘。

自分よりも(違う意味で)何倍も狂っている担当トレーナーの姿を見て、倫理観と良心を取り戻した。

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