アグネスタキオンとおかしくなったトレーナー【完結】   作:砂糖ノ塊

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問:人間はウマ娘を超えるか?

 日々のトレーニングというのは、我々ウマ娘にとって欠かしてはならないものだ。

 

 それはトゥインクルシリーズの最初の3年を、理想的な形で終わらせた私たちにとっても、もちろん例外でない。

 

「ふぅ……心拍数の上昇、平常値。問題はないな」

「あト1シュうー!」

「分かってるよトレーナー君」

 

 腐っても……いや、狂ってもトレーナーということだろうか。()()なってからも彼の指導の質が落ちることは一切なかった。

 

 落ちるどころか日に日にトレーニングの質が向上しているようにすら感じる。

 

 自分が日々速くなっていくことが、自分の肌で実感できるなんて、よくあることではない。

 

「さて、ラスト1周……行こうか」

 

「はぁ…………ッ!!」

 

 速く。速く。もっと速く。どこまでも速く。

 

 まだ、足りない。

 

 まだ、辿り着かない。

 

「まったく……遠いな」

 

 どうやら私の目指す可能性の果ては、まだまだ先らしい。

 

「おツカれ様。はいドリんクとタオる」

 

 彼と共になら、まだまだ遠くへ行ける。

 

 少し()()()()してしまったけれど、彼は変わらずここにいてくれる。

 

 そのおかげで、私はこうして今も走り続けていられる。

 

 そしてこれからも……

 

 

 

「ジゃあ最ゴは俺と並ソウダ!」

 

 

 

 彼が私の側で支──

 

「え?」

 

 ちょっと待った……今のは私の聞き間違いか?

 

 それとも幻聴の類か何かか?そうだ、きっとそうに違いない。

 

 きっと私の彼に対する先入観、彼がおかしくなってしまったというこの先入観が、こんな幻聴を引き起こしたのだ。

 

「すまないトレーナー君、今なんて言ったのかもう一度言ってもらえるかな?」

「?『俺と並ソウダ』っテ言っタンダけド」

「…………幻聴か?」

 

 最近は彼に心配をかけないよう、実験を控えめにしていたのが裏目に出たか?

 

「大丈ブカい?タキオン」

「まさか今のトレーナー君に私の体調を心配される日が来るとはな……」

「もウ一回言オうカ。俺ト並ソウ──」

「いや、もういい十分だ」

 

 どうやら幻聴ではないらしい。

 

 こうなったら悪い夢であることを願おうか。

 

「私と並走?」

「ウん」

「……トレーナー君、流石にそれは…………」

「大ジョウ夫、ダイ丈ブ、俺モ十分速イからサ」

 

 確かに、今の彼はウマ娘に匹敵する身体能力を身に着けている。

 

 それは嫌というほど、それこそ夢に出てきそうなほど知っている。

 

「…………一周だけだぞ」

「分かッテルさ。オーバーわークはさせなイヨ」

「私が心配しているのは君の身体の方だよ」

 

 今のトレーナー君の身体は、言うなれば可能性の宝庫だ。

 

 研究者として、全く興味がないと言えば嘘になる。

 

 だが可能性の宝庫であると同時に、彼の身体はどうなるかわからない爆弾を抱えている。

 

 可能性を抱えた、未知数の爆弾。

 

 爆発すれば、その被害は想像もつかない。

 

 少なくとも、全身が黄緑色に光るくらいでは済まないだろう。

 

 けれど、興味が湧けばとことんまで試してみたくなるのが、私の悪い癖だ。

 

「コースは芝2000でいいかい?」

「ごジ由ニドうぞ」

 

 あぁ、気になる。

 

 今度はこの前のように不意打ちじゃない。正々堂々の真剣勝負。

 

 人間の彼が2000mを、それもウマ娘と同じ速度で走ることは可能なのか?

 

 私の実験で変わってしまったトレーナー君が本気で走ったら、一体どこまで速くなるんだ?

 

 それは……本気のウマ娘(わたし)を超えうるのか?

 

「準備は出来たかい?」

「あア。ちゃンと靴もジュン備してキタし服だッてほラ!」

「やる気も十分のようだね」

 

 気になる!気になる!!気になる!!!

 

 やはり実験を控えていたのは失敗だった。

 

 抑え込んでいた探究心の反動が今、何倍にもなって私の身に返ってきている。

 

「それじゃあいくよ」

「テは抜くナヨ」

「もちろんさ」

 

 手加減したら、()()の意味がなくなる。

 

「ヨーい…………」

 

「ドんッ!!」

 

 彼の、まるで子供のかけっこのような掛け声で、私たちはスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 並走は私の圧勝で終わった。

 

 当然といえば当然か、トレーナー君が私の前に出ることはなく、終始私の5,6バ身後ろを走っていた。

 

 『ウマ娘を凌駕する』という私の見解は、はっきり言って的外れだった。並走前の私の熱意も冷めてしまうくらいに。

 

「(それなのに…………何だ?)」

 

 この、纏わりつくような不快感は?

 

 並走中、遥か後方にいるはずのトレーナー君の"圧"を常に感じていた。

 

 まるで別人のような、尋常ではない"圧"を。

 

 そして今の彼からも……

 

「ハァ……ハァ……やっぱリタキオンは速いナぁ……」

 

 息も絶え絶えな彼の目の色は、出会ったときとは全く違う。

 

 けれど、私はこの目を知っている。

 

 嫌というほど私はこの目を向けられてきた。

 

 私が可能性の先へ近づけば近づくほど、速くなればなるほど、レースで勝てば勝つほど、向けられてきた目。

 

「……トレーナー君も、まさかついてこれるとはね」

 

 あぁ……やめてくれ。

 

 君がそんな目をしてるのは見たくない。

 

 ()()()()()()()ウマ娘(わたしたち)()()()()()()

 

 これも君を狂わせてしまった私の罪なのか?

 

 だとすれば、「やめてくれ」なんて、おこがましいにも程がある。

 

「トレーナー君」

「ハァ……ハァ…………なンダい?」

「君は──」

 

 喉元まででかけた言葉を、私の……アグネスタキオンのウマ娘としての勘が、それは駄目だと噛み殺す。

 

 それを言ってしまったら…………確実に壊れてしまう。

 

「いや、何でもないよ」

 

 『随分と──つまらない目をするようになったな』

 

「今日のトレーニングは終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜次の日〜

 

「トレーナー君」

「ナに……?」

「君というやつは…………」

 

「もしかしなくてもバ鹿なのか?」

 

「ゴめン…………」

 

 今度は我慢することなく、言いたいことをなるべく侮蔑を込めて彼にぶつけてやった。

 

 朝目が覚めると、身体が全く動かせなくなっていたらしい。

 

 怪我をしたということではなく、運動によって筋繊維が傷つき、それを修復しようとするときに起こった痛みで動けないだけ。

 

 要するに昨日の並走のせいで筋肉痛ということだ。

 

「はぁ……まあいいさ。ここのところトレーニング続きだったから今日は休息日としよう」

「ソウイうの俺が決めルンダけド……」

「ベッドから一歩も動けない君が何を言っても説得力に欠けるよ」

 

 やはり彼の肉体にはまだまだ解明しなけれはまならないことが多いな。

 

「さて、朝食はもちろんまだだろうし……仕方ない。冷蔵庫にあるもので適当に作らせてもらうよ」

「エ!?」

「……なんだい、私が料理をするのがそんなに珍しいか?」

「い、イや……」

 

 やれやれ……私も甘く見られたものだ。

 

 確かに以前の私は料理を作るどころか、まともな食事を摂ることすらろくにやってきていなかった。

 

 が、しかしだ。私も3年も経てば変わるというもの。

 

 彼の作る弁当と同等とまでいかなくても、それ相応のものは私でも作れるだろう。

 

「チョっと待ッて……!」

「心配には及ばないさ」

「タキオン……君、料理シたコトアるノ……?」

「ハッハッハ!任せ給えよ!」

 

 もちろん、無いに決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………タキオン」

「…………」

「ナンか、ゴメんナ」

「おかしいな……どうして君が謝るんだい?」

 

 料理と実験は違う。

 

 私は今日、それを身を以て実感できた。

 

 それも一つの貴重な成果だ。

 

 ……まぁ、代償は決して小さくないが。

 

「なぁトレーナー君、提案があるんだが」

「聞こウか」

「お互い、これからは無理はしないようにしよう」

「……全面テキニ賛成ダ」

 

 目も当てられない被害を被ったトレーナー君の部屋で、私とトレーナー君は灰となった目玉焼き(仮)にそう誓った。




ホントは看病シチュのトレ✕タキが書きたかったんだ……

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