アグネスタキオンとおかしくなったトレーナー【完結】 作:砂糖ノ塊
研究において、実験者と被験者だけでなく第三者の意見を収集し、それを反映させるという行為は、研究を成功させる上で重要なプロセスだと言えよう。
それは決して私と彼の間においても例外でない。
だが、私と彼が出会い、そして共に駆け抜けた三年間を知らない者が、現在の彼を見て出てくる意見なんてたかが知れている。
『何このやばい人……』
これで決まりだろう。
100人に聞けば99人がそう答える。
だからこの場合、第三者(おかしくなる前の彼を知っていて、かつ私とは違う視点から彼を捉えることができる、冷静な判断力をもつ者)という条件に絞られる。
「……だからといって、私をその100人の内の残った一人に数えないでください……」
「いいじゃないか。君と私の仲だろう?」
彼女の名はマンハッタンカフェ。私の友人であり、ライバルでもある優秀なウマ娘だ。
親切な彼女は今日も私の飽くなき研究心を満たすためにその体を……
「ありもしない事実を勝手に捏造しないでください……」
「ただの冗談さ!今はもう、昔のように研究に明け暮れていた私とは違うのでね」
「……そう思うと、あなたもだいぶ変わりましたね」
「三年も経てば嫌でも変わるさ」
「それもあの人のおかげ……ですか……?」
「違うといえば嘘になる。彼のせいで私は実験を躊躇せざるをえなくなったのは事実だ」
私は研究資料の積まれた机に腰掛け、紅茶を一口飲んで向かいのスペースでコーヒーを飲んでいる彼女に語りかける。
「それで……今度は何があったんですか?」
カフェは心底面倒くさそうな顔をして、私がこれからする話を待ってくれている。
「聞いてくれるのかい?」
「……もう、いつものことですから……」
「あぁ……そうだったね」
彼がおかしくなってしまってから、私は度々こうやってカフェに相談……もとい彼女の意見を収集している。
「そこまでアテにされても困りますが……聞くだけならできますから」
「それじゃあ聞いてもらうか」
「あれは一昨日の昼頃、私が昼食をとろうとカフェテリアへ出向いたときのことだ……」
『おや、トレーナー君じゃないか』
『ヤぁタキオン!』
『朝から姿が見えないと思ったら、こんなところにいたのか』
『トレーにングは午後カラだろウ?』
『君の場合、何をしでかすかわからないから、できれば常に居場所を把握しておきたいのさ』
『過ホ護ダよタキオン』
『昔の君からは想像もつかないセリフだね。隣失礼するよ』
『ン』
『……トレーナー君、随分と美味そうに食べているが、君は一体何を食べているんだい?』
『エ?』
『先割れスプーンだけド』
「何このやばい人……」
「やめてくれ!君までそう言ってしまったらもう私も彼がやばい奴だと認めざるをえなくなる!!」
「というよりこれはもう無理ですよ……誰がどう見てもやばい人です……」
その後、無理矢理彼をカフェテリアから連れ出したせいで私の昼食をとる時間が少なくなったことは言うまでもない。
「君に何も言い返せないのが悔しいよ……」
しかし……しかしだ……!
こんなものでは終われない!何に対してかは自分でもわからないが、それでも私は負けられないんだッ!!
「まだだ……まだまだ話のネタはあるぞカフェ……」
「もう『ネタ』って言っちゃってるじゃないですか……」
「見定めてくれ!彼が一体どんな目的で行動しているのかを!!」
「ただただ実験の後遺症で錯乱しているだけのような気がします……」
『ヤぁタキオン!』
『…………』
『どウかしタノかイ?』
『……トレーナー君、君は一体何をしてるんだい?』
『ゑ?ヨガだけド?』
『私の記憶が正しければ、ヒトの関節はその角度で曲がらないと思うのだが』
『アー……実はもトニ戻らなくナッたんだヨネ』
『君はやっぱりバ鹿だ』
『仕方ナい、ちョッと強インに体ヲ……』
『おいやめるんだ!ヒトの背骨はそっちの方向には曲がr』
バキィィィッ!!!
『『あっ』』
「何でそんなことがあったのに、タキオンさんのトレーナーさんは今日も元気なんですか……?」
「とりあえず保健室に連れて行ったら治ったんだよ」
「ウマ娘でもそうはなりません……」
ちなみにトレーナー君は今、カフェのトレーナーと一緒に出かけている。
「それでだ、カフェ。本題はここからなんだが……どうすればトレーナー君の奇行を止められるか、君の意見が聞きたい」
「もう奇行と認めるんですね」
「話しながら自分の中で整理してみたんだ。そうしたら言い逃れできないということがわかったよ」
「……賢明な判断だと思います。タキオンさんにしては遅すぎる気もしますが……」
「何か言ったかい?」
「気にしないでください……」
「……とにかく!私は彼がおかしな行動をするのを止めたいんだよ!」
正確に言えば、彼がこの前の並走のときのような、理解不能な
「それなら直接本人に言えばいいのでは……?」
「それも考えたさ……でも無理だった」
「無理?」
「最近の彼、どこかおかしいんだよ」
「……それは、いつものことなんじゃ……」
「そうじゃなくてだな!……私が彼に話しかけても、どこか上の空なことが多くてね」
「…………」
「カフェ?」
「……やはり本人に直接言うのが最善だと思います」
そう言うと、扉が開いてトレーナー君が現れた。
「ヤぁタキオン!」
「…………」
「トレーナー君?どうしてここに?」
「たダの付き添イサ」
「こんにちは」
トレーナー君の後ろから出てきたのはカフェのトレーナーだ。
「このあとトレーニングなので、私とトレーナーさんはこれで失礼しますね……」
「ちょ!カフェ!?まだ話は……!」
「あレ、もウ行くノカイ?」
「……行きましょう」
「え、いいの?」
「いいんです」
「良くない!!ちっとも良くないぞカフェ!!」
「ハッはっハ!相変ワラず二人は仲ガイいなァ!」
「…………それでは」
そして二人はさっさと部屋から退出してしまった……
「まったく…………何も解決策が出ないまま話し合いが終わってしまうとは……」
「ヨクわカンないケど残念だったネ」
「元はと言えば全部君のせいなんだけどな!!」
「エ!?」
「……でも更にそこから元を辿れば私のせい、か……」
「怒ッタり落ち込んダリ、今日のタキオンはナンだか忙シいなァ」
「はぁ……」
「それで、やっぱり彼には何か良くないものが憑いてるのか?」
タキオンさんと別れた後、トレーナーさんは深刻そうな顔で私に聞いてくる。
実際、事態はかなり深刻なのだろう。
「よくわかりません、ただ……」
「ただ?」
「『お友だち』が……彼をとても怖がっています……」
「それは…………初めて出会ったときからというわけじゃなさそうだね」
「はい……今の彼は、昔の彼とはまるで別人のよう……」
「やっぱり何か悪いものが?」
「そう……なのかもしれませんが、私には何も見えなくて……おそらく『お友だち』もだと……」
「カフェにもよくわからないか……」
「……お役に立てずすみません」
「カフェが謝ることじゃないよ」
そうトレーナーさんは微笑んだけれど、内心は穏やかじゃないだろう。
自分の同僚がよくわからないものに憑かれている……彼は優しいから、きっと普通の人なら怖気づくところを、誰かのためならなんの躊躇もなく踏み込んでいくだろう。
「(だからこそ……)」
だからこそ、私は黙っていなければならない。
これは、ただの妄想に過ぎない。
『繝、縺ゅち繧ュ繧ェ繝ウ』
『…………』
『トレーナー君?どうしてここに?』
『縺溘ム縺ョ莉倥″豺サ繧、繧オ』
『こんにちは』
『このあとトレーニングなので、私とトレーナーさんはこれで失礼しますね……』
『ちょ!カフェ!?まだ話は……!』
『縺ゅΞ縲√b繧ヲ陦後¥繝弱き繧、』
『……行きましょう』
『え、いいの?』
『いいんです』
『良くない!!ちっとも良くないぞカフェ!!』
『繝上ャ縺ッ縺」繝擾シ∫嶌螟峨Ρ繝ゥ縺壻コ御ココ縺ッ莉イ繧ャ繧、繧、繝翫ぃ』
『…………それでは』
「トレーナーさん……」
「どうかした?」
「タキオンさんのトレーナーさんに何が起こっているのかわからない以上、あまり関わらないほうがいいと思います……」
こんなことを言っても、きっと無駄だろう。
本当に危うくなれば、それが何であろうと手を差し伸べてしまう。
本当に……困った人。
「カフェがそう言うなら、わかったよ」
『──ウソツキ』
キャラ紹介(雑)
・マンハッタンカフェ
「見えないもの」が見えるウマ娘。
なんだかんだずっとアグネスタキオンとそのトレーナーを気にかけている。「お友だち」はご顕在。作者の最推し。
・カフェトレ
「見えないもの」が見えないにも関わらず、存在を信じることができる男。様々な心霊現象に耐える強メンタルを備えている。
タキオントレーナーとは知り合いだが、二人きりになることをカフェから止められている。カフェ✕トレはマジ尊い。
お気に入り登録、感想、評価をするとあなたのウマ娘でのガチャ運が10の0乗倍増加します()