アグネスタキオンとおかしくなったトレーナー【完結】   作:砂糖ノ塊

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問:君は■■■か?

 ヒトもウマ娘も変わっていく。それは当然のことだ。

 

 だからトレーナー君を振り回していた私の立場が逆転するのだって、不自然な話ではない。

 

 とは言ったものの……とは言ったものの、だ。

 

「はぁ…………」

「…………」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………」

「…………わかりましたよ、ちゃんと聞きますから…………」

「頼むよカフェ……」

 

 とは言ったものの…………

 

「流石に限度があるだろう!!」

「……!急に大声で叫ばないでください……!」

「一体何なんだ最近のトレーナー君は!もはや別人の域だぞ!!」

「…………別人?」

「あぁそうだ!」

 

 私はこれまで溜め込んでいた不満を思い切りぶちまけた。

 

「トレーニングメニューから言葉遣いから日常生活のちょっとした癖!!しかも私の研究資料を勝手に読む!!今までの彼なら絶対にとらない行動をとっているッ!!」

「そんな細かいところまでよく覚えてますね……」

「三年以上一緒にいれば嫌でも覚えるさ!」

「とにかく一回落ち着いてください……」

 

 ……我ながら少し取り乱しすぎたか。

 

 けれど、それくらい彼が別人のようになっていることをカフェに知ってほしかったということを彼女に説明した。

 

「……タキオンさんのトレーナーさんがおかしくなったのは少し前からでは……?」

「今の彼は"おかしくなった"というより"別人になった"というのが正確な表現だ」

「あれは本当に私の知っているトレーナー君なのか……ドッペルゲンガーだと言われたほうがよっぽど納得できる」

「……ドッペル……ゲンガー…………」

「正直一緒にいるだけで違和感に潰されてしまいそうだ……」

「タキオンさん」

「なんだい……?」

 

 疲れ切った私にカフェが質問してくる。

 

「先程タキオンさんの研究資料をトレーナーさんが読んでいたと言っていましたが……」

「それがどうかしたのかい?」

「…………今のトレーナーさんを見て、()()()()()()()()()()()と感じたことは……?」

 

 私に似てきた?

 

「そんなこと…………」

 

 ……私は否定しきれなかった。

 

「似ている……そうだあの違和感は…………いや、違和感というより──」

 

 

 

「親近感」

 

 

 

「……っ!」

 

 親近感。相手が身近な存在であると認識、または錯覚すること。

 

「親近感……同一性と言ったほうがいいのかもしれません……」

「カフェ、君は何を知っているんだ……?」

「……何も知りませんよ、タキオンさんが何も知らないように」

「………………」

 

 同一性。私と彼が同じ存在に?

 

 そんなこと、果たしてありえるのか?

 

「……可能性があるのなら、それを突き詰めてみるしかないか…………」

 

 彼がおかしくなった原因を探る……そして彼を元に……

 

「タキオンさん……一緒に合同練習をしませんか……?」

「合同練習?」

「力になれるかは保証できませんが……私も彼の様子を確認してみます……」

「協力感謝するよ、カフェ」

「そういえば……タキオンさんのトレーナーさんは今どこにいるんですか……?」

「………………」

「……まさか」

 

 トレーナー君とはここ数時間全く連絡が取れない。とっくに昼も過ぎて自主トレーニングも終わったというのに……

 

「最近はいつもこうなんだ……」

「お疲れ様です……」

「とりあえず私は彼を探しに行くよ。カフェは先に準備をしていてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくら広大な敷地を持つトレセン学園でも、ヒト一人を本気で探せば案外早く見つかるものだ。

 

「……トレーナー君」

「どうかした?」

「君は……君たちはここで何をしているのかい?」

「見て分かんねぇのか?宇宙からの電波を受信してんだよ!」

「……相変わらず意味不明だな」

 

 目を瞑り、神妙な面持ちで訳のわからないことを宣う彼女の名はゴールドシップ。

 

 トレセン学園一の奇ウマ娘、私とはこれまた違った意味でヤバい……常人とはかけ離れた思考回路を持つウマ娘だ。

 

「……で、なぜ私のトレーナー君と一緒にいるんだい?」

「あ?こいつも一緒に受信してるからに決まってんだろ!」

「…………」

 

 見るとトレーナー君も同じように両手を広げている。

 

「本当に何してるんだ君は……」

「え?」

「ゴルシ君、悪いが私たちはこの後トレーニングがあるんだ。トレーナー君は引き取らせてもらうよ」

「おう!じゃあな!野良トレーナー!」

 

 ……?彼女に絡まれているのだから、トレーナー君を引きずっていくのはもう少し手こずるかと思っていたが、普段の彼女よりいくらか素直か……?

 

「ほら!トレーナー君行くぞ!」

「えー……もう少しここに……」

「いつも勤勉な君が……本当どうしたんだよ!?」

 

 ゴルシ君を説得するより彼を引っ張っていくほうが手こずるかもな……

 

「ゴールドシップさん!?貴方また他のウマ娘のトレーナーに変なちょっかいを……!」

「おっ!マックちゃんじゃねーか!ちょっと面貸せよ!」

「え、ちょ、どこに連れて行く気ですか!?」

「いいからさっさと来いよ!」

「も、もぉ〜〜〜!!!」

 

 ……向こうは向こうで面倒なことが起きているみたいだ。

 

 振り返らず行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんくらい離れりゃいいだろ」

「ゴールドシップさん?凄い汗ですけれど、一体何があったんですの?」

「汗……冷や汗だなこりゃ」

「……もしかして、あのトレーナーさんに何かされたのですか?」

「マックイーン、あのタキオンとこのトレーナーには関わんな」

「……やっぱり」

「別に何もされてねぇよ、ただ…………」

「ただ?」

「ゴルシちゃんレーダーが言ってんだよ」

 

 

 

「あいつは洒落にならないくらいに、やべぇ」

 

 

 

「どういうことですの?わかるように説明してください!」

「マックちゃんは鏡って知ってるか?」

「……あなたは私をバ鹿にしてるんですか?」

 

「そう、鏡ってのは一見すると物を完璧に反射しているように見えるが、実際は光の八割しか反射してねぇ」

 

「つまり、普段アタシたちが鏡で見てる自分ってのは八割しか本当のアタシたちじゃない、残りの二割はボヤけてるってことだ……流石だなマックイーン!ゴルシちゃんに負けず劣らず博識だぜ!」

「まだ何も言ってません!というよりいきなり何なんですか!さっきから何の話を……」

 

「最初、あのトレーナーがアタシに話しかけてきたときに、なんか妙な親近感みたいなのを覚えたんだ」

 

「でもそれは時間が経つに連れ、親近感とは違った別のなにかだってことがわかった」

 

「……多分、鏡に写った自分と話すってあんな感じかなと思った、そんだけだ」

 

「マックイーン、この話は聞かなかったことにしろ。そんであいつには絶対に近づくな。いいな?」

「……貴方の話が完全に理解できた訳ではありませんが、貴方がいつになく真剣だということは伝わりましたわ」

「わかりました、あのトレーナーさんには極力近づきません」

「よし、ならいい」

「練習も普段からこれだけ真剣なら、皆さん助かると思いますが…………ってゴールドシップさん?」

 

「い、いない………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、トレーナー君も引っ張ってきたし……合同練習よろしく頼むよ、カフェ」

「よろしくおねがいします……」

「カフェのトレーナー君も無理を言ってしまってすまないね」

「気にしないで、カフェにもいい練習になるだろうから」

「ほら!やるぞトレーナー君!!」

「はいはい……」

 

 トレーニングだというのにやる気を全く感じさせないトレーナー君。いつの間にか私との立場が逆転するとは夢にも思わなかったよ……

 

「まったく……君な。それではトレーナー失格だぞ?」

「……カフェ、あいつってあんな感じだったっけ……」

「……トレーナーさんは、何か感じますか……?」

「いや、変なのは感じないけど……まるで別人みたいに雰囲気が違う気がする……」

「やっぱり……」

「カフェには何かわかるの?」

「…………何も」

「以前と同じく私には何も見えません……」

「(それに"よくないもの"の気配も消え……いや、違う……?)」

「そっか……」

「……タキオンさん」

「なんだい?」

「…………早くトレーニングを始めましょう……」

「あぁ、そうしよう」

 

 カフェに言われ、私たちはさり気なくトレーナー君たちから距離を取って軽いウォームアップを始めた。

 

「……それで、何かわかったかい?」

「今のトレーナーさんは……とても……安定しています」

「安定?あれがか?」

「今までの……少しおかしくなってからのトレーナーさんは、間違いなく『不安定』でした……それに比べれば…………」

「ふぅン……」

 

 私には不自然にしか見えない彼も、カフェには一種の安定状態に見えるというのはあまりピンと来なかった。

 

「それか……もしくは…………」

「なんだ、やけに濁すじゃないか。ハッキリ言ってくれたまえ」

 

 

 

()()()()()()()()()か……」

 

 

 

「……?それはどういう……」

「っ!タキオンさんあれ……!!」

 

 カフェが焦った表情で私の後ろを指差す。

 

 私は嫌な予感を振りほどくように、後ろを振り向いた。

 

 そこには…………

 

「トレーナー君……?一体どこを向いて…………」

 

 私たちを見守るわけでも、ましてカフェのトレーナーと話をするわけでもない。

 

 彼の視線はもっと別の方向を向いていた。

 

「お前がしっかり走ってくれないと、俺はこの学園に残れねぇんだよ!」

「ハァ……ハァ……す、すみません……」

「わかったらもう一周行って来い!!」

「は、はい……!」

 

 明らかにオーバーワークのウマ娘と、そのトレーナーらしき人物がいる。

 

 どうやらトレーナーの方が焦りで視野が狭まっているようだ。あれでは勝てるレースも勝てないだろう。

 

 トレーナー君が見ているのはあれか?

 

 だとしたらカフェは何をあせ──

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

「──っ!?」

 

 その口をまるで魚のように動かしながら……死んだ魚のような目で、トレーナー君は二人を見ていた。

 

 どこからどう見ても『安定』とは程遠い。

 

「縺雁燕繧峨ヮ縺帙う!!!!!」

「おい!おま、どこに行く気だよ!!」

「トレーナー君ッ!!」

「トレーナーさん……!今すぐタキオンさんのトレーナーさんを……!!」

 

 とても言語とは言えない叫びを発しながら、トレーナー君はその二人に向かって走り出した。

 

 全力疾走。

 

 その速度は、遥かに人間を超えている。

 

「は──」

 

 そんなスピードとパワーで……しかも死角から飛びかかられたら、誰だってひとたまりもない。

 

 そのトレーナーはトレーナー君に押し倒されて全身を強く打ったようだ。ピクリとも動かない。

 

「キ……キャアアアア!!!」

「縺雁燕繧峨ヮ縺帙う!縺雁燕繧峨ヮ縺帙う!!縺雁燕繧峨ヮ縺帙うッ!!!」

 

 そのままの勢いでウマ乗りになったトレーナー君は、狂ったように動かなくなったトレーナーを殴り始めた。

 

「やめるんだトレーナー君!!」

「本当にどうしちまったんだよお前!?」

「全然動かない……!?」

 

 私とカフェ、そしてカフェのトレーナーの三人でトレーナー君を引き剥がそうとしたがビクともしない。

 

 結局学園の職員総出で彼を取り押さえることになってしまった。

 

「大人しくしろ!」

「縺雁燕繧峨ヮ縺帙うッ!!縺雁燕繧峨ヮ──」

 

 取り押さえられたトレーナー君は、そのまま気を失い、保健室へと連行……もとい搬送された。

 

「トレーナー君…………」

 

 これは、完全に手遅れなのかもしれない。

 

 ……そう私が考えるのだって、不自然な話ではない。

 

 それくらい、彼の様は絶望的で……

 

 嫌でも気付かされる。

 

 彼はもう、私の知っているトレーナー君ではないということを。




読者の皆様のおかげで評価別日間総合のランキングの端にほそぼそとですが載らせていただきました。ありがとうございます。

本編は第4コーナーカーブを曲がって最後の直線です。後二話で決着が付きます。

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