Re:五条悟でヒーローアカデミア   作:わやわや

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待たせたな(白目


五条悟 ①

 真っ白い空間。

 必要最低限人としての暮らしが守られたただそれだけだけの監獄。

 目を開ければ白が、閉じれば黒が。モノクロの世界の中で、唯一カラフルに色を付けた私自身の髪の毛の色。鮮やかな熟れた桃の様な色と、その色を更に際立たせる濃紺色。枷ついた制限された手で、その髪を手で撫でた。トリートメントも何もないから、ケアもまともに出来ずかさついた髪が手に引っかかる。

 

「……はぁ」

 

 吐いた私の息は、収容された犯罪者の健康を最低限守るために導入された設備である最新鋭の空気清浄機に吸い込まれて綺麗になる。

 思わず出した溜息。

 いくら私の身の回りの空気が綺麗になったといっても、私の手はーー体は、見えないこびりついた赤色に汚されているというのに。

 

「――疲れたな」

 

 もうここに来て数ヶ月。

 随分と時間が過ぎた。

 いや、実際は数日しか経ってないのかもしれない。

 部屋に時刻を指し示すものは何もなく、ただ淡々と時間が過ぎてゆくのみ。

 考えて、疲労して。

 味気のない食べ物を口に運んで寝るだけの日々。

 考えるだけは疲れた。

 寝れば自分自信が信じていたものを壊された世界が広がるだけ。うなされて起きれば、汗ばんだ衣服が張り付いて気持ち悪い。

 瞑目して、深く息を吸い込んで吐き出す。

 嫌な記憶ばかり浮かぶが、その中でも輝いたものもいくつかあった。

 

「……私達二人揃って最強、か」

 

 思い出して笑みが溢れた。

 上がった口角。

 呟いた言葉はかつてヒーローとして活躍する前に良くしてくれた先輩の子供の言葉だった。

 出逢ったのは、彼が四歳の頃だったか。

 最後に会ったのは、小学六年になった夏。

 あれからいよいよ中学生になるといった時に、電話をして別れを告げた。

 

「そういえば、もうアイツも中学生か」

 

 昔から無駄に口が悪く、自信過剰、唯我独尊。おまけに傍若無人、可愛げない子供だった。ましてやプロヒーロー顔負けの強個性ときた。

 先輩の子じゃなかったら、個性訓練になど付き合わなかっただろう。

 それでも、あの子と過ごした日々は掛け替えのない日々だった。

 あの心底腹立だしい物言いも、傲岸不遜な態度も、私を必要としてくれて、私と二人なら最強だと言い放った少年にどうしようもなく会いたくなった。

 

「―――ごめんな、()。あんたとの夢叶えられなくて」

 

 ごめんなさい。

 私が望んでいた世界が広がる前に、その世界に絶望してしまう方が先だった。

 信じていた未来が訪れるかずっと不安で、私自身の手が血に塗れて、私を尊敬するファンの人達や先輩、そして悟を穢してしまうのが怖くて。

 夢を守れなかった事に、なにより二人で最強だと慕ってくれていた悟を裏切る結果になってしまった。

 

残り六年(・・・・)、か。私には十二年っていう数字は長すぎたみたいだよ」

 

 言葉を吐いて、私はゆっくりと意識を暗闇に委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なんでこんなチマチマやんなきゃならねぇんだよ。メタスラ狩ってレベル上げしてる方がよっぽど有意義だよ」

「ブツブツ言ってないで、反復しろ。まだ個性にも課題あるんだろ?」

「んな事しねえでも大丈夫だろ、俺最強だし」

「私にやられてるくせに?」

「個性なしの体術勝負で勝った気でいんじゃねーよ! そもそもの体格差考えろ!」

 

 遡る事六年前。

 舞台は資産家特有の広大な敷地の中に、個性使用の練習場として作られた訓練所。

 六歳にしては饒舌に言葉を喋り、自己中心的発言をする少年を咎める女性の姿があった。

 度重なる個性の行使、制御の訓練に並行した体術指導により、少年の雪色の髪は汗で額にへばりつき、地面に座り込んだままで、まるで空を閉じ込めた様な色の瞳は憎らしげにも一つも汗をかいていない女性を映す。

 そんな負けん気の強い目で睨まれた女性は肩をすくめた。

 同時に揺れる鮮やかな桃色とは対照的に、深海の様な暗い青色のバイカラー。

 無駄なく鍛えられた肉体は出るとこが出て、引くとこは引いている女性的曲線美。

 その相貌はメディア露出した有名なアイドルと遜色の無い程に整っていた。

 

「個性使えない様な状況になったらどうするつもりなんだよ」

「俺が? なるわけねえだろ。なる前に倒せば問題ないし、なっても捕まえればいい話だし」

「ヒーロー目指してんなら被害は最小に留める事を覚えなさいっての。一般人だっているかもしれないし、その人達が被害被ったらあんたのせいだよ」

 

 そう嗜める女性――筒美(つつみ)火伊那(かいな)の言葉に、鬱陶しそうに張り付いた前髪をかき上げながら少年――五条(ごじょう)(さとる)は鼻で笑う。

 

「被害出たって、それ以上起きるかも知れない事防げるんだからいいでしょ」

「ダメに決まってんだろ」

 

 とんでも無いことを言い退ける六歳児に、火伊那は呆れた様にため息を吐いた。

 くびれた腰に右手を置いて、五条を諭す様に言葉を続ける。

 

「弱きを助け、強きを挫く。それがヒーローの仕事だよ、弱きを助ける為に被害を出していいって事にはならないんだよ」

「わかったわかった、頭固いんだよ火伊那は。まったく、弱い奴らに気を遣うのは疲れるよホント」

「あんたって奴は……なんで先輩みたいな人からこんな子が産まれてきたんだか」

 

 思わずため息を吐いた。

 何で尊敬する火伊那の先輩である人から、目の前の少年が出てきたのかわからない。

 親が聖人だから、子供に負の面を凝縮したのだろうか。

 

「悟がプロヒーローになったら大変だね」

「人気で?」

「ジコチューすぎてだよバカ」

 

 後ろで喚く五条を鼻で笑い、少し二人から離れた所に置いていたペットボトルに手を伸ばす。

 これは、五条への指導中に先輩であり五条の母親である女性が持ってきたものである。

 指導中礼を言ったが、改めてまた後でお礼しに行こうと思いながら蓋を開ける。

 清涼飲料水特有の爽やかな匂い、唇を飲み口につけて喉を鳴らし一息にペットボトル半ばまで飲んだ。

 水分を含んだ舌で、少しばかり乾いた唇を舐めて艶をつける。

 蓋を閉めてから、未だ吠えている五条に振り返りペットボトルを投げ渡す。

 

「火伊那のくせに気が利くじゃん」

「一言余計なんだよあんたは」

 

 言いながらも五条は、火伊那の飲み掛けのペットボトルの蓋を開けて勢いよく飲み干した。

 そのまま、五条が個性を使用。

 ギュバッ! という音を上げながら、個性により生まれた引力がペットボトルをスーパーボール程に圧縮した。

 

「ヒーローよりかは清掃員の方が向いてんじゃない? でっかいゴミでも圧縮出来るんだし」

「あ゛? やだね、カッコ悪い」

「私が名前つけたげるよ、清掃ヒーローサイクロンなんかどう?」

「泣かす!」

 

 火伊那の煽りを真に受けて、青筋を浮かべた五条が間を詰める。

 なんだかんだ真面目な子だ。

 個性を使わず、六歳児なりに発達した筋肉をフルで活用しこちらまで駆けてくる。

 成熟し、激務と戦闘により磨き抜かれた火伊那の動体視力を持ってすれば遅すぎる速度。

 個性を使えば、そこら辺の大人顔負けの身体能力を持つ癖に変に律儀なやつ。そう火伊那は思いながら、五条の言葉を鼻で笑って返事する。

 

「泣かされるのはそっちだろ!」

 

 本日二度目の体術訓練が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今日も私の勝ちだな」

「はぁ……っ、はぁっ。覚えてろよ、いつか泣いて謝らしてやる」

「ははっ、楽しみにしてるよ」

 

 土の上に背中から倒れ込んだ五条が息を荒げながら悪態をつけば、笑って見下す火伊那。

 陽も落ち始めた夕刻。

 斜陽が火伊那の横顔を照らし、その端正な顔についた汗が反射し煌めいた。

 地面から見上げていた五条の目には、それはとても幻想的に見えた。

 何処か遠くに行ってしまいそうで、近くで縛っておかないと消えてしまうんじゃないのかという錯覚。

 

「……火伊那」

「どうした?」

 

 五条が名前を呼ぶ。

 反射的に景色を眺めていた火伊那が、五条の方へ顔を向けた。

 

「―――俺がプロヒーローになったら、火伊那のこと相棒(サイドキック)にしてやるよ」

「………はぁ?」

 

 よっ、という掛け声と同時に飛び起きた五条が呟いた言葉に火伊那は目を丸くさせ声を上げる。

 突拍子もない言葉だった。

 

「そこは普通私がサイドキックにしてやるって言うとこだぞ」

 

 驚きながらもなんとか捻り出した言葉。

 ヒーローとしても、年齢的にも二回り近く離れた子供に言われた言葉に返すとしては正しい返しになった。

 

「はっ、イヤだね。俺、誰かの下に付きたくねえし」

 

 そう口を尖らせて言い放った五条。

 心底イヤそうに表情を顰めていた。

 

「俺様系はイマドキ流行んないよ」

「神は言った、五条悟(おれ)の上に人を作らず」

「目上は立てな」

 

 軽口の応酬。

 気が抜けるほどの受け答え。

 ただ、火伊那を見つめる五条の目は訓練中見るよりも真剣だった。

 その目に火伊那は吸い込まれた。

 若干六歳の子供に気圧されたのだ。

 

「大体、あんたがプロヒーローになるまで何年かかると思ってるの」

 

 気圧されたのを悟られたくなくて、顔を背けて反論する。

 事実、ヒーロー飽和社会とさえ言われているこの時代でプロヒーローになる為の免許を獲得し事務所を立ち上げ経営するのがどれだけ大変な事か。

 

「あと十二年」

 

 そんな火伊那の言葉に、さも当然に五条は返す。

 

「高卒すぐプロで事務所建てて上手くいくと思ってるのがおかしいんだって」

「上手くいくでしょ、俺と火伊那がいればヨユー。俺ら最強でしょ」

 

 迷い一つも感じさせない言葉だった。

 思わず背けた顔をもう一度五条に向けた。

 辺りは煌々と赤らんでいるというのに、昼間の様に快晴を写し込んだ目がじっと火伊那を見つめていた。

 本当にそうなると信じている声と瞳だった。

 

「その頃になったらもっと個性上手く使いこなせてるハズだ。そしたら、俺浮けるだろうしね。火伊那の個性(ライフル)有れば長距離制圧もヨユーじゃん、ロマン溢れるよね。空中移動可能長距離砲台」

 

 両手を大きく広げて五条が言う。

 屈託ない顔で笑顔を浮かべながら、未来の事を当然のように語る。

 

「それ私があんたに抱き抱えられてるって事でしょ」

「そうだけど?」

「その頃には私も三十後半だっての、やだよ恥ずかしい」

 

 火伊那は言葉で訪れてほしく無い意味分からないスタイルを否定はしつつも、不思議と五条のサイドキックになる事をもう拒んでいなかった。

 純粋にそうなると自信満々に言う五条の言葉に、本当にそうなると確信めいたものを感じたのだ。

 ただ、

 

(それを信じたい、そう思ってるだけかも知らないけど)

 

心の片隅で自問自答して辟易する。

 

「オールマイトだって現役やってるだろうし、そう簡単に超えられると思う?」

 

 未だこちらに笑顔を向けている五条に悟られまいとする為に話を変える。

 

「筋肉だけのオッサンなんかヨユーでしょ、マニュアルで今使ってる無下限をオートマで出来るようなれば殴られても効かないし」

「サラッと物理で戦おうとしてんじゃないよナンバーワンと」

 

 話を変えたが、思わぬ回答に苦笑する。

 

 ――でも、まあ。

 

 そう火伊那は言葉を続けながら空を仰ぎみた。

 五条の瞳とは正反対の空模様、それをその紫の瞳に映し込んだ。

 その夢を叶えてあげよう、そうなればいいと思いながらも難しいとも思う。

 火伊那は現在公安所属のヒーローだ。

 公安の職務は正義を作ること(・・・・・・・・・・・・・)

 その手で、偽りの社会を維持する事が仕事だ。

 敵もヒーローもそこに関係はなく、社会の基盤を揺るがし得る存在だと公安が判断した際に社会から抹消するのが公安本来の職務。

 ただ、それを終えた未来。

 綺麗になった社会で、五条が立ち上げたプロヒーロー事務所のサイドキックとして二人で仕事に追われる日々が待っているとするのなら―――

 

「―――悪く、ないか」

 

 息を吐き出した。

 夕焼けよりも赤黒く染まったこの手で、自信過剰でどこまでも白い少年の未来を守れるのなら。

 

「十二年以上は、私も待たないからな」

「当たり前じゃん、俺からしたら桃鉄九十九年やるより簡単な事だよ」

 

 拳をお互い突き出して、こつりとぶつけ笑い合う。

 

(――あぁ、どうか。こんな日々が続きますように)

 

 五条の夢に祈りを込めて、また空を仰ぎみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時節は移ろい、五条の姿も大きく変わった。

 身長は百七十センチ近くに伸び、その肉体は日々の鍛錬により引き締まっている。なにより、幼さを残していた相貌は大人びてきた。

 この春、中学生に上がる頃。大きく成長したその五条の端麗な容姿は、道を歩けば芸能事務所にスカウトされ、道行く女性に声を掛けられることも多い。

 そんな五条も、今日も今日とて運動着を身に纏って敷地内の訓練場に足を運んでいた。

 手先を撫でる風は、もう二月も下旬だと言うのに酷く冷たかった。

 

「術式順転――蒼」

 

 ゆっくりと人差し指以外を握り込み、その立てられた指先に蒼の光を灯す。

 光球は最初スーパーボール程の大きさだったが、ゆっくりとその形をソフトボール程まで膨張させる。

 

「っふ!」

 

 息を強く吐き出して、光球を操作する。

 五条の周囲を時計回りにぐるりと周回しながら、大きく円を描く。

 手から離れたそれは、砂埃を吸い込みそれに飽き足らず地面を抉る。

 更に一つ、また一つと五条から放たれた蒼球が自我を持つかのように動き始める。

 ふつりと五条の額に汗が噴き出る。

 ずっと課題だった個性の複数発動。

 慣れてきたが、一つの操作よりもよっぽど緻密な操作をしなければならない。

 その球体が五を超えた頃、バツンと音を立てて消失。

 ただそこに残ったのは、まるで食い進んだかの様にいくつもの線を残し抉られた痕跡のみ。

 

「……っはぁ。まだこんなもんか」

 

 最強の道のりはは未だ遠い。

 確かに、五条の個性は他の追随を許さない程優れている。

 その端正な顔立ちに彩りをつける両目は青色。

 六眼と称される瞳は、相手の個性因子を映す事が出来る。

 自分の意思にはなるが、やろうとすれば三百六十度死角を潰し個性の動きを感知する事が出来る。

 相手の個性を視て戦略を練る事が出来るし、相手が近づいて攻撃してこようものなら、身体に貼った無限の膜で動きを止める事が出来る。ましてや、全身に個性を行き渡らせる事で身体能力を上げる事も出来る。

 ただ、無限を使おうにもマニュアル展開の都合上、四六時中隙無しの状態を作る事はムリだ。タイマンでは最強だが、無敵ではない。

 相手が感知出来ない程の速度で近づいてきたら、無限を展開するまでに攻撃を受けてしまう。

 脳が疲労していれば、展開の速度も落ちる為その隙を縫って攻撃を浴びる可能性もあるのだ。

 

「オートで術式ブッパ出来んのも五分が限度、反転術式覚えなきゃダメか」

 

 五分以上オートで術式行使すると脳が悲鳴を上げる、激痛が苛み術式使う所の話ではなくなる。

 欠点は多い。

 

「――頭ン中にある記憶だけじゃなんともならないか」

 

 ふぅーっ、と息を長く吐き出してその場にあぐらをかいて座り込む。肘を組んだ膝の上に置いて手で首を固定する。人差し指で軽く頭をこつこつとつつきながら思考する。

 脳内の五条悟のイメージを思い出す。

 

転生して十二年か(・・・・・・・・)

 

 記憶にある五条悟を引っ張るよりも先に、前世の記憶が脳を占めた。

 不慮の事故により命を落とし、二度目の人生を歩み始めてもう十二年の月日が流れた。

 元を正せば、五条悟という人物(キャラクター)は呪術廻戦というタイトルの人気コミックに登場する。

 ブラック企業勤めで、擦り切った精神を安定させる為に読んでいた漫画やアニメ。その中でも一番好きだった作品のキャラクターにひょんなことから転生した。

 当初、呪術廻戦の世界そのものに生まれ落ちたものだと思っていたが全く違う世界に五条悟として生まれ変わっていたのだから驚いた。

 紆余曲折あった。

 思っていた数十倍裕福な家庭に生まれ、個性の発現。母親の後輩である火伊那から、職務の合間や休日に個性の訓練に付き合ってもらう日々。

 頭の中にある五条悟には程遠いし、個性に関しては持て余している気もしなくはないがそれでも前世よりもよっぽど充実していた。

 

「さっさとモノにしないと、火伊那に笑われる」

 

 言葉に出して立ち上がる。

 精神統一をする為に、瞑目し呼吸を整える。

 新鮮な空気を脳に巡らせて、個性を発動させようと手を前に出した。

 

 ピリリリ―――。

 

 突如響く冷え切った空気を裂く電子音。

 震えるズボンに気怠げに手を入れて、スマホを取り出す。

 

「朝から誰だよ――火伊那じゃん」

 

 冷えた指先で端末を操作して、耳に当てる。

 

『――もしもし、悟?』

「こんな朝からなんか用? 俺の声聞きたくなったの? 寂しんぼだね火伊那は」

『そう、かもしれないね』

 

 いつも通りに茶化そうとした五条の言葉に返ってきたのは、火伊那らしからぬ言葉だった。

 いつもなら、鼻で笑うだけなのに今日の火伊那は違うらしい。思わず、水分補給しようと手に取ったペットボトルを落としかけるぐらいには五条にとっても衝撃だった。

 

「マジでどうしたの、火伊那らしくねえ」

『ちょっとね、あんたのバカっぽい声聞こうと思ってね』

「はあ? そんなんでわざわざ朝から掛けてきたの? 会いにくりゃいいじゃん」

『色々あってね、会いに行けそうにないんだ』

 

 どことなくやつれた声。

 電話越しでも分かるほどに疲弊した声に五条は、思わず声をかけた。

 

「メチャクチャ疲れてんじゃん、大丈夫か? ちゃんと寝れてんのか?」

『―――っ』

 

 五条の一言に、受話器の向こうで息を飲む音がした。

 どんな表情を浮かべて、どんな顔で話しているのかわからない。

 

「何かあるなら助けてあげよっか。俺と火伊那が揃えば解決しないことなんてないでしょ」

『……いや、大丈夫だよ悟。ありがとう、声が聞けただけでもよかったよ』

「らしくねえな。あと六年もしたらプロヒーローになってんだから、ちゃんとしろよ」

『そう、だな。あと六年、か』

「……マジでどうしたんだよ火伊那」

 

 ペットボトルを握る手にも思わず力が入った。

 蓋をしていたから内容物が溢れ出す事はなかったが、圧力で中の液体が圧迫され今にも吹き出しそうになっていた。

 

『……ごめん悟。私、もう待てそうにないんだ』

「あ゛? 何言ってんだよ」

『ごめん、さよなら(・・・・)

「は? オイ! 待てよ火伊那! ―――何なんだよ」

 

 五条の制止むなしく、受話器から聞こえる切断音。胸中をざわつかせる言い知れぬ悪寒。

 気にかかる最後の言葉。

 その数分後だった、突然駆け寄ってきた母から告げられた言葉に愕然としたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筒美火伊那。

 ヒーロー名レディナガン、同行していたプロヒーローとの押し問答の末、同行していたプロヒーローを殺害し逮捕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テレビの向こう側で、布を被せられて俯いた火伊那の姿。それを見て泣く母の姿が凄く印象に残る。

 握り潰したペットボトルから溢れ出す水が手を濡らした。

 

 

 

 

 

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