「サクマ、10歳の誕生日おめでとう! お父さんからはモンスターボールのプレゼントだ」
「モンスターボール!? ねぇ、開けていい!」
父から差し出された横長のプレゼント箱の包装を、返事も待たずベリベリと剥がす。
透明なプラスティックケースの中には、ピカピカに磨かれた6つのモンスターボールが入っていた。
「わぁー!」
初めて貰ったモンスターボールで何を捕まえようか、どんなトレーナーになろうか、沢山の夢が頭の中を飛び交い、瞳を輝かせる。
「はいサクマ、ママからはおっきなチョコレートケーキよ」
今日は特別な日の中でも、一番の"特別"な日。
10歳になれば、子供たちはポケモンを貰って旅立つことができる。
ポケモントレーナーになれる。
もちろん、サクマはポケモントレーナーになって旅に出るつもりで、お皿に出されたケーキよりもモンスターボールの方に視線を奪われていた。
だが
「ん……? お父さん、これ、ポケモン入ってない?」
「そんなはずはないぞ? お父さん、ちゃんと新品を買ってきたんだが……」
ボールの中には、小さくなったポケモンが眠ったまま入っていた。
サクマは見覚えのないポケモンたちに戸惑い――見覚えが
それは
ポケットモンスターという作品を知っている地球世界の
例えば、立方体をまっすぐに切断すると、その断面は三角形にも四角形にも六角形にもなる。二人はこの"断面"が異なる存在であり、どういうわけか一方の記憶やらなにやらが、モンスターボールをきっかけに流入して混ざった。
そんな事を、サクマは知る由もない。
このポケモンがどこからどうやって来たのか、誰も知らない。
ただ、先程までの喜びはどこへやら、呆然とした。
ガルーラ、ヒードラン、ボルトロス、ランドロス、クレセリア、モロバレル。
モンスターボールに入っていた6匹のポケモン。ダブルバトル用に組み上げたパーティー。
――こんなもの、どうしろと?
夜を徹して考えなければならなかった。
実体を伴って現れた命は、考えなしにボールから出すには厄介すぎる存在だった。
ヒードランはともかくとして、ボルトランドクレセの三体はあまりにも存在が貴重すぎる。プロの試合でもお目に掛かったことがない。ドキュメンタリーの中で流れる資料映像が関の山だ。
自衛能力なしに衆目に晒すのはいけない。
とはいえ、手放すのは惜しい。
経緯はどうあれ手に入ってしまったのだから、所有権を主張したい。6匹の力があれば、トレーナーとしての高みへ行ける。限界まで育てられた6匹だ、主流のシングルバトルでも生き残れるだけのポテンシャルはある。
だが、この、モンスターボールに入った6匹が言うことを聞くとは限らない。
よく知っているが、よく知らないのだ。
サクマは朝日が登るまで悩み抜いてから、一匹のポケモンをボールから出した。
***
シンオウ地方、ヨスガシティの小学校に通うナオは、幼馴染のサクマが暗い顔で登校してきたことが気がかりだった。
十歳になったら旅に出ると張り切っていたものの、持ち前の快活さは鳴りを潜めていた。
「サクマ、なんか元気ないけど……誕プレが頼んでたやつじゃなかったの? モンスターボールが欲しいって――」
「いや、うん、頼んでたモンスターボールだけど、頼んでたモンスターボールじゃなかったんだよ」
「スーパーボール?」
「いや、そーゆーんじゃないんだよ……マジで」
サクマの憂いは、車や家のローンの支払に悩んでいる中年男性のような、逃れられないのに手放すことが出来ない厄介さを孕んでいた。
思い悩む彼の顔は、とてもじゃないが小学生のそれではない。
「ふーん? で、いつ出るの?」
「何に出るって?」
「何って、旅よ!」
「あー……それな、止めようかと思ってんだよ」
「はぁ!?」
目をカッと見開いて勢いよく振り返ったナオは、サクマの肩を掴んで思いっきり叫んだ。
「なんでそんな事……っ!」
「まー、事情があるんだよ、事情が」
あっけらかんと言ってのけた彼に、めまぐるしく表情を変えた。
やがて、目尻に涙を浮かべると、ボソリと呟いた。
「……最低」
あっという間に走り去った背中を、サクマはぽかんと見つめていた。
「えぇ……? なんで?」
その日、二人が口を利くことはなかった。
今のサクマも、
『サクマが先に行っても、必ず追いつくから! 一緒に旅しようね!』
二人が共に旅をする日が来るかは、まだ分からない。
***
家に帰ったサクマは、ランドセルを玄関に放るなり、居間でくつろいでいる母に声をかけた。
「母さん、大丈夫だった?」
「大丈夫って何が?」
「いや、あれ……ガルーラだよ」
夜を徹して繰り出した一匹のポケモンはガルーラ。ご丁寧にガルーラナイトを持っていたが、キーストーンを持っていないのでメガシンカはできない。
ガルーラを選んだのにはもちろん理由がある。他の5匹よりマシだからだ(小学生並みの感想)。
「ああ、ガルちゃん? 良い子よ~、サクマと違って家事のお手伝いもしてくれるし」
それならいいけど、と適当に相づちをうって自室に駆け込む。
サクマの部屋の真ん中では、ガルーラのこどもが積み木で遊んでおり、その様子を隅の方でガルーラが見守っていた。
「……ガル」
ガルーラはサクマを一瞥して鳴くと、視線を戻した。
こどもを大切にするというガルーラに、数メートルという距離まで接近できていることを考えると、サクマはある程度気を許されている。
しかし、困惑してはいた。
何が何だか分からないが、とりあえずここに居ようという微妙な空気をサクマは鋭敏に感じ取っていた。
ここで積極的に距離を詰めることは、できなかった。
万が一機嫌を損ねれば"もしも"がある、相手はレベル100のガルーラだ。いや、レベルが例え1だとしてもサクマは勝てやしないだろうが、一命を取り留めるか否かの差はある。
それにもっと別の問題もあった。
ガルーラは、果たして戦いを望んでいるのかどうか。
恐らく、ゲームの世界からやってきたであろう存在を、ポケモンバトルに引っ張り出していいものなのか――。
微妙な空気のまま数日が過ぎた頃、母親が夕食の席で一枚のチラシを差し出した。
「ねぇサクマ、ガルちゃんとバトルしてきたら?」
チラシには、10歳限定ポケモンバトル大会と記載されていた。
「えー……バトルか」
「チャンピオンになるって言っていたし、経験を積んできたら?」
母親はのんきな性格で、新品の筈のボールにポケモンが入っていても「まぁ珍しいわね」で済ませるような人だ。父親はうっかりやな面もあるが、流石にポケモンが入っていた事には怒っていた。
母親が父親をなだめたのでどうにかなった。
まぁ、つまり、母はガルーラを気に入ってしまったのだ。下手をすると、サクマよりも親しいかもしれない。
「ガルーラ、ポケモンバトルするか?」
横でこどもと一緒にポケモンフーズを食べていたガルーラに聞くと、彼女は首を縦に振った。
即答した、というより、やって当然であるという
「あら、良かったわね! 今度の日曜日はお弁当作ってあげるからねぇ、頑張ってきなさいよ」
ニコニコと笑う母親とは対照的に、サクマはぎくしゃくとした顔で返事をした。
――レベル100のポケモンを出して大丈夫か!?
結論として言えば、それは大丈夫だった。なお倫理的な問題は無視するものとする。
サクマがネットで調べたところによると、ポケモンの"レベル"というものは、データ化したポケモンのデータ量を示す指標のようなものであるらしい。
例えば、ガルーラはレベル100なので100MB、そこらへんのワンリキーはレベル12なので12MBといったものだ。尤も、サクマはこういった知識を動画サイトの解説動画で見知ったので、詳しくは知らないし厳密には違う。
レベルが高ければ当然、諸々のスペックが高く強いということにはなるが、12レベルのワンリキーで100レベルのガルーラは倒せないといわれると、そうではない。
生き物である以上、攻撃がみぞおちや首などの急所に当たれば、決して少なくないダメージを受けるし、それが続けば戦闘不能にもなる。
相手も棒立ちのまま攻撃を受けてくれるわけではないので、当然、レベルの高いほうが延々と攻撃を当てられないようなことも起こりうる。
……ただ、その事を差し引いても、レベル100のポケモンはその圧倒的な能力によって初心者を蹂躙することが可能だ。
大会当日、ヨスガシティにあるスタジアムを貸し切って、ポケモン大会が開かれた。
100を超える参加者が集まり、それを応援する家族や見物に訪れた人々で客席はいっぱいだった。
とはいえ、10歳と銘打っている以上、ジムバッチをいくつか集めているような"猛者"たちも参加している。
普通の、映画を見に行くようなラフな私服で会場を訪れたサクマは、想定していた規模を遥かに上回る熱気に圧倒されていた。
彼はもっとこう、街の子供会が主催する参加者20名程度のこじんまりとしたイベントを想像していたのだ。
そんな場所にレベル100のポケモンを出そうとするんじゃない、という誹りは受け付けていない。簡単にとはいえ、ガルーラと約束してしまったので反故にすると後が怖い。
それが、どうだ。
これはまるで、部活の大きな大会のようではないか。
まるで、真剣勝負のようではないか――!
「サクマ……?」
ショックを受けている彼の背後から、聞き覚えのある幼馴染の声がした。
ナオは振り返ったサクマを見るや嬉しそうな顔を一瞬浮かべ、ばつが悪そうに目をそらした。
「……ナオも、出るのか?」
「…………」
少しばかり沈黙したあとで、呟く。
「別に、出ないけど……そっちは?」
「出ようと……思ってさ、ネットで参加申請もしたんだけどさ、ちょっと、困ってる」
ナオはまたもや衝撃を受けた。
旅にも出ていない、ポケモンも持っていなかったサクマが大会に出るだって?
「旅には行かないくせに、大会は出るんだ」
「……別に出たっていいだろ」
「よくない!」
「はぁ? 何でだよ」
「10歳になるまでポケモンも持ってなかったのに、大会に出たって勝てるわけ無いじゃん! この大会がヨスガトレーナーの実質的な登竜門だって知らないの!?」
わお、と口の動きだけで驚いたサクマに、ナオは距離を詰めてまくし立てた。
「なにそれ! ネットで予約したくせにそんなことも調べてないの!?」
「いや、まぁ、最近は便利になってるんだなーって……」
「ほんと、無鉄砲なんだから――」
と、ナオはそこまで言いかけて、頬が緩んでいる自分に気づいた。
サクマはその笑顔に釣られて、少しだけ笑った。
「まぁ、そういうわけで、受付行ってくるわ」
「ちょっと待って、サクマのポケモンは?」
周囲の若きトレーナーたちは、結構な割合で相棒のポケモンを側に連れていた。その多くがナエトルヒコザルポッチャマ――通称シンオウ御三家で占められていた。
旅に出るトレーナーなら、近くのポケモンセンターで申請すれば御三家がもらえるのだ(手続きにはとても時間がかかる)。ナオはシンオウ御三家のどれかを連れているんだろうと予想していたが、それは見事に外れることになる。
「んー……まぁ、その、試合で……な」
「変にもったいぶらなくていいって、ポケモンセンターでもらえる三匹のどれかでしょ? あ、分かった! 私が有利なタイプを選ぶと思ってるんでしょ?」
「いや、ソレが違くて……」
サクマとしても、見せびらかすようなポケモンではない。
他人とは違う入手方法であり、それはある種の"不正"のように後ろめたかった。手に入れた当初は利用する気満々だったが、それはそれだ。
なので、こうして請われてガルーラを見せるというのは、サクマにとっては好ましくない。
そんなやり取りをしていると、にわかに入り口のほうが騒がしくなった。
二人して自然と会話を切り上げ、そちらに視線を向けると一人の男の子が入ってきた。
「あいつだよ、バッジ三個持ってるっていう……」
「うわ、優勝候補じゃん」
彼の評価は耳を澄ませなくても入ってきた。10歳の時点でバッジを3個も集めた、才能あふれる人間。
今のペースだと、11歳になる前に5つは集めると言われているらしい。
「サクマ、見て。アレ優勝候補のカワサキだよ」
「へー、凄いの?」
「そりゃあ、同世代だし凄いよ」
「ふーん……」
受付を済ませてナオの元に戻ると、貰った冊子を片手に二人で対戦表を確認した。
「Dリーグの12番……あった」
Dリーグの人数は少なかったので、すぐに自分の名前が目に入った。指で名前をなぞると、ナオは「あぁ」とうめき声を上げた。
「Dリーグかぁ……」
「え、なんかあるの?」
「ううん、別に。Dリーグはポケモンが4匹に満たない人とか、10歳になったばっかりの人が出る、初心者が集まる所なの」
「へ、へぇ……」
「で、勝ち続ければCリーグと合流、ABCの上位2名が戦うんだけど、Aリーグの人はシード枠で――」
サクマは適当に相槌をうちながら、ナオが取った冊子のページを捲る。
「お、これ参加者のポケモンのリスト?」
「そうそう! 試合形式が4-2で、あ、4-2っていうのはポケモン4体まで登録して、うち2体を試合のたびに選んで出すんだけど、リストが事前に公開されているから対戦相手が何のポケモンを出すのか考えないといけないの」
得意げに話をする彼女をよそに、サクマはパラパラとページを捲っていく。Dリーグの欄に自分の名前を見つけ、ついでに他の参加者のポケモンを見やる。
「進化前多いな……御三家ばっかだし、居てもビーダルムックル系だし」
「そりゃ、初心者だもん。サクマは…………ガルーラ? この辺に居たっけ?」
「……居たんだよ、たまたまゲットしたの」
「ふーん、ラッキーじゃん」
ラッキーじゃなくてガルーラ、とサクマは阿呆なツッコミを入れつつ、棄権を視野に入れていた。
初心者に混じって、強いと分かっているポケモンを出すのは恥ずかしい行為じゃないか?
せめて、もう何匹か適当に用意して、Cリーグ辺りに出ておくべきじゃ――
「Cリーグと合流できたら良い方かな。ポケモンが少ないし、回復してもらえるけど連戦になるから、スタミナがないと駄目なんだよね。そこらへんの戦略も組んでおかないといけないから、登竜門って呼ばれるの」
「……ま、Cリーグくらいは目指しておくか」
迂闊なことを言ったせいで何いってんだコイツ的な視線を浴び、目をそらす。
その後は、遅れてやってきた母親に構い倒されたりして時間を潰し、開会式だの何だのを挟んでから試合だ。
「Dリーグ、5番と12番の方は、速やかに第4コートに入場して下さい」
大きなスタジアムにはバトルができるコートが4面も並んでいた。
サクマもナオも、プロのポケモントレーナーたちがフィールドを目一杯使って戦っているのをテレビで見たことがある。
率直な感想を述べれば狭く、枠線をはみ出ると場外で失格になってしまうので気をつけないといけない。
しかし、運営側はそこまでの規模の戦いにはならないと見込んでいた。
「それでは、5番モオブ選手と、12番サクマ選手の試合を始めます!」
「いけー! ムックル!」
かわいらしく鳴いて現れたのは、序盤鳥のムックル。シンオウ地方の結構な場所に生息しているので、入手は容易だ。
「サクマー! 頑張るのよー!」
「お父さんビデオ取ってるからなー!」
苦笑いをしながら、サクマもボールを軽く放った。
ズシン、と重量感のある音を立てて現れたのは、おやこポケモンのガルーラ。高さは約2.7メートルと、通常のガルーラよりも一回り大きく、初心者のポケモンにしては貫禄があった。
会場の一角がわずかにシン……と静まり返ったが、それはスタジアムの喧騒に飲まれて消えた。
体格差は約9倍。0.3メートルしかないムックルにとっては、さぞ強大な相手に見えているだろう。
「それでは、試合開始!」
「ねこだまし!!」
いざバトルフィールドに立つと、サクマの心の中からは手加減するとか、わざと負けるといった考えは消え失せていた。
会場の騒ぎに飲まれないよう大声で、審判が合図を言い終わった瞬間に指示を出す。
タイミングは完璧だった。
完璧じゃなかったのは、ガルーラだった。
「ムックル、つばさ――」
対戦相手が指示を出しているのを聞き、ガルーラはちらりとサクマを一瞥して、一拍だけ間を置いてから、指示通り「ねこだまし」を繰り出した。
その巨体に見合わぬ軽やかなフットワークであっという間に距離を詰めると、ガルーラは爪の生えた大きな手のひらで、ムックルを張り飛ばした。
試合開始、わずか2秒のことだった。
ムックルは翼を広げて飛び立ったばかりで、技を繰り出す態勢に入ろうとしている所だった。
地面に叩きつけられ、2回ほどバウンドしてから、止まる。
(猫騙しっていうより、ビンタじゃん)
「む――ムックル戦闘不能! 勝者、サクマ!」
お互いに手持ちは一匹だったので、勝敗はすぐに決した。
白線の外に待機していたポケモンの看護師たちがわらわらと集まり、手早くムックルを治療していく。
「うわぁぁあああああああ!! ムックル! ムックルっ!!」
泣き叫ぶ目の前の少年を見て、奇しくもガルーラとサクマの内心は一致していた。
無感動。
ガルーラをボールに戻さず、観客席にある選手用スペースに戻る。
試合前までは、Dリーグの選手同士で和気あいあいとしており、勝っても負けてもその空気が損なわれることはあんまりなかった。
今は、信じられないものを見るような視線が突き刺さる。ちょっとしたお通夜だ。
あまりにも居た堪れなくなったので、サクマは両親とナオのところへ戻った。
戻ってくるサクマを見るなり、最初に口を開いたのはナオだった。
「ねぇ、そのポケモンどこでレンタルしたの? それとも、誰かから貰った?」
ナオは耳元に口を寄せてそう言った。
誰にも言わないよ、などと付け足して。
「ちげーよ」
「嘘つき、親ポケなんてマナー違反だよ」
親ポケ、いわゆる「親からもらったポケモン」だ。親からもらった、の部分は人から借りたとか買ったとか、色々と侮蔑的ニュアンスのある言葉が入る。
つまり、自分で育てたわけでもないのに、「最初から強いポケモン使ってんじゃねーよハゲ!」ということである。
「知らねーよ、こいつは俺の――」
――俺の、ポケモンか?
サクマは言葉に詰まる。
確かに、ゲーム上では"育てた"かもしれないが、それは飼っていた子犬に餌を与えて躾をして大人になるまで面倒をみた時の"育てた"とは違う。
それなら、誰のポケモンだ?
「ほらやっぱり。あんな強いポケモン、すぐに言うこと聞かなくなるんだから」
ナオがDリーグの試合をしているコートを指した。
そこでは、親ポケのゴウカザルとヒコザルが対面していたが、試合結果はヒコザルの勝ちだった。バトルとなるやいなや、闘争本能を剥き出しにしたゴウカザルは持ち主の言うことを聞かず、勢い余って白線の外に飛び出したのだ。結果、場外負け。
「強いポケモンには、強いポケモンのフィールドがあるの。こんな狭い場所じゃすぐに場外で負けるんだから」
「ガァッ!」
「キャッ! な、なに……?」
ガルーラが短く唸り、ナオを脅かした。
二人の気持ちは、奇しくも一致していた。
俺が、俺たちが負けるわけない。
パーティーが揃っているわけでもなければ、メガシンカできるわけでもない。この世での対戦経験も乏しい上に、根拠のない自信だ。
ナオと、そして多くの選手の予想に反して、サクマたちは勝ち進み、Cリーグと合流した。
試合は全てねこだましによるKO勝ち。
Cリーグに入ると、特性がんじょうのポケモンであったり、ゴーストタイプのポケモンが出てくることもあったが、大した問題ではなかった。一匹が二匹に増えても、関係ない。
いじっぱりなガルーラは負けたくないという一心で指示に従ったし、自分でも理解できない意地に突き動かされたサクマは、冷たい視線に晒されても一切を無視した。
参加者125人、朝8時に始まった大会は、16時になってその参加者を6人にまで絞っていた。
選び抜かれた6人は一度集められ、運営から色々と注意事項を聞かされた後に解散となった。
試合までの十数分、適当にブラブラして時間を潰そうとしたが、サクマは苛立たしげな声に呼び止められた。
「おい、Dリーグ上がりのオマエ」
6人が集まった時からサクマを睨んでいた、気の強そうな少年が行く手を遮った。何かに憤っているようで、視線が合うなり胸ぐらを掴んで怒鳴り始めた。
「テメーそんなポケモンで勝ち上がって恥ずかしくねぇのかよボケェ!」
「キメーんだよいきなり話しかけやがって口くせえんだよクソガキィ!」
突然売られた喧嘩に対し、瞬間湯沸かし器のようにヒートアップしたサクマは負けじと言い返す。胸ぐらをつかみ返し、二人が自分を掴む手を引き剥がそうと力を込める。
少年の危機に呼応してモウカザルとルクシオがボールから飛び出すと、唸り声を上げてサクマを威嚇する。
緊張感が場に漂い、他の四人は身を守るために腰のボールに手を伸ばす。
それでもサクマは引かず、彼の腕に爪を立てた。
モウカザルの口から炎が漏れ出ると、重い腰を上げるようにガルーラが現れる。ただ、緊張感はなく、おもむろにヒメリの実を食べ始めた。
シャクシャク。
倍以上の体格差に少年のポケモンは思わず後退りするが、負けじと一歩踏み出した。
「やめなよ、モタエ」
二人を仲裁したのは、優勝候補のカワサキだ。
サクマが先に矛を収めると、少年――モタエも渋々手を離した。
「強いポケモンと戦えるのも才能の一つ。強いだけのポケモンを倒すのも、才能」
結果が全て――カワサキは暗にそれを示した。
強力な相手を相棒とのコンビネーションや知略戦略で倒すのがトレーナーの努めであり、強力なポケモンのポテンシャルを100%発揮できるように指示を出すのもトレーナーの義務だ。
これにはポケモンとの連携や信頼関係の構築が必須であり、それが実を結ぶのがバトルである。
つまり、強い方が正しい。
二人はポケモンをボールに戻すと、ニコリともせずその場を後にした。
「サクマ選手、モタエ選手は第1コートに入場して下さい」
場内アナウンスにはたと視線を上げて、サクマは冊子を閉じる。
彼の最初の対戦相手は、胸ぐらを掴んできた少年モタエだった。
手持ちの4体はモウカザル、ルクシオ、ヤミラミ、ヒポポタス。
一方で、こちらはガルーラだけ。技はねこだまし、けたぐり、ふいうち、おんがえし。大会で見せたのはねこだましとけたぐりだけ。
「それでは両者、ポケモンを!」
「いけ、ヤミラミ!」
「……」
ガルーラとヤミラミが対峙した。
サクマが出す指示は、分かりきっている。
「試合開始!」
「ねこ――」
「まも――」
一番早く動いたのはやはりガルーラ。遅れてヤミラミが"まもる"のエネルギーで身を守ろうとする。
ねこだましもまもるも、ポケモンの技の中では特別早く出しやすいものであるが、今回はガルーラに軍配が上がった。
――パンッ!
会場が水を打ったように静まり返る。凄まじい音の柏手、至近で放たれた炸裂音にヤミラミは怯んで技を出しそびれた。
「けたぐりぃぃー!」
サクマが飛び切りの大声で指示を出すと、遅れてモタエもかわすように檄を飛ばすが、間近に迫ったガルーラの巨大な足がヤミラミを弾き飛ばした。
床を転がったヤミラミは勢いを利用して立ち上がり、「どくどく!」と指示を受けて紫色の液体をガルーラに向けて放った。
「けたぐり!」
「かわせ!」
毒液を浴びてしまったガルーラだが、技を放った直後の隙を突くべく猛進。振るった足は飛び上がったヤミラミの下半身をわずかに掠めただけだが、威力はそれで十分なくらいだ。
「まもる!」
空中に浮きながら体勢を整え、ヤミラミは守りを固めた。時間を稼げさえすれば、ガルーラは猛毒で倒れる。
その戦略は正しかったが故に、読まれた。
ガルーラの特性が"きもったま"なので、モタエの手持ちにはガルーラの攻撃を半減以下で受けられるポケモンはいない。きもったまであることは既に知られているので、相手の選出は有効打を与えられるポケモンに限られる。
つまり、モウカザルがほぼ確定、残り一匹はヤミラミかヒポポタスで、あくび等で状態異常を付与して詰めてくる。
まもるで攻撃を防ぐ予定だったヤミラミの目の前で、ガルーラは袋から取り出したラムの実をむしゃむしゃと咀嚼し始める。
「距離をと――」
「おんがえし!」
まもるの上から、強烈な一撃が1発、2発、3発と叩きつけられる。
「どくどくだ!」
ヤミラミが保たないと判断しての指示だが、ヤミラミには技を放つだけの猶予はなかった。
「ヤミラミ、戦闘不能! モタエ選手は2体目を出すように!」
現れたのは、サクマの予想通りモウカザルだった。
*
(あれは何、あのポケモンは……何でサクマが持っているの?)
サクマが勝ち上がる度、ナオの心の中で黒い感情が湧き出していく。彼に向かってまた勝ったね、凄いね――そう言う度に笑顔が偽物になっていく。
『モウカザルのインファイト! いち、にっ、さん! まだいくぞよんッ! ガルーラこれを受け、受けたぁ! 返しのけたぐり浅い!』
あのガルーラは、サクマが――10歳になりたてほやほやの子供が持っていいものではない。
『軽快なステップで翻弄するぞモウカザル! 遠距離技はないのかガルーラ、振り回されて――捉えたぁ! おんがえし! 足取りがおぼつか――決まったァ!!』
指示が遅い、使う技が物理に偏っている、状況判断が下手。効果抜群の技を喰らっても戦えているのは、あのガルーラの耐久力が頭一つ抜けているからであり、別のガルーラを使えば勝ちの目は万に一つも無かったはずだ。
トレーナー養成塾に通うナオからしてみれば、サクマの欠点や"上手な"ガルーラの使い方はいくらでも見つけることができる。
それでも勝ててしまうのは、サクマのガルーラが"強い"からだ。強いから、初心者トレーナーのサクマを勝たせてしまう。
ナオにはそれが堪らなく堪らなく――妬ましい。
客席にこっそりと戻ってきたサクマを見つけると、ナオは貼り付けたような笑みを浮かべて肩をたたいた。
「ねぇ、サクマ」
「うおっ! ……ナオかよ」
「そのポケモン、どこで捕まえたの?」
その感情は声色に表れていた。不穏なものを感じ取ったサクマは目を細めた。
「別に、そこらへんにいたんだよ」
「ふーん……いいよね、サクマは」
ナオから仮面が剥がれ落ちる。
冷たい――とても冷たい目。仮面の下にあったのは、ゾッとするような無の表情だった。
「あんなポケモンがいたら、誰だって優勝できるよね」
「……」
言い返す気にはなれなかった。
沈黙が1秒2秒と長くなるにつれて、お互いの間に深い深い溝が広がっていく。
そう感じていたのは、サクマだけだったのかもしれない。彼は、彼女の根底にある黒いものに気付いた。
ナオは、サクマを見下している。
トレーナー養成塾で、7歳の頃から優れたポケモントレーナーを目指すべく勉強に励んでいた。ナオの"約束"はある種の余裕と傲慢が生み出したもの。
しかし、人間というものは、誰もが誰かを下に見ているものではないだろうか。心の内に隠せば問題ではないが、隠されたそれは表に出てきてしまった。
仄暗い水底を覗けば、もう仮面は信じられない。
サクマは何も言わず、ただその場を去った。
ナオも声をかけず、見送る。
結局、サクマは優勝した。
***
ヨスガ10歳限定大会実況スレpart2
576:ポケモン大好きさん
デッッッッッ!
578:ポケモン大好きさん
何だあのでっかいモノ♂……
585:ポケモン大好きさん
Cコートになんかおる、、、、
590:ポケモン大好きさん
ガッキの倍あるぞ
591:ポケモン大好きさん
はぇ^~すっごい
670:ポケモン大好きさん
ワンパンで草
681:ポケモン大好きさん
草
689:ポケモン大好きさん
はぁ!?強すぎだろコイツ
693:ポケモン大好きさん
親ポケかい
いつ脱落するかな
711:ポケモン大好きさん
ずるすぎる
ヨスガ10歳限定大会実況スレpart8
231:ポケモン大好きさん
ファーwwwwwwwwwww
257:ポケモン大好きさん
こいつほっとんどワンパンやんけ
258:ポケモン大好きさん
特性頑丈以外ワンパンで草
281:ポケモン大好きさん
インチキも大概に汁!
311:ポケモン大好きさん
スレの速度やばない?
大会半分以上残ってるのにもう8スレやぞ
341:ポケモン大好きさん
こんなんジムバッジ楽勝やんけ
356:ポケモン大好きさん
初心者(大嘘)
366:ポケモン大好きさん
トレーナーID無いからガチ初心者だゾ
393:ポケモン大好きさん
>>341
レベル平均でジムトレのポケモン変わるから一匹だと無理ンゴ
394:ポケモン大好きさん
他の選手も見ろよ!ワイは見んけど
415:ポケモン大好きさん
>>393
はぇ^~
416:ポケモン大好きさん
>>366
投げ銭できんやんそれ
423:ポケモン大好きさん
>>393
ahonukaseboke
ヨスガ10歳限定大会実況スレpart36
62:ポケモン大好きさん
優勝塩って草
89:ポケモン大好きさん
バッジ三個も集めてこんなのにやられるとか可哀想
113:ポケモン大好きさん
バッジ99個持ちワイ、高みの見物
142:ポケモン大好きさん
>>62
モウカザルとヤミラミのバトルのがまだ熱かったの草
161:ポケモン大好きさん
ガバイトとメタング使って負けるやつおりゅ?w
190:ポケモン大好きさん
>>113
エアプ乙
バッジは8個までなンだわ
211:ポケモン大好きさん
>>89
バッジ2個で挫折したワイ将涙がで、出ますよ・・・
253:ポケモン大好きさん
自分語り奴多すぎィ!隙見せすぎってそれ一
254:ポケモン大好きさん
このスレくっせぇなぁ~~
281:ポケモン大好きさん
会場ヒエッヒエで草
293:ポケモン大好きさん
ガルーラトレーナーのマッマの声かわいい
334:ポケモン大好きさん
サクマ君顔死んでるやんw
ヨスガ10歳限定大会実況スレpart38
574:ポケモン大好きさん
大変だけど頑張ってねwwwwww
586:ポケモン大好きさん
草
587:ポケモン大好きさん
草ァ!
618:ポケモン大好きさん
ヨスガのジムリにも心配されててほんまウケる
620:ポケモン大好きさん
このガルーラほちい
644:ポケモン大好きさん
おれもこうやってチヤホヤされたかったわ
683:ポケモン大好きさん
>>620
潜在能力見抜きニキのワイからすると1億積んでもこいつは手に入らん!
705:ポケモン大好きさん
ハイボ30個に十万円ももらえるのか……
739:ポケモン大好きさん
>>683
ジャッジニキ詳しく
776:ポケモン大好きさん
結構貰えるのいいなー
787:ポケモン大好きさん
>>739
こいつ全部最高!
いや映像で見てるだけだから適当言ってるかもしれんわ
しらんけど
820:ポケモン大好きさん
>>787
"選ばれし者"じゃん、、、、