俺の、あるいは私の結論ハ。   作:傘花ぐちちく

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第3話「トップをねらえ」

 朝食の席で両親にデデンネを紹介すると、母親が目を輝かせてもみくちゃに撫で始めた。

 

 鬱陶しい……という顔が秒で溶けたデデンネを尻目に、サクマは当然、小学校に通う。

 

 前のサクマはかなり"陽"の属性に満ちていたが、色々混じったせいで"陰"の属性に寄っている。

 

 サッカーも野球も下手になったし、足も遅くなったが、車や重機は運転できるし、小学生より頭は良くなって、大声を出せるようにもなった。

 

 あまり役には立たない。

 

「いってきまー……」

「あ」

 

 家を出た所でばったりとナオに遭遇する。

 

 サクマが軽く頭を下げて会釈すると、慌てたように駆け去っていった。

 

 彼にも、幼馴染に対してどうこうする気はなかった。

 

 少年的な良心が仲直りをするべきだと訴えているが、頑固で打算的な領域が無駄無関係不利益な人間関係を切り捨てるべきと決めている。

 

 道の険しさを考えれば、どちらも正解であり不正解でもある。

 

 現在のポケモンバトルの主流はシングルバトルだ。

 

 最も人気を集めているのは、ゲームで主流の見せ合い6-3ではなく、6対6のフルバトル。ポケモンリーグで開催されているバトルのほとんどがその形式で行われており、AリーグであろうとBリーグであろうと共通である。

 

 一昔前は、バッジを8つ集めたトレーナーたちがトーナメント形式で対戦し、勝ち上がった一人が四天王――勝ち抜けばチャンピオンに――挑める形式であった。そこで行われたのも、フルバトルだ。

 

 興業化の波が訪れても、人気は変わらない。

 

 公式戦でダブルバトルが初出したのはホウエン地方であるが、他の地方と同様にダブルバトルの興行化は遅々として進んでいない。

 

 原因は多々あるが、その最たるものとしては、「シングルの方が間口が広い」「競技人口が少なくハードルも高い」「マルチバトルでいい」だ。

 

 シングルから濾し取られた人間がダブルバトルの道を歩むことが必然――最初のポケモンは一匹のため――であり、ダブルの楽しさを増やし難しさを減らすなら二人対二人のマルチバトルでいい。

 

 そして、"チャンピオン"が指すのは、シングルバトルの頂点だけだ。

 

 その神聖不可侵な言葉に守られて、ダブルの小さなリーグではその頂点を単に"トップ"と呼んでいる。

 

 サクマが"チャンピオン"になるというのなら、まずは"トップ"を目指さなければならない。

 

 "トップ"になるには、当然ダブルの小リーグに出場しなければならないが、参加には「バッジ8つの取得」が必要だ。

 

 ダブル用のポケモンを育成しながら、難易度が上昇していくバッジ集め――しかもシングル――をこなさなければならない。スペック差によるゴリ押しが通じるのは、いつまでになるか。

 

 サクマには明確に壁が見えていた。

 

 いくつもの、乗り越えなければ前に進めない壁が。

 

 そんなことに頭を悩ませているからだろう、友人からの呼びかけに素っ頓狂な声を上げたのは。

 

「なーサクマ、ウチの妹がさぁ」

「へ"ぇ"!?」

 

 授業と授業の間にある10分休み。

 

 思わぬ注目を浴びた彼は、視線を友人の方へ固定して周囲を見ないようにした。

 

「ウチの妹がさぁ、お前にポケモンの捕まえ方教えて欲しいって言うんだよ」

 

 サクマの友人、ムジは「頼む!」と手を合わせた。

 

「いや、捕まえ方ってよ、何捕まえんの?」

「え? 知らね」

 

 ムジの義妹(・・)は、彼らより一学年下であり、色白ハーフ系な小学生にして読者モデルをやっている。手足は石でぶっ叩いたら折れそうなくらい細く、モデルなだけあって9歳とは思えない体格だ。中学生でも通用するだろう。

 

 ムジとは血の繋がりがない義理の兄妹。両者が転校してきた際は、家庭環境もあってギクシャクした関係であったそうだが、転校初日にサクマが声を掛けて以降ムジは明るくなり、歩み寄れたそうだ。

 

 ムジと仲良くやっている時に妹の方も混ざるようになり、昨年の夏には三人+ナオ+保護者でプールに遊びに行ったりもした。

 

「暇だし、いいよ。次の日曜は予定あるから無理だけど」

「今日の放課後って言ってたわ」

「急~。ムジは来んの?」

「オレは行かねー、ポケベースのポケモンはキセーが厳しいから」

 

 練習もあるしな!と朗らかに笑う。

 

 人とポケモンの関わりは、何もバトルだけではない。ポケモンと共に行うスポーツは山ほどあるし、生活の一部を共有することもある。

 

 しかし、ポケモンと人間の身体能力の差は大きい。

 

 子供とポケモンが同じフィールドに立つスポーツでは、生年月日による制限が設けられている。バトルと違って野生のポケモンを登用することはできないが、その分公平ではある。

 

 その日の放課後、ムジの義妹――クレールが、ランドセルではなく手提げかばんを持って靴箱で待っていた。

 

「さっくん」

 

 サクマよりも10センチほど高い場所から呼びかける。クレールはスラリと伸びた足を惜しげもなく見せつけて、彼の手をとった。

 

「ねぇ、どうして試合するって言ってくれなかったの。応援しにいったのに」

「思いつきだったし。てか、今日何捕まえるの?」

 

 サクマの手を引いてずんずん進んでいた彼女はピタリ、と止まる。

 

 すると何やらモデル界隈にはウンタラカンタラと呪文のような言葉を話し始めたので、サクマはそれを聞き流しつつ結論を聞いた。

 

「なるほどね、それで、何を捕まえたいの」

「キノココ!」

「街の外の森まで行く気? ちょっと遠いんじゃ……」

 

 そこまで言いかけると、クレールはニシシとはにかんだ。

 

「昨日ね、誰にも言っちゃ駄目だよ? 昨日、キノココを公園で見たって聞いたんだ」

「誰から?」

「友達から」

 

 小学生らしい噂話だった。

 

 サクマはもうほとんどアテにしていないが、キノココがもしも手に入ったなら強力な戦力になることは疑いようもない。

 

 小学校から40分ほど歩くと目的地の公園だが、そこまで歩くのは馬鹿らしいのでバスに乗る。

 

 私服でランドセルを背負った小学生が公共交通機関で移動しているのは珍しく、サクマは少し居心地が悪かった。

 

「絶対最初はキノココだって思ったの! 草タイプで癒やされそうだし、見た目がキュートでしょ? キノココブランドの商品が出たら絶対チェックしてるし――」

 

 早口でキノココの魅力を語るクレールであったが、目的の停留所に近づくとソワソワし始めた。

 

「大丈夫?」

「うん、ちょっと走り出しそう……!」

 

 宣言通り、バスが到着するとクレールは風のように飛び降りていった。サクマも慌てて後を追うと、彼女は案内板の前で駆け足しながら止まっていた。

 

「えっと、えっと、林エリアって言ってたから、ここからだと……」

「落ち着きなよ、はいコレ」

「ぴゃっ!」

 

 冷たいペットボトルの麦茶を二の腕に当てると、クレールが小さく悲鳴を上げた。

 

「焦っても良いことないよ。コケて怪我したら大変だしね」

「う、うん……」

 

 頬を上気させながらボトルを受け取り、額に当てる。

 

 木陰で一段落した所で、サクマはさてと切り出した。

 

「暗くなる前に行こうか、モンスターボールは持ってる?」

「え、持ってない……」

「じゃ俺のでいいか、はいこれあげる」

 

 優勝賞品だったハイパーボールを3個ほど渡すと、クレールは破顔した。

 

「さっくん、キノココ出てきたらどうしたらいいかな?」

「どうしたらも何も、弱らせてボールを投げ……あー、まぁ、ボールを投げるのに専念したら良いと思うよ」

 

 弱らせるのは、どう考えてもサクマの役目だろう。クレールがポケモンを持っていない以上は。

 

「ガルーラに攻撃させるから、弱ったところにボールを投げてもらえばいいかな」

「弱らせるって?」

「うーん……」

 

 ポケモンの捕獲をしたことがない人間に、やり方を説明するのは少々難しいところがある。

 

 会話能力的な意味ではなく、倫理的な面で。

 

 ぶん殴ってから捕まえるとかどう見ても誘拐です本当にありがとうございます。

 

「まぁ、ボールを投げればいいようん。ハイパーボールだし」

「そっか。私、ボール投げるのは得意だよ。ムジのキャッチボールに付き合ってるし」

「クレールってスポーツ大体できるよね、運動神経もいいし」

「それお兄にも言われた」

 

 話しながら林の中を歩くが、順路の終わりの方になってもキノココらしき影は一向に見えてこない。

 

 段々と空が茜色に染まってくると、クレールの顔はどんどんうつむいていき、言葉数も少なくなっていく。

 

 サクマが「帰ろう」という言葉をどう切り出そうか迷っていると、順路脇の茂みが明らかに風の仕業ではない揺れ方をした。

 

 うつむいて気づかないクレールの肩を無言で叩き、足を止めた所で指をさす。

 

 二人で固唾を呑んで見守ると、飛び出してきたのはキノコのようなフォルムをした草タイプのポケモンだった。

 

 ただしタマゲタケである。

 

「え!? え? え……」

 

 思わず真顔に。

 

 かくいうサクマも落胆は隠せない。

 

 確かにキノコではあるが、そっちのキノコではない。

 

 飛び出してきた以上は襲われるかとボールを構えれば、タマゲタケはこてんとその場に倒れてしまった。

 

「この子、怪我してるみたい」

「……下がって」

 

 右腕でクレールを制して、左手は腰のボールに伸ばす。

 

 追われたポケモンがいるのなら、追ってくるポケモンがいる。

 

 ソレが飛び出してくるよりも早く、ガルーラはボールから出て臨戦態勢をとる。

 

「キノッ!」

「キノココ!?」

 

 草むらから2体のキノココが飛び出してきた。

 

 クレールはサクマが驚くのも気にせず、無言でハイパーボールを取り出して野球の投手みたく振りかぶった。

 

 いきなりですか!?とサクマはちょっと引いたが、ボールは見事に右の方のキノココに吸い込まれ――ドンッと音を立て、ずつきで弾かれた。ちょっと痛そうだ。

 

「そんな!?」

「やっぱバトルしないと駄目だ。ボールは構えてて」

 

 こちらを認識したキノココたちも、気勢を上げて戦いの体勢を整えた。

 

 2対1のバトルだ――となったが、デデンネも飛び出してダブルバトルになる。

 

「デデ!」

「おんがえし!」

「デデ?」

 

 デデンネが勝手にダブルバトルにしただけで、技マシンも何も使っていないのでロクな技がない。たいあたり/ほっぺすりすり/じゅうでん/でんきショックなので、実質ほっぺすりすりだけ。

 

 そうこうしている間にもガルーラは左のキノココに肉薄し、すくい上げるような一撃で林の奥に吹き飛ばした。

 

 わぁ、飛んだなぁ……などとサクマが度肝を抜かれていると、残された方は呆然とした顔で立ち止まっている。

 

「デデンネ、ほっぺすりすりだ! クレールもボールを!」

「うっ、うん!」

「ンネ!」

 

 デデンネが頬を帯電させて駆け寄るが、それよりも早くクレールのボールが痛そうな音を立てて命中する。ハイパーボールはきちんと作動し、キノココを見事に捕まえた。

 

「や、やったぁ!」

「よっしゃ! クレール!」

「デ、デデ……」

 

 両手を取り合い跳ねて喜ぶ二人の脇で、デデンネは釈然としない顔をしている。

 

 タマゲタケは喜んでいるが、クレールがボールから捕まえたばかりのキノココを出すとそのままの表情で固まった。

 

「私、あなたのこと気に入っちゃった! 一緒に家に来て暮らしましょ」

「キノ……」

 

 キノココは浮かない表情?で、タマゲタケと林の奥へ交互に顔を向ける。

 

 足取りは重い。家に連れ帰っても何かの拍子に抜け出しそうな躊躇いがはっきりと分かった。

 

「あっちに何かあるの?」

「時間も遅いよ、そろそろ帰った方がいい」

 

 サクマが制止するも、クレールはキノココを抱えあげて林の奥へそろりそろりと入ってしまう。

 

 こうなっては仕方ない。サクマも木々に張り巡らされた順路のロープを乗り越えて、クレールの後に続く。

 

 程なくして、林冠から夕陽がわずかに差し込むギャップに辿り着いた。キノココが彼女の腕から飛び降りて倒木を乗り越えると、そこではキノガッサとキノココ、モロバレルとタマゲタケのグループがそれぞれ睨み合っていた。

 

 これは縄張り争いか何か?

 

 倒木を乗り越えようとした辺りでボーッとその光景を眺めていると、こちらに気づいた2グループの視線が一斉に突き刺さる。

 

 クレールのキノココは一体のキノガッサに近寄ると、何かを相談し始めた。

 

「……これ、どういう状況なんだろうね」

「さぁ……?」

 

 ガルーラもデデンネも首を傾げる。

 

 ただ、どちらのグループも日向を挟んだ木陰で向かい合っており、時間が経つにつれ両者の距離は徐々に徐々に縮まっていた。

 

 明らかに陽に当たるのを避けている。

 

 そんな所へ、空気を読まずサクマのモロバレルがボールから飛び出てきた。両者のど真ん中に。

 

「あ、さっくんのだけ青いね」

「……どーも」

 

 親元?の許可を貰ったキノココがクレールの腕の中に帰ってくる。この一触即発の空気の中で我関せずといった顔だ、相当にずぶとい。

 

 突然現れたモロバレルに、キノガッサたちは一歩踏み出すが、反対にモロバレルたちのグループは困惑気味だ。

 

 そこへ、先程の傷を追ったタマゲタケが現れ――

 

「うーん、大体分かった。とりあえずぶっ倒すか」

「さっくん?」

 

 事情は知らないが、両者は争っている。

 

 事情は知らないが、モロバレルの前で二人はキノココを撃退(あるいは捕獲)した。

 

 これはどう見てもキノガッサたちの敵だ。逃げてもいいが、人間の足では容易に追いつかれる。

 

「ガルーラ、こっちに来たやつには炎のパンチ。モロバレルはヘドロばくだんだ。デデンネは下がってろ」

「ンネ!?」

 

 陽も完全に落ちた。2つのグループは走り出して激突する。

 

 ガルーラが近寄ってきたキノガッサに炎のパンチを打ち込むと、コレ幸いとモロバレルたちが加勢し――青いモロバレルにヘドロばくだんを浴びせ掛けられた。

 

 本来、4つの技スペースには無い技だ。これらの技を実戦で投入するにはあまりにも"拙い"。棒立ちにならないと放つことができないか、咄嗟に出しても十分な威力にはならない。

 

 だが、この場では脅威になりうる。

 

 そのまま三つ巴の戦いに突入したが、トレーナーが介在する余地があまりにも少ない。

 

 これは野生動物の闘争であり、ポケモンたちの自由意志によって選択された"闘い"だ。数が多いのもそれに拍車をかけている。2対3程度ならまだ試行錯誤する余地はあっただろう。

 

 もはや成り行きに任せるしか無い。

 

 サクマがその事を悟った時には、勝負はほぼ着いていた。

 

 勝ったのはもちろんガルーラと青いモロバレル。少々傷を負っているがピンピンしている。

 

「さっくん、この子たちどうして戦ってたのかな」

「さぁ? 太陽光が届く場所を争ってたとか?」

「キノココたちは湿って温かい場所が好きだし……うーん、よく分かんない」

「モロバレルも多分、湿気った所のほうが好きだと思う」

 

「「うーん……」」

 

 大した知識もない人間が二人で頭を捻っても答えが出てくるはずもなく、すっかり暗くなった空に気づいたサクマがクレールを連れて来た道を引き返す。

 

 ちなみに、サクマは「キノコのほうしが使える奴かバトルに興味のあるやつ居る?」という質問を投げかけたが、キノココたちはガンスルーを決め込むのであった。

 

 ともあれ目的は果たされた。

 

 ちょっとの冒険心を満たした帰りのバスの席で、すやすやと寝入るクレールの顔を見て思わず「いいな」と思ってしまった。

 

 サクマがもし仮に、もしも仮にの話だが、戦いの道を選ばずに普通の小学生として過ごしたのなら、こうした日常が何よりの幸せに繋がることだろう。

 

 ――切り捨てなさい。

 

 彼の頭の中で誰かが言った。

 

 後ろ髪を引かれる思いだったが、サクマはその考えを頭の片隅に捨て置いた。

 

 その道を選んだら、走り出してしまったら、止められないスピードで坂道を転がり落ちていくような気がして。

 

*

 

 ポケモンバトルの"訓練"とは、一体何をすればよいのだろうか。

 

 ポケモンたちが内に秘めた闘争本能を制御するために人間は言葉を弄し、彼あるいは彼女たちは行動で応える。

 

 その関係を成り立たせるのに必要なものはなにか。多くのポケモントレーナーたち――四天王やチャンピオンと呼ばれるような者たちでさえ、信頼関係だと口々に述べている。

 

 有名な話だ。サクマがちらりとネットの海に潜るだけで、そのような話が山ほど出てくる。

 

 では、戦いの中で生きる信頼関係とは、どのように構築されるのか、何をすれば形成されていくのか。

 

 サクマの回答は"反復練習"だった。

 

「ねこすり!」

 

 横に並んだ二本の棒を相手に見立てて、ガルーラとデデンネはそれぞれ指示された技を真正面の棒に繰り出す。

 

 次に、大きく手を打ってから同じ指示を出すと、今度はクロスするように技を繰り出した。

 

「よーし一旦オッケー! デデンネはあっちで"てだすけ"の練習、モロバレルと交代!」

 

 ダブルバトルで最も重要なテクニックの一つは、相手の行動を"縛る"ことだが、そのためには正確に狙った相手へと攻撃をしなくてはならない。

 

 ボタン一つで意思が伝わるなら、頭の中で考えたことがそっくりそのまま伝わるのなら、こんな練習は必要ないのだが。

 

 そうはいかないのが現実で、そういった細々としたものを積み上げるのがトレーナーだ。

 

 もっとも、ガルーラとモロバレルは音と省略した技名による指示にあっさり適応してみせた。

 

 ゲームでの戦闘経験――そんなものがあるのかどうかという話にはなるが、それを持ち出したら存在そのものが怪しい――のお陰か、動きがスムーズだ。

 

 対する現地産のデデンネは、省略した技名を覚えるところから始まり、取り寄せた技マシン「てだすけ」「エレキネット」「かいでんぱ」を使いこなすことも必要だ。

 

 練習では"ほっぺすりすり"、通称すりを使わせていたが、バトルならほっぺすりすりではなくエレキネットを使いたいし、かいでんぱはあまえるとの選択であるし、4枠目にはいかりのまえばを使わせたい。

 

 しかし、いかりのまえばは覚えていない上に、どの技マシンも覚える――あるいは十分に使いこなせるようになるまで時間がかかる。

 

 最初から覚えていてくれればどれだけ良かったか。サクマはそう思うものの、本来なら"この有様"が、全てのトレーナーが平等に背負うスタートラインである。

 

 本来、よーいどんで始めるべきところをスキップしているに過ぎない。

 

 練習の脇でサクマがデデンネを見やれば、少しボーッとしており、身が入っていないようだ。

 

「デデンネ。拉致った俺が言うことじゃないけどさ、やりたくないなら何時でもここから立ち去って大丈夫だからな。やりたくないことをやる必要はないから」

「デデッ!?」

「戦いたがってるのは何となく分かるし、サポート役を任せてるのは正直申し訳ないとは思うけど、この前説明した通りポケモンにはできることが限られてるから」

「デデ、ンネ! ンネ!」

「んー? 都合の良い解釈をしたいわけじゃないけど、やる気があるなら練習を続けてもらって。いや、本当にやりたくなかったら辞めて大丈夫だからね?」

「ネネネ!」

「まぁ、うん、やる気があるならいいけど……頑張ってね」

「デネ!」

 

 サクマにはデデンネの心中を察することはできない。長い付き合いでもないので、予想も難しい。

 

 ただただデデンネの言葉?を信じて、任せるしかない。

 

 疑う余地があるから信じる余地も生まれる。

 

 そこで疑心に流されず、信じて頼ることができれば、それは結束に繋がる。

 

 戦えるということを知っている他二匹とデデンネは違う。

 

 なまじポテンシャルが最高値にあるガルーラとモロバレルを従えているせいで、サクマはデデンネを信じきれていない。

 

 焦れる心を、はやる気持ちを抑えられるかどうか――勝利への忠誠心が試される。

 

 二匹目の現地産イーブイを受け取れた時に、自分に育成ができるかどうかを判断しなくてはならない。

 

 約束の日曜まで、あと数日。

 

 

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