俺の、あるいは私の結論ハ。   作:傘花ぐちちく

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第4話「キーストーンを求めて」

 約束の日曜。サクマは指定された喫茶店にやって来た。

 

 手を上げてサクマを呼んだのは、ピンクのベストを着た30代の男性だ。立ち上がって手招きをするので、店員に断って座席へ。

 

 始めまして、と挨拶を交換して席に着く。

 

「私がニンフィアファンクラブの副会長、ニーアンです。そこにいるのが、例のガルーラですかね? 実際に見てみると、やっぱり違いますねぇ」

 

 ニコニコと興奮気味にまくし立てるので、サクマはかえって平静になった。「ええ、まぁ」と軽く流して、メニューも見ずに注文ボタンを押す。

 

 ポケモン用のクッションに腰掛けたガルーラは、袋の子供に構いながらニーアンの方を観察していた。元々体が大きいので、座っていても人間と同じような目線の高さになる。そのせいか、『ポケモンにオススメ!』と題されたスイーツの写真をチラチラと気にしている。

 

「それで、イーブイのお話なのですが」

「そうですね。そのためにもまず、サクマさんの、トレーナーとしての展望をお聞きしましょうか」

 

 すぐにやってきた店員にカフェラテとポケモン用スイーツを注文してから、お冷を呷って喉を潤した。

 

「私はダブルバトルを主軸に活動していこうと思います」

「ほほう」

「もちろん、バッジは8つ取得します。ダブルでの具体的な戦術戦略のお話は難しいですが、ニンフィアに期待される役割について――」

「――ちょっと、ちょっと待って下さい。バッジ8つも何も、その難しさを知っているんですか?」

 

 テーブルに体を乗り出したニーアンは真剣な、あるいは不機嫌な眼差しを向けた。

 

「まぁ、知ってはいますが」

「私もファンクラブ副会長として、多少は腕に覚えがありますが、それでも6つで精一杯でした。私が聞きたいのは、バッジを集めきれるような計画の話です」

「はぁ。いえ、コイツで無理なら誰にも取れないとは思うのですが……」

 

 前に置かれたカフェラテをすすりながら、サクマは目の前の人間を説得することと"もう一つの条件"を満たすこと、どちらが簡単そうかを比較して、言った。

 

「でしたら、パッとバッジ3つ取ってきますよ」

 

*

 

 ジムバッジに取得順序は無い。

 

 正確に言えば、無くなった。

 

 地理的な要因や競技人口増加の影響に伴い、様々な制限が取り払われ、追加された。

 

 これのお陰で、最初に炎タイプのポケモンを手に入れたトレーナーは水タイプのジムを後回しにできるし、地元のジムに挑むという選択肢も得られた。

 

 反面、パーティーの構築に失敗したー――例えば電気タイプに一貫性がある――トレーナーは、8つ目に電気タイプのジムを選んで大苦戦するようなこともある。

 

 サクマはその点において特に気をつけなければならない人間だと、自分で考えていた。

 

 啖呵はきったが、トレーナースキルとガルーラのスペックの合計値が、ジムの難易度を上回っていないとバッジはもらえない。

 

 そのため、不利なタイプのジムを序盤に攻略してしまい、後半の難易度上昇を少しでも緩和しようと画策した。

 

 第一のジムは、格闘タイプの使い手スモモがジムリーダーを務めるトバリジムだ。

 

 トレーナーが挑む最初のジムは、相手ポケモンのレベルが15までに制限されており、技マシンによる高威力技の追加や教え技、タマゴ技も制限されている。

 

 挑戦者側の制限は手持ちの数だけだ。どれだけ弱くても、どれだけ強いポケモンを持っていようと、2匹しか出せない。

 

 ニーアンと出会った次週の土曜日。電車とバスを乗り継ぎながら90分掛けて、トバリシティへ赴いた。

 

 ジムに着いてから手続きを済ませ――ネットで予約しておいたので早く終わった――試合用のコートへと案内された。

 

 向かいに立つのは、大学生ほどの歳のジムトレーナーだ。ジムリーダーの代わりにチャレンジャーと戦ったりするのが主な仕事である。

 

「それではこれより、2対2の公式試合を開始します。チャレンジャーに認められた交換回数は1回。シングルバトルの公式規定および、審判の指示に従うこと」

 

 サクマたちは最初に繰り出すボールを構えた。

 

「試合開始!」

 

 ――『開始の宣言がなされてから3秒以内にボールを投げなければならない』

 

 公式に記述されたバトルのルールである。これを破るとイエローカードになるので、プロでもない限りは、相手のボールを見て何を出そうかなどと考えない方がいい。

 

「エレキネット!」

「いけ、アサナン!」

 

 試合が始まるのはポケモンが出た瞬間ではなく、開始の宣言がされた時。

 

 ボールから出た相手のアサナンは、その直後に飛来する雷の網に囚われた。

 

「ねんりきだ!」

「すり!」

 

 痺れの残る体でエレキネットを除去したが、そこへデデンネが突っ込んでいく。

 

 "ほっぺすりすり"というよりは"ほっぺ大擦り"の方が近しい表現ではあるが、相手の体に僅かなダメージと麻痺を与えた。

 

(おお、シングルでも意外といけるのか)

 

 気勢を制したデデンネが優勢、のように思えたが、展開は徐々に苦しくなっていく。

 

 当然ながら、まともなシングルバトルは初めてだ。その上、デデンネのまともな攻撃技であるでんきショックは練度が足りない。

 

 タイプ相性上はやや有利ではあったが、でんきショックの度に足を止めているので、その隙を狙われてねんりきでやられてしまう。

 

 最序盤の展開が良かっただけに、決定打がない事が敗因だ。

 

「そこまで! デデンネ、戦闘不能!」

「お疲れ、初にしてはかなり良かったと思うよ」

 

 試合が中断され、サクマはデデンネに労りの言葉を掛けながらボールに戻した。

 

 戦闘不能の際、ポケモンの交代には1分の猶予が与えられる。試合の再開は、次のポケモンがボールから出て、審判の合図があったときだ。

 

「後は頼んだ、ガルーラ」

 

 試合再開の合図が出た途端、アサナンは戦闘不能になった。

 

 ドンッと吹っ飛ばされて放物線を描くのを、相手と審判は呆然とした顔で追っていた。

 

「そ、そこまで! アサナン、戦闘不能!」

 

 2体目はワンリキーだったが、同じようにやられた。

 

 スペック差によるゴリ押し。結果だけを見れば「だろうな」という感想しか出てこないが、そこに至るまではかなり冷や冷やしていた。

 

 バッジの発行手続きが済むまでの間、併設されたポケモンセンターでガルーラと待っていると、声を掛けられた。

 

「はじめまして。チャレンジャーさんですよね? あたし、ジムリーダーのスモモです」

「ファ!?」

 

 年下の子供に話しかけるように――座っているサクマと目線を合わせて、スモモは笑顔で語りかけてきた。

 

「こんなに強いガルーラ、はじめて見ました! ぜひ手合わせを」

 

 薄いノースリーブで格闘家感を醸し出している少女は、華奢な体に見合わない闘争心を滾らせていた。

 

(弱点を思いっきり突かれるし完全に不利だ。でも、正直、ガルーラがどこまでやれるのか見てみたい)

 

 視線をガルーラとスモモの中間に置いて逡巡する。

 

 サクマ自身、躊躇いの理由には気づいていた。

 

 敗北することが恐ろしい。

 

 負けてしまったが最後、傍目から見ても強大なポケモン(ガルーラ)を失ってしまうのではないか。彼女が自分を見限って立ち去ってしまうのではないか。

 

 そんな不安ばかりが頭をよぎる。

 

「あー……その、バトルは、タイプ的にも……」

「あなたのガルーラ、やる気一杯みたいですね!」

「え? ヴェ!?」

 

 その言葉につられて横を向くと、ガルーラは立ち上がってサクマの背を軽く押した。ガルーラ基準の"軽く"なので、サクマはつんのめって椅子から転げ落ちる。

 

「痛って……。まぁ、はい、やりましょうか」

「よろしくお願いします!」

 

 小走りで外へ駆けていくスモモとガルーラの背中を追いながら、サクマは「この出来事はポケッターに投稿できるネタかもしれない!」と閃いた。

 

*

 

「あの、この試合呟いていいですか?」

「どうぞ! ジム戦の後に無理を言ってしまったと思いますし」

「あ、知ってたんスね。1対1でいいですか?」

「はい。あたしはルカリオと戦いますね!」

 

 施設の裏手にある小さなバトルコート――この世界にはどこにでもあるし、そこらヘンが戦いの場にもなる――で向かい合っていると、ギャラリーも集まってきた。

 

 野良審判が現れたので判定を任せ、ガルーラとルカリオを挟んで二人は見合った。

 

 旗代わりのハンカチが振り下ろされれば、サクマの口からはすぐさま指示が飛び出すことだろう。

 

 2体のポケモンは前傾姿勢になり、その瞬間を待ちわびている。ルカリオは倍近い大きさのガルーラに怯みもしていないし、それどころか射殺さんばかりの迫力を漂わせている。

 

「はじ――」

「じしん!」

「しんそく!」

 

 指示そのものは先んじたものの、行動が早かったのは相手方だ。

 

 ルカリオの姿がかき消えたかと思うと、ガルーラの眼前に現れて強烈なタックルをかました。

 

 体をのけ反らせたガルーラだったが、体勢を戻すのと同時に震脚。コンクリートにヒビが入るほどの凄まじい衝撃が駆け巡り、バックステップで距離を取ったルカリオの全身にも響き渡る。

 

「けた!」

「ドレイン!」

 

 巨体を揺らして迫るガルーラに対して、ルカリオは小柄さを活かしたフットワークで翻弄する。格闘戦はルカリオに軍配が上がるものの、体格差は埋めがたい。

 

 ジャブのように軽く叩いてガルーラの体力を少しずつ吸っていくが、回避しきれずに激突する脚がルカリオを削っていく。

 

「押して!」

 

 徐々に不利と見るや、すかさずスモモは指示を出す。

 

 阿吽の呼吸。ルカリオは一気に攻勢へ転じ、インファイトでガルーラに躍り掛かる。

 

 サクマはその指示を聞いて、実際にルカリオが攻撃する瞬間まで、意図に気づけなかった。

 

 一拍遅れて「まも!」と声を飛ばすが、それは重い一撃がガルーラに突き刺さった後の事だ。

 

 追撃を防ぐガルーラだが、サクマは追加の指示を出せない。

 

 次にどうすれば相手を倒せるか分からない。地震は足を止めて撃たなければならないし、使い勝手の良いおんがえしは半減。けたぐりはたった今返された。

 

 頭が真っ白になり、喉が急に乾いていく。

 

 固まっていた時間は精々数秒。

 

 その間に解けたまもるがガルーラを無防備に晒すと、隙を突いたルカリオがガルーラを大きく後退させた。足を引きずりながらブレーキを掛け、背中から倒れないようバランスを保つが、ここぞとばかりに「かいせい!」と声が響く。

 

 ルカリオが迫る。迫る。

 

 ガルーラを倒すべく懐に飛び込んで――

 

「おん!」

 

 ヤケクソ気味の"おんがえし"、ガルーラはこなれた動きで"きしかいせい"をかわし、横っ面に一撃をぶちかました。

 

 ルカリオは思わずたたらを踏む。カウンターのように決まったので、タイプ的に半減と言えども相当に堪えたようだ。

 

「しんそく!」

「じしんッ!」

 

 しんそくは出の早い技であるが、状況が先出しを許さなかった。立っているのもやっとなルカリオは反応が遅れ、余力を残しているガルーラが先制した。

 

 もう一度、凄まじい衝撃がバトルフィールドを駆け巡ると、野良審判が待ったをかけた。

 

「そこまで! ルカリオ戦闘不能、勝者サクマ!」

 

 勝負が終わると、周囲のギャラリーからパチパチと拍手と歓声が飛ぶ。

 

 こちらに歩み寄って手を差し出したスモモに握手で応える。

 

「あたしの負けです。対戦ありがとうございました」

「対戦ありがとうございます。彼女におんぶに抱っこなので、色々と勉強になりました」

「そうでしょうか? ガルーラはあなたのことを信頼していると思いますよ」

「そうなんですかね?」

 

 サクマが聞き返すと、スモモは少し複雑そうに笑った。

 

「お二人はなんと言いますか……チグハグですね」

「それは自覚してます」

 

 ポケモンの回復を待つ間、サクマは適度に会話をしながらポケッターの更新を済ませておく。

 

 

 

サクマ @meijin_megahosi

 

ジムバッジ一個目ゲットだぜ

 

  2    11:27

 

 

 

「この後はどうされるんですか?」

「ミオシティに行って二個目のジムの攻略ですね」

「早いペースですね。それでは、今日は泊まるんですか?」

「いえ、今日中に向かいます」

「え?」

 

 まさか、とスモモが口を開きかけたところでサクマがジョーイに呼ばれる。

 

 回復したガルーラ(それとデデンネ)を受け取ると、軽く挨拶をして早足に立ち去った。

 

 

 

サクマ @meijin_megahosi

 @meijin_megahosi

 ジムバッジ二個目ゲットだぜ

 

  2 5    18:49

 

 

***

 

 

 

スモモモモモモモモについて語るスレpart137

 

1:

ここはシンオウ地方トバリジムのジムリーダースモモについて語るスレです

 

スレ内ルールについては>>2以降を参照

 

前スレ

スモモモモモモモについて語るスレpart136

ttp::///xxxxxxxxxxxxx

 

2:

縦乙

 

14:

バッチ取るだけならレンタルポケで余裕と何度言ったら

 

40:

現地民やが今日もすももちゃんみれたおU^ω^U

 

48:

野良試合で負けてちゃってたわ

 

83:

ポケッターに上がってた

ttp:::///xxxxxxdougadayoxxx

 

107:

ノーマルタイプに負ける格闘使いの恥晒し

 

117:

何だこれはたまげたなぁ……

 

136:

どこで借りられるんやこのポケモン

 

163:

対戦相手のガッキ初心者大会荒した親ポケ使いやん!

 

194:

垢ウンコ見つけたわ

@meijin_megahosi

 

530:

同じ日にミオジムのバッジ取ってんの草

フォローした

 

531:

は?

 

536:

スレ伸びてると思ったら誰の話だよスレチだろ

 

541:

荒れてる荒れてる

 

542:

たかがジムリーダーの勝った負けたで盛り上がって恥ずかしくないの???

 

554:

弱点突かれないポケモンなら実際勝ってたでしょ

 

560:

おんがえし軽減できないし無理

 

566:

本気出して素人に負けないでしょ

 

573:

ターバンのガキ

 

579:

ジム戦でもないのに本気だすわけ無いやろがい!

 

583:

試合で手を抜く粉じゃないんだよなぁ

 

584:

ジムリーダーがバトルで手を抜くわけないだろいい加減にしろ

 

592:

スモモちゃんに抜かれたい

 

599:

フルバトルなら親ポケだけの雑魚に負けるわけないが???

 

600:

一対一なら相性で負けることもあるしノーカン

 

609:

相性有利なんだよな。。。

 

616:

ひこうかくとうタイプのルチャブルなら勝ってた

 

625:

>>616

なんやそのマイナーポケと思ったら外来種やんけ

 

635:

ハイサイこの話はやめやめ(AA略

 

641:

ノーマルタイプで格闘のジムリーダーに勝てる気がしませんですわ

 

 

*

 

 

サクマ @meijin_megahosi

 

ジムバッジ一個目ゲットだぜ

 

 12 34    11:27

 

サクマ @meijin_megahosi

 @meijin_megahosi

 ジムバッジ二個目ゲットだぜ

 

  6 28    18:49

 

サクマ @meijin_megahosi

 @meijin_megahosi

 ジムバッジ三個目ゲットだぜ

 

  2 19    14:14

 

 

「……は?」

 

 クレールに教えられて、サクマのポケッターを見たナオは絶句した。

 

 渦巻いた感情はあまりに大きく、怒り、悲しみ、絶望し、悔しがる――そういったものを飛び越して無になった。

 

 衝撃に言葉を失い、呼吸も忘れてジッと画面を食い入るように睨んだ。

 

 自分が土日にトレーナースクールへ通っている間、ジムバッジを3個も取っただって?

 

「あり、え……」

 

 いや、それがありえるかも知れない――あのポケモンなら。

 

 その可能性が脳裏をよぎった途端、ナオはスマホをベッドに叩きつけて声にならない叫びを喉から絞り出した。

 

「――――ァ!! なん……ッ!」

 

 ジムバッジを3個取得できるトレーナーは、1つ目のバッジ獲得に挑戦したトレーナーの中でも8割ほど。一年以内に限れば1%を下回り、一月以内に限れば数人いるかいないか。

 

 親から貰ったりレンタルしたポケモンで3個目のジムトレーナーに勝つ人間はいても、ジムバッジが貰えるとは限らない。言うことを聞かないポケモンで勝利しても、バッジ取得の条件は満たされないからだ。

 

 逆説、サクマは満たしたといえる、条件を。

 

「……」

 

 沸々と湧き上がってくるのは嫉妬、対抗心、そして。

 

*

 

 イーブイの譲渡をごねられてから一週間後、地元ヨスガのジムで3つ目のバッジを取得したサクマはその足でニーアンが待つ喫茶店へ向かい、魂が抜けたような顔をした彼から目的のポケモンを頂いた。

 

 それから一月はジムにもいかず、ポケモンも増やさず、地道な練習に励んでいた。

 

 ジムリーダースモモとの一戦はサクマに多大なる衝撃を与えた。

 

 ポケモンが自由意志を持った生き物であり、"信頼関係"こそがバトルに勝利をもたらすと確信できる体験であった。

 

 武道家ならではのポケモンバトル――例えば、"ドレインパンチ"をジャブのように放ち、威力は低いながらも着実に回復と攻撃をこなす――は、サクマには決して真似できない。

 

 ただ技と方向を指示して、あとは全てポケモンに任せている。

 

 これでは、いけない。

 

 敵は棒立ちで技に当たらないし、避けるし何なら避けながら攻撃をしてくる。

 

 指示を出すだけで勝てるのは、相手が"弱い"うちだけ。

 

 指示を出すだけで勝てるのは、ガルーラの戦闘センスが並外れているから。

 

 指示を出すだけでは勝てなくなるので、サクマは凡人らしく訓練する。

 

 最初が動かない的なら、次は動く的。

 

 投げたゴムボールめがけて技を出させたなら、次はそれを2つに。

 

 その次は、背を向けたポケモンに向かってボールを2つ投げて合図を出し、振り返った彼らに指示を出して攻撃させる。

 

 もし、技を指示するだけしかできないなら、ある程度パターンを用意すればいい。繰り返せばポケモンたちが"学習"する。

 

 そこまでやれば、ポケモンの"自由意志"に任せても戦えるだろう――とサクマは予想した。

 

 ――そこからはトレーナー次第だ。

 

 そんな練習漬けの日々の、ある日の朝。

 

 サクマはポケモンに出す指示のパターンを頭の中で何回も復唱しながら、朝食のトーストにバターを塗っていた。 

 

「あ、そうそうサクマ」

 

 睡眠は多めに9時間なので眠気はあまり無いが、唐突な母親の発言に思わず正気を疑った。

 

「ナオちゃん、今日旅に出るんですって。見送りに行きなさいね~」

「は? え、痛っ……マジ?」

 

 頬をつねって夢ではないことを確認すると、トーストとコーンポタージュを口に押し込んで席を立つ。

 

「8時に出るらしいから、慌てなくても大丈夫よー」

「……ハイ」

 

 しばらく待って、あまり感情の整理がつかないまま、ナオの家に向かう。

 

 家の前では彼女の両親とナオが別れの言葉をかわしている。

 

 サクマの両親もナオを激励しているが、息子のサクマは黙ったままだ。

 

(気まず……)

 

 少し顔を伏せて、最後に一言二言話して終わりにしようと思っていたが、そうは問屋が卸さない。

 

 彼女はサクマの前まで来て立ち止まる。

 

 キッと覚悟のこもった瞳でサクマを射抜き、真正面から見据えた。

 

「……この前はごめん。私、行くから!」

「え?」

「絶対、追いつくから」

 

 言いたいことだけを言って足早に、それでも確かな足取りで去っていく幼馴染。

 

 "旅"に出るんだな、と改めて実感した時、その背中は小さくなっていた。

 

 それがサクマには羨ましかった。

 

 別の自分の記憶と強力なポケモンが手に入ったせいで妙に臆病になってしまった。挑戦する心を忘れてしまった。

 

 だからナオが羨ましい。

 

 羨ましいなら、行動するしかない。

 

 僅かでも挑戦的に、前に踏み出すことでしか、その感情は払えないのだ。

 

 その日からサクマは、野良バトルに精を出すことにした。

 

 対戦相手をポケッターで募集している人にDMしたり、サクマのプロフィールに書かれた「ダブル/対戦相手募集」の文言をみた人と会う約束をしたり。

 

 そうして戦っている内に、ポケモンセンターの周辺で声を掛けられることも増えた。

 

 大抵の場合、試合はデデンネとイーブイを使ったシングルだが、サクマがDMで約束した時はダブル。ダブルはガルーラ目当てでやってくるトレーナーが9割9分なので、サクマ的にはあまり罪悪感なく練習ができる。

 

 そんな日々が一ヶ月も続けば、トレーナーID経由で送られてくる"お布施"がそれなりの額になっていた。

 

 大昔はバトルを見ていた野次馬が現金を投げていたが、現代はトレーナーに紐づけされたIDへ送金することができる。配信者にスパチャを投げるような感覚が一番分かりやすいだろう。バトルは強くないが荒稼ぎしているトレーナーもいるにはいる。

 

 お布施のお陰でジムの遠征費用は稼げたが、困ったことに金銭的問題は尽きない。

 

 キーストーンだ。

 

 ガルーラナイトはあるが、キーストーンが無いのでメガシンカできない。

 

 買おうとすると桁が7つも8つも必要になってくるので、選択肢としてはあり得ない。だというのに、トップトレーナーは誰も彼も持っている。

 

 トップ層のトレーナーたちとしのぎを削るなら、メガシンカは必ず必要になる。

 

 そもそも、ガルーラというポケモンは"強くない"。

 

 種族値という、現実となってはファンタジーな話をすると、105-95-80-40-80-90のバランス型。耐久は意外と高くないし、攻撃もそこまで強くないし、素早さも突出しているわけじゃない。

 

 サクマのガルーラは高いレベルで全てを補えているのであって、ガブリアスやカイリューのような元から"強い"ポケモンではない。

 

 故に、存在価値のほとんどを占める"おやこあい"が無いなど、もはや舐めプでしかない。

 

 世の理不尽に不貞寝でもしたくなったサクマだが、次なる策が、あるにはある。

 

 キーストーンが多く見つかっているのは、ホウエンやカロスだ。

 

 つまり、「作戦:頑張って見つける」。

 

「できるかッ!」

 

 膝の上で船を漕いでいたイーブイがビクッと跳ねる。謝りながらブラッシングを再開すると、また眠りについた。

 

 一抹の絶望を抱えながら、バトル漬けの日々を過ごすこと半月。

 

 ポケッターでとあるリプが飛んできた。

 

 

サクマ @meijin_megahosi

 

キーストーン欲しすぎてホシガリスになった

 

 4 9    10:27

 

イヌヌヌおU^ω^U @wanwanooo

 @meijin_megahosi

 カロスの大会で景品になってますよ

 

   1 

 

 

 

「ファ!? え、ウソでしょ……」

 

 キーワードを入れて検索するとあっさり出てきた。

 

 リサーチ不足を恥じ入るばかりだが、大会の景品というのは流石に盲点だった。

 

 調べて分かった内容は以下の通りだ。

 

・優勝、準優勝者にキーストーン贈呈。優勝者にはメガ石も

 

・参加対象は地方問わず、バッジ7個取得済みのトレーナーのみ。8つ取得の場合は対象外

 

・大会本戦は8ヶ月後、予選は6ヶ月後、エントリー締切は1ヶ月後

 

・予選期間の滞在は自費。本戦に進めば運営持ち

 

・ポケモンは必ず6匹を登録して、うち3匹を試合ごとに選出。3対3の形式

 

・登録したポケモンが進化してしまうのは許される

 

・メガシンカ可能な系統のポケモンを必ず登録すること

 

・メガ、Z技は禁止

 

 他にも細々としたことはあるが、概ねこの通りだ。

 

 

サクマ @meijin_megahosi

@wanwanooo

知らなかった……感謝茄子!

 

   

 

イヌヌヌおU^ω^U @wanwanooo

 @meijin_megahosi

 おハーブ生えますわ

 ところで・・バッジは間に合いますか・・・・?

 

    

サクマ @meijin_megahosi

@wanwanooo

そっちより問題なのがポケモン足りないんスよ

 

   

 

イヌヌヌおU^ω^U @wanwanooo

 @meijin_megahosi

 草じゃないが草

 

    

 

あああああ @,fmi9uwi34w

 @meijin_megahosi

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

    

 

 

 

***

 

 僕が最初に彼を見かけたのは、ヨスガシティのポケモンセンターだった。

 

 ポケモンセンターに寄った目的は治療ではなく、裏手にあるバトル用コートでの試合だ。

 

 センター内の隅の方にあるホワイトボードには、使用順番を示す数字のマグネットと名前が並んでおり、近くには対戦相手を探している人で賑わっている。

 

 SNSで募集している人もいれば、近くのトレーナーに話しかけて実力が近い相手を求めている人もいる。

 

 僕はどちらかといえば後者で、シングルの()もそうだった。

 

 1年3ヶ月という短い時間でバッジを3つ集めた僕は、強い相手を求めていた。

 

 なので、バッジ3個なんです、と声を掛けてきた彼と戦ったときには、この程度で3つも集められたんだなぁと内心ぼやいた。

 

 2対2でやらせてもらったが、小さいネズミみたいなでんきポケモンとイーブイをロゼリアで2タテしただけだ。

 

 そこそこ粘られたし、指示が上手く、ポケモンもよくトレーニングされているのは分かったが、勝負を決めることができない印象だった。あれじゃあ伸びないだろうなぁ、と思っていた。

 

 その後は、他の人と2回ほど対戦できた。

 

 宿でポケッターを眺めているとき、僕はたまたま彼のアカウントを見つけた。見つけなきゃよかった。

 

 フォロー57に対してフォロワー792。ダブルバトルをメインにやっているらしく、その時の僕は納得がいった。

 

 僕は軽い気持ちで、ダブルでもやってみるかと、翌日彼に話しかけた。

 

「ポケッター見たんですか? それじゃあ大丈夫ですね」

 

 その時、僕は「何を言ってるんだ」と思ったが、彼なりに気遣ってはいたんだなぁと思う。

 

 僕は何もできずに負けた。

 

 バトルが始まった途端、いわなだれとエレキネットが飛んできて、僕のロゼリアとテッシードはどちらかに当たった。それから、一人ずつ……。

 

 なんだ、あのポケモンは。

 

 目の前に出てくれば、その存在をひしひしと感じる。オーラが違う、格が違う、洗練された無駄のない動作は目を奪われそうになるほどで。

 

 僕は、僕は叫びたくなるのをグッとこらえて、聞いた。

 

 なぜ、シングルで使わなかったのか。

 

「……そりゃ、私が鍛えたいのは、デデンネとイーブイですから。シングルでコイツを使っちゃあ意味ないでしょう」

 

 必ず勝つんですから、という言外の意味が聞こえてきた。

 

 その時、僕の中の形容しがたい感情が一気に膨れ上がって、無になった。

 

 平静なまま別れを告げて、宿で彼のポケッターを見て、絶望した。

 

 バッジ3つを集めるのに2日?

 

 僕は15ヶ月――460日近くも掛かったのに!

 

 あんな強いポケモンを持ってるだけの奴にあっさり抜かされるなんてふざけるな!

 

 ふざけるんじゃない!

 

 あんなのを使えば誰だってそうなる――!

 

 なにがバッジ3個だ、トレーナーの実力じゃない!

 

 頼むから死んでくれ!

 

***

 

「さっくん、この前の土日何してたの? いつものとこに居なかったけど」

 

 通学路でクレールが話し掛けてきた。

 

 最近、彼女と会うことが多い気がする。

 

 放課後にポケセンでバトルしていると、よく顔を見る。

 

 使うポケモンが変わっていないので、代わり映えしないバトルを何回も見ることになるが、これの何が楽しいのか分からない。

 

「ポケッターとかで言わないで欲しいんだけど」

「うん」

「バッジ4つ取ってきた」

「4つ目? すごいね」

「違くて、7つ目」

「4つでしょ?」

「そう、3足す4、イコール7。おわかり?」

「そんなに一度に取れるものなの……?」

「取れないから言わないでほしいの」

「なんで? 自慢できるじゃん」

 

 そうなんだけど、と理解を示しつつ持論を述べた。

 

「例えばさ、伝説のポケモンアルセウスは知ってるよね?」

「流石に知ってるよ」

「そいつをトレーナー始めたての短パン小僧が手に入れて一週間でバッジ集めたらさ、一瞬で世界記録だけど、それって凄いのはアルセウスであってトレーナーじゃないよね」

「あー……」

「俺のガルーラは伝説のポケモンほどじゃないけど"強い"からさ、普通に反感を買うのよ。チャンピオンになりたい俺にとってそういうのはあんまり良くないってこと」

 

 ずっと黙ってるわけでもないし、とサクマは付け加えた。

 

 プロの領域に飛び込んでしまえば、勝ちも負けも全てが"実力"という世界になる。

 

 そして、そんな世界はガルーラ一体で無敗を貫けるほど甘くない。

 

 だが、サクマが一からポケモンを育てたとして、その領域に辿り着けるかと言われれば――恐らく否。

 

 それは彼自身も自覚している。

 

 それでは強いポケモンを使うことはズルいのか――当然否。

 

 伝説のポケモンがずるくて、メタグロスやサザンドラはそうじゃない?

 

 その進化前はいいのか?

 

 ヒトカゲやトゲピーはずるくない?

 

 あまりにも馬鹿馬鹿しい話だ。

 

 もちろん、条件はポケモンに限らずトレーナーにも延長できる話だ。ポケモンが優れているのは反則で、トレーナーが優れているのは反則じゃないのか?

 

 知能指数が高かったり反射神経が優れていることがイケナイなど聞いたこともない。

 

 全く同じ条件の真剣勝負など存在しない。

 

 それはそれとして、バッジ8つの取得が最低ラインになるポケモンというのはズルい。全てのトレーナーが通過する試練を突破しなくていいのだから。

 

「バッジ集めた後で、プロとして活躍できたら自慢するよ」

「それじゃあ、それまでの間は私が応援してあげるね」

「えぇ……」

 

 堂々と人に話せないのに何を応援するんだ、と若干困惑したサクマ。

 

 だから(・・・)応援するのだが。

 

「じゃ、半年後にカロスの大会に出るから適当に応援しといてよ」

「……カロス? お母さんに頼んで、実家に泊めてもらおっか?」

「え、いや、それは悪いでしょ」

「いいからいいから! ね?」

 

 手首を掴まれて圧を掛けられる。

 

 サクマは――予選期間の1週間ほどを人様の家でお世話になるのは気が引けるので――滞在時間的にも断られるだろうな、という希望的観測を込めて、うなずいた。

 

 半年後、サクマはクレールの母方の実家にお世話になることになった。

 

 

 

 

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