俺の、あるいは私の結論ハ。   作:傘花ぐちちく

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第6話「燃え上がるトレーナー」

 

「よっす、ムジ」

「サクマ!」

 

 予選を無事通過したサクマは、元気に小学校へ通う。

 

「予選通過したんだ! 学級新聞に書いて良い?」

「ええで」

 

 小学校始まって以来の天才だの何だのと全校集会でラストジャッジメントを喰らったものの、一通りはチヤホヤを満喫した。

 

 それはそれとして、自己肯定感が満たされることはないのだが。

 

 2ヶ月後に迫った本戦までの間、サクマはデデンネたち新規組をトレーニングしたが、結局のところ本戦に出す機会は無かった。

 

 それはつまり、予選でも本戦でも、サクマの想像を上回るような有効な対策は成されなかったか、対策ごと踏み潰されたかである。尤も、新規組は本戦の水準に全く到達していないので、出す余地が無かったとも言う。

 

 多くのトレーナーが苦心して戦いに挑んだが、2位になれたら良いという一部の者にはあまり関係はなかった。

 

 そんなこともあり、選手たちの控室の空気は地獄そのものであった。

 

「カロスメガシンカ杯、優勝はシンオウ地方のサクマ選手です!」

 

 パチパチパチ、ワーワーワー。

 

 祝う雰囲気になれば観客は基本的に祝ってくれるものだが、それと反比例するように本戦出場選手の空気は冷えっ冷えであった。

 

 強いポケモンを揃えてシングルバトルの理論を頭に叩き込んで18タイプの相性を暗記して、やっとの思いでたった舞台に立ちはだかるのが単純に強いやつという理不尽。

 

 サクマが司会の声で表彰台に上がると、主催者のおじさんからデカい小切手の板――額は50万円!――とジュエリーケースに入ったキーストーンを手渡される。

 

 ねんがんの キーストーンを てにいれたぞ!

 

「副賞のメガストーンに関しましては、後ほどご本人から希望を伺い、後日郵送いたします」

 

 その後、サクマがボーマンダナイトを希望すると、2度ほど聞き返されたが。

 

「続きまして、ご来賓のドラセナ様より祝辞を賜りたいと存じます」

 

 穏やかな笑顔を浮かべた、ふくよかな女性が壇上に上がる。リーグが現在の形になる前まで存在した"四天王"の一人だ。最上位のAリーグで――それに次ぐBリーグでも時たま――現在も活躍している選手だ。

 

 彼女は定型文を幾つか述べた後で、選手へ言葉を向けた。

 

「若い芽が育っていて、まだまだ私もポケモンたちも遊べると思うと、楽しくなってしまいますね。挫折した子も多いでしょうけれど、強いトレーナーなら立ち上がらなきゃダメよ」

 

 サクマには触れず、トレーナーへの激励をして祝辞を締めた。ただ、去り際に彼の方を名残惜しそうに見て、今度戦いましょうねという視線を送った。

 

 軽く会釈を返したが、二人のバトルが実現することはそうそう無いだろう。

 

 表彰式が終わり、諸々の手続きを済ませた頃にはすっかり夜の8時になっていた。

 

 本戦は滞在費用を運営が持つので、今回同行者は居ない。

 

 一人でホテルへ帰り、ポケッターを眺めていると、一件のDMが届いた。

 

 小さな雑誌からの取材依頼だった。

 

***

 

【総合】ダブルバトルについて語るスレ【part164】

 

354:名無しのダブルトレーナー

更新多いなと思ったら9割嵐だった

 

386:名無しのダブルトレーナー

仕事だから誰か次スレよろ

 

450:名無しのダブルトレーナー

何であれ店の?

 

832:名無しのダブルトレーナー

自スレ立てました

htntnp://xxvxixdxexoxxxxxxxxx

 

 

【総合】ダブルバトルについて語るスレ【part165】

 

3:名無しのダブルトレーナー ID:DTsCtWbu3

IDつけんなカス

 

6:名無しのダブルトレーナー ID:AMJTgTkDA

何で荒れてんの?

 

16:名無しのダブルトレーナー ID:sD02q1elR

キーストーン(時価)が出る大会でサクマくん(11)が優勝

一年前にバッジ3個制限の10歳大会で親ポケ出して優勝した疑惑で何故か初心者スレが荒れる

シングルスレに飛び火

シングル民vs荒らしvs敗北者

サクマ氏ポケッターで燃料投下

簡単に言うとメインポケのメガストーン持ってるからサブの確保しました

嫉妬勢参戦!

手持ちの内訳判明で更に炎上←ここまで2日

数日経って落ち着く

シンオウのネットニュースでサクマ氏のインタビューが一部掲載

「ダブルを目指していく」

ダブルスレに飛び火!←イマココ

 

22:名無しのダブルトレーナー ID:yx6oD3xBW

シングルの有望株を奪い取れてザマミロ&スカッと爽やかな笑いがこみ上げてくるぜ

 

38:名無しのダブルトレーナー ID:7We0PwZ1e

有望株(爆弾)

 

48:名無しのダブルトレーナー ID:gBDi1Ut0L

実際実力どうなん?リーグ来れんの?

 

50:名無しのダブルトレーナー ID:1kvXPnPPp

Cリーグ以下のトレーナー総数が1/10以下なので・・・

 

66:名無しのダブルトレーナー ID:vryYrMNK0

この速さでバッジとれるなら余裕でしょ

 

78:名無しのダブルトレーナー ID:6+x0zfZlN

百分の一だゾ

 

80:名無しのダブルトレーナー ID:y6GRJ2Nc9

何のポケモン使うん?

 

96:名無しのダブルトレーナー ID:t7VkGxbMI

ガルーラモロバレル(色違い)ヒードラン

 

105:名無しのダブルトレーナー ID:/YPGU3OAp

ガルーラは知ってる

 

116:名無しのダブルトレーナー ID:MeNs6lxoi

ヒードランってなに?ゴキブリみたい

 

119:名無しのダブルトレーナー ID:fCDRqEZm4

色違い裏山

 

127:名無しのダブルトレーナー ID:7jwEZ5Y9l

>>116

2メートル強ある炎鋼タイプやぞ

 

131:名無しのダブルトレーナー ID:/QEuwj5Sy

試合生で見ると遠近感狂うおU^ω^U

デカすぎんだろ……!

 

136:名無しのダブルトレーナー ID:y6GRJ2Nc9

残り3体は?

はやくして、やくめでしょ

 

146:名無しのダブルトレーナー ID:t7VkGxbMI

デデンネイーブイタツベイ

 

161:名無しのダブルトレーナー ID:mos7b3fHN

>>146

えぇ…前半に比べて後半が貧弱すぎだろ

 

173:名無しのダブルトレーナー ID:UPCy15aW0

>>16

実質3体で大会優勝したからクッッッソ荒れてんの草

 

175:名無しのダブルトレーナー ID:/QEuwj5Sy

一体も倒されてないのマジ狂ってる

 

180:名無しのダブルトレーナー ID:T3SILhqXG

>>127

炎鋼タイプって他に何おる?

 

190:名無しのダブルトレーナー ID:e+rQpFmMy

おれコイツと戦ったことあるけど大したことなかったよ

 

199:名無しのダブルトレーナー ID:+1sDPOtjU

>>180

いまんとこヒードランだけや

知らんけど

 

213:名無しのダブルトレーナー ID:lQUYMtUNW

ダブルの腕はどうなんですかね…

 

229:名無しのダブルトレーナー ID:T3SILhqXG

>>199

エンペルトみたいなもんか 

サンガツ

 

239:名無しのダブルトレーナー ID:e+rQpFmMy

>>213

こいつのデデンネボッコボコにしてやったわ笑

 

240:名無しのダブルトレーナー ID:/QEuwj5Sy

>>213

ダブル専の人とポケッターのDMでやり取りしてるらしい

 

256:名無しのダブルトレーナー ID:+/4tkN+Cp

>>239

半年ROMってろガキ

 

270:名無しのダブルトレーナー ID:4P33iGV3j

>>173

>>175

これマジ?と思ったらガチで草

 

283:名無しのダブルトレーナー ID:WW+rb60Nd

>>240

一時期DBのCリーグ居たけどサクマ氏のガルーラは"ガチ"

2対2でデデガルでボコられたわ

 

284:名無しのダブルトレーナー ID:UPCy15aW0

2位の人と3位の人でやった準決勝が事実上の決勝になってたンゴねぇ

 

290:名無しのダブルトレーナー ID:lQUYMtUNW

>>283

はぇ^~すっごい有望

 

298:名無しのダブルトレーナー ID:KhfThzUj1

20歳位のトレーナーがバチボコに泣きながら指示出してたの草生えた

 

304:名無しのダブルトレーナー ID:e+rQpFmMy

>>256

ガキじゃねーよボケ!

 

この親ポケ使い逮捕できないの???

ぜってー実力じゃねえって

 

306:名無しのダブルトレーナー ID:BSmxtIiu5

あたおか湧きすぎ

過疎スレ壊れちゃっっ……たぁ!

 

312:名無しのダブルトレーナー ID:1buKhbCvK

>>283

Cリーグとかいう実質素人w

 

317:名無しのダブルトレーナー ID:WW+rb60Nd

>>312

死ね

 

940:名無しのダブルトレーナー ID:/QEuwj5Sy

サインもらったわ

おっ(U^ω^U)おっ(U^ω^U)おっ(U^ω^U)おっ(U^ω^U)

 

 

【草マニア】ナタネさんについて語るスレ part481

 

3:名無しの草マニア ID:toqDBdaDC

何で荒れてるんですか

 

16:名無しの草マニア ID:p/QbjjoZj

キーストーン(時価)が出る大会でサクマ氏(11)が優勝

一年前にバッジ3個制限の10歳大会で親ポケ出して優勝した疑惑で何故か初心者スレが荒れる

シングルスレに飛び火

シングル民vs荒らしvs敗北者

サクマ氏ポケッターで燃料投下

簡単に言うとメインポケのメガストーン持ってるからサブの確保しました

嫉妬勢参戦!

手持ちの内訳判明で更に炎上←ここまで2日

数日経って落ち着く

シンオウのネットニュースでサクマ氏のインタビューが一部掲載

「ダブルを目指していく」

ダブルスレに飛び火

数日経って落ち着く

サクマ氏の燃料投下(8つ目のバッジ取得報告)

ナタネさんがツーショットをポケッターに上げる

草スレ、自然発火します

 

17:名無しの草マニア ID:N1lufyL/v

画像の八割くらい草ポケモンじゃねーか

NTRモノを見る心構えだったワクワクを返せ

 

21:名無しの草マニア ID:xmYkfdsL4

い   つ   も   の

 

29:名無しの草マニア ID:YOxgdaBmJ

自分から燃えていくのか…(困惑)

 

37:名無しの草マニア ID:VB9Qv6j9V

この草キチ具合は安心できる

 

42:名無しの草マニア ID:Rvn8gRxTn

ほいよ、アチアチチャレンジャー草ポケ解説ね

htntnp://xpoketxmoviexxxxxxxxx

 

82:名無しの草マニア ID:sWTU/dO2a

いつ聞いてもさすがじゃのう、ナタネ氏の解説は

 

113:名無しの草マニア ID:EdMOoQELR

ナタネ「こんなに大きいキノコ初めて♡」

 

148:名無しの草マニア ID:LvRz6zNnL

>>113

言ってな…言ってんじゃねーか!

 

162:名無しの草マニア ID:1XGQ+FPwQ

テンション高すぎて半分くらいなにいってんのか分かんね

 

183:名無しの草マニア ID:05y01JizS

何でキノコのほうし食らって数秒で起きてんのこの人?

 

213:名無しの草マニア ID:CRT/Iw3y0

誰か文字起こししろ

 

253:名無しの草マニア ID:WKB0RGxDs

>>183

草ポケ界隈では基本の上級スキル

 

261:名無しの草マニア ID:VJ0ZgUMl1

>>253

エスパー界隈で超能力が基本になってるもんか

 

271:名無しの草マニア ID:Zm5NRhrRf

こんにちは、ナタネです!

今日は私に見事!勝利したチャレンジャーの草ポケモンを紹介させてもらおうと思います!

こちらがそのモロバレルアッ↑

ミレバワカルトオモイマスケドスッッッ↑ゴイおっ↓きぃぃぃ↑!

エ? スゴイオッキイネ 何センチなの!?

コチラノ……メジャーで!……キュウジュウゴエ!?

普通のモロバレルの1.5倍! 

珍しいですねぇ!見たことないくらい肉厚で、今され、さらですけどイロチガイ!

ねぇ~↑この凛々しい顔!ダキツカセテ!

アッ!?

 

<ダイジョブデスカ?

 

……

いい胞子!

この胞子がですね、今日のバトルの最中にも大いに活躍……あ、しない?あそっか、草タイプのジムだったね、いいニオイしてたから

ところでこのモロバレルちゃんですね

 

すまんが後は難しい話だったんで飽きた

 

279:名無しの草マニア ID:iKYJdWWpR

>>271

どうしてそこで諦めるんだそこで!

 

339:名無しの草マニア ID:Q2DsJHn7K

男の子ドン引きで草

 

376:名無しの草マニア ID:8IMzMj2sE

草タイプ含めてナタネさんに勝ったのか

 

386:名無しの草マニア ID:Dk72It8JX

ナタネさんが幸せならそれでOKです

 

 

 

***

 

 優勝してから一ヶ月が経過した。

 

 炎上のせいで親にトレーナーを辞めるよう遠回しに勧められたり、ガチバトルに勝利して8つ目のバッジを取得したり、ついでにSNSが延焼したり。

 

 色々と問題はあったが、ダブルバトルのDリーグ戦への出場を決めた。

 

 DリーグはABCリーグのような少数人数による総当り戦ではなく、トーナメント方式で行われる勝ち抜き戦だ。競技人口の少なさから、バッジを8つ集めた素人だらけのアマチュア大会同然であるが、シングルのように最下位リーグからCリーグ到達まで最速で3年掛かるような魔境でないだけマシである。

 

 ともあれ、サクマはダブルバトルにもそのような魔境を作れるほどの活気が欲しいのだが。

 

 リーグの昇格方法に関しては大抵のスポーツと共通しており、各リーグの対戦が終わると、下位リーグの上位2名と上位リーグ下位2名で入れ替え戦を行うことになっている。

 

 つまり、Dリーグで1位か2位にならなくて――消化試合。

 

 ただでさえ猛威を振るっていたサクマのエースにメガシンカが後付けされれば、もう誰にも手がつけられない。

 

 全ての試合で残ポケモン数4-0のパーフェクトゲーム達成。

 

 リーグ期間中にB、Cリーグの方を観戦したが、十分余力を持って対処できるだろうと当たりをつける。そして、予想通り入れ替え戦も突破。次のシーズンからはCリーグに参加する。

 

 これは単純な数の問題であるが、強いポケモンを持っている強いトレーナーの数は限られており、ほとんどがダブル以外の競技に流れていくのであれば、まともにサクマの相手ができるのは最早Aリーグで収まる数だけになってしまう。

 

(それはそれでいいんだけどさ)

 

 ダブルバトルでチャンピオンになる。

 

 そのためにはまず、ダブルバトルにおける頂点が、シングルバトルにおける頂点と同格であると世間に認めさせなければならない。

 

 シンオウシングルの頂点といえば、未だ現役のシロナだろう。

 

 ダブルバトルでシロナを手酷く負かさなければ、"チャンピオン"の栄光が頭上に輝くことはない。

 

 シロナと戦うためには、何をすればいいか。

 

 "試合を行う"と決定させるには、興行として成り立つレベルで、かつ話題性がなければならない。

 

 話題性。

 

 幸いなことに、サクマは話題には事欠かない。

 

 チャンピオンを何らかの試合に――可能性があるとすればエキシビションマッチだろうか――引きずり出すには、前々から因縁を仕込んでおかなければ誰かの目に留まらない。

 

 良くも悪くも、知名度は重要だ。

 

 

サクマ @meijin_megahosi

 

Dリーグ1位通過しました

この調子でダブルのチャンピオン目指して頑張るぞい

 

ところでダブルだとトップって言うらしいんスけど

シロナ倒せばチャンピオンの称号返してもらえたりする?(笑)

 

282 15704 6859    18:03

 

 

 

 

 炎上した。

 

 

 

***

 

 

 

「……サクマ」

「お、久しぶり」

 

 ナオと再会したのは一年ぶりだった。

 

 鬼気迫る表情でふらりと彼の前に現れた。

 

 サクマは大きめのキャリーケースに腰掛けていて、両手にそれぞれスマホとチェーン店のコーヒーを握っている。

 

「なに、旅行?」

「……」

 

 気負わずにフラットな口調で尋ねる。昔に言い合いをしてギクシャクした事はあったが、バイタリティ溢れる点は羨ましく感じられる位にはリスペクトしていた。

 

 ナオの話を聞きたい気持ちが強かった。自分ではできないような体験をして、どんなトレーナーになったのかと。

 

「旅行って……私、旅してたんだけど?」

「いや、ここ空港だし……どうやって来たん?」

「おばさんから聞いたよ。色々」

「ほーん」

 

 "色々"に込められた様々な事情を察する。

 

 それだけにサクマの頭に疑問符が浮く。

 

「いや、それココに来た理由になってなくね」

「――なるでしょッ!!」

 

 は、とサクマが口をぽかんとあける。

 

 ナオの顔は真っ赤に紅潮して、何か詰まっていたものが飛び出してきたかのようだ。

 

「あんた、他のスクールのやつに嫌がらせされて、小学校辞めてっ、おじさんおばさんとも喧嘩して家飛び出したって! それ、それなのにっ、ポケッターはいっつも炎上してるし、でもホウエン行くって連絡はしてて、ひっぐ、ぐずっ」

「……」

 

 サクマは押し黙って、俺が泣かせたとか思われるの嫌だけどこれポケッターに無断で動画とられて勝手にアップされたら炎上してフォロワー増えねぇかな、と最低なことを考えていた。

 

 しどろもどろになって涙を流し、言葉にならない言葉でぐずぐずと顔を崩した彼女は、慰め一つよこさないサクマの顔を見て本来の用件を思い出した。

 

「バトル、して」

「この流れで? いや飛行機の時間まで2時間位あるからいいけど……シングル、ダブル?」

「……ダブル」

 

 少しすねたように唇を尖らせる。

 

「バッジ何個持ってる?」

「8つ」

「ファ!? マジか、じゃあ手加減とかいらない?」

「仮に私がバッジを一個も持ってなくても、全力で来て」

「おおう、すまんかった」

 

 当然のように備え付けてあるバトルフィールドに移動して、バトルすると聞きつけて湧いてきた野生の審判に合図を頼む。

 

「それでは、2対2のダブルバトルを始めます! 試合開始!」

 

 二人同時にボールを放り投げ、ポケモンのシルエットが見え始めたところでサクマの指示が飛ぶ。

 

「ねこぷ!」即座に一拍、攻撃方向をクロスさせる合図だ。

「マッ――」

 

 ナオが出したのはとルカリオとゴウカザル。

 

 サクマが出したのはガルーラとヒードラン。

 

 ガルーラが指示されなくともメガシンカしつつ、ゴウカザルに猫騙しを叩き込んで離脱。

 

 即座に、ダウンバーストのような強烈な熱風がナオのポケモンを地面に縫い留める。

 

 ゴォォォオ――と鳴り響く音が指示を遮り、物理的な圧力が行動を許さない。

 

「まもじし!」

 

 ヒードランが身を守り、メガガルーラが地震の2度打ちで打ちのめした。

 

「そこまで!」

 

 審判の合図。

 

 試合は終わった。

 

 蓋を開けてみれば、それは試合を呼ぶのもおこがましい何か。

 

 行動すら許されず鎧袖一触。

 

 ナオはバッジを一年で集めた正真正銘の天才だった。同じ条件で旅に出たなら、サクマなど今頃3つ目のジムで大苦戦して立ち往生しているだろう。

 

 だが、実際は蹂躙だ。

 

 ダブルバトルの数多のDリーガーの心をへし折って、Cリーガーを戦慄させた。

 

「あッ、あ、ああぁ……!」

 

 ナオは、少なくともサクマの背を追ってきたつもりだった。つもりだった。

 

 インチキな強さに対しては、尋常の努力では後塵を拝する事もできない。

 

 リーグとはこんな化け物が潜む魔窟である――と、ナオは逆に燃え上がった。

 

 難なく――この表現では語弊があるが――バッジの取得を済ませて、世間を若干ナメていた彼女にはいい刺激だ。

 

 しばらく呆けていたナオだったが、表情筋を引き締めるとサクマにお礼を言ってポケモンセンターへ駆け出していった。

 

「……え、会話とかなし? マジでいったの?」

 

 肩にポンと置かれる野良審判の手。

 

「兄ちゃん、振られたな」

「ちげーわ!!」

 

*

 

 さくま @meijin_megahosi     14:14

 

 

 ホウエンで2匹のトレーニングしてきます!

 ダブルの修行もするので戦いたい方はDM送ってくださいねb

 本気面子はバッジ8つ以上の人だけなので悪しからず!

 

(座席にモザイクがあるチケットの画像)

 

 

 

 

 イーブイとタツベイがなかなか進化しない。

 

 進化しないので本気の戦いに出せない。

 

 本気の戦いに出せないので、最近は全く経験が積めない。

 

 だが、そもそもの問題として、同格と戦う機会がほとんど無いのが原因だ。

 

 なので、ホウエン地方に行くことにした。

 

 ホウエンは一応ダブル発祥の地でもあるし、何より名前が知られていないのでイーブイとタツベイに見合った対戦相手を探すことができる。

 

 シンオウだと初心者狩りのように思われるので声がかけられない。

 

 炎上すること自体はいいが、本物の悪名がほしい訳では無いし、そんなものはただのマイナスでしかない。

 

 と、そのような経緯からホウエンにやってきたが、やること自体は変わらない。ポケセンで対戦相手を探してバトルだ。

 

 野生のポケモン……?

 

 回復施設も側にない上にエンカウントも運、おまけに対人経験も積めないので効率が悪い。そんな無駄なことをしている暇があったら対戦相手を探すために声を掛けた方がいい。

 

 一週間ほど、ミナモシティのポケセンを渡り歩いてバトルバトルバトル&バトルだ。パーティーの底上げを図りたいので、各街一週間前後の滞在に対して本気面子での対戦は最終日のみに限る。

 

 次のシーズンまで時間があるので、二ヶ月はホウエンで修行する予定だ。

 

 というわけで、ミナモシティでの滞在最終日は七人のダブルトレーナーとガチで戦う。

 

 そこのポケセンのルールに従って順番待ちをしたり雑談しながら一対一を繰り返したが、五戦目からはギャラリーができて、他の利用者が順番を譲ってくれたので連戦。

 

 見せ合い6-4形式――サクマは4体固定だが――で全タテ。ひんしになったのはデデンネだけで、よそから見れば結構なイージーウィンに見えただろう。

 

 その日はいい経験になったなー、などとスヤァしたのも束の間。

 

 ラルースシティのポケセンで待ち構えていたのは、我こそはというダブルの腕自慢たちだ。

 

 格ゲーで対戦するためにゲームセンターを渡り歩いた人間はこういう歓迎をされたのだろうかと、太古の時代に思いを馳せつつ"ポケッターでDMお願いします"と断る。

 

 のんきに構えて、イーブイとタツベイを戦わせられるレベルのトレーナーを探すが見つからない。

 

 おかしいと思い河岸を変えようとすると、なにやらニヤついたトレーナーが立ち塞がり出口を封鎖する。

 

「俺と勝負したら出してやるよ」

(バトルヤクザがよぉ……!)

 

 サクマが(渋々)バッジの個数を尋ねると、向こうは得意になって"バッジ8つのダブルCリーガー"だと宣う。

 

 コンプライアンス大丈夫か?

 

 なんて言い返そうと思ったサクマ。取り巻きがスマホで動画撮影しているのを目ざとく見つけると、いいこと思いついた!と中指を立てる。

 

「C風情のアマチュアカスが粋がってんじゃねぇぞ雑魚ッ!」

 

 ちなみにホウエン地方ではシンオウよりもリーグが一つ分多いので、シンオウのB-Cリーグ相当であり一応プロに分類できる。

 

「言ったなテメェ!」

「コンプラキメてねぇ脳足りんにダブルは向いてねーんだよ猿ッ!」

 

 盛大なブーメランで口火を切ったので試合が始まる流れに。

 

 暇そうにしていたジョーイさんに審判を頼み、ギャラリーたちも決戦のバトルフィールドへ。

 

「試合開始!」

 

 サクマの最初の2体はガルーラデデンネ、相手の2体はコータスバクーダだ。

 

 サクマはボールから出てくる際のシルエットで戦術を決める。

 

 先手を取ったのはサクマだ。

 

「ねこかい!」

 

 メガガルのバクーダへの猫騙し、デデンネのコータスへのかいでんぱ(特攻2段階↓)

 

 一足先に動き出したサクマたちにぎょっとしつつも、相手は晴れ渡ったフィールドに「ふんかぁ!」と声を響かせる。

 

 鈍足炎ポケモン2体――いや、コータスのみが噴火をメガガルたちにぶちまけるが、威力はほぼ半分に下がっている。

 

 相手は舌打ちし――「おんかいにげ!」――ギョッと目を剥く。

 

 ガルーラがバクーダへ躍り掛るとともに、デデンネはかいでんぱをコータスに打ちつつフィールドを走り回った。

 

 ダブルバトルにおける範囲技は効率よくダメージを与えられる上に当たりやすい(・・・・・・)ため重宝されるが、小回りがきかない事に加えバラバラに逃げられるとただの単体攻撃になってしまう。

 

 噴火×2に対して、突貫&妨害は相手の基本戦術を突き崩す手段として有効だと言えよう。

 

 特に、シングルと違って、一体のポケモンにばかり指示を出していると手遅れになるダブルでは。

 

「戻れ! 大地!」

 

 "晴れ"の再展開が可能なコータスを戻し、バクーダに単体攻撃の大地の力を指示する。しかし、メガガルーラにどつかれて思うように技が出せずやられかけだ。

 

 サクマは、相手が焦りながらボールを取り出したのを目視してから、「デデ!」と交代の合図を送り、ツーテンポ遅れて――相手がヨノワールを繰り出し――ヒードランを出した。

 

 盤面だけを見れば、バクーダに大地の力を打たれてしまいそうな場面であるが、実際はメガガルーラに釘付けにされておりそんな余裕はない。

 

「まもだい!」

「かわだい!」

 

 ヨノワールのかわらわりと大地の力をメガガルーラが完全に防ぎ、そこへヒードランの大地の力が炸裂する!

 

 それによってバクーダが戦闘不能になったので試合は一時中断、"晴れ"の時間が削られないよう相手は即決した。

 

「バナ!」 

 

 フシギバナだ。

 

(Sラインが遅いと思ったけど、バナか)

 

 フシギバナの夢特性はようりょくそ。晴れの場合素早さが2倍になる特性である。

 

「試合再開!」

「まもみが!」

「へどかわ!」

 

 相手は体力を消耗している(はず)のガルーラ集中。対してサクマはメガガルーラをヒードランの目の前に立たせてまもるを発動し、ヒードランはみがわりをする。

 

 範囲攻撃しか防げないワイドガードの代わりに、物理的に壁になることでもう一体への攻撃を防ぐ戦術だ。使用タイミングは試合再開直後など、読み合いが必要かつ機会が限られてくるが、決まれば無償でアドバンテージが稼げる。

 

 みがわりのせいで攻撃対象が3体に増えるのはなかなかに悪魔的光景――サクマに言わせてみればトレーナーを情報量でぶん殴るクソ戦術である。範囲攻撃で本体ごと攻撃されると弱いが、今回に限っては炎技は無効だ。

 

 つまり、みがわりの動かし方次第ではガルーラへ向けられた炎技を無効化できる。

 

「デルタ、いわぷ!」

「せいト――かわ!」

 

 突破力を上げるためにフシギバナが"せいちょう"――晴れ時攻撃特攻2段階上昇――をしたが、ヒードランの身代わりを頂点にした三角の隊列を組んでいるので一瞬ためらった。

 

 こうしたフォーメーションでは特殊攻撃や接近しない物理攻撃を用いるが、そのパターンは概ね2つの場合に分けられる。

 

 積み技の隙に相手を突き崩す時や、相手を制圧する時だ。

 

 フォーメーション戦術は近接攻撃によって乱されやすいので、相手はヨノワールのトリックルームを中断してかわらわりに切り替えた。

 

 その一瞬の遅れが――いや、そもそもが崖っぷち過ぎた。

 

 吹き荒れる熱風と降り注ぐ岩雪崩、その圧力にやられた。

 

「そこまで!」

 

 中断。

 

「……頼む!」

 

 最後の一匹、コータス。

 

 残り一匹になってから本領を発揮するトレーナーがいないわけではない。だが、大抵の場合は手遅れで、シングルバトルの腕前に自信があったとしても無意味になる。

 

 数の差は絶対的で、複数方向からの攻撃は、避けにくい。

 

「試合は終わりです。では、握手を」

 

 ジョーイさんが気を利かせてくれたので、サクマは手を振り払いたかったが反射的に差し出す。

 

 炎上を利用することと礼儀を疎かにすることは別である。

 

 燃え上がるときに燃え尽きてはいけない。

 

 ――当然のように切り抜かれて炎上したし握手の写真はほとんど出回らなかった。

 

 後日、あまり炎上しないように、とリーグの方から注意された。

 

 さしものサクマも(チッ)反省します、としおらしい態度で応えた。

 

 さて、トレーナーの方はよく燃えるが、ポケモンの方はそうでもない。

 

 イーブイとタツベイの成長が遅々として進まない。

 

 一応、ホウエン地方での修行を終えてLvは30を越えたし、それなりに良い関係を築けてもいるが、進化はポケモンによって個体差がある。

 

 どうするものか、と頭を悩ませているとクレールからメールが来た。

 

『いま、会えない?』

 

 

 

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