強いポケモンを使えば強いトレーナーになれるとは限らないが、強いトレーナーは総じて強いポケモンを使っているものだ。
どんな競技にも"強い戦法"があるように、ポケモン対戦においても"強い戦法"とそれに合致した強いポケモンが――流行の中心となる対策必須のポケモンが存在する。
強いトレーナーにとって、"強いポケモン"というものは範囲が広く、対策必須のポケモンやそれを対策できる"メタ"なポケモン、相手にとって"初見殺し"となるような知見に乏しいポケモンなんかが"強い"とされている。
では、強いポケモンの条件は何だろうか?
簡単だ。
優秀なタイプを持っていること、能力と技の方向性が一致していること、いくつかの役割を持てること。
霊獣ランドロスで例えると分かりやすいだろう。飛行/地面タイプであるため電気と地面を無効にし、格闘を半減にできる優秀なタイプだ。無効にできる技のタイプが多いということは、相手に無駄な行動をさせられるということでもある。
加えて、他の物理地面タイプに強く、メジャーな範囲攻撃である地震を無効にできるため、地面弱点のポケモンがいるからといって安易に地震で攻撃すると、交代で出てきたランドロスによって少なくとも片方は攻撃をスカされるわけだ。
さらに、特性の威嚇によって物理技に対する耐久を支援でき、"とんぼがえり"で威嚇を再利用しやすいのも強みだ。ランドロス自身の物理攻撃に関しては、鍛えられていないフラットな状態であっても、同レベルの攻撃特化ミミッキュと同程度なパワーは持っているため、とんぼがえりを含めて技と適性が非常にマッチしており、技と特性によって交代でアドバンテージが稼ぎやすく有利な盤面を作りやすい。
また、じしんはもちろんのこと、飛行タイプへの打点にいわなだれが使えるし、はたきおとすといった打ち得技や鋼に強いばかぢからがあるのも強さの一因だ。
ランドロスは対物理に関しては真正面から打ち合えるし、後続のサポートもできる。高い攻撃力も備えているためエースとしても活躍することができ、持たせる持ち物によって千変万化の活躍を見せる。タイプと特性によって疑似的な耐久力を確保できるため、ポケモン交換がしやすく、サイクル戦を軸に据えて戦うガルーラスタンにとって、欠かせないパーツだ。
このように、ランドロスには役割が多い――複数の強力な戦術やポケモンに対して対抗できる――ため、パーティという6体が上限の枠組みの中で、力を発揮しやすいのだ。トリックルームパと砂パと晴れパの対策をするのに、いちいち封印イエッサンやドリュウズやニョロトノを入れていては、とてもじゃないが枠は足りないしパーティは滅茶苦茶になる。
だから、役割がいくつもあるポケモンを1体入れるだけで、パーティの自由枠が空き、その分だけポケモンを詰めることができ、パーティ全体の完成度を向上させられる。
強いポケモンの条件が分かったところで、このダブルバトルに適性があり過ぎるのがランドロスというポケモンであり、ランドロス自身もランドロスを苦手とするほど業が深いポケモンとなっている。ただ、対策は普通にできるので、無敵とまではいかない。ギャラドスやかちきミロカロスといったポケモンがいれば普通に戦える。
しかし、他にランドロスの使い手がいないのなら、活躍できて当たり前なスペックは持っている。少なくとも、初見殺ししかできないような生半可なポケモンではない。
そして、サクマの――いや、第6世代ダブルバトルの結論パとすら呼ばれた6匹は、そういう生半可じゃないポケモンばかりで構成されている。
彼らはサクマを認めるだろうか?
頭の天辺から爪先まで甘えたトレーナーを。
いや、例え認めたとしても、その道を選んだが最後、囚われる。
第9話「宣戦布告」
人と人は互いに影響しあう生き物だ。
意識的にだろうが無意識的にだろうが、そこに二人の人間がいれば、それぞれが孤独であった時とは違う挙動を見せる。
影響が小さいか大きいかは人によるが、シンオウ地方におけるダブルバトルの頂点を決める祭典・Aリーグにおけるサクマの影響は
B・Cリーグを無敗最短最速で駆け上がってきた期待の超新星トレーナーサクマ。
腐ってもAリーグの面々は彼のことを対策すべきトレーナーの1人として見ていたし、概ねその方法も考えてあった。確かに、ポケモンとしての強さを比べた時に、メガガルーラやヒードランは一つ二つと頭抜けている。
その一方で、トレーナーとしての経験値が足りない。彼の公式試合はほとんどが圧勝ワンサイドゲーム一方的な試合ばかりだ。相対するトレーナーの力量がなく、接戦や苦戦というものを経験していない。
Aリーグトレーナーの彼らが抱いたのは経験からくる自信であり、傲慢でもあったが、"倒せる"という考えが通用する実力を持ち合わせているのも事実。経験の足りないトレーナーは判断ミスを犯すし、そのリカバリ策も拙い。ポケモンバトルは、何もポケモンに攻撃するだけが唯一の勝ち筋ではないのだ。
トレーナーとポケモンの相互連絡を音技で遮ったり、あるいは物理的な壁――波乗りの波など――で遮断してしまえば、ポケモンもトレーナーも戸惑うものだ。
トレーナーへのダイレクトアタックは明確に禁止されているが、そういった呼吸を乱す戦術はシングルでも盛んに取り入れられているし、ダブルバトルにも輸入され始めている。その中のトップ集団であればなおさらだ。
砂嵐が巻き起これば、視界は悪くなる。日差しが強くなれば、迂闊な者は前が見えなくなる。雨が降れば水滴に集中は途切れやすくなる。素早さが逆転すれば、阿吽の呼吸は乱される。
当たり前だが、大事なことだ。
自分のペースで戦えば有利、自明である。
ただ一つ、サクマはAリーガーの想定を上回っていた。
***
話題性は大事だ。話題にならなければ何にもなれやしない。
Bリーグを無敗で勝ち抜いた時から、サクマの腹は決まっていた。
どうやって目立とうか、ということも考えていた。
だから、語ることは少ない。
Aリーグが始まるまでの数か月間、サクマは田舎のポケモンセンターに寝泊まりして、人目に付かないように訓練を行っていた。対人戦はしていないが、目覚めたメンバーとのコミュニケーションがメインなのでよい。
練習をして、自分は頭を動かして、何か知らないけど負けちゃいました(笑)などという無様な真似をしないように祈る。捕獲難易度的に伝説のポケモンはまず出てこないレギュレーションなので、負けることは恥で勝って当然。
しかし、対策はできる。戦う相手が分かっているならレベル1でも勝てたのがポケモンで、そんなポケモンバトルを知っているからこそ絶対に手は抜けない。
例えば、メガガルーラに強気でいられるポケモンと言えば、ギルガルドやナットレイ、ゲンガーやバシャーモ、メガミミロップにコジョンドなどなど……挙げようと思えば幾らか挙げられる。
まぁ、シングルバトルではないのでもう一体に対処させればいいのだが、意外な型に不意を打たれて負けるというパターンが一番嫌だ。
毎日血眼になってポケモンの情報を集めていると、嫌な情報も手に入るものだ。
例えば、ポケモンの特性が地方によって違うとか。ホウエン地方とかシンオウ地方で生まれ育ったゲンガーだと"ふゆう"だが、アローラ地方やガラル地方だと"のろわれボディ"になっているとか。
可能性が増えるのは嫌いだ。それだけで思考のリソースが持っていかれるから。
ただ、良い情報だってある。モロバレルがパルデアとかいう地方だと"かふんだんご"を覚えるし、知らない地方のポケモンは"まだ"越境してくる気配が無い。ポケモンの生態系だとかが要因らしいが、「もしかしたら2,3年経てば解禁されるかもしれませんね」とクソブログには書いてあった。
「はぁ……」
で、目下最大のストレス要因は生活費目的で始めた配信だ。
なんだか最近、変な視聴者が増えてきたのだが、妙にDMで絡まれたり母親面される。
可能性が増えるのは嫌いだが、
まぁ、裾野が広がるという事はそういうことだし、生活に余裕が出てきた分だけ心労が増えた。なんて言えばいいんだろうか、職場にいて業務上会話が発生する先輩社員がセクハラしてきて気持ち悪いみたいな感じだ。
贅沢な悩みなのだろうか? いや、ない。
我12歳ぞ???
セクハラすな!
Aリーガーになったら絶対配信辞めてやる。
空き時間のほとんどはトレーナー業に費やされており、配信やアドバイスでの生活費乞食を除けば、ポケモンの情報収集、肩慣らし、リーガー個人の傾向の分析にほとんどの時間を費やしている。
Aリーガーは自分を除いて19人しかいないのだから、やれる限り調査するべきなのは自明だ。となるとやることが多く、時間がいくらあっても足りない。
休息は取るが休みの日は無い、そんなペース配分で取り組んでいたが普通に過労で風邪を引いた。
病院には行ったが、薬を貰って帰り、一人ベッドで横になるだけ。
二日もすれば治ったが、無理は禁物だとよく分かった。
それからリーグ戦までは無事に過ごすことができた。
山も谷も特にないが、風邪で寝込んでおいてこれ以上トラブルを起こすような奴は色々と向いてない。自己管理もできないのにチャンピオンになれるわけがない。
ただ、精神的には逆に落ち着いたので、強引に連絡を絶った人たちへ謝罪をしておく。顔を合わせると迷惑を掛けるかもしれないので電話越しではあったが、心を整理できた。
勝っても負けても、やれることはやった。
リーグ開幕の数日前には対戦カードが組まれ、公表された。
サクマのメンバーはガルーラ、モロバレル、デデンネ、ヒードラン、ニンフィア、ボーマンダだ。
メンバーは変わらないが、ルールは変わっている。
ダブルバトルのAリーグは6対6のフルバトルなのだ。
かつてはBリーグ以下でもフルバトルが行われていたが、サクマがプロ入りする数年以上前にスタジアムの利用料金の問題で見せ合い6-4形式になっている。
逆に、競技人口の増加や盛り上がりの絶えないシングルバトルではフルバトルの間口がどんどん広がっている。
サクマのパーティは6-4前提で組み上げられたものだが、フルバトルのための技をいくつか習得したし、やれることは積み上げてきた。
一戦目の相手はドクロッグ、エンペルト、メタグロス、ワルビアル、ブルンゲル、ファイアローと、ドクロエンペを軸にしたパーティだった。
特性かんそうはだのドクロッグや特性ちょすいのブルンゲルを全体技のなみのりで回復しながら、あまごいとトリックルームを絡めたエースのエンペルトで攻め、隙があればファイアローの追い風とメガメタグロスで叩き潰す構成だ。
厄介な相手だったけれども、真っ先にヒードランのステルスロックを撒いたことや、モロバレルで水技を受けにいったりデデンネのかいでんぱで攻撃能力を削いだりと、相手の定型を荒らした上でメガガルーラとニンフィアで攻め立てて3-0で勝利した。
メガシンカは1試合に一体のみなので、ボーマンダにはいかくとはねやすめを中心に、クッション役としての役割に徹してもらった試合だった。もちろん、ボーマンダの動きも非常に良くなってきているので、相手パーティ次第ではメガボーマンダ起用も視野に入れている。
それから二戦、三戦と数を重ねる度に、背負っていたものが段々軽くなっていった。
想像以上に戦えているし、対応できているし、負け筋を潰せている。
思い通りにポケモンに指示を出せるようになったし、頭の回路がバトル用にチューニングされたかのように冴えわたっている。ポケモンたちも試合の中に定型を見出し、言わずとも伝わることが増えてきた。
今の自分の実力が本物のプロに通じているという事実が不安をかき消していくし、試合をコントロールして勝利した瞬間などは、歓声が上がる度に自身の強さを証明できているようだった。
相手を負かすたびに満たされ、勝てば勝つほど勝ちやすくなる。
勝つことは楽しいが、それも最後だ。
『さぁ、皆さん。ダブルバトル史上最高の公式戦連勝記録で勝ち上がってきたサクマ選手が、とうとう頂点を決めるステージに上がりました! 受けて立つのはオーレ出身、3期連続でトップに輝くこの男、エンジュンだー!』
司会者の声に合わせて一人の男がバトルコートに進み出る。四万人の注目を浴びた男は強敵を前に笑った。
その男のパーティはエルフーン、(メガ)クチート、サザンドラ、ヒートロトム、ラプラス、ガブリアスで構成されている追い風スタンだ。相性補完の良いメガクチートとサザンドラを軸に、追い風を絡めて敵を上から縛る構成である。
更に、現在のトップはシングルバトルのBリーグでも活躍していた人物であり、メガクチートと1対1で戦えばメガガルーラも勝てるかどうか分からない。
『片や異彩! 無敗完勝最短最速でこの舞台に駆け上がってきた男、弱冠12歳、サクマだー!』
トップと戦う時の初手は既に決めているし、相手もこちらへの対抗策は山ほど考えてきただろう
約40m先に立つ男と目が合えば、自然と口角が上がってくる。目と目が合えばバトルだ、戦いだ、雌雄を決するのだ。
『秋のAリーグ最終戦。本日は10℃と低い気温であるにも関わらず、会場の熱気は最高潮に達しております。私もうっすらと汗が出てまいりました』
観客の声が遠くなっていく。
サクマの耳目は勝利への道しか捉えていなかった。
「試合開始!!」
ホイッスルが鳴ったと同時、四体のポケモンがコートに飛び出した!
サクマのボーマンダとガルーラ、トップのヒートロトムとガブリアスだ。
「まもりゅう!」
「でんなだ!」
身を守った
ガブリアスは鮫肌で、ロトムはゴツゴツメットを身に着けているため、接触するような攻撃はメガガルーラにダメージを与えてしまうため、猫だましを避けた。トップからしてみれば圧を掛けたついでに行動を阻害できればラッキーで、なおかつボーマンダはメガガルーラよりも優先するべき対象ではなかった。
サクマの方も、いきなりまもるで電磁波を防いだが、意図したものだ。自身の試合を分析して、メガガルーラの初手ねこだましの確率が高く、相手を見てやはりメガガルーラを暴れさせないための盤面だと想定。鬼火などの状態異常技を撃たれる前に流星群で接触せず排除するつもりであった。
流星群の反動で下がった特攻は白いハーブが吸収されることで元通りになる。ガブリアスは標的をメガガルーラに変えたがったものの、ボーマンダが進路を塞いでハイパーボイスで圧を掛ける。
その隙にメガガルーラがグロウパンチでゴツゴツメットを被ったロトムに止めを刺し、ボーマンダを排除しようとしたガブリアスがドラゴンクローを振り下ろすも、まもるで防がれる。
ピー!
ホイッスルが鳴り試合が中断され、倒れたヒートロトムがボールに戻る。2体が自陣の方へ僅かに後ずさってガブリアスも距離を離し、すぐに次のポケモンが飛び出した――エルフーンだ。
コットンガードで防御力を増したエルフーンにメガガルーラのおんがえしが炸裂し、ボーマンダの流星群はステルスロックを撒いたガブリアス目掛けて降り注ぐも、巧みな機動によって回避される。
「じしハイ!」
「おいドラ!」
エルフーンの追い風が素早さを向上させ、メガガルーラが自陣にバックステップで引くと同時に起こした地震をガブリアスが飛んで回避。振動が終わった直後にボーマンダと交代で出てきたニンフィアには
吹き飛んだガブリアスごと、再びのハイパーボイスが敵陣に轟く最中、エルフーンのアンコールが攻撃のために走り出したメガガルーラに届く。
このまま攻撃すれば技は強制的に地震となり、ガブリアスに飛んで回避されたり交代で避けられたりおまけにエルフーンには痛手にはならないし、味方のニンフィアだけを痛烈に痛めつけることになる。
「バック!」
メガガルーラは大声で叫んだサクマに呼び止められ交代――ヒードランが飛び出した。
ピー!
その直後、ガブリアスの戦闘不能に合わせて試合が中断されるも、待ち時間は1秒程度しかなかった。
じっくり考える時間などない。勝利のための理路整然とした思考を維持しなければならないというのに、意識しなければ呼吸をすることさえ難しい。指示の為に大きく息を吸い込むが、肺に空気が入った気はしない。
次のポケモン――クチートが飛び出した直後、エルフーンはサザンドラと交代し、ヒードランは身代わりを置き、ニンフィアの代わりにもう一度ボーマンダが飛び出した。
全くの同タイミング。サクマはメガシンカしたクチートが自陣に突っ込んできたのを見て次のボールを用意する。
メガクチートのじゃれつく攻撃でボーマンダが地面に叩きつけられたと同時、ヒードランの熱風が至近でメガクチートに襲い掛かり、出て来たばかりのサザンドラを撫でる。ヒードランの身代わりはサザンドラの大地の力で破壊され、ホイッスルが鳴った刹那に戦闘不能のボーマンダが引っ込んで、モンスターボールの遠投で自陣の外ギリギリに飛び出したニンフィアが体勢を崩しながらのハイパーボイスでサザンドラの不意を突いた。
立ち位置的には、メガクチートはサクマの側に立ち入り、ヒードランがその真横に。ニンフィアがメガクチートの後ろかつ敵陣のサザンドラの真正面にいる。
「――――!」
「ねつハイ!」
激痛に耐えるサザンドラが3つ首からラスターカノンを吐き出してニンフィアを排除しようとするが、ニンフィアも同じく力を振り絞ったハイパーボイスで押しとどめる。
メガクチートが指示を遮断され一瞬戸惑った隙に、ヒードランの熱風が再度襲い掛かる。メガクチートは自己判断で後ろに飛び退き、熱風の範囲から少しでも遠くに逃れると同時にニンフィアの背を巨大な顎によるアイアンヘッドで弾き飛ばした。
ピー!
ニンフィアの場外及び戦闘不能で試合が中断される。
今度はすぐにポケモンを出すのではなく、猶予時間の1分を使って可能な限り敵陣を観察する。
相手エースのメガクチートはまだまだ動けそうだが、サザンドラは飛ぶことも辛そうだし、追い風の効果時間も切れた。
サクマがデデンネを繰り出すと、ヒードランは指示に合わせて身代わりを出し、デデンネのエレキネットがメガクチートの代わりに出てきたエルフーンを絡めて素早さを落とした。サザンドラはヒードランの攻撃に備えて"まもる"をしたが、ほとんど意味は無かった。
二人の集中力はバトルコートの上だけに注がれ、もはや自分の指示さえも聞こえていない。
互いにエースを温存しながらの中盤戦。サクマの残りポケモンはヒードラン、デデンネ、メガガルーラ、モロバレルの4体で、トップの方はエルフーン、サザンドラ、メガクチート、ラプラスと数的に互角。
目まぐるしく変わる盤面に実況の解説はほとんど追い付かず、観客は一進一退の戦いに歓声を上げた。
両者は澄み切った水のような心持ちのまま戦いを更にヒートアップさせていく。
エルフーンの追い風を受けて高く飛び上がったサザンドラがヒードラン目掛けてだいちのちからを狙い撃つように繰り出すが、指示を受けた2体と身代わりが敵陣のエルフーンに接近して乱戦に持ち込んだことで攻撃が一瞬だけ止まる。
その隙にデデンネのエレキネットが上空のサザンドラを打ち落とそうとすると、三つ首のラスターカノンがそれを相殺した。その隙にヒードランが足を据えてステルスロックを敵陣に撒く。
ヒードランを遠巻きに避けていたエルフーンは隙を見て宿木の種を打ったがすぐに防がれ、体力が残り少ないサザンドラはデデンネが打ち上げるエレキネットを避け、避け、避けて一撃も喰らうまいと回避に専念する。
サザンドラを抑えていれば、戦況はサクマの方へ好転していく。追い風には制限時間があるからだ。
エースのメガクチートを自由に動かすためにはヒードランが邪魔であり、よーいドンで先制するには追い風の支援が不可欠だ。かといって、トップがラプラスを繰り出せばサクマはヒードランを引かせるだろうし、メガクチートを出せば熱風でかなりのダメージを喰らう。
エルフーンがムーンフォースでデデンネを吹っ飛ばすと、サザンドラが大地の力でヒードランを狙ったが回避される。ヒードランは回避に専念しながら食べ残しで体力を回復させながら熱風をエルフーンへ――いや交換されたラプラスへ叩きつけ、デデンネの怒りの前歯で追撃する。
2体の意識がラプラスに集中した隙にすぐさまサザンドラが撃ち落とした悪の波動をヒードランがまもるで防ぐと、体力を一気に削られたラプラスが電気ネズミを振りほどいてフィールド中に波乗りの水を溢れさせ、追い風の効果が途切れ、ヒードランがサザンドラをめざめるパワー氷で打ち落とした。
ピー!
試合が中断される。
これでサクマ側の数的有利な状況だが、不利を覆すパワーを持つのがメガクチートというポケモンだ。それに、メガクチートは元々シングルトレーナーであったトップのエースである。最後に残れば、場に2体のポケモンを出している時とは比較にならないような息の合ったプレイで苛烈に攻め立ててくるのは目に見えていた。
最後の最後でシングルバトルの強いトレーナーが勝つ。ダブルバトルでそんなことが言われていたほどにシングルが興隆している時代だ。二人の前評判もトップ優勢になるほどで、サクマは試合運びを慎重にしなければ一気に瓦解すると予想されていた。
油断や慢心を許さない状況で、再びエルフーンが現れて試合が再開した。
三度目の追い風で素早く動いたラプラスのハイドロポンプがヒードランの身代わりを木端微塵に破壊すると、熱風とエレキネットが両者を襲い、あっという間にダブルノックアウトしてしまった。
これで1対4。だが、メガクチートは単独で、なおかつ追い風の効果時間もフルに残っている。
ピー!
試合が中断され、2体がボールに戻った瞬間メガクチートが飛び出した!
俊敏な動きでヒードランに飛び掛かるも、それを予期したサクマの指示で"まもる"をした。
が、大きな顎はそのままヒードランをナナメに飛び越え、側面からエレキネットを打とうとしたデデンネに猛烈に噛みついた。
ピー!
デデンネが戻ると、交換時間をフルに使った後でモロバレルが飛び出た。
瞬間、メガクチートはその場の何よりも早くヒードランの目の前に飛び込み、不意を打って思いっきり吹っ飛ばしたが、キノコの胞子を吸い込んでふらついた。
だが、耐えた。メガクチートは眠気を完全に振り払い、モロバレルに牙を剥こうとした。
ピー!
中断のホイッスル。
次の状況は、冷凍パンチでモロバレルを倒すか、馬鹿力でメガガルーラを倒すか、だ。
一瞬の判断を誤れば、先ほどのように1対1が繰り返されるだけだ。
最後、サクマは交換の時間をフルに使わずにメガガルーラを繰り出すと絶叫した。トップも雄たけびを上げて心を通わせ、最後の選択がされる。
メガクチートは目を見開いて渾身の馬鹿力を――モロバレルの方へ向けた。
いかりのこなだ。
この技によって、攻撃は強制的にメガガルーラから逸らされた。トップが持つメガクチートとの連携は意図せぬ形によって断たれ、それは致命的な隙を生じさせた。
強いポケモンは存在する。弱いポケモンも存在する。
だが、ダブルバトルは1対1で勝てない相手に対して、様々な技や策で対抗できる。
『試合終了ぅーーー!』
今後、この現実世界では思いもよらないコンボ技が発明されるだろうし、サイズの大小、移動速度の速い遅い、飛行の可否によって戦術の幅は大きく広がる。
ゲームで強かったポケモンが、現実では一転して弱いなんてこともあるだろうし、ゲームで弱いポケモンが強いこともあるだろう。
だから証明した。最低限、君たちと一緒に戦う資格があると。
そして証明してみせる。
***
――トップ襲名、おめでとうございます。今のお気持ちはいかがですか?
「そうですね、通過点を通り越した形なので、気を引き締めていこうと思ってます」
――通過点とは、どういった意味でしょうか?
「次の目標がチャンピオンなので、トップはその通過点に過ぎないという事です」
――……チャンピオン、ということはシングルへ移籍を?
「違います。シングルが不当に奪ったチャンピオンの称号を奪還するんです。
私がダブルバトルの最強である以上、ダブルにおける頂点は私であり、私こそがダブルのチャンピオンです。
この分野においては、シングルのチャンピオンよりも絶対に強いんですよね。
なので、独占されたチャンピオンの称号が私に返還されるまで戦おうと思います」
沢山のフラッシュと怒号が飛び交う中で記者会見は打ち切られた。
この傲慢とも呼べるチャンピオンへの宣戦布告は、その称号が抱いていた不可侵のきらめきと永遠の美しさへの挑戦に他ならない。
ライバルと競い合い、相棒と数多の戦いを潜り抜け、頂点を決する。
この神秘的なヴェールが剥ぎ取られそうになった時、魔性の美に魅入られた人々が噴き上がった。
異質な価値観による伝統の破壊はその人々の中で息づく神への挑戦に等しい。
サクマの発言はネットでの炎上などという生やさしいお祭りで収まることはなかった。
『ダブルバトル最後のさえずり』
『「トップ」大炎上、シンオウの怒り』
『飛んで火に入る12歳、氷を知らず』
『わがままトップ、チャンピオンへの挑戦』
普通考えれば分かると思いますが、会見での発言について謝罪が必要な要素はないですよね^^;
チャンピオンと戦って負けたらトレーナー辞めてもいいですよ
こ1.2k り78k い67k き 18:12
いや、これは目論見通りの、世間を巻き込んだ大炎上だ。
炎に呑まれるか、社会的な死の荒波を乗りこなすか、全ての逆境に打ち勝つか。
この先はもうサクマにも予想できない。
感想評価ありがとうございます
続きはもうしばらく先になります