登場キャラ
アリス・シンセシス・サーティ(ソードアートオンライン)
やる夫とアリス、二人の重なった唇が離れる。しばらく二人は顔を真っ赤にしたまま見つめ合っていたが、恥ずかしくなり互いに顔を背けてしまう。その際にやる夫を筋肉痛の痛みが襲うが、呻くこともせずに耐え抜く。
そこで、ふと昨日の戦いことを振り返ってみると、一つだけ僅かにだが胸に刺さったものがあることを思い出す。本来口に出すべきではないのだろうが、どうしても気になってしまい、言葉にしてしまう。
「そういえば、あの機械に囚われてた人たちの遺族には今回の件は……」
すでに巻き込まれた後とはいえ、彼らは紛れもない一般人だ。やる夫にとってはアリスがなによりも大事であったのだから、それを破壊したことに後悔はない。ただ、これは自分の罪であり、アリスを巻き込みたくないと思っていた。
彼らを消し飛ばしたことは遺族に恨まれて当然であり、そんなことは藍染の言葉などなくてもわかっていて、覚悟もしていたことなのだ。生きることが罪にならなくとも、奪ったことは罪となる。奪わなければ生きられないならば償う方法などなくとも、せめて自分がやったということだけは忘れずに生きていくつもりだ。
「カズマが消したデータの中には、やる夫があの機械を壊す場面もあったようです。都市外の遺族は何も知らず、都市内の遺族も公開されてる映像では、仕方ない状況だったことがよくわかるのもありまして、今のところ誰からも声が上がってはいないようです」
自分は地獄に落ちるだけで済むだろうか。アリスの言葉を聞いてそんなことを考えてしまう。都市内に住んでいる遺族とはすなわち魔剣教団の信者が多いのだろう。やる夫がスパーダの後継者であることと、映像でみた状況から声が上がることはなかった。
都市外の遺族については真実を知らなければ、遺族にとっては昔に亡くした家族のままであり、それが幸せだろう。だが、それを自分が言う権利もなく、真実を求める者がいたなら嘘偽りなく答えるつもりだ。
それすら怠ってしまえば、自分は力のない何も知らないただの人々を力ある人間の都合で犠牲にする、あの学校と変わらなくなってしまうのでないかと思えてしまうからだ。それで恨まれ、復讐の刃を向けられるとしてもだ。
「ですが、私も同じです……」
続いて耳に入ってきた言葉に驚いて、やる夫がアリスへと向き直ると、彼女は少し困ったような表情をして彼の顔を見ていた。何が同じなのか、何故そんな顔をするのか、彼には思い当たるものがなく困惑してしまう。
「あなたが藍染を追った後、マーリンがもしアリス・ツーベルクを救いたいなら、まだ間に合うと話を持ち掛けてきました」
その言葉だけで理解できてしまう。今ここにいるのが、アリス・ツーベルクではなく、アリスであることがその答えなのだ。アリスはやる夫の手を少し持ち上げて、自分の胸に当てる。そうして、目を瞑って再び口を開く。
「生きたい。私は騎士でありながら、民を救う可能性よりも、自分が生きたいと口にしました。自分の意志で、自分の心からの願いで、あなたとまだ一緒にいたいのだと……」
やる夫の手に心臓の鼓動が伝わってくる。それは今、目の前のアリスが生きている証であり、彼女に選ばせてしまった答えでもある。その答えを選んでくれたことは素直に嬉しいのだが、彼女に罪を背負わせたくなかった。
だからこそ、やる夫は問答無用でオメガウェポンを破壊したのだ。誰に問うこともなく、アリスに決断もさせず、自分一人で全てを背負うために。
「でも、それでよかったのだと思います。償うことができずとも、この罪を二人で背負うことができるならば、二人で選んだ結果ならば、私は地獄に落ちても構わない」
彼女は真っ直ぐやる夫の瞳を見つめてそう覚悟を口にした。この時、初めてやる夫は自分の間違いに気付くことができた。
(あぁ、敵わないな……。アリスが決めていたのに、それなのに……)
彼女が自分に思いを告げた時に気付くべきだったのだ。彼女の『あの言葉』はなにも自分の日本での行いだけを、指す言葉ではなかったのだとわからなくてはいけなかったのだ。彼女にとって大事な決断を一人で背負おうというのは間違いだったのだ。
「言ったはずですよ。一緒に背負うと、この剣にそれを誓うと……」
「うん、わかった……」
彼女答えに一言返すことが精一杯だった。それ以上の言葉は彼女の決意を侮辱するようで思うことさえできなかった。これから二人で一つ一つ考えていかなくてはいけない。償う方法がなくとも、背負ってしまったのだから。
「彼らは消えた後どうなったんだろう……」
辛くとも、苦しくとも、二人で考えていかなくてはいけない。
「魂のない記憶と人格だけの存在、魂の行きつく場所にいけないのなら、きっと消えてしまうだけなのでしょう……」
悲しみも、絶望も二人で分かち合いながら。
「そっか……」
それが共に歩むということなのだから。
「はい……」
その先に喜びや、幸せが待っているのだと信じて進むしかない。
独りで歩くことを決めた道で誰かが手を取る。暖かく、愛おしい手。並んで歩く道は暗くとも、孤独ではない。大切な人が傍にいる喜びを胸に抱いて進んでいこう。いつかこの想いが、苦しみが大切な思い出になるその日のために。
それが二人の『罪/願い』なのだから。