進撃の迷宮譚   作:でけぇ害虫

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AC6のV.Ⅳラスティ、ライナーの生まれ変わり説。
以下にその根拠を記す。

【ラスティ】
・頼れるナイスガイ
・イケボ
戦友(レイヴン)と協力して壁を越えた
・本当の身分を隠して敵対勢力に潜入している
・特殊部隊のAC乗りである
・機体が脆い
・ラスティ構文が流行、トレンド入りした
・制作陣、プレイヤーから深く愛されているキャラクターである

【ライナー】
・頼れるナイスガイ
・イケボ
戦友(ベルトルト)と協力して壁を越えた
・本当の身分を隠して敵対勢力に潜入している
・特殊部隊の戦士である
・(戦鎚と比べて)装甲が脆い(薄氷の巨人)
・銃フェラシーンのあまりの美しさにTwitter(現X)で話題沸騰、トレンド入りした
・原作者と原作者と読者と原作者に深く愛されているキャラクターである

以上の共通点により、V.Ⅳラスティはライナー・ブラウンの異世界転生した姿であると考えられる。Q.E.D.

……なに? V.Ⅳラスティって誰だよ、だと?
みんなもAC6、やろう!(ダイマ)



12.脅迫

「アポロンのクズ野郎! 戦争遊戯(ウォーゲーム)がなんだ! 今に見ていろ、ベル君とジャック君がメッタメタのギッタギタにしてやるんだからな!」

 

 おお、我らの主神が荒ぶっておられる。

 ベル団長、ちゅーしておやりなさい。そうしたらすぐに鎮火するから。

 

「ななななな何を言ってるのジャック!?」

 

 何ってキッスだが。ヘスティア様はベル団長にホの字なんだから、熱いヴェーゼの一つでもくれてやれば静かになるだろう。

 まあ別の意味で騒がしくなる可能性はあるが。

 

「そ、そんなのできるわけないよ!」

 

 全く、ベル団長は異性との出会いを求めてオラリオに来たと言っていたのに、接吻の一つでこうも赤面していたのでは先が思いやられる。そんなんだといつまで経っても童貞のままだぜ。

 かく言う俺は童貞のまま死んだんですけどね、初見さん。

 

 まあいい。自傷ダメージの発生する悪ふざけでベル団長をいじるのはこの辺にしておこう。

 問題はアポロン・ファミリアから吹っ掛けられたという『戦争遊戯(ウォーゲーム)』だ。先だっての神々による集会……『神会(デナトゥス)』において、出席していたヘスティア様とベル団長は、アポロン・ファミリアの主神たるアポロンから直々に宣戦布告を受けたらしい。

 

 いいなぁ。俺が廃教会(ホーム)で一人寂しく山盛りのジャガ丸くんを貪っている間にそんな面白イベントがあったなんて。

 俺がその場にいたら主神共々即日ファミリア壊滅させてやったのに。会場は大盛り上がりだぜ。

 

 ややあって落ち着いたのか、荒ぶっていたヘスティア様は肩で息をしながら我に返る。

 逆立っていたツインテールは(しお)れ、一転してしょぼくれた表情になった神様は申し訳なさそうにベル団長と俺を上目遣いで見上げた。

 あざとい、だがそれがいい。

 

「ごめんよベル君、ジャック君……売り言葉に買い言葉でボクはとんでもないことを……」

「そんな、神様は悪くありません!」

 

 泣きそうな表情の神様を悲しませまいと、ベル団長は力強くそう断言する。

 実際、戦争遊戯(ウォーゲーム)を引き受けた神様の判断は間違っていない。こうも用意周到に準備して宣戦布告してきたような連中だ。恐らくその場で断っても、何かしらの理由をつけてこちらが首を縦に振るまで粘着してきたことだろう。アポロン神のベル団長に向ける執着はかなりのものだったと聞くし、下手をすれば本拠地(ホーム)への襲撃とかやらかす恐れもあった。

 

 何より戦争遊戯(ウォーゲーム)という大義名分の下、誰憚ることなく暴れられるのだ。

 ファミリアの存亡を賭けた一心不乱の大戦争である。何をしようが全て合法なのだ。

 

 ご褒美である。

 最高かよ。

 

「方式は……『攻城戦』に決まった。本当は『一騎打ち』あたりが良かったんだけど……」

 

 とんでもない。ベル団長の実力を疑うわけではないが、相手はLv.3。一騎打ちでは不確定要素が多過ぎる。

 それに一騎打ちとなれば当然、派閥を代表する者同士、つまり団長と団長の戦いになるだろう。それでは俺の出る幕が……もとい暴れられな……もとい巨人のお披露目が……

 

 ともかく、派閥の存亡を賭けた戦いに参加できないなど御免(こうむ)る。俺だってヘスティア・ファミリアの一員なのだ。大恩ある女神のため、力尽きるまで戦う所存である。

 

「それに、俺とベル団長の実力を信用してくれたからこそ了承したんでしょう? でなければ理不尽極まる宣戦布告を無条件で受け容れるわけがない」

「勿論だ! ボクには『猛牛殺し(オックス・スレイヤー)』と『進撃の巨人』がいるんだ! アポロンのホモ野郎になんか負けるもんか!」

 

 ベル君は渡さないぞー! と気炎を吐くヘスティア様。

 光栄なことだ。アポロン・ファミリアの戦力を鑑みた上で、それでもなお俺達の方が上だと、彼女はそう言ってくれているのだ。その期待には応えねばなるまい。

 

「攻城戦……僕らは攻略側か。それならジャックのスキルを最大限に活かせるね」

 

 ベル団長の言う通り、巨人は最強の攻城兵器だ。堅牢な装甲で覆われた、全長20M(メドル)強の肉の塊のぶちかまし。そんなものを受けて無事でいられる城壁などこの世界には存在しない。

 砲爆撃にも耐えられる鉄筋コンクリート製の近代要塞でもあれば話は別だろうがね。神の恩恵やら魔法やらで人間単位での戦力はずば抜けているこの世界だが、一方で総体としての文明や技術水準は特筆するほどではない。魔石技術により前世の地球と同等、または凌駕している部分もあるが、少なくとも建築技術に関しては中世レベルの域を出ないという印象だ。

 

 バベル? あれは神造建築なのでノーカウントだ。あんなのに対抗できるのは前世の地球でもSF作品の中にしか存在しない。

 

 というか、どちらかと言えば俺の場合、壁を攻めるより作る方が得意なんだよな。

 何せ「始祖」の力があるのだ。超大型巨人を複数生成して、そこに「戦鎚」の硬質化を張り巡らせればあら不思議。あっという間にパラディ島の『壁』の出来上がりである。もし今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)で俺達が防衛側だったなら、それだけで勝敗は決していたことだろう。

 

「でも、アポロン・ファミリアの団長は……ヒュアキントスは僕が相手をするよ」

 

 決然とした表情で、ベル団長は力強くそう告げた。

 

 戦場となる開催場所の下知はまだないが、オラリオ周辺のまだ形を保っている城塞跡となれば数は絞られる。そのいずれもが見晴らしの良い平野に築かれたものだ。

 であれば俺の巨人は最大限の性能(パフォーマンス)を発揮する。小さく脆い人工の城壁、遮るもののない(ひら)けた屋外。恐らく適当に手足を振り回すだけで全て片がつくだろう。

 

 それが分かっているからこそ、ヘスティア様は吹っ掛けられた戦争遊戯(ウォーゲーム)を受諾したのだ。その場では渋ってみせる程度の芝居はしたのだろうが、内心では冷静に彼我の派閥の戦力差を見極めていたに違いない。

 

 Lv.3の第二級冒険者を(トップ)に据え、麾下には多数のLv.2の上級冒険者を抱える【アポロン・ファミリア】。

 だがそれは、果たしてLv.5相当の強さを誇ったゴライアス強化種にも勝るのか。何より、そんな黒き迷宮の孤王(モンスターレックス)をも鎧袖一触にした巨人を相手にできる程の戦力なのか。

 

 否である。あの18階層での戦いを見たヘスティア様は、内心でこう断じたはずだ。「『進撃の巨人(ジャック・イェーガー)』がいる限り、アポロン・ファミリア()()()()敗北することはあり得ないだろう」と。

 自画自賛になってしまうが、客観的事実として俺はそれだけの力をあの場で示したのだ。正確には俺がというよりは俺が授かった『進撃の巨人』の力が、というべきだが。まあ同じことだ。

 

 そしてベル団長もそれを知っているはずだ。彼もまたあの場にいた一人なのだから。

 巨人に全て任せれば万事が上手くいく。少なくとも戦争遊戯(ウォーゲーム)という場において俺の巨人は無敵なのだ。むしろ下手に突撃して倒されてしまい、人質にでもされようものなら一転して窮地に陥りかねない。

 

 それが分からないほど彼は考えなしではない。それでもなおヒュアキントスは自分が倒すと吼えたのだ。

 相手を()()()()()()と懇願するのではなく、相手を()()と断じたその覚悟。それを履き違えるほど俺は馬鹿でも鈍感でもないつもりだ。

 

 よほど敬愛する主神を虚仮にされたのが許せないらしい。ならば名残惜しいが、今回は覚悟を決めた勇者にこそ晴れ舞台を譲るべきだろう。

 俺は拳を突き出し、応じて掲げられたベル団長の拳とぶつけ合わせた。

 

「あのスカした顔面にキツイの食らわせてきて下さいね」

「任せて。ジャックは──」

「大将首の代わりに、一番槍の(ほまれ)は俺が頂戴しましょう。壁と雑兵は任せて下さい。道は俺が開きますので、団長はヒュアキントスに専念を」

「……ありがとう」

 

 少し後ろめたそうに、だがどこか誇らしげに。俺の発破に、【未完の少年(リトル・ルーキー)】は力強く頷いてみせた。

 

「へ゛ル゛く゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ん゛……!!」

「うわっ! か、神様……!?」

 

 すると突然、涙で顔面を崩壊させたヘスティア様がベル団長の腰に縋りついた。彼は慌てて女神の小柄な身体を抱きとめる。

 

「ボクは感動した! ベル君、いつの間にかこんなに立派になって゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛……!」

「かかかかかか神様っ! あ、あたっ、当たって……!」

 

 ああ、身長差の関係でヘスティア様のヘスティア様(隠喩)がベル団長のベル団長(直喩)にダイレクトアタックしとる……

 じゃ、俺はこれからダンジョンに行くから……

 

「待って置いてかないで!?」

「うるせぇそのままベッドインしろこのドン・ファン」

「ジャック!?」

 

 おっとしまったつい本音が。

 だがこれからダンジョンに行くというのは本当だ。恐らくアポロン・ファミリアは俺が巨人になれることは知らないだろう。知っていたら戦争遊戯(ウォーゲーム)なんて仕掛けてこないはずだからな。

 ギルドから箝口令も敷かれていたし、18階層での一件は断片的にしか伝わっていないのだろう。身内と近しい仲間にしか巨人の正体が俺であることを伝えなかったことが功を奏した形になる。

 

 この情報はこのまま隠し通しておいた方が都合がいい。戦略的な意味でもサプライズ的な意味でも。

 万が一アポロン・ファミリアに逃げられては面白くない。あれだけ好き勝手してくれたのだから、相応の落とし前はつけなければなるまい。

 それにどうやってかは知らないが、戦争遊戯(ウォーゲーム)はオラリオ中の全ての神と人間が観戦すると聞く。ならばこれはまたとない機会だ。『進撃の巨人』の力と恐怖、そして魅力を余すことなく伝える好機、これを逃す手はない。アポロン派閥におかれましては、是非このままのうのうと過ごして頂き、万全の状態で戦争遊戯(ウォーゲーム)当日を迎えて頂きたい所存であります。

 

 そのためにダンジョンに引き篭るのだ。どうやらアポロンはベル団長に首ったけで視野が狭まっているみたいだし、ギリギリまで地下に潜っていれば情報が漏れることはないだろう。ついでに経験値稼ぎもできて一石二鳥である。

 ベル団長に関しては心配要らないだろう。どうせアイズ・ヴァレンシュタインとキャッキャウフフの個人授業で勝手に強くなるに決まっているのだから。ふらやましいよ。俺だって美人コーチとマンツーマンでレベルアップしたかったぜ。

 あ、チュール氏は美人の皮を被った鬼神なのでノーカウントです。

 

 さて、馬鹿なことを考えていないでさっさとダンジョンに行こう。時間は有限なのだから。

 

「あ……そうだ……」

 

 その前に、利息の回収に行かないといけないんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスフィ・アル・アンドロメダはその日、朝から機嫌が良かった。

 

 完全な休暇だったからだ。主神の無茶ぶりに応えたり、団長としてファミリアの運営に四苦八苦したり、魔道具作成者(アイテムメイカー)としての業務もあったり、何より主神の無茶ぶりに応えたりと、アスフィは何かと忙しい毎日を過ごしている。

 

 そんな中で得られた、何も仕事のない完全なオフ。それはもうウッキウキだった。鼻歌交じりに身だしなみを整え、アスフィは朝食(モーニング)を求めて行きつけの喫茶店に繰り出した。

 

 昨晩の神会(デナトゥス)では結構な騒ぎがあったし何なら彼女もその場にいたわけだが、完全に休日モードになったアスフィには知ったことではなかった。アスフィはオンとオフの切り替えがしっかりしたデキる女なのだ。もはや主神の顔さえ思い出せない。

 足取り軽く、彼女はふと思いついたようにメインストリートから外れ細い小道に入っていく。

 気分を変えて普段とは違う道を歩きたくなったからだ。途端に人気(ひとけ)が薄れ、(ヒール)を打つ音が路地裏に小さく響く。

 

 メインストリートの喧騒から離れ、早朝特有の穏やかな静けさが満ちる路地裏を歩く。そうしてしばらく歩いていると、アスフィは曲がり角で見知らぬ少女と鉢合わせた。

 

「えっ……ぺ、【万能者(ペルセウス)】さん……!?」

 

 驚いたように目を見開かせる少女。おや、とアスフィは眉を上げた。

 街一番の魔道具作成者(アイテムメイカー)として名を馳せているアスフィだが、一方で冒険者としての評判はあまり知られていない。彼女自身もそこまで武闘派を自負しているわけではないし、何より市井の者にとってLv.4の冒険者というものはどうしても【猛者(おうじゃ)】や【剣姫】などのビッグネームの影に隠れがちだ。仕方のないことだが、やはり抜きん出て目立つのはLv.5以上の第一級冒険者ばかりなのだ。

 

 そういう世間一般の認識というものをよく知っているからこそ、ひと目で己が【万能者(ペルセウス)】だと見抜かれたのは意外だった。何せ今のアスフィは冒険者としての装いではなく、完全に非武装の私服姿なのだから。

 まさかファンでもあるまいに、何故この少女は一発で己の正体に気付いたのだろうか。よもや以前どこかで会ったことが……などと考えていると、少女はぱぁっと顔を輝かせ、興奮した様子で声を上げた。

 

「わ、私、アンドロメダさんのファンなんです! あ、あ、握手していただけませんか!?」

 

 ファンだった。

 

 そんな馬鹿な、とアスフィは内心で戦慄する。

 レベル詐称まで行ってファミリアの規模を秘匿するヘルメス・ファミリアは、とにかく目立たない存在だ。流石に団長にして第二級冒険者たるアスフィの名はそれなりに知られているが、あくまでそれなり程度に留まっているのが実情である。故に、己のファンなどという奇特な人間には一度としてお目にかかったことがなかったのだ。

 

 そこに降って湧いたファンの少女。

 腰まで届く長い黒髪の少女だった。歳の頃は10~12歳といったところか。まだ幼いながら度の強い眼鏡をかけており、少し歪んだレンズの奥からは翠緑の瞳が覗いている。

 大きな眼鏡では隠せないほどに整った顔を興奮でほんのり桜色に染め、少女は羨望に満ちた眼差しでアスフィを見上げていた。

 

(わ、私にもファンが……?)

 

 オラリオの全女性の憧れの的である【九魔姫(ナイン・ヘル)】や【剣姫】ではなく、他ならぬ【万能者(ペルセウス)】のファンだという。そんなものが実在していたとは。

 別にファンが欲しいと思ったことはないが、それはそれとして、こうも真っ直ぐに羨望の眼差しを向けられると込み上げてくるものがある。

 

 にやけそうになる口元を鋼鉄の理性で押さえつける。恐らく少女が憧れているであろう己のキャラ(クールビューティ)を崩さないように努めながら、アスフィは手を差し出した。

 

「し、仕方ありませんね。今はプライベートですが、そのぐらいは許容範囲です」

「あざーす」

「え?」

 

 ガシッ、と。

 鈴を転がすようだった少女の声が妙に聞き覚えのあるふてぶてしい声色に急変し、嫌に強い力で差し出した手が握られる。

 同時に手の平に感じる生温かい感触。鉄錆にも似た臭いが微かに漂っていることに、アスフィはようやく気が付いた。

 

「おはようございまぁす。利息の取り立てに参りましたぁ」

「ゑ?」

 

 黄金の雷気が迸り小さな手を這い回る。ずるりと黒髪のウィッグが外れ、金砂の髪が露わになった。

 放り捨てられた眼鏡の下から現れた翠緑の瞳に憧憬の色はもはやなく。そこにあったのは獲物を捉えた狩人の鋭い眼光だった。

 

「じ、じ、じ、ジャック・イェーガー!?」

「ハァイ、アンドロメダさん。ご機嫌いかがですかぁ?」

 

 サーッ、とアスフィの顔から血の気が引く。

 18階層で彼女にトラウマを刻みつけた暴虐の巨人が、引鉄(ひきがね)に指をかけた状態でそこにいた。

 

 そう、ジャックは忘れてなどいなかった。ヘルメスが試練と称して行った18階層でのやらかしの精算を、今になって取り立てにやってきたのである。

 何故アスフィのファンを装うなどという迂遠な方法を採用したのかは謎だったが。

 

「というわけで神ヘルメスに会わせてほしいんだけど」

「……私が素直に頷くとでも?」

 

 にこやかに、だが有無を言わせぬ迫力でそう告げるジャック。

 血に濡れた手が万力のような力でアスフィの手を掴んで離さない。だがアスフィは一瞬で団長としての顔を取り繕うと、凍えるような眼光でジャックを睨み返した。

 

「これでも派閥を率いる身です。はいそうですかと、あなたのような危険人物を本拠地(ホーム)に立ち入らせるわけにはいきません」

「別にお宅の拠点である必要はないんだけどね。会えるなら別段場所は問わないよ」

「そういう問題では──」

「分かった。なら我が主神ヘスティアに誓って約束しようか」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「こちらですイェーガーさん。ヘルメス様のもとに案内します」

 

 アスフィは主神を売った。

 ヘルメスの敗因は日頃の行いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、というわけでですねぇー。

 現在私は【ヘルメス・ファミリア】の本拠地(ホーム)にお邪魔してるわけなんですけどもぉー。

 

 ヘルメス神が真っ青な顔でこちらを見ております。

 ウケる。撮っとこ。

 

「ぎゃあああああ出たあああああ!!」

「ご挨拶ですねェ神ヘルメスゥ…まるで化け物と遭遇したみたいな悲鳴上げちゃってェ……」

「まるでじゃなくてその通りなんだけどね!?」

 

 それはそう。

 巨人化能力者が手の平から血を流してバチバチ言わせながら自宅に乗り込んできたらそりゃビビる。誰だってそーなる。俺だってそーなる。

 

「ああアスフィ! 何で連れてきちゃったの!? よりにもよってホームに!」

「申し訳ありませんヘルメス様。命が惜しかったもので」

 

 流石にアンドロメダさんを脅しつけるのはどうかと思ったが、都合よく一人で外に出てきてくれたものだから、つい。

 念のために用意しておいた変装グッズがこんなところで役に立つとは思わなかったぜ。

 

「まあ、とりあえず座りましょう。安心して下さい、特に危害を加えるつもりはないので」

「いや全然安心できないんだけど……」

 

 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ。

 

「まあ、座れよ」

「はい……」

 

 おもしれー。

 ちょっと「座標」から流入するエネルギー量増やしてバチらせると目に見えて顔色変えるのおもしれー。

 

 よし、それじゃあ圧迫面接ごっこを始めよう。

 おら、手はテーブルの上に乗せるんだよ。あくしたまえ。

 

「うぅ、何を要求するつもりなんだ……言っておくけど、ギルドからの罰金のせいでうちのファミリアは財政難だ。差し出せるお金はほとんどないぞ!」

「でもうちのファミリアよりはあるでしょう?」

「イェーガーさん、それ言ってて悲しくなりませんか?」

 

 うるせぇ、プライドで金は増えねぇんだよ。

 言っとくが現状ヘスティア・ファミリアで一番の穀潰しは俺だからな。アッカーマンの肉体の摂取カロリーを舐めない方がいい。

 この際プライドは抜きだ。ケツの毛までむしり取ってやるぜ。

 

「で、いくらまでなら出せます?」

「わぁいド直球だぁ……」

「お金で解決できるんなら安いもんでしょうよ。こっちは怒りを溜め込んでおく必要がなくなる。そっちも巨人の影に怯える必要はなくなる。どちらにとっても悪くない話でしょう」

 

 金で手打ちにしてやるって言ってる内に終わらせとくのが吉だぜ。

 こっちだって好き好んで敵を増やしたいわけじゃない。ここでさぱっと因縁を精算しておけば、後は遺恨なく付き合っていけるって寸法だ。

 同じ神話体系の神格だけあって、この世界でも例に漏れずヘスティア神とヘルメス神は同郷の関係らしい。なら無駄に敵対する必要はあるまい。協力関係を築けるならそれに越したことはないのだから。

 

「そっちだって、あんなことを仕出かしてなあなあで済ませられるとは思っていないでしょう? ベル団長に何人の冒険者を(けしか)けたと思ってるんです?」

「いやいや、嗾けるなんて人聞きの悪い! 彼らは最初からベル君を敵視していたんだよ。確かに俺はそれを止めなかったけど、それだけで責任の所在が全て俺にあると考えるのは暴論が過ぎるんじゃないかな?」

「足止めまで寄越しといてよく言うぜ。聞くところによると、主犯の男は姿隠しの魔道具(マジックアイテム)を所持していたとか」

「む……」

「完全な不可視化とは恐れ入る。そんなド級の魔道具(マジックアイテム)を、何で万年Lv.2の中堅冒険者風情が持ってたんですかねぇ?」

 

 おかしいよなぁ? 不思議だよなぁ?

 つーか姿隠しの兜とか、露骨すぎてもう答えを言ってるようなもんだろ。

 

 アンタ……『持ってる』んじゃねぇのかい……?

 『青銅の盾』、『有翼のサンダル』、『毒を通さぬ金糸の袋』、そして『ハデスの隠れ兜』!

 なぁ? 『ペルセウス』さんよォ〜〜〜〜〜ッ

 

「し、証拠がないだろう? 確かにうちのアスフィは街一番の魔道具作成者(アイテムメイカー)だが、それに準ずる腕前の持ち主が他にいないわけじゃない」

「ほほう、そんな凄い魔道具(マジックアイテム)をLv.2でも買えるぐらい安売りしてる道具屋があるなら是非紹介してほしいもんです。【万能者(ペルセウス)】印の魔道具(マジックアイテム)は性能は良いが、どれもこれも高くていけねぇ」

 

 完全不可視化の魔道具(マジックアイテム)なんて、それはもう目ん玉飛び出るぐらい高いんだろうなぁ。

 そしてそんな高価な魔道具(マジックアイテム)を持っていたぐらいだ。その男はきっとさぞかし稼いでいる凄腕の冒険者なんだろうなぁ。

 モルドって名前らしいんですけど。

 

「ところで神ヘルメス、教唆と幇助って知ってます?」

「悪かった! 俺が悪かった! 認めるから手元でバチバチさせるのやめて! コワイ!」

 

 ようやく認めやがったか。

 手こずらせやがって。ペッ!

 

 ……まあ、今回は明らかにこちらが有利な条件が揃っていたからな。所々あちらの対応がガバかったのは、バレたところで大きな問題にはならないと踏んでいたからだろうし。

 そりゃそうだ。何しろ団長はLv.4の第二級冒険者。団員数は知らないが、保有戦力という意味でならアポロン・ファミリアを上回るだろう。対するこちらはLv.2になりたての団長が率いる構成人数二名の弱小ファミリア。多少の侮りが生じるのは仕方のないことだ。でなきゃこの抜け目のない神のことだ、足がつくような証拠を残すわけがない。

 

 完全な誤算だったろうなぁ。まさか新入りのLv.1が巨人に変身する化け物だったなんざ。 

 

「諦めましょうヘルメス様。どのみち足止め役として私を派遣した時点で自白しているようなものだったんですから」

「うっ」

「動かせる駒が少ないのに思いつきで策を練るからこうなるんです。これを機に、困ったらとりあえず私に投げる悪癖を直したらいかがです?」

「ぐはっ」

 

 これ幸いと腹心からチクチク小言を貰うヘルメス神。ざまぁないぜ。

 

 満足したのでジクジクと血を流し続ける手の平を修復する。堰き止めていた『座標』のエネルギーが流れ込み、時間を巻き戻すように手の傷を消し去った。

 

「……え、何今の」

「傷が……ポーションもないのに、一瞬で……?」

 

 ふと顔を上げると、ヘルメス神とアンドロメダさんが唖然とした表情で俺の手を見ていた。

 あれ? 巨人の再生能力って見せたことなかったっけ?

 

 ……なかったな。ゴライアスに鼻を潰された時は直後に巨人化したから見えなかったろうし、18階層での再戦時にはそもそも傷を負わなかった。

 

「これも巨人の能力の一つですよ。強力な自己再生能力……変身の前後を問わず、たとえ四肢が欠損するような傷を負っても即座に再生し戦闘を続行することが可能です」

 

 あまりに酷い重傷だと巨人化できなくなるというデメリットはあるが。俺の場合、とある事情でその辺もある程度踏み倒せるんだよな。

 

「俺を倒したかったら一瞬で肉片になるまで細切れに斬り刻むか、全身まとめて消し飛ばせる威力の魔法をぶつけるかくらいしか手段はありません。

 なので、窓の外に控えさせてる射手は完全に無意味です。気が散るだけなので、退けてもらっても?」

「……いつから気付いて?」

「最初から」

 

 窓の外、向かいの建物の屋根上からこちらを照準する獣人の射手。随分と気配を隠すのが上手いが、例の姿隠しの兜までは使っていないらしい。急だったから用意する時間もなかったのだろうか。

 いずれにしろ俺を相手にするには不足していたな。この程度の隠形なら、アッカーマンどころか調査兵団の練度でも看破は可能だ。

 

「やはりLv.1にしては……いえ、その年齢にしては完成されすぎている。イェーガーさん、貴方は本当に何者なのですか……?」

 

 チート転生者です。

 などと言って分かるはずもなく。俺はにこりと微笑んで誤魔化した。

 どうだろう。意味深げな雰囲気を出せているだろうか。

 

「さぁて、それじゃあお話を続けましょうか」

 

 くくく、ガッポリせしめてやるぜ。

 まずはベル団長への賠償金を請求して、その後は俺自身の話をしよう。いい加減ちゃんとした剣が欲しいと思ってたんスよねぇ〜〜〜〜ッ!

 

 あ? ギルドに資産の半分を没収されたばかり?

 

 知らんなぁ。キサマらに俺の好きな言葉を教えてやろう。

 “泣きを入れたらもう一発”だ。このジャック・イェーガー、容赦せん!

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