進撃の迷宮譚   作:でけぇ害虫

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うぁぁぁ き……巨人が古城跡地を練り歩いてる
ど……どないなっとんのや こ……ここはダンまちやぞ



15.悪魔の軍勢

「なにあれ!? なにあれェえええええええええ!?」

「すげえええええええええ!! 巨人の軍勢を召喚……いや生成した!? あの一瞬で!?」

「カワイイ! カッコイイ! けど巨人きもい!」

「あのヒューマン欲しいいいいいいいいいっ!」

 

 バベルに設けられた神々のための観覧席が熱狂の渦に包まれる。

 彼ら彼女らが凝視する先にあるのは、千里眼の権能を付与された『神の鏡』。そしてそこに映し出される、古城跡を埋め尽くす巨人の軍勢とそれを従える一人の少年の姿だった。

 

「『世界最速兎(レコードホルダー)』だけでも大概なのに、あんな隠し球も持ってたのかよ!」

「あれでまだ二人目の眷属ってマジ!?」

「お前の眷属運どうなってんだよヘスティア!」

 

 観覧席に詰めた神々の注目がヘスティアに集まる。その視線には嫉妬と羨望が隠されることなく込められていた。

 ()もありなん。全身に無数の矢の直撃を受けてなお微動だにせず、即座に再生してみせる不死身性。階層主(ゴライアス)級の大きさの巨人を大地を埋め尽くす規模の軍勢として生み出す能力。いずれもオラリオ史上類を見ない……特に後者は全知全能の神々をして初めて目にする、他に類を見ない特異な力である。未知の娯楽に飢える神々にとっては、この上ない極上の人材(レアモノ)だった。

 

「しかも見た目まで良いとか反則だろ!」

「あんなに可愛いのに男の子ってマ?」

「やっべ(へき)歪むわー」

 

「ぬわああああああああ──っ!!」

 

「ロキが発狂したぞ!」

「どうした、何があった!?」

「嫉妬だろ」

「傷は深いぞ、ガッカリしろ!」

 

 やんややんやと大騒ぎする神々。

 一方渦中のヘスティアはといえば、自慢気にふんぞり返りつつもひっそりと口元を引き攣らせていた。

 

(こ、ここまでとは聞いてないぜジャック君……)

 

 タラリとこめかみを一筋の冷や汗が伝う。

 

 ジャックが戦争遊戯(ウォーゲーム)で何をするつもりなのか、ヘスティアは予め本人の口からその詳細を聞かされていた。

 邪魔な城壁を打ち砕く。ベルがヒュアキントスとの戦いに専念できるよう他の眷属を全て引きつける。そして圧倒的な数的不利を覆す。この三点を一挙に解決する手段として、『進撃の巨人』の力を用い複数の巨人を生成するのだと。

 

 確かにそう言っていた。だが、よもやこれ程の規模のものが飛び出してくるなど誰が予想できるだろうか。

 例えばモンスターであれば、普通3~4M(メドル)もあればそれは十分に大型に分類される。5M(メドル)を超える巨体のモンスターなど、下層でもなければそうはいないだろう。例外は階層主ぐらいのものだ。

 だというのに、今『鏡』の向こう側では平然と10M(メドル)級の巨人が犇めいている。それも十体や二十体ではない。どう見てもその総数は五十を下回ることはあるまい。

 

 ゴライアス(7M)と同等の大きさの人型生物が五十体以上の群れを成していると考えれば、この光景が如何に常軌を逸しているかが分かるだろう。そしてそんなものをポンと目の前にお出しされた張本人は、限界まで目を見開きあんぐりと口を開けて固まっている。

 

「は……え、なにあれ……? わ、私は幻覚でも見ているのか……?」

「……敵ながら同情するよ、アポロン。君はジャック君を怒らせるべきじゃなかった」

 

 ジャックがベルほど優しい心の持ち主ではないことを、ヘスティアは十分に理解していた。殊更に残酷な思想の持ち主であるというわけではない。敵であった相手にまで心を砕けるベルが特別に優しいだけなのだ。

 身内には寛容だが、敵には容赦がない。それはファミリアという形で派閥を形成するオラリオの冒険者には普遍的に見られる思想傾向である。ジャックもその例外ではなかったというだけの話だ。

 ジャックは主神であるヘスティアや眷属仲間であるベルを家族のように慕う一方、敵対した相手にはどこまでも残酷になれる人間だった。そしてそのための力も十分過ぎるほどに持っていたのだ。

 

 全知全能の超越存在(デウスデア)たるヘスティアをして全く見たことも聞いたこともないレアスキル【進撃の巨人(アタック・オン・タイタン)】。聞けば神の恩恵(ファルナ)を受ける以前よりその身に宿していたという、曰く『外なる神の祝福』。

 獲得経験値量半減という前代未聞のデメリットを抱えているものの、その力は破格という言葉すら生温い。弱卒から始まり圧倒的な成長速度で階梯を駆け上がるベルとは清々しいまでに正反対だ。劣悪な成長性と、相反する無法なまでの初期能力による圧倒的な暴力。それがジャック・イェーガーという幼き冒険者の本質だった。

 

 だがこの戦争遊戯(ウォーゲーム)に至るまでの間に、ジャックは獲得経験値量半減のデバフを上回る経験値(エクセリア)を稼いでみせた。強化された階層主との戦いに、数日間に及ぶダンジョンでの自己鍛錬。そして『頂点』たる最上級冒険者との一騎討ちである。

 Lv.1の時点で既に十分過ぎるほどの力を具えていたのに、今やジャックのレベルはベルと同等のLv.2。歴とした上級冒険者だ。

 

 レベルが一つ違えば、そこには大人と子供ほどの力の差が生じる。ならば、Lv.2になったジャック・イェーガーはどれほどの怪物となって新生したのか。

 

 その答えがこれから明かされる。恐らくは、アポロン・ファミリアの壊滅という形を以て。

 その過程で生じるであろう地獄から目を逸らすまいと、ヘスティアは改めて『鏡』に集中するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あれは……」

「……驚いたな。普通じゃないとは思っていたけど、まさかあんな力を隠し持っていたなんて」

 

 【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』。その一室に、道化の神が誇る幹部陣が一堂に会していた。

 彼ら彼女らもまた大多数の冒険者達の例に漏れず、出現した『鏡』を通して戦争遊戯(ウォーゲーム)の行く末を見守っていた。そしてジャックの異常な力の片鱗を目の当たりにしたのである。

 

「なにあれ! モンスター!?」

「あんなモンスター見たことないわよ。……それに本当にモンスターだとしたら戦争遊戯(ウォーゲーム)どころじゃないでしょう」

 

 【大切断(アマゾン)】ティオナ・ヒリュテ。そしてその姉【怒蛇(ヨルムガンド)】ティオネ・ヒリュテ。戦闘民族アマゾネスの血を引く姉妹は、片や面白そうに、片や険しい顔で現れた異形の群れを見つめている。

 

「自己再生……明らかに頭や心臓にも矢が刺さってたのに、あんな一瞬で……?」

 

 黄金の髪と瞳。まるで人形のように整った顔に真剣な表情を浮かべ、美しき少女はじっと『鏡』を凝視している。

 【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。神々をも虜にする麗しの女剣士は、その脳裏にとある人物の姿を思い浮かべていた。かつて戦った強敵。赤い髪と、まさに今『鏡』の向こう側で不敵な笑みを浮かべる少年と同じ色の瞳をした『怪人(クリーチャー)』たる女の姿を。

 

「単騎で軍勢にも匹敵する実力を有した冒険者など、このオラリオでは両手の指に余る程にありふれている。だがよもや、文字通り“軍勢そのもの”を生み出す冒険者が存在しようとはな」

「ワハハハ! 今頃ロキの奴は悔しがって地団駄踏んどるだろうな!」

 

 【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ。【重傑(エルガルム)】ガレス・ランドロック。ジャックと面識のある二名は、幼き冒険者が隠し持っていた未知の能力に感嘆を表していた。

 

「…………」

 

 琥珀色の目を細め、無言のまま『鏡』を睨みつけているのは【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガだった。

 その視線が向かう先は、軍勢の中でも特に目を引く黄金の巨躯。全身を堅牢な外殻で覆った(いわお)のような巨人である。

 無数に蠢くその他大勢の巨人とは桁違いの存在感を放つその巨体から目が離せない。鎧のような外殻の硬度は如何程か。外殻の下から覗く隆々たる筋肉、そのパワーは如何ばかりか。そもあれ程の巨体に鎧まで纏ってまともに動けるのか。動けるとするならばその敏捷は──いや、いや。それよりも何よりも。

 

 まず以て、己はあの巨人に勝てるのか?

 

「面白ぇ……」

 

 孤高の狼は獰猛に口端を歪め、鋭い牙を覗かせる。

 初めて酒場で目にした時からただの雑魚ではないと直感していたが、まさかあんな隠し球があったとは予想外もいいところだ。

 

「ジャック・イェーガー。テメェの名前は覚えたぜ」

 

 

 ロキ・ファミリア首脳陣の好奇の視線がジャックに向けられる。

 しかしそんな中、団長たるフィン・ディムナだけは難しい表情を浮かべていた。

 

「……階層主(ゴライアス)に匹敵、ないし上回る巨躯の怪物を無数に生み出す能力か。素晴らしい力だ。だが、今から君がやろうとしていることは……」

 

 【勇者(ブレイバー)】の誉も高き小人族(パルゥム)の英雄は、その聡明さが故にこの後に起きるであろう惨劇が容易に想像できてしまった。

 

「君の言う通りだ。これから始まるのは真っ当な戦争遊戯(ウォーゲーム)では……いや、そもそも戦争ですらないだろう」

 

 戦争とは人と人の間でのみ起きるものだ。では、怪物と人の間に生じる戦いは何と形容するべきか。

 その答えをジャックは既に口にしていた。即ち生存競争(ころしあい)であると。

 

 だが、人類の歴史はまさしくその果てに成り立っている。怪物(モンスター)と人の、壮絶な生存競争(ころしあい)。神々の手により(バベル)が打ち立てられるまで続いたそれは、人類の記憶の奥底に消えぬ傷跡を刻み込んだ。ジャックが今から行おうとしているのは、まさにその傷をほじくり返すに等しい蛮行である。

 

 フィンは確信していた。その行いは、結果として少年を英雄の座から遠ざけるであろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くぅ〜疲れましたw これにて完結です!

 

 ……いやマジで疲れた。見ろよ俺の背後に広がるこの光景を。五十体以上の無垢の巨人の群れを。

 これぜーんぶ私の手製です。マジウケる。

 

 ……いや笑いごとじゃねンだわ。こんなの罠だろ。俺もうちょっと「始祖」の力に夢見てたんだけど。

 

 そう、俺が行った無垢の巨人軍団の生成は「始祖」の能力によるものである。原作ではカール・フリッツが壁の基礎として大量の超大型巨人を、終尾の巨人と化したエレンが防衛のために歴代九つの巨人を生み出していたが、俺がやったのもそれと同じものだ。

 

 だがよもや「始祖」の巨人生成能力がその実、ただの“始祖ユミルへの大量発注”だとは思わなんだ。

 まあ正確には“「座標」に記憶された巨人体のコピー&ペースト”なので完全な受注生産とは違うのだが、俺の場合はそうもいかない事情があった。

 

 まず前提として、俺が授かった『進撃の巨人』の力には多分に『神』や俺自身の認識による影響を受けている節がある。俺が自分自身の巨人体を手作りする必要があったのなんてまさにそれだ。

 

 今回の事例も恐らくそれに該当する。何故なら俺の「座標」に記憶されていた巨人は「原作キャラ含む歴代九つの巨人」、「壁の巨人」、そして「一部の無垢の巨人」だけだったのだ。

 具体的には「読者目線で記憶に残っている巨人」だけである。その他大勢の無垢の巨人は影も形も存在しなかった。おフ〇ック。

 

 エレンが歴代九つの巨人を無尽蔵に生み出していたように、一度ユミルの手によって作られた巨人は「始祖」の力によるコピー&ペーストで無限に召喚することが可能だ。本来ならば。

 その理屈に則るならばその他大勢の一般無垢の巨人も召喚できて然るべきなのに、できない。そもそも「座標」の記憶に存在していない。他の知性巨人は普通に召喚できるのに、である。

 

 この差は何なのかといえば、やはり『神』や俺の記憶に残っているか否か、ということになるのだろう。確かに言われてみれば、作中でたったひとコマ分しか登場していないようなモブ巨人を克明に思い起こせるかと問われれば首を横に振らざるを得ない。一方でダイナ巨人体のような存在感のある無垢の巨人ならばしっかり覚えているし実際に「座標」の記憶に存在していたので、この仮説はそう的外れでもないはずだ。

 

 くそぅ、あんの自称『神』め雑な仕事しやがって。まさか記念すべき巨人軍団の初お披露目で同じ顔をズラリと並べるわけにもいかず、数ヶ月ぶりにまた必死こいて砂を積み上げる羽目になっちまった。

 ベル団長に「百人力の働きをする」と言った手前、できることなら百体の巨人による大軍団を作りたかったのだが、流石の俺も集中力が続かなかった。その証拠に、ちらほらといい加減な造形の巨人が見え隠れしている。アイツなんて馬鹿みたいに頭がデカいし、あっちの奴なんてあれ手足短すぎだろ。自分で作っといて何だがあんなので走れるのかよ。

 

 何と言うか、アレだな。これはこれで無垢の巨人らしいというか……戯画めいて歪んだ造形の巨人が原作にも多かったのは、やはり始祖ユミルのモチベーションが続かなかったからなのでは? と思ってしまう。俺も作ってる最中に「必死こいて作ってるけど、どうせこいつただの雑兵だしな……」って考えが何度も湧いてきて大変だった。結局まともな見た目になった無垢の巨人なんて最初の十数体程度である。

 

 当初の予定より大幅に兵数が下回ってしまったが、最低限の働きはするはずなので許してくれ団長。それに今回は無垢以外にも強力な助っ人を一体呼んでいるのだ。

 

 紹介しましょう! ライナー巨人体こと「鎧の巨人」さんです!

 

 見てくれこの黄金に輝く堅牢な外殻! 見上げるような巨体! 逞しい体格! 有象無象の巨人が霞むようなかっこよさだ。やっぱりかっこいいよライナーは……

 「始祖」のコピー&ペーストが使えるので他の無垢の巨人の方がよっぽどコストかかってるのは内緒だ!

 

 正直、九つの巨人を召喚するかどうかはかなり迷った。この戦争遊戯(ウォーゲーム)の主役はあくまでベル団長。俺の役割は団長がヒュアキントスとの一騎打ちに集中できるよう、他の全ての団員の注意を引き付けることにある。

 それに関しては十分に目的は達したと言えるだろう。立体機動もできないLv.2程度なら無垢の巨人にとっては良いカモだ。何しろこの世界の人類は巨人の弱点を知らないのだから。その上で駄目押しの「鎧」の投入である。魂のない操り人形といえど、歴戦の戦士が変身した知性巨人など過剰戦力もいいところだ。

 

 しかし、城壁があるなら話は別だ。無垢の巨人軍団といえど、対冒険者戦を想定して補強された城壁を打ち崩すのは簡単にはいかないだろう。最終的には破壊できるだろうが、相手は総勢百名を超える規模のファミリア。当然それなりの数の魔導士を揃えているに違いない。城壁に群がる巨人軍団に対し大量の魔法を叩き込まれればどうなるか、正直なところ未知数だった。

 はっきり言って俺はこの世界の魔法についてあまり詳しくない。ベル団長の『ファイアボルト』ぐらいしか見たことがなく、一般的なLv.2の魔導士がどの程度の規模の魔法を使えるかは想像するしかないのだ。そしてもしそれが大砲を上回る威力だった場合、少なくない数の巨人が討ち取られる可能性を危惧しなければならなかった。

 

 まあ減ったところで補充すればいいだけなのだが、また新しく作るの面倒臭いし、あまり時間をかけ過ぎるのも好ましくない。相手に立て直す時間を与えたくないし、何よりベル団長の勝率を少しでも上げるためでもある。

 誰だって拠点の防壁がぶっ壊されて、そこから大量の化け物が雪崩込んでくるとなれば冷静ではいられないだろう。ヒュアキントスとてそれは同じ。そうして動揺しているところにベル団長が強襲するという寸法よ。まさに隙を生じぬ二段構え。完璧な布陣だァ……

 

 というわけで「鎧」の役目は、無垢の巨人に代わり一撃で確実に城壁を打ち壊すことだ。共に壁越えといこうじゃないか。

 さあ、早く君の壁越えを見せてくれ。一回きり見せてくれれば、それで僕は満足するんだ。お願いだから、ネネ、いいだろう?

 

 ……何だァ? その「え、マジで俺がやるんですか」みたいな物言いたげな目はァ?

 壁といえば「鎧」! 「鎧」といえば壁! これは牛タンととろろ麦飯並に外せない組み合わせだろうが! 身体がトラウマを覚えているのかは知らんが、お前に(なかみ)がないことは分かりきってるんだよォ!

 

 ネタ的にも戦術的にもこの場は「鎧」が最適解なんだからさっさと行けェーい!

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオ────ッッ!!』

 

 満を持して放たれた「鎧」の咆哮がビリビリと大気を震わせる。

 身の丈15M(メドル)もの巨体から発される雄叫びだ。その圧力に怯んだ壁上の冒険者達に表れた恐怖の表情を見て、思わず俺の顔に笑みが浮かぶ。

 

 これだよ、これ。こういう反応を待ち望んでいたんだ。「座標」で実に一年近くかけて巨人の軍勢を作り上げた甲斐があったぜ。

 

 (ライナー)は入っておらずとも、「座標」を経由して彼の戦闘経験の全てを継承した伽藍堂の「鎧」は実に滑らかに動き出した。その巨体からは信じられない程の瞬発力で駆け出し、まるで肩当のように分厚く発達した肩部を前方に突き出した状態で猛然と疾走する。

 

「や、奴を城壁に近付けさせるな!」

「矢を放て!」

「魔導士隊、詠唱を開始しろ!」

 

 悲鳴のような叫び声が方々から響く。誰も彼もがその顔に恐怖の表情を浮かべ、迫る脅威を何とかして退けようと行動を開始した。

 だが無意味だ。一度走り出した巨人を止められるとするなら、それは同じ巨人だけなのだから。

 

 壁上から降り注ぐ無数の弓矢。釣瓶(つるべ)打ちにされる火球やら雷撃やらの多種多様な魔法の数々。

 それら一切合切を意にも介さず、「鎧」は寸毫たりとも揺らぐことなく進撃し続ける。全ての迎撃手段が黄金の外殻に弾かれ、僅かにその速度を緩めることさえ叶わない。

 そうかそうか、魔法といってもLv.2ならあの程度か。残念だったな。マーレの巨壁たる「鎧」の装甲を抜くには、どうやら圧倒的に火力が不足していたらしい。

 

 みるみる内に距離が縮まる。瞬発力や小回りでは「(あぎと)」や「車力(しゃりき)」に劣るが、直線移動における純粋な速力ならば「鎧」は決して遅くはない。トップスピードに関しては同サイズの「進撃」や「女型」と比較してもそう劣るものではないだろう。

 

「あ、ああぁぁぁ……!」

「来るな……来るなぁああああ!」

 

 絶望の声が上がる。

 こうして見ると10M(メドル)の城壁が小さく思えるな。石造りの城としてはかなりの規模のはずなのだが、流石に比較対象が悪い。城壁よりも遥かに大きい巨躯の怪物が馬より速く迫り来るのだ、それはそれは恐ろしかろう。

 

 まあ、恨むならアンタらの主神を恨んでくれや。よもや殴り掛かったのに全く殴り返されないなんて楽観していたわけではないだろう?

 偶さか相手の拳が予想外にデカくて痛かった。これはそれだけの話だ。

 

「百人規模の大派閥が大挙して殴り掛かってきたんだ。ならば、こちらも相応の戦力で殴り返すまで」

 

 百人の眷属と五十体の巨人、釣り合いは取れている。そうは思わないか?

 

「あ────」

 

 「鎧」のタックルが城壁に激突し、埒外の大質量がぶつかった衝撃で壁が木っ端微塵に粉砕される。

 逃げ遅れた誰かの、呆気にとられたような声が嫌に耳に残った。

 

「さあ、鬱陶しい壁は消えた」

 

 スッと右手を掲げる。ここまで微動だにしていなかった無垢の巨人達が一斉に顔を上げ、開いた壁の向こう側を凝視した。

 そうだ、お前達が喰らうべき敵はそこにいる。俺は指揮者のように掲げた右腕を振り下ろし、指先で進むべき道を指し示した。

 

 

「進撃を開始せよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()くして、絶望は動き出した。

 

 

「そのまま城の防衛機能を全て破壊しろ」

『オオオオオオオォォォ────ッ!!』

 

 体当たり(タックル)で壁を破壊した「鎧」は、指揮者たる「始祖」の命令に従い城壁の破壊を続行した。

 幕壁に腕を突き入れ、そのまま壁沿いに疾走を開始する。「鎧」の腕は削岩機さながらに城壁を粉砕しながら突き進み、防衛のため壁上にいた冒険者諸共城塞から砦としての機能を剥奪していく。

 

「か、壁を破壊しながらこちらに向かってきます!」

「た、退避しろ! 退避ー! たい──」

 

 横矢掛かりのため側防塔に詰めていた冒険者達は、恐るべきパワーで一切速度を緩めることなく迫り来る巨人の腕に薙ぎ払われた。恩恵(ファルナ)を受けた冒険者の強靭な肉体といえど、「鎧」の腕力による殴打を受ければ一溜まりもない。瓦礫と化した塔の破片と共に、ついさっきまで生きていた者達の肉片が赤い飛沫となって空を舞った。

 

 一方、「始祖」の命に従い進撃を開始した巨人達は粉砕され跡形もなくなった壁を越え続々と城塞内部に侵入する。

 

 そして、地獄が始まった。

 

「ぎゃああああああ!!」

「な、何だこいつら!?」

 

 彼らは、巨人の名の通り人に酷似した体格をしていた。

 四肢を具えた直立二足歩行の人型巨大生物。しかし、彼らの攻撃手段は殴打でもなければ蹴りでもなく。

 

「こ、こいつら──人喰いの化け物だ!」

 

 噛みつき(バイティング)──否、それは紛れもない“捕食”であった。

 「鎧」だけが殊更に機敏だったわけではない。全ての巨人がその巨体に比して異様に素早かった。巨人達は混乱する冒険者達の隊列に突っ込み、彼らの攻撃を物ともせず次々に捕らえていく。

 

「や、やめて! 食べないでえぇえええ!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 腕が!! 俺の腕があああ゛あ゛あ゛!!」

「助けて!! 助けてアポロンさ──ぎぃ」

「嫌だ……! こんな死に方は嫌だあああああ──ぁが」

 

 ばきり。喰い千切られた腕が宙を舞う。

 ぼきり。折れた足が巨大な口の端から垂れ下がっている。

 ぐしゃり。噛み砕かれた頭蓋の破片が散乱し、脳漿混じりの血液が地面に降り注ぐ。

 

 我が物顔で城塞内部の中庭を練り歩く異形の怪物。現れたるは蚕食鯨呑(さんしょくげいどん)の地獄絵図。

 落窪んだ眼窩の下、鈍い光を放つ巨人の双眸に感情の色はない。意思も何も感じられない硝子玉のような眼球を動かし、だが貪欲なまでに動く冒険者達(えもの)を猛追し喰らいついていく。

 無機質な捕食本能で襲い来る、醜怪なる巨躯の化け物ども。その悍ましき威容を前に光明神の眷属達は恐れ(おのの)き、一人、また一人と潰走を始める。

 

「ま、待て! 隊列を乱すな!」

 

 隊を率いる部隊長が声を張り上げるが、既に士気はどん底まで落ちていた。

 元より格下の派閥が相手だと油断していた者が殆どだったのだ。このような事態に対する覚悟などできている筈もなく。

 

 脱走兵によって空いた隊列の間隙に、巨人の軍勢はこれ幸いとばかりに殺到する。ただでさえ押され気味だった戦線は崩壊し、そこへ更に後続の巨人が押し寄せた。

 

怪物(モンスター)共め……! これ以上城に近付かせはせんぞ!」

 

 部隊長は己を鷲掴みにせんと迫る巨大な手の平を掻い潜り、愛槍を手に巨人の懐まで肉薄する。

 そして勢いよく地面を蹴りつけて跳躍。渾身の一突きで深々と巨人の胸を貫いた。

 

 ()った、と男は確信した。モンスターによって魔石の存在する位置は様々だが、人型のモンスターに関しては凡その位置は共通している。

 即ち心臓部。そこを貫けば、大抵の人型モンスターは絶命するというのが冒険者の共通認識であった。

 

 だが、しかし──残念かな、()()()()()()()()()()()()()()

 

「うそ……だろ……」

 

 僅かに痛がる素振りは見せたものの、絶命には程遠く。顔の面積に対して異様に大きな目をしたその巨人は、あっさりと己の心臓に突き立った槍を引き抜いた。

 その傷が蒸気を立てながら瞬く間に再生していくのを、部隊長の男は絶望の目で眺めることしかできなかった。

 

「まさか、こいつら……一体一体が、ジャック・イェーガーと同じ……」

 

 頭を、心臓を──急所を矢の雨で射抜かれようが一瞬で回復してのける、強力無比な自己再生能力。

 それと同じ力を、五十体以上もいる全ての巨人が等しく有しているのだと。そうと理解した瞬間、男から反抗の意思は失われた。

 

「ふざけろ……こんな化け物が群れをなして……勝てるわけねぇだろ……」

 

 絶望に膝を折った男の身体を、巨人は容赦なく鷲掴みにする。

 万力のような力で握り締められ全身が軋みを上げる中、男は血を吐きながら叫んだ。

 

「こんなものが……戦争遊戯(ウォーゲーム)であってたまるか! こんなものがアポロン・ファミリアの終わりであっていいものか! 悪魔め……! ジャック・イェーガーぁあああああああ────ッッ!!」

 

 怨嗟にも似たその叫びはこの場の誰に届くこともなく、無情にも巨人の口腔の内に消え去った。

 だが戦場で無為に散ったその無念の声は、『鏡』を通してオラリオに届いていた。

 無論、彼の主神の下にも。

 

「やめろ! 食べるな! 私の子供達だぞ!?」

 

 アポロンの悲鳴がバベル三十階層に設けられた観覧席に響き渡る。

 その端正な顔を悲痛に歪め、届かないと分かっていながらも『鏡』に向かって声を張り上げた。

 

 だが、他の無関係の神々のボルテージは上がる一方だった。彼らにとってはパニック映画でも見ているような感覚なのだろう。まさしく地上の一切を盤上の娯楽としか考えない超越存在(デウスデア)らしい無神経さで、アポロンの悲鳴すら肴に最高潮の盛り上がりを見せていた。

 

 まさに今『鏡』の向こう側で次々と巨人の餌食になっているのが自分の眷属でさえなければ、アポロンも彼らと同じく馬鹿騒ぎに興じていたことだろう。

 しかしあの恐怖に歪んだ顔は。今も聞こえるあの悲鳴は。散乱するあの腕は。あの折れ曲がって落ちた足は。もはや何も映さぬ濁った瞳は。零れた(はらわた)は。

 全て全て全て全て全て全て。紛れもなく、アポロンが愛した子供達だったものなのだ。

 

「あのヒューマンを……ジャック・イェーガーを止めてくれ!! 頼む、ヘスティアあああああ!!」

 

 これ以上我が子が化け物の餌食になる光景に耐えられなかったアポロンは、遂に恥も外聞もかなぐり捨ててヘスティアの足元に縋り付き懇願する。

 だがヘスティアはそんなアポロンを一顧だにせず、『鏡』から目を逸らさぬまま冷たく告げた。

 

「目を逸らすな、アポロン。これは君が招いた事態なんだぞ」

「なにを──」

「君が馬鹿なことをしなければ、ジャック君がこんなことをする必要はなかった。させる必要もなかった。全部君の短慮が招いた悲劇だ」

 

 正直、ヘスティアとしてもここまでやる必要はあるのかと思わないでもなかった。もっと他の手段はなかったのかと、そう問いたい気持ちもある。だがそれ以上に、ジャックをこんな暴挙に及ばせたそもそもの原因に対する怒りが勝った。

 何しろこれは本来、百人対二人の攻城戦という常軌を逸した戦いなのだ。これ程の不利を覆すためならば、多少の非道に手を染めるのもやむなしというのは理解できる話だった。

 

「私利私欲で噛み付くなら、せめて噛み付く相手は吟味するべきだった。それに付き合わされた君の眷属が哀れでならない」

「わ、私は……わた、しの……私の、せいで……」

「一度始まってしまった戦争遊戯(ウォーゲーム)は既に神々の手を離れている。もはや主神(ボクら)の一存では止められない。そうやって退路を絶ったのは、他ならぬ君自身だったはずだ」

 

「目を逸らすなよ、アポロン。これは──」

 

 

 

「君が始めた戦争(ものがたり)なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪趣味ですね。ここまでする必要はあったんですか?」

「無論、ありました。俺はそう判断しています」

 

 呆れ声でそう言うリリルカさんからマントを受け取る。漆黒に染まったその外套は、以前俺がぶち殺したゴライアス強化種からドロップした『ゴライアスの硬皮』を加工して作ったものである。

 無防備に矢を受けたせいでボロボロになった服を隠す。どう? とマントの感想を聞けば、「半裸にマントの組み合わせで犯罪臭がすごいです」とのお言葉を賜った。解せぬ。

 

「……お聞かせ下さい、ジャック殿。何故、ここまでする必要があると判断されたのですか?」

 

 声を震わせながらそう訊いてきたのはヤマトさんだった。その顔は僅かに青褪めている。

 

「主目的は先ほど説明した通りです。邪魔な城壁を破壊し、全ての眷属の注意を引き付け、最大の脅威たる数的不利を覆す。その全てを満たす最適解がこれです」

「ジャックが巨人化するんじゃダメだったのか?」

 

 そう問いかけてくるヴェルフの表情は、ヤマトさんとは対照的に平然としている。戦神が治めるラキア王国の出身だけあり、この手の惨劇には慣れっこなのだろうか。

 ちなみにリリルカさんに聞いたところ「ベル様の貞操を狙ってきた相手の眷属がどうなろうと知ったこっちゃないです」との答えが返ってきた。女の子ってこえー。

 

「まあ、俺が巨人化しても同様の結果は得られたでしょう」

「なら、そちらの方が良かったのでは……?」

「ヤマトさんの言う通り、その方が()()は良かったかもしれませんね。強大な一体の巨人に踏み潰されて死ぬのと、無数の巨人に喰われて死ぬのとでは受ける印象は大分違う。どちらも結末は同じですが、後者の方がより惨たらしく映るという主張は理解できます」

 

 ()()()()()、俺は無垢の巨人の軍勢による制圧を選んだのだ。

 

「ベル団長は良きにつけ悪しきにつけ他者を惹き付ける。今回のようなことがまたいつ起こるとも知れません。

 だからこそ見せしめが必要だったのです。二度と変な気を起こす者が現れぬよう、我々のファミリアと事を構えるのはリスクが高いと、オラリオの全てに知らしめる必要があった」

 

 これほど効果的な脅しはあるまい。化け物(モンスター)に喰われる恐ろしさと絶望は、他ならぬ冒険者こそが一番よく知っているのだから。

 

「まあ、悪趣味であることは否定しません。あんなの、見ていて愉快なものでもない」

「さっきまでノリノリだったじゃないですか」

「そりゃあ怖がらせるために丹精込めて作った巨人達が期待通りの効果を発揮してくれたんです。嬉しくもなりますよ」

 

 とはいえ、楽しかったのはそこまでだ。実際に巨人がアポロン派閥の冒険者達を捕食し始めた辺りで、露骨に俺のテンションはだだ下がりしていった。

 当然の話だ。『進撃の巨人』の登場人物の中に、人を喰らう巨人の姿に心からの喜びを覚えた者など皆無に等しい。『進撃の巨人』の全てを継承した俺だってその点は同じである。

 

「まあ、だからこそ実行に移したわけですが。“自分がやられて嫌なことは積極的に相手にやりましょう”。戦闘の基本です」

「効果的なのは見て分かるが……これ、下手したらベルが戦う前に終わっちまうんじゃねぇの?」

「それはないでしょう。攻城戦の勝利条件は大将、即ち敵対派閥の団長を戦闘不能に陥らせること。他の眷属が全て死に絶えようが、ヒュアキントスが生きている限りこの戦争は終わりません」

 

 後はどちらか一方の団長が降伏することだが、あのヒュアキントスがそんな選択をするとは思えない。

 そして、奴らは巨人達が生まれた瞬間を目撃している。原因が俺にあることは重々承知していることだろう。

 ならば次に奴らが打つ手は容易に想像できる。数的有利が潰えた以上、連中に残された勝ち筋は──

 

「いたぞ! ジャック・イェーガーだ!」

「殺せ! 奴を殺せば巨人どもは消えるはずだ!」

 

 巨人の包囲網を抜け、こちらへ猛然と突っ込んでくる一団があった。

 目を血走らせ、必死の形相で迫り来るアポロンの眷属達。あれこそは彼らに残された唯一の勝ち筋。

 

「即ち斬首戦術。全ての巨人の元凶たる俺を討つことで形勢逆転を図る乾坤一擲の策」

 

 正解だ。「始祖」たる俺を殺せば全ての巨人は活動を停止する。

 恐らくこれを考案したのはヒュアキントスだ。そしてこの策を採用した以上、もはや彼の近くに他の戦力は存在しないだろう。そうしなければ意味がない。

 

 これ程の規模の巨人の軍勢を掻い潜るには、アポロン・ファミリアの総力を以てかかるしかないだろう。恐らく一部が派手に動いて巨人達の注意を引く生き餌となり、それ以外がその隙に包囲網を抜ける、と言ったところか。今こちらに向かってきている一団は運良く包囲を抜け出せた者達なのだろう。

 そして総大将が討ち取られるわけにはいかない以上、ヒュアキントス自身はシュリーム城塞の主塔に残っているはずだ。今回俺が生み出した巨人の大きさは最低でも7M(メドル)。塔の中までは入り込めないため、屋内に残っている限りヒュアキントスが巨人に捕食される恐れはない。

 

 全て作戦通りだ。塔の中にいれば巨人の脅威に晒されない以上、ヒュアキントスは手勢を周囲に残しておく意味がない。全ての眷属を俺の首を獲るために吐き出させたことだろう。これで“全ての眷属を引きつける”という目的は達成された。

 

「これにて全ての策は成りました。後は丸裸となった城塞に乗り込んだベル団長が、ヒュアキントスの首級(しるし)を上げるのを信じて待つだけです」

「…………おっそろしい奴だよ、お前は」

「何です? 急に」

「俺は何があろうとお前だけは敵に回さねぇ、絶対に」

 

 どうした急に。心配しなくてもヴェルフと敵対する予定はないけど。何かヤマトさんも赤べこみたいにぶんぶん首を振ってるけど、もう怪物進呈(パス・パレード)のことは根に持ってないから大丈夫よ? そもそも俺当事者じゃないし。

 

「さぁて、それでは始めましょうか。言うなればあれは決死隊。平団員といえどそれなりの脅威にはなるでしょう」

「それなりで済むとは思えませんが……つかぬことを聞きますけど、『鎧』さんみたいな特別な巨人をもう少し召喚することはできませんか? それで守っていただけるとリリは非常に安心できるのですが」

 

 過剰戦力になるからお止めなさい。心配しなくてもリリルカさんには指一本触れさせないから。

 

「そう遠くない内に決着はつくでしょう。それまで連中の攻勢を凌げば我々の勝利です」

「……ベル殿の勝利を疑われないのですね」

「当たり前でしょう。派閥の長を疑う眷属がどこにいるんです?」

 

 そういう精神論を抜きにしても、ベル団長はたった数日で見違えるほど強くなっていた。気力も充実した様子だったし、考え得る限りのベストコンディション。格上殺しに定評のある【未完の少年(リトル・ルーキー)】ならば、ヒュアキントス相手でも十分な勝ち筋を作り出せるに違いない。

 まあ、万が一の時の保険もある。気楽に行こうぜ。

 

「目指すは完全試合(パーフェクトゲーム)ってね。ベル団長が大将戦を頑張ってるのに、俺達が倒されちまうんじゃ格好がつかない。どうせなら完璧に勝利して凱旋しましょうや」

 

 ついでだ、ランクアップしたことで可能になった新技もお披露目しよう。

 迫りつつある敵集団を見据え、俺はいつものように右手親指の付け根に歯を立てた。

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