進撃の迷宮譚   作:でけぇ害虫

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たった一話しか投稿していないにもかかわらず多くの方に見て頂き、更に感想とお気に入り登録も沢山頂戴してしまい感謝の言葉もありません。
しかも公開から一日で早くも評価に色が付いてておっp……おっぱげた。嬉しくなってしまったので、ちょっと短いですけど取り急ぎもう一話投稿します。



1.門出

 迷宮都市オラリオ。

 それは世界で唯一地下迷宮(ダンジョン)を擁する街。一攫千金を夢見る荒くれ者、腕に自信のある冒険者達が世界中から集まる「世界で最も熱い都市」である。

 

 だが、冒険者稼業は危険と隣り合わせだ。迷宮に潜むモンスターは地上のそれとはレベルが違う。迷宮産のモンスターは体内に「魔石」と呼ばれる核を有し、それ故か地上に生息するモンスターとは同種であっても明確に強さに差が存在する。

 それでも迷宮に挑戦する冒険者が後を絶たないのは、そのリスクを加味しても得られるリターンが大きいからだ。モンスターから採取できる魔石は様々な産業の中核を担う貴重な資源。だからこそオラリオは他に類を見ない速度で発展してきたのである。豊かになれば人が集まるは道理。富と名声を求めて冒険者が集い、彼らが持ち帰る魔石を目当てに世界中から商人や職人が集う。そして人が集えば更に豊かになる。

 

 他にも理由はあるが……オラリオがあらゆる国家を差し置いて多大な発展を遂げた背景には、概ねそのような事情があった。故にこそオラリオは如何なる国家にも属さず、また縛られることもない。世界最大にして唯一の魔石産出地であるというただそれのみを以て、迷宮都市は絶対的な中立──否、栄光ある孤立と自由を維持しているのだ。

 

 

 来たれ若人、迷宮都市(ここ)には全てがある。富も名声も、夢も希望も、ありとあらゆる()()が君を待っている──と。

 それが通りすがりの行商人から聞いた、オラリオという街についての概要である。

 

 

「胡散臭いなぁ。そんな旨い話ある?」

「そりゃあ誰もが成功するわけじゃねぇさ。けど嘘は言ってねぇ、真実オラリオには全てがある。あそこで手に入らねぇものは何もない──それだけは揺るぎない事実さね」

「なるほどなぁ……」

 

 冒険者の街オラリオは自由がモットー。成功するもしないも全ては挑戦する本人の天稟と努力次第。オラリオが自由の街と言われる所以は、街を訪れる誰にでも等しく挑戦する権利が存在するということにある、と。

 

「つまりタダなのは入口だけか」

「入口がタダなだけ破格ってもんよ。タダより高いものは存在しねぇ。オラリオに入り、冒険者を志せば誰もが挑戦する権利を得られる。そこから成功を掴めるかどうかは当人の才能と運次第ってな……かーっ! 戦う才能がありゃあ俺だって冒険者を目指したってのによぉ!」

 

 心底悔しそうに膝を叩く商人のおっさんを横目に、俺はまだ見ぬオラリオに思いを馳せる。

 

 ちなみに俺が今いるのは荷馬車の上だ。さっきから話を聞かせてくれている行商人は御者席で手綱を握り、俺は荷馬車に寝っ転がりながら悠々自適に流れる雲を目で追っている。

 気分はさながら気儘なヒッチハイクだが、俺みたいなガキが大人を顎で使っているこの状況には理由がある。端的に言うと、俺はこの商人にとって命の恩人なのである。

 

 

 

 それは遡ること三日前。遂に巨人化を果たした俺は、座標での苦労が報われた嬉しさでついはしゃぎすぎてしまい、あっけなく巨人の姿が露見。町の住民をパニックに陥らせてしまう。

 別に町を襲ったわけではないので死人などは出ていないはずだが、あれ程の混乱だ。何人か怪我人が出てしまったのは確実だろう。いたたまれなくなった俺はその足で町を脱出。一人旅の開始と相成ったのである。

 

 そうして我が身可愛さに逃げ出したわけだが、幸い俺には身寄りがない。捨て子だった俺は孤児院で育ち、しかも転生者故か周囲に溶け込めず孤独(ぼっち)な日々を過ごしていた。院長は急にいなくなった俺を心配してくれるかもしれないが、他の同じ境遇の孤児どもは不気味な奴が消えてくれたと安堵していることだろう。院長には悪いが思い残すことは特にない。

 

 そして始まった無計画(ノープラン)の一人旅は、案の定と言うべきか碌なものではなかった。中世ヨーロッパの文明レベルのこの世界は人口も少なく、比例して町や村の数も少ない。つまり町同士の距離が非常に離れており、着の身着のまま旅に出た俺は過酷な長距離移動を強いられたのである。

 当然ながら現代日本からの転生者である俺にサバイバル知識などあるはずもなく、そもそもこの世界の植生は地球のそれとはまるで異なる。何なら食べられるのか、何に毒があるのか、何もかもが分からないことだらけ。そんな状況で不用意にそこらの植物や木の実に手を付けるわけにもいかず、おっかなびっくり川の水を口にするだけで精一杯の三日間であった。

 

 いっそまた巨人化し距離を稼ぐか。そんな考えが脳裏を過るほど追い詰められた俺の視界に飛び込んできたのは、街道の真ん中で立ち往生する馬車と、それを包囲する野盗の群れだった。

 

『へっへっへ……いけねぇなぁ商人さん……こんな所を護衛も無しに通るなんざ、ちと不用心が過ぎるんじゃねぇの?』

『へっへっへ……なぁに、何も(タマ)まで獲ろうってんじゃねぇ。俺らが欲しいのはその積荷だけさ』

『へっへっへ……荷物さえ大人しく渡すってんなら、アンタも馬も無傷で帰してやるよぉ』

『くっ……』

 

 なんと清々しいまでの絵に描いたような小悪党の姿であろうか。俺は自分の三日前の悪行(やらかし)を棚に上げそう思った。

 

 しかし、これはチャンスであった。目の前には何をしても心が痛まない小悪党が数人と、それに取り囲まれ窮地にある商人の男が一人。そして彼が運ぶ荷馬車には、食糧を含む様々な荷物がたっぷりと積まれている。

 恩を売り、謝礼という名の食糧を得るには絶好の機会。そう思い至った俺は、何の躊躇もなく背後から野盗に襲い掛かった。

 

 とは言え巨人化はしない。商人まで驚かせてこれに逃げられたら本末転倒だからだ。

 勿論勝算はある。今の俺は飢えたガキに過ぎないが、それでもただの子供ではない。「進撃の巨人」という物語を構成するあらゆる要素を無秩序に詰め込まれた俺の身体には、アッカーマンの血が流れているのだ。

 

 アッカーマン──それはエルディア帝国が長い歴史の中で生み出したとある一族の名だ。

 九つの巨人の中でも一等特別な「始祖」の巨人は、始祖ユミルの血を引く「ユミルの民」の身体構造を変えることができる。作中ではジーク・イェーガーがこの能力を用い、全てのエルディア人から生殖能力を奪おうと目論んでいた。

 この始祖の能力を用いた身体改造の結果、()()()()()()()()()()()()()()()()ようになったのがアッカーマン一族である。

 

 座標に触れたことで身体に流れるアッカーマンの血を目覚めさせた俺は、それまでとは比較にならない超人的な身体能力を発揮できるようになった。まるで超人血清を打たれたキャプテン・ア○リカのように大幅に筋力が増加*1し、発揮されるパワーに耐えられるよう骨密度は鋼鉄に匹敵するレベルで強化。加えてアッカーマン一族がその歴史の中で蓄積させてきた戦闘経験をも道を通じて継承しており、今の俺が発揮できる戦闘能力はもはやモンスターのそれだ。如何にミカサとリヴァイが化け物じみてたかがよく分かる。

 

 

 つまるところ、どれだけ飢えて疲労が溜まっていようが俺は強い。ましてや相手は粗末な鉄の剣やナイフを装備しているだけの破落戸(ごろつき)がたったの七人。

 赤子の手をひねるようなものだった。まず背後からの不意打ちで一人を昏倒させると、何事かと振り向いた隣の野盗の土手腹目掛けて飛び膝蹴り。もんどりうって倒れたそいつを放置しすぐさま別の野盗へ飛び掛かる。地面を蹴って弾丸のように飛び出すと、その突進の勢いで二人の野盗を車で撥ねるように吹き飛ばした。

 その間約五秒。そこでようやく事態を把握した野盗どもが怒声を上げるが、それを無視して跳躍。馬車を飛び越えて反対側に陣取る残りの三人に躍り掛かる。

 突き出される剣の切っ先を回避し、そのまま伸ばされた腕を圧し折る。続いてナイフを持った野盗が迫るが、そいつには折れた腕を抱えて悲鳴を上げる野盗を掴んで投げ飛ばし、先程の二人と同じようにまとめて吹き飛ばした。

 

 ここに至りようやく俺がただの子供ではないと悟ったのか、一人だけとなった野盗は悲鳴を上げて逃げ出した。

 当然逃がしはしない。走って簡単に追いつくと、そのまま首根っこを掴んで引き倒し、仰向けになったそいつの顔面目掛けてダブルスレッジハンマー。相手は死ぬ(気絶)

 

 

 以上が事の顛末である。アッカーマンパワーに物言わせて野盗どもを鎮圧し、窮地を救われた行商人は快く(顔を引き攣らせながら)食糧を分けてくれたというわけだ。

 ……うん、完全にビビらせちゃいましたねこれ。そりゃあこんなクソ強いガキがいたら普通ビビる。誰だってそーなる。俺だってそーなる。

 

 とは言え感謝してくれたのは本当のようで、商人──名前はカルロというらしい──は俺を馬車に乗せて町まで送ってくれると言ってくれたのである。用心棒代わりという魂胆もあるのだろうが、それでもありがたいことだ。

 

 

 

「ま、お前さんなら大丈夫だろう。なんせその若さでその腕っ節だ。冒険者としてやってくには十分すぎる才能だろうよ!」

「ん? ああ、そうだなぁ……そうだといいなぁ」

 

 カルロさんの声で我に返り、俺は曖昧に言葉を返す。

 

 どうも俺は冒険者を夢見て家出した子供に思われているらしく、聞いてもいないオラリオについてのあれこれを教授してもらっていた。何でもそういう無鉄砲な子供はこの世界には掃いて捨てるほど存在するらしく、カルロさんにしてもそんな家出少年を何度も見てきたという。

 そしてオラリオではそういう家出少年から冒険者として大成した例が多くあり、だがそれ以上に夢破れ最底辺を這い回る羽目になった例は枚挙に暇がないらしい。現実は非情であると言うべきか、成功した例があるだけ上等だと言うべきか判断に困るところだ。

 

 世界中の若者に夢と希望、そして栄達への野心を抱かせる程の輝きを放つ大都市オラリオ。

 確かに、興味がないと言えば嘘になる。この身に与えられた巨大な力を思う存分に振るい、莫大な名声を得られたらどれだけ気持ちがいいだろう。

 

 しかし不安もある。俺がこの力を存分に振るうということは、それは巨人の力を公に晒すということだ。

 その力がこの剣と魔法の世界でどう捉えられるかは未知数である。異端として排斥されるか、それとも「そういうものだ」として受け入れられるか。最悪なのはモンスターの一種と誤解されて討伐の対象にされてしまうことだが、果たして。

 

「でもやっぱり男なら憧れるよなぁ……冒険者」

 

 オラリオでも屈指の最上級冒険者の名は俺の住む町にも轟いていた。中でも最強の戦士【猛者(おうじゃ)】オッタルと、最高の勇士【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナの勇名は、まさしく生ける伝説として世界中に膾炙(かいしゃ)している。

 そんな彼ら比類なき英雄達と同等の位階に上り詰める自分を想像すると、年甲斐もなく昂ってくるものがある。やはり男とはいくつになっても英雄譚(そういうもの)に自分を投影したくなる生き物なのだろう。……馬鹿みたいにはしゃいで自分好みの巨人を作ってる時点で今更な話ではあるが。

 

「……決めたよおっさん。俺は冒険者になる」

「何だ、もしかしてまだ踏ん切りついてなかったのか? 俺ぁてっきりハナからそのつもりなのかと思ってたんだが……」

 

 今ならまだ引き返せるし、お前さんの町まで送ってやるぞ? と言う声に首を横に振って返す。あの町には──100%自業自得だが──もう帰れないのだし、どのみち何らかの手段で食い扶持を稼ぐ必要はあるのだ。その手段として冒険者になるというのは悪くない。たとえ巨人化を使わなくとも、アッカーマンの能力があれば*2最低限食うには困らないだろうとは思うし。

 

「心配してくれてありがとう。けど俺は孤児だったからどうせ帰る家なんて無いし、一か八かオラリオに賭けてみるよ」

「そうか……なぁに、お前さんならいっぱしの冒険者になれるさ! 何せそんなちっせぇ身体で大の大人を何人もぶっ倒しちまうんだからよ!

 ……あと俺はまだ三十だ、おっさんじゃねぇ!」

 

 三十歳は十分おっさんだよと笑いながら言ってやると、カルロさんは怒ったように干し肉を俺の顔面に投げつけた。

 

「ったく……悪いがまだ行商の途中なんでな、オラリオに着くまでまだあと二つか三つは町を経由する予定だ。それまでの運賃分はしっかり働いてもらうぜ」

「はいはい、未来の一級冒険者に護衛は任せといてくれよ」

 

 可愛くない子供だなぁ、とカルロさんは苦笑する。

 そういう彼は随分とお人好しだ。野盗から守った恩ありきとはいえ、こうしてオラリオまでタダ乗りさせてくれるのだからありがたい。

 何せ先ほど述べた通り町と町との間には結構な距離がある。二つ三つ町を経由するとなれば、そこに滞在する時間も考慮して、最短でも三、四ヶ月ぐらいは掛かるであろうと考えられる。それだけの期間一人分余計に食費が掛かることを考えれば、それは彼の口ぶりほど小さな出費ではないだろう。

 

 だから、それまではしっかり用心棒として働くつもりだ。いざとなれば巨人化も辞さない覚悟で護衛に臨むとしよう。……そんな窮地が来るとは思えないけれども。

 

 

 

 そして実際、わざわざ巨人化しなければならない程の危険は終ぞ訪れず──それから四ヶ月後、俺とカルロさんはオラリオを目前とする所まで来ていた。

 

*1
厳密には筋肉密度の増強と脳のリミッターを任意に解除できるようになる、が正しい。流石にキャプテン・アメ○カと同レベルのゴリマッチョになるわけではない。

*2
本来アッカーマンは知性無知性問わず巨人化することはない。




書き終えてから気付いたのですが、まだ主人公の名前公開してませんでしたね。
そんな出し渋るほど重要な情報では全くないんですけど、何となく機会を逸しておりました。多分次回ぐらいで、会話の流れの中でさらっと出てくると思います。
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