進撃の迷宮譚 作:でけぇ害虫
アッカーマンって凄い。試験を終え
アッカーマンとは生身のまま巨人の力の片鱗を振るう特殊能力を与えられた一族だ。
巨人の力といっても黄金の鎧を纏ったり蒸気爆発を引き起こしたりといったものではない。異常なまでに発達した筋骨もそうだが、何より特筆すべきは「道」を通じて歴代アッカーマンの戦闘技能・経験を継承できることにある。
その特性上、アッカーマンは代を重ねるごとに性能が向上していく。その一つの
まだ確証を得たわけではないが、理論上俺の肉体的な
何故なら、再三言うように俺は「進撃の巨人」である。あの物語における全てがこの身には詰まっている。
つまり何が言いたいかというと、俺の中に流れるアッカーマンの血には、
まさしくアッカーマンのハイブリッド、いやサラブレッドだ。これはもうリヴァイとミカサの子供と言っても過言では……いや、よそう。何か俺の中のエレンの部分が拒否反応を起こしている気がする。
それによく考えたらケニー・アッカーマン成分も入ってるわけだし、サラブレッドと言うよりはごった煮、あるいは煮凝りと言った方が正しい。
話を戻そう。要は先程の試験においてはこのアッカーマンの特質が遺憾なく発揮されたということを言いたかったのだ。
アッカーマンはおろか、俺自身の経験としても
だがいざ敵を前にした途端、俺の精神は一瞬で平静になった。いや、むしろ冷え切ったと言ってもいい程に冷静になった。
刹那、もはや条件反射とも言える速度で身体が動いた。
何故なら、
最初の相手が
そして巨人と違い、モンスターは急所の破壊がそのまま死に繋がる。
だから、決着するのはまさに一瞬だった。苦戦する要素など皆無に等しい。
しかし誤算はあった。俺は二匹目を屠ったところで三匹目に反応されたわけだが──反応されたところで対処する算段は幾らでもあったが──実のところ俺の予想では、敵に反応される前に倒せるのは最初の一匹が限度だと思っていたのだ。
その展開予想はそう的外れでもなかったはずだ。俺の中の内なるアッカーマンたちもそうだそうだと言っていたし*1。
では何が誤算となったかといえば、それは昨日までの俺になく今日の俺にはあるもの──
いやー、神様の力って凄いね。Lv.1という字面に内心軽んじている部分もあったのだが、やはり0と1では違うということだろう。明らかに恩恵を受ける前と後では身体のキレが雲泥の差だ。
とはいえ良いことばかりでもない。俺の場合なまじアッカーマンの血の影響で素の身体能力が化け物じみてるせいか、
恩恵による強化の仕組みが加法か乗法かは知らないが、慣れるまでには今暫くの習熟が必要だろう。アッカーマン由来の戦闘センスを以てすれば慣れるのにそう時間はかからないと思うが、レベルが低い内は成長するのも早いというのは古今東西のレベル制RPGゲームのお約束だ。慣れたそばからすぐに再修正を要するのではまさにイタチごっこである。
まあ、
長々と語ったが、要するにアッカーマンが強すぎるということに尽きるわけだ。こと戦うという一点に関して、彼らの血はまさに “
というか
加えて俺は現在──捨て子だったから正確な年齢は分からないが──十代前半。まさに成長期真っ盛りの年頃だ。レベルと併せて伸び代はまだまだあると言っていいだろう。
今の時点でこれなら、果たしてLv.2になったらどうなってしまうのか。というかアッカーマンが強すぎて下手すりゃ巨人化能力要らないまであるぞこれ──
などと。そう思っていた時期が、俺にもありました。
例えるならそれは、周りを心配させまいと表面上は明るく振る舞っているが実は重病で既に余命幾ばくもない我が子に対し、その気遣いを無下にはするまいと今にも泣きそうな顔を押し込め無理矢理笑顔を浮かべている親のような表情である。
そして別室で『ステイタス』を更新し、その内容を写し取った羊皮紙を受け取ったことで、俺は神様の表情のわけを理解した。
【ジャック・イェーガー】
Lv.1
力 : I0
耐久 : I0
器用 : I0 → I1
敏捷 : I0 → I1
魔力 : I0
《魔法》
《スキル》
【
その身は進撃の巨人である。
またこれは外なる神の祝福を受けている証であり、
しょっっっぱ。
いやステイタスの上昇量がしょっぱ過ぎる。誰だよレベルが低い内は成長も早いとかホラ吹いたやつ。俺だよ。
いやおかしくねぇ? 浅層の雑魚とはいえ合計二十体近くモンスターを狩ってこれっぽっちしか伸びないとかクソゲーが過ぎる……と思って読み進めていけば、何やら最初の契約時にはなかった一文がスキル欄に追加されていた。
【
というか何だよ「
「うぅ、ごめんよジャック君……きっとボクみたいなポンコツ女神が恩恵を与えたからこんな変なスキルが発現しちゃったんだ……ベル君に味を占めて『困ってる(可愛い)男の子に救いの手を差し伸べるカッコイイ女神様』を演じようとしたせいでバチが当たったんだ……」
さめざめと涙を流し後悔を口にする神様。どうやら俺にショックを与えないために一旦スキルに関しては隠しておき、様子を見てから改めて教えるつもりだったらしい。
とりあえず今サラッと明かされた下心満載の経緯は聞かなかったことにしときますね。
俺は主神の
それはそれとして、誤解は解いておかなければ。
「あの、ヘスティア様。別に
「……え?」
「ほら、よく見て下さいよ。『外なる神の祝福を受けている証であり』って前書きがあるじゃないですか。多分これが原因ですよ」
多分も何もこれが十割原因なわけだが。
クソがよ。
「え、え……? うわ、ほんとだ! 何これ!? 外なる神? 進撃の巨人って何!?」
マジで気付いてなかったのか。
いや、それだけ
確かに普通の冒険者にとっては絶望だろう。しかし幸いと言うべきか俺には「進撃の巨人」の力がある。尋常なレベルアップが望めないと分かった今でも、他に力の宛があるという事実は俺を冷静にさせていた。……いや、縋っている、が正確だろうか。
数時間前の俺をぶん殴りたい気分だ。
何が「巨人化能力要らないまである」だ。むしろ巨人化前提でパワーバランス組まれてるまであるぞこれ。
おそらくアッカーマンの能力があったとしても、下駄を履けるのは1レベル分がせいぜい。レベルに依らない素の肉体的な成長を加味したとしても、現状のままではLv.3相当が限度だろう。
そして忘れてはならないのが、これはあくまで白兵戦能力に限定した場合の評価に過ぎないということだ。新しいスキルや魔法の習得がレベルアップ時にしか望めない以上、切れる手札の数で同格の冒険者に劣るということになる。実質的にはLv.2以上Lv.3未満といったところだろう。
そこそこのランクで、生活のために無難に稼業を続けるというのならそれでも十分だろう。
しかし俺の最終的な目標……【
全く、アッカーマンの継承の力さえあれば前世一般人だった俺でも冒険者として大成できると楽観していたのに、
こうなれば本腰を入れて考えていかなければならないだろう。巨人の力の使用と、そのリスクについて。
まず考慮しなければならないのは、
当たり前といえば当たり前なのだが、
しかしながら、実のところこれは時間が解決してくれる問題ではある。バベルまでの道すがらざっとアーデさんから教えて貰ったところ、ダンジョンは大まかに四つの構造に分けられるそうだ。即ち上層、中層、下層、そして深層である。
ダンジョンはピラミッド構造になっており、下に行くに従って空間が広がっていくことが既に判明している。そして下層より下は「新世界」と呼ばれるほどがらりと環境が変わり、本当に地下空間なのか疑問に思えるほど広大な空間が広がっているらしい。
無論、広いというのは面積だけに留まらない。飛行能力を持ったモンスターの増加と巨大化などに伴い、天井までの高さもかなりのものになっているのだとか。
つまり、下層まで到達できれば俺の巨人化は解禁されるということだ。なので天井問題は俺及びパーティの戦力がLv.3相当の水準に達すれば一応の解決を見る。よってこの問題は後回しにしても構わないだろう。
なので天井問題以外に現時点で考えられる懸念点は、巨人という存在そのものが周囲の人間にどう思われるか、ということだ。
これはジャックとして十年近く生きてきた人間として肌で感じていることなのだが、この世界の人類の
そしてそれは俺の目の前で羊皮紙と睨めっこしている女神にも言えることだ。
この世界ではどうかは知らないが、竈の女神ヘスティアが属するギリシャ神話の世界観では、巨人とは天空神ウラノスと地母神ガイアの間に生まれた*4種族であり、彼ら
巨人を神と同列に扱い、敵対しつつも時には交流もあった北欧神話とは異なり、ギリシャ神話において巨人は明確に神々の敵対者として描かれている。そしてよりにもよって今や俺の主神となったヘスティア神はギリシャ神群の一柱である。
ぶっちゃけ神話の巨人と有機生物の起源(笑)に由来する進撃世界の巨人は全くの別物なのだが、問題はそこではない。大切なのは神々がどう思うかだ。要は印象問題である。
この世界において絶対的な権威を有する神々の不興を買うようでは、神の加護の下に力を振るう冒険者などやってはいけないだろう。故にこの問題だけは絶対に先送りにすることはできない。たとえこのファミリアを放逐されることになろうとも、今ここでヘスティア神から巨人に対する見解を聞いておかなければならなかった。
「え、巨人について? 特にこれといって思うところはないかなぁ」
で、勇気を出して聞いてみたところ返ってきた答えがこれである。肩透かしもいいところだ。
「まあボクは天界でも
ろくすっぽ魂の管理もしないきかん坊だったしね! と笑うヘスティア様。何だよこの世界の神話ゆるふわか?
「勿論、天界にいる“
でも、と神様は眉を下げる。
「神と違って、
「まあ、そうでしょうね」
不意に出会すってレベルのサイズ感じゃないがね。
そういや巨人に変身できるってことは伝えたが、具体的に何
……まあ、いいか。
「それより、ボクはこの『外なる神』ってのが気になるんだけど……」
そら来た。
困るんだよなぁこういうの。神が支配する世界で、既存の世界観から逸脱した別の神の存在など完全に厄ネタだ。絶対に多神教と単一神教レベルで噛み合いが悪いに違いない。こんな情報は隠すに限る。
「うーん、巨人化能力については物心ついた時には既にあったので説明できるのですが……外なる神とやらについては何とも……」
「そうだよねぇ。地上の子供に神のことなんて分かるわけないよね……」
となるとジャック君の生まれに何か秘密が……でも知りようがないしなぁ……と再び思考の海に埋没する神様。
神に嘘は通用しない。さりとて
故に明言を避ける。俺は「何とも……」と口を濁しただけで「知らない」とは言っていないのだ。明確にNOと言えば嘘となってしまうが、YESともNOとも言わなければそれは嘘をついたことにはならない。
とはいえ、こんな子供騙しみたいな口遊びで騙せるのは純朴で人の好いこの神様ぐらいのものだろう。もっと謀略に長けた、それこそ神話で「狡知の神」とまで謳われるロキ神のような神には通用しない可能性の方が高い。
そして件のロキ神はオラリオ最大派閥の主神としてこの地に降臨している。要注意だろう。
「まあそういうわけなので、レベルが上がりにくくとも戦う術はあります。どうか冒険者として
「うーーーん…………」
凄まじく悩ましげに唸る神様。孤児と家庭の守護を司るヘスティアの神格として首を縦に振りにくいのは分かるが、ここは何とか頷いて貰わなければ困る。
夢のためにというか、喫緊の問題としては俺の生活のために。マジでアッカーマンの肉体の燃費半端ねぇから。勿論悪い意味で。
「…………わかった。試験に合格したら良いと言ったのはボクだ。約束は守る」
「では……!」
「た・だ・し!」
ビシッと神様の細い指が突き付けられる。有無を言わせぬ迫力で、彼女は俺にとある条件を告げた。
「冒険者ギルドにはベル君も世話になっているアドバイザーの子がいてね。彼女の深い知識は迷宮攻略の大きな助けになっているとベル君からも聞いている。
アドバイザー君──エイナ君の授業を受けて、
いいね? と念を押す神様に、俺は一も二もなく頷いた。
俺は知らなかった。クラネル団長の担当アドバイザー……エイナ・チュール氏の授業は、彼以外に耐えられる者がいなかった程のスパルタであると。
そして神様の「
神ならぬこの時の俺には、知る由もなかったのである。
ステイタスの上昇量が滅茶苦茶しょっぱいのは、苦戦らしい苦戦をしなかったというのも大きいです。いくら初陣とはいえ、あまりに楽勝すぎるようでは多くの経験値は貰えないということで一つ。
あとダンジョン内の天井問題ですが、下層以降なら大丈夫というのは半分独自設定です。半分というのは、原作小説内でそこまで明確に天井までの高さに対する言及がなかったためですね。アニメを見てる限りではかなり高そうだったのですが……
実はちゃんと設定があった場合は素直に申し訳ありません。当小説の独自設定ということでお願いします。
ついでに言うと、ダンまち世界の巨神族云々の下りは言うまでもなく妄想です。ご了承下さい。