ソードアート・オンライン 仮想という名の世界で   作:satsuki

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※今回はかなりギャグがかなり多めなので、今までの話とは趣が違うところがございます。
 ご注意下さいませ。


第四話 健全ギルド風林火山

 先行するのは9歳の少年。追撃するのは15歳の少女。

 その光景は本来微笑ましい筈なのに、少女の鬼気迫る表情のせいで修羅場にしか見えなかった。

 またはリアルトム&ジェリーとでも呼べば良いのだろうか。

 

「待ちなさい!どうして逃げるの!?せめて理由を言いなさ~い!」

 

 その手にメイス(片手棍)を持ち、空打ちとは言えソードスキルすら発動させて追ってくる鬼。

 それだけで通常の鬼ごっことは、一線を画したものだと理解出来た。

 

「そりゃ追われれば、逃げますよ!リズさんのバカー!!」

「ぬぁんですってぇぇぇぇ!!」

 

 ここはギルドMTDのホーム――の筈である。

 しかしいつの間にかホームはホームでも、“アットホーム”になってしまったらしい。

 ここ数日で恒例の行事となったこの光景を、ギルドメンバーは生暖かい視線で見ていた。

 

 

 

「……ここまで来れば、大丈夫かな?」

 

 リズベットの追撃を振り切ったツバサは、息継ぎと共にそう言った。

 元々仲の良い間柄だったが、それにしてもここ数日の彼女の行動は常軌を逸していた。

 原因は何となく自分の起こした言動だと察することが出来るだけに、少年は少女の行動を無碍には出来なかった。

 だからこそ余計に解決が遠ざかってしまい、逃げることしか出来ずにいるのである。

 

「うー、どうしたら良いんだろう?」

 

 善意から来る行動だということは分かっている。

 しかしリズベットの願いを叶えることは出来ない。

 自分にもプライドが有るのだ。引けぬ理由があるのだと、ツバサは心中で呟いた。

 

「おや?ツバサ君じゃないか」

「え?あぁ、マイケルさん」

 

 ツバサに声を掛けたのは、やや太ましく、ねじり鉢巻をした“マイケル”という青年だった。

 彼はMTDの人間ではなく、“風林火山”というギルドのメンバーである。

 しかしその体型が表すように美味しいものに目がない為、ちょくちょくMTDの食堂を利用しているのだ。

 

「やぁ、いつも美味しい食事をありがとう」

「いえいえ、どう致しまして」

 

 何気ない遣り取りであったが、ツバサはこれ好きだった。

 別段感謝されたくて食事を作っている訳ではないが、それでもお礼を言われるのは嬉しい。

 

「ところで、今日はどうしたんだい?何か悩み事があるみたいだけど……」

「……えっと、実は――」

 

 普通だったら言わないが、マイケルは懐が大きいのか良く悩み相談を受けているのを見たことがある。だからツバサは逡巡したものの、結局は彼に相談してしまったのだ。

 

「そっか、何か難しそうだね~」

「えぇ……」

 

 マイケル程の人間でも駄目か。ならば後は、恥を偲んでギルマスに言うしか無い。こんなことでシンカーの手を煩わせるのは申し訳ないが、ツバサにはもう他に手段がなかった。

 

「――良し、僕に良い考えがある。ここは任せてくれないかな?」

「えっ、本当ですか?」

 

 神は少年を見捨てなかったらしい。神の代行者として降臨したマイケルは、ツバサに救いの手を差し伸べてきた。

 もしもツバサが、“某変形ロボ軍団の司令官のセリフ”を知っていたのならば悪い予感がしたであろうが、生憎彼の世代ではそれを知るものは少ない。

 だから彼は、その差し出された手を取ってしまった。

 

「モチロン!あとはリズベットさんに会って、話が出来れば……」

 

 右手の親指をグッと立てて、マイケルは爽やかな笑顔と共にそう言った。

 そして同時に、彼はイベントトリガーを引いていたようである。

 良く噂をすると本当のことになるとか言うが、特にオンラインRPGではその傾向は顕著である。

 別名フラグとも言った。

 

「はぁ~い、ツバサ。ご機嫌はいかがかしら?」

 

 “リズベットが現れた。コマンド?”

 →たたかう

  まほう

  どうぐ

  にげる

 

 旧来のRPGならこんな感じで始まるであろう、リズベットVSマイケル戦。その火蓋が切って落とされようとしていた。

 

「えっと、リズベットさん?」

「マイケルさん、でしたっけ?何の用ですか?」

 

 形式上敬語であるが、その中身は明らかに敬っていない。

 それどころか、「はやくそこを退きなさい!」という命令すら篭っているように見受けられる。

 

「えっと、ツバサ君は君と一緒に風呂に入るのが嫌らしいんだ。しかし君は一緒に入りたいと……」

「――だったらどうなのよ?」

 

 両手を腰に当てて、放ってくるのは凄まじいプレッシャー。

 もしもこれが気迫をも再現するゲームであったならば、マイケルはとっくに昇天していただろう。

 しかし彼には秘策があった。それ故に彼は倒れる筈がなかったのである。

 

「ならば僕が――――僕が彼の代わりに、君と一緒に風呂に入ろうじゃないか!!」

「「……………………」」

 

 沈黙。

 あまりにショッキングな発言に、リズベットはおろかツバサの思考も凍りついた。

 

「「――――ハィィィィ!?」」

 

 そして時は動き出す。

 

「おお!了承を得られたようだし、早速一緒に行こうか!!」

「その“ハイ”じゃなーい!?」

 

 非常に活き活きとしたマイケルの言動。何ということでしょう、もとい“何ということをしてくれたのでしょう”。これまで割りとシリアス路線でやって来た雰囲気が、あっという間に台無しになってしまったではないでしょうか。そんなナレーションが聞こえてきそうであった。

 

「何故だい!?何処に拒む理由があるというのだ!!」

「むしろどうして拒まれないと思ったのよ!!」

 

 両手を大仰に掲げ、リズベットに問い掛けるマイケル。

 おかしい。目の前の男への評価が、音を立てて崩れていく。

 ツバサは眼前に迫った映像を、真っ白になった頭のせいで理解出来ずにいた。

 

「だって僕と彼には、共通点が多いじゃないか!」

「何処がよ!?身長・体重・年齢、違うところなんてキリがないでしょうに!!」

 

 心外だ、と言わんばかりのマイケルの発言。

 この太めで奇想天外な発言をする青年と、見るからに小柄で純朴そうな少年の何処が似ていると言うのか。

 コメカミを引くつかせながら、リズベットは突っ込みを入れた。

 

「人種、性別、性染色体、ホモサピエンスetc……。ホラ、共通点ばかりじゃないか?」

「アホか~~~~!!」

 

 それは似ているのではない。むしろ同じ日本人男性として、そこが違っていたら大問題である。

 

「うーん、そうか!僕1人なのが気に入らないんだね?」

「違~~う!!」

「ちょっと待っててね?すぐにギルメンを集めるから!!」

「そこじゃない!そこじゃないでしょうに!?」

 

 あらん限りの力を込めて、リズベットは巨漢に反論を叩き付ける。

 しかしそんなことは知ったことかと、マイケルは右手でステータスウィンドゥを操作し、ギルメンにメールを送っていた。

 

 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ――――!!

 

 迫り来る音。明らかに一つでない足音が、凄まじい勢いでこの場に迫ってきた。

 

「「「「お待たせ、マイケル!!」」」」

「はやい、はやすぎるわよ!?あんたたち、一体どこから来たのよ!?」

 

 メールを送ってから20秒もしない内に現れた面々。

 転移結晶を使っても、これだけはやくは来れないだろう。

 常軌を逸した登場に、少女は恐怖を感じていた。

 

「「「「いやぁ、実は我々もMTDの食堂に来ていてね?それで駆け付けたという訳さ!」」」」

 

 爽やかに言い切った風林火山ズであったが、その内心は別の回答で埋め尽くされていた。

 

「「「「(マイケルが可愛い女の子と話しているのが羨ましくて尾行していたなんて、言える訳がない!)」」」」

 

 最低である。ある意味連携バッチリと言えなくもないが、その行動理由はどう言い繕ってもアホの極みであった。

 

「あれ?そう言えば、風林火山のギルマスはどうしたの?今日は一緒じゃなかったの?」

 

 風林火山は6人組のギルドである。

 その少数精鋭とも言えるメンツを育て上げたのは、“クライン”という男であった。

 紅い髪を幅広のバンダナで固め、野武士のような面に無精髭。簡単に言ってしまえばそんな容姿であるが、面倒見が良いという側面から、ギルマスを務めている青年である。

 

「あー、ウチの大将なら――」

「さっき食堂で出会った女の子に告白して――」

「あっさりばっさり振られたから――」

「今は食堂でやけ酒中なハズだよ?」

 

 しかし――風林火山ズもアホなら、そのギルマスもアホであった。

 欲望に忠実な性格をしているのか、男性からの尊敬度は高いものの、女性からは逆の評価を頂く存在。お約束キャラとも言える、草食系がはびこる現代日本では稀有な存在であった。

 

「オイお前ら、聞こえてんぞ!?」

「「「「「あ、リーダーおかえり!これで30人目だっけ?」」」」」

「違ぇぇっ!!29人目だ!!」

 

 馬鹿騒ぎをしていたせいか、騒ぎを聞きつけたクラインが何時の間にかやって来た。

 そしてギルマスを追い詰める質問には、さり気なくマイケルも混じっており、風林火山がフルコンプされた瞬間でもある。

 

「俺のことは良いだろう!?それよか何だ、この騒ぎは?」

 

 自分の事は明後日の方向に置いておいて、取り敢えずの軌道修正を試みるクライン。

 忘れがちであるが、ここはMTDのホームなのだ。ここで部外者が騒ぎを起こした場合、最悪立入禁止が言い渡される危険がある。

 故に彼はギルマスとして、この騒ぎを裁定しようとしたのである。

 

「ねぇ、アホリーダー?」

「誰がアホリーダーだ!?」

 

 容赦のないリズベットの呼び掛け。

 確かに一連の流れを見る限り、クラインはアホであり、アホたちのリーダーでもあるので、この呼称は間違っていないだろう。

 しかしそれでも進んで呼ばれたい渾名ではないことだけは事実だ。

 

「んん?おいリズベットよぉ、そいつは何なんだ?ちっと紹介してくれないか?」

 

 クラインは普段MTD食堂へは、ナンパ目的で来ることが多い。

 つまり調理スタッフのことは二の次の為、ツバサのことを知らなかったようだ。

 

「リズベットさんの手を煩わせることはありません!我々が紹介致しましょう!」

「そうか?んじゃあ、頼むわ」

 

 クラインとしては誰が紹介してくれても変わらないので、マイケル――風林火山の仲間に任せる事にした。それが間違いだと考えもせずに。

 

「僕はマイケル!」

「同じくデニス」

「ジェイク」

「拙者はジムでござる!」

「俺はライアン」

 

 1人ずつポーズを付けて、風林火山の面々が自己紹介を始めた。

 ……違う。何かが違う。

 どうしてこうなった。

 

「誰がお前らの紹介をしろと言ったぁぁぁぁ!!」

 

 どうやら風林火山というのは、攻略組ではなくお笑いメンバーだったらしい。予想外のボケと突っ込みに、リズベットとツバサは呆気に取られるしかなかった。

 

「「「「「いやだなぁ~、ちょっとしたお茶目じゃないですか?」」」」」

「今度そんなことしてみろ?モンスターだらけのフィールドに、武具なしで放り込むからな?」

「「「「「ハ~イ!」」」」」

 

 軽い。軽すぎる。これが天下の攻略組なのか。

 少年少女はこんな奴らに命を預けているのかと思うと、頭痛がしてきた。

 

「……で?マイケル、最初から説明してくれ」

「えぇ、実は――――」

 

 今度は真面目に説明を始めるマイケル。

 そしてその説明が問題のポイントに到達した時、クラインのソードスキルがマイケルに炸裂した。

 

「オメーはアホか!?何処の世界に付き合ってもいないのに、一緒に風呂に入るのを了承する女がいる!?」

「え?だってリーダーはよく言ってるじゃないですか?“成せば成る。最初から諦めるんじゃない。1%でも可能性があるのなら、それに賭けるんだ!”って」

「それは攻略時の話だろうが!?」

 

 やはり風林火山は、お笑いをやった方が良いのだろう。

 どんな時でもボケと突っ込みを忘れないその姿勢は、ブレない姿勢という意味では見習うべきかもしれない。

 

「ったく。そんで――ツバサって言ったか?」

「あ、ハイ!」

 

 笑劇が突然打ち切られた為、ツバサの反応は一拍遅れてしまった。

 しかしそれも無理からぬことだろう。

 相談をしていたはずなのに、何時の間にかギャグ空間に放り込まれてしまったのだ。

 むしろ、現状復帰速度は速い方であると言えよう。

 

「いいか、良く聞けよ?」

「ハ、ハイ!」

「どうもお前は大人を頼らないらしいから、嬢ちゃんや他の皆はもっと頼って欲しいんだとよ」

 

 核心を突く一言。全てはその言葉に集約されていた。

 ただ、頼るのと甘えるのは違う。ツバサは大人を頼りにしていない訳ではない。

 仕事上頼るべきところは頼っているし、また逆もしかりであった。

 

「(ボクは頼っていない訳じゃない。だけど――――)」

 

 少年は早熟であった。

 早熟であり過ぎた。

 その為家族以外に甘えるのが下手になってしまい、家族以外の人間に対しては外面を取り繕ってしまう。

 

 また自分より年上とは言え、この世界には支えを必要としている人たちが数多く居た。

 そのこともあってか、少年はより甘えを見せないようになっていたのである。

 

「おっと、勘違いすんじゃねぇぞ?頼るっていうのには、“甘える”ってことも含まれてるんだよ」

「――――え?」

 

 ツバサの思考が止まる。今この青年は何と言った?

 頼る≒甘える

 この式が成り立つと言ったのか?聞き間違いではないのか?

 

「良いんだよ!ガキの内からそんなに遠慮ばっかしていると――――茅場晶彦みたいになっちまうぜ?」

「…………確かにそれはイヤかも」

 

 早熟過ぎた天才、茅場晶彦。

 彼はあまりに秀でた才能によって、これまでの世界の法則すらねじ曲げてしまった存在である。

 確かに茅場晶彦とツバサは重なるところがあるのだろう。

 必ずしもそうなるとは限らないが、そうなってしまう可能性を否定出来ない。

 

 茅場晶彦は恐らく独りである。

 独りだからこそ、このような計画を企ててしまったのかもしれない。

 もしも彼の周りに支え合える人間がいれば、このデスゲームは誕生しない可能性があった。

 

「だからよ?今の内だけしか出来ないことを――」

 

 少年でいられる時間はその時は長く感じるが、振り返るとあっという間である。

 それは同時に、大人にならなければならない時の到来をも意味する。

 大人はそれを分かっているからこそ、後の世代にその時間の大切さを教えるのだ。

 

「――今の内しか堪能出来ない混浴を、楽しんでこぉぉぉぉいっ!!」

「結局それかい!?」

 

 途中まではかなり格好良い大人だったのに、最後の最後で台無しである。

 クラインの紅い髪にはリズベットのメイスが突き刺さり、あたかも頭部からメイスが生えたかのようになっていた。

 

「そんじゃ、俺らは帰るから――あとは二人で話し合いな」

 

 風林火山の面々を引き連れて、MTDの食堂を後にするクライン。

 そこだけ切り取れば頼れる兄貴分と言えなくもないが、頭から生えているメイスとロープで拘束されて引きずられていく風林火山の面々が、シュール過ぎてホラー映画のようになっていた。

 

「リズさん、ごめんなさい。こんなに大事になるとは思わなくて……」

 

 風林火山が去り二人きりなると、ツバサはリズベットにそう切り出した。

 

「ホントよ~。それで?どうして逃げたりしたの?」

 

 お騒がせギルドがいなくなったせいか、リズベットも肩の力が抜けたようであった。

 そのせいか当初よりも険が取れたようで、疲労感を優しさが入り混じったような声色だった。

 

「だって……今回のことって、ボクがリズさんに言ったことが原因なんですよね?」

「ん、まぁね」

 

 否定してもしょうがないので、リズは仕方無しに肯定する。

 可能であればそれも言わずに出来れば良かったのだが、生憎理想通りに行かないのが人生である。

 

「実はあの時、ボクはリズさんに姉の姿を重ねてしまったんです」

「…………うん。分かってた」

 

 ツバサは大人びた少年だが、嘘や腹芸は得意ではなかった。

 だからリズベットでも彼の胸中は読めたし、だからこそ力になってあげたかったのである。

 

「あ、あの……ごめんなさい!リズさんはお姉ちゃんじゃないのに、勝手にそんなこと思っちゃって!」

「別に気にしないわよ。誰だって子どもの頃はそんなもんよ」

 

 確かに幼少期は脱しているものの、リズベットもまだまだ子どもである。

 しかし年少のものを放っておけるような性格でもない。

 とどのつまり、やはり困った人を放っておけない、世話焼き体質なのであった。

 

「あんたさー、もしかしてかなりのお姉ちゃん子だったんじゃないの?」

「あ、あの、その…………もしかしてボク、分かりやすいですか?」

「……今まではあんまり分からなかったけど、この前の件からは分かりやすかったわね」

 

 SAO正式サービス開始から、約五ヶ月。

 今までは張り詰めていた緊張の糸が、ここに来て切れてしまったのかもしれない。

 元々甘えん坊であったのならば、その反動で通常以上に姉という存在を求めても、不思議ではないだろう。

 

「うぅ……」

「(弱ってて“これ”なのか、元々こんな感じだったのか。どっちにしろ――――)」

 

 これは非常に危ない。リズベットは自分の内側から来る感情を処理しながらも、そう考えた。

 上目遣いで、若干涙を溜めたショタボーイ。

 その気がなくても、これは大事なものを持って行かれそうになるだろう。

 

「(たぶん、前にふざけて“お姉ちゃんって呼んで!”って話が出た時は、まだ自制が効いてたんでしょうね。だからシリカのこともスルーだったし――)」

 

 リズベットの考察は半分正解で半分間違いであった。

 シリカはやはりツバサの姉像からかけ離れ過ぎている為、どうあっても“シリカお姉ちゃん”と呼ぶことがなかったのである。合掌。

 

「(……うん。結局結論は変わらない、ってことよね?)」

 

 考察を切り上げ、リズベットは数日前に決心したことをツバサに告げようと思った。

 そのままなし崩れ的に突入しても良いと思っていたが、それでは少年が遠慮してしまうと分かったからである。

 

「……あの、リズさん?」

 

 いつまでも反応がないリズベットに、ツバサは恐る恐る声を掛ける。

 そんなツバサを見たリズベットは、膝を折ってツバサを正面から見据えると、有無を言わさぬ迫力で直球を投げ込んだ。

 

「…………リズお姉ちゃん」

「え?リ、リズさん?」

「リズお姉ちゃん!」

 

 強力な押切であった。または力技とでも言うべきか。

 とにかく押して押して押しまくる戦法で、リズベットはツバサを圧倒した。

 この器用な癖に生き方が不器用な少年には、一直線で真っ直ぐに伝えなければ届かないのだから。

 

「…………リズ、お姉ちゃん」

「良しっ!!」

 

 完全に最後まで押し切った結果、リズベットは最後の扉を開けることに成功した。

 蚊の鳴くような声ではあったが、ツバサから望んだ答えを引き出せたことに、彼女は満足する。

 

「それじゃ遅くなったけど、お風呂行くわよ?」

「……うん」

 

 この年頃の少年が混浴で気にするのは、恥ずかしさである。それも女子風呂にお邪魔するのだ。

 恥ずかしさと疎外感が同居しているに違いない。

 そんなツバサの内心を読んだのか、リズベットが用意された一着を披露した。

 

「心配しないでも良いわよ?小さい風呂貸し切りにしといたから、他の女の人のことは気にしないで入れるわ」

「その、えっと……。あ、ありがとう、リズお姉ちゃん」

「おう!」

 

 小さな小さな手を引いて歩いていくリズベット。

 そこには打算や駆け引きはなく、ただそうしたいから行っているが故の行動であった。

 手を引かれているツバサも、照れがあるもののギュッと手を握り返す。

 微笑ましい光景だった。ここがデスゲームの中だということを忘れてしまいそうになる位には。

 

 しかし忘れることは出来ない。

 視線を少しでも外にやれば、嫌でもこの空間が現実(リアル)のものではないことが分かってしまうから。

 だから現実と向き合う。今目の前に有る、“仮想という名の現実”と向き合う為に、リズベットは視線を前に向け、歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

「…………うぅっ、リズベットさんだけズルいよぉぉ」

 

 MTDの座敷童と化している、シリカという名の仮想から目を背ける為に。

 

 

 

 

 




※風林火山のメンバーの名前が分からなかった為、某健全アニメから流用致しました。
 そのせいで、かなりギャグテイストに……。

 satukiはDEBANさんも好きです。しかし話の構成上、どうしてもMOREさんが優勢に……。
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