ソードアート・オンライン 仮想という名の世界で   作:satsuki

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第五話 いらっしゃいませ、喫茶MTDへようこそ!

 煉瓦造りの壁面に、屋号の書かれた白い看板が少女の手によって掲げられた。

 《喫茶MTD》――それこそが看板に記された名前であり、同時に本日オープンするこの店の名前でもある。

 出窓の外から中を見渡せば、木製(正確にはそれを模したオブジェクトであろうが)と思われる長机と、同様の素材を使用したものにクッションを貼り付けた長椅子が客席スペースに存在していた。ピカピカに磨いたであろうそれらに、更にワックスと思わせる素材でコーティングした床を加えたその空間は、何処に出しても恥ずかしくない出来だった。

 

「うんうん。開店一時間前からこの長蛇の列、今日は最高の開店になりそうね!」

 

 自身が店長として開くこの店と、それに並ぶ客の様子を確認し終えたリズベットは、満面の笑みでそう呟いた。

 今の彼女の格好は、ウェイトレスの服装――ではなく、白いブラウスに赤いリボンタイと紺色のロングスカートである。他のスタッフがきちんとウェイトレスの格好をしているのに、彼女一人だけは明らかにそれと差別化された制服を纏っていた。

 ホールに出て商品提供をする際には黒いエプロンが追加されるとは言え、明らかにホールメインではない姿である。

 店舗によって異なるとは言え、店長の仕事は基本統括であり、前線で活躍することではない。勿論ピーク時や人員が少ない時は表に出てくることもある。また、店長自らホールの仕事を行うことで見本となり緊張感を出す、という場合もあるだろう。

 

 しかしこの喫茶店では、それは不要であった。

 何せホール・厨房の殆どのスタッフが、現実世界では飲食業を経験・現在も従事しているという、非常に心強いメンバーであったのだから。

 だからリズベットに与えられた役割は、どちらかと言うと緊急時(この場合の緊急時はほぼ食材調達を意味している)対応であって、それ以外では一経営者でしかないのだ。

 

 彼女からすれば将来開店する予定の武具店とは畑違いとは言え、店舗のオープニングや経営方法。更には必要になるか不明だが、人材雇用のスキルまで学ぶことが出来る為、この開店時店長という役割は有り難い役職だった。

 

「店長、本日の日替わりランチの味見をお願いしても良いですか?」

「はいはい。すぐに厨房に行きますから、先に戻っていて下さい」

 

 店舗の外にいたリズベットを呼びに来る渋い声が一つ。

 このSAOには珍しい褐色肌を持つプレーヤーであり、その巨体とスキンヘッドも相まって、絶対に飲食店で働くような人物には見えなかった。

 しかし彼は現実に戻れば一飲食店のオーナーであり、店を訪れた人々に酒や食事を提供しているのである。それは慣れた手付きで給仕(サーヴ)するその様を見れば、誰でも一発で経験者であるということが見て取れる位であった。

 だからなのだろう。彼はMTD所属の人間では無いにも関わらず、この店で働くことを認められたのは。

 

「しっかし、攻略組なのにここで資金集めかー。あたしと同じで高い買い物の予定でもあるのかね?」

 

 先に厨房に戻った青年のことを考え、リズベットはそう独り言ちる。

 本来攻略組というのは、上層に上がることを主眼に考える為、それ以外のことは極力避ける傾向にある。

 攻略上必要なクエストの達成条件であれば、多少回り道でもレベルやスキル以外のことに目を向ける。しかしそうでない場合、コル(金銭)稼ぎならば経験値稼ぎを兼ねてモンスターを狩った方が手っ取り早いのだ。

 

 にも関わらずそうしないということは、別の目的があるということに他ならない。

 リズベットあれば、武具店の開店資金を稼ぐことが第一命題であり、青年にも何らかの目的があって然るべきだと推察された。

 

「ま、目的なんて人それぞれだしね~?」

 

 SAO内での生活を余儀なくされたプレーヤーたちは、その全てが攻略に身を準じている訳ではない。精神的・肉体的な理由から攻略から外れ、異なった路を生きている人々が、確かに存在しているのだ。かくいうリズベットもその一人であり、ツバサも同様である。

 この世界には完全に攻略行為をせず、趣味に没頭している人間も居る位なのだ。

 それを思えば、リズベットや青年の行っていることは、誤差の範囲内に過ぎない。

 

「お、やっと来たか。リズベット、はやく味を見てくれ」

 

 白いワイシャツに黒いスラックス、ソレにリズベットと同様の黒いエプロンを付けた先程の青年は、先の様子とは打って変わって敬語を抜いてリズベットに催促した。

 プレーヤーネーム《エギル》。

 アフリカ系アメリカ人らしい長いリーチに、片手斧を主眼とした武具で固めた屈強の戦士。その活躍は第一層からフロアボス攻略戦に参加しているだけあって、ネームバリューもそれなりなにある。

 

「……エギル。その《お客様から見えない位置では店長と思わぬ態度》さえしなければ、尊敬してあげるのにね~?」

「尊敬なんぞ、して欲しくてどうにかなるもんじゃないぞ?それよりも冷める前に食べてくれ」

「了~解」

 

 右掌をヒラヒラと振り、リズベットは厨房にある試食等に使用する大机前に移動し、椅子に腰掛ける。

 そして右手に持ったフォークを使用し、器用にパスタを巻き付けての味を見ていった。

 

 赤いトマトと緑のバジルのコントラストが美しいパスタと、ベビーリーフとルッコラ・チーズを合わせ、イタリアンドレッシングを掛けたセットサラダ。これにセットドリンクを加えたものが、本日の日替わりランチとなる。

 正確にはどれにも《もどき》という名前が添付されるのだが、味はほぼ再現出来たと言って良いだろう。軽食担当の青年はそう自己評価していた。

 

「うん、パスタが少し柔らかくなってるわね?アルデンテの方が良いんじゃない?」

「ふむ、他には?」

 

 先を促された少女は、ソースを絡めたパスタをもう一口、しっかりと味わいながら咀嚼する。

 

「ちょっとバジルが目立ってるから、少し減らすのはどう?」

「成る程。やっぱり現役女子様の意見は参考になるな。ウチはバーが主体だから、味付けがこの店の客層とは違ってな……」

 

 エギルはそう言うと、レシピに若干の見直しを加えた。

 この店は喫茶店であり、洋菓子店である。

 そうなれば当然客層は女性陣に傾く為、エギルは女子であるリズベットに味見をしてもらい、味付けの修正を図っていたのだ。

 

「(それに、MTDの食堂長の料理を毎日食ってるんだ。舌が肥えているから味見役にはピッタリだしな)」

 

 先日の《MTD義姉弟の契り》とでも言うべきイベント以前より、リズベットはツバサの調理する食事を摂っていた。何もこれはリズベットに限らない話ではある。

 そしてさらにこの数日は、三食デザートの全てがツバサ謹製のものに差し替わっている為、幸せだが現実に戻った時に現実の料理に満足出来るか不安が増しているのであった。

 

「それじゃあ、これで今日の軽食はOKだな。ところで、他の部門はどうなんだ?」

 

 味付けを確認後、エギルは思い出したかのようにリズベットに尋ねた。

 その問い掛けに対して少女は、やや微妙な顔付きになりながら口を開く。

 

「あー、うん。大丈夫、大丈夫なんだけど――」

「……?何か問題でも生じたのか?」

 

 煮え切らない様子のリズベットに、エギルは一末の不安を覚えた。

 

「違うって言ったでしょう!!そこは肘と掌に一枚ずつ皿を載せるんですよ!!」

「ふぇ~~~~ん!?間に合わないよぉぉぉぉ!?」

 

 ホールにまで聞こえそうな、大音量の怒声。

 変声期前の男子と一部の女子しか出せない高音域の声の後に響いてきたのは、これまたソプラノの悲鳴だった。

 

「……アレか」

「そう、アレなのよ……」

 

 《アレ》とは、この二日間で終始行われている《ちみっこウェイトレス育成計画》のことである。リズベットが店長に就任した事により、少女店長シリカゲルの誕生はなくなったものの、次点として《ちみっこウェイトレス・シリカール》を育成する計画が発動されたのだ。

 

 プレーヤーネーム《シリカ》。

 ツバサとリズベットの会話に良く挙がるこの少女もまた、いずれはMTDを出て行く決意を固めていた。

 攻略組としては難しいかもしれないが、その一歩後ろを行く存在となってこの世界を楽しむ。それが彼女の現在の目標である。

 

 だからその為の経験値や資金の確保の為にも、ここでの仕事程目標に一直線――最短コースの場所はなかった。

 

「ツバサ君、これなら大丈夫だよね?」

「ダメに決まってるでしょう!?もう一回やり直し!!」

「そんな~~!?」

 

 仕事の鬼となっているツバサに、明らかに及第点に届かない動きを見せるツインテールの少女。虎口に態々入ろうとするその様は、自分の行動が何を引き起こすか理解出来ていないようだった。

 故に鬼教官となっている少年は、少女が要求水準を満たすまで特訓をするのを止めない。

 ――というよりも、このままじゃ給仕を任せられなかった。

 

「……しょうがない。ウェイトレスSさんは、今日はテーブルのセットとお客様の案内のみ行って下さい。それ以外は、明日以降の練習の成果を見てからですね」

「あのー、ウェイトレスSってあたしのこと?」

 

 シリカの仕上がり具合を見て、ツバサは今の時点で彼女に出来ることを割り振った。

 それ以上はまだ任せられない。これより高度なことは、徐々に教育していくしかない。

 そう結論付けると、ツバサはツインテールウェイトレス(見習い)の発言に返答した。

 

「ん?そうですよ、シリカーマインさんのことで合ってますよ?」

「あたしはシリカ!どうして何時も、間違った名前で呼ぶの!?」

 

 もはやこれは恒例行事であった。

 ツバサがシリカを間違った名前で呼び、シリカがそれを怒りながら訂正する。

 この流れ自身が既に形式化されたものではないかと言える位、何度も行われている遣り取りであった。

 

「貴女がボクに強要する《アレ》さえしないようになれば、何時でも正しい名前で呼ぶんですけどね……」

 

 《アレ》とは、シリカがツバサに会ってから必ず言ってくる一言のことである。

 少年にとってシリカは姉足り得ない。だからそう呼ぶことはない。

 しかしシリカは呼んで欲しい。そう呼んで欲しい。

 だからこの話し合いは平行線であり、決して交わることがないものだった。

 

「だって、リズさんはOKになったんだから、あたしだって――!」

「……どうしてそういう結論になるんだか……」

 

 こればかりは仕方がない。

 人間の感情というのはデジタル化されたものではない。その為リズベットが良ければシリカも良い、ということにならないのだ。

 例えるならリズベットはツバサの飼い馴らし(テイミング)に成功したが、シリカにはその権利が与えられなかった。ただそれだけの話なのである。

 

「ともかく、可及的速やかにウェイトレスの仕事を覚えて下さいよ?ボクはあくまでオープニングスタッフであって、店の状況が安定したらMTDの食堂に戻らないといけないんですから」

 

 そう。ツバサがここに居るのは、新規店舗の新人教育の為であった。

 リズベットの店舗運営は彼の担当ではないが、エギルや洋菓子部門担当の教育や、シリカのような新人教育を行っているのである。

 もっとも、エギルは殆ど教育の必要がなかった為、その教育の大部分がウェイトレス育成に充てられたのであるが。

 

「店長。そろそろ時間ですので、朝礼を始めましょうか?」

 

 何時の間にかシリカの教育を見に来ていたリズベットに対し、ツバサはそう提言した。

 公私の別をきちんと付ける性格故か、彼はこの場では《リズお姉ちゃん》とは呼ばない。

 徹底した自己管理の結果とも言えるが、仮にこの場でそう呼んでしまったのなら、きっと煩くなる人物が居ることもその理由の一端かもしれなかった。

 

「あ、うん。皆集まって~!朝礼を始めまーす!」

 

 ツバサの一言で我に帰ったリズベットが、壁に掛けられた時計を見て皆招集し始めた。

 今日は記念すべき開店日なのだ。その為万難を排して挑む必要がある。

 それを理解しているからこそ、リズベットは時間に余裕をもってミーティングを行う予定であった。

 その予定をウィトレス教育の見物のせいで忘れそうになっていたとは、誰にも言えるはずもなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼▽▼

 

「ありがとうございました!またのご利用をお待ちしております!」

 

 これで何人目のお見送りになるだろうか。

 数えるのも馬鹿らしくなる程の客の相手をしてきたせいか、シリカの思考はショート寸前だった。

 開店一時間前に並んでいた人数から予想出来ていたとはいえ、常時満員御礼な状態に加え、テイクアウトのオーダーも後を尽きない為、給仕はしないシリカでもてんてこ舞いになる程の混雑ぶりである。

 閉店時間まではあと五時間もあるのに、このままでは仕込んでいた分の材料が尽きる方がはやいだろう。そうなれば当然、早じまいという申し訳ない事態になる為、現段階から材料の手配をする必要があった。

 

「不味いわね……」

「……あぁ、不味いな」

 

 この予想外の繁盛ぶりは、エギルにもリズベットにも理解出来ていた。

 それと同時に、この後に来る愉快ではない出来事についても、予測出来てしまっているである。

 

「このままじゃ、閉店まで材料が保たないわね」

「そうだな。向こう数日間の足りない分はMTDのホームから廻して貰うとしても、それ以降は対策を練る必要があるな……」

 

 洋菓子部門も想定以上に売れていたが、それよりも予想外だったのは軽食部門の売上だった。

 当初軽食はランチタイムがメインで、それ以外の時間はボチボチオーダーが来れば良いか、と考えられていた。

 しかし蓋を開けてみると軽食はランチ以外でも大活躍であった。これには開店初日故にブーストがあったこともさることながら、MTD食堂以外での現実世界の食事を食べられる場所ということで、お茶メインで来店した客の半数以上が軽食を注文していったからである。

 

「どうするんだ?」

「今の内に素材調達をするしかない、かな……?」

「……やはりそれしかないか」

 

 半ば出ていた結論とは言え、それを口に出すのは割りと勇気の要ることだった。

 それを自らの口から発するということは、同時に狩りのメンバーに立候補することになりかねない。

 無論役割上外せない人間も居るのだが、フルキャストで廻している現在では誰もが欠かせない存在であるので、ある意味誰もがハンターになり得えたのである。

 

「しかしオレはここを外せないぞ?リズベットだって同じだろう?」

「そう、なのよねぇ~。そうなると……」

 

 自然と二人の目線が、ある人物のところで止まる。

 既にオーバーフロー気味になっている、停止寸前のマリオネット。

 もとい、疲労が溜まり過ぎて四肢が垂れ下がり気味の少女の姿がそこには在った。

 

「……まぁ、そろそろ限界っぽいから、ある意味問題ないかもしれないけどね」

「そうだな。しかしシリカ一人では無理だろう?最低でもあと一人は――」

 

 一人戦力を減らすのでもキツいのに、もう一人というのは自殺行為である。

 だが現実は非情である。一つの判断が遅れれば後に重大な事態に繋がることもある。

 故にリズベットは決断した。《最終兵器》を使用しようと。

 

「あとが怖いわね」

「仕方がない。それはアイツも分かってるだろうしな」

 

 混乱した戦局に打たれる一手。

 それは特効薬であり、劇薬であり、そして猛毒でもあった。

 しかし今はそれに頼らざるを得ない。手段を選んでいる余裕なんて無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼▽▼

 

「いやぁぁぁぁ!!」

 

 戦場に響き渡る大音響。

 本来可憐と言えるその音色から紡ぎ出されたのは、とても可憐とは程遠い悲鳴だった。

 

「逃げるな!生きることを諦めるな!!」

「諦めてないから、逃げるんだよぉぉぉぉ!!」

 

 逃げる少女に、叱責しながら追う少年。

 戦場に場違いな遣り取りが木霊し、敵となっている《ファットトマト》二体がそれを追撃する。

 渦中の人物からすれば必死なのだろうが、第三者の視線から見れば喜劇の一幕にしか見えなかった。

 ちなみにファットトマトとはその名の如く、ツバサとほぼ同サイズの巨大トマトである。

 パスタの材料確保も兼ねて只今絶賛乱獲中、という訳であった。

 

「あぁ!もうこうなったら、やるしか……ない!」

 

 このままでは埒が明かない。

 そう判断したツバサは、シリカの背中に標準を合わせていた視線を反転させ、デカトマト軍団に向き直った。

 

「まずはコレ!」

 

 サポート系スキルで足止めを行い、範囲系ソードスキルの発動準備をする。

 タイムラグは計算済み。

 トマト衆はまだ動けない。やるならこの瞬間以外に有り得ない。 

 

 ――フォン!

 

「せぇぇぇぇい!!」

 

 裂帛の気合と共に、ソードスキルの発動が確認された。

 同時に光輝くエフェクトと、開帳された連続剣技が赤いモンスターたちに飲み込まれていく。

 

 ――パリィィン!

 

 刹那の後に、その体躯の過半数を赤いポリゴンで形成されていた物体たちは、その姿を青いポリゴン片に変えて――そして霧散した。

 

「あぁ!た、助かったぁぁ!!」

 

 何時の間にか安全圏まで逃亡していた少女は、倒されたモンスターたちを見て安堵した。

 敵前逃亡した時はレベル不足かと考えられたが、単純に敏捷性よりのセッティングを行っていたらしい。そうでなければ、一瞬にして安全圏までの逃亡は不可能であろう。

 

「(そこだけは評価変えないと、ね……)」

 

 心中でシリカへの評価を改めたツバサ。

 しかし今はそれを褒めるべき場面でもなければ、お互いの無事を喜び合う場面でもなかった。

 

「ありがとう、ツバサく~ん!」

 

 ツバサは少女(ちなみ服は戦闘用の装備に変更されている)が少年の側に寄って来たのを確認すると、そのツインテールの元である髪の生え際――つまり脳天にチョップをかました。

 

「ひぎゃ!?な、何するのー!?」

「……今の戦闘、他に何か言うことは?」

 

 激おこである。

 少年の素敵な笑顔を彩っているのは、額から鼻下辺りまで覆われている黒い影。

 細められた瞼の奥にあるのは決して笑っていない瞳。完全無欠に怒り心頭であった。

 

「え、えっと――――逃げてごめんなさい……」

「……反省してます?」

「うん……」

 

 質量を持った重圧、とでも言うべきものを喰らったシリカは、流石に誤魔化し切れないと悟ったのだろう。

 正直に謝罪し、少年裁判長の沙汰を待った。

 

「お願いですから、次は逃げないで下さいよ?ボクだって、いつまでもこの喫茶店に関われないんですから……」

 

 ツバサがこの素材狩りに出陣させられたのは、リズベット・エギルからの要請があったからである。

 店長様は他の面子が動けないならと、オブザーバーとして参加しているツバサを担ぎ出したのであった。

 慧眼である。本来の社会でそれをやったのならば顰蹙(ひんしゅく)ものであるが、ことこの世界で、さらに言えば店長として判断を義姉としてお願いしたのだから、ツバサとしては断れる筈がなかった。

 

 汚い。店長様汚い。

 どうかその手腕をこれ以上成長させずに、男を手球に取る手法を磨かないで成長して頂きたいものである。

 

「うぅ、がんばります……」

「ボクはなるべく手を出さないようにしますので、自分一人で狩って下さいね?」

「……はい」

 

 多体一とは言え、全滅させる方法は幾らでもある。

 取り分けシリカはレベル的にもこの階層――第九層の安全マージンは充分に超過している為、それ位は出来ないと困るのである。

 しかし彼女は今までマスコット的存在として周囲に可愛がられていた為、レベリングはパーティーメンバー任せで、自分は後方待機ということが多かった。

 その為レベルと逃げ足だけが上昇している状態であったのである。

 それに気付いたツバサは、シリカを一人で狩りが出来るように仕込んでいる、というのが現状であった。

 

「(そうは言ってもなぁ……怖いものは怖いし……)」

 

 シリカがまず克服しなければならないのは、《恐怖心》であった。

 これまで弱い敵ともまともに戦っていなかった故に、その克服が未だ行われていなかったのである。

 故に遠回りになってしまったが、今――この瞬間にそれを達成してしまおう、というのがツバサの提案であった。

 

「(…………急いでもロクなことにはならないとは言え、このままじゃなぁ……)」

 

 急いては事を仕損じる。

 その言葉が指すように、古今東西事を急いでロクなことになった試しはない。

 しかし時間がないことも確かであり、そのせめぎ合いは現実でもこの仮想現実でも変わることはなかった。

 

「(さて、どうしたら良いものか……)」

 

 明確な指針が浮かばないまま、本日の狩りノルマはそろそろ達成出来るところにまで至った。

 仕方なしに、ノルマを達成したら今日は引き上げかとツバサが考えた時、フィールドに新たなトマトが出現した。

 

「シリカゲロウさん、リポップ!二体です!!」

「あ、うん!!」

 

 今度こそ。

 少女は胸中でその言葉を秘め、自らの得物である短剣を右手に持って構える。

 中腰気味になって相手の隙を伺いつつ、頭の中で戦術を組み立て始める。

 

「(速さで振り回して、一体ずつ確実に倒していけば!)」

 

 この場で最も確率の高そうな策を練り上げたシリカは、当初の案通りにまずはトマト軍団を引っ張っていった。

 

「(怖くない、怖くない!)」

 

 心の臓から口を伝って出てしまいそうになる恐怖の感情を制御しながら、少女は二体のモンスターを引き連れていく。

 時折反転して一太刀一太刀と浴びせて行き、ソードスキル発動前にはサポートスキルで足止め、そして剣技で止めを刺していった。

 

「よし、一体目!」

 

 ポリゴンへと還元された赤いモンスターを見て、シリカは歓喜の声を挙げる。

 そこで油断をするのは先程までの彼女であった。

 今はバックステップで二体目から距離を取り、ソードスキル発動のタイミングを測っている。その姿に油断は感じられなかった。

 

「(……これなら大丈夫、かな?)」

 

 どうにか恐怖を克服しつつある少女の様子を見て、ツバサはそう評した。

 だが油断は無くとも一度(ひとたび)イレギュラーが起これば、今ある状況など消し飛んでしまう可能性がある。

 それこそが全ての世界に於いて言える共通認識であり、同時にこの世界でも十分に当て嵌まるべき事象であった。

 

 ダン、ダン、ダン、ダン、ダン――!!

 

 迫り来るのは強大な音。

 一定の法則に従って訪れる――接近してくる音は、明らかにプレーヤー一人分を超えた回数であった。

 ここは小高い場所に位置するが、そこに至るまでには鬱蒼とした森を抜けてくる必要がある。

 当然、今は見えない森の部分から何かが接近してきているのは、疑いようのない事実であった。

 

「うぁぁぁぁ――――!!」

 

 先に森を抜けたのは一人の男性プレーヤー。比較的軽装であることから鑑みるに、パーティーからはぐれたか逃げている内に散り散りになった可能性が高い。

 

 ヴォォォォォォォォ!!

 

 そしてそれを追随する狩り人(ハンター)として現れたのは、明らかに三メートルはあろう巨大な生物だった。

 端的に言ってしまえばトマトのなる樹、そこに足が付いたものを想像して貰えれば理解が早いだろう。

 但し、ファットトマトから想像すれば分かるであろうが、そんな巨大トマトが身を付ける樹が見かけだけの巨大生物である筈がなかった。

 

 《ツリーオブトマト》

 

 その英語を習いたての中学生が名付けたかのような名前の樹は、そのチープな名称を覆して余りある程の化け物であった。

 その巨躯から想像が出来ない程の俊敏性。

 幹を鞭のように(しな)らせて狩りの獲物の退路を塞いでいき、その幹の根本になっている果実――ファットトマトを爆弾のように落として包囲網を完成させる、悪辣極まりない怪物。

 そのパーティーレイド必須なモンスターは、周囲を蹂躙しながら、確かに此方に向かって進行していた。

 

「(不味い!)シリカールさんはそのまま戦ってて下さい!ボクは彼の援護に行きます!!」

「え!?ちょっと、ツバサ君!危ないって!!」

 

 駆け出したツバサは、後方から聴こえてきたシリカの声を無視して下に降りていった。

 余裕があれば先に少女が対峙しているモンスターを二人で狩ってから救援に入るのがセオリーである。

 しかし今は一刻の余裕もなかった。

 シリカは多少余裕を失ってもあと一体位は屠れるであろう。

 だがツリーオブトマトを引き連れてきた男性のHPバーを凝視すると、彼の命はあと二・三撃の内に途絶えてしまうことが理解出来てしまった。

 だからツバサは駆け出す。

 これが生死を掛けた戦場(デスゲーム)であるが故に。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 ツリーと男性プレーヤーの間に入り、モンスターを前方、プレーヤーを背後に位置取ったツバサ。

 

「あ、あぁ……!何とかな……」

 

 男性は――青年は突如現れた少年に驚きつつも、すぐに思考を切り替えて救援者に対して返事をした。そして回復アイテムを発動させるべく、ステータスウィンドゥを開く。

 

「取り敢えず先に回復して下さい。その間はボクが引き付けて置きますから」

「わ、分かった……!」

「その後に、ボクが正面・貴方が背後に廻りこんで、挟撃しますよ!」

「オウ!」

 

 多少狼狽したものの、ツバサの指示に従って動き出す青年。

 通常ならば「子どもが……!」等と思ってしまう場面かもしれないが、今は緊急時であり、そしてこの世界にはその理屈は当て嵌まらない。

 出された指示も確かなものであったことも手伝って、青年に反論の余地はなかった。

 

 ――ウォォォォォォォォ!!

 

「フッ――!」

 

 パリング。

 サポート系スキルの一つであり、相手の攻撃の直前に展開することで反射とでも言うべき現象を引き起こす代物。

 上手くタイミングを合わせられないと不発となってしまうが、成功すればソードスキル発動に必要なポイントを一気に回復出来る為、拍子を掴んだものとしては一石二鳥の、重宝する技能であった。

 ツバサはそれを使用し、眼前に迫った幹を通じて本体を無効化させたのである。

 

「今の内に――!」

 

 ステップを使用して敵の背後に廻り込むと、少年はソードスキル発動の為の準備に入る。

 

「(これで四割、削れるかな……?)」

 

 ツバサの手を離れたスキルが、モンスターに向かって吸い込まれていく。

 着弾の瞬間は確認した。

 確かな手応えを感じた少年はだったが、敵対生物のHPを見て落胆を隠せない。

 

「(――――三割か。相手にヒーリング機能はなし、ならこのまま押し切れるか……)」

 

 ソードスキルは振るう対象との相性が存在し、その法則に則って確かな一手を打てれば、一気に大ダメージを与えることが出来る。

 しかし今のツバサの持ち札に、ツリーと相性が良い剣技は無かった。

 短剣スキルLv.2の《クロスエッジ》ならば効果抜群なのであるが、生憎現在のツバサの主武装(メインアーム)は曲刀である。

 シリカならばこの局面を一気に好転させられるであろうが、彼女は未だ単体トマトと戦闘中である。

 最後の望みは先程救助した青年だが、彼の武装を見る限り片手用直剣。つまり決定打は存在しなかった。

 

「だったら、時間を掛けてやるしかない!!」

 

 思考を打ち切り、再び先程と同じようにラッシュを繰り返す。

 出来た隙にパリング、そしてソードスキルを叩き込む。

 今ある最善手はこれだと戦略を固めたツバサは、側方に跳んで触手のように攻撃してくる幹をかわし、回避が終了したと同時に剣閃が振るわれた。

 

「あぁ、クソ!HPの回復が遅い!」

 

 少年は声のした方向を向くと、そこには未だ回復し切っていない青年の姿があった。

 どうやら思ったよりもHPの戻りが遅いようで、それに対して悪態ついていたらしい。

 誰かの援護は期待出来ない。そう気を引き締め直した矢先に、バトルフィールドに救いの女神が降臨した。

 

「ツバサ君、こっちは終わったよ!」

「ナイスタイミング!」

 

 背後から聞こえた声。

 それは紛れも無く、ツバサ式訓練を走破した少女戦士のものであった。

 緩みそうになる頬を正し、少年はシリカの戦列参加を歓迎した。

 

「それじゃ、的にクロスエッジを叩き込んで下さい!隙はこっちで作りますから!!」

「うん、分かった!」

 

 合流した少女への指示は、驚く程スムーズに。

 そしてそれを受けた側も非常にすんなりと対応した。

 まるでこれまでずっとパーティーを組んできたかのような浸透感が、そこには確かに存在していた。

 

「タイミングは?」

「何時でも良いよ!」

 

 言葉は短い。

 だがそこには、ハッキリとした意思疎通があった。

 阿吽の呼吸。そうとでも言うべき一体感が、この戦場には在ったのである。

 

「スイッチ!」

「OK!」

 

 一瞬にして二人は立ち位置を変え、シリカが前方に踊り出る。

 その斜め後ろに位置取りを変えたツバサは、その自分よりは大きい《小さい背中》を見送りながら、自身の緊張の糸が切れそうになっていることを理解した。

 

「(集中が切れかけている!不味い、まだ終わってないのに――!)」

 

 大人と比して、子どもの劣っているものは幾つもあるが、その中でも顕著なのは体力であろう。

 そしてそれに付随するカタチで集中する力が挙げられる。もっとも、この場合は一般に言われている集中力(単発事態における集中度)のことではなく、集中を維持出来る時間としての概念の方である。

 ある程度は我慢出来るであろうが、それにしても限度がある。特に集中状態を続けていたことによる揺り返しは、本人には制御し難いものがあった。

 故に精神年齢は割と高めであるツバサもその例に漏れず、不思議な脱力感に苛まれることとなる。

 

「(まず、い……)」

 

 幸いなことにシリカはこちらに気付いていない。

 ツバサに気を取られて詰めを仕損じることはないだろう。

 だから戦局は気にしなくて良い。

 

 考えてみれば当たり前の話であるが、幾ら少年が大人顔負けの知識を持っていて、思考回路が一社会人クラスであっても、その本質はまだ二桁に達しない程の年齢でしかないのだ。

 シリカとて身長から判断すればまだまだ子どもと言えるが、十二歳の少女というのは既に大人の階段を登り始めている年齢である。

 男子に比べ身体的・精神的に成熟するのが早い女子は、火急の事態であっても余力を残していることが多い。この辺りに男女の精神の違いが現れるのであった。

 

「(ダメだ、最後まで見届けないと……!)」

 

 少女のソードスキルが炸裂し、倒すのに足りない分が通常攻撃で一閃ニ閃とモンスターに吸い込まれていく。

 大型の樹木が青く蒼いポリゴン片へとその有り様と変えた。

 見えた。確かにツバサはそれを見届けると、意識が閉じるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユッサ、ユッサ。

 何かに揺り動かされるような振動で、ツバサはその意識を覚醒させた。

 自らの手足は動かしていない筈なのに、景色は動いている。

 そんな珍妙な事態を確認した少年は、今まで横を向いていた首を正面に向け直すと、目の前に茶色のツインテールが揺れているのを確認した。

 

「……シリカ、さん……?」

「あ、目が覚めた?」

 

 何のことはない。

 勝手に風景が後ろに流れていくのは、ツバサがシリカに背負われているからであった。

 意識が覚醒してとは言え、完全覚醒には至っていないようである。その証拠に、少年は平時であればすぐに降ろせと言うであろうが、今はそれを発していなかった。

 

「もう、びっくりしたんだよ?敵を倒したと思ったら、いきなり倒れちゃうんだもん」

「……ごめんなさい」

 

 言い返すことはない。

 それまでにシリカの倍量働いているとか、普段から忙殺されているからとかは言っても無駄である。

 今この瞬間に出来ていないのだ。言い訳は出来ない。だからツバサは言い返すことはしなかった。

 

「でも、無事で良かったよ……ありがとう、無事でいてくれて」

「ぅ、うん……」

 

 可笑しい。目の前のツインテールが歪んで見える。

 視界全体が波打ってしまい、正常に風景が見えなくなっていた。

 ツバサはその不可思議な現象に対して、答えを出したくない。

 出したくなかったのであった。

 

「どうしたのかなぁ?ツバサ君、何か悲しいことでもあったのかなー?」

「……な゛ぁんでも、な゛いですよぉ……」

 

 涙声。

 それこそが彼の現在の声であり、平常時ではとても耳にすることがないものであった。

「そ、そういえば、さっきの男性は……?」

 

 話題を変えねば。

 窮地に立たされたツバサは、回転数が大幅に落ちている頭脳を、無理矢理回すことでどうにかその台詞を絞り出した。

 

「あぁ、さっきの人なら、すごい丁寧にお礼を言って帰ったよ?」

「……良かった。無事、だったんですね……?」

 

 安堵の溜息が漏れた。

 ツバサは最後まで戦線に立っていられなかった為、どうしてもそこが気になったのである。自分が助ける為に入って、自分が先に戦線離脱してしまったのは申し訳なかったが。

 

「ツバサ君、あのね……?」

 

 そんな少年に、年長の少女は言うべきことを――言わなければならないことを告げた。

 

「あんなに無理しちゃ、ダメだよ……?」

「――――はい」

 

 分かっていた。

 少年は、そう言われるであろうことは理解出来ていた。

 だからこそ謝罪するしかなかったのである。否は自分にあるのだから。

 

「あのね?さっき二体目のファットトマトと戦っている時に、どうすれば倒しやすくなるかなって考えてたんだ……」

 

 突如として切られる流れ。

 そして始まる彼女の独白。

 ツバサはそれに耳を傾ける。

 

「答えはね?《相手の気持ちになる》――――ってことだったんだ」

 

 相手の気持ちになる。

 それ即ち、相手の行動パターンを理解し、そこから弾き出される答えによって、ペアの望む回答を先回りすることである。

 

「だからさっきの戦いって、結構スムーズに出来たと思うんだよね?」

「(……そう言えば、こっちの指示にすんなり対応してたっけ)」

 

 種を明かせばツバサはシリカを誘導しているつもりで、誘導《されていた》のである。

 まだ完全に対象を操り切れていないとは言え、これには少年も呆気に取られる他なかった。リズベットと言いシリカと言い、女性とはやはり男を操る存在なのだろうか?現実にいるであろう実姉にまでその思考が及ぶ前に、ツバサはその流れを強引に断ち切った。

 

「どうだったかな?結構上手く出来たと思うんだけど……?」

「――――光るものがありました、とだけ言わせて貰います」

「素直じゃないなぁ……」

 

 そうは言われても、歳下とはいえ女性の操縦術を使用された身としては、色々とコメントに困るのだ。かと言ってベタぼめでもしようものなら、付け上がる可能性が大である。

 だからギリギリの妥協点として言葉を濁すことにしたのだ。

 

「ツバサ君」

「……なんですか?」

 

 やり込められたのと未だに呆けていることが混在し、思考のギアが一速に入っているツバサ。どう考えても思考停止寸前である為、ただ問い返すことしか出来ずにいた。

 

「ツバサ君があたしのこと、《お姉ちゃん》って呼んでくれないのは――――もう良いよ」

「!?」

 

 衝撃。

 それも震度六強にも匹敵するであろう破壊力を持ったそれは、ただただツバサの身体を駆け巡っていった。

 今まで拘っていたことをあっさりと捨て去ったシリカ。もしもこの場にリズベットや他のMTDメンバーが居たのならば、この衝撃は共有出来たであろう。

 

「強要するのって、何か違う気がするんだよね?……今更な話だけど」

「……もっとはやく気が付いてくれれば、疲れずに済んだんですけどね?」

 

 一周回って漸く本道に戻ってきたシリカ。

 脇道に壮大に道を踏み外して、そしてそのまま爆進してしまってからのリカバリー。

 よくぞ戻ってきた。万感の思いを込めてそう言いたくなる程の、大々回り道であった。

 

「だ、か、らぁ♪」

 

 顔は見えない。

 背負われているのだから当然なのだが、それでも笑顔であることに確信が持てた。

 ツバサには絶対の自信がある。目の前の顔は、正面では極上の笑みを浮かべていると。

 

「気が向いたら呼んでくれれば良いよ!!」

 

 女は強い。

 それは少女であっても変わらない事実であった。

 だから世の男共はいつまで経っても女子の掌なのである。ツバサは心中で白旗を上げた。

 

「……降参です。参りましたよ」

 

 投了宣言。

 長きに渡る膠着状態を崩したのは、シリカ選手の終局寸前に放たれた会心の一手でした。

 もしも戦術性を重視した遊戯であったのならば、この状況はそう評されたことであろう。

 

「シ~~~~ちゃん……」

 

 出てきた言葉は、その一部が言葉として発せられなかった。恥ずかしくて超小音になってしまったのだろう。

 そのせいで折角決意して出そうとして呼称は、幻として霧散した。

 それを聞いていた少女は、「よいしょっと!」という掛け声と共にツバサを背負い直した。

 

「《シーちゃん》かぁ――――それも良いね?」

 

 言葉になった部分を繋ぎ合わせた呼称は、以外にも本人には好評であったようである。

 今更「言い間違えました」とは言えない。

 ツバサは覚悟を完了させると、死地へ赴くことにした。

 

「シーちゃんで、良いの……?」

「うん、何かツバサ君の――《ツバサ》の特別って感じがするでしょ?」

 

 不意打ちだった。

 しかしそこに嫌悪感はない。

 あるのは、心が暖かくなる響きだけであった。

 

「そう、かもね……」

「そうそう!そんな感じなんだよ♪」

 

 少年から敬語が消えた。それだけでも少女にとっては嬉しいことであった。

 これこそがツバサの警戒心――心のバリアが解けたことになるのである。

 この一歩は大きな一歩であった。

 仮想であるこの空間で気を張って年不相応の振る舞いを要求された少年にとって、自分をそのまま出せる存在。それに成れたことで、今までの《ツバサ攻略戦》の苦労が報われたように感じた。

 

「シーちゃん――――ありがとう」

「どういたしまして♪」

 

 それは何に対しての礼だったのか。

 分かるのは本人たちのみであった。

 ただ一つ言えるのは、往路とは違い復路の二人はとても柔らかい笑みを浮かべていたことだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※「生きることを諦めるな!」

 =某歌いながら戦う方たちが言った一言。

 SAOで歌いながら戦う人が居たら、どうなってしまうのでしょう?

 




 今回は筆の赴くままに書いていたら、倍ぐらいの量になってしまいました。
 こういう場合、分割した方が読みやすいんですかね?
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